('A`)ドクオは棺桶売りのようです

3: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:26:53.15 ID:irtJH3ZP0
               ⊂('A`⊂⌒`つ

猿も木から落ちる。
弘法にも筆の誤り。
河童の川流れ。
釈迦にも経の読み違い。
現代人でも西暦間違える。

その道の名人、達人と言われている人だろうが何だろうが、時には失敗する。
だが、それはあくまで一時的なものに過ぎない。

一回ミスしようと、結局猿が木登り上手な事実は揺るがないし、
河童だって昨日足吊っても、今日はバタフライでスーイスイだし、
弘法大使だって「ワープロうめぇwwwwwwwww」とか調子こいてたから、
ある日書き損じただけで、普通に筆の感覚を取り戻せば、そんなヘマはもうしない。

だから彼らは、一度の失態で頭を抱える必要は全く無いのだ。

無論、それは俺にも言える。
ドクオ君、幽霊の成り方忘れる。
それだって、それだって今日のあの一瞬の出来事に限った事で、
今はほら、元気に幽霊として走り回っている俺の姿が!

('A`)「あの時幽霊になる感覚を忘れていたらと思うと……ゾッとするね」

いかん、そうやって自身の事ばかり掘り下げるから、肝心の事柄が見えなくなるのだ。
今、重要視しているのはケーキ屋しぃちゃんの行方とその心境について、だ。
小柄で明るい茶のショートカット。一階で発見、彼女の後姿で間違いない。
どうやら受付窓口で何かを訴えているようだ。



4: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:28:50.96 ID:irtJH3ZP0
(*;ー;)「絶望に効くクスリを下さい!」

そりゃ某対談漫画だろうが。
当然の事ながら、係員は戸惑い「そうは言われましても」と頭を下げている。
チクショー、と彼女は壁に頭を叩きつけている。今なら釘が打てそうだ。

('A`)「もっと知的で繊細で……一歩退いているイメージがあったんだが……」

『優しい』
『寛容』
『おしとやか』
第一印象の枠から、どんどん彼女がはみ出ていく。

('、`*川「猛獣捕獲用、麻酔銃を持ってきました」

そんなのあるんだ……
近頃の病院は怖い怖い。

('、`*川「家から」

…………家から持ってきたんだ……

看護士っぽい人「伊藤さん、それは流石に危n('、`*川「発射!」

(*;ー;)「ウッ」

見事命中。撃った看護士さんが妙に手慣れているのが余計に怖かった。
これ以上の偵察は無意味だ。目を逸らさずにはいられない。
事態の収拾はその場の人間様に任せ、俺は部屋へと走って逃げた。



5: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:29:54.24 ID:irtJH3ZP0






















  第
第八話
  話



7: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:31:18.58 ID:irtJH3ZP0
霊とは何か

聖書の中で「霊」と訳されている言葉は、基本的に「息」を意味している。
これは単なる呼吸以上のものを表している。
例えば、聖書の筆者ヤコブは「霊の無い体は死んだもの」と述べている。

つまり、この霊というものは体を生かしているものなのだ。
体を生かすこの力は、肺を通る単なる息ないしは空気の事ではない。
なぜなら呼吸が止まっても、暫くの間は“数分間”体の細胞内に命が残っているからだ。

そのため蘇生の努力が功を奏することもあるし、臓器を別の人間に移植する事も不可能ではない。
しかしひとたび体の細胞から命の火が消えると、生命を回復させようとする、
どんな努力も虚しく終わる。

どれほどの“息”をもってしても、一個の細胞さえ生き返らせる事は出来ない。
だから霊とは命の火、細胞を生かしている見えない生命力。
この生命力は、呼吸によって保たれている。

この霊は人間だけに作用するのか。
聖書はこの点で正しい結論を得る助けになる。
賢い王であったソロモンはこう記している。

「人間の子らの霊は上に上って行くのか、
 また獣の霊は地に下って行くのか、
 一体誰がこれを知っているであろうか」



9: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:32:36.57 ID:irtJH3ZP0
それで動物も人間も同じ様に霊を持つものとして述べられている。
どのような意味でそう言えるのか。

生命力としての霊は、機械や器具に流れる電流になぞられる事が出来る。
電気は見えないが、それが作用する装置に応じて様々な働きをする。
ヒーターでは熱を発し、コンピューターでは情報の処理や計算を行い、テレビでは画像や音声を作る。

だからといって、電流がその動かす装置の特性を帯びる事は無い。
電流は電流のままだ。

同じ様に、生き物に働く生命力も、その生き物の特性を帯びるような事は無い。
霊そのものに人格は無く、思考力も無い。
人間も動物も「ただ一つの霊を持って」いる。

それで人の霊が霊者となって別の世界で存在を続ける、というような事は無い。
では、死んだ人はどのようになるのでしょうか。
また、人が死ぬ時に霊はどうなるのでしょうか。

                    ―― 変なパンフレットから適当に抜粋
/ ,' 3「イイハナシダナー」

荒巻が腕で涙を拭っている。
食事を運んできたナースに「娯楽が無くて暇」と漏らした所、
十数ページそこらの、宗教染みた冊子を渡されたそうだ。

表紙では翼の生えたオヤジが、光を浴びながら飛翔している。
何なんだろう、この中年は。良く分からないけど、随分と安らかな顔をしているのだ。
娘に洗濯物を一緒にしないで、とか言われたのだろうか。
きっとそうだ。これは何かを悟ったオヤジの表情だ。間違いない。



10: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:35:10.69 ID:irtJH3ZP0
現在は夜七時。
各テレビ局がこぞって視聴率を奪い合う、ゴールデンタイムの始まり。
言わば民放局同士の戦争。
そんな戦いを見る事が出来る箱が、この病室にも一つある。

電源を入れた。
芸人が一発芸を披露している。大して面白くは無い。
次。チャンネルを変えた。
タレントが動物と戯れている。どこを楽しめばいいのか本気で分からない。
次。チャンネルを変えた。
密着警察24時と題がついている。スピード違反の車を追いかけていた。何故か胸が痛い。
次。チャンネルを変えた。
七男四女大家族スペシャル。母ちゃん妊娠、実は次男の子供。父ちゃんブチ切れ。
これは結構面白そうじゃね? リモコンの手が止まる。

次男『もう母親でも良いと思った。今は反省している』
父『許さんからな! 許さんからな!』
長男『俺よりも早く卒業するとは……』
四女『怖くなった。産婦人科行ってくる』
七男『俺も泌尿器科行ってくる!』
五男『じゃあ僕は生協だ!』

(ノA`)「やべ……ちょっとキタわ……」

川 ゚ -゚)「こねーよ」

不覚にもウルッと来た俺の隣で冷たく言ったのはクーだ。
「お前に家庭の温かみが分かるか!」と俺は反論する。
涙目なせいなのか、若干クーがぼやけて見えた。



13: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:37:03.48 ID:irtJH3ZP0
川 - )「…………家庭……」

俺の言葉が響いたのだろうか。
あの仏頂面が僅かに崩れた。潤んだ視界からでも、それはハッキリ見えた。

父『母ちゃんのお腹どうなってた?』
次男『すごく……大きかったです』
父『でかいのはいいからさ、このままじゃおさまりがつかないんだ』

(ノA;)「オロローン!」

俺の目線は再びテレビの画面へ。
結局その後、クーがどんな顔で何を見ていたか、俺は知る由も無かった。

次男『ひぎいいいいい! あがちゃんできちゃうううううう!
   あがちゃんでk………………―――――――――― ブツン ―――――――――

次男の悶えた顔が闇に溶けた。

('A`)「ちょっ……切れ、切れやがった! おい、どうした!」

叩けば直る、という先人の偉大な言葉を信じて、ガンガンとテレビを小突く。
だがテレビからはちっとも返事が来ない。故障か、反抗期か。何なのでしょうか。

/ ,' 3「うっさいのお。そこの部分に百円入れる穴があるじゃろい」

(;'A`)「そ、そんなシステムなのかよ! どこのペンションだ!」

( ФωФ)「別に続きなんて気になりませんよ……
      どうせ和解して、これからも仲良くね、とか、そういうエンドですよ」



15: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:38:33.29 ID:irtJH3ZP0
“恐怖の大王”杉浦さんが、やたら低い声で言った。
俺がしぃちゃんの現状について報告した辺りから、彼のテンションが低い。
それにつられてなのか、心なしかクーや荒巻も、ちょっとおかしい。
会話や態度が冷めているのは、いつもの事だが、今夜はそれに加えて何だか息苦しい。


――――――何がいけなかったんだ?


('A`)『何か彼女、ショックで壁に頭叩きつけてました。
   それで銃で撃たれて倒れました……以上で報告を終わります』

( ФωФ)『つまんねえええええええええええええええ! ですね!
      私の知らない所で、勝手に彼女を絶望させないで下さいよ!
      理想はね! 私が頬杖ついてニヤニヤしながら、
      彼女がフラれる様を閲覧する事なんですよ!
      それが出来なきゃこの八年間は全てパーですよ! 責任取って下さいよ!』

とかいう大王もいれば、

/ ,' 3『それで、君は彼女を見て何を思ったんだい?』

(;'A`)『えー……怖いなー、とか……哀れだなー、とか……かな?』

/ ,' 3『そうか。ま、君は所詮その程度の男だったという事か』

(;'A`)(どういう事――――――!?)

とかいう老人もいる。



18: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:44:29.93 ID:irtJH3ZP0
川 ゚ -゚)『何だか悲しいな。自分を愛する余り傷付いている人間を見て、
     それが哀れだと唾を吐き捨てるような、お前の感情が……』

(;'A`)「ちょおおおい! お前、さっきと言ってる事が違うじゃないかあああ!!1!」

↓さっき
【川 ゚ -゚)『いいや! 見直したぞドクオ! 痛みに耐えてよく頑張った!
     この程度で泣く女の涙など安っぽーい塩水なんだ。
     全てが自分の思い通りになると考えてるからな。だから想定の範囲外の
     出来事が起こった時、脆く、泣き出すのさ、今時のビッチは。反省しろ』】

川 ゚ -゚)『あの時はしぃとかいう女が、ドクオにちょっかいを出す尻軽ダニスイーツに
     見えたんだ。だが、彼女がそこまでショックを受けているとなると、
     少々可哀相に思えてきてな。私の中では逆にお前の非情さが浮き彫りになった』

('A`)『そ、そんなぁ……』

川 う-゚)『それに私は嬉しいんだ。これまで友達の一人も満足に作れなかったお前が、
     誰かに本気で愛される人間になるとは……』

('A`)『ちょwwwっうえぇwwwwwwwww』

そんな巫女もいる。

ああもう、何だよ。
お前ら皆俺の味方じゃなかったのかよ。
コロコロ意見変えやがって。振り回されているのは他でもない俺だというのに。

ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな……



22: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:48:56.81 ID:irtJH3ZP0
(#´・_ゝ・`)「ふざけんなよ! クソッ!」

翌朝、草木生い茂る中庭でゆっくりしていた所、ナースの盛岡が直角に飛んできた。
俺は桃白白の要領で乗っかる。そのまま俺達二人は木に衝突した。
穏やかな午前九時の空気を堪能していたのに、とんだ邪魔が入ったものだ。

('A`)「……何がふざけんな、なんだよ。世界情勢とかか?」

(#´・_ゝ・`)「ぐぐぅ、聞いてくれ! ミシュランガイドだか訳分からん格付けで、
       東京の料理店が三つ星二つ星を散々貰ったのは知っているな?」

('A`)「俺には縁の無い話だ。男だったら吉野家のテラ豚丼だろ」

(#´・_ゝ・`)「それはない。で、この下らねぇランキングは何も料理店に限ったものだけ
       じゃない。ギャングの世界でも一緒さ……覆面捜査員が来て、
       組員の健康状態や能力、各種サービスなどを調査し、格付けするんだ。
       せっかく道下組も傘下に治めたっていうのに!
       何故なんだ! 早く指定暴力団になりてえええええ!」

('A`)「中々複雑な業界のようですね」

(´・_ゝ・`)「一つ星は欲しかったなあ。やはり名が売れるのは名誉だし、
       他の組への威嚇にもなるしな。俺らは三つ星だぞコラァ! とか言いたい」

('A`)「そういうメンチの切り方もあるのか……時代は進化してんだか退化してんだか。
   でも応援してるぜ。本当に応援してるのかって問われたら口篭もるけどな」

(´・_ゝ・`)「酷いなそれ、表面上だけかよ……お前結構性格悪いな。黒いよ」

('A`)「何を今更。乳首から尻の穴まで俺はブラックだよ」



25: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:52:59.93 ID:irtJH3ZP0
ブラックになっていた。

(*゚ー゚)「おへへへっ、黒に染めてみました」

効果音を付けるとしたら『キュピーン』
映像を編集出来るなら周りに星をちりばめて、バックは淡いピンクにする。
そんな少女漫画みたいな演出が似合う程に、乙女は俺にゾッコンだった。

('A`)「く、黒くしたんだね……」

まさか、あの後復活して、俺の気を惹く努力をしていたとは。
そういえば、黒髪が理想とか勝手にほざいていた記憶が自分にはある。

(*゚ー゚)「ハイ、お望み通りに! 美しいブラックです。BLACK RXです」

俺は顔を引き攣らせている。
この状況で笑える要素が一つも無いというのに、半開きの口からは「ハハハ……」と
弱々しい笑い声が漏れている。彼女も「ウフフ……」と口に手を当て上品に笑っている。
入院部屋ではそれぞれ意味の違った二つの笑い声で充満していた。

そして五月蝿いギャラリーもいる。

川 ゚ -゚)「いかに乙女心を傷つけず、優しく接するかだ。
     ここでお前の、男として……いや、人間としての真価が問われるぞドクオ」

( ФωФ)「性懲りも無く復活したな小娘……グヒヒ、そうじゃなきゃツマラン。
      ドクオさん、この堕天使の羽根を思いっきり毟ってやりましょうよ!
      ここで女に唾を吐けないようじゃ、男が廃りますよ!」

(,,゚Д゚)「俺が一晩考えた最善のシナリオは、ここでドクオが自分の舌を噛み切って死ぬ」



28: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 01:58:19.20 ID:irtJH3ZP0
言いたい放題だなコイツら。
その一方で荒巻は美人ナースに受尿器の使い方についてあれこれ指導されている。
羨ましいぞこの野郎。自分で立って小便行ける癖に何やってんだ糞ジジイ。

川 ゚ -゚)「〜〜〜〜!〜!!」(ФωФ#)(,,゚Д゚)「wwwwwwwwwwww」

元々うざったい外野が更にやかましくなってきやがった。
黙らせるには、納得させる展開を作る他無い。
こいつらの指示に沿ってやれば文句は無くなるはずだ。

(*゚ー゚)「あのう、こんな私……嫁にどうですか?」

いや嫁って君。飛躍し過ぎだろ常考。
まずはクーの言う通り優しく、甘く、ぬるーく接してみよう。

('A`)「いや〜昨日と比べて見違えるように可愛くなったよ。
   それに清楚な感じになったよね。やっぱり日本人は黒だよ、大和撫子は。
   生まれつきの地毛ならともかく、最近の女子高生とか金とかオレンジとか
   わけわかめな色に染めてるからねー。ヘアカラーって害だらけなんだぜ。
   キューティクルが剥がれて髪は痛むし、アレルギーや発ガン性も無視出来ないしね」

次に杉浦さんの要望。冷たく突き放す。

('A`)「話は逸れるが、俺は君のような人間が嫌いだ。見てると尻から反吐が出そうになる。
   分かったら俺の前には二度と現れるな。分かったら家で英国旗でもデザインしてろ」

(*゚ー゚)「一瞬の温もりの先に待ち受けていたのは、鉄のように冷たい荊……
    これ位のメリハリがあってこそ真の男……このロンリーウルフを私の胸で包み込んであげたいわ」

なんてこった。昨日の一件で彼女は煽り耐性を身につけ、ポジティブシンキングになってしまった。



29: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:00:42.07 ID:irtJH3ZP0
(*゚ー゚)「またもや振られてしまいました。しかしこの程度で諦めるほど私は弱い女じゃ
    ありません。必ずや、貴方のハートを鷲掴みにして粉砕してませます」

粉砕しちゃ駄目だろ。

(*゚ー゚)「貴方の方から連絡したいと思った時の為に、これを渡しておきます」

彼女はポケットから一枚の紙を取り出した。
そっと俺に手渡すと、扉の前で一礼して足早に去っていった。
一応見舞いという名目で彼女はここにやって来ているので、こちらも見舞われる側として
「まぁありがとうね」と形だけ手を振った。
面倒だからもう二度と来ないでいいからね、という副音声は多分伝わっていないと思う。

渡された紙を開くと、そこには携帯電話のメールアドレスが書いてあった。
『yakisobaBaGooooN@ezweb.ne.jp』

('A`)「これは……少しだけど胸がキュンとした自分が悔しいぜ……」

川 ゚ -゚)「中々どうしてタフな女だな。私はそこそこ好感が持ててきたぞ」

いつになく間抜けな顔をして、クーがポツリと一言放った。
口を半開きにさせながら頭を掻いている。
対照的に杉浦さんの表情は鬼のそれだ。貴乃花かと思ったわ。

(#ФωФ)「ざけんじゃねぇ……どうしてそこまで物事をプラスへと運ぶ事が出来るんだ。
      俺を殺しておいて自分だけ幸せを掴もうったって、そうはいかせねぇ……
      精神をジワジワと抉るように甚振ってやるのだ」

この人をぶっ潰せば全て解決するような気がしてきた。



32: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:05:04.99 ID:irtJH3ZP0
そいつは嫌な夢だった。

教会の中、白いタキシードに身を包んだ俺と、祭壇に立つ牧師。
後ろから新婦と、その父らしき人物が入場してきた。

新婦は真っ白なバージンロードをしっかりと踏み締め、一歩一歩俺に近づいていく。
花嫁の姿は勿論ウエディングドレス。当然、白色。
白尽くしだ。新郎新婦、祭壇への通路までもが白一色。

この場に至るまで、どれほどの過ちを繰り返してきたか分からない。
人を傷つけ、平気で嘘をつき、悪い都合からは逃げ出した事もあった。
本来、無罪や無垢を表す色を全身に纏って『ゴールイン』など笑わせるな青二才、なのだ。

しかし俺はここにいる。祝福されている。聖書を読んで貰っている。
その聖書の中身がチラリと見えた。ルビが振ってあったり、蛍光ペンで線が引かれていた。
ああ頑張って練習したんだなぁ。ありがとう牧師さん。ここに最大限の感謝を。

神の前での宣誓。
牧師の口がゆっくり開く。

「汝ドクオは、この女しぃを妻とし、健やかなる時も病める時も、
 喜びの時も悲しみの時も、富める時も貧しい時も、ネトゲ廃人になった時も、
 ミスドのドーナツ入れる箱が上手く閉められない時も、これを愛し、これを敬い、
 これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くす事を誓いますか?」

ん? この女しぃを妻とし? 隣をよく見てみる。

(*゚ー゚)「いつまーでも! いつまーでも! 追い続けるんだー!」

真っ赤なちかあああいいいいいいいいいいい。



36: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:11:19.74 ID:irtJH3ZP0
(;'A`)「うばぁっ!」

飛び跳ねる勢いで起床した。
汗が凄まじい。特に背中から尻にかけては、完全に洪水の状態と化している。
辺りは闇。夜明けまでは、もう少し時間がかかりそうだ。

二度寝の快感は異常。
だと思っていたが、こんなに湿ったベッドの上で心地良く眠れる訳が無い。
意を決して横になってみたが、ぐちゃ。ぬちゃ。粘液じゃないですか。
俺の身体が心配だ。病院に来て余計に容態が悪くなっている気がするのは考え過ぎか。

しかし、あのしぃちゃんも困ったものだ。
別に嫌いでは無いのだ。ただ付き合う気も無い。これだけはガチ。
正直怖いだけなんだ。女という生物と付き合うという行為そのものが。

いや、俺はただ今の生活に変化を齎す事に恐れているのかもしれない。
適当にバイトして(現在は完全に無職だが)適当に金貰って、適当なものを口にして
適当に排出して、適当に寝て、布団の中で妄想して、いつもと変わらぬ朝日を浴びる。

クーがいて、幽霊がいて、たまにトラブルに巻き込まれて、それでも最後は笑って、
その一日があって良かったとか一丁前に思ってみたり、ポエムでも書いてみたりする。
危険もある。が、それが日常として定着してしまった。

散々クーに文句を言った。そんな自分は嫌いじゃなかった。
暇してる俺に、クーが割と無理臭い且つ胡散臭い依頼を持ってくる。
俺は拒んでも結局遂行する羽目になる。そんな一連のやりとりを楽しんでいる自分がいた。

沢山の幽霊の方々から感謝された。
望んでこんな能力を手に入れた訳じゃないが、今となっては人間としての俺より、
幽霊として俺の人生のほうが充実していて、有意義だと自分でも思う。



38: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:15:33.80 ID:irtJH3ZP0
そこに彼女が現れた。
「好きです、付き合って下さい」布団の中でアドレナリン放出しながら悶々と考えていた
事が現実のものとなった。それは単純に嬉しかったが、素直に喜べず、
自分のタイプじゃない。など我ながらふざけた回答をしてしまった。
もう一度言う。怖かった。それだけである。

彼女は、しぃは人間である。
なんか呼び捨てにしちゃったけど、もういいや、ああもういい。
人間と付き合うという事は、人間の世界でしか出来ない。

人間の俺。しがないフリーターの、ドクオ。名字だけ無駄に格好良い、ドクオ。
低身長、低所得、低学歴、下の戦士は未だ城に突入した事が無いばかりか、
お袋に貰った皮の鎧を大事に着ているヒヨッコだ。その主もまた同様に軟弱者だ。

そんな俺、ドクオ君が人間の世界に引っ張られている。
しぃに引き摺られながら俺は「嫌だ嫌だ。こっちの方が良い」と駄々をこねながら
幽霊の世界に手を伸ばしている。その先にはクーがいる。

彼女は最初こそ拉致されかけている俺を「やめて、連れて行かないで」と、猛抗議した。
しかし折れないしぃと幼児のように喚く俺を暫く見た後、ふぅと溜息をついて、くるりと
背中を向けた。見捨てられたような気はしなかった。
例えるなら百獣の王ライオンが我が子を崖に突き落としてららら、みたいな感があった。

『それに私は嬉しいんだ。これまで友達の一人も満足に作れなかったお前が、
 誰かに本気で愛される人間になるとは……』

もしかしたらクーは、今の不甲斐ない俺を変えようとして、
急に意見を変えるような真似をしたのかもしれない。
大人になれない、成長できない俺を目の当たりにして、甘ったれた世界と仕事を用意した
エリカ様風に言うと諸悪の根源である自分を責め、俺を変えようとしていたのではないか。



42: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:20:22.99 ID:irtJH3ZP0
自覚はしている。幽霊の世界は居心地が良い。
自然と仲間が出来た。そして俺の能力は重宝されている。
自分は大事にされている……か、どうかは怪しいが必要とされているのは確かだった。
自惚れもある。でもいいじゃないか、人間の世界じゃこんな扱いされないんだから。

いつまで経っても、まともな定職に就けない人間の俺は嫌いだ。

仕事が舞い込んでくる、頼りにされる幽霊の俺の方が好きだ。

友達が出来ない、人間の俺は嫌いだ。

やかましい仲間がいる、幽霊の俺の方が好きだ。

今更人間の俺が好きになれる自信は無い。
自分を変える勇気も無い。何より面倒で神経を使う。
このままを維持したい。だからしぃとは付き合いたくない。
恋愛なんてしなくても、今までの人生楽しかった。これからも変わらず、それでいい。

それでいい筈なんだ。
では、この胸の裂けるような痛みはなんだろうか。
息苦しい。ナースコール押してやろうか。

(;'A`)「精神的なもんなんだろうな、きっと」

なんとか呼吸を整えながら、窓の外の月を見た。
三日月。ヘシ折れそうな、華奢な三日月。
ブーメランにして投げたら子供が喜びそうな、三日月。
一ヶ月に一回くらいしかやらなかった、なんかすごい特撮、鉄甲機ミカヅキ。

ああ夜は長いなあ。長い、長過ぎる。



46: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:27:11.26 ID:irtJH3ZP0
長くなっていた。

(*゚ー゚)「じゃーん。ロングにしてみましたー」

うむ、げに美しき大和撫子よ。
あの黒髪が長くなっておられる。
肩に触れる程度だった昨日までの髪は腰まで伸びていた。
伸び過ぎだろ。今時ストレッチマンだってそこまで強制しないぜ。

(*゚ー゚)「つけ毛って奴なんですねぇ。一時は自分の全身の毛を剃って、
     それを頭髪に繋ぎ合わせて伸ばそうと考えたんですけど断念しました。
     まぁ毛はノリで剃ってしまいましたが」

断念した上で剃ったのか。バカじゃねぇかコイツ。

('A`)「わざわざ部屋まで、そんな報告どうもね。あとお前真性の阿呆だろ」

吐き捨てるように言ってみた。
斜に構えているつもりだが、正直内心ではドッキンドッキンしている。
髪の長さ一つで、こんなに印象が変化するものなのか。
彼女はもの凄い勢いで俺の理想に近づいていく。
黒髪ロングの魔力すげぇ。昔から身近に一人居た気もするけど。

(,,゚Д゚)「こ、これは予想を遥かに越える破壊力だ……
     最初はややギャルチックだったが、今や立派な委員長に……
     これでポニテにまでしたら、世界が滅ぶぞ……」

涎を垂れ流しながらギコはブツブツと呟き出した。
ちなみにこいつは現在鎖で縛られている。



48: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:31:21.66 ID:irtJH3ZP0
(*゚ー゚)「黒髪ロングが好みだったんですよねっ! どうです? 似合ってますか?」

わざとらしく靡かせている。こういう態度は鼻につく。が、本音を言うと可愛いです。

('A`)「ああ似合っているよ。可愛い可愛い。俺の嫁には程遠いがな。
   実の所俺はね、面倒じゃない女が好きなの。物を強請ったりしないようなね。
   勝手に記念日作ったりする女も嫌だな。俺のペースに合わせてくれる娘が良いや」

あ、まずい。喋りすぎたか。

(*゚ー゚)「まだ私は貴方に相応しい女になれていない、という事ですね。
     精進します。乾布摩擦とかします。
     あ、あといつでも連絡待ってますから」

('A`)「うん、一応登録だけはしているよ」

またも彼女は足早に去っていった。

( ФωФ)「流石ですねぇ、ドクオさん! 少々優しく接して、油断させた所で
      一気にドーンで突き落とすんですね。この鬼畜―!」

('A`)「あー……あんまりそういうのじゃ無かったかも……」

(;ФωФ)「えぇ……うおおい! じゃあ素だったんですか?
      いけませんよ、本当に心が揺らぐような事になったら、私は報われませんよ。
      そこんとこキチンと把握していて下さいよ」

('A`)「うーん……そうだねー……」

(;ФωФ)「……」



49: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:34:08.78 ID:irtJH3ZP0
(;ФωФ)「荒巻さん。相談があります、少し耳を貸して頂きたい」

/ ,' 3「なんじゃい。人がパラパラの練習をしてる最中に……」

(;ФωФ)「いえちょっと……」

('A`)「?」

中年と老人がヒソヒソ話を始めやがった。
何を企んでいるか知らないが、今後は決して周りに振り回されない、
自分の態度でしぃと接し、このこんがらがった問題に歯止めをかけるつもりだ。
何にせよ杉浦さんの要望は叶いそうにも無い。

川 ゚ -゚)「ならば杉浦を変えるしかないぞ。ドクオ」

人が用を足してる時に、さらりとクーが提案してきた。そんな正午の男子トイレ。

('A`)「あの邪悪な欲望が簡単に消えてくれるか。だって八年待ち望んでたんだぜ、杉浦さん。
   つーか見るなよ、俺のマグナムセイバーを」

ここで小便が二つに分かれた。
ただの枝分かれじゃない。
発射口からは一本の線しか伸びていない。途中で二つに別れているのだ。
それは美しく『Y』の字を描いている。秘技、二頭を持つキングレックスと名付けた。

川 ゚ -゚)「このように最初は“彼女をいかにして振るか”という一筋の道しか
     考えていなかったお前も、今では“付き合ったらこうなる”など、
     様々な選択肢を踏まえた上で悩んでいる。これは成長だぞ」

('A`)「すごく嫌な例えだ」



55: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:40:02.95 ID:irtJH3ZP0
翌日、洒落にならないメールが彼女からやってきた。


           『屋上で待ってる』


('A゜)「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

川 ゚ -゚)「nice boat」

この屋上というのは、病院の屋上で間違いは無い、筈。
いままで見舞いの際は直接この部屋まで来てくれたのに何故だ。
やはり何か特別なイベントを用意してこそなんだろうか、屋上という場所は。
イベント? 何の? 何が起こるの?
しかしこのメールは不味いだろう。
やはり思い浮かべるのはランナー三塁、バントの構えだ。

('A`)「殺される……のか?」

( ФωФ)「流石にそれは無いんじゃねぇですけぇ?
      だってあんなに貴方を愛していた女性ですよぃ。フヒヒ」

杉浦さんがニヤニヤしながら、俺の顔を覗いて来る。
はっきり言って不快以外の何物でも無い。
裏がある。企みがある。しかしこのメールは間違いなく彼女から来たものだ。

( ФωФ)「まあ屋上に行ってみればいいじゃないですか。ハーハッハッハ。
      笑いが止まらねえぜwwwwwwwwwwww」

不自然だろ。明らかに。その笑いは何処から来る笑いなんだよと小一時間問い詰めたい。



58: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:44:22.87 ID:irtJH3ZP0
川 ゚ -゚)「……杉浦は何かを企んでいるぞ。荒巻が居ないのも何か怪しい。
     危険は分かっているが、行かないというのも物語の進行的にありえない……
     万全の準備で向かおう。お前の命が第一だからな」

('A`)「分かった。じゃあフロントから鎧を借りてくるよ」

川 ゚ -゚)「うむ。ムシャジェネレーションだ」

こうして俺はミスリル鎧を装着し、病院の屋上へと続く階段を上っていった。
ギコもついていきたいとごねるので、クーが鎖でいつも以上に強く縛り、牢獄に連行される罪人のような扱いで連れて行く事にした。
その後ろから杉浦さんもダンスを踊りながら追ってくる。不気味だ。

('A`)「杉浦さん、貴方にとっては良い展開とは言えないんじゃないですか?
   俺の気持ちも正直言うと揺らいでいるし、何となくだけど彼女は決意を胸に
   俺を屋上に呼び出した感があるんですよ……それくらい察してるでしょう?
   どうしてそんなに有頂天なんです? 狂ってしまったんですか?」

(,,゚Д゚)「院内を鎧で歩くお前に、狂ってるとか言われたくねーな……」

( ФωФ)「僕は今でも復讐心を捨てちゃいませんよ。
      踊っているのはそういう年頃だからです」

その後に小声で「ククク、これで全てを終わらせてやる……血が見れるぜ」とか
言っている。丸聞こえだし、誤魔化す気ゼロだろ。
血は見たくないが、ここまで来たら引き下がれない。いい加減日常シーンにマンネリを
感じていたんだ。やっぱ変化って大事!

屋上の扉は開いていた。
昼時だが北風もあり、屋外はやはり冷たく肌寒い。鎧越しでもだ。



60: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:49:00.80 ID:irtJH3ZP0
しぃは仁王立ちだった。何故か仁王立ちだった。
その姿に神々しさすら感じている自分がいた。
まさに女神だったからだ。黒髪になり、それがロングになり、次は巨乳になっている。
あの日、つい口走った理想の嫁像がそこにあった。
寒さも忘れて見惚れてしまった。クーに「おい」と促されて、やっと我に返った。

(*゚ー゚)「メールありがとうございます。おかげで自分の改善すべき点が見つかりました」

('A`)「え? メールって何よ……?」

そんなもの送っちゃいない。
どういう事? と皆に助けを求めようと後ろを振り返ると、そこには「どういう事だ」と
醜悪な形相で歯軋りを立てている杉浦さんがいた。ちょっ、おま、どうした。

(*゚ー゚)「とぼけないで下さいよ。ドクオさんが私に送った、理想の女性像を
     ズラズラと羅列したメールですよ」

そう言うと彼女は携帯電話の画面を見せてくれた。

『正直今の君では僕の理想とする女には程遠い。日本と北朝鮮くらい遠い。
 僕は黒髪ロングで巨乳で柔輪がほどほどのサイズで桃色が好ましい。
 また僕はピアスやマニキュアをする女が苦手である。引っこ抜きたいしヘシ折りたい。
 こういったメールひとつでも絵文字や顔文字を多用する女は嫌いだ。地面にでも刺され。
 ジャラジャラとストラップを付けまくる女も消え失せて欲しい。電話本体より重いとか
 馬鹿か。それからアホみたいにファッション雑誌を読んでるのも頂けないな。
 ブランドに拘るアマも嫌いだ。喫煙する女も駄目。見栄を張らず、マナーのある娘が
 好き。媚びを売る女はやだ。自分で天然っていう女も嫌い。すぐにセクハラ言う奴も
 嫌いだ。血液型で男を見る奴もクソ。でも俺はO型辺りとつきあいたい。スイーツ(笑)』

後半からは単に嫌いな女の特徴じゃねーか。俺は知らねーぞ、こんなもん。



61: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:52:32.01 ID:irtJH3ZP0
(*゚ー゚)「これを見て思ったんです。ああ私は嫌な女だなぁって。
     だから、貴方の言う理想に近づくため精一杯努力しました!
     見て下さい、この格好! 全部しまむらで揃えました。
     ブランドなんて糞喰らえです。メールでは絵文字も顔文字も使いません!
     煙草も一時期吸ってましたが、今はシャボン玉を吹かしています! メルヘン!
     マナーも弁えます。自分で天然なんて言いません!
     家にあるファッション誌も全部燃やして焼き芋しました!
     セクハラも耐えます! 媚びも売りません!
     大量のストラップも引っこ抜いて、今はわかめをケータイに吊るしています!
     私は血液型Bなんですけど、献血で身体中の血を全部抜いてもらって
     O型の血を輸血すればいいんじゃね? ピアス穴も気力で塞ぎました!
     マニキュアの塗料も日本海に投げ入れました! 乳輪は知らん」

(;'A`)「なんで……」

(#ФωФ)「何でそこまで……馬鹿じゃないのか! たかが一人の男の我侭に、どうして
      そこまでして頑張るんだよ! 諦めろよ、何でお前は絶望を知らないんだよ!
      一回振られて飛び降りた俺と……馬鹿みたいに変わろうとするお前の、
      何が違うって言うんだよおおおおおおおお!」

杉浦さんが吠えた。
しぃに接近しながら。
だが当然、その声が彼女に届く事は無い。

(#ФωФ)「お前を八年間見てきた事を生かして、お前が好きなモノ全部否定するような
      メールまで送ってやったというのに……それすら捨ててまで得たいのか?
      それほど、この男に価値があるのかよ! 何で笑顔を絶やさないんだよ!
      なんで、なんで、なんで……」

川 ゚ -゚)「お前に足りない物があるからだろう。杉浦よ」



62: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:54:53.29 ID:irtJH3ZP0
残酷なまでに純粋。そして一途。
未だに俺は答えを見出せていない。

彼女の、処理を。
どうするか、俺はどう動けばいいのか。
何も分からない。教科書にも、こんな時の対処法は載っちゃいなかった。

しかし、俺はもう選択を迫られている。

何を優先して行動すべきか、それは勿論決まっている。



彼女の命だ。



(#'A`)「うおおおおっ!」

(*゚ー゚)「きゃ、きゃっ!」

そしてしぃを抱き締め、倒れた。

(,,#゚Д゚)「ドクオてめえええええええええええ」ええええええええ!!!



同時に、
頭の上を、
斬撃が掠めた。



65: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 02:56:30.88 ID:irtJH3ZP0
川 ゚ -゚)「っ……この!」

刃物が擦れ合う。二度、三度、間が開いて四度目の衝突。
相対しているのは日本刀と斧。乾いた空気の中で、ぶつかり合う金属の音。
俺はとっさに頭上を確認する。そこには空の色と同じ、灰色パーカーの男が斧を振るっていた。
前回同様深く被ったフードと、その奥から殺意を放つ眼光。
未来人、稚内さんを救えなかった記憶が甦る。
他人の事情も露知らず、真横から全てを奪い去っていく轢き逃げ車のような男だ。
そんな理不尽を今日も起こしに、意気揚揚とやって来たのか。
そんな理不尽を今日も起こしに――――

(;ФωФ)「いたいよ――――! ママ――――――!」

胴を裂かれ、泣き叫ぶ杉浦さんがいた。
横に倒れ、回転しながらその場で円を描いている。
自転をしながら公転をする地球のようであった。顔も青い。

(;'A`)「さっきの斬撃は……」

杉浦さんを狙ったものだったか。
一瞬だけ感じ取った視線。しぃや俺に向けられたものと思っていた。
事実、男はクーと交戦している。幽霊のクーとだ。即ち、それはチョップマンが
幽霊という事を表している。荒巻のようなタイプじゃなければ、だが。

さて、事が複雑になってきた。
チョップマンが幽霊だとすれば、しぃには何も見えていない事になる。
出来る事ならクーを援護してやりたいが、今幽霊の状態になれば確実にしぃに俺がただの
人間じゃないとばれてしまう。それよか、勢いで抱き倒してしまった。
隣で戦闘が行われているのに、こっちだけロマンチックにストーリーを進めるのも……



67: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:00:43.66 ID:irtJH3ZP0
               【+  】

(   )「以前の唾は効いた。あれから網膜が焼けるように痛かった」

数回打ち合った後、少しばかりの距離を取ってチョップマンは体勢を整える。
斧を両手に持ち前屈姿勢。勃起している訳じゃない。

川 ゚ -゚)「失礼な奴め。ドブ沼にバブを投入してやっただけだろう」

加速。クーが一気に距離を詰める。
またもぶつかる、刀と斧。単純な腕力だけ言えばチョップマンに分がある。
何とか互角に見えているのは、クーが速度をつけた踏み込みで一撃を放ったからだ。
それも簡単に防がれた。結局一時的に動きを止めるしか出来ていない。
だが、それで十分だったのだ。
次の瞬間、チョップマンの左肩に覗き穴が出来た。

それは一発の銃声と共に起きた出来事。

(   )「が……っ!」

狙撃された。
方向、角度、見つけた一つのビル。
そして“そいつ”と目が合った。

从 ゚∀从「思いの他素早いな。だが次は、脳天ブチ抜いてやる」

見張りのハインが今こそ自分の役目と言わんばかりに、再度照準を定めた。
小柄な体格に似つかわしくない、長ったるいライフルを構えている。
病院からやや離れたサラ金会社の屋上で、ハンバーガーを食いながら正確に狙っていた。



68: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:03:46.65 ID:irtJH3ZP0
(   )「畜生……こうも狙われていてはやり難い。つかズルくね。
      一個人対複数人とか。正々堂々戦えよ」

無断で襲撃してきた奴が吐く台詞じゃない。
想像以上に分が悪いと判断した結果なのだろうか、チョップマンは自分が来たルートを
逆走。
逃げるように院内へ戻っていく。結局何しに来たんだか。
目的はさっぱりだが、このまま逃亡を許す筈も無い。
クーはドクオに「杉浦は任せた」とだけ残して後を追いかけた。

(*゚ー゚)「こんな所で……恥ずかしい。でもドクオさんの趣味なら快く付き合いますわ」

(;'A`)(ど、どうすれば良いんだ……この状況は……)

(,,゚Д゚)「チクショー! 鎖だけは解いていけー!」

(;ФωФ)「痛いよー! 死んじゃうよー!」

屋上を真上から見ると、右に悶えながら転がる杉浦。中央にしぃを抱き倒しているドクオ。
左に鎖で縛られ、ジタバタするしかないギコの哀れな姿。
それぞれがそれぞれの修羅場を迎えている。とっても描写が面倒でカオスな状態だ。
その屋上の真下。病院七階。
チョップマンは駆けていた。一番恐れているのは言うまでも無くハインの銃弾。
一旦屋内に入ってしまえば完全に身を隠せる。

(   )「後は追ってくる女を上手い具合に仕留めるか……」

そう呟いた所で、動きがピタリと止まった。いや、止められた。首筋に刀が突き立てられている。

/ ,' 3「何処に行く気だ。若僧」



70: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:07:23.89 ID:irtJH3ZP0
('、`*川「荒巻さん、何やってるんですか?」

一般人から見れば、その老人の行動はボケそのものだ。
刀身の無い剣、即ち柄だけを何でもない空間にぷらーんと向けているのだから。
更に独り言までぶつくさ言ってる始末。治療が必要である。

だが凡人には、いや非凡でも単なる人間には見えない刀身がそこにはある。
長く青白い刃を向けられている者にとっては、それを握るこの荒巻という老人が、
鬼神のように見えているに違いない。

/ ,' 3「食後の運動ですよ」

(   )「人間と会話している。という事は当然だがジジイ、貴様は人間か……」

/ ,' 3「左様」

幽霊だけを斬る剣、妖刀“蟹鎌”が横一線に振るわれた。
チョップマンは咄嗟に腰を落として回避し、下から斧で突き上げるように攻める。
が、人間の身体にそれが通用する筈も無い。虚しく通過するだけだ。

(   )「ぬぅ……ダメだこりゃ」

あっさりと諦め、逃亡の手順、ルートを模索し始めた瞬間。
二度目の銃弾が飛んで来た。しかし今度は首筋を掠めただけで済んだ。
いや、済んだ……で済む筈が無い。自分は屋内、狙撃手はビルの屋上。
銃弾は霊のものだから壁をすり抜けるのは分かる。
しかし今の弾道を見る限り、敵は確実にこちらが見えている。
動きが筒抜けだとでも言うのか、連続通り魔はこれまでに無い危険が迫っている事に
正直怯えていた。幽霊だから、捕まらない余裕、というものが完全に消え失せている。



73: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:13:06.50 ID:irtJH3ZP0
从 ゚∀从「そう、美少女ハインリッヒの能力は……透視。
     貴様の前に何枚壁が塞がろうと、やる事成す事世界丸見えテレビ特捜部だ。
     遠距離に置いて俺の右に出る奴はいない。
     いたとしても、コミッショナーに賄賂を贈って上手くやり過ごしてやる」

説明的台詞が終わると同時にチョップマンの背後に影が迫る。

川 ゚ -゚)「素直二百十三式、菫の舞(今考えた)」

説明しよう。
菫の舞とは素直二百十三式で最も殺傷力に優れた、一撃必殺の奥義である。
要するに後ろから相手を剣で刺すのである。

川 ゚ -゚)「おりゃーっグッサリと死ねー」

目論見通り、日本刀はグサリと背中にブッ刺さった。
誤算だったのは、その刺した感覚が全く無い事。相手が痛む様子も無い事。
前方で倒れる音がした事。荒巻が血を流して倒れている事。

川 ゚ -゚)「え……?」

たった今自分が攻撃した、その男を確認してみる。
灰色のパーカーに深く被ったフード。重厚感漂う鋼鉄の凶暴な斧。
何も間違ってはいない。確かにそいつはチョップマン。


――――――そいつも、チョップマンだった。



76: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:14:55.18 ID:irtJH3ZP0
荒巻が倒れている横で、「ざまぁwwwwww」と無邪気に騒いでいる男がいる。
そいつも、同様の格好。全身グレーに見を纏った男。斧を武器とする、その男だ。

(   )「……」

川 ゚ -゚)「どういう事だ……」

チョップマンは、否、“チョップマン達”は、不意に顔を隠していたフードを取った。

从 ゚∀从「成程……例の通り魔の正体は――――――」






( ´_ゝ`)『ああ……動いたらフードが蒸れて熱い』(´<_` )

――――双子。

最初にドクオ達の前に現れ、杉浦を襲ったのが( ´_ゝ`)兄者。
荒巻を背中から斬りつけ、現在クーの日本刀に刺されているのが(´<_` )弟者。



               ふたりは通り魔!




77: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:17:42.56 ID:irtJH3ZP0
川 ゚ -゚)「刺した感触が全く無い。こいつは人間か、しかしさっきのアホ面の奴は
     確かに攻撃を受けた触感があったが……そいつは幽霊なのか」

(#´_ゝ`)「ちょっと待てよ! アホ面って顔隠してただろうよ!
      大体俺と弟者の顔は同じだっつーの! 寧ろ兄の威厳がある分、俺の方が
      男前だと胎児の頃から思っていた!」

川 ゚ -゚)「こっちが幽霊のチョップマン……そして……」

(´<_` )「……」

川 ゚ -゚)「こっちが人間の、つまり世間で言われるチョップマンか。
     五月蝿い幽霊の兄と寡黙な人間の弟と言った所か」

( ´_ゝ`)「突き詰めるなら、アナルが敏感な兄とそうじゃない弟……だがな」

川 ゚ -゚)「突き詰めたくない」

( ´_ゝ`)「遠慮するなよ。俺はなぁ、アンタと一対一で殺し合いたいのか?」

川 ゚ -゚)「訊くな」



81: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:24:26.78 ID:irtJH3ZP0
川 ゚ -゚)「兄とはマトモな話が出来そうに無い。出来てもしたくない。
     弟の方、お前に訊ねる。目的は何だ?」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「淫乱巫女殿、弟者は人間だぞ? 幽霊の言葉が聞こえるものか。
      なぁ弟者」

(´<_` )「ああ……兄者の言う通りだ」

川#゚ -゚)「うおおおおい! おかしいだろ! アホ面の兄も幽霊だろう!
     極々普通に会話するな!」

( ´_ゝ`)「違う、別に弟者は俺の言葉が聞こえている訳じゃない。
      それに俺の姿も見えていない筈だ。テレパシーというやつさ。
      会話を交えなくても意志を伝えられる。そこに生死の壁は無い。
      まぁ俺は弟者の考えてる事とか分かんないけどね。
      それに弟者は俺を盲信している。“自分の考える事は兄者の考える事”と
      信じてならないのさ」

川 ゚ -゚)「そりゃ厄介だ」

クーは視線を落とした。
倒れている人間は二人。荒巻と、この病院のれっきとした職員、伊藤さんだ。

('、`*川「う……ぐ……」

川 ゚ -゚)「この階に来るまで何人襲ったんだ? そして目的は何だ?」

( ´_ゝ`)「目的? 血が見たい。……なんちゃって」



82: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:29:04.03 ID:irtJH3ZP0
金属がぶつかった。やはり刀と斧だ。同じ表現ばっかりでマンネリだ。
しかし本当に刀と斧がただぶつかってるだけなので他に描写の仕様が無い。語彙も無い。

川 ゚ -゚)「散々な事件を起こして、血が見たいじゃ納得出来ないだろう……
     私も、被害者も……画面の前のキミもね!」

( ´_ゝ`)「今すぐ消えるお前に、これ以上説明するのが果てしなく面倒臭いのさ。
      何を知ろうと素人に俺達を止める事は出来ない」

斧が刀を弾く。
瞬間、クーの身体がガラ空きになった。
第二撃のチャンス。
兄者はそれを見逃さない、畳み掛けるように斧を――――「うおおおおおっ!」('A`#)

(;´_ゝ`)「なっ……!」

顔面にドクオの跳び蹴りが綺麗に決まった。
タダでさえ崩れている兄者の顔が更に崩れる。

(;'A`)「あら?」

蹴ったドクオ本人も驚いている。
ドクオが狙ったのは、弟者の方だったのだ。
チョップマン=幽霊の最早古い公式を頭で組み立てていたドクオは、攻撃するために
自分を幽霊の状態にした。当然の如く人間の弟者に蹴りが当たる事も無く、
すり抜けた先に兄者の顔面があった。それだけであった。



85: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:33:48.84 ID:irtJH3ZP0
ちなみにドクオ君がどのようにしてあの場を切り抜けたか1レスで説明しよう。

――――――――――――――――――――――――――――――

('A`)「しぃさん、ボクは貴方の事を特に愛しているつもりは無いが、好きと言ってくれる
   気持ちは凄く嬉しい。だが誤解しないで欲しい。今抱き倒したのは見えない力が
   働いたからであって、決して屋上でアンアンしようなんてエロゲみたいな事は
   考えちゃいない。分かったらボクはもう行かなきゃならない。君はそこで悶えてろ」

(*゚ー゚)「ハイ、分かったわ! これ以上は色んな意味で邪魔になりそうなので」

(,,゚Д゚)「チクショー! なんでドクオばっかりー! まずこの鎖外せー!
     いい事思いついた。ハイン、お前そこから俺を縛ってる鎖撃て」

(´・ω从 ゚∀从「ええー? 鎖をですかァー?」ドスッ

(´・ω从 ゚∀从「ぐあー後ろから誰かにやられた!」

こうしてハインは何者かに誘拐されたのであった……

(;ФωФ)「ラわーん! 痛いよママー!」

その頃

【+  】ゞ゚)「オウッフ! 持病のギックリ腰が!」

( ・∀・)「やったッ! 次期ボスの椅子が空いたッ!」

――――――――――――――――――――――――――――――



88: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:38:31.47 ID:irtJH3ZP0
川 ゚ -゚)「ハインが連れさらわれた……?」

('A`)「ああ、とりあえずハインの事は縛られているギコに委ねた。
   縛られているから何も出来ないだろうけど……
   それより俺の今のキックは……」

ドクオは三行で訊ねた。

川 ゚ -゚)「兄は幽霊で弟は人間な双子がチョップマンの正体。
     お前が幽霊になって攻撃しようとしたのは人間の弟。
     無論、すり抜けてその先の兄にクリーンヒットした」

('A`)「なんと。そういう事であるか」

川 ゚ -゚)「幽霊の私では弟の方まで対処しきれない。
     兄はこちらで何とかする。ドクオ、お前に勇気があるなら、チョップマン弟を
     止めて欲しい………………ドクオ?」

(;'A`)「あ……あ……」

突き当たりの曲がり角。流れる鮮血。
それをこのタイミングで見つけたのは、ある意味不幸かもしれない。

(#)´_ゝ`)「青年、そういうの見ちゃった時はOKグロ画像ゲットとか言えば
       少しは和らぐよ。ずーっとだんまりで眺めるよりかは」

(;'A`)「うおぇぇええぇ!」

嘔吐。盛大に吐いた。そしてまた嘔吐。
紅色で染められた、一直線の廊下。転がる人間……だったそれ。



90: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:40:05.76 ID:irtJH3ZP0
人の死は見慣れていたとばかり思っていた。
だが、こんな惨劇は。こんな死は。
患者、病院関係者、誰もが肉塊となり、切り口から血を垂れ流し続けている。

(;'A`)「全部全部……お前がやったのか……」

(#)´_ゝ`)「だーから、人間を殺したのはおーとーじゃ。
       その真っ赤な死骸のロードは全部ウチの弟が作ったもんザンス。
       この階はハッスルしたなぁ。思わず乳首とか右だけ勃ったりしたもん」

(;'A`)「え……」

この階は?
ここは七階、当たり前だが下には一階ニ階三階四階五階六階がある。
そのフロア全部を血の海にしてしまったというのか。

胸が締め付けられる。
『友達が出来ない、人間の俺は嫌いだ』
『やかましい仲間がいる、幽霊の俺の方が好きだ』

自分の中で撤回するべきだった。
ドクオは悔やんでも悔やみきれない衝動に駆られた。
俺にも、人間の俺にもたった一人友人がいる。
彼を思い出してしまっている。

川;゚ -゚)「何処へ行く、ドクオ!」

ひたすら階段を駆け下りる。
踊り場で倒れている人も数人見かけた。
歯を食い縛る。全ての歯が粉砕しちゃうんじゃないか、と思えるくらいだ。



92: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:41:56.36 ID:irtJH3ZP0
(;'A`)「ヒッキー!」

三階。
いた。いて欲しくなかった。けど、いた。
壁に寄り掛かる形で、胸から血を流して、俯いていた。
更に長い髪が邪魔で表情が窺えない。光の速さでドクオは駆け寄った。

(-_-)「ああドックン……僕もう駄目みたいだ」

意識が、ある。
言葉を放ってくれた。
そして、目を見てくれた。
輝きは元から無い目だったが、瞳の奥に自分がいる。自分を見てくれている。

それだけでドクオ自身、涙が出そうだった。

(;'A`)「ああお前はしょーもないダメ人間だ。でもここで死んでいい人間じゃない。
    これから努力する人間になれば……」

違和感。

ドクオは気付いた。

(;'A`)(お、俺……)




幽霊の状態を解いていない。



95: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:45:40.39 ID:irtJH3ZP0
じゃあ会話が成立している、この状態は何だ。
考えたくない、考えたくない。死んでも考えたくない。
確かに友人はいたのに。渾名で読んでくれる、不細工だけど素直な良い奴がいたのに。
ここにいるのに。

(;'A`)「死んで……」

(-_-)「たんだよ。この病院で……最初に会った時から……
    交通事故で僕は死んだんだ。病院に運ばれたんだけど、即死だったっぽい。
    だからドックンが話し掛けてきた時、すっごいビックリして、動転して、逃げちゃった……」

(;'A`)「嘘だ……」

(-_-)「嘘じゃない。それを一番分かっているのはドックンでしょ……
    前々からタダ者じゃないと思ってたけど、幽霊と交信出来るんだね……
    やっぱドックンはすごいや……流石、僕の唯一の親友だぁ……」

(;'A`)「頼む……もう口を開かないでくれ……」

(-_-)「残酷だなぁ。僕はもう死んでるんだよ……この身が消えるまで、喋らせてよ」

ヒッキーの身体が徐々に、粉状となっていく。
稚内さんの時と同じだ。
見渡せば、同じ様な状態になっている者が数名。
皆、幽霊だ。こんなにも幽霊が多いのか、病院という場所は。

そして、その“幽霊の命”すらも奪っていったのか。
あのチョップマンは。

(-_-)「僕ね……自分の葬式見たんだ……」



96: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:47:35.25 ID:irtJH3ZP0
(-_-)「皆、爆笑してた。正直M-1取れるかと思うくらい笑ってた……
    お葬式だよ……? 親も兄弟も、誰一人泣いている人はいなかった。
    面食らったよ。僕の人生って、そんなもんだったんだって。
    考えてみれば不思議じゃないけどね……こんな未来も無い引き篭もり……
    生きていたって、何の役にも立ちゃしない……
    そうだよね、その程度なんだよね……でも、良かった……良かったよ……」



(;A;)



(-_-)「ちゃんと泣いてくれる友達が一人出来たから……」

もうヒッキーは、完全に消えかかっていた。
何もする事が出来ない。
親友の最後に、何も出来ていない。

(-_-)「ぷぷっ……」

―――――笑った?

(-_-)「やっぱドックンおかしーや……何で鎧着てんだよ……」

それを最期に、彼は消えた。

(;A;)「あ……」



97: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:50:00.23 ID:irtJH3ZP0
人の死は見慣れていたとばかり思っていた。
だが、こんな惨劇は。こんな死は。

友の死は。

何故、こうまで痛いのだろう。
痛かったのはヒッキーの筈なのに。
頭が割れるようだった。もういっそ割れて欲しかった。

(;A;)「……ごめんなぁ、ヒッキー。
     友達だけど、俺、お前の友達だけど……
     何も……何も……してやれてねぇや……」

湧き上がる。

(;A;)「でも……今からお前のために出来る事があるなら……」

煮え滾る。

(;A;)「何でもする。何でも出来る……」

そして震える。

何かに対して、怒る。というのも面倒臭がっていた。
本気の憤りなど、今まであっただろうか。
罪の無い者が無意味に殺された。
たった一人の友人が奪われた。

無垢な白色の道は、危険への警告、赤色の道に変わっていた。



101: ◆R38CE/IWYU :2007/12/25(火) 03:51:25.15 ID:irtJH3ZP0





     「ちゃんと泣いてくれる友達が一人出来たから……」





('A`)「ヒッキー……ゆっくり眠ってくれ……」











             今からあいつを殺してくる。



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