( ^ω^)ブーンは麻雀の世界に生きるようです

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 20:13:31.04 ID:BaSDfElW0


【第十二話:頂上、その二】



 クーは、嫌な汗が頬に流れるのを感じた。

川;゚ -゚)。oO(クッ…)

 まだ字牌の整理すらついていない時に切り出した牌が、
 親のチートイドラドラへ放銃になってしまったのだ。
 東1局に5200をアガったものの、それ以上の失点である。
 まだ6巡目、捨て牌もそこまで目立っておらず、不運としか言いようがない。

 しかしながら、長く麻雀を打っていればこんな事も少なからず起こるもの。
 大事なのはそれにめげない強い心だ。

 もちろん、そんな事はクーも重々承知している。
 だが若干20歳で試合経験も少ない彼女にとって、それを実践するのは中々に難しい。

川;゚ -゚)。oO(ああ、早く点棒を支払わないと)

 我に返って手に取った1万点棒が、いつも以上に重く感じる。
 無理もない。その点棒には、彼女だけでなく仲間達の思いも詰まっているのだ。

川;゚ -゚)。oO(落ち着け、落ち着くんだ…)

 思い直し、10100点をゆっくりと差し出す。
 そしてお釣りの5百点棒を受け取り、点箱に仕舞い入れた。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 20:17:17.43 ID:BaSDfElW0


 すると瞬時に、クーの点箱にある液晶は『20600』と表示される。
 対してトップ目の上家は、33300点。
 まだ東2局とは言え、赤ドラの無いこのルールでは決して小さくない点差だ。

 左手で自前のカップを持ち、ブラックのホットコーヒーを少し多めに流し込む。
 インスタントだが、味はそこまで悪くない。

川 ゚ -゚)「…」ゴクリ

 それでどうにか気を取り直し、
 普段通りのポーカーフェイスで次局の配牌を手に取るクー。
 当然ながら、諦めるにはまだ早いだろう。 

川 ゚ -゚)配牌:1157m148p29s西西北白 ドラ7p

 しかしながら、前局に続いてその手はアガリに程遠いものだった。
  _
(;゚∀゚)(;^ω^)「…」

 淡々と不要牌を切り出していく様子を、心配そうに見つめる仲間達。
 声を出す事は認められていないため、彼らは静かに眺める事しか出来ない。

('A`)。oO(今はガマン時…耐えるんだ)

(*‘ω‘ *)。oO(クーさん頑張るっぽ…!)

 それぞれがクーに応援の念を送る。
 だが、彼女の手にする手牌は相変わらず重たいものばかり。
 それからしばらくの間、じわじわと点棒を削れていくだけだった。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 20:24:16.33 ID:BaSDfElW0


 そして南3局、この半荘最後の親番を迎えた。
 その持ち点は17800点で、僅差のラス目。
 ひとまずアガリを得て、連チャンしたい所である。

 ここでクーに舞い降りた配牌は、明確に123の三色が狙える手だった。

川 ゚ -゚)配牌:1227m1337p1233s西中 ドラ中

 ただし、ドラの中がネックと言えるだろう。  
 この1牌に振り回され、その挙句悪い結果に終わる事も多い。
 切り出しのタイミングによっては局の運命も左右してしまう。
 扱いの非常に難しい、厄介な存在だ。

川 ゚ -゚)。oO(これがすんなりと重なれば良いのだが…)

 クーはそんな事を考えつつも、ひとまずは打西とした。
 すると2巡目には1pをツモり、打7m。
 対子が4つ、七対子のリャンシャンテンだ。
 次巡は北を引いたので、それをツモ切り。

 …と、ここまでは手なり、普通の手順である。
 しかし4巡目、後ろ見のブーン達は、目を丸くさせた。

川 ゚ -゚)「チー」

 上家の切った2pにクーが声を掛けたのだ。そして、打3s。

川 ゚ -゚):122m137p123s中 チー213p ドラ中



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 20:29:27.28 ID:BaSDfElW0


 クーの狙いとしては、やはり123の三色。
 それも、出来ればチャンタとドラ2を付け満貫にしてアガりたいと言った所か。
 最終形がドラ単騎になるのも辞さない構えであろう。

 だがこれを見て、ブーンは一瞬だけ眉をひそめた。

( ^ω^)。oO(4巡目でメンゼンを崩してのチーかお…)

 彼が微妙な顔を見せるのも無理はない。
 打点の欲しい局面では、メンゼンで仕上げようとするのが赤無し麻雀の王道。
 特にドラ入り七対子など、リーチしてツモり上げれば親ッパネまで見込めるのである。

 また、ここで123の三色に決め打つのは、少々危険とも言えた。
 もし必要牌がポンやカンをされたり、チーの出来ない対面や下家に連打されてしまった場合、
 一瞬でアガリが見込めなくなってしまうからだ。

(;^ω^)。oO(うーん…この動きが良い結果に繋がればいいんだけど)

 何事も無かったかのように表情を戻しつつも、冷や汗をたらすブーン。
 しかし対照的に、ジョルジュはニヤリと笑った。
  _
( ゚∀゚)。oO(これは…面白い鳴きだな……)

 ジョルジュがそう感心したのには理由がある。
 捨て牌がピンズの染め手に見えるからだ。

 クーの仕掛けは、ドラが役牌の中ということもあり、非常に戦術的な動きと言えた。
 西、7m、2pをチーしての3s。
 これを見たら、ほとんどの打ち手が「親が早々にピンズの一色手へ走った」と考えるだろう。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 20:35:02.99 ID:BaSDfElW0
  _
( ゚∀゚)。oO(そう、ピンズだと思わせておけば…)

 その展開は、まさしくジョルジュの予想通りだった。 

川 ゚ -゚)「チー」

 上家が苦し紛れの表情で切った3mをチーし、クーは打2mとする。 

川 ゚ -゚):137p123s中 チー312m チー213p ドラ中
  _
( ゚∀゚)。oO(ほうら、な)

 上家は現在のトップ目。
 彼からすると、下家の親が打点のある染め手に走っているならば、
 その色の牌は鳴かすまいと考えるのが自然である。

 となると、クーの手にとって
 もう一つのネックである3mが鳴ける可能性は多分にあるのだ。

川 ゚ -゚)。oO(よし…)

 三色部分が完成し、とりあえず一安心と言った所だろうか。
 あとはもう、アガリ形を作るだけの作業である。

 それから3巡が経過した所で1pが重なり、小考の後に腹をくくっての打ドラとした。  

 すると、他家からそれに合わせる形で次々と中が河へ捨てられる。
 うまい具合に、ドラが1枚ずつ4人に散らばっていたのだ。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 20:41:11.47 ID:BaSDfElW0
  _
( ゚∀゚)( ^ω^)。oO(あるあるwww)

 この実戦でよく見かける展開にブーンとジョルジュが少々ニヤついていると、 
 クーは8pを引き寄せテンパイを入れ、
 ほどなくして対面の放った9pにアガリの声を掛けた。

川 ゚ -゚)「ロン、5800」

川 ゚ -゚):1178p123s ロン9p チー312m チー213p ドラ中

 高目の9pで、ジュンチャン・三色の5800。
 これで持ち点が24600となり、着順も暫定2着となる。
 ラス目を脱する、大きなアガリだ。

( ^ω^)。oO(おお、中堅手をアガり切った…!)

川 ゚ -゚)。oO(いや、まだだッ!)

 それでもまだ、上家に1万点を超える差がある。
 この親をさらに連チャンしなければ、トップをもぎ取るのは厳しいだろう。

 そんな南3局、1本場。
 クーは5巡目に先制の親リーチを掛けた。

川 ゚ -゚):89m234789p456s白白 ドラ2m

 その中身はドラも無いペン7m待ちのノミ手で、
 時折ブタリーと蔑称される類のリーチである。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 20:46:37.04 ID:BaSDfElW0


 しかし、対する他家からすればその中身を知る事など出来るわけもなく、
 親の早いリーチなどただの脅威でしかない。
 よほど手が整っていない限り、受けに回らざるを得ないだろう。
  _
( ゚∀゚)。oO(親特権の戦術、序盤でのオリろリーチ。これが中々有効なんだよなァ)

( ^ω^)。oO(こういう時は決着が長引くんだおね…)

 彼らの読み通り、他家は早々に店仕舞いをし、勝負は終盤までもつれる。
 そしてクーは見事に7mを掘り当て、裏ドラも乗せる事に成功した。

川 ゚ -゚)「リーヅモ…裏1、2100オール」

 その発声が終わると同時、「おおっ」とクーのギャラリーが沸く。
 このアガリにより、ラス目から一転、
 トップまであと少しという位置にまで登りつめたのだ。

('A`)。oO(あと4000点…)

(´・ω・`)。oO(クーさん頑張れ…!)

 が、快進撃もここまで。

 南3局2本場は、3着目の下家が軽く仕掛けてタンヤオのみをアガり、
 クーの親を軽く流されてしまった。
 彼女にこれ以上連チャンされるのはマズいと考えたのだろう。

 そしてオーラスは、トップ目の上家があっさりとピンフのみをダマテンで仕上げ、
 予選1回戦目が終了となった。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 20:53:30.85 ID:BaSDfElW0


川 ゚ -゚)「順位ウマを入れて+9.7か…」

 局後挨拶と用紙へのスコア記入を終え、クーは立ち上がる。
 すると、背後から聞き慣れた仲間達の声が彼女の耳に届いた。

ξ゚听)ξ「クー、おつかれさま」
 
( ^ω^)「まずまずな立ち上がりだおね」

川 ゚ -゚)「…ああ、そうだな」

 とは言ったものの、僅かばかり、浮かない顔を覗かせるクー。
 やはり東1局の大三元のアガリ逃しが響いているのだろうか。
 役満をアガっていれば、この初戦を大トップで締めくくれたのはほぼ間違いない。

('A`)「なんかイマイチな表情だな。もしかして、あの大三元逃しが気になる…か?」

 ドクオはほんの一瞬だけ見せたクーの顔色を見逃さず、あえて切り込んでみた。

川 ゚ -゚)「それもあるが…。あの後9600に放銃して、明らかにメンタルが揺れてしまった。
     運良く2着はなれたが…私もまだまだ未熟だと痛感したよ」

( ^ω^)「うーん、東3からしばらくアガり番じゃなかったから結果に出てないけど、
      確かにちょっと雑な手順だったお」
  _
( ゚∀゚)「もう少しネバっこく打ってたら形式テンパイ取れてたトコがあったかもな」

川 ゚ -゚)「うん、そうだな…」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 20:58:47.92 ID:BaSDfElW0


 仲間からのアドバイスを聞きつつ、そう言ってクーは窓の方に視線をやった。
 このフロアが5階だが、今はスコールの様な激しい雨がガラスを打ちつけており、
 街の風景はあまりよく見えない。

川 ゚ -゚)「雨、か…」

 鼠色に染まった窓ガラスを眺めながら、やや深い息を吐く。

 上手く打ち回していれば勝てていた試合を、自分は落としてしまった。
 もし打っていたのがブーンやジョルジュ、あるいはドクオだったら、
 難無く勝てていたのだろうか。

 今そんな事を考えても仕方無いのはわかっているが、
 悪天候と相まってか、思考がマイナス方向へと転がっていくのをクーは自覚した。

('A`)「まあ、気にするなよ。スコアはプラスなんだし。平常心平常心」

( ^ω^)「そうだお、引きずるだけ損ってモンだお」
  _
( ゚∀゚)「大三元なんていつでもアガれるしなっ!」

 2回戦へ明るい気持ちで臨めるよう、前向きに励ますメンバー達。
 その気持ちを察し、クーは軽く微笑みながら返事をした。

川 ゚ー゚)「そうだな、次こそトップを取ってくるよ」

 そうだ、私には仲間がいる。こんなに心強い味方はいないだろう。

 思いながら、クーは次戦の卓へと向かった。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 21:03:45.65 ID:BaSDfElW0


   ・
   ・
   ・

 だがそんな彼女の思いもむなしく、2戦目も2着で終わる。

 それでもここは、特定の一人がツモアガリを続けてダントツが出来上がるという厳しい展開の中、
 粘りを重ねて拾ったプラスなので、非常に健闘したと言える内容だった。

('A`)「お疲れ。よく耐え切った」

(´・ω・`)「地味だけど渋い麻雀でしたね」
  _
( ゚∀゚)「ナイス2着だな」

川 ゚ -゚)「ふう…。どうにかこうにか、って感じだったがな」

( ^ω^)「これでトータルはどれくらいになったかお?」

川 ゚ -゚)「今のが+3.6だから…合計で+13.3だな。正直、有って無いような浮きだ」

 このクーの台詞は、ある意味で正しい。 
 今回の参加者は200人で、その中の上位16人しか準決勝に進む事が出来ないのだ。

 そうなると、ボーダーラインは相当に高くなるのが予想される。
 具体的な数字は読めないが、予選突破には少なく見積もっても+80以上は欲しい所だが…。

 今の持ち点では、遠く及ばない。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 21:10:47.40 ID:BaSDfElW0


川 ゚ -゚)「次の半荘が勝負所になるだろうな」

 これもまた、彼女の言う通り。

 もし次戦で少しでも沈んでしまったら、
 最終戦は可能性の薄い特大のトップ条件となってしまい、ほぼ消化試合と化す。 
 つまりは、最低でも2着を取らなければならないのだ。

ξ゚听)ξ「クー、頑張って。ほら、新しいコーヒー作ってきたわよ」

川 ゚ -゚)「…ああ、ありがとう」

 礼を言いながら、コーヒーが注がれたカップを受け取るクー。
 心なしか、普段より顔色が強張っているように見えた。
 ここが負けられない戦いになるため、無理もないのだが…。

 それを見たツンが、不安そうな顔で尋ねる。

ξ゚听)ξ「…大丈夫?」

川 ゚ -゚)「ああ、心配するな」

 するとこのタイミングで、次戦への準備を促すアナウンスが流れた。   

川 ゚ー゚)「では、行ってくるよ」

 皆に向けて作った笑顔でそう言うと、立ち上がって背筋をピンと伸ばし、
 ガヤガヤと移動する人の群れで賑わう会場中央の方へ歩いていった。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 21:19:11.99 ID:BaSDfElW0


川 ゚ -゚)「3回戦目…私は31卓か」

 カップを右手、大会用紙を左手に持ちながらぽつぽつ歩き、
 目当ての卓に辿り着くと、そこには見知った顔が二つ並んでいた。 

( ´_ゝ`)「…おや」

从 ゚∀从「ん、この子は確か東京予選の…」

 ラウンジ大麻雀部の部長・流石兄者と、
 クーと同じく東京予選を勝ち抜いた、ハインリッヒ高岡だ。

 同卓した兄者はもとより、クーはハインの顔も覚えていた。
 対局会場では絡みこそ全く無かったが、大会を主催する業界誌“現代麻雀”の頂上戦特集で、
 東京予選を勝ち抜いた者として自分と同じページに写真などが掲載されていたからだ。

川 ゚ -゚)「…どうも」

 軽い会釈をしながら、二人に目をやる。
 ハインが卓に座っており、兄者はその後ろに立つという形で雑談をしていたようだ。
 どうやら今回はハインとぶつかるらしい。

 しかし、何故彼らが一緒にいるのだろうか。
 兄者は予選敗退しており、本来ならば後輩のロマネスクの応援をしている筈だ。

川 ゚ -゚)「お二人は知り合いだったのですか?」

( ´_ゝ`)「ふふ…。ハインさんにはな、我らラウンジ大麻雀部の特別顧問になってもらったのだよ」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 21:24:53.65 ID:BaSDfElW0



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━━━━━━
━━━


 ブーン達がホテルに到着した時刻から、遡ること約10分。
 会場内には、サークル名が英語で書かれた揃いのウィンドブレーカーを羽織る流石兄弟の姿があった。

 部内で唯一予選を勝ち進んだ後輩・ロマネスクを応援するため、
 彼らはひと足早く会場へ駆けつけていたのである。

( ´_ゝ`)「ううむ、流石に広いな…」

(´<_` )「ああ、なんせ50卓200人が入るハコだからな」

( ´_ゝ`)「しかし…まだロマは来てないのか」

 だが、当のロマネスク本人の姿が見当たらない。
 どうやら到着が遅れているようだ。

(´<_` )「まったく…最低でも試合開始の30分前に会場入りするのが基本だとあれほど…」

( ´_ゝ`)「お、いたぞ」

(´<_` )「ふう、ようやく来たか…って!」

 弟者が兄者の指差す方を向くと、ロマネスクではない人物の顔が目に飛び込んだ。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 21:28:06.99 ID:BaSDfElW0


(´<_` )「あの人は…」




            从 -∀从




 そこにいたのは、東京予選の決勝で弟者を破り本戦へ勝ち上がった(※)、ハインリッヒ高岡。

 彼女は一人会場の奥の卓に座り、開始を待っているようだった。
 身体は華奢ながら、腕を組み眼を閉じて集中しているその姿から、
 強者独特の息遣いが感じられる。

( ´_ゝ`)「ホラ…何か話すんじゃなかったのか、弟者よ」

(´<_` )「んー、いや…。いざ目の前にしてみると、どう声を掛けたらいいか…」

 予選で敗れ、対局後に言葉を交わして以来、
 弟者は彼女に会ってもう一度話したいと思っていた。
 それがいわゆる恋愛感情によるものなのか、彼自身もまだ把握し切れてはいないのだが。 
 
(´<_` )「今は対局前で集中しようとしてるみたいだし、終わってから話し掛けてみる事にするよ」


※…第八話参照



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 21:33:30.77 ID:BaSDfElW0


( ´_ゝ`)「あ、そう?ふーん…」

 ポリポリ頭を掻きながら、踏ん切りをつけられないでいる弟にそっけない返事をする兄者。
 はあ、と軽く溜息をつきながら、続けて口を開いた。

( ´_ゝ`)「じゃあ俺が先にあの人んトコに行くぞ。ちょっと用事っつうか、頼み事があるんだわ」

(´<_`;)「は、はあ!?」

 「用事って何だよ」と言いながら制止しようとする弟者を振り切り、
 つかつかとハインの元へ歩み寄る兄者。
 普段は弟の方がしっかり者の役割を担う事が多いのだが、
 どうやら行動力という点では兄の方が優れているらしい。

 ハインの座る卓の目の前まで行くと、普段より少し明るい口調で挨拶をした。

( ´_ゝ`)「やあ、どうもこんちは」

从 ゚∀从「…ん?ああ、アンタは予選で…」

(´<_`;)「コラ兄者、試合直前に悪いだろ…!」

 ハインが返事をしようとすると、弟者が駆けつけるなり兄者を叱りつける。
 彼らの顔が瓜二つなのを確認し、そう言えばコイツラ双子なんだっけ、とハインは思い出した。

从;゚∀从「あ…いや。まあ…まだ開始まで時間あるし、俺は大丈夫だけど…」

 とは言いつつも、いぶかしげに「一体何の用だ」といった表情を見せるハイン。
 兄者は敢えて空気を読まず、そんな彼女に自己紹介を始めた。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 22:01:31.68 ID:BaSDfElW0


( ´_ゝ`)「改めまして…ラウンジ大麻雀部、部長の流石兄者です。どうぞよろしく」

(´<_`;)「すみません唐突に…。副部長の弟者です。予選で戦った方と言えばわかるでしょうか」

 ややわざとらしく紳士然に振舞う兄と、慌てふためいた様子の弟。
 顔は同じでも性格は違うのかと推測しながら、ハインは返事をする。

从 ゚∀从「あ…ああ。部長さんの方とは初めまして、だよな」

( ´_ゝ`)「ええ、そうなりますが…。実は私、あなたのサイトが更新休止になる前は
       毎日チェックするくらいファンだったもので」

(´<_`;)。oO(嘘つけ!たまに、だろ…)

从 ゚∀从「おー、そうなのか。休止してもう大分経つのに、ありがたいねェ」

 2人の突然の来訪でも気さくに受け答えをして見せるハイン。
 それなりに肝が座っており、社交性も十二分にあるらしい。

( ´_ゝ`)。oO(ふふ、思った通りの人だな)

 実の所、兄者はそんな彼女の竹を割ったような性格を予測していた。

 女だてらに旅打ちをし、それをサイトで公開するという行動力。
 また、そのサイトに掲載された、少々毒のある明朗闊達な文章。
 これらの要因から、彼はハインの人物像を推測する事が出来たのだ。

 そして、その読みの上で今回の行動に踏み切ったのである。
 もちろん兄者は、そんな事をわざわざ口に出したりしないが。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 22:05:45.68 ID:BaSDfElW0


从 ゚∀从「…で、それでわざわざ挨拶に来てくれたのかい?」

(´<_`;)「いやあ、何かこのバカ兄貴が用事だか頼み事があるといきなり言い出して…」

从 ゚∀从「ほう?このハインちゃんにどんな頼み事があるんだ?」

( ´_ゝ`)「実は、ですね…。いきなりで大変不躾なのですが、“旅打ちハイン”として名高いあなたに
      特別顧問になって頂き、ラウンジ大麻雀部を指導して頂けたらなと思いまして」

从 ゚∀从「…ほーう?」

(´<_`;)「な…!?何それ聞いてないんだけど!?」

( ´_ゝ`)「うん、言ってないもん」

(´<_` #)「言えよ!!」

从;゚∀从。oO(コイツラ仲悪いのか?)

 いきなり目の前でケンカを始める双子に、ハインは一瞬言葉を失う。
 しかしほどなく我に返り、
 自分の受けた依頼について二人を見ながら思慮を巡らせる。

从 ゚∀从「…」

 そして、数秒後。
 返答をもったいぶる事も無く、口を開いた。

从 ゚∀从「…いいぜ」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 22:11:17.17 ID:BaSDfElW0


(´<_`;)「…ええ?そんなアッサリ!?」

( ´_ゝ`)。oO(計画通り…!)

从 ゚∀从「面白そうだし、月に数回くらいだったら行ってもいいぜ。ギャラは出してくれるんだろ?」

( ´_ゝ`)「ええ,、そんなに多くは出せないですが、お車代程度なら」

(´<_`;)。oO(部費の使用まで独断で決めやがって…)

从 ゚∀从「いやー、暇だし、ちょうど麻雀熱が復活してきたトコだったんだよ。
      就職してHPも休止したんだけど、不景気で最近会社が倒産しちまってさあ」

( ´_ゝ`)「なるほど、ナイスタイミングだったと言うワケですか」

 しばしの間、談笑する兄者とハイン。
 弟者からはすっかり意気投合しているように見える。
 しかし当然ながら、それぞれに思惑があるようだ。

(´<_` )。oO(まあ…いいか。部にも悪い影響は出ないだろうし、さすが兄者、と思っておくよ)

( ´_ゝ`)。oO(弟者も喜ぶし、それなりに知名度のある“旅打ちハイン”の名を使えば、
        ウチの評判もより世間に広まるってもんさ)

从 ゚∀从。oO(ま…何回か行ってみて、つまんなかったりタルくなったら、
      テキトー言ってサッサと辞めちまえばいいんだよな。それに…)

从*゚∀从「俺、大学って行ったコト無くて、前から興味あったんだよねー」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 22:16:13.48 ID:BaSDfElW0



━━━
━━━━━━
━━━━━━━━━


川 ゚ -゚)「特別顧問…ですか」

( ´_ゝ`)「そうだ。旅打ちハインって聞いた事あるだろう、その人だよ」

川 ゚ -゚)「ああ、あの人気サイトだった…」

 別段と表情を変えずに、クーは淡々と返す。
 これは彼女が心を開いていない人間と接する際の、癖のようなものだった。
 だが兄者にとって、あまり面白くないらしい。

(# ´_ゝ`)。oO(チッ、相変わらず無愛想な女だ)

 相変わらず兄者はVIP大の人間には敵意を剥き出しにしている。
 特にクーは、自らを予選決勝で蹴落とした当人。並々ならぬ思いがあるようだ。
 だがそんな兄者とは対照的に、ハインはさらりと挨拶を口にする。

从 ゚∀从「ま、そんなわけで。VIP大とはまた顔を合わせるかもしれないんで、よろしくな」

( ^ω^)「こちらこそよろしくですお」

 いつの間にか背後にいたブーンがそう受け答えをすると、クーも続けて社交辞令を返した。

川 ゚ -゚)「まあ…とりあえず今回、お手柔らかにお願いします」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 22:20:47.39 ID:BaSDfElW0


 クーにとって剣が峰となる、予選第3回戦。
 ハインが起家、クーがその対面の西家という座巡で始まった。

川 ゚ -゚)。oO(相手が誰でも、平常心…)

从 ゚∀从。oO(ま、お手並み拝見といきますかね)

 東1局は、序盤から動きを見せる。

 ハインは対面のクーを意識しつつも、親番という事もあり手なりで真っすぐに進行させた。
 そしてテンパイを入れたのが、7巡目。

从 ゚∀从:24m223678p11234s ツモ1p ドラ5p

 4pが入れば234の三色だったが、やはりというかなんというか、1pを引いた。
 ここで迷うのは、リーチをするか否か。

从 ゚∀从。oO(待ちが3mのみ1枚で、有効な手変わりはツモ4p、5m、あと5pの3枚か。だがここは…)

 自身の河を一瞥し、そう考えた直後、ハインの「リーチ」という発声が卓内に響いた。

从 ゚∀从。oO(さて、お三方はこの捨牌の親リーにどういう対応をするかね)

 これは彼女からすると、相手の雀風を伺う様子見の一手といった所だろう。

 ヒントの少ない捨牌で、すんなりとオリるのか、受けて回すのか、あるいは真っすぐ向かって来るのか。
 ハインはこの時、相手の雀質を知りたかったのだ。
 もちろん、相手の対応はその時の手牌にもよるのだろうが…。
 それを踏まえた上でも、この情報を知っておけば有利になると踏んだのである。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 22:28:47.57 ID:BaSDfElW0


 そして、この親リーを受けた直後のクーの手牌は…。 

川 ゚ -゚):23456p233788s白白 ツモ2m ドラ5p

 ドラが1枚あるものの、やや重たい感じのする2シャンテンだった。
 白が出ればポンをするつもりだったが、まだ場には顔を出さず、
 そうこうしているうちに間に攻めてこられたのだ。
 
川 ゚ -゚)。oO(嫌なタイミングの親リーだな…)

 左手を頬に当て、3〜4秒程考える。
 そして、打、白。
 クーはひとまず、字牌の対子落としを選択した。

 一方の上家と下家も、現物や字牌を並べている。
 これもまた親リーチが掛かった直後によくある光景だ。

从 ゚∀从。oO(ふうん、やっぱまずは受けたか…)

 その間、河だけでなく、相手の表情までじっくり観察するハイン。
 その視線は鋭く、眉の動きすら見落とさない。

从 ゚∀从。oO(…OK、大体掴んだよ)

 結局、ここはアガれずに流局した。
 リーチを掛けた直後に4pをツモっていたので、
 ダマテンに構えていたらどうなっていたか気になる所だろう。

 だが、テンパイ料の点棒を仕舞い入れながら、彼女はニヤリと口元を曲げた。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 22:32:46.46 ID:BaSDfElW0


 次局の1本場は、クーがリーチと出た。
 8巡目に3枚目の3pをツモってのテンパイで、感触は悪くない。

川 ゚ -゚):23344578m33345p ドラ6m
  _
( ゚∀゚)。oO(…これはアガれそうだな)

 6m−9mは、9mが1枚河に出ているだけ。
 待ちとしてはかなり強い部類に入るだろう。
 またこれは、運良くドラの6mを引き当てれば、それだけで満貫になるチャンス手だ。
 否が応にも、期待は高まる。

 しかしながら、こういう形の時、アガリ牌は大抵外側になるもの。
 今回もその例に漏れず、安目の9mを南家から出アガった。

 だが、メンピンに裏ドラが1つ乗って、3900は4200の加点。
 それに供託のリーチ棒が1つ加わり、そこそこの収入となった。

('A`)。oO(よし、いい感じでライバルの親を蹴った)

( ^ω^)。oO(ナイス裏ドラだお)

ξ゚听)ξ。oO(ひとまずこれでよし、ってトコかしらね)

 安目のアガリではあるものの、
 とりあえずリーチしてアガリ切った事に安堵の表情を見せるメンバー達。

 しかしこの3局後、一同の顔色が変わる。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 22:38:04.68 ID:BaSDfElW0


从 ゚∀从「リーチ」

 クーの親が軽く流され、迎えた東4局。
 10巡目、僅差でクーを追うハインの捨牌が勢い良く横に置かれた。

 ドラは白という重たくなりがちな局面で、
 8m、3s、4s、9s、5m、中、9m、1p、9p、そして宣言牌に西という捨牌でのリーチ。
 4sのみがツモ切りで、あとは全て手出しである。

(;^ω^)。oO(チートイっぽいけど…うーん)
  _
(;゚∀゚)。oO(なんだ…あの河は…)

 観戦のブーンとジョルジュは、捨牌の不気味さに戦慄を覚えた。

 通常であれば最初のうちに処理される筈の端牌が、
 後半になって手出しで切られている。
 一見七対子っぽいが、リーチ宣言牌の西とその前の1p、9pは序盤で他家が2枚捨てており、
 対子手ならばそれに合わせる形で切られているのが自然だ。

 まったくもって、読めない。

从 ゚∀从「…」フフン

 当のハインは眉一つ動かさず、鼻歌でも出てきそうな程マイペースな表情を保っているが、
 いかんせん河が禍々しいオーラを放っている。
 そしてそのオーラが、この手に振り込んだら致命打になると予感させた。



54 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [sage] 投稿日: 2010/07/19(月) 22:46:02.81 ID:BaSDfElW0


川;゚ -゚)。oO(チッ…)

 そんなリーチを受けたクーは、一発目のツモ牌を持ってきて、手を止めた。
 掴んだのは、場にはまだ1枚も出ていない、ドラの白。

川 ゚ -゚):33377m788p567s發發 ツモ白 ドラ白

 さあ困った。
 安牌が、無い。

 強いて言えばスジ牌である6sや7sが通りそうではあるが、
 当たる可能性が全く無いわけではないし、そこを中抜きしたら手牌がほぼ死んでしまう。

川;゚ -゚)「失礼…」 

 その切れ長の目で、改めて四者の捨牌を覗き込む。
 だがやはり、わからないものはわからない。

 真っすぐ行くなら打ドラなのだが、
 放銃した際のリスクを考えれば流石にそれはやり過ぎと言えるだろう。

川 ゚ -゚)。oO(これ以上考えても仕方無い、とりあえず字牌の対子落としで迂回するか…)

 小考した後、クーは發を掴み、少し強めに切り出した。
 場にはまだ出ていないが自分で2枚持っているため放銃する確率が少なく、
 それでいて白を再度引くなどした場合に復活をしやすい、効率の良い打牌だと判断したのだ。

 しかし───



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 22:51:55.13 ID:BaSDfElW0


从 ゚∀从「ロン、16000」

 無情にも、その打牌にロンの声が掛かった。

从 ゚∀从:3388p東東南南北北白白發 ドラ白 裏ドラ3m

 リーチ一発メンホンチートイドラドラ。
 裏ドラは乗らなかったものの、破壊力抜群の倍満である。

川;゚ -゚)「…!!」

 開かれた手牌を見て心臓を射抜かれたかような感覚に支配され、目を大きく見開くクー。
 まさしく、痛恨のオリ打ち放銃だ。

 そのロン牌は、またしても發。
 初戦東パツの大三元逃しから、呪われてしまったかと錯覚するような展開である。

(;^ω^)。oO(ああっ!!)
  _
(;゚∀゚)。oO(なるほど…ピンズに染まっていたのか…!)

ξ;><)ξ。oO(…クー!) ギリッ

(;'A`)。oO(また…發か……)

 観戦者は表情を崩してはいけないというマナーがあるものの、目に見えてなだれるメンバー達。
 しかし一方の兄者は、渾身の決定打をものにしたハインの思考について考察していた。

( ´_ゝ`)。oO(これは…見事としか言いようの無いリーチだな…)



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 22:59:04.40 ID:BaSDfElW0


 ハインは東1局の親リーチの際に、相手の受け方の癖にも注目していたのだ。
 そして相手の字牌処理の甘さに目をつけ、今回の倍満確定リーチに出たのである。

 この手はダマテンでもハネ満あり打点も十分な為、ひとまずそう構える人間が多いだろう。

( ´_ゝ`)。oO(しかし、リーチを掛ける事で見事に發を釣り出した。しかも、恐らく…)

 兄者のした推測の通り、ハインは相手に字牌を絞らない手なり進行の傾向があるのも読み切っていた。
 テンパイの時点で發はまだ場に1枚も出ていなかったが、
 その傾向から「まだ誰も發を持っていないか、誰かが2枚以上持っている」と読んだのである。
 そして、仮に2枚以上持たれていても、リーチをすれば切ってくると確信していたに違いない。

( ´_ゝ`)。oO(だがそれをわかっていても…普通、空振りが怖くておいそれと実行出来ない)

 恐るべし、旅打ちハイン。
 兄者はこの時、心底そう思った。 

川;゚ -゚)。oO(クソ…やられた……)

 そしてそれは、クーも同じだった。
 最終形を目にした時、自分の放銃がハインの注文通りだった事に気付いたのである。

 単純に「最終形だからリーチ」としたわけではない。
 打ち筋を見極められ、逆手に取られたのだ。

川 - )。oO(…ダメだ、勝てない)

 クーの心は、ここでポッキリと折られた。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 23:07:06.72 ID:BaSDfElW0


从 ゚∀从。oO(悪いねお嬢ちゃん。恨むんなら予選でこの俺と当たった、自分の不運を恨みな…)

川 - )「…」

 余裕の表情を見せるハインに対し、戦意喪失といった面持ちのクー。
 それは真後ろで見ていたブーンにも、ハッキリと見て取れた。
 一度このような精神状態に陥ってしまうと、立て直すのは非常に難しい。

(;^ω^)。oO(クー…)

 しかし彼は、クーに何もしてやる事が出来ない。
 『12200』と表示された点箱を見ながら、ただ強く拳を握り、奇跡を願うだけだった。

 だがその願いも叶う事は無く、結局クーはこの半荘をラスに甘んじる。

 それ即ち、準決勝への道が閉ざされるのと同義。
 最終戦、10万点以上のトップなど取れるわけもなく…。

 クーの頂上戦が、これで幕を閉じた。





続く。



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