('A`)ドクオは棺桶売りのようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 00:58:17.78 ID:XN0LdTbv0
               ⊂('A`⊂⌒`つ

『あの事件の真相! 元少年の心の闇に迫る!』

バイトを終えて帰宅し、ベッドに腰掛けてテレビを付ける。夕方の特番が始まった。
最近は『元少年』が多すぎて、何の事件なのか直ぐに把握できない。

血が流れては、風化。悲鳴が聞こえては、風化。
古館は「またも痛ましい事件が起こってしまいました」と言い、
次の日には、また誰かの血が流れる。  ――――無限ループって怖いよね。

('A`)「明るい話題はねーのかよ」

舌打ちをしつつ、リモコンで番組を変えていく。
どの局も似たようなニュースを流しては、似たような批判を繰り返している。
何だよこの無駄な団結力は。
他局の傷は深々と抉る癖に、変な所で協調性を発揮しやがって。

『VIP動物園で生まれた双子のペンギンの赤ちゃん!
 名前はガンファイ太とたけしに無事決定しました!』

ようやく和やかなニュースに移った。
VIP動物園といえば、幼稚園の頃の遠足で、一回だけ訪れた事がある。
動物の亡霊達が飼育員に当たらない攻撃を連発していたのは面白かった。
余程恨みがあったのだろう。

('A`)「しかし……双子ねぇ……今度久々に見に行くかな」

勿論、入園料なんて払うつもりは毛頭無いが。
幽霊の状態になれる事は、あらゆる施設のフリーパス券を持っているようなものだ。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:00:12.88 ID:XN0LdTbv0
『続いてのニュースです。
 ○○市の公園で、男子中学生が斬り殺されているのが発見されました。
 被害者は中国人の留学生、セン・ソーさんで――――――』

('A`)「また物騒だねぇ……ご愁傷様」

『胴を真っ二つにするという残忍な手口が“チョップマン”と
 酷似している事から、犯行を再開したと見て―――――』

煎餅をかじり、しみじみと思い出す。
連続無差別殺人鬼、チョップマン。
目撃談によると、巨大な斧を背負った長身の男で、灰色のパーカーを着用していたらしい。

殺した人数は数知れず。日に日に犠牲者を更新していく姿はカリスマ性のようなものを
一部の人間に与えていた。

しかし、丁度一年前であろうか。奴の殺しがピタッと止まったのは。
一時、海外逃亡説なども唱えられたが、今日、確かに奴は復活した。
おまわりさんも忙しくなりそうだ。

('A`)「結論、夜に出歩く方が悪い。中学生は家で宿題やってろ」

(-_-)「いや、その理屈はおかしいよ……ドックン」

('A`)「お前が俺の後ろにいる方が遥かにおかしい」

引田篭郎。通称ヒッキーは、俺の部屋の隣りに住むひきこもりだ。
その影の薄さを利用して、ひっそりと侵入。ピッキング技術もある。
冷蔵庫を漁り、勝手に調理して食う。ベランダでは俺に無許可で野菜を育てている。
犯罪じゃね? まぁたまに掃除してくれるのはありがたいけど。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:03:46.66 ID:XN0LdTbv0
(-_-)「夜道しか歩けない僕は怖いよフヒヒ……ドックン、
    今夜は煙草の自販機まで行くのについて来てよね……ブヒッ、フヒヒッ」

チョップマン様。
暇が出来たらでいいので、この男をメタメタに切り殺して下さいまし。













  第
第ニ話
  話



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:06:05.83 ID:XN0LdTbv0
               【+  】

何故、僕は追われているんだろう?
彷徨える魂、稚内君の頭の中はそれだけであった。

(;><)「あんたら何の恨みがあって、僕を殺そうとするんですか!?
      この状況がちっともわかんないんです!!」

夕暮れ時の商店街、店主達は皆、ラストスパートをかけている最中だ。
そんな店や人をすり抜けて、ターゲットを追跡する三人の刺客。

从 ゚∀从「大・日・本・帝・国・万歳!!」

ボサボサの茶髪を靡かせ、右後ろ斜めから迫る軍服の女。コードネーム:ハインリッヒ。
迷彩柄の棺桶を背負い、獲物を追う。日本が大好き。

从 ゚∀从「大和魂の名にかけて! アイツを捕まえたら、今夜はハンバーガーとコーラだ!」

( ,,゚Д゚)「お前絶対日本好きじゃねぇだろ!!」

短い金髪を煌めかせ、左後ろ斜めから迫るアロハシャツの男。
コードネーム:ギシギシアンアンシコシコピュッピュ 縮めてギコ。
金色の棺桶を背負い、獲物を追う。金が大好き。

川 ゚ -゚)「飽きないな、お前ら……諦めて獲物を私に譲ったらどうだ?」

腰まで伸びた黒髪を踊らせ、真後ろから迫るミニスカの巫女。コードネーム:クール。
シールがペタペタ貼り付けられた棺桶を背負い、獲物を追う。舘ひろしが大好き。

三人が狙う男、稚内。実は彼、エスパーでも何でも無い、普通の人間である。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:09:04.63 ID:XN0LdTbv0
( ,,゚Д゚)「獲物を譲るだぁ? ハッ、最近成績不振らしいからな、お前。
     獲物の未練を解消するなんて、何の利益にもならねぇ事しているからだ。
     俺達の仕事は霊魂の強制送還。元1が枝葉に走ってどうするんだゴルァ」

川 ゚ -゚)「…………」

从 ゚∀从「そういうギシアンも、この前一日中ケーキ屋の女店員を凝視してたじゃん
     童顔でボイーンでメッチャ可愛いんだけど、未成年かね?」

「ギャハギャハ」とハインリッヒが笑う。
それを聞いた隣のクーは、捨てられた子猫を見るような目で覗いてくる。
プライドに関わると危機感を持ったギコは、慌てて弁解を試みた。

(;゚Д゚)「ち、ちげーよ! バッカじゃねぇの! お前殺すよ!?
     ケーキを見てたんだよだよだよ! 死ねよ!」

中学生、いや小学生でも、まだ言い方がある。
何の弁解にもなっていない上に、ただ暴言を並べただけ。一層真実味が帯びてきた。

从 ゚∀从「殺せるもんならやってみろよwwwwwwwwwww
     そういやお前とは一度も手合いした事無かったな。
     ま、ロリ巨乳好きの変態親父に負ける気なんざ、さらさらねーよ」

( ,,゚Д゚)「あん? 喧嘩の相手はよく選べよ……マジで首飛ぶぞ」

从 ゚∀从「うあ〜〜〜〜話し掛けないで〜〜〜〜ロリコンがうつる〜〜〜〜
     キ――――――――モ――――――――イ――――――――死んで」

ギコの怒りは頂点に達した。空が割れ、やがてイスカンダルが破裂した。
ジャガーの如く、ギコは飛び掛る。目は妖しく光り、牙はナイフのように鋭い。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:10:56.30 ID:XN0LdTbv0
小柄なハインリッヒは押し潰され、金髪の野獣にマウントポジションを取られた。
服は音を立てて破られ、徐々に白い肌が外気に晒されていく。
小ぶりな乳房には涎がポタリと垂れる。やがてそれは重力のままに滑り、流れ、
汚れた川を作った。

小山から流れる川、これぞ我々仕事に追われた現代人が忘れかけていた日本の風流では
無いだろうか。夏休み、都会から遥々田舎にやって来た子供達は川で水遊びをする。
無邪気な孫を見て、微笑むおばあちゃん。スイカが冷えたよと切ってあげれば、
たちまち子供達は喜んで、小さな口いっぱいにスイカを頬張るのである。

その姿を間近で見て、おばあちゃんは皺だらけの顔で笑うのだ。何度も何度も笑うのだ。
孫が立派に独り立ちする、輝かしい未来を見据えて……

だが、21世紀は違う。田舎に来ても、ゲームしかしない子供。
それを叱れない大人達。遊ぶ場所も日々消えていく。
川は近くの化学工場で汚染され、遊ぼうものなら、毒とか色々入って子供は死ぬ。

地域住民は抵抗できない。夫や息子が工場で強制労働を強いられているからだ。
まさに人質。今日も男達はキタキタおやじが回してたアレをぐるぐるやってるのだ。
そんな中、おばあちゃんはお色気作戦で工場に侵入しようとするが……?


( ,, Д )「何やってんだ俺達……」

三人は体育座りをしていた。
すっかり夜も更け、ターゲットも見失った。

从 ∀从「反省会しようか……」

川 ゚ -゚)「どどんまい」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:14:01.20 ID:XN0LdTbv0
(;><)「何やってんですか僕は……」

静まり返った住宅街。電柱に身体を寄せて、そのまま座り込む。
必死の思いで逃げ切り、疲労困憊の状態である稚内。
彼は自分を追ってきた者の正体も目的も知らない。
しかし、捕まるわけにはいかない、という強い執念が身体を突き動かした。

辺りは暗闇。とりあえず夜になるまで逃げ切れた。

(;><)「どうして……どうしてこんな事に……」

一体何が間違っていたのか、思い返してみる。
稚内は記憶の糸を手繰っていった。

( ><)「そう……そもそも僕はタイムパトロールの為に、2007年に来たんです!」

稚内が所属する『未来警察』。
時空の歪みを修正し、時空犯罪者を捕まえる西暦3000年の正義の集団だ。
しかし、最近は目立った事件も無く、主に過去のパトロールが日課となっていた。

基本は二人一組で行動する。
今回、稚内は二つ先輩の珍穂とペアになった。
仕事という事を頭の片隅に置きながら、二人は2007年の日本を観光していたのだ。

…………………………………………………………………………………………………………

( ><)「うひゃ〜、DVDとか売ってるんです! 教科書でしか見た事無い!
      あと十年経たず消えるっていうのに、バカ丸出しです。この時代の人間!」

(*‘ω‘ *)「無駄口叩くなっぽ。その時代のニーズ、科学ってモンがあるっぽ」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:16:19.41 ID:XN0LdTbv0
電気街、と言った場所であろうか。
その時代の科学が、技術が、デザインが、全て詰まった地である。
未来人からしてみれば、まさにネタの宝庫だ。

当然だが、その時代の人間に自分達の正体など明かしてはならない。
よって不可思議な言動で目立つのも好ましくないのだ。
稚内はこの仕事三年目でありながら、その辺りの自覚が足りない。新人よりも、だ。

( ><)「ちょwwwwwwwwあれ見るんですwwwwwwww」

一回はお叱りを受けるも、今度は携帯電話を折りたたむ様を見て、笑い出す。
呆れた珍穂は、怒る顔をやめて、逆に笑顔を作り出した。能面のような笑顔を。

( ><)「パカパカ開いてるwwwwwすげぇwwwwww
      この前“なんでも鑑定団”で見たんですwwwwwwwww
      しかも地上デジタルってwwwwwwねーよwwwwwwww
      今はアンドロメダデジタルだろwwwwwwwなんですwwwwwww」

(*‘ω‘ *)「おい」

( ><)「うあああああああPS3とかwwwwwwまだコレは初期のヤツなんです!
      確か二年後にゾニーは魚を焼く機能をつけたんです!!
      それに対抗して妊転堂はWiiにトースターを……」

(*‘ω‘ *)「おいってば」

肩に手を置かれ、ジワジワと握り締められる。
我に返った稚内は、周りに人だかりが出来ている事に気付いた。

(;><)「……って昨日見た幻覚にあったなぁ……勿論合法ですよ……」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:18:49.36 ID:XN0LdTbv0
(*‘ω‘ *)「そこは夢って言っておけっぽ」

昼下がりのカフェ。
勤務中でありながら、早速反省会が開かれている模様だ。
そうは言っても、稚内はサンドウィッチを頬張る事に一生懸命で、先輩の話に耳を傾けようともしない。

珍穂はブラックコーヒーを一口啜り、そのままカップをテーブルに下ろす。
威圧的な音が鳴った。他の客も目を丸くして、彼女一点に視線を注ぐ。
珍穂は全方向から来る視線を全て鬼の目で返した。「何見とんじゃボケ」という目だ。
店内の人間は、慌てて目を逸らした。つられて稚内も目を逸らす。

(*‘ω‘ *)「お前はこっち見ろ!!」

(;><)「ひゃ、ひゃい!」

間抜けな声が漏れた。
自分の身体がバイブレーションしているため、若干震えた声質になっている。
改めて正面を向くと、別の意味でプルプルと震える珍穂の姿があった。
これは非常にまずい。無双ゲージが満タンじゃないか。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:21:18.79 ID:XN0LdTbv0
(*‘ω‘ *)「責任を背負って仕事してるんだよ私達は……お前のポカで全て歪む事だって
    あるんだ……失敗は責めない。が、反省の色くらい見せてみろ……ああ!?」

反省の色。全て駄目だったと塗り潰す黒か。
はたまた、改善に希望を託して白に染めるか。
何にせよ、今の稚内の顔は清々しい程の鮮やかなブルーを放っている。

自分はブルーでブルブルで、目の前のブルドッグは吠えっぱなしで、
隣のテーブルのブルガリア人はブルーベリーヨーグルトをニヤニヤしながら食べている。
誰かレイジングブルを貸せ、奴の脳天をぶっ放す。そんな事を稚内は考える。

その表情は上の空。
間髪入れず、先輩の鉄拳が顔面を襲った。
ブルガリア人はヨーグルトを溢した。涙目になっている。少し萌えた。あいつ男だけど。

(;><)「いてぇ! いてぇよ! 心がいてぇんだよ!!」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:23:11.24 ID:XN0LdTbv0
(*‘ω‘ *)「稚内の馬鹿! もう知らない!」

珍穂は怒鳴り散らして席を立つ。
代金も払わず、そのまま出て行ってしまった。
焦る稚内は地域振興券をレジに置き、彼女を追った。

(;><)「あっ……!!」

カフェを出て一秒後に飛び込んできた光景は、
数人の黒服が、珍穂相手に因縁をつけているシーン。
何事も大雑把な反面、チキンな性格を併せ持つ稚内は、看板の陰に隠れて
様子を窺った。

(´・_ゝ・`)「おいおいおい……いきなりぶつかっておいて、謝罪もねーのかよ。
       富士さんはなぁ、滅茶苦茶骨が脆いんだよ……
       マリオのカロンみたいに崩れるんだぞ?」

/^o^\「うはwwwwwwwwwwいwwwwてwwwwwwえwwwwwww」

(*‘ω‘ *)「お前らの方から衝突しておいて、何が謝罪だっぽ!
     冗談はアナルだけにしろ!! 寧ろそっちが謝れ!!」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:25:44.86 ID:XN0LdTbv0
会話の内容から察するに、ヤクザ風の集団が、ぶつかった事をでっち上げて
珍穂の誠意を試しているようである。ここでいう誠意とは金品の事に他ならない。
だが珍穂は一歩も引かない。それどころか男数人相手に臆する事無く立ち向かっている。

(;><)(うう……ふ、震えが止まらないんです……)

稚内としては、ここで男らしくヤクザの前に立ち塞がって珍穂を守りたい所だ。
名誉挽回のチャンスが、こんなにも近くにある。
しかし、足が動かない。自分は健全な男子である。動かない筈が無い。
そう言い聞かせるも、看板の裏から抜け出せない軟弱者、稚内。

(;><)(動け! 動くんです!)

電池の切れた玩具を甦らせるように、心で叫んだ。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:27:55.13 ID:XN0LdTbv0
その一方で男の叫び声も響く。
稚内とは少々色が違うようだが。

「うぎゃあああああああ!!」

(´・_ゝ・`)「て、テメェ! よくもウチの名無しを!!」

珍穂はヤクザの一人に金的キックを繰り出した。
のたうち回る名無しの低い呻き声をBGMに、喧嘩は進展していく。
釣り下がった眉と、つぶらな瞳がチャームポイントである盛岡は、
珍穂と顔の距離を徐々に縮め、額を接触させた。

(#´・_ゝ・`)「アァ!? オイ、コラ! 何か言ったらどうなんだよ!!?」

(*‘ω‘ *)「私は悪くない! 私は謝らない!」

(#´・_ゝ・`)「ンヌルポァ!!」

獣と化した盛岡は珍穂を押し倒した。
コンクリートと男に挟まれた珍穂の口からは「ガッ」と声が漏れる。
同時に転がったバッグからは、化粧品やら財布やらが音を立てて落ちた。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:30:08.90 ID:XN0LdTbv0
そんな落し物の中、騒動の発端となった富士が見つけたもの。
薄く小さい、手の平サイズのそれは、曲げても折り目がつかず、
太陽光が反射して、神秘的な青緑に光った。

/^o^\「綺麗だ……」

富士はそんな台詞、女の衣服を剥いで肌を露わにさせた時以外、口にした事も無かった。
童貞だけど。
その輝きにひどく魅了された富士は、ニヤニヤが止まらなかった。

すぐに奪い返されるとも知らずに。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:31:24.51 ID:XN0LdTbv0
(;><)「てやあぁぁぁぁい!!」

電光石火。
珍穂を甚振っていた盛岡の腹には強烈な蹴りを入れ、
目にも止まらぬスピードでダッシュし、富士の手から“それ”を奪取。

/^o^\「んなああああ!!」

(;><)「珍穂さん! 早く逃げるんです!!」

と、稚内が言葉にする前に珍穂は逃げ出していた。

(;><)「うおおおおおおおおおおい!!」

逃げてくれたのは良いが、何かこう、ねぇ?

ショックで固まる稚内を、盛岡は一瞬で亀甲縛りにした。すごいテクである。
これが得意でヤクザの世界に足を踏み入れたようなものだ。

(#´・_ゝ・`)「さっきのキック……効いたぜ……丁度良い、今日の生贄はお前だ」

/^o^\「ちょっと裏に来て貰おうか……」

そのまま稚内は、路地裏に引っ張られていった。
微妙に興奮したのは内緒。

これから何をされるのだろうか、
撃たれる? 斬られる? 殴られる? あれだけ暴れてお咎め無しというのは考え難い。
絶望だ。殺される。父さん母さん、こんな息子でごめんなさい。
息子の息子もごめんなさい。先祖を残せず、未来が閉じるなんて……ららら。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:38:14.42 ID:XN0LdTbv0
暫く歩いて、辿り着いた先。
二階建ての古びた建築物が目の前に現れた。
何かの事務所ともとれるし、人が住む家とも言えなくはない。

稚内が抵抗出来ないだろうと判断すると、男達は縄を解いてくれた。
彼らから見ても、野郎が野郎を引っ張って歩かせるという光景が気持ち悪かったらしい。

外側に設置された螺旋階段を歩かせられた。
ざらついた感触は、錆だらけの手摺りから生まれたもの。
良い気持ちじゃない。右手も、勿論この状況も。

(´・_ゝ・`)「お頭! 今日の獲物を連れて来ましたぜ!」

勢いよく開かれた扉。
埃混じりの空気に包まれ、稚内は思わず咳をした。

/^o^\「ゲボゲボッ! オラ、入れよ!」

屋内にも関わらず、ベンチが置かれていた。
そこに悠然と佇む、ツナギを着たいい男。
彼がどうやら頭らしい。今、稚内が出来る事は彼から発せられる言葉を待つだけだった。



「やらないか」




オーマイゴッド。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:40:17.34 ID:XN0LdTbv0
この組の者達は、頭である阿部さんの為に一日一人男を貢ぐ事を義務付けられている。
        (ノンケでも可。ちんこさえ付いていれば良い)
それを怠れば自分達が掘られる。富士や盛岡、その他少数の組員は毎日が命懸けなのだ。
彼らの保身は誰かの犠牲の上に成り立っている。
それを理解している組員達は、稚内に黙祷を捧げていた。そういう仁義はあるらしい。

/^o^\「っと、コイツは預かっておくぜ」

ポケットから抜き取られた平べったい物体。
やられた、稚内は唇を噛み締める。本当にやられるのはこれからだけども。

(;><)「それだけは……頼むんです……!!」

それの正体は、タイムマシンを起動するためのカードキー。
裏山の森にひっそりと停めてある時空移動機械、通称タイムマシンは、
そのカードキー無しでは起動できない。

この時代ではまだ発見されていない物質で製造されているので、代用が効かない。
それが消える事は、時代に取り残される事。
いや、暫くすれば仲間の未来警察が救助に来てくれるのだが、それは非常に不名誉な事と
言われている。

稚内は考えていた。
ちゃらんぽらんな自分は別に構わない。しかし真面目で優秀な珍穂はどうなる。

(;><)(僕がこいつらの目を盗んで……カードキーを再び奪い返し、
      場を逃げ切るしか方法は無いんです……そして絶対に菊門は渡さない!)



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:44:03.95 ID:XN0LdTbv0
三分後。


(;><)「ああっ!!」

阿部「いいぞ…よくしまって吸いついてきやがる…」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:45:15.32 ID:XN0LdTbv0
(;><)(僕は……何をやっているんです……)

薄目でヤクザの面子を見た。
富士はカードキーにキスを繰り返している。
一方の盛岡はその価値に気付いたようだ。何せ宝石よりも美しく輝いているのだから。

(#><)「こんな所で負けてられねーんです!!」

稚内は駆けた。阿部さんを抱っこしたまま駆けた。当然二人は繋がっている。非常に奇妙。
富士の持つカードキーに手を伸ばす、が、回避され、盛岡にはお返しだと背に蹴りを入れられた。
その勢いも加わって、稚内と阿部さんは扉をぶち破り、螺旋階段の柵を越え
宙に放り出されてしまった。全裸で。

(;><)「うああああああああああああ!!」

思わず阿部さんの胸元に頭を埋めた。
しかし、その身体は反転する。
空中で阿部さんは稚内との位置を入れ替えた。
つまり稚内は、『地面への衝撃+阿部さんの体重=死』の公式を、
身を持って体感する事になるのだ。

阿部「ところで落下地点のコンクリを見てくれ、こいつをどう思う?」

( ><)「すごく…固そうです…」

そして視界が真っ暗になった。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:47:18.63 ID:XN0LdTbv0
               ⊂('A`⊂⌒`つ

( ><)「――と、こんなわけで僕の人生はクソミソな結果に終わったのでした」

('A`) y━・~~~「そりゃ災難だったな」

(;><)「ブフゥ! あ、あなた誰ですか!? まさかさっきの奴らの仲間!!?」

男は距離を取って、俺を警戒する。完全に腰が引けていた。
どうやら戦って物事を片付けようとするタイプでは無さそうだ。

('A`) y━・~~~「さっきの奴……ってのは知らないが、俺はあんたを取って食おうなんて
       考えてもねーよ。一人でブツブツ呟いていた話には同情の余地もあるし」

ヒッキーの気持ち悪いおねだりで、俺は渋々自販機まで同伴する事になった。
明日はバイトが休みとは言え、いい迷惑だ。
その帰り道、電柱で悲劇を語る男の声に耳を傾けていたのである。

(-_-) y━・~~~「ドックン……さっきから誰と喋って……?」

('A`)「!」

――『ゴキリ』

('A`)「よいしょーっ!」

首がありえない方向に曲がり、ヒッキーは泡を吹いて倒れた。
なんとなく日頃の恨みを晴らせた気がする。

俺の正体は誰にも知られてはならない。少なくとも人間には、ダメゼッタイ。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:51:56.83 ID:XN0LdTbv0
川 ゚ -゚)「見つけた! 何故かドクオも……!!」

(#゚Д゚)「小僧! そいつ捕まえろグォォルァァ!!

从#゚∀从「捕まえて俺によこせぇぇ!!」

(;><)「ぎゃああああああああああ!! 来たんですぅぅぅぅ!!」

さっきの奴ら御一行が登場したようである。
巫女に軍服にアロハ。追い求めているのは、この未来人、稚内というらしい。
なるほど、点数稼ぎか。棺桶売り達の醜い内部争いだ。

この必死の形相を見てくれ。これが生物の、本来の姿だと思わないか。
手を繋いでゴールなんて、ゆとり運動会を考えた奴は何か感じてくれよ。

(;'A`)「お、おい……お前ら止まれって……
    この人結構ワケ有りだし、抵抗する力も無いぞ?」

(#゚Д゚)「逃げる力があるなら、それは抵抗と同じだ……覚悟はいいな?」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:53:14.43 ID:XN0LdTbv0
金色の鎖に繋がれた同色の棺桶をギコは構え、一歩一歩近づいてくる。
逃げられないと踏んだ稚内さんは俺の背中に隠れ、やり過ごそうとした。
悪いが俺、人間です。あなたにとって壁にはならない存在という事を理解して欲しい。

川 ゚ -゚)「止まれ! ケーキ屋の店員を盗撮写真が欲しくないのか!?」

(#゚Д゚)

(;゚Д゚)

(*゚Д゚)

( ,,゚Д゚)「…………欲しいです。一旦退却するんで、必ず下さい」

動きが止まった。なんと。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 01:56:41.87 ID:XN0LdTbv0
(;'A`)(と、盗撮……!? お前そんなの持ってるのか!?)
           ↑テレパシー↓
川 ゚ -゚)(それでもドクオなら……盗撮に定評のあるドクオならきっとやってくれる)

俺が撮るのかよ、ふざけんな。定評なんてねーよ。

从#゚∀从「ギコがやらねぇんなら俺が……!!」

飛び出してきたのはハインリッヒだ。
俺も何度か顔合わせをしたが、全く性格が読めない。
急に叫んでみたり、泣いてみたり、キレて暴力振るってきたりと、忙しい女だ。

弱点は知っているがな。

('A`)「あ、あんな所にドナルドが!」

从 ゚∀从「うおおおおおおおおマジでええええええええええ!!?
      ドナルドオオオオオオ、サインくれええええええええええ!!」

――『ゴキリ』

川 ゚ -゚)「よいしょーっ」

首がありえない方向に曲がり、ハインリッヒは泡を吹いて倒れた。
なんとなく日本の敵を討てた気がする。

彼女は大のマクドナルド好きなのだ。
マクドナルドあの世支店に、毎日通う程である。
そんな彼女にはクーのハッピーセットを喰らってもらった。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 02:01:36.35 ID:XN0LdTbv0


この女は俺の部屋をアジトか何かだと勘違いしているのではないだろうか。
例の如く、俺とクーが今回のお客様・稚内さんを囲んでいる。
ヒッキーの奴が少し掃除してくれたお陰で、足の踏み場に困ったこの部屋も、
通常よりは大分マシになっている。

ヒルやタニシが住み着いていた川にゲンジボタルが住めるまでになった、
と言った所か。サワガニ、いやサワガニはまだ無理だな。

川 ゚ -゚)「さて、包み隠さず喋ってもらおうか」

('A`)「おいおい、だから稚内さんは未来からやってきて……」

川 ゚ -゚)「その話じゃなく、何で今日のお前はそんなにやる気なのか、という事を
     訊いているんだ。いつもは、『だるい』『お前だけで何とかしろ』とか
     言うくせに……何だか率先して稚内を助けようとしていないか?」

鋭い。

川 ゚ -゚)「金に困ってるな……?」

そう、俺も無償でクーのアシスタントをしているわけじゃない。
あの世にあると言われる、棺桶売りの本部からちゃんと報酬を貰っている。
どうやって? 詳しくは知らない……寧ろ怖くてあまり知りたくないが、
現世の金融を上手い事操って、俺の口座に振り込んでいるんだとか。

そうは言っても、そっちの世界の者が、こっちへ大きな影響を与えるのはよろしくない。
よって収入など、少し高い日雇いバイトの貰う額ほどだ。
それでも、今の俺には放っておけない話なのだ。少しでいいから、金が欲しい。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 02:04:18.33 ID:XN0LdTbv0
川 ゚ -゚)「Q.どうしてそんなにお金が欲しいのか?」

('A`)「A.け、競馬で……えへへ」

川 ゚ -゚)「Q.把握した。しかし稚内の素性は、今回の奇妙なやる気に何か関係が?」

('A`)「A.未来人だと聞いて、僕はしめた! と思いました。
   ここで恩を売って、上手いこと未来に行かせてもらえば、次のレースで勝つ馬が
   分かるからです」

川 ゚ -゚)「Q.クズですね」

('A`)「A.最高の褒め言葉ですよ」

決行は翌日。
相手はヤクザと言えど、所詮はただの人間。
俺に恐れは無い。霊の状態になり、隙を見つけてカードキーを回収すればいいだけの話だ。

川 ゚ -゚)「幸い、こいつは超能力者でも何でもない。
     前回の内藤を狙った奴らも邪魔しには来ない……と思う。
     それほど危険な仕事にはならなそうだ」

クーは稚内さんを指差して言った。
意味を理解し切れていない稚内さんだったが、危険な仕事にはならない、という言葉に
安堵したようだった。ガチガチになっていた肩がゆっくりと落ちる。

( ><)「少しだけホッとしたんです」

('A`)「……ちょっと待てよ、未来人ってだけで超能力者じゃないんだよな?
   うあー……凡人が死に切れない魂になるとは……相当運悪いな」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 02:07:31.91 ID:XN0LdTbv0
川 ゚ -゚)「運の悪さ? それはどうかな。正しく死ぬ為の条件の一つとして、
     正しい世界で死ぬ、というものがある。過去の人間は過去で死に、
     現代の人間は現代に死に、未来の人間は、未来に死ぬ。これは義務かもしれん。
     時空を越えた死もまた、バグを引き起こす原因となる。
     よって稚内、君を生き返らせることは出来ないが、せめてもの情け……
     未練を解消させてやろう。そして改めて、安らかに逝け」

( ><)「生き返らせは……出来ない……そうですよね。そうだ、そうなんです……」

少しだけ気持ちを察する事が出来た。
こっちの世界に足を踏み入れて誰もが思う、「自分はまだ生きている」という感覚。
そりゃそうだ。地に足つけて歩けているんだ。意識を持って話せているんだ。
生の実感、感じない方がおかしい。自分は死者、認めたくても出来ないだろう。

( ><)「もう……珍穂さんと喋る事さえ…………」

('A`)「泣くなら今だぞ」

( ><)「泣きません……未来人としてのプライドというものがあります……!!」

('∀`)「はははwwwwwwwまぁ一肌脱いでやるよwwwwwwwww
    今日は寝ろwwwww俺も寝るからwwwwww」

今夜は三人、川の字になって熟睡した。
そういえばヒッキーやハインを放置していた。



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 02:10:10.58 ID:XN0LdTbv0




『本日休業します。阿部組』




('A`)「なぁ、ヤクザってわざわざ張り紙とかするの?」

午前十時、稚内さんのナビゲートで、俺達三人は“阿部組”の住処に辿り着いた。
しかし、待っていたのはパンチパーマでも強面のグラサンでもなく、
セロハンテープで扉に二箇所止められている、一枚の紙だった。

川 ゚ -゚)「そのカードキー……闇ルートで売買されてたりしてな」

('A`)「それは流石にねーよwwwww……多分」

主は留守でも、我々の探し物は留守番している可能性がある。
扉をすり抜け、一階ニ階の部屋をくまなく探した。
RPGの勇者パーティの気分だった。薬草や鉄の剣は見つかったが、お目当ての物は
やはり無く、「そりゃそーですよね」という虚しさを全身で受け止めていた。

( ><)「と、とりあえず街に繰り出すんです!
      世界なんて世間より狭いモンなんです!
      必死で探せば尻尾くらい見つけられる筈です!」

川 ゚ -゚)「そうだな……とりあえず薬草で回復だ……」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 02:12:17.29 ID:XN0LdTbv0
照りつける太陽。我々が生きていられるのも、全てはあの太陽様のおかげなのだ。
感謝という気持ちを知らない現代人は、何も考えず今日も明日も明後日も、
「あぢーあぢー」と垂れ流し続けるのだろう。

いやー、しかし……

('A`)「あぢーあぢー……」

感謝? ねーよ。笑わせんな。

暑さで朦朧としていたため、途中までの記憶が無いが、
何時の間にか、交通量の多い場所まで足を運んでいたようだ。

向こうに見える虹は、VIP自然公園の巨大噴水が作り出したもの。
人工的とはいえ、和む。
美しい物を美しいと言える、俺の中のピュアな心はまだ腐ってはいないようだ。

('A`)「あそこのアイスうめーんだよ。ちょっと立ち寄らせてくれ」

川 ゚ -゚)「卑怯者が……アイスの角に頭打ち付けて死ね」

(;><)「ま、まあまあ……ドクオさんがそう言うんだから……」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/05(日) 02:14:40.66 ID:XN0LdTbv0
('A`)「あっちーのにホントご苦労だな……」

三重に乗せられたアイスを舐め、俺は思った。(全部大納言あずき)
家族連れやカップルか何か、青いビニールシートの上で、
変な壺や変な服、変な小物に変なダッチワイフなど、どうでもいい物がズラリと並べられている。マジでどうでもいい物のオールスター達だ。

('A`)「あれって俗に言う――――――……」



         安いよー   
     (´・_ゝ・`) 
   / ̄ノ( ヘヘ ̄ ̄ □ ←カードキー



(゚A゚)「フリーマーケッ









つづく



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