('A`)ドクオと川 ゚ -゚)クーは夢の中で出会うようです

4: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 20:59:03.83 ID:n7QPRss10

第十話 「天元突破」

( ^ω^)「とうとう追い詰めたお!」

見えるのは、壁を背にした一人の巨漢。
頭にパンツを被り、その胸にはブラジャーをつけている。

( ^ω^)「もう逃げられないお!この変態野郎!」

そして、下半身は

( ^ω^)「そんな汚い物ぶらさげて、二度とシャバの空気吸えると思うなお!!

( ´∀`)「チッ、とうとう見つかってしまったか」

( ^ω^)「さぁ、大人しくその頭にかぶったしぃ先生のパンツと
       胸に着けたシュー先生のブラジャーを返すお!」

( ´∀`)「……ククク」

( ^ω^)「!?」

( ´∀`)「ハァーッハッハッハ!!!」

( ^ω^)「何がおかしいんだお!!」

( ´∀`)「巨乳は男のロマン」

( ^ω^)「それには同意」



5: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:00:55.73 ID:n7QPRss10

( ´∀`)「先程、君は私を追い詰めたと言ったね?」

( ^ω^)「それがどうしたんだお!!」

( ´∀`)「確かに君の言うとおり私の後ろには壁、どこにも逃げられない」

( ´∀`)「だが、一つだけいいことを教えてやろう」

( ^ω^)「いいこと……!?」

瞬間、その巨体からは考えられないスピードで疾駆。










( ´∀`)「追い込まれた狐はジャッカルより凶暴だ!!」



6: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:03:02.34 ID:n7QPRss10

( ^ω^)「という夢を見たんだお」

('A`)「それはひどい夢だ」

ξ゚听)ξ「なんて夢見てんのよ」

横一列に並び歩く三人。
その前方には

( ´∀`)「じゃあねなんて言ーわないーでーまたねーって言ーってー」

ノリノリで歌を口ずさむ巨漢。
陰鬱な表情をしている空とは対照的な光景。

('A`)「そういえば何で今日はモナー先生が?」

ξ゚听)ξ「ポリフェノールおじさん先生が下痢で休みだからその代理らしいわ。
      私としてはもっとまともな先生が良かったんだけど」

( ^ω^)「これは僕の夢が現実になる伏線……」

('A`)「ねーよ」



9: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:04:58.90 ID:n7QPRss10

( ´∀`)「わたしのものーにならなくていいーそばにいるだけでいいー」

('A`)「しかし、こんな朝っぱらからrelationsとは……だがそれがいい」

( ^ω^)「ドクオはこの歌知ってるのかお?」

(;'A`)「え?い、いや、詳しくは知らないけどなんかめざましテレビで紹介されてた気がしないでもない」

( ^ω^)「へー、僕はズームイン派だから知らなかったお」

( ´∀`)「あの子にもしもーあきたーらーすぐによびーだーしてー」

ξ゚听)ξ「私目覚まし派だけどこの歌知らないわよ」

(;'A`)「さ!早く競技場の中入ってアップ始めようぜ!
     100m初っ端だったろ?ほらほら、早く早く!!」

(;^ω^)「ちょ!そんなに急がなくても」

ξ゚听)ξ「……何か怪しい」

( ´∀`)「こーわーれるーくーらーいにーだーきーーーちめてー」

( ´∀`)「あずささいこおおおおおおおおおおおおお!!」



12: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:07:03.46 ID:n7QPRss10

楕円形に広がるレンガ色。取り囲むように緑色。
そのまた外側には観客席があり、赤、青、白、様々な色のジャージが疎らにそれを彩っている。

三日間に分けて行われるニューソク県中央地区陸上競技大会。
今日はその初日。

( ´∀`)「ごまえーごまえーはりきーってゆきましょー」

('A`)

( ^ω^)「ドクオ何ボーッとしてんだお?早くアップ行こうお」

(;'A`)「あ、ああ。今行くよ」

110mHは三日目と言うことで、ドクオは今日100mのあるブーンのサポートにまわることになっていた。
荷物持ちや時間の管理など細かい仕事をこなす事が、今日課せられた唯一の使命である。

(;^ω^)「にしても、この様子だと僕が走る頃には雨が降ってきそうだお」

今にも泣き出しそうな空を見上げる。
太陽は厚い雲に覆われその姿を確認することこそ出来なかったが
雲の合間から微かに差し込む光の位置で大体の場所を把握することは出来た。

('A`)「天気予報じゃくもり時々雨だったからな」

(;^ω^)「僕が走るときに降らなきゃいいけどお……」

湿った風が顔に吹きつける。
嵐を想起させる独特の温さに、ドクオは少し顔をしかめた。



13: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:09:04.06 ID:n7QPRss10

( ^ω^)「おっ!ドクオもっと強くだお!」

('A`)「わかった」

( ^ω^)「もっと!もっとだお!」

('A`)「わかった」

(;^ω^)「おっ!いいお!痛いけど気持ちいい……」

('A`)「もう少し強くいくぞ」

(;^ω^)「も、もう無理だお!そ、それ以上強くしたら」

('A`)「ふん!」

(;゚ ω゚ )「アッー!」

(;゚ ω゚ )「折れる!折れちゃうお!背骨が!腰骨が!」

('A`)「ふん!ふん!ふん!」

(;゚ ω゚ )「ぐぼおおおおおおおおおおお!!!」



15: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:11:03.50 ID:n7QPRss10

('A`)「あれ?ブーンどうした?」

(;´ω`)「も、もう少しで今朝食べたカレーうどんを芝生の上にぶちまける所だったお」

('A`)「おいおい、こんなとこで吐くなよ。俺がもらいゲロしちまうだろうが」

(;^ω^)「こんな目にあわせたのは誰だお!ストレッチで体調崩してたら元も子もないお!!」

「おー?ブヒブヒうるせーと思ったら、やーっぱりお前かぁ」

背後から近づく声。
振り向き、目の前に現れたのは

(;^ω^)「お……」
  _
( ゚∀゚)「よーぅ、元気にしてたかぁ?豚」

(;^ω^)「……ジョルジュ」

スラリと伸びた長い脚、厚い胸板、太い腕。
目線を徐々に上へと上げて行き最終的に行き着いたのは、全てを見下しきっているかのような濁った瞳。
地べたに座り見上げたせいか、ただでさえ大きな体が一層巨大に見える。
  _
( ゚∀゚)「なんだよその素っ気無い態度は、俺たち中学からの親友だろぉ?」

濁った瞳にお似合いの腐った笑み。
均整のとれた顔の中で唯一醜く歪んだ口が、下品な声を吐き出す。



17: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:13:03.05 ID:n7QPRss10

(;^ω^)「……」
  _
( ゚∀゚)「……豚の分際でいっちょまえに人間様をシカトか?何か言えよ」

先程までの軽い声とは違い、腹の底から捻り出したような重い声。
いつの間にか、腐った笑みも消えている。

(;^ω^)「今はアップ中だお、邪魔しないで――」
  _
( ゚∀゚)「あぁ?豚語喋られてもわかんねーなぁ。ちゃんとした日本語で喋れよ」

(;^ω^)「…………」
  _
( ゚∀゚)「あっ、とこれは悪い。豚に人間の言葉が通じるわけなかったな。ッハハハハ!!」
  _
( ゚∀゚)「じゃーな」

別れの言葉を吐き捨て、トラックへと歩いていく。
その先にはジョルジュより少しだけ背の高い男。

( ・∀・)

無表情で空を見上げたまま立ち尽くしている。
トラックを走っている人達にしてみれば随分と迷惑な障害物だ。



18: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:15:12.97 ID:n7QPRss10
  _
( ゚∀゚)「待たせたな」

ジョルジュの呼びかけにも反応を示さない障害物は同じ体勢のままピクリとも動かない。
空を見上げたまま、閉じていた口だけが動き出す。

( ・∀・)「雨が降ってくる」
  _
( ゚∀゚)「見りゃ分かる」

( ・∀・)「10分後くらいに」
  _
( ゚∀゚)「へぇ、ほんとかぁ?」

と、頭に小さな衝撃。
髪に触れてみると、湿った感触。
  _
( ゚∀゚)「……モララー予報士の天気予報はあてになんねーなぁ」

( ・∀・)「こういうケースもある」

ハッ、と小さく笑いジョルジュがゆっくりと走り出す。
モララーは落ちてくる礫を少し見つめた後、同じようにゆっくりと走り出した。



20: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:17:09.99 ID:n7QPRss10

('A`)「いつもいつも、あいつはどんだけ暇なんだか」

ジョルジュが遠くまで行ったのを確認し、俯くブーンに話しかける。

('A`)「にしても、あんだけボロクソに言われて何も言い返さないってのもどうよ?」

( ^ω^)「……いいんだお。何か言い返したってどうせ一緒だお」

('A`)「でも、悔しくないのか?変わらないと分かってても何か言い返したっていいだろ」

( ^ω^)「言い返したら言い返される。僕が我慢すればそれで済むことなんだお」

('A`)「…………」

重い腰を上げ、歩き出すブーン。頬に冷たい雫が落ち、ふと上を見上げる。
自分の心の内を反映したかのような空。

空の涙から逃げるように、ブーンはその足を速めた。



22: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:19:00.74 ID:n7QPRss10

('A`)「おつかれさん」

歩いてくるブーンにタオルを投げ渡す。

( ^ω^)「ありがとうだお」

渡されたタオルで髪についた微かな水分を拭き取る。

ξ゚听)ξ「ま、予選は楽勝よね。本番は、こ れ か ら」

ストップウォッチを首に下げたツンが厳しい言葉を放つ。
丁寧に巻かれた金髪は雨に濡れ、いつもの輝きを失っていた。

( ^ω^)「ツン、傘ささないと濡れちゃうお」

ξ゚听)ξ「自分だって濡れてるくせに何言ってんのよ。
      あたしの心配してる暇があったらさっさと準決勝に備えて体を休めなさい」

冷たく暖かい言葉を残し立ち去るツン。
キツイ口調の裏に隠された自分への労わりに、思わず顔が綻ぶ。

('A`)「なぁにニヤけてんだよ、さっさと戻るぞ。体が冷えちまう」

( ^ω^)「おっおっ、わかったお」



23: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:21:04.70 ID:n7QPRss10

雨の音にも打ち消されない乾いた炸裂音。途端に湧く歓声。
数え切れない程の透明な針が降り注ぐ中、様々な色がトラックを駆け抜ける。

( ^ω^)「今日の僕の走りはどうだったかお?」

雨を避けるためにブーン達は屋根のある観客席に移動していた。
眼下に広がるレースの行方。
さっきまで自分が走っていたレンガ色のタータンを眺めながらブーンが尋ねる。

('A`)「雨降ってたわりに体動いてたし、悪くないと思うぜ」

歓声で一杯に満たされた会場が静けさを取り戻す。
どうやら、レースの決着がついたようだ。

('A`)「きっと、勝てるさ」

ドクオの視線の先、息を切らした様子もなく悠然と歩く赤。

( ^ω^)「……それはどうかお」

事も無げに歩くジョルジュを見て、ブーンは小さく呟く。

('A`)「頼りないこと言うなよ。
    そんなんじゃ、ワガママお嬢様のリクエストに答えられないぜ?」

( ^ω^)「…………」



24: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:23:06.88 ID:n7QPRss10

ブーンが短距離を始めたのは高校に入ってからだった。
だからと言って中学校に陸上部がなかったわけではなく、違う部活に入っていたわけでもない。
ただ、走ることを許されなかったのだ。

( ^ω^)「ジョルジュは、速いお……」

今は随分と痩せた(それでもどちらかと言えば太め)が中学入学当時はそれはもう酷い体だった。
丸々と膨れ上がった腹。ぷっくりと膨らんだ頬。三度の飯よりピザが好き。

そんな見た目だからだろう。
陸上の名門校だということも重なって、ブーンは中学時代強制的に投擲種目をやらされた。

('A`)「そんなの誰でも知ってるさ」

ブーンは走りたかった。走りたくて入った陸上部なのにそれを許されない。
練習で走ることはあっても、試合には出させてもらえない。
ジョルジュはそんなブーンにとって憧れの対象であり、嫉妬の対象でもあった。

('A`)「でも、それに勝たなきゃならない、だろ?」

( ^ω^)「……そうだおね」

流れるままに時は過ぎ、走ることのない陸上生活は呆気なく幕を閉じた。
しかし、ブーンは高校に入りその幕を無理矢理にこじ開けた。

名門ではないし、そればかりかちゃんと指導してくれる先生さえいない学校。
だが、その環境はブーンにとってとても都合のいいものだった。



25: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:25:03.81 ID:n7QPRss10

誰に指図されることなく自由に走れる、その権利を得ることが出来たのだ。
太っているからすぐに疲れる。息は切れるし体も重い。
それでも、両手を広げ自由に走ることがブーンは大好きだった。

そして、今

( ^ω^)「……まずは次の準決勝で勝ち抜かなきゃ、そんなことも言ってられないお」

('A`)「前大会準優勝のお方が何を言いますやら」

( ^ω^)「油断は、大敵だお」

全てを抜き去り、何者の追従も許さない短距離の王者。
ジョルジュと肩を並べ走れる場所までブーンは登りつめていた。

( ^ω^)「ドクオ。次のレースのためにマッサージ頼むお」

地べたに敷いたシートにうつ伏せになる。

('A`)「へいへい、今日は一日召使いですからね。何でもお申し付けくださいご主人様」

その上に馬乗りになり、ドクオがマッサージを始める。
終始、和やかな空気が二人の間に漂う。

雨は止まない。
空と同じようにブーンの顔も曇り、いつもの輝きを失っていた。

('A`)(……どうしたもんかね)



26: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:27:17.46 ID:n7QPRss10

打ち付ける雨。向かってくる風。
自然の抵抗をものともせず、駆け抜ける黄色い弾丸。

( ^ω^)「っ!」

弾の勢いは徐々に衰え、その動きを完全に止める。

('A`)「おつかれさん」

聞きなれた覇気のない声とタオルが飛んでくる。
それを慣れた手つきでキャッチし、そのまま濡れた体を拭く。

( ^ω^)「ふぅ、ありがとうだお」

ξ゚听)ξ「おつかれ。まぁこれも当然の結果。次が勝負よ」

ストップウォッチを持ったツンが現れる。

(;^ω^)「ツン、やっぱり傘さしたほうがいいんじゃ」

ξ゚听)ξ「さっき言ったこともう忘れたの?」

(;^ω^)「でも……」

ξ゚听)ξ「……大丈夫よ。ちゃんと手の空いてる人の傘の中に入れてもらってるから。
       全く、あんたって奴はどこまでお人好しなんだか」



27: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:29:03.53 ID:n7QPRss10

( ^ω^)「……なら安心だお」

「うわーびしょ濡れだぜ。やんなっちまうなぁ全く」

(;^ω^)「お」
  _
( ゚∀゚)「しかもレース後いきなりお前の顔を見ることになるなんて、最悪だなぁおい?」

赤いユニフォームを身に纏い、全力疾走の後とは思えない悠々とした表情で向かってくるジョルジュ。
  _
( ゚∀゚)「気分悪ぃ。早くどっかいけよ、豚」

醜く歪んだ口から吐き出される言葉の暴力。
心が、締め付けられる。

ξ゚听)ξ「自分からこっちに来といて何言ってんの?あんた頭おかしいんじゃないの?」

(;^ω^)「ツ、ツン!」
  _
( ゚∀゚)「あぁ?何だおまえ?」

ブーンに向けられていた蔑みの視線が急に方向を変える。
そのままツンに向けられた視線は火花を散らすかのように衝突。

ξ゚听)ξ「聞こえなかった?ならもう一度、今度はゆっくり言ってあげる。
       あ ん た あ た ま お か し い ん じ ゃ な い の ?」
  _
( ゚∀゚)「てめぇ……」



29: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:31:31.00 ID:n7QPRss10

ξ゚听)ξ「何よ」
  _
( ゚∀゚)「……さっさとここから失せろ。俺はこの下品な豚野郎と話してんだ」

ξ゚听)ξ「さっきのが話?あんなのが会話?私にはそうは見えなかったけど。
       あれはただの一方的な罵倒でしょ。あんたの方がよっぽど下品だわ」
 _
(#゚∀゚)「てめぇ!!いい加減にしろよごるぁ!!」

ξ><)ξ「きゃっ!」

( ゚ ω゚ )「!!」

突き飛ばされるツン。派手な水音と共に水溜りへと着地する。

ξ#゚听)ξ「ちょっと!なにする――」

(#゚ ω゚ )「なにやってんだおおぉぉぉぉぉ!!!」

ツンの声を遮り、ジョルジュに掴みかかるブーン。
 _
(#゚∀゚)「あんだよ!!」

胸倉を掴み返し、二人が近距離でにらみ合う。

(#゚ ω゚ )「ふざけんなお!ツンに!ツンになんてことしてんだお!!」

ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっと!ブーン!」



30: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:33:28.83 ID:n7QPRss10

(#゚ ω゚ )「!?」
 _
(#゚∀゚)「!?」

その間に割って入る一人の巨漢。
余りの体の大きさにさすがの二人もたじろぐ

( ´ -`)「……」

無言で聳える大きな壁。
物言わぬ壁はゆっくりと向きを変える。
 _
(#゚∀゚)「な、なんだよ」

( ´ -`)「……下がれ」
 _
(#゚∀゚)「はぁ!?」

( ´ -`)「お前もだ」

(#゚ ω゚ )「……」

短い両手を広げ、至近距離で睨み合っていた二人を引き離す。

( ´ -`)「こんなことよりも、まずすべきことがあるだろう」

と、ない首を回し視線の矛先を変える。



31: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:35:35.49 ID:n7QPRss10

ξ;゚听)ξ「へ?」

(;゚ ω゚ )「ツン……」

びしょ濡れになったジャージも気にせずブーンを止めようと必死になるツン。
その姿を視界に捉え、ブーンはやっと冷静さを取り戻した。

(;^ω^)「ツン!大丈夫かお!?」

ξ;゚听)ξ「大丈夫よこれくらい。ただ、腹の虫はおさまってないけどね」

(;^ω^)「あうあう」

( ´ -`)「……さて」

( ´ -`)「次はお前だ」

回した首を元に戻し、ジョルジュに言い放つ。

が、

( ´ -`)「……いない」


言葉は空しく宙に舞い、そのまま消えていった。


( ´ -`)「なんかさびしい」



33: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:37:23.92 ID:n7QPRss10

 _
(#゚∀゚)「くそ……くそくそくそ」


上に何も羽織ることなく、赤に身を包んだまま雨の中を歩くジョルジュ。

 _
(#゚∀゚)「くそがぁぁ!!むかつくんだよ!くそ!くそ!!」

 _
(#゚∀゚)「ちょっと足が速くなったからって調子に乗りやがって……
     デブは走んじゃねぇよ!!地べたに這いつくばってろ!!」


逞しい足で雨粒を蹴り飛ばす。
手ごたえがなく、苛立ちは余計に高まる。

 _
(#゚∀゚)「あああああああああああ!!もう死ね!死ねよくそが!!!!」


叫び、罵声をぶちまける。

醜く汚い排泄物は轟々と降りしきる雨に溶け、誰かの耳に届くことはなかった。



35: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:39:45.94 ID:n7QPRss10

('A`)「ぐぇぇ、ぺっ!ぺっ!」

(;^ω^)「大丈夫かお」

('A`)「……まだ口の中が苦い」

(;^ω^)「一体どうしたんだお?いきなり気絶して顔から水溜りに突っ込むなんて」

ドクオが一生懸命に唾を吐く。
口から放たれた礫は雨に紛れ、行く当てもなく流れていく。

('A`)「ちょっと突然の睡魔に襲われてだな」

(;^ω^)「あんなとこで寝るなんてどんだけ不規則な生活してんだお」

( ´∀`)「すべーてーのかっがやーきーこのゆびにとーまーれー」

(;^ω^)「しかもさっきまでカッコよかったモナー先生はいつの間にか元に戻ってるし」

('A`)「ほんと、この世界って謎で一杯だよね」



37: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:41:10.88 ID:n7QPRss10

一騒動の後、降りしきる雨は一層その強さを増し、大会は雨が弱まるまで中断ということになっていた。

('A`)「雨、すごいな」

( ^ω^)「一向に止む気配がないお」

観客席から誰もいないトラックを見つめる。
降り注ぐ雨の粒は目ではっきりと確認できるほど大きくなっていた。

('A`)「……このまま中止になればいいな、とか思ってたり?」

( ^ω^)「……」

何気なく投げられた問いかけに、答えは返ってこない。

('A`)「図星、か」

それを、答えとして受け取る。

( ^ω^)「……ジョルジュは最低な奴だお」

( ^ω^)「さっきのことだって許した訳じゃない、今だってはらわたが煮えくり返っておさまりつかないお」

俯き、小さく呟く。

( ^ω^)「だけど、それとこれとは別だお」



38: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:43:09.23 ID:n7QPRss10

( ^ω^)「怒りが速さや強さに変わるわけがない。そんなの漫画の中の話だけだお」

( ^ω^)「僕は中学の頃からジョルジュを知ってる。
       人を蔑んだような目、醜く歪んだ口……他を寄せ付けない圧倒的な速さ」

( ^ω^)「僕だって負けたくないお。あんなやつに負けたくないお。
       だけど、あいつは――」

('A`)「人は、先入観に囚われやすい生き物だ」

矢継ぎ早に繰り出される言葉を遮る。
顔は、真っ直ぐ前を向いたまま。

('A`)「あいつは昔から足が速かった。誰かに抜かれた所なんて見たことがない。
    きっとこれから先もあいつは誰にも負けたりしないだろう」

('A`)「だから、そんなやつに自分が勝てるわけがない」

ゆっくりと顔をブーンに向ける。

('A`)「そう自己暗示をかけてるんだ、お前は」

( ^ω^)「自己……暗示……」

('A`)「確かにあいつは速いよ。でもな、あいつも速いがお前も速いんだぞ?」



39: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:45:05.37 ID:n7QPRss10

('A`)「入部したばっかりの頃イベリコ豚みたいな体だったお前が、こんなに速くなるなんて想像も付かなかった。
    きっとおまえ自身もびっくりしてるはずだ」

('A`)「そして、今の速さを自分の限界だと決め付けてる」

不思議そうに自分を見つめる顔を指差す。
一瞬驚いた顔はすぐに元のとぼけた顔に戻った。

('A`)「限界はいつだって目に見えない透明なものだ」

('A`)「なのにお前は、ジョルジュを自分で作った限界の少し上においちまってる。
    自分の限界を超えた位置にあいつがいると思い込んでる」

('A`)「そんなまやかし消しちまえ。知らず知らずの内に張ってた膜をぶち破れ」

口元に微かな笑みを浮かべ、言う。

('A`)「そろそろ本気を見せてくれよ、ブーン」

からかう様な笑み。
だが、嫌な気はしない。

( ^ω^)「本気、かお」

その顔に釣られ鼻から笑いがこぼれる。

( ^ω^)「限界……かお」



40: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:47:00.45 ID:n7QPRss10

ξ゚听)ξ「お話の途中悪いんだけど、再開の目処が立ったみたいよ」

濡れたジャージを脱ぎウォーマーを羽織ったツンがいつの間にか背後に。

(;^ω^)「ツ、ツン!いつからそこに」

ξ゚听)ξ「さぁ、いつからでしょうね」

(;'A`)「おいおい、いるならいるって早く言えよな」

ξ゚听)ξ「だって楽しいじゃない?男のユージョー、って奴を見るのは」

浮かべるいやらしい笑い。

ξ゚听)ξ「まーそんなことはどうでもいいとして、ブーン、早くアップ始めなさい。
      決勝までそんなに時間はないわよ」

(;^ω^)「おっおっ、わかったお」

立ち上がり、視線をドクオへと向ける。

( ^ω^)「ドクオ」

('A`)「ん」

真っ直ぐ立てられた親指。
堂々と突き出すブーンの顔に、迷いはなかった。

( ^ω^)「僕の走り、見ててくれお」



42: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:49:03.82 ID:n7QPRss10

('A`)「へっ、言われなくても」

( ^ω^)「じゃ、行ってくるお!」

('A`)「がんばれよ」

ささやかな応援に笑みで返し、ブーンは勢いよく走って行った。

ξ゚听)ξ「全く、恥ずかしくないのかしら」

ため息をつき、つまらなそうな顔を見せるツン。

('A`)「なんだ、うらやましいのか」

ξ#゚听)ξ「な!んなわけないでしょ!!」

その顔は一変して怒りの表情に。

('A`)「ったく、素直じゃないねぇ」

ξ#゚听)ξ「まだ言う気かしら?」

硬く握り締められた拳。
身の毛もよだつ殺気を放ちながらゆっくりと顔の前まで上昇していく。

('A`)「さーせんっした!!」



43: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:51:09.88 ID:n7QPRss10

雨が降っている。
さっき程の勢いはないが、ザアザアと音を立て地面へと着地を繰り返す。

( ^ω^)

ブーンは、それを見ていた。

「あーあー最悪だ」
  _
( ゚∀゚)「雨は降ってるし、レースの時間は遅れるし、その上決勝のレーンは豚の隣だ」

( ^ω^)

ジョルジュの言葉にも反応せず、ひたすらに降り注ぐ雨を見つめる。
  _
( ゚∀゚)「俺の邪魔だけはすんじゃねーぞ?
     レーンからはみ出したお前の体に当たったらたまったもんじゃねーからな!」

( ^ω^)
  _
( ゚∀゚)「おい、またシカトか?」

( ^ω^)
  _
( ゚∀゚)「それとも、緊張しすぎて声が出ないってか?ッハハハ!!」

( ^ω^)「ジョルジュ」

顔は雨の方を向いたまま、口を開く。



45: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:53:02.13 ID:n7QPRss10

  _
( ゚∀゚)「ああ?」

( ^ω^)「勝負だお」

濁った瞳を見つめ、言い放つ。
  _
( ゚∀゚)「ブヒブヒ言われても、俺にはわかんねーなー」

( ^ω^)「僕は、負けないお」

その言葉にジョルジュが反応する。
  _
( ゚∀゚)「……何か言ったか糞豚野郎」

( ^ω^)「僕は、お前に勝つお」
 _
(#゚∀゚)「うっせーんだよ!!黙れ!!」
 _
(#゚∀゚)「俺に勝つだと!?ふざけてんじゃねーよ!!
     てめぇみたいなデブが俺に勝てるわけねーだろ!!」
 _
(#゚∀゚)「デブは走んじゃねぇ!!砲丸でも円盤でも勝手に投げてやがれ!!
     俺はてめぇみたいな勘違い野郎が死ぬほどムカツクんだよ!!」

一人喚き散らすジョルジュ。
ブーンはそれを静かな表情で見つめている。



47: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:55:12.27 ID:n7QPRss10

「時間が来ました。選手はレーンに入ってください」

係員の声がかかり、ブーンは立ち上がりレーンへと向かう。
 _
(#゚∀゚)「ごるぁ!何か言えよ!!」

立ち止まり

( ^ω^)「……」

振り向く。

( ^ω^)「一つだけ、いいことを教えてやるお」
  _
(#゚∀゚)「あぁ!?」











( ^ω^)「追い込まれた豚はイノシシより凶暴だお」



48: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:57:16.72 ID:n7QPRss10

「位置について」

( ^ω^)「お願いしますお」

深く一礼し、前へ出る。

手を濡れたタータンへつき、両足を交互に伸ばす。
十分にほぐれたのを確認してからスターティングブロックへ設置した。

前を見つめる。
雨の中、長々と横たわる100mの直線。
自分が駆け抜けていくイメージを頭に浮かべた。

両肩を交互に回し、顔を三度叩く。

もう一度濡れたタータンに触れ、目を瞑る。
肌に当たる雨の感覚。不思議と、寒いと感じることはなかった。

むしろ、体の奥が、胸の奥が、心の奥が燃え滾るように熱いくらいだ。

「用意」

目を開き、腰を上げる。

――パァン!

炸裂音と共に、熱を帯びた体を弾き出した。



49: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 21:59:14.81 ID:n7QPRss10

弾いた体は前傾を保ったまま走り出す
徐々に上体を上げ次第に開ける視界 誰も映らない

どんどん加速する体
吹き付ける風雨など気にもならない
お前が最速なのだと お前が王者なのだと そう告げているようにさえ思える

前には誰もいない いるはずもない
だがこの音は何だ 自分の呼吸と重なる この音は

この目の死角
視界には映らない者の息遣い

足を上げろ 前に出せ
思うより速く 体を前へ前へと弾く

それでも音は止まない
それどころか次第に大きくなっている

まだ出せる 自分の力はこんなものではない
前へ 前へ 前へ 前へ 前へ 前へ

思いは通じたのか

やっと遠ざかってくれた音

音の代わりに現れた

黄色い 弾丸



51: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 22:01:01.82 ID:n7QPRss10

  _
(;゚∀゚)「はぁはぁ」

膝に手を当て、息を整える。

( ^ω^)

目の前に現れるブーン。

( ^ω^)「ありがとうございましたお」

深々と下げられた頭。
それだけ言い残し、ブーンは立ち去っていった。
  _
(;゚∀゚)「はぁはぁ……」

先程の礼は自分に向けられたものなのか。
それとも今駆け抜けてきた100mへ向けられたものだったのか
  _
(;゚∀゚)「……ちくしょう」

どちらにせよ、この少年にはあまり関係のないことだった。
  _
(;゚∀゚)「ちくしょおおおおおおおおおお!!!!!」


「君、次の競技の邪魔になるから早くそこからどきなさい」
  _
(;゚∀゚)「あ、すいません」



52: 私立探偵(茨城県) :2007/04/15(日) 22:02:38.84 ID:n7QPRss10

(*^ω^)「おっおっ!やったお!!」

両手を広げ、ドクオ達の下へ駆けて来るブーン。

('A`)「おつかれさん」

いつものように飛んでくるタオル。

ξ゚ー゚)ξ「おつかれさま」

いつもとは違う笑顔。

(*^ω^)「ドクオ!ツン!」

真っ直ぐ立てられた親指。

('∀`)「へっ」

ξ゚ー゚)ξ「ふふ」

応えるように微笑む。


雨は止まない。
だがブーンの笑顔は、地上に現れたもう一つの太陽。
雨の中輝く太陽はそこにいるだけで、ドクオ達に笑顔をもたらした。



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