('A`)ドクオは棺桶売りのようです

8: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:18:49.28 ID:jvFZllTO0























  第
第五話
  話



15: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:23:30.74 ID:jvFZllTO0
               【+  】

ついに実家からの仕送りが無くなった。
高校中退後、いつかビッグになると一人暮らしを始めて早十年か。

「今、資格取得に向けて勉強している」
「大物音楽プロデューサーからスカウトが来た、いや来るような気がする」
「世界を揺るがすRPGの制作途中だれ」

などデタラメを並べてやりすごしてきたが、流石に実家の母親も限界を突破したようで、
ついに仕送り終了の宣告を受けたのだった。

(-_-)「つまりそれは僕に死ねと言っているのか……?」

その男、ヒッキーは電柱の影に身を潜めて、タイミングを見計らっている。
何のタイミングか。答えは目の前のコンビニに入る好機。
客としてではなく、人生を少しでも変えるために、彼は行く。

右手に掴んだ履歴書は、濡れて文字が滲み、とても読めたものじゃなくなっていた。
ほとんどの欄が真っ白だけど。

(-_-)「しかし……何で面接がこの時間なんだよ……」

灰色の空が世界を支配している。
台風は勢力を拡大し、雨粒は散弾のように道行く人々を襲う。
現在正午。正午なのに惨事。どこからともなく飛んでくる傘や瓦礫やお爺ちゃん。

(-_-)「とりあえず、勇気を出して入ろう……大丈夫さ、ドックンがいる筈だし……」

唯一無二の親友(と勝手に思っているに過ぎないが)ドクオのコネで、社会進出を目指す。



20: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:26:10.04 ID:jvFZllTO0
横断歩道を渡れば、すぐに自動ドアに辿り着く。
青信号。右確認、良し。左確認、良し。
履歴書、ズブ濡れ。震え、止まらない。自分の顔、テロに等しい。

手鏡を叩き割り、何も見なかった事にした。あれは、うん、蜃気楼だ。

(-_-)「大丈夫、ドックンがいるから!」

両手で頬を叩き、気休めの勇気を注入した。
今度は鬼門を叩くべく、道路へ勢いよく飛び出した。

これが第一歩なんだ。
立派な社会人になるための、スタートラインなのだ。
今まではそこに立つ事すら躊躇していた。

しかし、彼は走り始めている。
この長く険しい、しかし希望に満ち溢れたロードを。
過去の自分と決別し、輝く未来を掴むのだ。


まぁ、散々言ってもトラックに轢かれたんですけど。


(-_-)「あばばばば――――――っっっ!!!」

ミキティも驚く回転を空中で展開するヒッキー。
運転手は依然前だけを見ているが、
乗り合わせた霊は、宙を舞うそれを見て愉快そうに笑った。

(´・ω・`)「また一人……うん、今日は最高のスコアを更新するかもね」



25: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:31:30.07 ID:jvFZllTO0
飛ばされたヒッキーは、当初の目的地であるコンビニへと突っ込んだ。
上手い具合に自動ドアが開き、棚の商品が派手に崩れていく様が見える。

(´・ω・`)「あらら、不幸は重なるものだね」

その時だったか。
店内から鬼のような形相で、否、モノホンの鬼が姿を現し、電光石火で猛追してくる。
謎過ぎる生物の登場に、ショボンは僅かばかりの恐怖を覚えた。

(´・ω・`)「何だ……? いや、構う必要は無いぞ。ミンナ」

そのまま走れ、と鈴の音を鳴らす。
横顔を見れば分かる。この男、前しか向いていない。
言い詰めれば脳味噌が前にしか興味を示していない。

後ろ向きな現代人は是非彼を見習って欲しい。

(´・ω・`)「あとはボスの指示待ちか……そう言えばケーキ屋も潰す事になってたっけ」

誰に語りかける訳でもない、ただの独り言を口にした瞬間、
突然、あまりにも突然の悪寒がショボンの身体を駆け巡った。

ポケットから使用済みのティッシュを取り出し、鼻水を拭って自身を落ち着かせる。
だが事態は直ぐに起こった。

トラックが止まったのだ



29: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:33:26.48 ID:jvFZllTO0
(;´・ω・`)「な、どうしたんだミンナ!!」

違う。彼は正常だ。正常に狂い続けている。
その証拠にアクセルを力一杯踏んでいるではないか。
ああ卒業アルバム踏み潰してぇ。

( ゚д゚ )「ぬふぅ……ぬふぅ……」

ミンナは歯を食い縛り、全身から汗を噴出させている。
全身全霊を持ってトラックを発進させようと力んでいるのだ。が、まるで金縛りにでも
あったかのように、動く気配すら感じない。

(;´・ω・`)「どういう事だ……!!」

外を確認すると、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
鬼、いやよく見ると人間の女が、もっと目を凝らして見れば初老も近い女が、
脂肪がたっぷりついた両手で車体を押さえつけている。テリー、君って奴は。

(;´・ω・`)「なんだこのババア! 最近のコンビニは人間以外の生物も雇っているのか!?」

ババア「店長もこなけりゃ、あのクソ→('A`)もこねぇ……
    仕方ないからポテチ摘みつつCanCan読んでたら血塗れの男が飛んできた。
    なぁオイ、コラ……どうなってんだ……」

( ゚д゚ )「んんぎぎぎ……」

(´・ω・`)「頑張れミンナ! お前がナンバーワンだ!」

その応援とは対照的に、トラックは徐々に後退を始めている。
人類が開発した、この車という殺戮マシーンに、一匹の主婦が力で勝とうとしているのだ。



32: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:35:12.39 ID:jvFZllTO0
(´・ω・`)「いくら何でも一人の人間が、こんな無茶苦茶出来る筈が無い。
     改造人間か……? それとも生物兵器か……?」

考えられるものが有るとすれば、ひとつ。

(´・ω・`)「何かしらの催眠か?」

ならば話は早い。
催眠の上に催眠を重ねてやればいいのだ。
鈴の音。念が振動を伝い対象の聴覚から支配する。

(´・ω・`)「お前は、そうだな。
     ホームルームで修学旅行の二人一室の部屋割りを決める時、
     男子の人数を数えたら奇数だった事に絶望する友達がいないサトシ君だ……
     お前はサトシ君だ……お前はサトシ君だ……」

明らかに“弱い者”のイメージを植え付ける。
これによる対象の弱体化は半端なものじゃない。
事実、先程始末した金髪の男は曙と自分を重ね合わせて破れた。

ババア「ヌゥオオオオオオオオオオオオ!!」

車体が揺れ、また少し後退させられた。
こうかはいまひとつのようだ!
まさかの催眠失敗に、ショボンの焦りの色は濃くなっていた。

(;´・ω・`)「クソ! まさかサトシはポジティブな奴だったのか!?」

サトシ「女子も奇数じゃんwwwwwじゃあ俺女子と部屋一緒でおkwwwww
     みwなwぎwっwてwきwたwwwwwwwwwwww」



37: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:38:18.54 ID:jvFZllTO0
そんな余り者の女子など大抵ブサに決まっているだろう。常識的に考えなくても……
しかしこの際顔はどうでもいいのだ。サトシにとって重要なのは下半身だけなのだ。
どんだけ飢えているんだサトシ。お前はそれでいいのか。

( ゚д゚ )「ぐっ……ハァ……」

(;´・ω・`)(走れない、前に進めない事が相当なストレスになってきている……
      本気でやばい。催眠によって作られた偽りの自我が崩壊しかけている!)

冷や汗が垂れる。
冷静になれと、ショボンは自分に言い聞かせた。

ババアは操られていると仮定しよう。
ならば操作している者がいる。
ひとりでに動く人形などあるものか。絶対に誰かがネジを巻いているのだ。

(;´・ω・`)(だが催眠術師が近くにいるとは限らない……寧ろいない確率の方が高い)

聴覚からの催眠が効かなかったとすれば、
ババアが受けているのは視覚からの催眠。
集団を一気に操る事に関しては音を使った術が長けている。
しかし、一個人を短時間で深く落とせるのは、眼を使った術だ。

持続時間が長いので、常に付き添って術をかけ続ける必要性が無い。
ショボンが今、戦いたい相手はこの場にいないのだ。

こうなれば狙うは持久戦しかない。
言っても元は人間だ。
操られていたとしても、限界はやってくる。



39: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:41:58.46 ID:jvFZllTO0
ババア「フヌウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!」

( ゚д゚ )「ウガアアアアアアアアアアアアア!!!」

(´・ω・`)(帰りてぇ……)






               ⊂('A`⊂⌒`つ



('A`)「一方、俺は逮捕されていた」

両手には冷たい鉄の輪がはめられている。
二人の警官に挟まれ、今まさにパトカーに乗せられる瞬間だ。
ああ、何故こんな事になったのか。

通りすがりのバイク小僧を蹴り飛ばしただけじゃないか。
そして、そのバイクを盗難しようとしただけじゃないか。
ついでに無免許じゃないか。バイク小僧はいつぞやのヤクザじゃないか。
奴は罪深いぞ。本来なら俺じゃなく、奴を捕まえるべきだろうよ。駄目ポリ公め。

と、ボソボソと呟くが、全て雨風に掻き消される。
どうせなら俺の過去も記憶も吹き飛ばして欲しい。
五分でいい、五分前の出来事さえ消えてくれればそれで……



40: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:43:43.46 ID:jvFZllTO0
警官A「ん……我々は一体何を……?」

警官B「現場検証に来て……あれ? な、なんか知らない変な奴を逮捕しとる!!」

(;'A`)「……え? はい?」

川 ゚ -゚)「ドクオ、無実を装え。いいか、お前は何もしてない一般人だ」

不意にクーが命令を出してきた。
全く状況が掴めないが、とりあえず、おどけた振る舞いをしてみせる。

('A`)「あ、あれれ〜? なんでオイラ逮捕されてるの〜?」

なんだオイラって。
自分で自分がむかついてきた。

警官A「そうだ! 何故に本官はこんな不細工な一般人をパトカーに招いているのだ?」

警官B「この犯罪を犯す勇気すら無さそうな低身長低学歴短小包茎はどこのどいつだ?」

警官A「と、とにかくスマンカッタ。今手錠を外そう」

警官B「感謝汁」

警官Bがどれほど失礼なのかは置いといて、俺は猛烈に混乱していた。
俺を見た時、まるで警官二人の記憶の一部が、削り取られていたかのような反応をした。
二人は何事も無かったかのように、元の位置に着いて各々の仕事に手をつけている。

('A`)「どういう事だ……?」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/01(月) 21:45:12.74 ID:jvFZllTO0
('A`)「おいクー、これって……?」

振り返れば奴がいた。
こんな台風の日に、バイクに乗っていた馬鹿人間。
眼は少女漫画のようにキラキラと輝いている。不気味。

/^o^\「ありがとう……アタイ、あんたに蹴られてなかったら
     スリップ事故起こしてたかもしれない……最低……だよね。
     でも、お陰で眼が覚めたよ。アタイ、近所の小学校の秋の交通安全運動に参加
     するよ。雨の日の運転は注意ってね!
     なんだろう、この気持ち……胸がキュンキュンするわ……
     まさかこれって恋なのかしら……いやん、はずかちー」

とりあえずぶん殴った。

('A`)「……なにがにゃんだー……」

警官二人は俺の非行を忘れてるし、
この馬鹿に至っては、蹴られた事は分かっていても、何故かプラスに解釈している。

あまりにも都合が良すぎる。

川 ゚ -゚)「ヘッヘッヘ……まんまと騙されおって」

从 ゚∀从「しゃーねーな。答えを見せてやるよ」

ハインが「パン」「パン」と手を叩く。



44: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:47:35.37 ID:jvFZllTO0
(;^ω^)「あ、こんにちは……ですお」

迷彩服の男達を掻き分け、やや肥えた男が姿を現した。
上は白の燕尾服、下は黒のブルマ、変態だー。

(;'A`)「な、内藤さん!?」

川 ゚ -゚)「コードネーム、ブーン。我が棺桶売り期待の新星だ」

クーが腕を組みながら、そう言い放った。
ちょっと待て、期待の新星、すなわち新人という事か?
理解不能、確かに彼はクーの棺桶で安らかに成仏した筈だ。

从 ゚∀从「コイツの催眠術は実に便利だ。
     スーパーゲームボーイくらい便利だ」

便利の基準が分からない。
それに勝手に話を進めないでくれ。
内藤さんの催眠術は理解している。
知りたいのはどうしてここにいるのか、それだけだ。

川 ゚ -゚)「今はギシアンの元に駆けつけるのが先決だ。
     詳しい事は走りながら説明してやる。
     まずはバイクに乗れ、私が後ろについてやる」

(;'A`)「お、おう。でも俺、乗った事無い……」

/^o^\「取り扱い説明書です」

('A`)「海堂のマニュアル運転なんて糞喰らえだぜ!」



48: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:49:58.52 ID:jvFZllTO0
景色など堪能している暇も余裕も無い。そもそもこの天候だ。
見るもの全てにグレーの靄がかかっているような錯覚すら覚える。

ミニスカの巫女を後ろに乗せて、俺は走る。
なんか凄い轟音となんか凄い煙を噴き出しながら、
なんか凄い曲がって、たまに止まって、色々走って、なんか、その……

それもこれも描写のしようが無いのだ。
どうしてか、単純にバイクの知識に疎いからだ。

川 ゚ -゚)「そもそも、棺桶売りのシステムについて説明していなかったな。
     まあお前が気にする事じゃないと思ってたし、話題にするのも面倒臭かった
     だけなんだが……」

(;'A`)「ちょっと黙ってて、運転に集中してるから!」

川 ゚ -゚)「実は棺桶売りは年々減少しているんだ。少子高齢化によって超能力者自体も
     激減しているしな。そうでなくても、野蛮な霊が現れるもんだから、
     無惨にも霊界死を遂げる同僚も少なくない」

(;'A`)「あばばば――――――――なんか未知の力に引っ張られてるみたいだ――――」

川 ゚ -゚)「そこで、だ。強制送還された中でも目ぼしい超能力者をピックアップして
     養成学校に入れるんだ。己の能力を正しくコントロールし、悪に立ち向かえる
     人材、じゃなくて、霊材を生み出す。校長のオサムさんが直々に教育している」

(;'A`)「あびゃびゃ……おちっこもらちちゃった……」

川 ゚ -゚)「内藤はまだ卒業見込みの段階だが、この度緊急として派遣された。
     それにしても驚くべき成長スピードだがな……」



51: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:52:55.79 ID:jvFZllTO0
川 ゚ -゚)「内藤はヘタレだが頭はいい。トラックが通ると見たルートに、
     あらかじめ強い催眠をかけた人間を数人置かせている。
     完全な足止めまでは出来なくとも、時間稼ぎには十分だろう」

('A`)「尿が抜けると、何か冷静になれるね。
   でもその催眠をかけた人間って無造作に選出したんだろ?
   それって実際どうなんだろうなぁ……うーん」

川 ゚ -゚)「心配ない。催眠をかけたのは死刑同然の罪を犯したが法を潜り抜けた糞野郎達。
     罪も償わずいけしゃあしゃあと生きている奴はこれぐらいして貰わないとな」

('A`)「そんな奴等がこの街に潜伏しているってのが恐ろしいわボケ」

川 ゚ -゚)「しかし、未だラドンの目的がはっきりしないな……」

('A`)「なんとしても止めなきゃな……」

川 ゚ -゚)「……そうだな」

('A`)「このバイク」

川 ゚ -゚)「む?」

('A`)「さっきからブレーキかけてるんだけど全然止まらないんですけど……」

故障か何かでしょうか。
僕は風になっています。
だってスピードメーターはゆうに80kmを振り切って――――――

             ガッシャン ガラガラ



52: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:54:37.58 ID:jvFZllTO0
流石に死んだ、と思った。
バイクで事故って天国。
最高にカッコいいけど最低にカッコ悪い死に方をする所だった。

俺は生きている。一応五体満足である。
こんな貧弱な身体に満足した事なんて一度たりともありゃしないが、とりあえず安心。
柔らかい、何かクッションのようなものがダメージを最小限に留めてくれた。


【*゚ー゚】

(;'A`)「……」

なんじゃこりゃ……?

棺桶を胴体として見るならば、可愛らしい顔が上に付いていて、
右腕が鎌、左腕がハンマーが装備されている。割り箸が脚だろうか。
そして下腹部からはエアバックが。これが俺を救った正体か。

从#゚∀从「ギコの趣味悪ぃ最高傑作、傀儡式棺桶、C‐chだ」

先に到着していたハインは苛々を前面に出しながら言った。
何が気に食わないのだろうか。
ボサボサの茶髪を毟っている。やめろ怖い。

内藤さん、もといブーンはギコの治療にあたっている。
そちらでもどうやらトラブルが起こっているらしく、
敵の攻撃を受けたばっかりに、野郎に手当てを受ける羽目になったギコが叫んでいる。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/01(月) 21:57:20.48 ID:jvFZllTO0
( ^ω^)「痛いの痛いのとんでけー」

( ,,-Д゚)「うっぜぇ!! 殺すぞ新米!!
     ニヤニヤしやがって、そんなに俺がボロボロなのが面白いか畜生!!」

(;^ω^)「ひゃひっ、これでも大真面目ですお!
       これは幼児用催眠療法と言って、遥か昔北朝鮮から伝わる……」

( ,,-Д゚)「誰が幼児だ……あとで……あとで、復活したら覚えてろよアザラシ……」

(;^ω^)「いとコワス」

ほのぼのだ。
どこまでもほのぼのだ。

(;'A`)「ちょっ、待てよ! なんでバイクの俺がお前らより到着が遅いんだ!?」

川 ゚ -゚)「お前……暴走して同じ道行ったり来たりしていたからな……」

('A`)「いやん、はずかちー」

川 ゚ -゚)「決めた。殺す」

クーに殺気が漲り、刀を抜こうとした瞬間。
ギコの口が開いた。

( ,,-Д゚)「お前らよく聞け……敵は想像以上の強さだ。
     単位にすると3500めろん……くらいか」

('A`)「単位可愛いな」



57: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 21:59:16.49 ID:jvFZllTO0
( ,,-Д゚)「ドクオ……頼みがあるんだ」

声は既に枯れている。
雨音の方が大きく、やむを得なく俺は耳元を近づけてやった。

( ,,-Д゚)「クーが……ハインが……敵に負けるだなんて思っちゃいねぇ。
     しかし不安なんだ。どうしても最悪のシナリオばかり連想しちまうんだ」

彼にとっての最悪のシナリオとは何だろうか。
まさか棺桶売りの全めつめつめつめつ……なんて考えているんじゃ……

( ,,-Д゚)「ケーキ屋の……しぃちゃん……
     あいつ、突っ込む、言った。
     おで、おで、あの娘だけは死んで欲しくねぇだ……」

('A`)「……!」

( ,,-Д゚)「でも、霊は人間には触れられねぇ……声を交える事も出来ねぇ……
     しょぼくれを倒せなかった俺には、あの娘を守る術が無いんだ」

守るためには勝つしかなかった。
自分はそれが出来なかった。
それが出来なかったという事は、それが出来なかったという事は、

誰かに勝ってもらうしかないじゃないか。

( ,,-Д;)「お前に守ってもらうしかないんだ……」

('A`)「俺が……守るですって!!?」



59: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:00:27.50 ID:jvFZllTO0
('A`)「つっても見ず知らずの方ですしねー」

从 ゚∀从「ねー」

('A`)「生き別れの妹とか、世界平和の鍵を握ってるおにゃのことかならともかくねー」

川 ゚ -゚)「ねー」

( ^ω^)「先輩キモス」

(ノ,,-Д;)ノ「殺す! お前ら皆抹殺してやる! ブーンを重点的に殺すっ!!」

哀れなロンリーウルフが地べたを這って怒りという怒りを撒き散らしている。
先程の台詞は、己のプライドも何もかも取っ払って託した言葉だったんだろう。
分かっているさ。分かっているから泣いてんじゃねーよ。

('A`)「そもそも最初から役目くらい理解していたつもりだったけどな。
   俺は戦力外だろうし、出来る事と言えば人間を霊の手から守り、逃がす事。
   それだけだ。それしかない」

川 ゚ -゚)「しかしお前しか出来ない事だ」

半分自虐を込めて言ったつもりだったが、不覚にもクーに擁護された。



63: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:02:04.65 ID:jvFZllTO0
川 ゚ -゚)「出来る事をやればいいんだ。出来ない事をやる必要なんて無い。
     世の中、明日は本気出すとか言ってる輩が目立つが、
     本気なんて出さなくたっていいんだ。
     明日また適当に生きる。で、結構じゃないか。
     その代わり出来る範囲で何かひとつやる。それだけ心構えていればいいんだ。

                                どくを    」

('A`)「お前……引出しの奥にある、俺のポエム集見たろ」

川 ゚ -゚)「うん」

('A`)「よし、死のう」

从 ゚∀从「せめて轢き逃げ王子と相殺されやがれ」



俺がケーキ屋『MUSYOKU』のしぃちゃん及び、トラックの衝突が予想されるであろう
近隣の方々の避難の呼びかけ。
ハイン・ブーンがしょぼくれの討伐。トラックを止める係。

川 ゚ -゚)「では私は牧場物語をやってくる」

('A`)「働け! なんか俺が言うと違和感あるけど!
   お前は俺の補佐! なんかあったら守りやがれコノヤロウ!」

川 ゚ -゚)「はーくした」

('A`)「見ててよ! 俺の背中見ててよ!」



65: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:05:02.99 ID:jvFZllTO0
川 ゚ -゚)「背中なんて誰かに見てもらうモンじゃねぇ……
     本当に大切な人には“いつでも護ってあげられるように”
     “いつでも護ってもらえるように”隣に居て欲しいのさ。
                                どくを」
('A`)「ああ、丁度いい所にロープが」

はっはっは。もうお終いだ。
俺の恥に恥を重ねた詩集『DOKUO』の内容がここまで暗記されているなんて。
その本は、全ページに渡り俺のヌード写真が掲載されている。
それをバックにポエムが書き連ねられているのだ。誰か俺の首を〆てくれ。

何故こんなものを一人でシコシコと制作し、自費出版まで考えたのかは
当時の俺に尋ねてみる他ない。まぁその時の俺に遭遇したら躊躇無く絞殺するだろう。

ああ何を考えていたんだ。
中学二年生の時の俺は。

从 ゚∀从「バイクは故障して使えないとなると、ドクオよ、テメェどうやって
     トラックより先回りするんだ?」

('A`)「俺には、この脚がある……」

( ^ω^)「無茶だけはしないで下さいお」

('A`)「分かっているさ。ヘイ、タクシー!」

ププー ガチャ
     ブロロロロ…

( ^ω^)「……」



67: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:06:13.89 ID:jvFZllTO0
               【+  】

从 ゚∀从「さてさて……では俺達も行くか」

ハインはブーンに目で合図した。
「ついてこいコラ」という視線だ。
つまりは絶対服従である。

( ^ω^)「でも、トラックの位置が分かりませんお。
       各エリアに超人達は配置しましたが、実際トラックを足止め出来ているか、
       そういった情報は何も……」

从 ゚∀从「ああうん、はいはい、よし……いまからそっちへ向かう」

ブーンの言葉を無視するかのように、ハインはトランシーバーで連絡を取っている。
部下達をバラけさせ、トラックの捜索をさせていたのだ。

(;^ω^)「迅速過ぎるお……」

从 ゚∀从「じゃあ気張っていくぞ」

( ,,-Д゚)「待てハイン……」

从 ゚∀从「あ?」


( ,,-Д゚)「連れて行ってほしい奴がいる」



70: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:08:24.08 ID:jvFZllTO0
「しょぼくれ、討ち取ったり!!」
「どけ、俺が先だ!」
「てめぇどこ高だコラ」

ターゲット目掛け一斉に襲い掛かるのは、迷彩柄を身に纏った棺桶売りの戦士達。
車上に立った一人の紳士、ショボンは言うまでも無く彼らの的。
皆、出世がかかっている。ここで危険分子と呼ばれるショボンを倒せば、
手柄、デカイ顔、出世、出世、出世である。えはん。

(´・ω・`)「黙って私が殺されるとでも思っているのか」

未だ停止したままのトラック。
しかし、もう直ぐだ。
ババアの表情が険しい。術の切れが近いと見ていい。

敵は一、ニ、三名。いや、物影に数人潜んでいるか。
何にせよ、この一戦さえ凌げばどうにかなりそうだ。
迫る棺桶売りの面子を確認する。個人の実力は決して低くは無いだろう。

(´・ω・`)「しかし、僕からして見れば……」

ショッカーと同じようなものだ。負ける気などしない。

(´・ω・`)「私の戦闘力は3500めろんです」



76: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:15:32.36 ID:jvFZllTO0
男が二人、挟み撃ちの形で迫ってくる。
腕には鎖、その先には棺桶。
万が一入れられてしまうような事があれば、一瞬で強制送還だ。

ショボンはスーツの懐から二丁拳銃を取り出すと、間髪入れず発砲した。
しかし無情にも弾丸は防がれる。棺桶が盾になり相手には届かない。
男達は勝ち誇った笑みを浮かべている。

だが奇妙な事に、ショボンも同様の表情を作っている。

「何がおかしい!」

一人が棺桶を振り被る。
が、どういう訳なのか、ショボンから離れた、明らかに見当違いの方向に攻撃が飛ぶ。

「これは……」

(´・ω・`)「お前ら……全員、柳沢敦だ……」

「急に催眠術が来たので……」

鈴だけが催眠の手段では無い。
最低限の音域さえ理解すれば、微力ながら術を流す事は可能。

(´・ω・`)「弾なんて最初から当てるつもりは無かったさ。銃声さえ聞かせればそれでいい」

しかし、使い慣れていない鈴の音以外の催眠の効果は本当に微々たるものだ。
効果は数秒で切れる。

(´・ω・`)「数秒あれば十分」



77: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:17:22.98 ID:jvFZllTO0
一瞬で、殴る殴る殴る。蹴る蹴る蹴る。
(´・ω・`)「やーいやーい、お前の母ちゃん和月信宏」
言葉責め言葉責め言葉責め。
ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……

その場の全員を秒殺。
同時に異変が訪れた。
ババア。高速でその場を去っていく。

ババア「韓流ドラマ録画しなきゃ」

(´・ω・`)「……」

とにかく全ての邪魔者が消えた。
そう考えながら、車上でショボンは汗を拭った。
息を吹き返したトラックは、再びタイヤの回転を始め、徐々に加速していく。

从 ゚∀从「そこのトラック待ちやがれえええええええええ!!」

(;^ω^)「いだだだだだwwwwwwwwww」

豚を引っ張りながら、乱れた茶髪の少女が駆けて来る。
服装は十秒前に潰した男達と同じ迷彩服。
小太りの方の服装は……あえてショボンは目を瞑った。

ハインは身軽に車上へと飛んだ。着地し、ショボンを見て舌なめずりをする。

(´・ω・`)「次から次へと……蝿かお前らは……」

从 ゚∀从「苛々しなさんな。一瞬で終わるからよ」



80: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:20:17.27 ID:jvFZllTO0
(´・ω・`)「よろしい、ならば戦争だ」

スーツを脱ぎ捨て、ショボンは上半身を露にした。
無駄な肉が見当たらない、非常に逞しい肉体だ。

( ^ω^)「乳首ビンビンですね」

その肉体の持ち主が、今まさにハイン・ブーンのコンビを始末しようと駆け出した。
その速度にブーンはうろたえるが、依然ハインは小悪魔の微笑みを崩さない。

(´・ω・`)(む……!?)

背中に何かを背負っている。
見た事があるような、無いような、あるような、それにハインは手を伸ばす。
その刹那(←何かカッコいいけど厨臭いね)
ショボンの動きが鈍り、極端に身体が重くなった。

『君は曙だ……曙だ……』

(;´・ω・`)「こ……れは……」

从 ゚∀从「あいつはよぉ、俺と同じで何でも勝たなきゃ気が済まねーって奴なんだわ。
     そんな奴がさー……後に希望を残す負け方が出来るとは思わなかったなー。
     なーんだかね。なーんなんだろうね、この気持ちは」

【*゚ー゚】『君は曙だ……曙だ……』『チリン』『チリン』

(;´・ω・`)「!!」

从 ゚∀从「C‐chには録音の機能がついている。催眠術師、催眠術に溺れたな」



82: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:22:44.62 ID:jvFZllTO0
(´・ω・`)「なんで300年の歴史で横綱が68人しかいないのか教えてあげますよ」

( ^ω^)「終わってみると、人が綱を選ぶんじゃなくて、綱が人を選ぶんです」

从 ゚∀从「さて」

ハインが耳栓を投げ捨て、自身の棺桶を構える。

(;´・ω・`)「クッ……ククク……まだだ。まだ終わらんよ」

从 ゚∀从「あんだと?」







(´・ω・`)「僕にはまだ……奥の手があるのさ!!」





84: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:23:45.52 ID:jvFZllTO0
以上です。
支援ありがとうございました。
次回はリアルが忙しくて三ヶ月くらい先になりそうです(笑)



85: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:24:36.44 ID:jvFZllTO0


   勝手に終わらすなコラァ!          ドゴォ
                   _ _     .'  , .
          从  _ - ― = ̄  ̄`:, .∴ '     (#)´・ω・`)
         , -'' ̄    __――=', ・,‘ r⌒>  _/ /
        /   -―  ̄ ̄   ̄"'" .   ’ | y'⌒  ⌒i
       /   ノ                 |  /  ノ |
      /  , イ )                 , ー'  /´ヾ_ノ
      /   _, \               / ,  ノ
      |  / \  `、            / / /
      j  /  ヽ  |           / / ,'
    / ノ   {  |          /  /|  |
   / /     | (_         !、_/ /   )
  `、_)      ー‐‐`            |_/



89: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:26:42.74 ID:jvFZllTO0
从#゚∀从「露骨な時間稼ぎすんな!!」

(´・ω・`)「ここまでか……」

从 ゚∀从「……あばよ」

現状でショボンを捕らえるのは容易。
油断が余計に催眠の効果を肥大させたのだろうか。
ショボンは膝をついたままピクリとも動かず、
半ば諦めたような眼でハインを見上げていた。

(´・ω・`)「無念……」

もっと“生きたかったな”

(´ ω `)(何言ってるんだ私は……)

死人が、生きたい、か。
やれやれ表現に困る。

スローモーションで、棺桶が、覆い被さるように。

『ドンッ』

(´ ω `)「――――――え?」

横から何かに押された。
一瞬、足が浮いて。身体は、トラックを離れて宙に投げ出された。

地面に叩きつけられる前に、見えたものは



93: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:28:40.92 ID:jvFZllTO0
( ´∀`)

モナーの生首。

( ゚ω゚)「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ
      ワンダープロジェクトJ2のメッサラだあああああああああああああああ」

从 ゚∀从「クソッ……!!」

飛んできた方向を見る。しかし悲しいがな、そこには雨と風と灰色しかない。
代わりに一言、「ストライーク」と、トーンの高い声が聞こえたような気がした。

( ´∀`)(……ショボンが……無事なら……)

モナーの頭は砂のように、さらさらと溶けていった。

从 ゚∀从「生首切り落として投げるたぁ……ラドン側にも相当な糞が居やがるな……」

結果的にしょぼくれは、催眠術師は助かってしまった。しかし追い払えた。
棺桶売りは、霊。直接人間に触れる事は出来ないが――

从 ゚∀从「ブーン……お前なら、このドライバーの催眠を和らげられ……」

振り返る。

从 ゚∀从「あれ?」

目を擦る。

从 ゚∀从「……ブーンどこいった?」



97: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:34:55.51 ID:jvFZllTO0
从;゚∀从「まさかさっきのホラー映像で!!」

               ⊂('A`⊂⌒`つ

|  ^o^ | わいぱー おいしいです

| ^o^ | それはしょうゆです

('A`)「……」

なんだよこのタクシー。
ドライバーはいいとしよう、
しかし何で後部座席にもう一人の運転手らしき人物が同乗してるんだよ。
せめて、前二人で占拠しろよ。

|  ^o^ | びゅーん たくしー びゅーん

とりあえずギコとの男の約束を守るため、最短ルートでケーキ屋方面へ向かっている。
割りと距離はいったんじゃないか。少なくともトラックは追い越している……筈。

('A`)「ん……?」

川 ゚ -゚)「どうかしたか?」

前方、道の脇に佇む老人。
何かを持っている。
刀の、柄。柄だけを掴んでいる。

/ ,' 3「……」



98: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:35:43.22 ID:jvFZllTO0
(;'A`)「ゲッ……オ、オーナー!!」

思わず腰を抜かした。
店放置して、こんな所で何をやっているんだ。
自分が言えた義理じゃないが。

/ ,' 3「愛のままに……わがままに……」

タクシーとオーナーが擦れ違う。
一瞬、手に持った柄で何かを斬る動作をしたのは気のせいだろうか。

('A`)「あービックリした……どうしてオーナーがこんな日にこんな場所で……」

静寂。
……クー?

川 - )

なんで腹抱えて血ぃ噴き出して……


/ ,' 3「僕は人間だけを傷付けない」


(;'A`)「う、うわああああああああああああああ!!!」



100: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:37:09.45 ID:jvFZllTO0
|  ^o^ | どうかしましたか?

タクシーが急ブレーキをかける。
その反動で、クーが扉をすり抜けて、地面に落ちる。

あまりにも、ゆっくり、静かに。

(;'A`)「クー!」

思いっきり窓ガラスに顔面をぶつけた。
そういえば今は人間だった。なんて俺は間抜けなんだ、なんて呆れる余裕も無い。
ドアをブチ開け、ようやくクーの元に辿り着いた。

(;'A`)「ちょっ、おい! しっかりしやがれ!!」

|  ^o^ | ???

さぞかし運転手には奇妙な光景に見えた事だろう。
何も無い空間を揺らし、声をかけているのだ。

| ^o^ | おなかがいたいです

後部座席の人がぶっ倒れた。
クーと同じく、腹から鮮血を散らして。

(;'A`)「なんだ、なんなんだ、これは……」

なんだ、なんなんだ、これは。

何が起きている???



103: ◆R38CE/IWYU :2007/10/01(月) 22:39:40.71 ID:jvFZllTO0
| ^o^ | どらいばーのまもりがみとよばれたわたしにもじょうぶつするときがきたか

(;'A`)「まさか……」


幽霊だけが?


砂利が擦れる音が聞こえた。
見上げると、そこに立っていたのは、紛れも無くウチの店長。オーナー荒巻。

/ ,' 3「待ってたよ、鳳凰寺ドクオ君……いや」

(;'A`)「は……?」

手を差し伸べられた。

皺くちゃの手が、目の前に。



/ ,' 3「迎えにきたよ」







                                 トゥービーコンティヌー



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