都市に潜む百夜談

71: ◆OZummJyEIo :08/19(土) 06:09 RX6yB0SIO

『度の過ぎたイタズラ』


イタズラは皆さんも一度は経験があるだろう。
仕掛けるにしても仕掛けられたにしても。

しかしイタズラは冗談の範疇でやるから悪戯で済むのであって、度が過ぎてしまうと取り返しがつかなくなってしまう。

4〜5年前、丁度陰陽師ブームの頃とある中学校にて『イタズラ』が流行った。

丑の刻参りをもじって呪いの藁人形を用いて友達や先生を呪う“振り”をするというものだ。



73: ◆OZummJyEIo :08/19(土) 06:26 RX6yB0SIO

都会の方の学校だったから藁がそう簡単に手に入らないため、家庭科の授業のエプロン造りの時に余った布に綿を詰めてヒトガタに縫ってこさえた人形を用いた。

イタズラしたい盛りの中学生。
常識よりも好奇心が勝るのは言うまでもないだろう。

その学校にはMという教師がいた。
Mは所謂典型的な、生徒に小馬鹿にされるオッサン先生だった。

授業中生徒に背を向けよう物なら消しゴムや輪ゴムをぶつけられる程に馬鹿にされていた。
それ故彼は呪いの実験の標的には格好の餌食だった。

丑の刻参りの類の呪いには呪う相手の体の一部が必要なのだが、やはり一番ポピュラーな髪の毛を使うことにした。

M先生はハゲていたため髪の毛の入手は困難を極めたが、学校全体での草刈りの時に彼が使っていた帽子から入手する事が出来た。

放課後M抹殺計画実行委員(4人編成)が集まり、実行をいつするのか、呪いに必要な道具はどうするのかなど話し合っていた。

初めは冗談のつもりだったが次第に集団意識に飲まれ、半ば本気で殺す計画に移り変わっていた。



74: ◆OZummJyEIo :08/19(土) 06:45 RX6yB0SIO

〜丑の刻参りの説明〜

知っている人は知っているが知らない人は知らない…少しお浚いしておこう。


丑の刻…今の時刻でいえば午前2時頃、神社などの木に憎い相手の体の一部(髪の毛など)入りの藁人形に五寸釘をうつという日本古来よりの呪式。

呪式時には正式な服装があるがそれは割愛させて頂きます。

呪いは7日間に渡り行う。6日間は人形の目、耳、手、足、などを刺し、最後の7日目にトドメとして心臓を刺すという物だ。

鉄則としては
>呪式を他人に見られてはいけない
というのがある。

他人に見られると呪いは失敗し、自分に呪いが返ってきてしまうからだ。


M抹殺実行委員は毎日交代で呪いの儀式に赴くことにした。

呪いの正装は今の時代簡単に揃えられるものではないので私服でだが…



75: ◆OZummJyEIo :08/19(土) 06:55 RX6yB0SIO

いよいよ一日目の夜を迎えた。

一日目の夜、藁人形もとい布人形に釘をうつ担当はA。
中学校からすこし離れた場所にある神社の神木で儀式を行うことにした。

他にも幾つか神社はあるのだが、民家から一番離れた場所にある為そこに決めたのだ。

人気は全く無いので見られる心配はまずないが、逆に一人で深夜の神社に赴く事にAは恐怖を感じていた。

人形に釘をうち、無事に儀式を終えたAは帰宅した。











次の日学校は妙によそよそしかった。

呪い開始一日目にして早くも効果が現れたのだ。

本当に、死んでしまったのだ。







>ただし死んだのはMではなくAだった。



84: ◆OZummJyEIo :08/21(月) 09:17 bytvoHM8O

Aの死因は溺死だった。

噂が広まり耳に入ったことだが、神社の近くの用水路で死んでしまったらしい。

しかし妙なのは用水路には誤って落ちないように柵が設置されていていて、故意に乗り越えようとしなければ落ちることは絶対にない事と、用水路自体はAの身長なら余裕で足が着く程浅かった。

それは何を意味するのか?
事故で死んだのではないのではないか?

しかし警察の話によると他殺の可能性はゼロらしい。


そしてもう一つ奇妙な事があった。

A達の通う学校のA達の教室のAの机に水浸しになった布人形が釘で打ちつけられていた。

Aの死と関連付けているかの如く…



85: ◆OZummJyEIo :08/21(月) 09:31 bytvoHM8O

身近な人間の、Aの死に直面したM殺害計画のメンバーは戸惑いを露わにしていた。

メンバーの一人、Bがが語った。

Aは呪いの儀式が失敗してしまい、呪いの念が自分に返ってきて死んでしまったんだろうと。

他のメンバーも半信半疑だったが事実、Aの死は事故にしては不可解過ぎるし、机に刺さっていた濡れた布人形が「これは呪いだ」と物語っていた。

これは教師Mを呪ってみるどころの話ではない。
冗談のつもりが、本当に死者が出てしまったのだから…。


しかしどんな呪いにも決まって共通の『掟』というものがある。

それは『呪いの儀式を中断してはいけない』というものだ。

残された彼らは、戸惑いと恐怖を感じながらも『呪い』を続けることにした。



86: ◆OZummJyEIo :08/21(月) 09:45 bytvoHM8O

二日目…

Mを呪ってみようと言い出し、M抹殺計画実行委員を立ち上げたCが丑の刻参りに行くことになった。

Aの事があったばかりなので他のメンバーであるBとDは行きたがらず、仕方なくCが買って出たのだ。

いっそ呪いをやめるようとも考えてみたが、呪いをやめて自分達にも呪いが返ってきて全員死んでしまう可能性も否定できなかった。


そして深夜2時―

失敗さえしなければ大丈夫だ…
そう自分に言い聞かせ、新しく用意した布人形とスペアのMの毛髪を持ち、Aが行った夜の神社へ向かった。

Aと同じようにM人形を神木に釘で打ちつけた。

Aのようになってしまうのではないかという不安を抱えながらも何とか儀式を終えて帰宅した。



102: ◆OZummJyEIo :08/27(日) 00:36 JTueoRwqO

次の日…


Cが気にかかったBとDは少し早めに登校した。
Cに連絡を取ろうかと思ったが何故か電話をかける気にはならなかったのだ。

ほぼ同時に学校へ着く二人。
互いにCの事を話しながら教室に向かった。

今度はCの机に人形が打ちつけられているんじゃないのか?

そんな事を考えながら教室の戸を開いた。












>あった。




人形は、Cの机にしっかりと打ちつけられていた。

しかも今度は火をつけたのか黒こげになっている。




Cは焼死したんじゃないかと頭をよぎった。



103: ◆OZummJyEIo :08/27(日) 00:46 JTueoRwqO

CはAと同じように呪いに失敗して死んでしまったのだろうか?

二人はひとすじの光を信じて待った。

10分…20分…

次第に生徒が登校し、クラスは賑わってきた。
案の定その賑わいの的となったのはCの机の為だが…

あと5分程で教室へ先生が来る。
Cがどうなったのかは学校の教師なら連絡が来るだろう。


教師が来れば全てを知ることになる…CもAのようになってしまったという現実に目を向けたくはなかった。




>ガタン




教室の戸を開ける音が聞こえた。



106: ◆OZummJyEIo :08/27(日) 07:30 JTueoRwqO

一同は思わず開いた扉の方を見た。

………………







Cだ。

Cがいつものようににこやかに教室に入ってきた。

Cは死んでなかったのだ。

しかし腕には包帯が巻かれていた。

BとDはほっと一息ついたものの、Cの腕が気になり問いかけてみた。

どうやら昨晩Dの家が火事になったらしい。
幸いぼや騒ぎ程度で済んだが、Cは腕に火傷を負ってしまった。

そう、Aと同じようにCも人形のようになってしまうところだったのだ。

Cは自分の机に刺さってる焼けた布人形を見て気味悪がったが、命に別状はなかったため、胸をなで下ろした。

しかしこのままではさすがにまずい。
机に刺さった布人形はいたずらにしては過ぎている。

BとCとDは担任に相談するかどうか考えた。

しかし相談するということは自分達がM教諭を呪おうとした事まで話さなければいけない。

そう思うと話す事はできなかった。


仕方なくその日は解散する事にした。

呪いを続行するかどうか迷ったが、Aへの餞(はなむけ)と自分達の身の為に続けることにした。

何よりCの身にも災いが降りかかったものの、命までは奪われなかった事に安心していたからだ。



>しかしそれが甘かった。



107: ◆OZummJyEIo :08/27(日) 07:54 JTueoRwqO

その日の呪いはBが行う事になっていた。

あらかじめ用意していた布人形のスペアとMの毛。

そして深夜2時をまわり、儀式を行った。


Bにはもともと霊感のようなものがあった。
幼い頃には死んだ人間の姿が見えたりしていたが、歳をとるにつれ見えなくなった。

しかし気配くらいは感じることができる。






今も、視線を感じている。
神木に釘を打ちつけている時、背中から嘗め回すような粘着質な視線が浴びせられていた。





>『いる』………













117: ◆OZummJyEIo :08/31(木) 01:22 Xr+daPr4O

明らかに気配がする。

できれば関わりたくない。
気配を無視し、そのまま家に帰ろうと足を進める。

するとふいに






>コン





音に気を取られ後ろを振り向いてしまった。



……誰もいない。


安心しため息をつく。

きっと気のせいだったんだ。
Aの事で過剰な恐怖心とストレスが重なりいもしないものがいるように感じてしまったのだろう。

「これで3日目、あと4日か…」

一人つぶやき帰路にあっ















一瞬だけ目に映った後意識が途切れ、何も考えられなくなった。





次の日、学校では彼が死んだ事が伝えられた。

死体は四肢が切断され、同じく四肢が切断された人形が例のように彼の机に打ちつけられていた。



118: ◆OZummJyEIo :08/31(木) 01:38 Xr+daPr4O








Bが死んだ。

臨時の全校集会でその話を聞いた時CとDはあっけにとられていた。

なぜ…?
呪いはまた失敗したのか…?

同じ学校の同じクラスの生徒が短期間で2人も死んだ。

しかも今度は自分自身ではどうしようもない死に方だった。

轢死ではない。
車通りの少ない神社周辺で四肢が切断されるような状況になるような事故は有り得ない。

その事で警察は本格的に捜査に乗り出した。

そして学級閉鎖…

イタズラのつもりでMを呪おうとしたばかりに2人の尊い友を失ったCとD。

あと4日分の呪いの儀式はどうするか…
Mのスペアの髪の毛も残り少ない。


2人は意を決して、警察に真相を話す事に決めた。
信じてもらえるかどうかはわからないが。



119: ◆OZummJyEIo :08/31(木) 01:48 Xr+daPr4O

警察はA、Bと仲の良い生徒に聞き込みを行っていた。

無論CとDの家にも話を聞きに警察が来た。

その時、互いに呪いの事を話した。

Mを呪い殺そうとして儀式を行ったためにAとB死んだんだと。



警察は呪いの事自体ははなから信用する様子はなかった。
実際、現実的に呪いなんてものは存在しないと考えるのは至極当然だ。

しかしCとDの話に興味を示したようだった。

多くは語らなかったが、警察は何かをつかんだようだった。



120: ◆OZummJyEIo :08/31(木) 02:06 Xr+daPr4O

警察はCとDに対し、素直に話したし、反省しているようだから呪いの事は学校側には言わないと約束した。

少々都合が良すぎるような気がしたが、学校側に、特に教師Mに知られると困ることなので助かる事に違いはないので深くは考えない様にした。

CとDは今後の事について話をした。
呪いを続けるべきか、呪いをとりやめても大丈夫なのだろうか?という事だ。

呪いが本当にあるとすれば、中止するのは危険だが続行するのはなお危険だ。

二人の心の中ではもうすでに決まっていたことだが、お互いに口に出し、はっきりと決めた。

呪いの儀式を中止する事に。



130: ◆OZummJyEIo :09/16(土) 02:44 AXOj3oslO

>>120から5日が経過した

結局CとDは死ぬ事はなかった

しかし事態は急展開を迎えた。

M教諭が逮捕されたのだ。



131: ◆OZummJyEIo :09/16(土) 02:58 AXOj3oslO

職員室にあるM教諭の鍵の掛かった机の中からAとBの指紋がべったりついた手袋と、犯行に使われたと思われる凶器が発見された

凶器はのこのようなもので、Bの四肢を切断した時に使ったものらしい。

凶器には血痕が付着しており、DNA鑑定をしたところ、Bの物と一致したそうだ。

M教諭は「私はやってない、私はやってない」とブツブツ呟きながら警察に連行されていった。


後々、CとDの家に聞き込みに来た時と同じ刑事がやってきて、事件は解決したという事を伝えられた。

CとDはその日の夜、あの神社に行く事にした。

自分達のせいでAとBが犠牲になってしまった事を謝り、彼らに弔いをしようと思ったのだ。



132: ◆OZummJyEIo :09/16(土) 03:16 AXOj3oslO

神社の呪いを実行した神木の前に立ち、話をするCとD。

「Mはもしかしたら、俺達が自分を呪おうとしているのに気付いていて、その仕返しとしてAとBを殺そうとしたのかもな」

Dが言った。

Mは曲がりなりにも教師だった。
教師は常に生徒を見ている存在なのだから、実は気づいていたんじゃないか…

少し沈黙が続いた後、俯きながらCは口を開いた。

「何で俺だけ死ななかったんだろうな?」

Dはぽかんとした様子でCの方を見つめている。

確かに呪いを実行しに行ったにも関わらず、Cだけ死ななかった。

家は火事になったものの、




Cは、死ななかった。








Dは気づいてしまった。






Cは俯いた顔を上げ、一言だけ、呟いた。











>「俺がやったんだよ」



Dが見た光景…
いや、おそらくはAとBも見たであろう「最期」の光景…


それは満面の笑みを浮かべたCの顔だった。



137: 名無しさん :11/09(木) 07:36 8qlzJqTaO

全てを仕組んでいたのはCだった。


人形を机に打ち付けたのも
M教諭を犯人に仕立て上げたのもー…


犯行の理由は大したことはない。

退屈だったー…ただそれだけだった。

今回の計画は一つの挑戦…ゲームに過ぎなかったのだ。


「呪いなんて存在する訳ないだろ」

CはDの亡骸を見下ろしながら一言呟き、神社を後にしようとした。











「呪いは存在するんだよ、C」

















早朝だというのに神社は人だかりができ、騒がしくなっていた。

Cによって殺されたDの遺体が発見されたからだ。

だが他にももう一体の遺体が発見された…それは神木に磔(はりつけ)にされたCだった。



そして同日刑務所内でM教諭の自殺体も発見された。

奇妙な事にCとM、どちらも死亡推定時刻は2時だった。

そしてMは刑務所の壁に遺書ととれる一文を遺していた。

ただ一言だけ…



>「呪ってやる」


と…


偶然かそうでないのかは最早誰にも判らない。



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