( ^ω^)はミュージカルをするようです

3: ◆PxaeLV0ois :2007/08/31(金) 23:46:06.02 ID:ddGc+nSsO

クラシックな口説き文句に、君を守るなんて言葉がある。

だけどそれは凄く馬鹿みたいな響きを含んでいて、
聞くだけで興醒めしてしまう。

でも私には、そんなことをしてくれた相手がいた。

あの行動が「守る」ということになったのかは、正直なところ分からない。
けれども、安っぽい言葉なんかではなく、実際に動いてくれた人がいた。

私のために。
私を守るために。

ただ一つ残念なことは、あいつの行動の動機が
友情からなのかそれとも愛情からなのかの、判別がつかなかったことだ。



5: ◆PxaeLV0ois :2007/08/31(金) 23:47:23.61 ID:ddGc+nSsO

私は今でも、その問いの答えを知らない。



―――――


幕間・私


―――――



暑すぎた昼の余韻を残した夜の風が、私の髪を凪ぐ。
早足が過ぎると汗をかいてしまうかもしれなかったが、
いまはそれに気を止めてる場合じゃなかった。

ξ#゚听)ξ(絶対に抗議してやる……)

さっきまで出演していた低俗なバラエティー番組を思い出し、腹が立った。

中身の無い企画に無能なスタッフ、
つまらないお笑い芸人に馬鹿なグラビアアイドル。

本当に、うんざりする。
関わり合いなんか持ちたくなかった。



6: ◆PxaeLV0ois :2007/08/31(金) 23:48:12.50 ID:ddGc+nSsO
ξ#゚听)ξ(なんで私があんな奴らとあんな仕事をやんなきゃならないのよ……)

私はクソくだらないテレビタレントなんかじゃないのだ。

歌手だ。
アーティストだ。

なのに、なんで?

ξ゚听)ξ(今日こそ、びしっと言ってやる……)

事務所があるビルに入り、エレベーターで目的地へと上がった。
息を整え汗を拭き、並び立てる理屈を用意した。

ξ゚听)ξ(あのクソ社長が……!)

憤りを腹に溜めながら、すましたあの顔を思い浮かべてる。
すると、手に力が入った。

事務所の前に着き、私はなんの躊躇もなくドアを開けた。



8: ◆PxaeLV0ois :2007/08/31(金) 23:49:47.56 ID:ddGc+nSsO

ξ#゚听)ξ「社長!お話があるんですが!!」

(´・ω・`)「うるせーぞ。後にしろよ」

ξ゚听)ξ「……?」

部屋の中で最初に目についたのは、見知らぬしょぼくれた男だった。

業界関係者かな、とも思ったが、
ブランド物のスーツに身を包んでいた体から出る雰囲気には、
どこか一般人ではない迫力があった。

(ヽ・∀・)「ツンか……ちょうど良かった……少し待っててくれ……」

事務所の隅にある金庫をいじりながら、社長がそう言った。

彼はなんだか、とてもやつれているみたいに見える。
まるで着古した洗濯物みたいだった。



9: ◆PxaeLV0ois :2007/08/31(金) 23:51:14.72 ID:ddGc+nSsO

(ヽ・∀・)「……はい、どうぞ。お約束の金額通りですよ」

社長は机の上に札束を置き、しょぼくれた男に言った。
彼のそんな様子を見て、男は薄ら笑いを浮かべる。

(´・ω・`)「そうとう堪えたみてーだな。まっ、気持ちは分からんでもねーよ」

どっかりと偉そうに椅子に座り、
手慣れた様子で男がお札を数え出す。

(ヽ・∀・)「……ちゃんとありますって」

(´・ω・`)「念のためだ、念のため」

ξ゚听)ξ「…………」

どうして社長があんな大金を男に渡すのかが分からなかった。
でも、追求しても答えてくれないだろう。



10: ◆PxaeLV0ois :2007/08/31(金) 23:52:05.31 ID:ddGc+nSsO

彼は冷静で、滅多に本音を口にしない。
そういう人間なのだ。

今日はいつもと若干、様子が違うようだったが。

(´・ω・`)「ん?……おい、この果物はなんだ?」

しょぼくれた男が興味深そうに、机の上にあったバナナに目をやった。

(ヽ・∀・)「好きなんですよ、バナナ。だからいつも手元に置いておくんです」

(´・ω・`)「バナ……?」

(ヽ;・∀・)「……し、知らないんですか?」

(´・ω・`)「知らねーよ。食っていいか?」

(ヽ;・∀・)「はあ、まあ……どうぞ……」

ξ;゚听)ξ(なに、こいつ……?)



14: ◆PxaeLV0ois :2007/08/31(金) 23:54:29.13 ID:ddGc+nSsO

私は男の言葉に唖然とした。
バナナを知らないなんて、
この男は今までどんな生活をしていたのだろうか。

粗野な振る舞いからも想像出来たが、
相当に育ちの悪そうな男だな、と思った。

(´・ω・`)「こうか?」

(ヽ・∀・)「そうです……そんで下に向かって皮を引っ張るんです」

(´・ω・`)「……簡単に剥けるんだな……」

男が社長から食べ方をレクチャーしてもらい、バナナを一口食べた。

((´・ω・`)「…………」

(*´・ω・`)「おいおい、なんだこれ!?滅茶苦茶ウメーな!!」

(ヽ;・∀・)「そーすか……」



15: ◆PxaeLV0ois :2007/08/31(金) 23:55:28.90 ID:ddGc+nSsO

(*´・ω・`)「いやぁ……こりゃ美味いよ……マジで!」

(ヽ・∀・)「植物繊維がたっぷり入ってますから、お通じが良くなりますよ」

(*´・ω・`)「へえ、詳しいんだな。フルーツ博士ってとこか」

(ヽ;・∀・)「そんな大袈裟な……」

(*´・ω・`)「それにしてもお通じねぇ……」

(´・ω・`)「それならさ、これ食い過ぎてクソ漏らす奴とかいるのかな?」

(ヽ・∀・)「まさか……いるわけないでしょう、そんな奴」

(*´・ω・`)「そりゃそーだけどよ、いたら大爆笑もんじゃねーか!」



21: ◆PxaeLV0ois :2007/08/31(金) 23:57:42.28 ID:ddGc+nSsO

(´・ω・`)「なあ!笑えんだろ!?ぎゃはははははっ!!」

(ヽ・∀・)「ははっ、はっ……」

ξ#゚‐゚)ξ「…………」

私は彼等の話を聞いて、段々と怒りがぶり返してきた。

こっちは大事な用件で来たというのに、
取るに足らない会話で盛り上がっている。
そんな緊張感の無さが、私の感情を逆撫でした。

でも、小さく深呼吸して、落ち着かせる。
これから話し合うに到って、何より大切なことは冷静さだ。
だから私は、ごく自然に会話の流れに乗れる話題で口を開いた。

ξ゚听)ξ「私も食べていいですか?」

(ヽ・∀・)「バナナか?別に構わないけど……」



23: ◆PxaeLV0ois :2007/08/31(金) 23:58:38.59 ID:ddGc+nSsO

社長の体が私に向いた。
妖しく光る目の輝きがに気が付いた。
私はつい、その光に萎縮してしまった。

(ヽ・∀・)「それよりさ、お願いがあるんだ」

ξ;゚听)ξ「……なんですか?」

(ヽ・∀・)「俺ね、今日は凄く疲れたんだよ。もう酷い目に合いまくったんだ。
      だからスゲーヘコんでんの。そんな俺って可哀想だろ?」

ξ;゚听)ξ「は、はあ……」

喋りながら一歩一歩、社長が近付いてきた。
圧力に押されて私も後ろに下がった。

(ヽ・∀・)「だからさ――」

背中に壁が当たった。
社長は私の両肩を掴んだ。



24: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:00:17.28 ID:GHWD38rrO

ξ;゚‐゚)ξ「…………」

(ヽ・∀・)「……慰めて、くんない?」

ξ;゚听)ξ「は?」

彼の言葉に、凄く間の抜けた顔をしてしまったのが自覚出来た。
口もあんぐりと開いていただろう。

(ヽ;∀;)「頼むよ!お願いだよ!俺を慰めてくれよ!!
       辛いんだ!きつ過ぎるだ!だから頼むよ慰めて!!」

ξ;゚听)ξ「え?ええっ?」

号泣しながら懇願された。
私は、気持悪いなと思いながら話の矛先を変えようとした。

ξ;゚听)ξ「い、いや、でも……私、バナナ食べたいし……」



26: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:01:53.64 ID:GHWD38rrO
(ヽ;∀;)「好きなだけ食っていいから!バナナ食べていいから!!
       だから慰めてよ、頼むから!!」

ξ;゚听)ξ「えっ……ちょっ、困るんですけど……」

(ヽ;∀;)「抱き締めて!膝枕して!頭を撫で撫でしてくれよ!!
       お願いお願いお願いだからっ!!」

ξ;゚听)ξ「…………」

(ヽ;∀;)「頼むからバナナと一緒に慰めてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

そこで、叩き付けるようなドアの開く音がした。
乱暴で力強く、壊れるぐらいの音が。

ξ;゚听)ξ「!?」

(ヽ;∀;)「?」

(*´・ω・`)「しかし美味いな……」



27: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:02:36.81 ID:GHWD38rrO

私たちは、一斉にその音の元へ目をやった。

(  ω )「…………」

ξ;゚听)ξ「……内藤……?」

そこに居たのは、私のマネージャーをしている内藤ホライゾンだった。
この事務所に来るのにも彼の車を使ったので、駐車していたからここに来たのだろう。

しかし、彼の様子は尋常じゃなかった。
肩を震わせ、あきらかに怒っているようだった。

(  ω )「『バナナ』……『慰める』……?」

(  ω )「…………どういうことですかお?」

絞り出すような声で、内藤が言った。



29: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:04:45.83 ID:GHWD38rrO

ξ;゚听)ξ「…………」

(  ω )「答えてくださいお、社長」

(ヽ・∀・)「え?なにが?」

社長は彼の疑問に心辺りが無いみたいで、
首を傾げながらそう答えた。

(# ゚ω゚)「バナナを慰めるってどういうことかって聞いてるんだおっ!!」

ξ;゚听)ξ「っ!!?」

(ヽ;・∀・)「っ!!?」

(*´・ω・`)「もはや神だな、この味は」

聞いたこともない声量で、内藤は怒鳴った。
一瞬にして空気が氷つき、言葉に詰まった。

(# ゚ω゚)「あなたは……社長という地位を利用して……
      ツンに何をする気だったんだお……?」



31: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:05:52.22 ID:GHWD38rrO

(ヽ;・∀・)「ん?」

(# ゚ω゚)「こんなに頑張ってるツンに向かって、なんてことを要求したんだお!?
      バナナを慰めろ?ふざけるなおっ!!」

(ヽ;・∀・)「おい、内藤、なんか勘違いしてないか?」

ξ;゚听)ξ「そ、そうよ……落ち着きなさいよ……」

(# ゚ω゚)「ツン……かばわなくても、いいんだお。
      この人は君を侮辱したお……僕はそれを許せないんだお」

ξ*゚听)ξ「内藤……」

(ヽ;・∀・)「あのな、それは多分、誤解なん――」

(# ゚ω゚)「それ以上口を開くなおぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」



33: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:07:20.40 ID:GHWD38rrO

有無を言わさずに内藤が社長に飛び掛った。
二人は倒れ、社長の後頭部は床にぶつかった。

(# ゚ω゚)「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

内藤が馬乗りになって社長を殴った。
何度も何度も、拳を叩きつけた。

(# ゚ω゚)「おわああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

狂ったように彼は殴り続けた。
嫌な音を立てて、社長が顔面は歪む。
内藤の絶叫が、痛いぐらいに耳に響く。

(*´・ω・`)「なあ、もう一本食ってもいいか?」

ξ;゚听)ξ「…………」



36: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:08:31.35 ID:GHWD38rrO

ξ )ξ「…………っ」

私はあまりの光景に言葉を失った。
でも気が付いたら、まるでフールのように頭を激しく振って叫んでいた。

ξ((((゚听))))ξ「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!止めて!内藤ぉぉぉぉぉぉっ!!」

(# ゚ω゚)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

(´・ω・`)「……ん?なんだこいつ?なんでボコッてんだ?」

ξ((((゚听))))ξ「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!止めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

血が吹き出し、地面を濡らす。
社長はぐったりとして、動かなくなった。



39: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:10:05.90 ID:GHWD38rrO

私はそれを見て、フール三昧を止めた。
そして、彼に言った。

ξ;凵G)ξ「止めて……止めてよ内藤……」

(´・ω・`)「無茶するやっちゃなー……まあ、いいか。勝手に食うぞ?」

(# ゚ω゚)「おわああああああああああああああああああああっ!!」

ξ;凵G)ξ「お願いだから……止めてよ……」

拳は傷付き、彼自身と社長の血で汚れていた。
それでも内藤は殴り続けた。

(# ゚ω゚)「ああああああああああああああああああああっ!!!」

ξ )ξ「……――」

ξ#;凵G)ξ「いい加減にしなさいよ!ブーンッ!!!」

(;^ω^)「っ!!?」

彼が、止まった。



40: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:11:03.15 ID:GHWD38rrO

そして荒い息をつきながら私を見た。

((*´・ω・`)「…………」

ξ;凵G)ξ「あんた……言ってたじゃない……
      ブロードウェイでスターになりたいって……」

(;^ω^)「…………」

ξ;凵G)ξ「そのために『ブーン』って芸名も考えたんでしょ……?」

( ^ω^)「…………」

ξ;凵G)ξ「今の仕事でお金が貯まったら……
      渡米するって言ってたじゃない……なのに……」

(;^ω^)「……ツン……」

内藤はゆっくりと立ち上がった。
床には赤い血が、広がっていた。

( ;ω;)「僕は……僕は…………」



41: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:12:48.68 ID:GHWD38rrO

ξ;凵G)ξ「……逃げなさいよ!!夢を叶えなさいよ!!」

( ;ω;)「……!」

ξ;凵G)ξ「このままじゃ……殺人犯として捕まっちゃうよ……!」

(´・ω・`))「いや、死んでねーだろ。普通に息してんじゃん」

彼は狼狽しているように見えた。
でも私には何も出来なかった。

それが、悔しかった。

ξ;凵G)ξ「……早く行きなよ!!早く!!誰にも見付からないように!!」

( ;ω;)「…………ツン……ごめん、だお……」

そう呟いて、内藤は事務所から飛び出した。



43: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:14:50.13 ID:GHWD38rrO

何に謝罪したかは分からなかったが、
彼の言葉は私の心に深く突き刺さった。

ξ;凵G)ξ「バカ……ほんと、バカ……」

勘違いとはいえ、私のために彼は手を汚してくれた。
必死になって、守ってくれた。

ξ;凵G)ξ「内藤……内藤……っ!」

(´・ω・`)「人の話聞けよ、おい」



45: ◆PxaeLV0ois :2007/09/01(土) 00:15:57.99 ID:GHWD38rrO

ξ;凵G)ξ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

(´・ω・`)「おいって
       ……全部、食べちゃうぞ?」

ξ;凵G)ξ「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

溢れた涙は私の顔を濡らし続けた。
声が枯れても、涙が枯れても洩れる嗚咽は止められなかった。

私は、泣いていたのだ。
誰のためにか何のためにかも分からずに。

いつまでも、ずっと。
ただ、泣き続けていた。




幕間・完



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