都市に潜む百夜談

2: ◆OZummJyEIo :08/06(日) 17:43 EIMX0tPBO

『目の化け物』


都会から離れたとある田舎の中学校にTという少年がいた。

Tは成績は良かったがあまり社交的ではなく、なかなかクラスに馴染めなかった。

それが災いしたのかいつからかクラスで浮いた存在となり、イジメにまで発展してしまった。

靴隠し…
机や教科書への落書き…
クラス全員からの徹底無視…
そしてイジメグループからの暴行…

しかしそれでもTは学校に通い続けた。イジメに屈するのが嫌だったのだろう。

しかし、ある夏の日、あってはならない事件が起きてしまった。



3: ◆OZummJyEIo :08/06(日) 18:09 EIMX0tPBO

金曜日の放課後、イジメグループがTを体育館にある普段使われていない空き部屋に連れ出し集団リンチ…そしてそのまま部屋に閉じ込めてしまったのだ。

その部屋は狭く窓もないので、真夏の暑さで部屋の温度は殺人的だった。

結局Tは次の日の朝を迎える前に息を引き取った。

人一人が死んだ重大な事件だったが、学校側も大事にしたくはなかったため事故てして片付けた。

なによりイジメグループの主犯格となる少年の父親が地方議員だった為に警察に手回しし、事件をうやむやにしたのだった。



4: ◆OZummJyEIo :08/06(日) 18:43 EIMX0tPBO

Tの両親も抗議したが、結局取り合ってもらえずTの家族は町を後にした。

勿論無視をし続けたクラスの生徒もイジメグループ達自身も戸惑いと罪悪感を感じていたが日が経つにつれその感情も薄まり、1ヶ月が経つ頃にはTが死んだ事を面白おかしくネタ話として話されるようになった。

そんなある日、イジメグループの一人であるKが急に不登校になった。

何日も学校に来ないどころか仲のいい自分達にも全く連絡を寄越さないのでイジメグループは心配してKの家を訪ねた。

インターホンを押すと間もなくKの母親が出てきたので、イジメグループはKに会わせて欲しいと頼んだ。

初めは躊躇していたようだがKの部屋に入れてもらえる事になり、階段を登り2階にあるKの部屋の扉を開いたが…





そこにいたKを見たイジメグループは全員ギョッとした。



9: ◆OZummJyEIo :08/07(月) 17:18 V/iTf5skO

そこにいたKは包帯で目が隠れるようにこれでもかという位巻いて部屋の隅にうずくまり、部屋の隙間という隙間には服やタオルなどが詰められていた。

「どうしたっていうんだよK…」

イジメグループの一人が声をかけたがKは何も答えない。


大声を張り上げてみても、体を揺すってみても死んでいるんじゃないかと思う程全く反応がない。

これは尋常じゃない。
Kは悪ガキだったが明るく気さくな奴だった。それが今は見る影もない。

自分達には何も出来ず、ひと先ず帰る事にしたイジメグループ一同。

しかし部屋から出ようとしたその瞬間、重く口を開かなかったKがボソリと一言呟いた。





「目の化け物」



10: ◆OZummJyEIo :08/07(月) 18:57 V/iTf5skO

『目の化け物』―

一瞬イジメグループは我が耳を疑い、そして戦慄した。

目の化け物とはイジメグループが自殺したTにつけたあだ名だった。

生まれつきなのか違うのか、Tは目が大きかった。
外見の特徴から安直なあだ名をつけて馬鹿にするのはイジメの対象にはよくある事。

しかし目の化け物―つまりTは死んだはず。
いや―すでに死んでいるからこそ戦慄を感じたのだ。

それどころか自分達が手に掛けてしまったT―

Tが亡霊となってKに何かをした―

イジメグループは各々同じ結論に行き着いたが言葉には出さなかった。



それから数日が過ぎた頃、今度はMというイジメグループの一人が不登校になった。

Kと同じく何の前触れもなく、急に連絡が途絶えた。

イジメグループは全員で6人。

KとMを抜かした4人は自分達も彼らと同じようになるんじゃないかとビクビクしながら学校生活を過ごしていた。





しかし一人、また一人とイジメグループの仲間がKやMのような状態になってゆき、ついにイジメグループはTいじめの主犯格であるY一人となってしまった。



11: ◆OZummJyEIo :08/07(月) 19:12 V/iTf5skO

あり得ない―

不登校になった者は全員口をそろえて『目の化け物』と言う。

そして自分の目を覆い隠し、部屋に隙間ができないようにしている―

まるで彼らを覗き見る『目の化け物』を見ぬようにしているかのように…




Yはこれは偶然だと心の中で言い聞かせた。

しかし自分達だけ―Tをイジメていた自分達だけがこんな事になるなんて偶然にしては出来すぎている。

次は自分の元に来る―もしかしたら今日来るかもしれないという不安を抱えながら生活を送った。

しかし1週間、1ヶ月と過ぎたがYの身には何も起きなかった。



13: ◆OZummJyEIo :08/08(火) 00:37 mjcZpn53O

一体どれ程の日にちが経過しただろうか…

Yが、自殺したTの事や廃人になった他のメンバーの事ももうすっかり忘れかけたある日…

学校で授業が終わり、帰宅しようとした時ふとTの事を思い出した。

Tは体育館の狭い部屋で死んだ…

思い出したくない事だったがどうしても胸につっかえてるものが気になり、Yは事件が起きた部屋に向かっていた。

今思うと本当に馬鹿な事をしてしまったと思っている。
特に迷惑をかけられたわけでもないのに、半ば理不尽にイジメて殺してしまったこと…

Yは一言あやまろうとしていた。

体育館の小部屋に入るとそこは薄暗く、埃っぽくて、秋口だというのにやけに蒸し暑かった。

真夏の猛暑の中はもっと暑かっただろう―
そう思うとYに懺悔の気持ちがこみ上げてきた。



14: ◆OZummJyEIo :08/08(火) 00:48 mjcZpn53O

Yは暫く黙祷をした後、帰宅しようと小部屋から出ようとした。

しかし…
ドアが開かない…

まずい。誰かが鍵をかけてしまったのだろうか。

しかしこの部屋の出口は入って来た時の扉しかない。

窓さえもないのだから。


Yはテレビでキーピックを使ってドアの鍵を空けるシーンを思い出した。

プリントを挟めるためのクリップがあったので、それを針金として代用した。

鍵穴に棒状に伸ばしたクリップを差し込んだ。

しかしいくら差し込もうとしても、何かにつかえて奥に入らない。

何かつまってるのか?

そう思い、Yは鍵穴をのぞき込んだ。











鍵穴からこちら覗く、何者かと目と目が合った。



15: ◆OZummJyEIo :08/08(火) 01:00 mjcZpn53O

?












Yはふと目が覚めた。
気がつくと小部屋のマットの上で横たわっていた。

自分が気を失ってしまった事が判り、すぐに起き上がり、部屋から出ようと再びドアに向かった。

さっきの覗いていた目は何だったのか?
ただの幻か夢か…

集団ヒステリーになると恐怖心が過剰になり、見えないものが見えてしまう事はよくある事らしい。

Yは自分もそうなんだと言い聞かた。

部屋から出ようとドアに手をかける。

すると鍵はかかっておらず、すんなりとノブが回った。

何だ…やはり鍵がかかってるのも、鍵穴から覗いていた目も夢だったんだ―

そう思い、ドアを開けた。













挿し絵を見る













その後、Yを見かけた者は誰もいない。












戻る