('A`)ドクオは棺桶売りのようです
- 8: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:21:59.14 ID:5PQ3chpr0
- 【+ 】
一年前のクリスマスイブだ。
こたつの上には蜜柑、ではなく人生ゲーム。
向かい合う二人の表情は真剣そのもの。なのだが、それは何かを忘れようとして、
目の前のボードゲームに全神経を集中しているだけ、と言えた。
('A`)「俺の番か」
指でルーレットの中心にある突起を摘む。
優しく、あくまで優しく、なぞるように弄る。
次に舐める。ねっとりといやらしく、そして吸い付く。
(-_-)「それはビーチクじゃないよ……いい加減現実に戻ってきなよドックン」
('A`)「いかんいかん、俺とした事が」
ルーレット、回転。
風を切り裂くような、『シャー』という音がなんとも心地良い。
そこから生み出される数字も、きっと幸運を運んでくるラッキーナンバーに違いない。
('A`)「5、だな……」
トン、トン、と軽快に自分の分身である車を進めていく。
そして停止したマスの文章を読み上げ……彼は絶望した。
('A`)「台風で吹き飛ばされる……職業カードを返してスタートに戻る……」
結婚マスまであと少しの所だったのに、思わぬ落とし穴が潜んでいたものだ。
ボサボサ髪で素肌に革ジャンの青年は、素直に凹んだ。
- 11: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:23:55.17 ID:5PQ3chpr0
- (-_-)「まぁいいじゃない。フリーターだったんだし、仕切り直しで新たな人生を……」
ルーレットを回しながら、雪よりも蒼白な肌の青年は言った。
しかし彼もまた、数字に従い止まったマスで絶望する。
(-_-)「台風で吹き飛ばされる……職業カードを返してスタートに戻る……」
('A`)「お前職業なんだったっけ?」
(-_-)「フリーター……」
ガックリと肩を落とした。が、すぐに自分なりに明るく振舞ってみせた。
このゲームをネットで購入したのも、革ジャンの青年を誘ったのも、彼だからだ。
主催者である自分が気を落としちゃいけない。そう考えていた。
彼はダメもとで、聖夜にたった一人の友人を誘って遊ぼうと思った。
革ジャン男は「何が楽しくて野郎と人生ゲームしなきゃいけないんだ」と文句を垂らした癖に
約束の時間には缶ビールを持って参上してくれた。
不健康なまでに真っ白だった彼の顔が、ほんのり赤く染まった瞬間でもあった。
そして今に至る。
日付は間も無く変わろうとしていたが、彼らの人生ゲームは台風の場所から全く進展しなかった。
かれこれ十回以上、同じ事を繰り返している。
悲しいがな、職業はフリーターが主だった。
無難にリーマンになっても、結局横風に煽られてスタートへ戻る、だった。
('A`)「製作会社に訴えようかな……」
(-_-)「ちょっ、待って待って! 次は何とかなるよ! 次はきっと上手く行く!」
- 15: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:26:50.51 ID:5PQ3chpr0
- (#'A`)「大体なぁ! 世間で言う"性の六時間"を男二人で人生ゲームやってるってのが
おかしな話なんだ! 誰がこんな災害に遭遇して失業しまくってる奴と結婚するんだ?
そんな女がいたら超絶に馬鹿じゃねぇか!
……結局俺達はゴール出来ない運命にあるんだよ。
バーローが何の事件にも巻き込まれず、旅行出来ないのと同じだ!」
そう叫んで、革ジャン男はマジックペンを取り出した。
(#'A`)「俺達の人生なんて! 俺達の人生なんて! こうだ、こうしてやる!」
職業を決定するマスの文章全てに斜線を引いた。
結婚して、ピンクの棒人間を乗せるマスにも大きくバツ印を書いた。
(#'A`)「何が職業カードだ! こんなモン!」
その職を表すイラストの上に、大きく『ニート』と書いた。
給料を示す数字は、戦後の教科書のように黒く塗り潰した。
(;-_-)「な、何をしてるんだよ!」
(#'A`)「給料マスなんざ! ……こうだ!」
"給料日"に二本の線を引き、矢印を引っ張って"親からの仕送り日"と変えた。
(#'A`)「どうだ! ざまあ見やがれ!」
何に対するざまあ見やがれ、なのだろうか。
(#'A`)「俺特製人生ゲームだよ、ヒッキー君!」
- 16: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:29:33.85 ID:5PQ3chpr0
- (-_-)「お、台風マスを無事通過」
自分達用に改造した直後、なんと台風ゾーンをするりとクリア。
幾度となく苦しめられた壁だけあって、通過した時は感慨深いものがあった。
更にアルコールの魔力によって、二人の高揚は頂点に達していく。
革ジャンの男も、その後ニ回程台風に躓いたが、三度目の正直で抜ける事に成功。
(-_-)「うふふ、結婚マスに止まったぞ。僕の嫁は当然、澪ちゃん(グランダー武蔵)だ」
('A`)「おいおいオイオイ、このバッテン印が見えないのかよ。
お前、自分が結婚出来るとでも思っているのかい? 俺も他人の事言えないけどな」
(-_-)「えー……でも、おにゃのこ乗せちゃったしさ。
夢見たっていいじゃない。クリスマスだもの」
('A`)「いや、棒人間はそのままでおk。ただし空気嫁っていう設定な」
(;-_-)「それじゃ子供産めないだろ! 悲しすぎるだろ、助手席にダッチ弾平なんて!」
こたつの中で互いの脚を蹴り合う。
夢とロマンをゲームに求める者と、夢とロマンを捨ててゲームに臨む者の戦争だ。
これは聖戦である。負けられない戦いがここにある。
('A`)「こんなゲームで夢を掴んでも、全てが終わった後虚しくなるだけだ!」
(-_-)「現実なんて逃避するためにあるんだよ!」
('A`)「勝手にしろ! 俺は嫁なんざいらねー! 結婚マスは華麗にスルーするぜよ!」
(-_-)「ドックンの馬鹿、分からずや!」
- 20: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:32:00.16 ID:5PQ3chpr0
- (;'A`)「か、株が大暴落……?」
持っている株券一枚につき〜……
革ジャン男は破産した。ニートでありながら。
その一方で軽快にマスを進み、ゴールである億万長者の土地に辿り着いた車があった。
それはまさに富と名声を手にした瞬間であった。ニートでありながら。
(-_-)「わーい、ゴールだ。イヤッホオォォ!」
('A`)「……うぅ…………」
革ジャン男は目に涙を浮かべている。
右手の缶は握り潰されていた。
夢見心地のパラノイア野郎に一泡吹かせてやるつもりで、勝負に挑んだというのに、
今は自分の右手が泡まみれになっている。中身入ってるんだって。ビール。
('A`)「何が億万長者だ!」
再び取り出したマジックペン。
ゴール地点である億万長者の土地に、大きく『死』と記した。
(;-_-)「うおおい! 殺すなよ僕を!」
('A`)「人生のゴールとは即ち死ぬ事である。死ぬために我々は今日を生きているのです。
はい、貴方は死にましたー。おめでとうございますぅ。
死に急ぎやがって。ばーかばーか! お前の母ちゃん、ラオウー」
(#-_-)「こたつ濡らすなー! 無茶苦茶やりやがって!」
('A`)「うっせー、死ね! バイトの面接行く途中とかで死ね!」
- 22: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:33:59.67 ID:5PQ3chpr0
- ばら撒かれた架空のドル札と潰れた空き缶多数。
それらが部屋の床を覆い尽していた。
良いか悪いかで言ったら、間違いなく悪い方のクリスマスだ。
それから酔った勢いなのか、二人は殴りあった。
ここで可愛いヒロインが悲鳴を上げれば、漫画っぽく彼らの戦いは止まるだろう。
事実、互いに攻撃が止まった。
ただ、悲鳴を上げたのは腰や肩だった。自分達の軟弱ぶりに二人して泣いた。
(-_-)「ふぅ……死ねってのは学生時代散々言われたよ……
でも慣れないもんだね。相手が本気だろうがそうじゃなかろうが、
やっぱり言われた僕は胸が苦しくなるなぁ……」
('A`)「そりゃ悪かった。でもいちいち本気にしてちゃ、こんな世の中生きていけないぜ」
(-_-)「ゴールは死か……ドックンは僕が死んだら泣いてくれる?」
('A`)「泣く訳無いだろう常考……まあ墓に花くらいは供えてやるよ。
現在進行形で華の無い人生送っているからな。憐れみの意味を込めて」
革ジャン男は灰皿を探しながら、適当に返答をした。
(-_-)「そうかそうか。ドックンは泣いてくれないかー。
なんか悔しいなー。僕はドックンが死んだら絶対泣くけどなー」
('A`)「俺何回死んでると思ってるんだよ……その度に泣いてたんじゃミイラになるぜ、お前」
(-_-)「何回も死んでる?」
(;'A`)「ああ、いや……こう、その……人間的に死んでるっていうか……」
- 24: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:35:52.52 ID:5PQ3chpr0
- (-_-)「来年のクリスマスも遊ぼうね。無論僕らが生きていたら、だけども」
('A`)「そうだな……生きていたら」
潰れた空き缶で乾杯をした。
第
第九話
話
- 26: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:38:45.38 ID:5PQ3chpr0
- チョップマン、兄者が跳ねた。
叩き落された巨斧の一撃は『殺したくてたまりませんでした』を十分表している。
刀で受け、流す事は不可能だと直感したクーは後退し、距離を取る。
改めて視線を前方へと向けると、兄者は既にその差を詰める動作、つまり駆け出していた。
重苦しい斧を振り落とした直後とは思えない、俊敏性。
一つの攻撃に入る時にはもう、次の攻めを考えている、という事だろうか。
それは即ち相手の動きが読めている、という事。
ここまで来るともう経験値の違いだ。身体の中でスイッチが出来上がっている。
特別意識しなくても、自分の攻撃パターンが自然と完成しているから、動けるのだ。
ニ撃目が入る。真横に振られる冷たい鉄。
斬首刑はご勘弁願いたいクーは覚悟を決めて日本刀で防御する。
ドクオの跳び蹴り以降は、ずっと兄者のターンだ。クーは完全に力負けしている。
奇跡的に斧はクーの目の前、本当に目の前で止まった。
ありがとう日本刀、かっこいいよ。ジャパニーズブレード、と心の中で感謝する。
今度の攻撃は先程よりも若干力を抑えてあった。
これは問い掛けだ。
『殺したくてたまりませんでした。それに対して貴方はどう思いますか?』
( ´_ゝ`)「このまま黙って首チョンパでも良し。
無駄に足掻いてくれるのも、また一興。
尻尾巻いて逃げるのも一つの道。ただし出口は無い。
俺が追い詰めてスパッと希望を断ってやるからな」
舌なめずり。分かっている。自分が狩る側にある事を。
それ故の余裕が今の兄者には満ち溢れている。
力比べなら負ける訳が無いのだ。怖いのはツバくらいだ。
- 28: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:42:23.64 ID:5PQ3chpr0
- 左肩を撃ち抜かれている身とは思えない。
それくらいの傷、ダメージの内には入らない、という事なのだろうか。
確かに血は流れている。
しかしそれで戦闘に支障があるのか、と本人に問うても「いいえケフィアです」で
済まされてしまうだろう。
こいつは慣れている。痛みに慣れている。
寧ろ快感としているんじゃなかろうか。真性のマゾヒスト程、恐ろしい。
川;゚ -゚)「く……」
( ´_ゝ`)「疲れてるか? 俺の胸の中で休むか?」
鍔迫り合いが続く。
しかしもう持たない。クーの息が荒い。それを兄者は深く吸い込んでいる。
鼻の穴を膨らませながらうっとりしている。変態である。
川;゚ -゚)「究極的に不愉快」
このままじゃ斧に押し潰されてゲームオーバーだ。
状況を打開しようとクーは兄者の胸元目掛け、前蹴りを繰り出した。
だが、長身の兄者の胸は一般人から見てかなり高い位置にある。
クーも決して低身長という訳でもない。ドクオよりも高い。脚も長い。
それでも完全にノッポさんの域まで達している兄者には及ばない。
そして悲しい事に彼女は身体が硬い。柔軟性に欠ける。そんなに脚が上がらない、のに
無謀にも上段前蹴りを放った。その所為で股関節がグキリと嫌な音を上げた。
しかも、その渾身のヘナチョコキックは兄者の腋に挟まれた。冗談じゃ済まされない状況である。
- 32: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:45:08.32 ID:5PQ3chpr0
- 無表情を貫いたが、クーは心の中で号泣していた。
右足は敵の腋に挟まれ、左足は辛うじて爪先が地についている程度。
半分浮いているようなものだ。バランスが取れない上に、兄者の視線が色々と不味い。
このままでは、もう片方の足も取られて逆さ吊りにされてしまう。
川 ゚ -゚)「このままでは、もう片方の足も取られて逆さ吊りにされてしまう……」
( ´_ゝ`)「おお、その発想は無かった」
川 ゚ -゚)「うわー、そんな事されたらパンツ丸見えで最大の屈辱だわー(棒読み)」
( ´_ゝ`)「いいね! いいね! 俺そういうの大好き!」
川 ゚ -゚)「両手で私の足首が掴まれるー、いや……奴は片手に斧を持っているから平気か」
(;´_ゝ`)「くっ……逆さ吊りにするには一旦斧を手放さなければならないのか……!」
- 33: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:47:43.42 ID:5PQ3chpr0
- 川 ゚ -゚)「いやああああああ(棒) 私の痴態があああああ(棒)」
( ´_ゝ`)「その手には乗るか。大根女優」
右方向から斧の一撃が迫る。
こんな不安定な体勢で、まともなガードが出来る筈も無い。
下手に日本刀を構えても、首と一緒に持っていかれるのが落ちだ。
真の絶体絶命。唇を噛み締める。兄者の狂った笑顔が最期の光景になるのが嫌だった。
だからといって目を瞑りたくもなかった。全てが終わってしまいそうで嫌だった。
どうにかなるんじゃないか、という在りもしない希望を、今見ている世界に託している。
ふとドクオの顔が脳裏に過ぎった。
「助けて」と叫べば、駆けつけてくれるような気がした。
彼は何かしらの心当たりがあって、何処かへ走り去ったのだろう。
どんな用事かは存じないが、それは私より大切な事か? と、その場に居ない者に対して
質問を投げてみる。回答は行動で示して欲しい。颯爽とヒーローのように現れ、
愛情熱勇気平和と限りなくポジティブな単語だらけの曲と共に、敵をなぎ倒してくれたら
いいなぁと都合良過ぎな妄想を抱いた。
だけどお終いだ。無情にも斧が近づいてくる。
下手糞に日本刀を前に出してみる。弾かれた。当然だ。
ふ……吹き飛びました……
ああ……次は自分だ。
何をすべきか。ここまできて抗う術は無いものか。
あるとすれば、それがあるとすれば。
川;゚ -゚)「た、助けて!」
悲壮な表情で助けを呼ぶ事のみであった。
- 35: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:49:52.60 ID:5PQ3chpr0
- ( ´_ゝ`)「――――――!」
希望が降って来た。
ただ、生易しい救出劇じゃない。
例えるなら電車で痴漢にあって、この変態オヤジどうにかしてよ。と考えた矢先、
巨大隕石がオヤジの頭上に降って来た。みたいな感覚である。皆あぼーんで一件落着だ。
それと同じ。
希望という名の般若は兄者とクー、二人を巻き込んだ。
以前より一回り大きくなって帰ってきた傀儡式棺桶『C-ch 02』の襲来である。
ワイドに広がり奥行きも出来た棺桶部分。
二人分を飲み込むのは朝飯前。両腕には凶悪なまでに輝く鉈。
しぃちゃんの顔も忘れてはいない。
大幅なグレードアップをしてせいで、今回も脚にかける予算が不足。
結果、脚は綿棒になっている。しかも一度使用した形跡があるのがなんとも。
そんなものが天井をすり抜けて落ちてきたのだ。
反応しようにも無理やん。
(,,゚Д゚)「っしゃあ! まとめて捕獲した! これで成仏してやr……」
【*゚ー゚】アワワワ…
ドバーン
川#゚ -゚) ノ(#´_ゝ`)ノ「ふざけんなー!」
二人のパワーを結集した昇竜拳で、危機一髪成仏は免れた。
- 39: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:52:49.45 ID:5PQ3chpr0
- (,,゚Д゚)「うわああああ、何してくれてるんだお前らあああうぎゃああああああああ!!」
弾かれたクーの刀が丁度良いタイミングでギコの頭にぶっ刺さった。
彼は脳味噌が小さい代わりに頭蓋骨は頑丈で大きい。そのため大事には至らず済んだ。
川 ゚ -゚)「貴様、どうやって鎖から抜け出した!」
それは思いっきり悪役の台詞である。
(,,゚Д゚)「簡単な事だ。C-ch 02を召喚し、その鉈で鎖をぶった切ったんだ。
俺自身その攻撃力を制御しきれず、アバラ数本持っていかれたがな。
見ろ、横腹に包帯巻いてあるだろ。C-ch 02にはお手軽医療セットが
入ってるんだぜ? この気遣いがありがたい! 流石は俺」
ケガが手軽じゃない。
そんな取るに足らない事は差し置き、杉浦も治療したとギコは説明した。
彼は、元恐怖の大王は、今何をして何を思っているのか。
川 ゚ -゚)「こんな状況だが、それも気掛かりだ。杉浦の奴が血迷って我々の邪魔を
するような事になったら……」
(,,゚Д゚)「それは多分無い……って何の確証もありゃしないが。
反省していると思うぜ。しぃちゃんの俺に対する、純粋に人を愛する心が
杉浦にもビンビン伝わった筈だ。
一度の絶望で現実から逃げた杉浦と、愛されるために逃げずに己を磨き続けた
しぃちゃんとの差だ」
川 ゚ -゚)「彼女もまだ屋上にいるんだな?」
- 42: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:55:44.51 ID:5PQ3chpr0
- ( ´_ゝ`)「弟者――屋上だ。人間の女がいる」
兄者の言葉が弟者を操作する。
生死の壁を越えたテレパシーだが、兄者の声自体が弟者に届いている訳ではない。
(´<_` )「ああ……兄者の言う通りだ……
兄者の言う通りにすればいいんだ。大人しく言う事を聞いていれば、
帰ってくるんだ。良い子にしてれば兄者が帰ってくる」
伝達するのは、漠然とした兄者の意志。
死んだ兄を敬い続ける、人間のチョップマンである弟者。
自分の中に流れていく意志は全て兄者からのものと信じて止まない彼は、
兄の背中を追うように、従順に動く。
(´<_` )「屋上だ……屋上で兄者が呼んでいる……」
川 ゚ -゚)「言ったそばから……! 屋上には彼女が!」
( ´_ゝ`)「僕の意志は絶対なのでーす。おちんちんびろろーん」
幽霊に人間を止める力は無い。
そうじゃなくても兄者が立ち塞がり、後を追う事も出来ない。
(,,゚Д゚)「誰でもいいから……誰でもいいからあのイケメンを止めろ!」
川 ゚ -゚)「クソ……イケメンめ!」
( ´_ゝ`)「僕は?」
川 ゚ -゚)「お前はそうでもない」
- 45: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 00:58:24.23 ID:5PQ3chpr0
- (#´_ゝ`)「よくも俺を侮辱したな! これで結構自分の顔に自信持ってるんだぞ!
新人タレントオーディションとかに応募した事もあるんだぞ!
履歴書とか郵便局の人に破り捨てられたけど!」
兄者が標的に選んだのはギコ。先程のお返しだと言わんばかりに、斧を振り回す。
その間に挟まってきたのはC-ch 02だ。鉈で斬撃を防ぎ、隙を見てキックをお見舞いする。
(,,゚Д゚)「いけね。綿棒だった」
川#゚ -゚)「はああああああっ!」
真横から仕掛けてきたのはクー。
兄者は正直「ちょwwww二人とかムリスwww」だった。
一対一なら絶対負けない自信がある。顔以上にある。
棺桶売りと名乗る者も、過去に叩き伏せた事もある。
しかし、今は確実に押されている。
(#´_ゝ`)(単に一がニになっただけじゃ、こんな力は……)
土砂降りのように襲い掛かる怒涛の攻めを、防御と回避を重ねながら、
何とか敵のスタミナ消費を狙う。現にクーはもう限界が迫っている。
川#゚ -゚)「はぁっ……くそ、退け……ビミョメン……」
肩で息をしている。
しかし闘志が折れる気配は一向に感じさせない。
それに加えて時に後ろを振り返ったり、そわそわしたり、何処か落ち着かない様子だ。
(#´_ゝ`)(何かを……何かを待ってる……?)
- 46: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:00:18.79 ID:5PQ3chpr0
- (,,゚Д゚)「きっと来る〜きっと来る〜」
ポルターガイストという、割と反則臭い能力を駆使しながらギコは戦う。
そう、彼は待っている。
川 ゚ -゚)「こころのひーとみでーきみをみつめればー」
斧という凶暴な武器に、細い腕と日本刀で立ち向かうクー。
そう、彼女もまた待っている。
(,,゚Д゚)「僕らは待っている!」
川 ゚ -゚)「アイツを、待っている!」
(#´_ゝ`)「だから何を――――――……」
その瞬間だ。
それはまるで風のように、三人の間を通り抜けた。
確かな人影。
そいつは――まさに屋上への階段を駆け上がろうとする弟者を、捕らえた。
「これ以上……」
(´<_` )「!?」
亀甲縛りで、捕らえた。
(´・_ゝ・`)「これ以上俺の病院で暴れてくれるな」
- 51: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:03:00.75 ID:5PQ3chpr0
- 一瞬で亀甲縛りをする、凄いけど可哀想な才能を持つ盛岡が現れた。
彼は今一番輝いている。病院内の人間を無差別に切り裂いた通り魔を捕獲したのだから。
(#´・_ゝ・`)「許せねえよ……この病院は俺にとって聖域なんだ。
堂々とナースの衣装が着られる場所なんて此処以外ありえねえ……」
わなわなと盛岡は震える。
そうして一発、パンチを浴びせようと拳を突き出した。
だが虚しく迎撃される羽目となる。無論、斧で、だ。
腕が使えないなら柄を口で咥えるまで。食い縛られる歯。真っ赤に充血した弟者の眼。
殺人鬼の名に恥じない立派な狂気を醸し出している。
互いの武器が衝突。勿論素手が刃物に敵う訳も無くパックリと割れた。
そのまま刃は腕にまで進入していく、さけるチーズのように、それは綺麗に両断された。
結局肘に至るまで斧はめり込んだ。
火山でも噴火したかのように鮮血が飛び散る。
濃い。しかし透明感が無い訳でも、無い。熱い汁が降り注ぐ。
クーやギコは凍りついたまま動けないでいた。
そのおぞましい光景よりも、眉一つ動かさずに、黙って血が噴出す様を眺めている彼に
抱く恐怖の方が明らかに大きい。
(´<_` )「邪魔な」
器用にも首を傾け、斧の刃で自分を縛り付けている包帯を千切った。
斧を握り直し、顔を上げる。
だがそこには、待ち構えていたかのように、次の殺意があった。
/ ,' 3「おじいちゃんね。怒り心頭だよ」
- 52: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:06:39.99 ID:5PQ3chpr0
- 刃渡り80cm弱、メイドインチャイナの剣が襲い掛かる。
盛岡から噴き出た血飛沫が目くらましとなり、荒巻の姿を確認するまでに時間がかかった。
まさか斬られてぶっ倒れた老人が、蘇生して自分を攻めてくる筈が無い、
という何の根拠も無い凡人の考えが、弟者にも少なからずあった。
それら全てが重なった。そうでなくては意味が無い。それでこその奇襲。
ここぞとばかりに飛び出した荒巻。スタートダッシュは上々だった。
中国土産を振るう。構えた瞬間、荒巻自身焦り過ぎたという感を拭えなかったが、
後には退けなかった。
(´<_` )「……!」
傷は負わせた――が、浅い。本当に浅い。
額を掠めた程度だ。薄く線が入る。出血こそあるが、頭蓋骨をかち割るつもりだった
荒巻のショックの方が大きい。
最近イボ痔になった事の次くらいにショックであった。
しかし棚から牡丹餅という言葉もある。
剣を回避する動作をしてから、弟者の動きがどうにもぎこちない。
/ ,' 3「……血か! 血で視界が塞がれているんじゃな」
(´<_` )「ぐ……」
荒巻はK-1ダイナマイトのショートパンチ習得の回を思い出していた。
/ ,' 3「こっちも体力的に不安なんじゃ……速攻で決着つけようぞ」
- 55: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:10:31.92 ID:5PQ3chpr0
- 不意打ちを受けた時は、背中から斬られた荒巻。
致命傷とまではいかなくとも、立っているのもやっとの筈だ。
普通の老人なら痛みに堪え切れずに転がり回り、失禁と脱糞の協奏曲を交互に奏でる事だろう。
/ ,' 3「半分脱糞はしている。人間としてはギリギリセーフだろう」
川 ゚ -゚)「確実にアウト」
/ ,' 3「ちっくしょおおおおおおおお!」
悔しさを剣に込め、突き刺す形で弟者へと向ける。
頭に血が上る一方で、皮肉なものだと荒巻は思った。
その手を鮮血で染めてきた殺人鬼が、自分の血液に邪魔されて視界を防がれている。
/ ,' 3「死にやがりがりがりがり!」
( _ゝ )「弟者――――」
――『右』
荒巻が振り絞った殺意は何も無い空間を突き刺した。風を切る音だけが虚しく響く。
平たく言うと弟者が回避に成功した。それだけである。
その出来事を運が良い奴め、で片付けた荒巻は次の攻撃を放つ。
――『右から左へ斜め四十五度』
/ ,' 3「な、また……!」
避けられた。見えているのか? という疑問よりも、読めているのか? と問いたくなる。
それほどまでに完璧な動き。無駄も無い。何かに導かれているような動作。
- 58: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:12:20.73 ID:5PQ3chpr0
- / ,' 3「ならば手数で勝負するまで!」
荒巻の乱れ突き。一気に畳み掛ける。自分のスタミナは度外視だ。
( ´_ゝ`)「悪いな。俺がいる限り、絶対に弟者へ攻撃は通らない。
『兄者流操作術岡目八目』以心伝心。俺が弟者の眼になるのだ」
/ ,' 3「うおおおおおおおお!」
( ´_ゝ`)「弟者……」
『右』『左』『上から下』『真横』
『そこから左へ斜め』『右、いややっぱ左』
『左斜め』『下』『足元』『後ろ』『下、上、右、右』
『セ』『左下』『真上』川 ゚ -゚)「右! 右!」『ちょwww邪魔すんなwww』
『下』『右下』『上下』『下』『右』『左』
『だりぃ』『疲れた』『任せる』『ファイト』『頑張れ』『やべ、掠った』
『ドンマイ』『次は何とかなるさ』『多分右』『やっぱ左』『そのへん』『もうちょい』
『そいやそいや』『いい感じ、いい感じ』『お前は出来る子』『おっぱい揉みたい』
/ ,' 3「私の全身全霊かけた奥義が……やぶ……れた」
荒巻の膝が折れた。
川 ゚ -゚)「まさかこれほどまでの……」
チョップマンが捕まらない理由が分かった気がした。
幽霊世界という絶対安全圏から兄者が導いているのだ。
警察の手が回っていない場所へと幽霊が手を引いているんじゃ、捕まえようが無い。
- 62: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:16:27.32 ID:5PQ3chpr0
- ならば。
川 ゚ -゚)「何が何でも兄の方を潰さ……」
そこで言葉が途切れた。
一つの何かが横切っていったからだ。
先刻現れた盛岡とかいう、いつまで経っても【AAテンプレその2】から昇格出来ない
男とは違う。
復讐心そのもの。闇よりの使者、寧ろ存在が闇。ダーク。古田兄弟。
ギコは嫌な汗が止まらなかった。
同時に激しい悪寒を感じている。
兄者は笑っていた。震えもしている。だがそれに比例して口角も吊り上がっている。
( ´_ゝ`)「府抜けた面した餓鬼んちょだとばかり思っていたが、
中々どうして、サマになっているじゃないか…………
(#'A`)「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
…………殺意が」
高速が迫ってくる。
人間というよりは、波。
黙って立っていれば、一気に飲み込まれてしまう。
ここまでドスドスドス黒いオーラを放てるのは、大切なものを無断で壊され、
その重さに今更気付いたからに他ならない。
遠慮はいらない。する訳が無い。殴り殺してやる。
(#´_ゝ`)「一直線過ぎるだろうがよおおおおおおお!
どんだけテメェが真っ直ぐに生きてきたか知らねぇが!
野球少年みてぇに純粋なストレートじゃねぇええぇぇか!!」
- 64: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:18:56.06 ID:5PQ3chpr0
- その殺意は認めたが、あまりの無知で無謀な突進に兄者は思わず吠えた。
(#´_ゝ`)「もっと命を大事にしやがれええええええええええ!」
斧を振り被る。誰が何と言おうと迎撃。
その画にタイトルをつけるなら『マジで殺される0.5秒前』だ。
殺意には殺意を持って対応するのが紳士。ジェントルメン。
惚れ惚れするほど綺麗にカウンターは決まった。
猪突猛進で挑んで来るドクオに対し、巨斧の一振り。
ドクオの胴は哀れ真っ二つになり、その場で崩れ落ちる。というのは所詮幻想。
兄者が抱いた勝手なビジョンに過ぎない。
説明不要。
幽霊の攻撃は人間様には当たらない。
その逆もまたしかり。
切断した感覚が無い。処刑人の表情は間抜けなものとなっている。
兄者をリアルワールドに引き戻したのは激痛。顔面への衝撃。
鼻の穴から砂利を踏み締めるような音が赤い汁と共にゆっくり抜けていく。
次に兄者の視界に映ったのは、白い床と赤い天井。
誰かが自分の脳内を編集か何かしたのだろうか。気付けば世界が逆転している。
そんな兄者が見ている光景。上方に飛び込んできた何か。それは足だ。
駆け出している、ドクオの足。
何処へ? 弟者の元だ。瀕死の荒巻もいる。
(´<_` )「……?」
- 67: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:22:12.39 ID:5PQ3chpr0
- 視界は大分晴れたという事なのか。
何も無い空間から現れた人間を見て、弟者は怪訝な表情を見せた。
危険を察知したのか、一歩二歩と後退する。
川 ゚ -゚)(そうか、別に弟の方は幽霊が見えている訳じゃない。
兄の意志だけに従う、ただの一、人間に過ぎない!)
兄と全く同じ。溜息が出るくらい、同様の構えで斧を振るう。
今のドクオにそれを優しく受けてやる寛大さは無い。
ドクオの姿が消えた。
透明になったのではなく、その世界から消え去ったのだ。
(´<_` )「馬鹿な、消え――――――……」
(#'A`)「ろ。お前は消えろ」
弟者の目には再び人間が現れた。
そして飛び出したキックは、見事なまでに胸元を捉えた。
不意、にも程がありすぎてガードする事もままならない。
唾液を散らせながら弟者は吹き飛んだ。
(#'A`)「それから……」
振り返る。
そこには荒ぶる鷹のポーズで体力回復している荒巻がいた。
間髪入れずぶん殴った。遠慮はいらなかった。成す術も無く老人は床に叩きつけられる。
(#'A`)「お前も同罪なんだよ……」
- 70: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:24:03.21 ID:5PQ3chpr0
- 間接的とはいえ、ヒッキーを殺したのはラドンの首領である荒巻。
もうこれだけは揺ぎ無い事実。決して覆らない。だからドクオの怒りも収まらない。
今までの馴れ合いを全て否定する一撃だった。
ヒッキーを殺した荒巻。
もう一度ヒッキーを殺した兄者。
その兄者に従い、罪の無い人々を身勝手に切り刻んだ弟者。
('A`)「どいつもこいつも……腐ってやがる……」
頭に上っていた血が少しずつ引いていくのが分かる。
冷静になって初めて気付いた。
いくら拳を振るっても、彼はもう戻ってこない。戻ってこないのだ。
ああ畜生。口を半開きにしながらドクオは天を仰いだ。
しかし天井の白が無表情で睨み返してくるだった。全て白紙に戻してくれたらいいのに。
慈悲深い神様仏様に願ってみる。菓子織り持って頭下げなきゃならない。
もう虚無感しか無い。
川 ゚ -゚)「おいドクオ。何をお前、勝手に熱くなって勝手に冷めているんだ」
(,,゚Д゚)「そうだ。こっちはさっきから微妙なギャグ重視で進めているんだぞ!
一人でシリアス気取られたって困るんだよ! 歩調を合わせろ!」
川 ゚ -゚)「あといい加減に鎧脱げ」
('A`)「お前らのペースに合わせてても、誰も守れやしないんだよ……」
重苦しい鎧を脱ぎながら、捻くれるように言った。
川 ゚ -゚)「ほう。では餓鬼みたく暴走して、事が上手く運べるとでも?」
- 74: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:27:40.62 ID:5PQ3chpr0
- ('A`)「運べてんだろうよ! 実際俺がこいつらブッ飛ばしてるじゃねぇか!
そうだよ、お前らがタラタラしてるから被害は広がる一方なんだ!
未然に防げなかったのか? 俺の事ばっかり構っているからこんな事になっている
んじゃないのかよ!? ヒッキーだってもっと安らかに逝けた筈だ!」
川 ゚ -゚)「未然に防ぐ……か。確かに指示を出す兄の方さえ止めていれば、
それに従う弟も何とかなっていたかもしれん。だから――――……避けろ!」
('A`)「!」
背中越しに感じる寒気。振り返った先には斧を構える弟者。
五秒前、怒りに任せて蹴り飛ばした。それで終わりだと決め付けていた。
相手が立ち上がってくる可能性など全く考えていなかった。
臆病だが、それ故に冷静な判断を忘れない、いつもの自分だったら。
一歩退いて物事を見つめられる、いつものドクオであったら。
無茶も無謀も承知で逆境を跳ね返してきた。しかし「殺されたくは無い」が根元にあった、
(;'A`)(いつもの俺なら……)
ここで易々と命を差し出す真似はしなかった。
何故だろう。その時、幽霊の身体となれば回避が出来た筈だ。
しかし、忘れてしまった。
呼吸の仕方を忘れてしまったかのようだった。
幽霊って、いつもどんな風になっていた?
箸ってどう持つんだっけ? みたいな疑問だ。
さっきまでは自然に、幽霊←→人間の使い分けが出来ていたというのに。
- 77: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:31:26.87 ID:5PQ3chpr0
- 頭痛がした。
幽霊になりたい、そう思う度に頭の神経が痺れる。
まるで人間の自分が、幽霊の自分を拒んでいるような、感覚だった。
そうこうしている内に、奴は襲ってくる。
(´<_`#)「ああああああああああああああああああ!」
寡黙な弟者が叫ぶ。少々遅れて老人の叫びも重なった。
/ ,' 3「「マンネリするくらいしぶといんだよ!! お前!!!」」(´<_`#)
荒巻がドクオを突き飛ばし、庇うように剣で弟者の斧を防御する。
しかし体力と共に中国土産にも限界が訪れていた。皹が入り、やがて砕け散る。荒巻オワタ。
川 ゚ -゚)「……」
クーは見破っていた。
明らかにおかしかったドクオの動き。
『壁っていつも……どうやってすり抜けてた……っけ?』
川 ゚ -゚)(そういえば以前そんな台詞も……
いや、今重要視しなければならないのは……)
- 80: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:33:31.77 ID:5PQ3chpr0
- これでお終いだ。その言葉の代わりに、弟者は渾身の一撃放った。
剣は無い。防ぐ術は無い。だが攻撃は通らなかった。蟹鎌の柄が、荒巻を護っている。
最後の抵抗に刀身なんて必要なかった。これでどこまで持つか、それは荒巻次第だ。
ドクオは四つん這いの体勢で、魘されていた。
誰か掘ってくれるのを期待して待機しているのか。
まあそれは無いが、今の彼は行く当ても無い捨て犬そのもの。
結局待っているのは誰かの手。そう、温かい手を待ち望んでいる。
優しい言葉をかけてくれ、誰か俺に道を示してくれないか。
それがドクオの本音だ。
川 ゚ -゚)「おいドクオ! そのままでいいから、聞け!」
('A`)「んだってんだよ……」
川#゚ -゚)「お前大人だろ! いつまでウジウジしてんだ!
ヒッキー? あの隣人で友人の彼がやられたのか。ああそれは辛いな、苦しいな。
だが、そんなもん仕事にゃ全く関係無い! 泣くなら全部済んでから家で泣け!
何があっても私はお前の上司だ。上司の言う事には逆らわず黙って従え童貞!
ああもう、つまり簡潔にまとめるとだな…………」
クー自身、自分で何を言っているか把握し切れなくなり、
とにかく一番言いたい事を無理矢理まとめに持っていく事にした。
川 ゚ -゚)「頼むから……いつものドクオでいてくれないか……?」
('A`)「…………」
川 ゚ -゚)「む……無理か?」
- 83: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:37:06.54 ID:5PQ3chpr0
- ('A`)「有給休暇くれよ……その間に死ぬ程悲しんでやる。だから……」
立ち上がる。その隣りでは荒巻が頑張って攻撃から耐えている。
だが今はドクオのめっちゃ良いシーン(のつもり)なのであえて描写は省く。
でもこれだけは分かって欲しい。今、荒巻は滅茶苦茶頑張っている。
パンッ。と、何かが爽快に響く。
ドクオが自分の両頬を叩いたのだ。一度ではなく、何度も、何度も。
('A`)「今だけは、いつもの俺だ――――――!!」
川 ; -;) (,,;Д;) ( ;_ゝ;)『ドクオ――――――!!』
駆け出した先にはクーとギコと兄者。四人で熱い抱擁を交わした。
鼻水を垂れ流しながら、みっともないくらい顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。
(,,゚Д゚)「ドクオ……せめてもの気持ちだ」
ギコがポケットから真っ白なケーキを取り出した。
中央に革ジャンの男と巫女の砂糖菓子が可愛らしく乗っている。
ドクオはびっくりしている。それを見計らったかのように、クーが口を開いた。
川 ゚ -゚)「ハッピバースデー、トゥーユー」
('A`)「え?」
(,,゚Д゚)「ハッピバースデー、トゥーユー」
( ´_ゝ`)「ハッピバースデー、ディアドクオー」
『ハッピバースデー、トゥーユー……』
- 93: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:39:12.07 ID:5PQ3chpr0
- ('A`)「俺誕生日6月だけど……ありがとう……でも蝋燭が無いぜ」
(,,゚Д゚)「すまない……固めて鳥の羽根にしてしまった……」
('A`)「それじゃしょうがない! 納得!」
(,,゚Д゚)「イェー!」
ハイタッチ。
川 ゚ -゚)「私からもプレゼントがあるぞ。前から欲しがっていただろう、ロボットだ」
('A`)「こ、これは『超合金・トシコシラジオチャンプルー』じゃないか!」
超合金・トシコシラジオチャンプルーとは、今年で生誕30周年を誇る特撮である。
テンプルーが寺か神社か分からない、やたら声の低い隊員がロボを操るヒーローものだ。
仲間のジョ○ソンやミッシ○ルと共に宇宙戦争を繰り広げるアクションは、
大人から子供まで幅広い層に支持されている。だが本当は支持されていない。
スポンサーも視聴率の低迷に憤りを隠せないでいる。
川 ゚ -゚)「そこのドブに落ちていたんだ」
('A`)「ちょwwwwやめれwwwwwそっちの方面からバッシングが来るwwwwww」
デビ夫人とかオン・ザ・ビーチ・ルーとか言ってごめんなさい。
(*´_ゝ`)「俺からもプレゼントがあるよ!」
('A`)「えー? 何々ー?」
- 96: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:41:47.72 ID:5PQ3chpr0
- ( ´_ゝ`)「天国行きの切符だ」
('A`)「なんと」
べちゃ。と粘着質の音が響いた。何かが飛んできて、それがドクオの頭に落下したのだ。
何かと触れてみる。ここは屋内、鳥の糞という事は無いだろう。
生温かい。まるで人肌だ。
液体が付着したようで、手の平を確認してみた。
赤い。まるで血液だ。
床に滑り落ちる“それ”。
視界に入ってしまった。
慌てて目を背けるも、脳内には無駄にハイビジョンな画像が残ってしまった。
消去したい。しかし、それをすてるなんてとんでもない!
焼き付けなければならないのだ。その光景を。
「びゃああああああああああああああああ!!!」
悲鳴。背後。振り返る。荒巻。足りない。荒巻。右腕が足りない。
(;'A`)「荒巻!」
肉も裂かれ骨も砕け、完全に未来が閉ざされた、荒巻の貧相な後姿があった。
弟者の顔も覗ける。視線はこっちにだけ向けられている。
荒巻は死んだ。弟者がそう判断している証拠だ。
次の瞬間にはドクオを刻まんと迫ってくる。
兄者もドクオに狙いを定め、飛んだ。当然手には斧。
今、人間であるドクオに、幽霊となって回避する道を断つためだ。
クーとギコは「いっせーの2ー」とかやるゲームをやっていた。
不覚だった。ドクオを庇うだけの時間が無い。コンマ零点零何秒の世界だった。
だが、一つの喚きが数秒だけ弟者の動きを止めた。これが荒巻の、本当の、最期の、抵抗になる。
- 98: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:43:59.74 ID:5PQ3chpr0
- / ,' 3「斬ったねぇ! 斬っちゃったねぇ!? バァカ! 腕一本吹っ飛ばしたくらいで
調子に乗るなよコラァ! こんなもんなァ、後で鳳凰寺君が裏切った時に
私が助太刀に来る単なる一フラグに過ぎねぇんだよ! バァカ! バァカ!
行列に耐えて買った福袋から何か変な汁でも滲み出ろ!」
(´<_` )「不愉快だ」
胴。左半分に斧がめり込む。
ぶよぶよ。腸が冷えた鉄に触れている、もう二度と味わえない感覚だろう。
朦朧とした意識で荒巻は言った。
私はいつでも殺せただろう。
老人の戯言に構わないで、お前が睨んでいたそいつを真っ先に狙うべきじゃなかったか。
/ ,' 3「この数秒のロスが、命取りに……なっ……る……」
斧が右へと動く。そして、荒巻が二つになった。
/ ,' 3「ぱ……ふゅ…………」
やがて、沈んだ。
(#´_ゝ`)「ああクソッ……」
完璧を誇ったチョップマンのコンビネーションが崩れた。
弟者が荒巻に、需要の無いトドメを刺した事で兄弟の動きに若干のタイムラグが生じた。
幽霊、人間、両方の世界から同時に攻撃を行う事で、ドクオの逃げ場を奪う戦略だったが、
兄者の攻撃が虚しくドクオを通過するのみで、成功には至らなかった。
それとほぼ同時に、兄者の耳に嫌な音が届いた。サイレンの音だ。
- 102: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:46:18.81 ID:5PQ3chpr0
- (#´_ゝ`)「無能なジャパニーズポリスメンめ……
こんなに怒りを覚えたのは電人ファウストが打ち切られた時以来だ……」
兄者の顔が歪む。この怒りとは自分に対するものだ。成すべき事をまだ放置したままだ。
宿敵(と勝手に決めている)であるクーの首も取っていない。
厄介なドクオにしても、突破口はある。出来ればここで亡き者にしておきたい。
しかしタイムリミットは無情にも訪れた。
兄者は弟者を何事も無く逃がすため、先に逃亡ルートを確認し、伝達する必要がある。
従って兄者はもう、大人しく身を退かなければならない。
警察が病院全体を取り囲んだらアウトだ。
( ´_ゝ`)「名残惜しいが、ここは退却……」
急げ。自分にそう言い聞かせ、後ろを振り返る。
そこには、二つの壁。
(,,゚Д゚)「ここから一歩も通さない」
川 ゚ -゚)「理屈も法律も通さない」
( ´_ゝ`)「フン、通らないで逃げる道もあるさ」
兄者が落下した。
下の階へと、落下した。
幽霊だから可能な逃亡作戦。
「ド畜生」と舌打ちをして、ギコも続いた。
クーは一度だけドクオを見てから、同様に兄者を追った。
- 104: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:50:07.75 ID:5PQ3chpr0
- (;'A`)「荒巻……!」
ドクオは複雑な心境の中にいた。
ポケットを叩いた訳でもないのに荒巻が二つになっている。
それは彼の存在がこの世から抹消された事に他ならない。
ここで「ざまぁみろ」と思うか、悲しいと感じるか。
ドクオはどちらの感情を出すかの分岐点に差し掛かっていた。
友を殺め、革命の名を借りた暴虐で人々を苦しめた荒巻。
どんな仕事も続かなかった自分に温かい手を差し伸べてくれた、そして自分を庇って弟者
の前に立ち塞がり、命を落とした荒巻。
脳内のスクリーンで、二人の彼の行いが同時上映されている。
善人の仮面を被った悪人か、はたまたその逆か。
一つだけ言える事は、その男のお陰で、
自分は生きている。
友は殺された。
他人の人生狂わせておいて、自分は勝手に死にやがった。
「ありがとう」も言いたかった。「殺してやる」も言いたかった。
パンチ一発じゃ全然足りない。伝えたい事は山ほどあった。
('A`)「くそじじいめ……」
一つの結論に達した。
要するに死んで欲しくなかった、それだけだったのだ。
感謝している奴だから、殺したいほど憎い奴だから、死んでもらっちゃ困るのだ。
少なくとも突然現れた顔も知らない男が、勝手にそのジジイを裁く権利は無いだろ、と。
- 107: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:51:36.83 ID:5PQ3chpr0
- (;'A`)「う……」
そして想定外の事態がもう一つ。
弟者の後方には屋上へ続く階段がある。と言うより、その階段しか道は無い。
だから弟者の後ろ見えた人影を、錯覚か何かだと思いたかった。
だが残念ながらドクオの視力は右眼0.1左眼1.5と良好。
毎日ブルーベリーを欠かさず食っていた賜物である。
(*゚ー゚)「な、何……? これ……?」
何故、来た。
あれほど来るなと釘を刺しておいたのに。 これ ↓
('A`)『しぃさん、ボクは貴方の事を特に愛しているつもりは無いが、好きと言ってくれる
気持ちは凄く嬉しい。だが誤解しないで欲しい。今抱き倒したのは見えない力が
働いたからであって、決して屋上でアンアンしようなんてエロゲみたいな事は
考えちゃいない。分かったらボクはもう行かなきゃならない。君はそこで悶えてろ』
言い訳が九割だった。
来るな、とは一言も言っていない。
(*゚ー゚)「下の階が騒がしいんで、心配してきてみたら……」
あったのは血の海と、それに沈む屍。
更に、今最もホットな殺人鬼というおまけ付きだ。
(;'A`)「た、頼む! その娘は関係無いだろ! 狙いは俺にある筈だろう!?」
(*゚ー゚)「狙い……? ま、まさか貴方もドクオ君を狙っているのですか!?
斧で脅迫して自室に連れ込み、鎖で縛ってあんなプレイやこんなプレイを……?」
('A`)「駄目だこいつ……早くなんとかしないと……」
- 111: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:54:45.09 ID:5PQ3chpr0
- (*゚ー゚)「わ、私は負けませんよ。必ず最後に愛は勝つんです! そんな凶器なんかに
怯みませんから! 折角ドクオ君のハートを射止めたんです!
貴方なんかに渡すもんですか!」
致命的な勘違いをしたまま、彼女は特急列車で思いを貫いていく。
最初は気にも止めないでいた弟者も、静かながらに苛立ちを覚えつつあった。
そして、次の言葉が導火線に火をつける事となる。
(*゚ー゚)「あ、貴方みたいに力で他人から愛情を得ようとする人は、
所詮誰からも愛される事のなかった可哀想な人間なんです!!
力だけじゃ何も解決しないし、誰も幸せになんかなれやしない!」
(´<_` )「力だけで愛情を得ようと……?」
( ´_ゝ`)『力が強ければ誰も文句は言えなくなるんだぞ』
当時七歳の兄者は言った。
( ´_ゝ`)『だから力があれば何でも手に入るんだ。
富も名声も、愛も、女も。望めば、まぁ男も』
(´<_` )『えーん、えーん! 空き地のドイツ被れのガキ大将にいじめられたよー!
膝とか擦り剥いたよー! あいつには力じゃ敵わないよおー!』
その時も兄者は言ったものだ。
( ´_ゝ`)『力が無いなら武器を手に取ればいい。道具を扱うのも力の一つなんだよ』
薄く尖った石を、木の枝に輪ゴムで括りつけたお手製の斧を渡してくれた。
翌日、ガキ大将をそれで殴った。彼は泣きながらインドへ帰っていった。
- 114: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 01:57:22.01 ID:5PQ3chpr0
- 可哀相と彼女は言った。凶器には怯まないと言った。力を、否定した。
(´<_`#)「兄者を愚弄するかぁぁぁ!!」
怒りの矛先は、突如としてその少女へ。
結果から言えば盛岡の死骸に躓いてコケるのだが、ドクオも慌てて駆け出す。
(*゚ー゚)「っ……!」
(;ФωФ)「――――――!」
マジかよ。
しぃを追ってきた杉浦の脳内では、その四文字だけがぐるぐるぐるぐる渦を巻いて
まともな指令を身体に下せないでいた。故に元・恐怖の大王は現時点で立ち尽くすだけ。
最も要らない人物としての烙印を押されている。
(;ФωФ)(そう、この女がここで大人しく殺されれば自分の無念は晴れるのだ……)
そう長年恨み続けてきた女が、目の前で死ぬのだ。
斧で胴を真っ二つにされて、新鮮な汁と桃色の腸を飛び散らせ、
白目を剥き、涎と血がミックスされた粘液を吐き出しながら、頭から床に落ちて、死ぬ。
爽快じゃないか。
重力のままに頭蓋骨が落下していく様は。
(;ФωФ)(う……!)
視界に荒巻の姿が飛び込んできた。
正確には先程まで荒巻だったもの、なのだが。
(;ФωФ)(荒巻さん……!)
- 116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/08(火) 01:59:40.12 ID:5PQ3chpr0
- ドクオに無断でメールを送ったのは荒巻。しかしそれを指示したのは杉浦。
「これが後々彼のためになる」なんて安いキャッチフレーズに疑いを持ちながらも、
荒巻は我侭に付き合ってくれた。
そこですっ転んでるドクオにしてもそうだ。
課された問題から逃げようとしなかった。散々振り回されている身でもだ。
そして答えを出す事に精一杯悩み、道を切り開こうと模索している。
まさに殺される寸前の彼女、しぃ。
杉浦は自分に問い掛ける。
今、そこまで無念を晴らしたいと本気で思っているか?
彼女がここで殺される事で、自分の中で問題は解決するのか?
そもそも自分が死んだ理由は本当に彼女にあるのか?
ただ逃げた事から目を逸らしたくて、勝手に彼女を悪役にしたのではないか?
(;ФωФ)(彼女と俺の、違いは何だ?)
一度の失敗だけで死という安直な逃げ道を選択し、
その後もネチネチと責任を他人に押し付けて、そいつを恨む事だけをしてきた自分。
どんな酷い振られ方をしても、めげず諦めずへこたれずに認めて貰う事に一生懸命だった彼女。
自分を変えようとする者とそうでない者
果たして、どこに差があるのか。
どうしてこんなにも悔しいのか。
とにかく思う事は一つだけ。
このまま彼女が殺されていい筈が無い。
- 118: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:01:12.91 ID:5PQ3chpr0
- (;ФωФ)(頼む……)
頼む、恐怖の大王であった自分。
世界を滅ぼす力などいらない。一人の少女だけを救えればそれでいい。
都合よく復活してくれないか、大王の魔力、無理か。無理だ。
ただの幽霊風情にこの状況を逆転させるパワーはありゃしない。
もう駄目だ、なんて諦めたら最後だ。踏ん張ってみよう、祈ってみよう、念じてみよう。
何か変わるかもしれない。
(;ФωФ)「!」
何か変わるかもしれない。
違う。変えるんだ、何を? 他の誰でも無い、自分を。
自分を変えたい、なんて思った事も無かった。
そうだ、この腑抜けという抜け殻から飛び出して、誰かを守れる人間になりたいんだ。
( ФωФ)「ウオオオオオオオオオオオオ!」
吠えた。
その瞬間、淡い光の中に溶け込まれた。
( ´∀`)「自分を解き放ちたいのかい?」
光の中にはかつての師、モナーがいた。全裸だった。
( ´∀`)「精々頑張りたまえ」
モナーは消えていった。
(#ФωФ)「自分をおおおおおおおお解き放てええええええええええ!!」
- 125: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:04:41.50 ID:5PQ3chpr0
- 北のお方がミサイルでもぶっ放したのか、と思える程の衝撃だった。
凶悪なまでの、揺れ。地震と言えば分かりやすい。
ドクオもしぃも勿論弟者も、一斉に叩きつけられる。
衝突した場所が床か壁か天井か、それすら把握出来ない程だった。
(´<_`;)「ん……なっ!?」
次に窓ガラスが一つ二つリズム良く割れていき、強風が身体を吹き飛ばさんと襲った。
景色の向こうに、竜巻らしき現象が見える。
大木や電柱が根こそぎ引き抜かれ、宙に放り出されている。
それがこちらへ迫ってくるというから大変だ。
(#ФωФ)「大王の魔力よぉぉ……全身の穴という穴から捻り出してやるぅぅ……」
民家の瓦か何かが、病院の外で待ち伏せている警察を襲撃した。
これは誰の視点から見ても予想外だ。
同時に兄者からの意思が伝わってくる。
『混乱に乗じて逃げろ』確かにこの機を逃す訳にはいかない。
ポリスメンは完全に崩れている。何台かパトカーも避難すべき場所へ移動しているようだ。
これだから駄目なんだ、ジャパニーズポリスは。なんて弟者は心の中で呟いてみる。
ふと、ドクオと目が合った。
(´<_` )「次は無いと思え。その奇妙な能力の正体も暴いてやる」
そして弟者は窓から飛び降りた。
(;'A`)「ええええええええええええええええええええええええ!?
確かに次はねええええええええええええええええええ!!」
- 127: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:06:50.88 ID:5PQ3chpr0
- 弟者は斧を外壁に強く擦りつける。
これによる摩擦で落下速度を極限まで低下させ、安全に着地するつもりだ。
しかしそんな事が本当に出来るのだろうか。
本人は兄者からはこう逃げろと教わった、と信じて止まないがハッキリ言って、
もの凄い勢いで弟者は落下している。だって七階だもの。
(´<_` )「ぎゃらば!」
運の良い事に下には軽自動車が停車してあった。
そのボンネットに落下、すっげぇ上手い受け身を取ったので弟者は無事だった。
その様子をただ上から眺める事しか出来なかったドクオは「冗談だろ……」と漏らすだけであった。
冗談でも何でもない。現に弟者はむくっと立ち上がり、逃走した。
('A`)「……逃がし……ちまった……」
けど。
(*;ー;)「怖かった……怖かったぁ……」
一人の人間が助かった。これは価値のある事だ。
自分の胸の中で鼻水をジェット噴射させながら泣く女を見て、そう思った。
あの殺人鬼が逃げ、これからまた沢山の被害が出るかもしれない。いや、確実に出る。
それらを跳ね除けて、一人を救った。これについては、
('A`)「後悔していますか? 杉浦さん」
( ФωФ)「さあね」
敢えて杉浦は曖昧な返答をした。
台風マスも悪くない、とドクオは思った。
- 131: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:08:52.99 ID:5PQ3chpr0
- (,,゚Д゚)「逃げ足の速い奴だ……見つかったか?」
川 ´_ゝ`)「ダメだ! あのイケメン全く見つからない!」
(,,゚Д゚)「分かった。俺はあっちを捜索してみる!」
川 ´_ゝ`)「頼んだ!」
川 ´_ゝ`)(変装もしてみるもんだな……)
その頃あっちでは。
川 ゚ -゚)「おい、見つかったか?」
(,,゚Д゚)「何? 貴様さっきまで全裸でいたじゃないか!」
川;゚ -゚)「ばっかもーん! それが兄だ!」
嵐は去り、雲の隙間から太陽が顔を覗かせた。
後は普段の午後が訪れるだけであった。
それで今日一日が終わる。
呆れるくらい、失い過ぎた。
- 135: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:10:56.37 ID:5PQ3chpr0
- 嵐は過ぎ去った。
残された者達は、悲しみ、怒り、そして恐怖に震えた。
切り裂かれた被害者は、年寄りが多かった。
ほとんどの病院関係者は患者そっちのけで逃げた。
電車で席もロクに譲らない若者が、殺人鬼から年配者を守る訳が無い。
これはもう仕方のない事だ。
風のように現れ、死体を置いて消えていく。
世の引き篭もりは心の底から安堵している事だろう。
ああ俺外に出る用事全然無くて助かった、と。
最早、「外」に平和は無い。
一歩玄関から出れば、いつ斧で襲われてもおかしくないのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃお母さん買い物行ってくるわ。ちゃんと留守番してるのよ」
( `ハ´)「うん! いってらっしゃい! 僕いい子にしてる!」
ζ(゚ー゚*ζ「いってきまーす」
( <_ )「――――――」
ζ(゚ー゚;ζ「!?」
――――ほら。
- 137: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:12:17.69 ID:5PQ3chpr0
- (,,゚Д゚)「せめてもの情けでよう、俺が直々に成仏してやるよ」
しぃが勤務しているケーキ屋の前にギコと杉浦は立っていた。
まだ早朝なので開店していないが、張り込んでいる時間を楽しめなきゃ一流とは言えない
と、ギシギシアンアンシコシコピュッピュ氏は語る。何の一流だろうか。
(;ФωФ)「これの中に入るの抵抗ありますねぇ……」
【*゚ー゚】←これ
C-ch 02は棺桶部分である腹を広げて待機していた。
(,,゚Д゚)「もう未練もクソもありゃしねぇだろ?
だったら潔く、男らしく、覚悟決めて入れよ。
来世のお前にバトンを渡さないといけねぇ」
( ФωФ)「そうですね」
自分は変われたか?
あの娘を守った事で、自分が変わった事になるか?
答えは逝くまでにゆっくり考えよう。そう思って入棺した。
( ФωФ)「単なる嫉妬だったのかもしれないですね」
(,,゚Д゚)「ん? 何がだ?」
( ФωФ)「愛されるように努力出来る。それが純粋に出来る彼女への、ですね。
結局私、また一回りしてしぃさんを好きになったのかもしれません」
(,,゚Д゚)「残念だったな。彼女は俺が嫁に貰う。婿の座は譲らねぇ」
- 138: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:13:20.06 ID:5PQ3chpr0
- ( ФωФ)「はっはっは。じゃあせめて―――――……」
棺が閉まる。
( ФωФ)「僕は彼女のk(,,゚Д゚)「成仏」
( ФωФ)「……」
自分が粉になっていく。灰、が一番近いだろうか。
誰の記憶に残らなくてもいい。
ただ、何か一言残したくて、口を開いた。
( ФωФ)「地球滅ぼさなくて本当に良かった」
- 143: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:15:37.38 ID:5PQ3chpr0
- ⊂('A`⊂⌒`つ
最悪の大虐殺、死亡者は百人以上。
ここまで来ると通り魔、なんて肩書きじゃ済まない。
完全にテロのレベルだ。それを一人の人間がやってのけた。
これまでチョップマンにカリスマ的な価値を植え付け、神聖な者として見ていた連中も、
流石の俺でもそれは引くわ、みたいな傾向になりつつあった。
俺はその死亡者にカウントされていない奴の墓の前にいる。
そう、聖なるクリスマスイブの夜に。
('A`)「ヒッキー……」
墓はある。しかし供物も花も無い。
千の風になんたるか、とかいう歌じゃないが、間違いなくヒッキーはそこにはいません。
眠ってなんかいません。こんな形だけの墓場なんかには。
それでも語りかけた。
気休め、自己満足、それで結構。
こっちは喋り足りないくらいなのだから。
('A`)「今年も遊ぶ約束したからな」
俺がビニール袋から取り出したのは線香でも饅頭でも無い。
金銀に輝くモールと、クリスマスツリーに使う電飾。
それらを全部、ヒッキーの墓に巻きつけた。
('A`)「これでよし、と」
付近の民家(コンビニのババアの実家)から無断で延長コードを引っ張り、電気を流した。(犯罪)
- 145: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:17:28.26 ID:5PQ3chpr0
- ('A`)「綺麗だ……」
赤、青、黄、緑のライトが墓を彩る。
暗闇を鮮やかに照らすその様子は、肉体無き自分の存在を必死に主張しているようだった。
きっと周りの墓石から妬まれる。でもそれくらい浮いていた方が良い。
花を添えてやるという約束だったのだから。ここで華を飾らないと意味が無い。
('A`)「そうだ。次、次」
チラシの裏に書いたタイムテーブルを読む。
懐中電灯の需要は無かった。予想以上に電飾の灯りが強い。
子供の頃から全く変わらない、俺の汚い字がはっきり見える。
('A`)「歌のコーナーだ! ミュージックスタート!」
ラジカセにテープをセットし、曲を流した。
『クゥゥゥゥリィィィィスゥゥゥゥマスキャロルぐあああああああああああああ
ぬぁぐぁぁれぇぇるころにわああああああああああああ』
稲垣さんではない。この甘いボイスは俺のものである。
我ながら素晴らしい歌唱力である。
近くを歩いていた猫の親子が泡を吹いて倒れ、向こうの家のオートバイが一台爆破した。
('A`)「次! これがメインだ。エレクトリカルパレード!」
流石に着ぐるみなどは用意出来なかったので、強盗などが使う覆面を被り、
少しでもファンタジー要素を取り入れようと努力した。
('A`)「てんてけてんてん、てんてけてけてけ、てろれろれろれろれろれろりーん」
- 150: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:20:10.43 ID:5PQ3chpr0
- ('A`)「えーと次は……ワインで乾杯だ。実際はコンビニの缶ビールだがな。
今頃腰をフリフリシェイクしている、世間のバカップルへの文句を肴に飲もうぜ」
勿論返事は無い。返って来るのは電光だけ。
('A`)「…………ヒッキー……」
(-_-)『ゴールは死か……ドックンは僕が死んだら泣いてくれる?』
そりゃ泣くだろ。
(-_-)『そうかそうか。ドックンは泣いてくれないかー。
なんか悔しいなー。僕はドックンが死んだら絶対泣くけどなー』
自分が死んで泣いてくれる奴が死んだら、泣けない訳無いじゃないか。
('A`)「チクショウ……」
いや、それでも今は泣く場面じゃない。
('A`)「……俺は負けないぜ。そんな虚しい寂しい悲しいを受け止めた上でのパーティなんだ。
そーれ! ビールかけだ! ワーイワーイ!」
溢れそうな涙を堪え、無理矢理明るく振舞った。
墓がビールで濡れる濡れる。
電飾も濡れる濡れる。
電気を引っ張っているコードも濡れる濡れる。
電飾もコードもその辺のゴミ置き場から拾ってきた、埃被ってたやつなんだけど
全然イケるじゃないですか。何かバチバチいってるような気もするけどね。
- 152: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:22:44.04 ID:5PQ3chpr0
- バチッバチバチ…ヴォッ…ヴォゴオオオオオオ…
お分かり頂けるだろうか?
突然火花が出て、燃えたのだが。
(;'A`)「GYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
なんだこれは。最近の墓石ってこんな燃えやすいのか?
墓石を改めて触ってみると、なんじゃこりゃあ、プラスチックで出来ているじゃないか。
手抜きにも程があるだろう。引田家ってなんなの?
(;'A`)「クソッ、消えろ消えろ!」
どうしようもないので、卒塔婆を振り回して風-kaze-を起こそうと奮闘するが、
逆に煽ってしまった。近くに生えている木に燃え移り、瞬く間に火事と呼べる規模まで
火は成長した。ぎゃああああ。
('A`)「さて逃げるか」
「待て、放火魔!」
なんと。運の悪い事に、パトロール中のおまわりさんに目撃されてしまった。
騒ぎを聞きつけた地元住民までもが、成り行きで俺を追いまわしている。なんじゃこりゃ。
いいからお前ら黙ってバケツリレーでもやってろと。消火を優先しろ消火を。
俺が逃げれば逃げるほど、後ろで追ってくる人間が増えていくような気がしてならない。
(;'A`)「チックショー。ヒッキー、荒巻、亀甲縛りの人!
それから理不尽に殺された病院のみんなー!」
(;'A`)「人生めっちゃ楽しいぞー!」
- 157: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:26:11.78 ID:5PQ3chpr0
- 【+ 】
( ・∀・)「愉快過ぎるぅぅぅ! オサムがギックリ腰で自宅療養!
次期ボスの最有力候補は間違いなく俺ぇぇぇぇぇ!!」
日本の棺桶売りが集う総本部。
個別に与えられている部屋は、何とか生活に不自由ない程度のランクから、
高級ホテルのスウィートルーム並の広さを持った部屋まで揃っている。
今、高笑いをしているモララーは、まさしく松竹梅でいう松のレベルの部屋に身を置いている。
( ・∀・)「ボスの座につけばもっと優雅な部屋が与えられるに違いない。
想像しただけでも……なんだかオラ、ワクワクしてきたぞ!」
すごい今更な棺桶売り階級表
ボス→すげぇ。
大御所→部隊長とか呼ばれる。天狗になれる。
中堅→自分の隊を持てる。隊長とか呼ばれる。
若手→新人に先輩面出来る。
新人→がんばれ。
チンカス→晴れて棺桶売りになれたが自室から一歩も出ない人。
早急に対応策を練る必要がある。
( ・∀・)「さーて、オサムに肩叩き券でも渡して機嫌取ってくるかー」
背伸びをして廊下に出ようとした。が、中々部屋の扉は開かなかった。
廊下で女性隊員がペチャクチャと喋っている。
「今度のボスの事」そんな単語を出されたら、モララーとしても聞き耳を立てるしかない。
- 162: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:28:29.48 ID:5PQ3chpr0
- 扉越しに飛び交う情報。
「クーさんは自由人だからボスの肩書きには拘らないわよね」
「自分の隊も持たずにフラフラしてるけど、実績はあるからオサムさんも口出ししないのよね」
「それでいいのかって感じよね」
「ゼアフォーさんが有望じゃない?」
「えー、あのいつも乳首出してる人―?」
(;・∀・)(おいおい……俺の名前が出ないぞ……)
「聞いて聞いて二人ともー!」
(;・∀・)(三人目が出てきた!?)
「オサムさんから正式な発表があったわ! 次のボスには……」
(;・∀・)(俺! 俺! 俺!)
「別名・東日暮里の狩人、ワカッテマスさんよ!」
(#・∀・)「嘘だああああああああああああああああ!!」
ドアを頭突きでぶち壊した。
( <●><●>)「御機嫌如何かねモララー君」
- 163: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:29:37.00 ID:5PQ3chpr0
- ( <●><●>)「君もボスの椅子を狙っているのは分かってますよ……」
そのワカッテマスが目の前にいた。
女共はサインを強請っている。
紳士なワカッテマスは優しく微笑み、クーピーで色紙にサインした。
金髪のサラサラヘアーで、ヨーロッパっぽい顔立ちは中世のそれを漂わせる。
白馬の似合うジェントルメーンである。
( ・∀・)「俺は認めないぞ! オサム氏はご乱心だ!
現役で最もボスに相応しいのは、この俺だ! そうだろワカッテマス!?」
( <●><●>)「別に」
( ・∀・)「大体おかしいじゃないか! オサムの推薦で決まるってのは!
部下全員に誰が上に立つべく人物か選んで貰うってのが常識だろ!」
ドアを修理しながらモララーが吠えた。
頭には鉢巻。口には釘。手にはトンカチだ。
( <●><●>)「君はボスというより日曜大工のオッサンですね。
しかし君の言う常識にも一理ある。大勢に認められてこその優れた人物だ。
なんなら選挙で決めようか。無論、オサムさんの許可は必要だが。
投票で君が勝れば、僕も君をボスとして相応しい人物だと認めよう」
( ・∀・)「選挙か……面白い……」
しかしワカッテマスの女子人気は本物だ。
そう容易く勝てはしないだろう。
( ・∀・)「ならば……」
- 167: ◆R38CE/IWYU :2008/01/08(火) 02:31:01.11 ID:5PQ3chpr0
- ( ´ω`)「はぁ――――――……だお」
上司であるハインが消えて一週間が経った。
寂しい、とは違う感情。身が入らないというか、自分から見て覇気が無い。
それに加えて、こんな仕事を頼まれたんじゃ、元気もどっかに吹き飛んでしまう。
( ・∀・)「もっと際どい水着の方がいいかな?」
撮影スタジオのような場所で、ブーンはカメラを回している。
映っているのブーメランパンツ一丁のモララーだ。
もう十分際どい。あなたの良心の面積が狭すぎる。ブーンは泣きたかった。
( ・∀・)「ブーン、もっと楽しそうに頼むぜ。
選挙で勝つためのアピールビデオなんだから!
ははーん、分かった。お前、俺の肉体美に妬いてるんだな?」
( ´ω`)「勘弁してくださいお……
(ぶっちゃけ僕もワカッテマスさんの方が適任だと思うお……)」
( ・∀・)「なんていうかなー! もっとエロスが足りない気がするんだ!
そうだ、海の男だ! ワイルドな海のオトコをアピールしよう!
やべぇwwwwwwめっちゃ楽しくなってきたwwwwwwwww」
(;´ω`)(いっそ海に沈んで欲しいお……)
絶対この男だけはボスにさせてはいけない。
ブーンはそう誓った。
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