('A`)ドクオは棺桶売りのようです

6: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:16:18.47 ID:wGr+xkfD0
               ⊂('A`⊂⌒`つ

俺は今、猛烈に無職である。
何せ店長である荒巻に歯向かい、死闘を繰り広げ、更にはタクシーで撥ねてしまった。
そうじゃなくても「バイトも今日っきり」と俺は宣言した。失業とは違う。
自分から辞めてやったのだ。

コンビニ。
胸を張って自慢できる職場ではないが、俺にとっては大切な場所のひとつだった。
この仕事は、人の手に触れる。数百、数千の、顔も名前も知らない人の手に触れる。

お客の手が触れる度に安心したものだ。
ああ、俺は生きているなー。この人も生きているなー。
今日も世界は愛に包まれ、人と人とが触れ合い、生きているんだなー。うふふ。

それは少々オーバーだとしても、やや気持ち悪いとしても、だ。
他人の手に触れ、体温が伝わると、生きている実感が湧いてくる。
幽霊では味わえない感覚。確かに人間の俺がここにいるという真実。

「180円のお返しですぅ」
「ありがとう、今日も笑顔が輝いているよ」
「わぁ、嬉しい。ドクオかんげきー」

その愛の国ガンダーラを、自ら手放してしまった。
もうコンビニ店員じゃない俺。手を触れてくれる人は、いない。
ババアの叫びと、度重なる暴力も、今となってはいとおしい。

あのパンチも、キックも、波動も、心と心のお触れ合いだったのだ。
あれこそ人生の糧だったのかもしれない。ババアへの憎悪が仕事への情熱と変わり、
愛しさと切なさと心強さの渦の中で、人間の俺は光を見つけ、追っていた。



8: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:18:01.17 ID:wGr+xkfD0
だが、その光は音も無く消え去った。
同時に訪れる漆黒と静寂。
取り残された俺は、動く事も出来ずに、
世界が闇に覆われていく様を黙って眺める事しか出来ない。

一体、何故こんな事になったのだろうか。
あんなに近くに、希望の灯火はあった筈なのに。

('、`*川「消灯時間なので、お電気消しますねー」

この呪文が、俺の光を奪ったのだ。

('A`)「午後九時に消灯だと……馬鹿な……頭がどうにかなりそうだ……」

俺は今、猛烈に入院患者でもある。
ここはVIP総合病院。
数え切れない程の医療ミス。医療事故。それらを隠蔽。
更には診療報酬の不正受給。患者への暴行。恐喝。エトセトラ……
そんな事が耐えない、非常に素晴らしい施設である!

まあ、それは遥か昔の話で、現状は大分マシになっているらしい。
それよりも気に食わないのが、この男と相部屋だという事だ。

/ ,' 3「鳳凰寺君……寝たのかい……?」

荒巻。この奇妙な巡り合わせは、何かしらの見えない力が働いているとしか思えない。

('A`)「寝てねーですよ、ばかやろー」

/ ,' 3「じゃあ朝まで語り明かそう」



10: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:19:46.62 ID:wGr+xkfD0
今夜は月の光さえ、無い。
店長がどんな表情をしているのかは、全く分からない。
分かっているのは、あんな血で血を洗う戦いの後だというのに、
お互い案外落ち着いているという事だけだ。

俺と店長、同時に目が覚めたようだった。
俺はトラックを運転した際の、ケーキ屋直撃による衝撃。
店長は戦闘による負傷。決定打は俺のタクシー攻撃。

二人同じタイミングで起き上がり、居場所をキョロキョロと見回した。
そこにあるのは見覚えのありまくる顔。

('A`)『あーっ! お前はあの時の!』/ ,' 3

ありがたい事に、二人の身体が入れ替わっていたとかいう、
ファンタスティックなハプニングは起きなかったようだ。よかった。
こんなご時世ですから、目が覚めたら改造人間になっていても、文句は言えないのです。

しかしながら人間という生き物は、自分達が思うより頑丈に出来ている。
荒巻は数箇所の骨折はあっても、命に別状は無い。
俺の場合、頭に包帯こそ巻いているが、結局は目に見える外傷に過ぎず、
脳味噌がメッタンメッタンとか、そういう生死を彷徨う的な症状は見られないと、医師は自分の乳首を弄りながら説明してくれた。

君も摘みたまえ、と半ば命令口調で言ってきたので、
遠慮なく摘ませてもらった。医師は絶頂に達し、顔を赤らめた。俺は静かに涙を流した。
ちなみに医師は今年還暦を迎えるおっさんだ。下の名前は徹彦である。

ともかく、俺は荒巻と感動の欠片も無い再会を果たしたのである。
病室は共に404号室。はっはっは、普通にあるんだねー、404号室って。



11: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:21:34.73 ID:wGr+xkfD0
('A`)「何が悲しくて野郎と二人……しかも、加齢臭漂うジジイと
   密室でお喋りしなきゃならねーんだ。拷問だよ、クソゥ」

/ ,' 3「ま、そう言ってくれるな。話題なら腐るほどある」

一度咳払いをして、それからまた、口を開いた。
言葉が発せられる。

/ ,' 3「ラドンは、解散する」

('A`)「何……?」

それは余りにも唐突で、思わず耳を疑った。
本気でこの男は、ラドンという組織を使い、霊界の革命を目論んでいた。
行いが善か悪かは別として、その姿勢と覚悟は決して中途半端なものでは無かった筈だ。

/ ,' 3「ラドンの軍団は、ショボンを除き全滅した。長の私ですら、このザマだ。
   今や棺桶売りを脅かしていたラドンの面影は無い。ただのチンカスだ。
   思えば今回は無駄に纏まり過ぎた。以前はある程度各地にバラけて行動していたが、
   今回は全員が一箇所に集中した。そこをオサムに叩かれた。完敗だ」

('A`)「負けたから解散なのか? それは単なる逃げじゃないのか?」

いや、何を言っているんだ俺は。
何故この期に及んで、撤回を唆すような台詞を投げたんだ?
いいんだよ、解散で。と、言い聞かせるも、あれほど熱を込めて自分の正義を語った人間が、急に府抜けていく様子を見て、妙な落胆を感じていた。

/ ,' 3「逃げ? 違うな、全てを諦めた訳じゃない。
   私は一時的に身を潜め、時を経て、再び新たな集団を確立していく。
   ラドンは崩壊したが、また一からやり直せばいいだけの話だ。ポジティブだろう?」



15: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:23:47.11 ID:wGr+xkfD0
('A`)「その時が来たら、また潰してやるさ」

と、今回特に戦った訳でもない自分が宣言してみる。
敵は絶えないほうが、連中も程々に退屈しなくて済むだろうし。

/ ,' 3ノシ「突然ですが質問です」

('A`)「はい、荒巻君」

/ ,' 3「君は……どうやって、あの暴走トラックを止めた?
   ドライバーにかけたショボンの催眠は、そう簡単に解けるようなものでは無かったと思うのだが……
   見るからに非力そうな君は、彼に何を語りかけたんだ?」

('A`)「うーん……すっげー心にも無い事言ったかも……
   いや、もしかしてアレが俺の本心か? だとしたらあの時は天使の方の俺が
   囁いたのかもしれない。ボクの中に眠る一握りの両親、エンジェル・ドクオの一声かしら」

/ ,' 3「想像したくないな」

('A`)「轢き逃げは駄目だ。催眠に負けて走り続ければ、いつかお前の大切な人も、
   その手で葬る事になりかねん〜うんちゃらかんちゃら、とか言ったかも」

/ ,' 3「老人をタクシーではね飛ばした奴が言う台詞じゃないな」

('A`)「真の正義の前では、どんな矛盾もひれ伏すよ」

/ ,' 3「要所要所で主張を変えると、後から苦労するぞい」

('A`)「基本的には一本気でも、時と場合で移り気じゃないと駄目だぜ」



17: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:26:13.14 ID:wGr+xkfD0
/ ,' 3「言葉の力か」

('A`)「催眠術には負けねーよ」

人間に与えられた最大の情報伝達手段。
伝えたいと思う意思があるから、言葉は強い。
言葉は負けない。いや負ける。脆い場合もある。でも人は言葉を信じ、使い続ける。

俺は人間にも幽霊にも声を届ける事が出来る。
これは最大の武器かもしれない。
今更ながら、そんな事を考えた。

暫くして、荒巻の鼾と歯軋りが聞こえてきた。
最初は気に止めないようにしていたが、やがて苛々は募り、「うっせぇジジイ」と
声を張り上げてみた。

反応、無し。
声が届かないケースもあるようだ。

とりあえず俺が眠れないので、荒巻の鼻と口にティッシュを詰めた。
騒音は止んだ。俺は安眠した。







18: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:27:45.04 ID:wGr+xkfD0






















  第
第七話
  話



20: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:29:00.43 ID:wGr+xkfD0
               【+  】

目を覚ますと、真っ白な空間に一人、ぽつんと立っていた。
その場所は明らかに異質。天井や壁がある訳でもなく、どんなに目を細めても、
果てしない白の平面が広がっているだけであった。

( ゚д゚ )「これは……?」

ミンナは自分が置かれている状況を理解しようと、頭を働かせるが、
平凡な人生を送ってきた自分と、この不思議な空間に居る自分が一致せず、
余計に混乱を招く原因となった。

( ^ω^)「おいすー」

背中越しに、朗らかな声が聞こえた。
振り返ると、そこには少々肥えた若者が立っていた。
独特の口元はアザラシを連想させる。けれどそこまで可愛らしくも無い。

しかし、その屈託の無い笑顔は、どこか人を安心させる効力があった。
ミンナ自身それは感じていた。
何処の誰かは存じないが、その笑顔を見て、困惑していた気持ちが薄れていく。

( ゚д゚ )「あ、あはは……」

( ^ω^)「ふふふ……」

( ゚д゚ )「ははは……」

( ゚ω゚)「このビチグソがああああああああああああああああああああ!!!」



21: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:30:41.22 ID:wGr+xkfD0
「ええええ――――っ?」と心の中でリアクションを取り、
ミンナは後退りした。
「ここは○○の村です」とか説明してくれる優しい人が、突然戦闘を仕掛けてくるような
不意打ちであった。若者は完全に瞳孔が開いている。怖すぎ。

( ^ω^)「って、本当は怒りたいんですけど」

また急に笑顔になった。
目は優しく、声も穏やかなものに戻っている。
その豹変振りは、まるで仮面を付け替えたようだった。

( ^ω^)「あなたも被害者ですから」

( ゚д゚ )「ひが……い……しゃ…………!」

( ^ω^)「本当は冴えない運ちゃんのまま、一生を過ごす事になっていたんでしょう。
      しかしあなたは負けてしまったんですお。催眠術ではなく、
      自分自身の弱さに。心のふかーい所にある、脆い部分を突かれて、
      まいっちゃったんですお。あなたは」

( ゚д゚ )「もろい……ぶ、ぶん……!」

( ^ω^)「あなたは『自分は交通事故なんて起こさない』なんて錯覚していたんですお。
      本当は一秒後、誰かを轢いて、殺人者になってもおかしくない職業に就いているのに。
      そんな、心のどこかで非現実だと思っていた事が実際に起きた。
      勿論それはあなたの不注意ではなく、催眠術の所為ですお。
      でも貴方は逃げたお……それがまずかったんだお」



22: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:32:55.64 ID:wGr+xkfD0
( ゚д゚ )「俺は……逃げた。そうだ、俺は、あの時目を覚ましたんだ。
     青年を、はねた。その瞬間、どうにかなっていた頭が正常になって、
     急に怖くなって……止まる事もせずに……その場から逃げた……」

轢いた瞬間。
その時点で催眠は解けた。
問題はそこからだった。ミンナは正常になった上で、逃げた。
罪の意識を持ちながら、その場を後にしたのだ。立派な轢き逃げだ。

( ^ω^)「貴方は翌日自首しようと考えたのだろうけど……それは遅過ぎたお。
      結果的に再び催眠を喰らうハメになったお。
      僕としては……僕としては、事故を起こした瞬間、止まって欲しかったお。
      そうすれば、僕一人死ぬだけで丸く収まったお。
      また催眠をかけられる事も無く、あなたは少し警察のお世話になるだけで
      済んだと思うお」

覚悟が一日遅れただけで、多大な被害が出た。
トラックの犠牲になった人だけでなく、ミンナ自身も含めての、被害だ。
操られていたとはいえ、ミンナは大勢の人を殺めた。その事実は消えない。

( ^ω^)「そう、死ぬのは僕一人で十分だったんだお……」

( ゚д゚ )「君は――――」

( ^ω^)「最初の犠牲者、生前は内藤という名前でしたお。今は別の名がありますけど」

( ゚д゚ )「そうか、じゃあ内藤君……」

ミンナは膝をつき、次に手を地面に合わせた。
俗に言う土下座である。



25: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:34:58.91 ID:wGr+xkfD0
( ;д; )「本当に済まない! 取り返しのつかない事を自分はした!
     君と、犠牲になった人達に、謝りたい!
     許してくれとは言わない! 寧ろこんな男を許さないでくれ!
     自分に負けた、こんな糞野郎がいるからいけないんだ!
     俺が勝手に他人の人生を終わらせたんだ! 鈴の音なんて、下らない幻聴に
     どうして屈しちまったんだ! ちくしょう! ちくしょう!
     詫びれるなら、どんな事もしてやる! 受け入れてやる! この命をもって……」

( ^ω^)「確かに貴方の弱さが事を大きくしたのは間違いありませんお。
      でも、貴方が死ぬ必要は、温水洋一の毛ほども無い。
      人は自分の弱さを知って、初めて強くなれますお。
      貴方がここで自分の人生に歯止めをきかせたら、命を持って、貴方の弱さを
      証明した僕や犠牲者は余計に報われませんお」

だから――――と、若者は続けた。

( ^ω^)「頭を上げて、前を向いてくださいお」

( ;д; )「うっ……ぐっ……」

涙を拭い、ゆっくりと頭を上げた。

( ゚д゚ )「本当に……申し訳ない……」

爪'ー`)y‐「ああ! ホントに申し訳ねーよ、てめぇは!!」

( ゚д゚ )「……あれ?」

爪'ー`)y‐「何日無断欠勤してんだコラァ!!」



26: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:36:46.29 ID:wGr+xkfD0
土下座の体勢はそのままだが、前に居る男はアザラシではなく、自分の上司だ。
先程の白い空間は何処へやら、ここは見覚えのある、というか毎朝来ている倉庫だ。

爪'ー`)y‐「謝るのはもういい、ちゃっちゃと商品を積み込め!
     いつまでもそこに居られると迷惑なんだよ! おジャ魔女!」

( ゚д゚ )「は、はぁ……いや、はい!」

爪'ー`)y‐「ふぅ、返事だけはいい奴だな。ったく」

上司の溜息をよそに、ミンナは自分の作業を開始する。

( ^ω^)「これで全部がチャラになったわけじゃないけど――――――」

( ゚д゚ )「ん……?」


倉庫の高い位置に取り付けられた窓。
そこから差し込む太陽光は眩しく、バックには優しい水色の空があった。
そんな不意に見えた青空から、先程の若者が微笑んでいるような
気は特にしなかった。






30: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:38:27.80 ID:wGr+xkfD0
               ⊂('A`⊂⌒`つ

『轢き逃げ王子の一件で逮捕された、西村ぐろゆき容疑者、永遠の19歳は
 「そんな国のルールに基づいて罰せられるのは、ばかばかしい」と証言しており、
 私は正直漢を見ました……濡れ濡れです』

画面に映されたのは、全く記憶に無い顔と名前。
最初は何事かと思ったが、ブーンが警官や珍走団を催眠をかけた事を思い出し、
「ああー……」と一人、病院の一階ホール、テレビの前で頷いた。

/ ,' 3「完全に情報操作じゃね」

荒巻が俺の隣の席に座った。
ヤクルトにストローを挿して、ちゅーちゅーと幸せそうに吸っている。
そんな平日の午前。

('A`)「でもさ、操られていた運ちゃんは、結局催眠にかけられていたに過ぎないだろう?
   それで知らない間に捕まって死刑なんて、可哀相にも限度があるだろうよ……
   そこで架空の容疑者逮捕して国民釣ろうぜ、ってシナリオだろうな、多分。
   ま、棺桶売りの面子が何かしらを操作したのは間違いないが――――――……」

/ ,' 3「間違いないが?」

空になった容器を側のゴミ箱に捨て、荒巻はポケットから二つ目のヤクルトを取り出す。
思えばこのジジイ。朝目覚めて、挨拶を交わした時も飲んでいた。
「昨夜呼吸困難になって死にかけたんだけど、ヤクルトのお陰で助かった。
彼女も出来たし、宝くじも当たりました。幸せです」と陽気に言った。
どんだけ乳酸菌取れば気が済むんだ、と突っ込みたい気持ちを抑える。

('A`)「俺がこの青空に叫びたいのは、どうして俺が英雄扱いされないんだって事だよ!」



32: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:40:06.03 ID:wGr+xkfD0
そう、命懸けで暴走するトラックを停止させ(ケーキ屋には突っ込んだが)
国民の生命を守った、この俺、ドクオは何故誰からも評価されないんだ?
一躍ヒーローだろ、この男は。少々身長は足りないし、顔も褒められるほど整っている
訳でもないが、大事なのは見てくれではなく、その勇敢な心と熱い魂だろうが。

('A`)「ヘ、ヘイ彼女! 俺がどういう理由で入院してるか知っているかい?」

通りすがりのナースに勇気を出して声をかけてみた。
清潔感溢れる純白のナース服に加えて抜群のスタイル。なんと綺麗なラインだろうか。
お顔もさぞかし素敵な……

(´・_ゝ・`)「はい? ああ、404号室のドクオさんですね? 勿論知ってますよ」

('A`)「なんだ男か。で、理由は?」

/ ,' 3「切り替え早いな」

(´・_ゝ・`)「主婦にブン投げられ、偶然窓からトラック運転席に侵入&犯人に激突。
       運転手が気絶したため、貴方がトラックを止めたってお話でしょ?」

('A`)「八割合っているのが悔しいな……」

/ ,' 3「男には突っ込まないんだ」

そう言えばこのナース、以前にも会った気がしてならない。
向こうも同じ事を考えているのだろうか、俺の顔をまじまじと覗き込んで、
時折唸って、「どこかで……?」と呟いている。

('A`)「あ! 思い出した。ヤクザの人だ」



34: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:41:08.30 ID:wGr+xkfD0
そうそう、稚内さんの一件でお世話になった阿部組の方だ。
聞く所によると「ヤクザなんて副業です。偉い人にはそれがわからんのですよ」だそうだ。
理解に苦しむが、阿部組というのは本当に自由奔放だ。
ヤクザじゃなくて、部活動か何かだろ、絶対。
しかし、どうしてナースなのか。

(´・_ゝ・`)「着たいからだよ。ナース服」

('A`)「おk。もうお前には何も聞かない」

世も末だ。
事実も捻じ曲げられるし。いや、大体は一致しているんだけど、なんか、こう。ね。
やはりマスコミも取り上げないというのは、何かしらの力が働いている。
奴らからしてみれば、俺をヒーローと称えて一週間はその話題で繋げるだろう。

それが無いという事は、極一部の人間を除いて轢き逃げ王子は、
『勝手に店に突っ込んで捕まった、自滅野郎』という認識をしているのだろう。
ああ、英雄はここにいるのに。
だが棺桶売りからしてみれば、俺が目立つのは芳しくないという事か。
そりゃそうか。顔が全国ネットで有名になれば、俺の正体が白日の下に晒される危険性も
ゼロではない。俺が全くの素人だからこそ、この能力は生きるのだ。
一度顔が売れたら、それはそれは面倒な事になる。
外を歩けばおっかけが付き纏い、店に入れば店員からサインを頼まれる。
自宅には隠しカメラが取り付けられ、盗撮犯のおちゃめな女の子は、俺の私生活の
渋さにその身を悶えさせる。これはいけない、いけないぞドクオ。

('A`)「成る程、そういう事態を考慮した上での、こういった結論か……
   それなら納得だ。いやぁ良い男はつらいなー」

/ ,' 3「じ、自意識過剰もここまでくると尊敬に値するわ……」



38: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:42:59.40 ID:wGr+xkfD0

……あれ?

('A`)「何か違うんだよなぁ。そんな英雄云々より、もっと大切な事を忘れているような……
   もっとこう、現状において重要視しなきゃいけない感じの……」

/ ,' 3「退院した後の生活、とか」

それだ。
俺は今、猛烈に無職である。
何せ店長である荒巻に歯向かい、死闘を繰り広げ、更にはタクシーで撥ねてしまった。
そうじゃなくても「バイトも今日っきり」と俺は宣言した。失業とは違う。

('A゚)「自分から辞めたんだった――――――!!」

いやいや、待て待て、所詮バイトだ。
不思議な事に、今俺は荒巻とかなり打ち解けている。
一言謝って、また働かせてくれと懇願すれば、あるいは……

/ ,' 3「私は実の所、構わないよ。しかしババアさんが許してくれるかは保証出来ないがね。
   ただでさえ、普段の君の怠惰振りに彼女は憤っている。
   いや、鳳凰寺君はよくやってくれているよ? でもね、彼女はどんな些細なミスや
   一秒の遅刻でも、傷口を抉るように詰め寄るからね。
   ブン投げられたんだろ? 君にもう一度あの店に戻る勇気と覚悟はあるかい?」

('A`)「ないです」

/ ,' 3「ま、戻ってきた所で瞬殺されるのがオチだろう。
   あの人は仕事を持ちながら、それを疎かにする人間が大嫌いなんだ」



39: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:44:19.99 ID:wGr+xkfD0
('A`)「疎かって、俺は世界平和の為に尽くしたじゃないか!」

燃えないゴミにブチ込まれていた、カーリング用のストーンを床へ滑らす。

/ ,' 3「フン、多大な犠牲者を出しておいて、偉い顔するんじゃない!」

荒巻はブラシでストーンの周りを何かシャカシャカした。

研修医のような人に、迷惑なのでカーリングをしないで下さいと怒られた。
カーリングも出来ないこんな世の中じゃ、POIZON。
とか歌いながら、自由を奪われた、この制限だらけの世界を恨んだ。

更に、床が傷ついたので、修理費は後日請求します、なんて言われた。
しかし俺達は何もめげちゃいない。
自分の翼を思い切り羽ばたかせたのだから、そこに悔いなど無い。

俺と荒巻は抱き合った。二人だから悲しみも半減だ。
しかし他の患者さんの視線が異様に冷たかった。俺は氷結した。な!

('A`)「と、言う訳で部屋に戻る僕らであった」

この病院の何が良いかと言うと、廊下がとても広い事に尽きる。
これだけ横に幅があれば、急患でガラガラと人が運び込まれても、
その隣で「勝訴」の紙を持って走れる。それくらい広いぜ。ここの医者の心は。

/ ,' 3「だが、カーリングは少々やりすぎたな。怒られても文句は言えんのう」

('A`)「何でも思いつきでやっちゃ駄目なんだな。この前のラジオのしりとりとか……」

/ ,' 3「おま……消されるぞ……」



42: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:46:21.00 ID:wGr+xkfD0
階段を上り終え、自分の住処がある四階のフロアへ辿り着いた。
荒巻に体力面の衰えは無いものと思っていたが、案外足腰が弱いようで、
待つのも面倒な俺は、かなりの差をつけて、上って来たのである。

ニ、三人のナース達と挨拶を交わし、404号室を目指す。

('A`)「あ!」

角をひとつ曲がり終えた所で、俺はある後姿に目を奪われた。
入院患者共通の服を着ているが、その背中から漂う負のオーラは、ただの喪男とは違う。
洗練された駄目人間のみが放つ事を許される“気”である。

こいつは間違いない。奴だ。
直接顔を見なくとも、背中で判別できる。
もし奴がカードだったら、裏面のまま、言い当てる事も出来そうだ。
香水をつける必要も無い。

('A`)「よー、ヒッキー」

(;-_-)「う、うびゃあああっ!!? ドド、ドックン!? な、なんで……?」

声一つでそこまで驚くか。
俺流のサプライズを用意したつもりはないのに、ここまでビックリされると、
申し訳なさすら感じてきた。「いきなり悪かった」と、とりあえず頭を下げる。

('A`)「なんでって……俺は世界を守って負傷したんだよ。お前は?」

(;-_-)「あ、ああそう……僕は……その……面接に行く途中で、轢かれたんだよ……」

('A`)「そりゃ不幸だな。しかし、面接? お前が? へぇ、どこに?」



43: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:47:57.20 ID:wGr+xkfD0
(゚_゚)「テメェの職場だよチクッショオオオオオオオオオオオオオオ!!
    ドックンがあんな所に勤めてなけりゃ、僕だって轢かれずに済んだんだ!
    つまり、ドックン! 君は間接的に僕をはねたようなものさ!!」

指を向けられる。
ビシィ、と効果音が出そうな勢いだ。

(;'A`)「ちょwwwww意味が分からんwwwwwwwww
    無茶苦茶だ! 大体、何? 俺と一緒なら仕事出来るとか思ってたの?」

そりゃ轢かれて良かったかもな。
だってお前が勤めようとしていた職場には、もう俺という店員はいないのだから。
なんというすれ違い。オレら同調しやがった……

('A`)「つまり、お前は真性の阿呆だという事だ」

(-_-)「呪ってやる! 呪ってやる!」

ヒッキーが腕を振り上げた時、周りの老人数名がざわざわと、どよめいているのが分かった。
いかんいかん、さっき何を学んだんだ俺は。病院ではお静かに、だ。

(;-_-)「と、とにっかく! もうドックンの顔なんて見たくないやい!」

それだけを言い残し、バタバタとヒッキーは去っていった。

('A`)「えーっと……」


('A`)「そうだ、砂漠で子作りしよう!」



45: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:49:41.05 ID:wGr+xkfD0
川 ゚ -゚)「あ〜超お腹減ったしっ♪♪」

(,,゚Д゚)「西暦3000年、王様が治めるこの国で、
     二人が向かった先は地元で有名なスーパーに足を踏み入れた」

川 ゚ -゚)「ガッシ! ボカ!」

(,,゚Д゚)「美嘉は叫んだ」

川 ゚ -゚)「世の中! 狂ってんだよ! 狂ってんd……」

(;'A`)

扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、台本らしき冊子を読むギコと
何やら一人芝居をするクーの姿であった。
二人とも、入ってきた俺を見て動きを停止させている。

川 ゚ -゚)「せっかく見舞いに来ても誰もいないから……
     同胞達でやるクリスマスパーティの出し物を練習してただけだ……」

(;'A`)「ああそう……どうぞ、そのまま続けて貰って構わないぞ……」

川 ゚ -゚)「まだ人に見せられる段階じゃない」

台本の時点で見せられないような気がするんですが……
それはさておき、幽霊でも何でも、見舞いに来てくれるのはやはり嬉しいものだ。
一応心配はされている、という事だからな。
天国の母さん、顔も知らない父さん、ドクオはまだギリギリ孤独じゃありません。

人間の友達はいないけどね!



47: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:51:27.76 ID:wGr+xkfD0
(,,゚Д゚)「早速だが、ドクオよ。ありがとう、俺との熱い約束を守ってくれて。
     お前ならきっとやれると信じていた。まぁ嘘だがな」

('A`)「別に。お前との約束なんて守った覚えも無い。俺はただ、これ以上犠牲者を
   増やしたくなかっただけだ。お前に信頼されても嬉しくもなんとも無いんだからね」

ベッドに腰をかけ、アロハ姿のギコを一瞥。それに、感謝するなら金をくれ。

('A`)「今の仕事を蹴り飛ばしてまで、任務を遂行したんだ。
   それ相応の報酬は頂かないと、こっちとしても気が済まねー。
   どうしてくれるんだ。俺の今後の生活は」

川 ゚ -゚)「報酬は全てお前の入院費に当ててある」

('A`)「えええええええ!? ……じゃあせめて俺の仕事キープしてくれよ!
   何かあるだろ? 遺書に間違って遺産相続する人は殺し合いをして決めてください
   とか書いて後悔している幽霊さんとか!」

川 ゚ -゚)「生憎、今日の日本は平和です」

(,,゚Д゚)「つまり、貴様にやる仕事など無い! 人間は大人しく乳毛でも数えてろ!」

ねぇ、こいつ本当に感謝してんの?

/ ,' 3「話は全部聞かせてもらったぞ!」

ここで荒巻が登場した。
思わぬダークサイドの参入で、場のふいんき(ry が捻れるような気がしてならなかったが、カードダスの遊戯王の話題で盛り上がり、和やかなムードになった。
結局、本田の特殊能力『おみそ』ってなんだったんだろうか。



49: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:53:29.16 ID:wGr+xkfD0
('A`)「詰まる所、ミホは……ん?」

『コンコン』と響く、ドアが叩かれる音。
何故か沈黙する室内。返事を待っている辺り、ノックの主は看護士ではなく……客?
黙っていても仕方がないので、とりあえず「どうぞー」と言ってみる。

(*゚ー゚)「どうも……」

驚愕。開いた口が塞がらない。
そんな状況に陥ったのは、俺ではなくアロハの男だ。

(,,゚Д゚)「バカな! ケーキ屋のしぃちゃんだと!?
     いくらご都合主義の連続だからといって、彼女がこのタイミング
     で現れるのは有り得ない。確かに彼女は肺を患っている祖父のために、
     定期的にこの病院に足を運ぶが、それとこれとは話が違う……
     まさか俺に会いに来てくれたというのか……? その可能性は高い。
     なぜなら俺は彼女を毎日のように見守り続けているからだ。
     その努力が芽生え、やがて愛に変わっていったのであろう……
     見て御覧なさい、彼女の可愛らしい服装を。
     カットソーって奴でしょうか。淡い色です。適当にググった知識なので
     当てになりません。しかし正直そこらの女優なんか足元にも及ばないわ。
     ああそんな彼女に俺はなんて声をかければいいんだ!
     混乱してきた! 涙が出そう! AP朝妻今年の夏はビキニパンツデビュー」

('A`)「ケーキ屋の……しぃさんだね」

決して彼女には届かない、馬鹿の独り言のおかげで、
どうにか「あんた誰だっけ?」とか失礼な態度を取らずに済んだ。
しかし「どうしてここに?」という疑問は本人に直接訊ねるしかない。



53: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:55:47.20 ID:wGr+xkfD0
(*゚ー゚)「ドクオさん……ですよね。
     私見たんです。救急車が来て、貴方が担架で運び込まれるのを。
     その時の表情は忘れられないものでした」

(;'A`)「え? ちょ、ちょっ……」

急に語り出したぞ、この娘。

(*゚ー゚)「額から流血しながらも、何かをやり遂げたような、あの顔。
    まさしく男、いや漢の顔でした……達成感に溢れつつも、どこか切なげで、
    安らかで、愛する者を守り切った戦士の……」

/ ,' 3「前置きが長すぎるぞ、お嬢さん。結論から述べたらどうよ」

確かに。
結局の目的は何だ。何を伝えたいんだ。
くどくどくどくど、前菜は大盛りで出す癖に、肝心のメインをご用意しておりません。
ってのが最近の女の会話だ。まぁ人間の女と数年間ほとんど喋ってないから最近とか
知らんけど。

(*゚ー゚)「そうですね……そこの老害の言う通りです……
    単刀直入に申し上げましょう」

彼女が一歩前に踏み出した。

(*゚ー゚)「好きです! 付き合って下さい!」

(;'A`)「は……?」
  _, ,_
川 ゚ -゚)



56: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:57:01.15 ID:wGr+xkfD0
落ち着け、素数を数えるんだ。
794:なくよ鶯平安京。
1192:いいくに作ろう鎌倉幕府。
2007:美しい国 阿部内閣。
OK、OK。今の俺は完璧にクールダウンしている。冷静だ。冷静だ。
そう、冷静になってよく見てみよう。
彼女、確かに可愛い方に分類されると思う。
小柄だし、肌は綺麗だし、脚は細いし、髪も可愛らしい栗色のショートカットだ。
しかし、イコール俺の好みかと問われれば、どうだ?

('A`)「いやっ……えーと、どう言えばいいのかな……ごめんなさい」

この俺が女性を振る。
考えた事も無かった。
正直、女っぽければ誰でも良いと思っていた時期もあった。
しかし時は流れ、思考が変わったようだ。
長らく人間のメスと触れないでいると、自分が妄想している理想の女性像以外の女は、
全て同じに見えるというか、どうでもいいというか、関心が薄れてしまうようだ。

(;゚ー゚)「わっ……私の何が駄目でしょうか……?」

('A`)「うーん……えー、いやぁ、俺、嫁は黒長髪で巨乳で若干Sな人と決めてるし……」

σ川 ゚ -゚)

('A`)「君は可愛いけど……俺の中では審査に値しないというか……」

あ、ちょっと待て。審査に値しないって何だ。俺は何様だ?
かなり酷い言い様じゃないのか? なんてこった。言葉は戻せない。
そして俺の語彙の少なさと言ったらもう。もっと柔らかいワードがあっただろうよ。



61: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 16:59:48.93 ID:wGr+xkfD0
(*;ー;)「ううっ……」

泣いた。細かく言うと泣かされた。
もっと細かく言うと、俺に、ドクオに泣かされた。
そんな馬鹿な。俺も泣きたいぜ。

/ ,' 3「鳳凰寺君……君はいけない事をした!
   彼女にごめんなさいしないといけないね!

川 ゚ -゚)「いいや! 見直したぞドクオ! 痛みに耐えてよく頑張った!
     この程度で泣く女の涙など安っぽーい塩水なんだ。
     全てが自分の思い通りになると考えてるからな。だから想定の範囲外の
     出来事が起こった時、脆く、泣き出すのさ、今時のビッチは。反省しろ」

隣のベッドで老人に喝を入れられているかと思えば、
俺の側ではミニスカの巫女が「感動した」と言わんばかりに、ハンカチで目元を
抑えている。もうなにがなんだか。そしてギコはどうした?

あれ? おい? 何で窓から飛び降りようと――――

(,,゚Д゚)「もう恋なんてしない」

アイキャンフライ。
そんな掛け声と共に彼は落下した。
さらば、友よ。

(*;ー;)「アバヨ!」

そして今の時代を考えると明らかにおかしい、別れの挨拶で彼女は退室した。



63: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:01:00.74 ID:wGr+xkfD0
('A`)「……俺が、俺が悪いってのかい? 俺っちは関係ねぇだろい?
   ……いや、だがもし彼女がこれで飛び降り自殺などしてしまったら……」

/ ,' 3「ま、飛び降りたければ飛び降りれば良い。さっきの若僧のようにな。
   重力の半分は優しさで出来ているからのう」

('A`)「あれ? あんたは彼女の味方じゃなかったのか?」

/ ,' 3「私は個人の意見を尊重したいと思っているよ」

川 ゚ -゚)「そんな奴が無理矢理ドクオを仲間に引き抜こうとしたり、
     催眠術で手駒を増やしたりするか。とことん矛盾してるな、このじじいは」

('A`)「で、何で重力が優しさなんだよ」

/ ,' 3「救済措置だからさ。地球に重力があるのも、学校に図書室があるのも、
   便所に個室があるのも、二次元の女の子がいるのも、
   全ては、その世界から外れてしまった不適合者への救済措置に他ならないね。
   高所から落ちれば、このギッチギチに縛られた世界から解放されるんだ。
   学校生活や現実の女と適合出来ない者は自然と逃げるべき場所へと逃亡する!
   すなわち神が創造した救済措置で溢れているんだよ! この世の中はね!」

川 ゚ -゚)「二次元に相容れないから、三次元の女へと逃げる、という見解もあるな」

('A`)「じゃあ机をくっ付けて弁当食べるのは、便所で飯も食えない軟弱者の為の
   救済措置な訳だな……即ち、そんな机弁当など一度も経験しなかった俺は、
   間違いなく神に選ばれし血族……!!」

/ ,' 3「解釈はそれぞれだな」



67: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:02:31.85 ID:wGr+xkfD0
('A`)「自分が特殊な人種と分かったら、急に他人の安否など、どうでも良くなったよ」

「ンフフフ」と鼻で笑いながら、俺は窓辺へと向かう。
太陽の光をさんさんと浴びながら、下方で大の字で撃墜している哀れな男に目をやった。
全てに絶望した表情を浮かべている。あいつこそ人生の敗者糞虫アロハ金髪、ギコだ。

('A`)「あれ?」

じゃあ、その下敷きになっているオッサンは誰だ?

(;ФωФ)「う、うぐぐ……一体何が落ちてきたんだ?」

彼は突然の出来事にうろたえている。
しかも落下してきたギコを見て、若干引いている。
その顔が涙と鼻水でぬっちゃりふやふやになっているからだ。

(,,;Д;)「オロローン! どうしてドクオなんだよ、しぃちゃ――――――ん!」

(;ФωФ)「くっ、何だお前!? 人の胸に飛び込むな!!」

('A`)「……ギコに触れている! あのオッサン幽霊か!?」

残留した霊魂、それは俺の仕事に繋がる。
辛気臭そうな面をした中年だが、今は金のなる木に見える。
貴重なお客様なのだ。ギコ君、そのオッサンを丁重にこちらへお連れしなさい。

(,,;Д;)「てめぇの胸イカ臭ぇ!」

ああ、殴っちゃったよ……明らかにオッサン悪くないのに殴っちゃったよ……
オッサン苦しそうに腹抑えてるよ……吐血してるじゃないか……尻からもドス黒い血が染み出てるよ……



75: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:05:58.52 ID:wGr+xkfD0
(,,;Д;)「女の気持ちが理解出来ねえんだぜ!」

( ФωФ)「貴様、失恋か!? フラれた程度で、そんなトチ狂っているのか!?
      精神的に甘い! あと私の胸はイカ臭くは無い!」

(,,;Д;)「お前に何が分かる!」

( ФωФ)「分からないから、僕らは走り続けるんだ!」

オッサンの拳がギコの顔面を捉える。
腰の入った重い一撃に倒れかけたが、ギコは踏み止まり、すかさずローキックを放った。

(;ФωФ)「ぐっ……!」

オッサンが怯んだのを見て、ギコは御返しと言わんばかりのパンチを繰り出した。
拳は見事に眉間を捉え、オッサンは吹き飛ぶ。

(;ФωФ)「まだまだ!」

うお、立ち上がった。

(,,゚Д゚)「本気で来やがれ!」

それから約一時間程二人は殴りあった。
結局両者同時にノックダウンし、勝敗は決まらなかったが、どちらの表情も爽やかだった。
二人はお互いを称え合い、涙を流し抱き合った。青春ドラマである。感動をありがとう。

('A`)「全俺が泣いた」

川 ゚ -゚)「映画化決定」



77: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:07:05.57 ID:wGr+xkfD0
病室に二人の人間と三人の幽霊が集結した。
新たに入室してきたのは、冴えないオッサンの杉浦さんだ。
彼は生前、とてつもない後悔を残して死んだらしい。
それから八年間、この病院付近を彷徨っていると、彼は語った。

( ФωФ)「しかし、皆さん良い人達ですね。
      噂では、棺桶売りという集団は、残虐非道で手段を選ばない最低な奴らと
      聞いたもんですから、こんな和やかに接してくれるとは意外です」

川 ゚ -゚)「血の気が多いのは確かだな。他人の胸を借りて泣いて、急に殴ったりする
     アロハDQNとか……もっと穏便になれないものか」

(,,゚Д゚)「良いだろう? 友情が結ばれたんだから」

とりあえずケーキ屋のしぃちゃんの事は、すっかり忘れているようで何より。

('A`)「で、杉浦さんの未練とは何ですか?
   それに八年前、一体何が原因で命を落としたと?
   十分に情報を得た上で、僕は可能な限り貴方の未練を解消するお手伝いをしますよ」

そしてお金を貰います。

( ФωФ)「それについては、まず私の正体から明かさなければなりませんね」

/ ,' 3「wktk」

( ФωФ)「いや、でも笑われそうだなぁ……」

('A`)「笑わない笑わない。0円払われても笑わないですよ」



78: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:08:04.75 ID:wGr+xkfD0
( ФωФ)「実は私――……
























              恐怖の大王なんです」



('A`)「E缶吹いたwwwwwwwwwwwwwwwwww」



82: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:09:25.93 ID:wGr+xkfD0
               【+  】

『1999年7の月』

ノストラダムスとかいう奴が、何の根拠もなくアンゴルモアの大王が地球を滅ぼす、
なんて予言をしたもんだから、その大王本人は非常に悩んでいた。

( ФωФ)「別に地球に何の恨みも無いしな……」

大王は自室で、キテレツ大百科冒険大江戸ジュラ紀をやっていた。
このゲームはコロ助が刀を振り回して襲い掛かる忍者を滅多切りにしたり、
ブタゴリラが牢屋に閉じ込められていたり、恐竜を殺したりする、
奇想天外で阿呆みたいに単調なゲームである。制作者出て来い。

( ФωФ)「でもやらなかったら空気嫁とか言われそうだな」

ゲームボーイの電源を切った。
大きな欠伸をひとつ。次にだるい身体を起こして服を脱ぐ。

熱いシャワーが大王に注がれた。

( ФωФ)「ヘヘ……こいつをココに当てるとどうなるんだ?」
( ФωФ)「いやぁ、やめてぇ! あちゅいよぉ! おかしくなっちゃうよお!」
( ФωФ)「そんな事言って感じてるんじゃねぇのか?
      お湯とは違う汁が漏れてるみたいだぜ!」
( ФωФ)「いやああっ!! 水圧強くしたららめぇっ!!」

――――――――――五分後

( ФωФ)「何やってるんだろう……俺……」



85: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:10:40.88 ID:wGr+xkfD0
( ФωФ)「じゃあ、行ってくるよ」

布団の上で動かない妻を尻目に、大王は玄関へと向かう。
もう何年寝たきりだろうか。
いや、よく考えたら出逢った頃から動かなかった気がする。
やはり中身が空気だからなのか。

太陽系を飛ぶこと30分、ついに大王は辿り着いた。
青く輝く、生命の惑星、地球。

( ФωФ)「美しい……滅ぼすのが惜しいくらいだ」

だが、きっと地球では自分の降臨を待ち望んでいる者もいるに違いない。
大王は思う。人類は地球最後の日を、それぞれ思い思いに過ごしているのだろう。
愛の告白をする者、憎きアンチクショウに復讐をする者、
寝て過ごす者、己の欲望のままに動く者、素っ裸になって暴れる者、
自分には未知なる力があると信じ、本気で地球を救おうとするニート、とか色々。

( ФωФ)「これも運命だ、地球人よ……さらば!」

恐怖の大王――――降臨!

――――――――――――――――――――――――――――――

('A`)「してないじゃん」

川 ゚ -゚)「うむ、現に我々は今も地球に生きている。死んでるけど」

( ФωФ)「あのねぇ、それは貴方達が悪いんですよ」



86: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:11:49.18 ID:wGr+xkfD0
('A`)「悪いって何が?」

( ФωФ)「後半へ続く」

――――――――――――――――――――――――――――――

大王は失望した。
その失望ぶりといえば、コミックGOTTAの酷さとも同列に扱える程だ。
でも阿弖流為II世は好きだった。

( ФωФ)「これで……これでいいのか、地球は……」

学生は眠たそうに自転車を漕ぎ、リーマンは慌てふためきながら、電車へと駆け込む。
主婦は世間話を。幼稚園児は歌を。野良犬はただ当ても無く歩き、地球は黙ってまわる。

せっかく重い腰上げてここまで来たのに。

(#ФωФ)「さっきからモチベーション急降下じゃコラアアアアアアア!!」

もう一度目を凝らして世界を観察するが、地球滅亡ムードは何処にも無い。
こんな筈じゃなかった。もっと世間は恐怖の大王一色だとばかり思っていた。

大王の映画、ドラマ、漫画、トレーディングカードゲーム等がもっと普及していても
おかしくないというのに。実際、そういったネタに乗っかっているのは極一部だ。
ギリギリモザイクノストダムスとかがあっても良い。
地球の隅から隅まで大王に染まっているべきなのだ。本来ならば、そうだ。
それが滅亡される側の心構えって奴だろうが、と大王は唇を噛む。

( ФωФ)「なんか萎えたわ……」



101: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:18:15.78 ID:wGr+xkfD0
――――――――――――――――――――――――――――――

('A`)「それで地球滅亡は免れた訳だ」

/ ,' 3「まさかその時地球を破壊出来なかったのが、未練なんて言わんだろうな……」

( ФωФ)「いえいえ、地球の存亡とかに重点を置かれると困りますね。
      そもそも私はこの惑星がどうなろうと知ったこっちゃありませんし、
      八年遅れで恐怖の大王が降臨してもカッコつきませんよ。
      まず第一に私、死んでますしね」

川 ゚ -゚)「では、お前の死因とは何だ?」

( ФωФ)「せっかちですね。何事にも道筋というものがありますから」

――――――――――――――――――――――――――――――

自宅に帰ろうと大王が振り返った、まさにその瞬間。
あろう事か巨大隕石が迫ってきたのだ。
不意打ち。反応が遅れた大王は成す術も無く、衝突。

( ФωФ)「ぐっ……!」

大王と接触した事で、奇跡的に隕石の向かう方向は本来の軌道から逸れていった。
しかし不覚にもこれで地球を救った大王は、瀕死のまま、その青い惑星に落ちていく。
やがて大気圏を突破。そのまま美しいブルーの表面へ。大王の意識はそこで途切れた。



102: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:19:24.33 ID:wGr+xkfD0
(;ФωФ)「ハッ!」

大王が目を覚ましたのは砂浜だった。
水平線に浮かぶ夕陽が眩しい。
頭が上手く働かなかった彼は、自分が置かれている状況も考えず、
その真っ赤に燃える太陽を凝視していた。

( ´∀`)「気が付いたかい?」

背中越しに声が聞こえた。
振り返ると、そこには筋肉隆々で海パン一丁の大男が立っていた。
右手にはティーカップが握られている。香りからするとコーヒーのようだ。

( ´∀`)「砂糖は何杯?」

(;ФωФ)「え? あ、その……じゃ、じゃあ一杯でお願いします」

男は怪しい壺から角砂糖を一つ取り出すと、ちゃぽん、と割と高い位置から落とした。

( ´∀`)「急に落ちてきたからビックリしたよ」

スプーンで掻き混ぜ、男はそのコーヒーを一気に飲み干した。
「プハァー、うめぇ」とか言っている。

(;ФωФ)(お前が飲むのか……)

( ´∀`)「自己紹介がまだだったね。
      http://vipmain.sakura.ne.jp/end/387-top.html」

(;ФωФ)(なぜそんな回りくどい方法で自己紹介を……)



106: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:20:50.71 ID:wGr+xkfD0
自分の素性を明かすのは躊躇したが、
( ´∀`)「この世紀末の7の月に落ちてくるなんて、まるで恐怖の大王だ」
なんて屈託の無い笑顔を浮かべながら言うもんだから、
つい「まるでじゃなく、その通りだよボケ!」と口が滑ってしまった。

しかし、この発言で信じて貰える訳が無いと思っていた大王は、
やっぱりね。といった感じで手を叩く男を、怪訝な顔で見つめた。
本来、不審者はこちらだ。大王とてそれは理解している。
だがこのモナーと名乗る男が、自分以上に不思議な存在だった。

――まず、何で言葉が通じているんだ?

宇宙人専用のバウリンガルでもあるのだろうか。
思い切って聞いてみる。

( ´∀`)「それは簡単さ。君の口から放たれる声という名の振動が、
      僕の筋肉を刺激し、それらから感情や気持ちを把握して、
      大まかに言葉の意味を弾き出す。同じ要領で、君の筋肉も
      僕の言葉をそうやって理解しているんだよ」

(;ФωФ)「私の筋肉にそういった便利な機能は無い」

(#´∀`)「じゃあどうやって話進めるんだよ!!
     ナマ言ってんじゃねぇよ!! 都合ってもんがあるだろボケ!!」

(;ФωФ)「はい。確かに私の筋肉はそうやって言語を理解しています」

( ´∀`)「それで良し」

(;ФωФ)「で、私はいかにして、ここに流れ着いたんだ?」



109: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:22:10.75 ID:wGr+xkfD0
( ´∀`)「別に漂流してきた訳じゃ無いよ。
      さっきも言ったじゃん、落下してきたんだ。
      巨人が、ね。それこそ、ここから見える海を覆い尽くす巨体だったよ」

そうだ。自分は少なくとも、人間と呼ばれる生物の何倍、何百倍、何千倍の巨体を
持っていた筈である。それが今や、一般的な成人男性と変わりない体格になっている。
この2mぽっちのモナーが大きいと感じる位だ。

( ´∀`)「最初は無茶苦茶デカくてビビッたさ。でも時間が経つにつれて、
      みるみる君は小さくなっていったんだ。摩訶不思議だねぇ」

( ФωФ)(肉体が地球に適応していった……という事なのか?)

( ´∀`)「大変だったなあ。海が君の垢で汚れていった時は」

(;ФωФ)(巨体を構成していたのは垢かよ! きったねぇな俺の身体!)

いや、勿論身体が地球用になっていった、というのも間違ってはいないのだが。

( ´∀`)「丁度君がやってきてから一ヶ月だ。
      いやあ良かったなー、このまま目が覚めなかったら、焼いて食ってたよ」

(;ФωФ)「冗談に聞こえないのが恐ろしい」

( ´∀`)「ま、ゆっくりしていってよ。砂浜だけどさ。食料は魚介類や果物が揃ってるし、
      家は無くとも寝るスペースは葉っぱとか敷いて確保してるから」

(;ФωФ)「すごいな……そんな状況からして、ここは差し詰めアマゾンの奥地とかか?」

( ´∀`)「いえ、福島です」



111: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:23:58.44 ID:wGr+xkfD0
――――――――――――――――――――――――――――――

( ФωФ)「それから私はモナー氏と共に自給自足生活を送りました。
      あと彼の夢はボディビルダー選手権で優勝する事らしく、
      何度かトレーニングも手伝いました」

/ ,' 3「ほうほう、それでそれで?」

( ФωФ)「私は感動したんです。人間の温かさ、強さを肌で感じて、
      改めて地球の美しさを知り、滅亡させようとしていた、あの時の自分を
      殴ったろかと思いました。今でもあのモナーさんには感謝しています。
      しかし……」

(,,゚Д゚)「しかし?」

( ФωФ)「彼は……死にました」

('A`)川 ゚ -゚) (,,゚Д゚) / ,' 3『うん、知ってる』

――――――――――――――――――――――――――――――

大王とモナーが出会って三ヶ月の月日が経とうとしていた。

( ФωФ)「モナー氏、キノコを見つけました!」

( ´∀`)「ペロ、これはヤオイダケ! 食ったら最後、危ない事に目覚めるぜよ」
      注意しろよ杉浦! 森は危険で満ち溢れているぜ!」

大王はもう恐怖の大王でも何でもなく、杉浦という名前までモナーに貰った。
将来辻ちゃんと結婚出来そう、とかそんな理由らしい。



114: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:24:54.86 ID:wGr+xkfD0
いつものように森で仲良く食料を探していた、その時だった。
『パァン……』
そんな渇いた音が森中に響いた。

(;ФωФ)「あ! あれは酷い!」

杉浦がいち早く、“そいつ”を発見した。
野生動物を猟銃で撃つハンター。
迷彩柄に身を包んだそいつは、止む事無く銃を撃ち続ける。

(#´∀`)「こら貴様! 何やってんだ! ここ浜通りだぞ!」

(#ФωФ)「可愛らしい動物達を撃ち殺すなんて……許せない!」

从#゚∀从「うっせー! こうでもしなきゃ、こっちは生きていけねーんだよ!」

それは年端もいかない小娘だった。日本人とどっかの外人を足した顔つき。
明るい茶髪はどうやら地毛のようで、何処かのハーフだという事は容易に推測できた。

(#ФωФ)「貴様のような餓鬼にはお仕置き(性的な意味じゃなく)が必要だ……
      目覚めよ、私の中に眠る大王の魔力!」

――――――――――――――――――――――――――――――

( ФωФ)「魔力は発動しませんでした。どうやら私は地球に慣れ過ぎたようです……」

川 ゚ -゚)「何か色々登場して面白いな」

( ФωФ)「怖いですよ。今まで使えていたモノが急に使えなくなるって」



117: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:26:47.21 ID:wGr+xkfD0
――――――――――――――――――――――――――――――

(#´∀`)「どっかの危ない人達に金貰ってやってんだろ……
      この森には珍しい生き物が集うからね。知らないけど」

从#゚∀从「テメェには関係ねぇ! こっから去れ! じゃねーと撃つぞ!
     あと近所の人とか呼ばないでね!」

(#´∀`)「フン、そんな事言って人間を撃つのが怖いだけだろう?
      なんなら僕を撃ってみろ。動物達が傷つく位なら、僕が血を流した方がマシさ。
      散々言っても僕も魚とかブスブスとモリで刺しまくったけどな!」

从#゚∀从「お互い様じゃねーか!」

少女は銃口を向けた。
天国への入り口が、そこにあるようだった。
もうモナーはいつ殺されてもおかしくない。

从#゚∀从「……本気で撃つぞ」

(#´∀`)「だから撃ってみろって」

(;ФωФ)「ちょ……モナー氏……」

(#´∀`)「撃ってみろって言っているんだあああああああああああああ!!
      大人をなめるなあああああああああああああああ!!」

从;゚∀从「ひ、ひぃっ! な、何ぃ……?」
                     ――パンッ
从;゚∀从「あ」



119: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:28:14.05 ID:wGr+xkfD0
葬式は杉浦一人で盛大に行われた。
モナーの大好物を全部備えた。
土葬なんて今時あるのか怪しいが、これがせめてもの恩返しだと杉浦は思い、
モナーの亡骸を丁寧に葬った。

( ФωФ)「ありがとうございました。モナー氏……僕は、都会に出ます」

墓石にコーヒーをかけてやった。
砂糖でベッタベタになったが、この際気にしない事にする。

杉浦は歩き出した。決して振り向かない。
師の死を真摯に受け止め、新たな一歩を踏み出すために。


杉浦が砂浜を離れてから、数時間遅れての事。
一人の少女が、小学生の工作並な、その墓に手を合わせた。
風にボサボサの茶髪が揺れる。

从 -∀从「マッチョのオッサン、ごめんちゃーい……」

その後彼女は、波乱な人生を残り短い僅かな期間で送るのだが、
それはまた別の話である。

――――――――――――――――――――――――――――――

( ФωФ)「ここまでが序章」

('A`)「糞長ぇ……腰痛くなってきた……」

( ФωФ)「こっからが重要なんですよ! ハイスピードで語りますよ!」



122: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:29:46.86 ID:wGr+xkfD0
( ФωФ)「無事、都会で普通の社会人の暮らしを手に入れた僕ですが……
      ある日チンピラに絡まれたんです。いやぁ怖かったな……」

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(,,#゚Д゚)「どこ見て歩いてやがる!」

(#ФωФ)「明るい未来だコラァ!」

――――――――――――――――――――――――――――――

( ФωФ)「どんなに敵が強大でも、退いたら負けというモナー氏の心得を守り、
      僕は立ち向かいました……」

(,,゚Д゚)「どっかで見たチンピラだな」

( ФωФ)「だけど相手はプロのチンピラ……紙一重で負けてしまいました」

――――――――――――――――――――――――――――――

( ФωФ)「う……? ここは……?」

VIP総合病院。404号室。
路上で血を流し、気絶していた杉浦は善良な市民の通報で一命を取り留めた。
身体中ボコボコで、かなり危険な状態だったらしい。

( ФωФ)「まだ身体が痛いや……」

骨折していた個所も多く、松葉杖で歩くのがやっとだった。
恐怖の大王がこのザマである。杉浦は無性に悲しくなった。



126: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:31:23.18 ID:wGr+xkfD0
( ФωФ)「うぐあああっ!」

階段で派手に転んでしまった。
立てない程の痛み。何か苦しい事があったら、師のモナーはもっと痛い思いをしたんだと
自分に言い聞かせてきた。

( ФωФ)「モナー氏が銃殺された時の五倍は痛ぇ……」

割と脆い信念。

その時のVIP病院は異常に荒れていた。
偏差値が底沼まで落ちた高校の如く荒れていた。
医師や看護士は皆白衣を崩して着ていたし、金髪、ピアス、リーゼント、アフロ、
やりたい放題。常に全裸の医者もいる。お前が入院しろと言いたい。
医療ミスは当たり前。患者に唾を吐く始末。
どうやって経営が成り立っているんだか、一度本気で調べたかった。

そんな訳で、倒れた杉浦に優しく差し伸べる手など、この病院には無かった。
そう思っていた。勝手に、そう思っていた。
だから余計に温かく感じた。



「大丈夫ですか?」



その小さな温もりを持った、手が。

( ФωФ)「は……はい……」



129: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:32:55.46 ID:wGr+xkfD0
――――――――――――――――――――――――――――――

( ФωФ)「これが所謂、私の初恋という訳です」

('A`)「へー……そいつは、よござんすね」

( ФωФ)「凄く良い娘だったんですよ?
      肺を患っている祖父のために、定期的にこの病院に足を運んでいたようで
      私はいつしか、その娘とすれ違って、彼女が会釈をする、その瞬間を楽しみ
      に生きるようになったのですよ!」

川 ゚ -゚)「その娘は幾つだったんだ?」

( ФωФ)「確か小五くらいだったと思います」

(,,゚Д゚)「うおおおい! 何が初恋だ! てめぇただのロリコンじゃねーか!」

( ФωФ)「恋愛に歳なんて関係ないですよ!
      僕はその時悟ったんです! 全ては彼女に出会うための布石だったと!
      そうです、隕石衝突もモナー氏の死も! この恋に巡り会うための
      踏み台だったとすれば合点がいきますよね!
      人生のターニングポイントに、ようやく辿り着いたんですよ!」

/ ,' 3「wktk」

( ФωФ)「そして僕は一大決心をしたんです!
      彼女に告白するんですよ。付き合って下さいってね……」

('A`)「小五にですか」



130: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:33:29.23 ID:wGr+xkfD0
――――――――――――――――――――――――――――――

病院の屋上。
北風がやや強い。感想肌には辛い。
しかし、今の杉浦の情熱の炎はそんなものじゃ掻き消せない。

( ФωФ)「君をここに呼び出したのは、他でもない」

「宿題があるんで、早く帰らないと……」

( ФωФ)「大丈夫。すぐに用事は済む」

そう、たった一言口に出せばいいだけ。
愛を真っ直ぐ届けるだけでいい。

( ФωФ)「好きです。付き合って下さい」

言った。言ったぞ。
やばい、ここに来て心拍数が上がってきた。
大人な落ち着いたふいんき(ryを演出していたつもりなのに。
顔が紅潮している。まずい。
落ち着け落ち着けと杉浦は言い聞かせる。
俺はオトナだ。オトナな男性だ。カッコよく決めるために香水も吹きかけた。
ファブリーズとかいう、良い香りのする香水だった。

(;ФωФ)(返事はっ……?)

「いやっ……えーと、どう言えばいいのかな……ごめんなさい」

馬鹿な。馬鹿なばかなばかなかなかばかなかんばかなか。終了。撃沈。何故だ。



134: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:34:58.30 ID:wGr+xkfD0
(;ФωФ)「おっ……俺の何が駄目でなんだい……?」

「ダメっていうか……付き合うとか良く分かんないし……おじちゃんの胸、
 なんかイカ臭いし……私はもっとワイルドな人が好みかな?」

(;ФωФ)「冗談だろう? 私は大王だぞ?」

「悪いけど……私の中では審査に値しないというか……」

(;ФωФ)「嘘だ……嘘だああああああああああああああああ!!」


現実が見えない。


こんなにも君を愛しているのに。
どうしてやねん。イカ臭さがそんなに重要か!


もう……いやだ。
恋愛がこんなに上手くいかないなんて。
モナー氏の百倍は辛いんじゃないか。

こんな事なら、こんな事なら。



地球を滅亡させればよかった。

( ФωФ)「もう恋なんてしない」



139: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:37:24.86 ID:wGr+xkfD0







――――――――――――――――――――――――――――――

               ⊂('A`⊂⌒`つ

('A`)「そして飛び降りちゃった訳か」

( ФωФ)「きっとどこかで、まだ自分は大王で、無敵で、死なないなんて
      考えていたんです。だから空も飛べる気がした。
      でも待っていたのは、逆らい様の無い重力でした」

/ ,' 3「辛さから逃れるために、飛び降りを選んだのか」

('A`)「救済措置は優秀だな。大王すら受け入れたよ」

川 ゚ -゚)「いや、結局何が未練だったんだ?
     地球云々じゃないなら、その小娘に振られた事を悔やんでいるのか?
     それとも飛び降りた自分の弱さを後悔しているのか?」

( ФωФ)「それはきっとどっちもですよ」

('A`)「それをどう解消すりゃ良いんだろうな……
   杉浦さんは幽霊になった今でもその娘が好きなんだろう?
   つまり、もう一度告白して、OKサインを受け取りたいって事か?」



140: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:37:57.73 ID:wGr+xkfD0
( ФωФ)「冗談じゃない。私が考えているのは復讐ですよ。
      あの忌々しい小娘への……ね。
      貴方人間なんでしょう? 協力してください。
      奴にも私と同じ痛みを与えてやるんですよ」

協力は一向に構わない。それが仕事だからだ。

('A`)「でも、復讐というのは……?」

復讐。あまり良い響きではない。
杉浦さんの顔が、悪人のそれに変わっていく。
「グフグフグフ、ウッフフ……」と涎を垂らしながら、にやける。

マジ怖い、恐怖の大王、ここにあり。ドクオ、心の俳句。
こんなオッサンに地球を滅ぼされかけたと思うと、更に怖い

( ФωФ)「貴方がイイ男になって、今やオンナへと転身している小娘のハートを
      鷲掴みにしてやるんですよ。そして小娘が愛の告白をしてきたら、
      つめたーく、振ってやるんです! 完璧!」

('A`)「はぁ……飛び降りまでさせるの……?」

( ФωФ)「流石にそこまで鬼じゃないですよ、私は。
      精神的ダメージを与え、食事も喉を通らなくして、
      部屋の片隅でボソボソ呟いている位まで追い詰めれば満足です」

川 ゚ -゚)「ひでー」

( ФωФ)「あと、その小娘の名前はしぃって言いまして、
      調べたところ、現在はケーキ屋で……」



141: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:38:27.27 ID:wGr+xkfD0
('A`)「ほぇ?」

しぃ。
ああ、さっきの彼女ね。
あれ? それ? その娘の事なの?






……復讐既に成功してね?










152 名前: ◆R38CE/IWYU [再開 すまん] 投稿日: 2007/11/25(日) 17:52:41.73 ID:wGr+xkfD0
(,,#゚Д゚)「うがああああああああああああああああああああ!!
     しぃちゃんがなんだってええええええええええええええ!!?」

なんとタイミングの悪い。
眠れる獅子を起こしてしまったようだ。
グッバイ、杉浦さん。四肢はもう使えなくなると覚悟した方がいい。


『ビシュッ』


(,,゚Д゚)「ほあぅ!」

ギコが何かに撃たれ、倒れた。

('A`)「あれれ〜? どうしたの、おじさん?」

川 ゚ -゚)「向こうにビルがあるだろう? あの屋上からハインが麻酔銃を撃ったんだ。
     お前と荒巻の監視と銘打っているが、本当はギコが浮気しないように
     見張っているのだぞ」

のだぞ?

('A`)「ってか浮気って……」

( ФωФ)「しぃは今日、この時間ならまだ病院内にいる筈です!
      ドクオさん、どうかお願いします! 大王のお願い!」

('A`)(そう言われてもな……)



153: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:53:41.68 ID:wGr+xkfD0
クーが近づき、耳元で囁く。

川 ゚ -゚)「とりあえず彼女の様子だけ確認しておけ。
     泣いて出ていったが、その後は案外吹っ切れてピンピンしているかもしれん。
     そうだった場合、もう一度地獄に落とす必要があるからな」

地獄ってアンタ。
だが言っている事は正論だ。
事を起こすのは、彼女の表情を窺ってからだ。

もし相変わらず真っ青だったら、それを杉浦さんに見せればいいだけの話だ。
彼女、しぃさんには悪いが、こっちも生活が懸かっている。
お金が欲しいんです。

('A`)「じゃ、俺が様子見にいってくるわ。
   クーは、ギコがまた暴走しないように、縄でも縛っといてくれよ」

川 ゚ -゚)「おk」

('A`)「では、いってきまーs……「待て」

俺がドアノブを握ったところで、荒巻に口を挟まれた。
歩み寄られ、また耳元で言われる。

/ ,' 3「まさか人間の状態で彼女に会いに行くつもりか?
   さっき振った人間が、一体どんな声をかけるつもりなんじゃい。
   ただでさえ、君八割私二割の暴れっぷりで、病院の奴らに目をつけられているのに、
   迂闊に歩き回ってはいかん。今日一日、人間のお前は自重しておけ」

('A`)「うん、でも何でアンタが二割?」



154: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:54:39.61 ID:wGr+xkfD0
様々な助言を貰い、とりあえず幽霊の状態で彼女に近づく事にした。
彼女に霊能力があったらどうしよう、とか不安はあるが、
まずは動け、がんばれ男の子。


ではいつものように壁をすり抜け――――


('A`)「……ん?」


確かな違和感。
まるで呼吸の仕方を忘れてしまったかのような。


いつも――
いつも俺は、どうやって、どうやって……


(;'A`)「壁っていつも……どうやってすり抜けてた……っけ?」

川 ゚ -゚)「ついにボケたか……」

(;'A`)「いや、そんなんじゃなくて……あれれ……」

その時、フッと腕が壁をすり抜けた。
ようやく得た安堵感。これが幽霊になった確かなしるし。



156: ◆R38CE/IWYU :2007/11/25(日) 17:55:45.99 ID:wGr+xkfD0
(;'A`)「あー、ビックリしたわ。じゃーな!」

川 ゚ - )「…………」

視力でも落ちたのか。
少しクーの顔がぼやけて見えた。
ブルーベリー食おう、ブルーベリー。



『怖いですよ。今まで使えていたモノが急に使えなくなるって』



いや、そんなバカな。

(;'A`)「気にしたら負けだ」

俺は一生、幽霊と人間のハーフだ。

どちらか一方に偏る事は無い。……と思う。

いくら走っても、不安はピッタリ俺の後ろをついて来た。






続く



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