('A`)ドクオは棺桶売りのようです
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:15:35.01 ID:Z51yEtSv0
- ⊂('A`⊂⌒`つ
「いえ、結構です」
今日、俺が人間とした唯一の会話だ。
缶コーヒーと煙草一箱如きに、袋などいらない。
店員の女の子は正直欲しかったが、金銭的にも自分のビジュアル的にも無理な話だった。
コンビニを出る際に後方から「何で素肌に革ジャンなの?」という声が聞こえた。
放っとけ。俺が聞きたいよ。自分に。
ただブラブラと歩く日曜日。
擦れ違う人間、自動車、声、煙。……それ以外の何か。エクトプラズマー的な何か。
そんな奴らの横顔を覗くのに飽きて、上を向けば既に太陽の姿は無い。
今夜は月がはっきりと見える。
握ったら折れてしまいそうな、華奢な三日月だ。
その色は濁りの無い、黄。周囲の紺碧が余計に引き立たせている。
では逆に、月から見た俺はどうであろうか。
貧弱な腕に脚。握ったら折れてしまいそうな、うん、あれとか。
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:17:34.89 ID:Z51yEtSv0
- そうは言っても月から俺が見えている筈が無い訳で。
距離の問題じゃない。大きさの問題でも無い。
数字で片付けられる理由じゃないんだ。
ほら、俺の悪い癖が出た。
脳内でハードボイルドを気取っていると、周りが見えなくなる。
直進しているつもりが、斜めに逸れていく下手糞な背泳ぎのように、
身体は歩道を抜け出していた。
それに気付いたのは轟音とライトの光。詰まる所、車が迫っているのである。
地を駆けるタイヤの音が、鋼鉄の塊が、風に乗って舞った塵が、俺を貫いた。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:19:10.72 ID:Z51yEtSv0
- 貫かれた。いや、通り抜けた。この表現の方が正しい。
それでも一応、交通事故だ。
車は闇に溶け込むように、縮小されていく。
事実上の轢き逃げだ。
俺、つまり被害者は血を流す事も無く、「ビックリした」と単純な感想を漏らすだけ。
驚いて尻餅をついた。被害を挙げるならこれくらいだが、
痔の疑いがある俺にとっては一大事である。一大事だから事故である。
そういう訳でこの一件は交通事故だ。
と、主張しても声は誰にも届かない。少なくとも一般人には。
虚しい。早く眠りたい。
だから近道して帰ろう。自宅のアパートまでは、一直線に行けば早い。
塀をすり抜け、壁をすり抜け、夕食を取る老夫婦の間を駆け、また壁を抜けて塀を抜け。
それを繰り返し俺は走る。他人の生活に土足で踏み込んで、走る、誰からも気付かれずに。でも透明人間じゃない。そこまで悲しい存在ではない。
俺は生きているけど死んでいる。
死んでいるけど生きている。
ちなみに今は死んでいる事になっている。
これを考えるとキリが無いので、無心に返る事にする。そのまま帰る事にする。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:22:37.79 ID:Z51yEtSv0
- ボクシングの相手を引っ張った。
直後、ありがちな六畳一間に光が灯され、ゴミ溜めのような生活スペースが露わとなる。
生活スペースのようなゴミ溜め、の方が正しいだろうか。
しかし、この際どっちでもいい。
二つが一緒になっている時点で間違いだからだ。
そんな俺の部屋だが、生意気にも大きなベッドがある。
体型が今宵の三日月な俺なら三、四人は横になれるサイズだ。
俺はすぐにでも眠りたかったが、異変を感じられずにはいられなかった。
掛け布団が膨らんでいた。
それだけではない。モゾモゾと蠢いている様が不気味でならない。
心なしか嫌な予感もする。
('A`)「おい、今から俺がそこで寝るんだ。続きはホテルでやってくれ」
その声に反応したのか、女が一人、布団から「ぷはっ」と顔を出した。
その端麗な顔立ちと黒髪を見て、予感は的中したと俺は俯いた。
川 ゚ -゚)「よう、お邪魔していたぞ」
('A`)「現在進行形でしているだろうが。あああ……本当に悪魔だなお前は」
続け様に「何の用だ?」とも質問した。
本当は分かっている。回答は予測できる。それでも聞いた。
川 ゚ -゚)「勿論仕事だ」
予測通り過ぎて、思わず笑った。疲れた笑みだっただろう。
素直に仕事の内容を伺った。そうじゃないと、彼女は退いてくれなさそうだ。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:21:32.48 ID:Z51yEtSv0
第
第一話
話
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:25:18.94 ID:Z51yEtSv0
- 【+ 】
その能力は完璧なものであった。
彼は物心ついた時から感じていた、自分にしかない特別な何か。
人の眼を見つめて、願望を呟くだけ。たったそれだけで、相手は眠ったように瞼を閉じる。
再び開いたかと思えば、最初に口にした願いを、可能な限り叶えてくれる。
催眠術だ。
「戻れ」両手を叩けば目は覚める。
逆にそれさえしなければ相手は永遠に彼の下僕だ。
彼の前では、誰もが操り人形となる。
一歩間違えれば戦争すら引き起こせそうな力だが、神はその辺りをちゃんと考慮している。
温厚、優柔不断、争いごとの苦手な男。それが、彼だ。
(;^ω^)「さ……さあさあ、今から始まるお!
内藤ホライゾン、奇跡の大催眠術ショーだお!」
手作り感いっぱいの赤いステージに立ち、内藤は観客席に精一杯の笑顔を振り撒いた。
自分の生活はお客様に懸かっているのだ。いやでも愛想良くしなければならない。
そう、例え観客席に座っているのが老人三人、幼児二人、犬一匹だけでも、だ。
(;^ω^)(毎度のことだけどトリックの仲間由紀恵を連想してしまうお……)
平日の昼間などこんなものだ。
ましてや、ここは公園。観客の年齢層も妥当だ。
孫を連れて散歩していたら、疲れたので準備されているパイプ椅子に座った。
前方では男が出し物をするらしい。丁度いい、暇だし付き合ってやるか。こんな所だろう。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:28:13.94 ID:Z51yEtSv0
- 事実、老人の一人はすでに居眠りを始めている。まだ術もかけていないのに。
そんな客の無関心ぶりが逆に、緊張していた内藤を落ち着かせた。
(;^ω^)「じゃ、じゃあまず……そこのお嬢ちゃんに協力してもらうお。
悪いけどこっちに上がってきて欲しいお」
指名したのは最前列に座っている、三歳程度の女の子だ。
隣にいるお爺さんは保護者だろう。多少困惑する幼女に、「行ってきなさい」と背中を押す。
しかし「怪しい人についていっちゃいけないってママがいってた」と返した。
これには内藤も凹む。自分は怪しい人なのか、と。
だが、よくよく見れば、上は白の燕尾服、下は黒のブルマ。十分怪しいに値する男だ。
予算削減の為、実家にある物で衣装を揃えたのが、そもそもの間違いである。
それでも奇抜さという点では、内藤はそれなりに気に入っていた。
のんびりとしていて優しい性格の内藤だが、人としてのセンスは絶望的にズレている。
(;^ω^)(あうあう……中々あの娘、上がってきてくれないお)
悲しいくらいgdgdな催眠術ショー。
何度も見てきたが、客の退屈そうな表情が冷たく胸に刺さり、痛い。これには慣れない。
危機感を感じた内藤は、幼女を諦め「どなたか協力してくれる方」と、呼びかけた。
静寂。返事、無し。
いや、犬が少し「アゥ〜ン」と吠えた。五秒後、野生のメス犬がやってきた。
そのまま二匹は行為に及んだ。白昼から見せ付けてくれる。
内藤は自然に涙が零れた。人前でも構わない。普通に、泣いた。
( うω;)「それじゃ、今日のショーは以上にしますお」
何だこれ。ショーじゃねぇ。自分で突っ込みたい。
ただステージの上で泣いただけだ。本当に何だこれ。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:29:04.41 ID:Z51yEtSv0
- 「ちょっと待った!」
観客席から手が挙がった。
見れば、初っ端から眠っていた、あの老人だ。いつ目覚めたのだろうか。
/ ,' 3「私がステージに立っちゃ駄目かね?」
嬉しい誤算とはまさにこのことか。
戸惑う内藤だったが、ここで断る訳も無し。
(;^ω^)「え? あ、ええ!! ももも、勿論おkですお!!」
/ ,' 3「ありがとう」
白髪で、腰の曲がったその老人は、内藤に向かって優しく微笑んだ。
ヨタヨタと危なっかしい足取りでステージへの一段、二段、最後の三段を上がる。
そしてもう一度、内藤に向けて笑顔を見せた。
( ^ω^)「ありがとうございますお。張り切って催眠術をかけますお!」
張り切ってかけるものなのか。
/ ,' 3「いえいえ、こちらも張り切ってかけられますよ」
張り切ってかけられるものなのか。
ともかく内藤は老人を椅子に座らせ、心を落ち着かせるように言った。
そして催眠術が始まる。それと同時に、悲劇はもう動き始めていた。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:30:37.75 ID:Z51yEtSv0
- ( ^ω^)「僕の眼をよく見て下さいお……」
あなたはだんだん……
そんなまじないを呟く必要は無い。
現に老人の瞼は既に塞がっている。もう内藤の術中だ。
あとは思いを言葉にするだけ。それだけ。
( ^ω^)「ひろゆき……お爺さんはひろゆきだお……」
老人は重い瞼をゆっくりと開き、口を動かし始めた。
/ ,' 3「嘘を嘘と見抜けない人には(掲示板を使うのは)難しい」
( ^ω^)「ブラボォ――――――!!!」
本日何度目の静寂だろう。いや、沈黙とも言える。同じか。違うか。どっちでもいい。
だがおかしいじゃないか。確かに術は完璧にかけた。何故盛り上がらないのだ。
幼女「お題のひろゆきがあまりにも微妙だからじゃね?」
核心を突かれた。
人を人にしてどうする。老人を室伏にするのならともかく、変なくちびるオバケじゃ
インパクト不足もいいところだ。
慌てて内藤は、期待に添えるような“お題”を探す。
あるものが内藤の目に止まった。
周りをキョロキョロと見渡す内藤に映ったもの。
というより、先程から視界に入って気持ち悪かったもの。
犬、だ。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:33:36.88 ID:Z51yEtSv0
- ( ^ω^)(ワンちゃんなら幼児にもシルバー世代にも喜ばれるかお?……?)
しかし自分を思ってわざわざ協力してくれる方に対し、犬というのは何か失礼な気が
しないでもない。だが何をするにしても器用じゃない内藤にはそれしか選択肢がなかった。
悩む。悩んでいる時間が勿体無い。でも悩む。が、「あなたは犬だお」言ってしまった。
/ ,' 3「アウ……? アォォォン!!」
老いた背筋をピンと伸ばし、甲高い遠吠えを響かせる。その姿、犬の如し。
この変貌振りには観客も先程と違う反応を見せた。
そうは言っても、うおおおおおおお。そんな野太い声はこの客層を見る限り出ないだろう。
代わりにささやかな拍手が飛ぶ。それでも内藤は少し幸せになった。
その後も老人は四足歩行で走り回ったり、ハッハッハ、と犬特有の息遣いをした。
幼児が「わんわんだわんわんwww」と喜ぶ。
こればかりは老人に悪い気がした。術が解けても純粋な子供は老人を犬だと思い込み、
遭う度にコイツは犬だと言いかねない。最後に補足として厳重注意をしておこうと思った。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:34:16.57 ID:Z51yEtSv0
- そこそこ盛り上がったショーも終盤に近づく。
( ^ω^)「僕が両手を叩いたら、お爺さんは元に戻りますお。
もう犬じゃなくなるのであしからず。では……」
両手を叩く構えをした、その時はもう遅かった。
地響き、揺れるステージ。飛び掛る犬、もとい老人。
/ ,' 3「バウバウ!」
(メメ゚ω゚)「あだだだだ!! 入れ歯飛んできたwwwwwwwww」
後方から駆けて来るのは野犬の大群だ。すぐに思いついたのは遠吠え。
あれが援軍を呼び寄せたというのか。/(^o^)\ナンテコッタイ
手を叩く暇も与えず、犬(老人)は内藤を攻撃し続けた。
もう止めて! 内藤のライフは0よ! 客席からはそんな声が響いた。
だが、それに耳を傾ける事も無く、老人は大群を引き連れて内藤から離れていく。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:34:55.50 ID:Z51yEtSv0
- (;^ω^)「ま、待ってくれお!」
ペタペタと情けない音を立て、一歩二歩と足を交互に運んでいく。
誰が何と言おうと全力疾走である。
100m23秒、これも彼が高校時代、陸上部で鍛えた賜物だ。
追いつけない。
分かってはいるが、老人の催眠術を解かない訳にもいかない。
畜生。何度心の中で叫んだか。
ヨボヨボの爺さんが犬の脚力を手に入れた。それに成す術が無い自分。
そんな事を考えてばかりで、周りが全く見えていなかった。
前を走る犬に集中し過ぎて、周りが全く見えていなかった。
変態的な格好で、息を切らす内藤。
周囲からの、槍のような視線が突き刺さる。
何時の間にか人だらけ。何時の間にか街の中だ。
そして何時の間にか老人を見失っている。絶望だ。
内藤は思う。ああ自分の悪い癖が出た。
ひとつの事に集中すると、周りが見えなくなる。
しかも、その集中していた物事さえ、満足に成し遂げられない始末だ。
この辺りは人も交通量も多い。人間、車、事故、人間、老人、犬、車。
それらのワードが組み合わさって、これから起こる様々なケースが脳裏を過ぎる。
すいません、お爺さん。
その謝罪すら、悲鳴に掻き消された。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:35:47.50 ID:Z51yEtSv0
ゴシャ
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:36:33.07 ID:Z51yEtSv0
世界が真っ赤だ。
いや、そんなに赤くないや。
赤いのはシャア専用だけで十分だ。
ならばこの風景はなんて例えよう。
殺風景か。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:37:37.40 ID:Z51yEtSv0
- 全てが笑い声に聞こえた。
鳥の鳴き声が。
風の吹く音が。
人の笑い、泣き、怒鳴り、声が。
全て夜の笑い声に聞こえた。
(;^ω^)「何で僕はこんな所に立って――――……」
何の変哲も無い道端、な訳が無い。
この交差点は鮮明に記憶している。
(;^ω^)「爺さんを追いかけて、気付いたらここで、記憶が飛んで、気付いたらここで
…………ん? あれれ〜?」
ないとうはこんらんしている!
ないとうはきみょうなおどりをおどった!
しかしなにもおこらない!
何がなんだかわけわかめで、ただただくるくるその場をうろうろするしかない内藤。
前方からはDQN風の兄ちゃん集団がやってくる。
彼らは相当骨が脆く、衝突しただけで肩がポッキリ折れてしまう可哀相な人達だ。
そのため、触れようものなら治療費を請求される。
内藤のような貧弱男は特に、細心の注意を払わなければならない。
それにも関わらず、状況が理解出来ない内藤の肩は、
兄ちゃんの肩とぶつかる寸前までに接近していた。
(;^ω^)「あっ! ごめんなさ……」
気付いた。ぶつかる前に謝る謝罪のプロ、内藤。いいぞー、かっこいいぞー。
しかし遅い。もう二人の肩は触れて――――――――
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:38:13.86 ID:Z51yEtSv0
- (;゚ω゚)「…………?」
何が起きた。何も起きなかったのか。だとすれば尚更、何が起きた。
内藤の膝が折れ、その場で弱々しく崩れた。
後方からはDQNの下品な笑い声が聞こえる。
(;゚ω゚)「今……触れて……?」
無い。
この世界には自分の存在が無いんだ。
その証拠に、今度は太り気味のマダムが内藤を“通過”した。
次は塾帰りの子供が。
次はオタクの集団が。
外人が、自転車が、虫が。
全てが。
(;゚ω゚)「僕を……」
内藤を。
(;゚ω゚)「すり抜けて……」
いないものと。
(;゚ω゚)「なんで……?」
何故。
川 ゚ -゚)「おい、そこのアザラシ顔」
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:41:41.18 ID:Z51yEtSv0
アザラシ顔。
またも背中から聞こえてきた。
しかし先程までのDQNの腐った声ではない。
それこそ透き通るような、大人の女性の声であった。
(;^ω^)(でもアザラシみたいな顔の人間なんているワケないおw)
目の前のショーウィンドウに内藤の姿は映っていなかった。
川 ゚ -゚)「お前だ、お前」
後頭部を軽く小突かれた。
触れられる、という感覚が麻痺しかけていた内藤は、ビクリと震え、慌てて振り返った。
そして驚愕。
自分よりやや身長のある女性。声の主だ。
彼女は真っ白の小袖に赤い袴をを履いていた。パッと見て巫女だと認識する。
ただ、その袴が異様に短い。ミニスカだ。ミニスカ巫女である。
更に腰に下げられた日本刀と、それに負けないくらいの鋭い眼光が内藤を威圧した。
(;^ω^)「あ、あな……た、は……?」
上手く言葉が出てこない。全てがいきなり過ぎた。
内藤の脳細胞が展開についていけない。
川 ゚ -゚)「私は誰かって? 誰に見える?」
しらねーよ。だから声を振り絞って聞いているんだろうが。そう言ってやりたい。
温厚な内藤と言えど、意味不明な流れに苛立ちを覚えつつあった。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:42:32.61 ID:Z51yEtSv0
- 川 ゚ -゚)「単刀直入に言おう。君は交通事故で死んだ」
( ^ω^)「…………はい」
川#゚ -゚)「驚けよ!!」
ビースト→ボーン→ブラッドのB×B×B(ビーキュービック)が炸裂した。
内藤は白目を向いて倒れる。謎の巫女は満足そうに少し微笑んだ。
それから内藤が復活するまで約三十分が経った。
夜空には三日月が浮いている。それが綺麗だと感じる余裕が彼には無かったが。
(;^ω^)「懐かしい技をかけないで下さいお……僕はまだ天馬を習得してませんお」
川 ゚ -゚)「それは失礼した。お前が見た目より冷静だったからつい……スマン」
申し訳ない、という素振りをちっとも見せずに巫女は謝罪の言葉を並べた。
そんな彼女は何者か。内藤はまず、それを知る必要があった。
( ^ω^)「誰に見えるって言ってましたけど……巫女さんですかお?」
川 ゚ -゚)「巫女は私の生前の姿さ。今は便宜上、この格好をしているだけだ。
で、巫女じゃなかったらアンタは誰だって話だな。
分かりやすく言えばお前を始末する者だ。ご愁傷様」
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:43:11.09 ID:Z51yEtSv0
- 突っ込みたい事だらけだった。
自分は死んだ。これにはそれほどショックを受けなかった。
それ以上に悔しい事を、生きていた世界に置いてきてしまったからである。
そして死者である自分を、更に葬るために彼女はいると言う。
ゴーストバスターか何かか。自分は悪霊なのか。内藤のパニックは限界を通り越す。
死んで初めて死にたくないと思った。
だが無情にも抜かれる、日本刀。逃げろと心で叫んでも、身体は硬直を解けなかった。
迫る刀、この時ばかりはスローモーションのように感じた。
これが本当に最後の風景だと、惨めな幕引きだと、人生の終点を噛み締めて見つめる。
刃は止まった。内藤の目の前で確かに止まった。
冷や汗すら出ない。全身で寒気をいつまでも感じていた。
川 ゚ -゚)「お前は運が良い。良すぎる。“他の奴ら”だったら間違いなく、今死んでいたぞ。
まぁ本来ならば、それが正しい『棺桶売り』のあり方だがな」
(;^ω^)「棺桶売り……?」
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:45:46.17 ID:Z51yEtSv0
- 川 ゚ -゚)「……人は死ぬと、身体という殻を抜け、魂は天国へ昇っていく。
そこで来世の手続きを済ませ、次の人生へと、またこの世に戻ってくる。
だが、何故お前はここにいると思う? 身体はとっくに処分されているから、
今のお前は魂そのものだ。
その魂がどうして天国に逝けず、現世に留まっていると思う?」
突然そんな質問を投げかけられて、パッと答えられる筈が無い。
しかし内藤は恐る恐る、自分の思った回答を口にした。
(;^ω^)「現世への未練……?」
川 ゚ -゚)「半分正解だ。お前は車に轢かれる直前まで、何かで頭がいっぱいで、
今もそれを気にかけている。違うか?」
催眠術により犬と化した老人。
傍から見れば笑い話で済むが、内藤にとっては十字架を背負っている様。
温厚故に内藤は脆かった。昔から変わらない。
花壇の花を誤って踏みつけ、茎を折ってしまっただけで、その夜は罪悪感で眠れなかった。
虫一匹殺せない、そんな少年であった内藤。
「ま、どうでもいいや」「無かったことにしよう」
そういった考え方が出来ないのである。はっきりいって、馬鹿だ。
世間はそういう人間を受け入れない。
何事も割り切れる器用さと、強い精神を持った人間こそ社会では使える人間なのだ。
だからどんな仕事も一週間続かなかった。
あまりにも神経質になり過ぎる男に、就職など夢のまた夢。
そのため生まれながらの能力である催眠術で食べていくことにした。違う、そうならざるを得なかった。案の定、内気な性格も祟り、ショーが繁盛する事は無かった。
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:46:27.85 ID:Z51yEtSv0
- 川 ゚ -゚)「もう半分の原因は、超能力」
(;^ω^)「!!」
胸を抉られるような感覚に陥った。
川 ゚ -゚)「その奇妙な能力が、天国に逝く際にバグを起こす。
身体は死んでも、魂が正しく死んでくれないケースがある。
強い未練を残して死んだ超能力者は、ほぼ100%、現世に魂のみが残ると
言われている。ホント呆れる話だな。お前がどんな超能力者かは知らんが」
巫女は頭を掻き毟った。腰まで伸びた黒髪が揺れる。
同様に、内藤の心も尋常じゃないほど揺さぶられていた。
(;^ω^)「じゃあ僕はずっとこのまま……?」
川 ゚ -゚)「違う、そのために私……いや、我々『棺桶売り』がいる」
(;^ω^)「kwsk」
川 ゚ -゚)「簡単な話だ」
巫女は手を地にかざすと、一秒も経たない内に、白い煙と漆黒の棺桶が現れた。
大きさはニメートル程だろうか、人一人は軽く入る大きさだ。
不気味さが漂うが、近くで見るとシールがペタペタと張られていた。女子高生か。
川 ゚ -゚)「コイツにお前のような魂君をブチ込むだけ。私の合図で浄化し、
対象者は天国へ――――Go.だ。シンプルだろう?」
- 43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:48:01.63 ID:Z51yEtSv0
- (;^ω^)「でもさっき、始末するとかなんちゃらって……?」
川 ゚ -゚)「棺桶売りの面々は面倒臭がりでな。いちいち私のように、
優しく説明してくれる奴らばかりじゃない。大体の奴らは力づくで
魂を捻じ伏せて無理矢理棺桶に入れて強制送還だ」
(;^ω^)「捻じ伏せるって……抵抗する魂とかいるんですかお?」
川 ゚ -゚)「言ったろう? 未練タラタラの魂諸君は黙って逝ってくれる奴らばかりじゃない。
それに超能力者というのが最も厄介なんだ。
現世で使う超能力など、所詮本来の一割程度しかパワーを発揮できない。
それは肉体という殻がリミッターとなり、極力能力を抑えているからだ」
しかし、と巫女は続ける。
川 ゚ -゚)「肉体が無くなり、魂だけとなった時、超能力者は全開の力を発揮出来る。
それこそ、鍛えぬかれた棺桶売りすら手を焼くほどだ。
そういう訳で実力行使が当たり前となった、それだけだ」
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:50:45.48 ID:Z51yEtSv0
- (;^ω^)「じゃあ、僕の場合なんなんですお?
アナタは何で僕を無理矢理棺桶に押し込むような真似はしないんですお?」
川 ゚ -゚)「未練を解消させてあげたいからだ。
私の前に現れた彷徨える魂は皆、拾ってやる」
(;^ω^)「え? こっち側の人(?)は現世の人には触れる事すら出来ないかと……」
川 ゚ -゚)「確かにそうだ。私がやるのでは無い。私は純粋なこっち側の人(?)だしな」
巫女は付いて来い、と棺桶に巻きついた鎖を引っ張った。
後を追うように内藤が歩き出す。
地に足はついている。こんなにも、しっかりと踏み締めているのに。
足跡が残らない。
少しだけ、視界が滲んだ。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:52:10.74 ID:Z51yEtSv0
- ⊂('A`⊂⌒`つ
('A`)「それでダイジェスト終了か、クー」
川 ゚ -゚)「ふんっ、まあな」
何故お前がそんなに偉そうなんだクソ巫女。
そもそも今の流れから、何故ベッドでモッサモッサしてたのか結びつかない。
川 ゚ -゚)「可哀相に、この男は貞操という重荷を抱えたまま死んだのだ。
あまりにも不憫だったので私がぱふぱふさせてやろうと……」
(;^ω^)「あうあう……そういう事なんですお……」
布団の中からもう一匹登場した。
彼が悲劇の主人公、内藤君らしい。
失礼だが、下手糞な漫画に登場しそうな顔をしている。
独特の口元は、確かにアザラシを連想させた。
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:53:37.51 ID:Z51yEtSv0
- ( ^ω^)「僕が獣化させてしまったお爺さんを元に戻さないと、
僕は納得して逝けませんお……
そして出来るなら……お爺さんに一言、謝りたいんですお……」
('A`)「馬鹿馬鹿しい。俺抜きだってなんとかなるだろ」
弱々しい声が俺を苛立たせた。
一呼吸置く意味も込め、煙草を咥える。
('A`)「俺だって暇じゃない。明日からまた仕事に行かなくちゃならないんだ。
分かったら退いてくれ。一本吸ったらもう寝るから」
川 ゚ -゚)「仕事か、コンビニ店員(平日朝九時〜夕方五時)が偉そうに……」
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:54:34.30 ID:Z51yEtSv0
- ('A`)「悪かったなコノヤロウ、遅刻すると朝からやってるババアがうるせーんだよ。
何でバイトのババア(特に四十代後半)って、あんなに五月蝿いんだ?
自分のミスは笑って誤魔化すクセに、他人(特に俺)に対しては
ボロクソに言いやがる。加齢臭染み出てる分際で、俺をゴミ扱いするし、
知り合いが来ると、レジすっぽかして世間話するし、
その途中で俺が『レジおねがいしまーす』って呼ぶと、メッチャ不機嫌な顔して
俺を睨みつける上に、舌打ちしやがる……何様なんだよ。
無言で外に出てタバコ(ピアニッシモペシェメンソールワン)吸うし、
携帯電話はマナーモードにしねぇし、店内で普通に通話してるし、
頭悪いとしか言い様がねぇよクソババアが、マジで誰かアイツ火炙りにしてよ。
清掃関係は俺に押し付けて、終わったと報告したら、どこが終わったのよと
ケチつけまくるし、最悪ウンコガルガンチュアだよ奴は。
オーナーと同僚が来て、ババアが帰る十二時までの三時間を、
俺はデーモンズ・ダーク・タイムと呼称している。
ぶっちゃけ辞めたいけど、ここで諦めたらババアに負ける気がしてならない。
だから俺は明日からまた一週間、悪魔との戦いに挑まなきゃならん……
そのためにも、犬になった爺さんの捜索なんてしてる暇なんざ無いんだよ」
川 ゚ -゚)「……そうか、お前がそう言うんじゃ無理だ」
よいしょ、と重い腰を上げ、巫女・クーが立ち上がった。
変わらぬ無表情は、もう見飽きている。
浅い溜息を吐くと、クーは視線を俺から内藤さんに移した。
川 う-゚)「残念だ、内藤。強制送還だ。気紛れなコイツは意見を変えないだろう。
うう……すまない。希望が消えた以上、お前の願いは叶わない」
(;^ω^)「ちょwwwwwwwww」
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:57:26.47 ID:Z51yEtSv0
- 川 ゚ -゚)「恨むのなら、そこの煙草咥えた童貞を恨め」
('A`) y━・~~~「ハードボイル童貞だ」
川 ゚ -゚)「それカッコイイと思ってるのか? 精神科池」
(#'A`) y━「んなっ……お前、偏見だ偏見! 童貞=カッコ悪い なんて誰が決めた事だ!?
キリストだって童貞だろ!? 多分だけど! 間違ってたらごめんね!!
それに俺はできないんじゃない! しないんだ!」
川#゚ -゚)「そういう台詞は、イケメンにだけ許されるんだ!
鏡を見ろお前は! “松崎しげる×うんこ”のような顔をしているぞ!」
(#'A`) y≡━「なぜだろう! マイナス同士なのにプラスになりそうもないのは!!」
川 ゚ -゚)「やーいやーい、お前の母ちゃん、淫乱霊能力者!!」
(((#'A`))) yyy「か、カーチャンの悪口を言うな――――!!!」
平手打ちは、見事にクーの頬を透き通った。
霊が人間に触れられないのと同じ、人間も霊と接触は出来ない。
('A`)「あ、俺今人間だっけ?」
たまに自分が生きているのか、死んでいるのか、それすら忘れてしまう時がある。
確認をするために、壁や、何らかの物体に己を触れさせる瞬間。これが中々虚しい。
川 ゚ -゚)「この通り、この男は「霊の状態」と「人間の状態」を使い分ける、
非常に奇妙な生命体なんだ……って、おい? 内藤?」
- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 01:59:04.36 ID:Z51yEtSv0
- ('A`)「ああ……たった今、窓抜けて脱出したぞ」
俺は夜に塗り潰された、真っ黒な窓を指差して言った。
慌てたクーは、膨れて「何故教えない」と睨んだが、
危害を加えられる心配が無い俺は「関係ないから」と、軽く流した。
川;゚ -゚)「ば、ばっかもーん! ドーバー海峡横断しろ!!」
理解し難い捨て台詞を吐いて巫女もまた闇に消えていく。パンツ見えた。
これで平穏な睡眠時間が訪れる。そう安堵してベッドに横たわった。
瞼が塞がれ、そのまま夢の世界へと一直線。
仕事を押し付ける、ババア。
責任を押し付ける、ババア。
きたねぇ尻を押し付ける、ババア。
('A`)「多分うなされてたな……」
ババアよ、夢に出てきてまで俺を苦しめたいのか。
現在午前五時半。早過ぎる。
七時にアラームが鳴る予定だった、目覚まし時計の仕事すら奪ったババア。鬼だ。
朝の日差しが、半分閉じかけている目を刺激する。
聞こえる、眼球の声が。まだ休ませろと叫んでいる。
すまない、お前はもう勤務時間だ。これで日給が目薬一滴とかやってられないよな。
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:02:53.72 ID:Z51yEtSv0
- ( ^ω^)『僕が獣化させてしまったお爺さんを元に戻さないと、
僕は納得して逝けませんお……
そして出来るなら……お爺さんに一言、謝りたいんですお……』
不意に甦る内藤さんの言葉。
俺は振り払うように告げる。
('A`)「ハッ、知るかよ」
総理だって言っていたじゃないか、今年の一文字は責任だって。
自分で尻を拭えないなら、松崎しげるなんて、間違えた、うんこなんてするんじゃない。
('A`)「ああいう顔は見たくねぇってのに……くそ」
いつもは七時に起床するので、それまで一時間半の余裕がある。
目も冴えてしまった今、二度寝する気分でもない。
暇だ。喫煙で粘ろうか。いや、もっと有意義に時間を使おう。
- 60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:04:26.35 ID:Z51yEtSv0
- ('A`)「だから俺はカブト虫を捕まえに行くんだからな!!
別に爺さんなんて探すつもりなんてこれっぽっちも無いもんね!!
俺はただの虫取りの少年だもんね!!」
住宅街から少し歩いた場所にある、小さな雑木林。
その入り口で俺は仁王立ちしていた。
耳を隠す髪が、早朝の風に吹かれて靡く。
川 ゚ -゚)「虫篭も虫網も持たず、素肌で皮ジャンの虫取り少年なんて、
主人公も絶対にバトルを仕掛けず避けて歩くな」
そんな俺の後ろ、真上から見たら南西に当たる地点に立つクー。
彼女の長い黒髪も、風の流れに逆らう事無く揺られている。
('A`)「えぇぇえい!! 黙りゃんせい!!
だいたいたい……お前っ、内藤さんはどうしたんだよ!!
入棺で強制送還したのか!? はははwwww血も涙も無い棺桶売りめ!
いや、お前なんてカマボコだ、カマボコ!!」
川 ゚ -゚)「内藤は完全に見失った。他の奴がやっちゃったかもな。
まぁその辺でうろついている可能性の方が高いか」
('A`)「ま、俺には断じて関係の無い話だ!
それよりカブト虫の話しようぜ! 雑木林って老人が好みそうだよな!(?)
いやー、昆虫採集は老人の知恵がいるからなぁー(??)
よし、この辺りに犬みたいな老人がいなかったか聞き込みしよぅーっと(???)」
自分でも何言ってんだか分からなくなってきました。
呆れるクーの顔は、昨夜よりは優しく感じるが、気にする事でもない。
- 62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:08:08.26 ID:Z51yEtSv0
- 生身の人間から情報を得る。
これが俺に出来て、クーに、霊に出来ない事だ。
催眠術師さえも。
殻を破り、百パーセントの力を得た所で、人間の生きる世界に及ぼせる影響は、
極小と見ていいだろう。
川 ゚ -゚)「それは違うな」
人の思念に突っ込むか。
('A`)「いや実際そうだろうが。お前も普通の人間と関わりが持てるのか?
それじゃ俺の存在意義というか……なんかこう……物語が終わるような……」
川 ゚ -゚)「そこじゃない、催眠術師……いやそれに限らず、だ。
こっちの世界の者が人間界に与える影響が、そんなものと思っているのか?」
ざわ、ざわ。
風が葉を揺らし、音が奏でられ、それが耳に届き、俺は心地良いと思う。
そして、次に運ばれてくるのはクーの声だった。
川 ゚ -゚)「風呂の栓がいつのまにか抜けていた。
テレビが何時の間にか消えていた。
パソコンの電源が付けっ放しだった。
気付いたら人を刺していた。これら全部、“こっち”のエスパーが、
人間界に及ぼす影響だ。下らない事から大事件まで、まさしくそれだ。
しかし、人は気のせいという言葉で自分を、或いは他人を納得させてしまう。
物事の原因を深く追求しないから、簡単に気のせいに出来るんだ」
('A`)「風呂の栓に原因を追い求める程、現代人は暇じゃねーぞ。
ちなみに俺は、イミフな出来事があると、幼女の妖精が現れた事にしている」
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:10:08.97 ID:Z51yEtSv0
- 川 ゚ -゚)「確かに催眠術師……人様の脳をコントロールすると言えど、
記憶を振り絞らせ、情報を声に変えて語らせるという業は出来ないだろう。
よって、お前の存在価値はある。めっちゃあるから安心しろ。
しかし、及ぼす影響は極小? 違うな、単純な催眠ほど効果は強い。
あの世とこの世の壁を越えて、催眠術を使い、将軍様に核のスイッチを
押させる事は出来るんだぞ?
大量の人間に殺人衝動を駆らせる事も可能だな」
('A`)「それなんて電子ドラッグ?」
しかし、考えただけで身の毛どころか小腸の絨毛もよだつ例え話だが、
こんなにも彼女が淡々と話しているのは、所詮他人事だからだろう。
川 ゚ -゚)「分かったらさっさと情報収集でも何でもして来い」
言葉が背中を押した。
渋々と俺は“犬と化した爺さん”を見かけなかったか尋ねに行った。
……行った……どこに?
('A`)「誰に訊くために、どこに行けばいいんだ?」
川 ゚ -゚)「誰だって良いだろうが、挙動不審が!
お前小学校の作文で『お題は自由』って言われると書けなかったタイプだろ」
なめるな。俺はどんな題だろうと、最初に三文字開けるのか二文字開けるのかで悩んで
三十分は停滞していたわ。あえて口には出さないが。
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:13:24.47 ID:Z51yEtSv0
- 川 ゚ -゚)「じゃあ、そこのベンチで座って人生に絶望している男でいい」
勝手に人の人生を絶望と決め付けるのは如何なものか。
そうは言っても、他に当てが無いので、仕方なく声を掛けてみた。
('A`)「あのスイマセン……」
( ^ω^)「……はい、なんでしょう?」
川 ゚ -゚)「どう見ても内藤です。本当にありがとうございました」
俺とクーの二人組みに気付いた内藤さんは、一気に顔色が変わり、身体を震わせた。
「残念だ、内藤。強制送還だ」
「希望が消えた以上、お前の願いは叶わない」
そういえば、このタイミングで逃げたのだった。
ならば恐れて当然か。脱獄囚も発見された時、こんな表情をするのだろうか。
顔のパーツ、あちこちが引き攣っている。開ききった目からは洪水警報が。
(;゚ω゚)「斬られるんですかお? 僕はそれで真っ二つにされるんですかお!?」
目の前の巫女が悪魔にでも見えるのか、不必要な幻想を抱いては内藤さんは怯える。
川 ゚ -゚)「そうだな……」
クーはゆっくりと刀を抜いた。
構える。どう見ても、これから敵を斬る構えだ。
そしてこの型は、素直二百十三式「薔薇の舞」だ。多分もう二度と出てこない。
まるでバラの棘のように、素早く突き刺し、相手は死ぬ。
この俺も初めて見る。というより、彼女も初めてやる。今思いついたに過ぎないんだ。
一閃、振られる日本刀。飛び散る血飛沫。いや、え? 本当に殺したの?
- 72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:18:32.64 ID:Z51yEtSv0
- (;゚ω゚)「っあ……」
雨のように降り注ぐ、温かい鮮血。
白の燕尾服は、あっという間に殺人現場色に染まり、
内藤さんの安い悲鳴が曇り空に響いた。
川 ゚ -゚)「誰だ?」
刀は確かに、刺さっている。
ベンチの裏側、草木生い茂る、その中に佇んでいた筋肉の塊。
だるそうに立ち上がった男の下腹からは、洪水のように血が流れ出していた。
( ´∀`)「ウゲボォ、ちょ……めがっさいってぇ……
本当、いや、これ……あーマズイわ……」
川 ゚ -゚)「?」
(;´∀`)「登場シーンやり直していいっすか?」
- 76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:22:33.90 ID:Z51yEtSv0
- 筋肉ダルマは正座していた。
鎖に縛られ、黙って正座していた。
何をする気だったかは、これから尋問するつもりだが、
ブリーフ一丁でご苦労なこったである。
しかし、なんだこのシュールを超越した画は。
ブリーフのマッチョは正座していて、
彼を囲むミニスカ巫女と、素肌に革ジャンと、返り血を浴びたブルマの催眠術師。
俺も含め、この四人の中に常識、普通、一般といった定義は存在しないだろう。
そんなものは室伏が遥か彼方に飛ばしていった。アディオス。
川 ゚ -゚)「内藤に何をしようとした?」
('A`)「まさかバックを攻めようと……?」
(;´∀`)「ウホッ、って違う。僕はただのスカウトマンっすよ。
こっちに残留した優秀なエスパーの魂を勧誘しに来たまででヤンス」
- 77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:24:03.28 ID:Z51yEtSv0
- 川 ゚ -゚)「そうでヤンスか、では何の為に……?」
更なる真相を掴むため、クーは自称スカウトマンの顔を覗き込んだ。
俺も内藤さんも、この奇妙な男への興味と疑心は尽きない。
ただ次の言葉を待っていた。
そのため、誰も自分の背中なんて心配していなかった。
だが、確かに感じた気配。
後方、振り向く、男、黒い、スーツ、手、銃口、引き金、俺、動け、走れ、叫べ。
(;'A`)「クー!!」
護れ。
- 80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:27:43.71 ID:Z51yEtSv0
- ( ´∀`)〜
バギューン
川 ゚ -゚)「うわああああー……うーたーれーたー……」
→゚大 (^ω^)「うめぇwwwwwwwww」
銃弾 へ( 'A`)ノ 「言われなくてもスタコラサッサだぜぃ」
≡ ( ┐ノ
/ とてもわかりやすい図
図解
スーツの男にクーが撃たれた。ドクオは自分を護るために逃げた。
(´・ω・`)「いつまでも何をやっている? さっさとターゲットを回収しないか」
黒スーツの紳士は、ネクタイを締め直している。
その後、鼻が気になるのか、ポケットからゴミ屑を取り出して鼻をかみ始めた。
あれは一度使用したティッシュだったのか。
再利用しようと、乾いてカピカピになるまでとっておいたのだろう。
中々地球環境に優しいジェントルメンである。
しかし一度カピカピになったティッシュはシワシワで、あまり面積が広がらない。
その上からまた新たな鼻水がやってくると、包む時にどうしても、鼻水が溢れ出てしまう。
それにより手が汚れる。やはり黒スーツ男もどうしようかと、右手の行き場を無くして、
彷徨っている。ああ、やりやがった。アイツ、ポケットの内側でゴシゴシしたよ。
(;´∀`)「分かっている! しかし鎖がコレ……」
黒スーツは無言で銃口を向け、引き金を引いた。
銃声と共に砕けた金属は、地面に跳ねては転がり、止まる。
ようやく自由を得た筋肉は、うざったい程“動ける事”をアピールした。凄い躍動感。
川 ゚ -゚)「念力の弾丸か……なるほど、効いた」
- 82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:32:04.09 ID:Z51yEtSv0
- ( ´∀`)「この女、棺桶売りじゃね!?
僕が始末しておk? この果てしない筋肉で世界を埋め尽くそう!」
(´・ω・`)「そうだな。送還される前に棺桶売りだけは潰しておけ。
しかし必ず催眠術師だけは回収しろ。それだけは忘れるな。
私は一刻も早くボスを――――――……」
黒スーツは一瞬で俺達の前から「See you again」と姿を消した。
背中越しに自転車の鍵を開ける音と、チャリンチャリンというベルの音が聞こえたが、
奴の尊厳を保っておいてやるか、という親切心もとい憐れみの心が、
俺を振り向かせようとはしなかった。
それより気にするべきなのは目前の敵。
このマッチョ。一応、それなりの強さは秘めているような気がする。
不敵な笑みとパキパキと鳴る関節。この筋肉……本気だ。
視界の片隅に映った自転車を漕ぐスーツの人は、近所のおっさんだと解釈しました。
- 83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:33:53.45 ID:Z51yEtSv0
- 住宅街からやや離れた雑木林の入り口付近。
ボロい家のような小屋のような建物はちらほらとあるが、
早朝ともあって、人の気配は無い。
血で血を洗う戦いが勃発しても、まず問題は無いだろう。
そもそも、霊同士の戦い。スクランブル交差点でやろうと誰にも迷惑はかからないのだが。
(;^ω^)「あう……あう……」
内藤さんは震えて、立ち尽くしている。
マッチョとスーツの目的は不明だが、狙っているのは間違いなく彼なのだ。
絶対に後悔しているはずだ。
我侭言わず、黙って強制送還されていればよかった。
また誰かに迷惑をかけてしまった。そんな事ばかりが頭を支配しているのだろう。
- 85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:36:22.91 ID:Z51yEtSv0
- ('A`)「行こう」
俺は内藤さんの手を握っていた。
男同士だ。気持ち悪いかもしれないが、内藤さんの震えは止まった。
誰が見ている訳でもない。今の俺は霊の状態だしオールオッケーだ。
(;^ω^)「行くって……?」
('A`)「逃亡がてら犬の爺さんを探す。
一応緊急事態なんだ。更なる大事が起こる前に過去の清算は済ませておきたいだろ」
マッチョは実戦経験のあるクーに任せておけばいい。
戦闘で役に立てない俺が出来る事。
そんなの一日一善くらいしかないじゃないか。
マッチョの目、クーしか見ていない。馬鹿だあいつ。馬鹿だ。
- 87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:38:37.72 ID:Z51yEtSv0
- 【+ 】
( ´∀`)「自己紹介しよう。僕はモナー、生前はボディビルダーでエスパーだったんだ。
まぁ今もだけどね。腕力と超能力を重ね揃えている僕は、負けないよ」
川 ゚ -゚)「戯言は来世で言え、しかし貴様らの目的は今、ここで言え」
( ´∀`)「言わなければ?」
川 ゚ -゚)「その自慢の筋肉をミンチにしてやる」
( ´∀`)「言えば?」
川 ゚ -゚)「その自慢の筋肉をミンチにしてやる」
一歩二歩、三歩だけ駆けて刀を抜いた。
胴を真っ二つにするには十分過ぎる間合いだ。
クーの日本刀が、真横に半月を描く。
普通なら、この瞬間で戦いは終わっている。
この先はそれが通じない、非常識な喧嘩。
モナーは遥か上空で彼女を見下ろしていた。
地を跳ねて飛んだのではない。
自身を瞬間的に移動させたのだ。
( ´∀`)「空中で身動きってとれるよね」
神にでもなったつもりなのか、自分の優位を確認したモナーは思わず口元が緩む。
視点を僅かに逸らすと、居場所を離れて走る二人の男がいた。ドクオと内藤である。
( ´∀`)「……ちっ」
- 88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:41:17.12 ID:Z51yEtSv0
- (;'A`)「……で、その爺さんの、と……特徴は?」
後先考えず全力疾走したドクオは、早くも息が切れている。
なんとかペースを安定させようと「ヒッヒッフー」と一定のリズムで呼吸する事を
心掛けたが、それは出産である。
(;^ω^)「白髪で、目が小さくて……常に首を傾げていて……
ぬぬ……それくらいしか思い出せないお」
難しい顔で唸る内藤は前方に集中し切れず、何かに衝突してしまった。
いち早く察知して停止していたドクオは、尻餅をついた内藤に対して「早く逃げろ」と
叫ぶ。しかし、遅い。内藤の腕は既に掴まれていた。
( ´∀`)「僕を差し置いて……男同士でデートですかそうですか」
テレポーテーションを駆使する筋肉の男。
ドクオは自分に戦闘能力が無い事は誰よりも分かっている。
叶うわけが無い。だから吹っ切れた。
- 90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:43:57.31 ID:Z51yEtSv0
- 陽動なら出来る。
マッチョに向けて、というよりは内藤に向かって駆け出した。
そんなドクオを愚かだと見下したモナーの顔は、まさに暗黒面。きもい。
左腕は内藤と繋がっている。当然だが離す訳が無い。
暇を持て余している右腕に、モナーは念を込める。
( ´∀`)「筋肉テレポーテーション」
(;'A`)「ッ!!」
左腕の筋肉が右腕へと移動した。
通常の倍に太さが増した。後は突進するドクオを粉砕するだけ。
いや、力一杯スイングして地平線の彼方へぶっ飛ばすのも面白い。
今年第一号ホームランだ。
小学生のスローボール 対 大リーガーの一振り。例えるならば本当にこうだ。
その大リーガーは空振りに終わった。
当然呆然とする天然のモナー。気付けば忽然とドクオも、内藤も消えていた。
代わりに、目の前に映ったのは刀を構える巫女で――――
川 ゚ -゚)「素直二百十三式「菊の舞」!!(今考えた)」
宙ぶらりんの左腕が、紅色に乗せて吹き飛んだ。
激痛よりも先に走ったショック。
疑問は一つ。どうやってドクオは回避したのか。それだけだ。
- 92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:46:53.96 ID:Z51yEtSv0
- ('A`)「俺は幽霊と人間のハーフだ」
無事に筋肉の呪縛から抜け出した内藤にドクオは言った。
幽霊と人間のハーフ。
全く意味が分からない、という素振りを見せた内藤に、ドクオは少しだけ笑って見せた。
('A`)「能力から説明するなら、人間の世界と幽霊の世界を行き来する事が可能なんだな。
だから筋肉ブリーフの攻撃が当たる瞬間、俺は人間になった。霊界の腕は透き通る。
回避じゃなく攻撃の無視。後は即時に幽霊の状態に戻り、あんたを奪還しただけさ」
あの時、ドクオは「馬鹿め」と心の中でほくそえんだ。
モナーの目。自分だけを見ていた。捕まえた内藤の意識が薄れ、
わざわざ左腕の筋肉を削ぎ落としてくれた。
よって、パワーの吸い取られた左腕から内藤を奪い返すのは容易だった。
('A`)「生きるも死ぬも……全てはタイミングだ」
- 94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:47:39.74 ID:Z51yEtSv0
- (;^ω^)「なんで……そんな身体に?」
お互いスタミナ不足なので、既に歩行モードになっていた。
('A`)「お袋がな……ああ、もう死んじまったけど、霊能力者だったんだ。
その辺に転がっている似非モンじゃなくて、真の霊能力者と呼んでも過言じゃない。
霊との対話、ある程度の……まぁ接触。一応人間に変わりはないんだがな」
道端の石を蹴ろうとしたが、勢いよく空振って転びそうになる。
今は霊の状態だ。現世に存在する物には触れられない。
('A`)「そんなお袋を皆気味悪がって、近づこうともしなかった。
やがて引き篭もり、ニートになった。まだ十代の頃だってのに。
ちなみにお袋も母子家庭で育った。離婚した親父……俺のじじいに当たる人は、
どこで何してんだか知らないが、まぁくたばってる頃かな。
婆ちゃん一人で働きもしないお袋をこの先養える訳が無い。
……そんな心配をする前に婆ちゃんも逝った。
お袋は生きていけなくなり、死ぬ前に子孫だけは残そうと思ったんだろうな。
霊能力で幽霊とセクロス……禁断の愛、そこから生まれたのが俺。笑えるだろ?」
- 98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:50:38.91 ID:Z51yEtSv0
- (;´∀`)「笑えるかボケ……!!」
川 ゚ -゚)「そうだろうな。はっきり言って、霊の天敵だ。アイツは。
動く世界が互いに違うんじゃ、戦いの仕様が無い。
だから私が、貴様なんかよりも早くスカウトしたんだ。はい残念」
切り刻まれ、その場に倒れているモナー。勝敗は明らかだ。
クーの棺桶は、筋肉を上から覆い被せるように落下する。
(;´∀`)「ぐっ!!」
川 ゚ -゚)「来世へのチャンスを与えてやる。せめてもの情け、安らかに逝け、マッチョ」
そして今、棺桶は完全にモナーを飲み込んだ。
と、クーが思ってるに過ぎなかった。
(;´∀`)「大胸筋! ほとばしる大胸筋!」
身体中の筋肉を胸に集め、棺桶の幅では入りきらなくなっている。
モナーも必死だ。その証拠に、身体の他の部位は骨と皮しか残っていない。
川#゚ -゚)「右腕も切り落とすべきだったか……!!」
( ´∀`)「必殺! 瞬間移動! じゃ〜ね〜」
消えていくモナーの顔は、すごくいい笑顔だったそうです……
川#゚ -゚)「……ド畜生。せめて敵の目的を聞くべきだった……」
- 101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:56:11.87 ID:Z51yEtSv0
- どれほど歩き回っただろうか。
最高気温三十度、決して低い気温じゃない。
迷子の魂だろうが半分人間半分幽霊だろうが、気温だけは無視出来ない。
(;^ω^)「あっづー……ですお……ドクオさん、今大体何時頃ですかお?」
木陰で休憩してる途中、不意に内藤が質問した。
確かめるために腕時計に目をやったドクオは、凍った。
('A`)「あれれ〜? 針が一本しか見えないや……」
中心から真上にすぅーっと伸びる長針と短針の陰から、秒針がこんにちは。あら可愛い。
(;'A`)「って十二時だと――――――!!?」
(;^ω^)「ななな……どうかしたんですかお??」
<(;'A`)>「バババ……バイトババババアニマタイヤミヲイワレル……ウアアア!!!」
- 103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 02:58:19.06 ID:Z51yEtSv0
- その悲痛な叫びは、この世の物でもあの世の物でも無い。次元を超越した哀歌だ。
縦に横に斜めに回転しながらドクオは走る走る。
仮に、彼の前に激流が現れても、山賊が立ちはだかっても、乗り越えていくだろう。
なんとか内藤も付いて行く。
前方で狂う男を見失わないように。
今度は、見失わないように。
(;'A`)(十二時だからオーナー来てるな、ババアは帰ってるか!?)
コンビニの前に立つ。
自動ドアは反応を示さない。
当然、今のドクオは幽霊の状態だからだ。
<(;'A`)/「クソッ! めんどくせぇ、ゴーストモード解除、ヒューマンボディオープン!」
そんな掛け声はいらない。
そんなポーズもいらない。
ドアがようやくドクオを人間と認識した。
心地良い冷気が二人を包み、ささやかな幸せが運ばれた。
しかしドクオはそんな感傷に浸っている暇も無く、
息を切らして、レジで立っているオーナーに挨拶をした。
(;'A`)「ぜぇっ、はぁっ、す、スイマセン……遅れました……」
/ ,' 3「……ああ、うん……次から気をつけてね」
( ゚ω゚)
(゚ω゚)彡 クルッ
- 105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 03:00:41.81 ID:Z51yEtSv0
- ( ゚ω゚)「こーこーろーからーーーーきーみーにーつたーえたいー」
(;'A`)(な、何故ルナシーを!?)
/ ,' 3「……どうかしたのかい? 鳳凰寺(ほうおうじ)君」
(;'A`)「あ、いや! はははwwww何でもありませんwwwww
すぐに着替えてくるッスwwwwwwサーセンwwwwwwwwww」
(;^ω^)「ドクオさんっ! この爺さんですお。僕が催眠をかけた人!
なな……何で解けてるのか知らないけど!!
あと、本名『鳳凰寺』って言うの!? 無駄にカッコヨスwwwwwwうぜぇ」
内藤がドクオへアピールを繰り返しても、ドクオは正体を謹んで生きている身。
ここで返事をする事は、自分で自分の首を絞めるようなものだ。
ドクオという人間、多少お人好しな部分があっても、
結局は 自分>>>>(越えられない壁)>>>>他人(他霊?)に変わりは無いのだ。
そそくさと関係者以外立ち入り禁止のスペースに入っていくドクオ。
それを追うように、内藤も扉をすり抜けていった。
中で帰る準備をしていた中年女の顔は厳つい。
白髪混じりの茶髪で、明るい紫のジャケットを羽織っている。
('A`)「……スンマセン」
特に会話を交わすことも無く、おばちゃんは去っていく。
少し肩がぶつかったが、互いに謝る事も無かった。
('A`)「…………シネババア」
- 107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 03:05:07.51 ID:Z51yEtSv0
- 街の外れにある、寂れた廃ビル。
五階建てだが、一階から四階までは、
昼でも暗く、水滴が落ちては羽虫が飛び、ヒビの入った壁に止まる。
まさに廃れたビルの内部である。
しかし五階のある一室だけは、赤い絨毯の上に同色のソファーが置かれ、
綺麗な場所とは言えないが、下の階や他の部屋と比べれば、整えられた空間になっている。
高い位置に取り付けられた小さい窓からは、昨夜と同じ三日月が見えた。
弱々しい月光は、言い争いをする二人の顔を微かに照らした。
(´・ω・`)「お前はどうやら脳味噌まで筋肉でできているらしいな。
あれほど催眠術師だけは逃すなと、釘を刺しまくっただろうがよ。
腕まで持っていかれて……情けなさ過ぎる。ぶち殺すぞ」
(#´∀`)「あああん!? テメェは直接戦わない癖に生意気なんだよぉぉぉぉ!!
尻出せこのヤロゥ!! 破壊してやる!」
(´・ω・`)「与えられた指令をこなすだけだからね。私は予定通りボスを元に戻した。
それに私だって戦えと言われれば、敵を毛一本残さず抹消する自信もある。
なんなら君で試そうか……どうせボスも君なんて必要と思ってないだろうし」
睨み合う二人は、今にも取っ組み合いの喧嘩を勃発させそうだ。
このままでは血が流れる。
そう判断したソファーに腰掛ける男は、杖で床を叩きながら喝を入れた。
/ ,' 3「黙れ貴様ら!! 終わった事でグチグチ争うのはやめろ、みっともない!!
反省会なら構わないが、貶し合いなら来世でやれ!!」
(;´∀`)「ぐぐっ、ボスッ……!!」
- 108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 03:07:14.55 ID:Z51yEtSv0
- (´・ω・`)「しかしボスだって、欲しかったでしょう?
あの催眠術師は……私も含め、レアな類ですから……
力を測るために自らが術をかけられる程、wktkしていたんでしょう?
ああ、それがどっかのマッチョさんのおかげで……」
(#´∀`)ビキビキ
/ ,' 3「過ぎた事はどうだっていい。それに、あの催眠術師には会ったよ。
接触した訳じゃないが、私は見た。
それよりも心惹かれる奴を見つけたから、催眠術の彼など忘れてしまったよ」
(´・ω・`)「会ったのですか?」
/ ,' 3「私に一礼すると、すぐに去っていったよ。
勤務中だったし、その時の背中がどうも寂しい感じがしてね……
結局逃がした形になった」
(;´∀`)「僕だって面白い男を発掘しましたよ!
確か幽霊と人間のハーフって若僧なんですけどね……」
/ ,' 3「!」
- 110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 03:09:12.01 ID:Z51yEtSv0
- 開かなかった自動ドア。
話し掛けた幽霊。
棺桶売りの仲間。
ドクオ、鳳凰寺ドクオ。
『ボス』と呼ばれた老人の中で、歯車が噛み合った。
/ ,' 3(なるほど……彼が向こうのサイドにいるのか……
面接に来た時は挙動不審で、まともに言葉も発せなかった彼が……か)
(´・ω・`)(トラックの運ちゃんには悪い事したなー……
私に操られて轢き逃げなんて……まぁ、もう関係ないか)
( ´∀`)(腕スースーする)
- 112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 03:10:51.70 ID:Z51yEtSv0
- ⊂('A`⊂⌒`つ
( ^ω^)「僕、もう未練はありませんお!
爺さんは自然に戻ったみたいだし、所詮僕の能力なんてそんなもん
だったって事ですお! 余計な手間かけてすみませんお」
現在午前五時半。早過ぎる。
七時にアラームが鳴る予定だった、目覚まし時計の仕事すら奪った魂。鬼だ。
本当に悪いと思っているなら、眠らせてください。
川 ゚ -゚)「昨日はお前、バイト終わったらすぐ寝てしまっただろう?
今日だって、いつも通り起きてバイトに行くんだろう?
そしたら内藤の送別会は、明朝にやるしかないジャマイカ」
(#'A`)「二人でやってろよダンボール野郎!
クー、何でお前という女は、通常は冷たーい、カキ氷みたいな奴なのに、
意味が分からないタイミングであたたかーい、母乳みたいになりやがる!!
これ以上、俺を振り回すな! てか、ここ俺の部屋!!」
寝起きに散々吐き出すと、頭にキンキン響く。
自分の声で自分を痛めつけているとは、なんと間抜けな。
- 114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 03:13:26.13 ID:Z51yEtSv0
- (;^ω^)「あ、ご迷惑でしたら……どうぞ寝てて下さい。
じゃあ僕、逝きますお」
クーの棺桶にゆっくりと入る内藤さんの顔は、どこか寂しさを残していた。
(#'A`)「あ゛あ゛あ゛あ゛!! わーったよ!! わーかりましたよ!!」
(;^ω^)「ふぇ?」
(#'A`)「見せろよ。最後の客になってやる。催眠術ショー」
ぱっ、と笑顔になった内藤さん。やっぱりアザラシみたいだ。
('A`)「ただし、リクエストがある」
- 116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 03:15:46.95 ID:Z51yEtSv0
- ('∀`)「イヤホォォォウ!!」
九時、俺はかつてないテンションでコンビニへ向かった。
この世とあの世の境界線を越えた催眠術。
俺が内藤さんに頼んだ術の内容は、
「ババアは俺が神に見える」
('∀`)「ぎゃはははwwwwwww愉快すぎるぜwwwwwwwwww」
内藤さんは、俺が退店すると同時に術が解けるように設定しておいたらしい。
十分すぎる。あのババアが、どんな顔をするか。想像しただけでニヤニヤが止まらない。
自動ドアが、開く。
('∀`)ノシ「オハヨイーッス!! ババア、てめぇ死ね!!」
- 119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 03:19:00.51 ID:Z51yEtSv0
グチャ
- 123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/25(水) 03:21:51.18 ID:Z51yEtSv0
- 自分の悪口が聞こえれば、それが例え神でもブン殴る。
ババア、流石だよ。敵わねぇ。あんた漢だ。
俺が誰かなんて、たいした問題じゃなかったのね。
川 ゚ -゚)「前途多難だな」
後ろでボソッとクーが呟いた。
俺も、ババアの耳に届かない程度の声で返す。
('A`)「何かが始まるって物言いじゃねぇか。俺は付き合わないからな」
川 ゚ -゚)「馬鹿、お前に拒否権があるとでも?」
(#'A`)「俺だって人権あるだろ一応!!」
ババア「ガタガタ言ってんじゃねー!! さっさと駐車場の掃除して来いグバルァ!!」
(;'A`)「ギャアァァァス!!」
尻を蹴られて、駐車場に倒れこんだ。
起き上がろうとした瞬間、不意に見えた青空から、内藤さんが微笑んでいるような
気は特にしなかった。
('A`)ドクオは棺桶売りのようです
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