( ^ω^)ブーンがお迎えにあがるようです
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:14:40.70 ID:aoUaaI3Q0
- (*^ω^)「僕この仕事、好きになってきましたお!」
ξ゚听)ξ「ふぅん」
いつもの休憩所、始業前の時間に一服を入れる二人の姿があった。
自販機から出てきたアルミ缶を取り出しながら、ブーンは語る。
(* ^ω^)「何て言うんですかお、ほら、何か魂の救済! みたいで」
ξ゚听)ξ「……かっこいいとか思ってるの?」
( ^ω^)「んー、ちょっと違うような感じがしますお。使命感、と言うか」
ξ゚听)ξ「――馬鹿じゃないの」
( ^ω^)「……? 何か言いましたかお?」
ξ゚听)ξ「別に。それにね、アンタ勘違いしてるようだから言っておくけど、この仕事は」
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:15:52.56 ID:aoUaaI3Q0
- ガコン。
缶コーヒーをゴミ箱へ放り込んだツンは立ち上がり、
ξ゚听)ξ「ただの傷の舐め合いよ」
( ^ω^)ブーンがお迎えにあがるようです
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:18:45.51 ID:aoUaaI3Q0
- ( ^ω^)「えぇぅっと、いま僕らは何処に向かってるんですかお?」
ξ゚听)ξ「――いいから黙ってついてきなさい」
カツン、カツン、と乾いた靴音が響く廊下。
角を二、三回曲がった所で痺れを切らしたブーンがツンに問うたが、かえってきたのはそれを封殺する言葉だけだった。
( ^ω^)「おっ。……それにしても先輩、一体どうするんですかお?」
ξ゚听)ξ「…………」
( ^ω^)「今回のクライアント何か頑固そうだし。彼女、時間も残り少ないんですお?」
ξ゚听)ξ「…………」
無言で歩を進める背中を見、ブーンは眉をしかめさせる。
後ろにつくようにして歩きながら、頭上にある切れかけた蛍光灯を仰いでため息を一つ吐く。
( ^ω^)「……先輩が質問に答えないなんて何か変な感じがす」
ξ゚听)ξ「着いたわよ。ほら」
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:31:27.26 ID:aoUaaI3Q0
- ξ゚听)ξ「ほら、入りなさいよ」
(;; ^ω^)「――い、いやですお! この扉向こう入るって事が死亡フラグな感じがすっ」
ξ゚听)ξ「つべこべ言わずにさっさと来なさい。大体アンタ、もう死んでるでしょ」
尻あたりに蹴りを入れられ、ブーンはつんのめった。
( ゚ω゚)「うっお!!?」
ごろり、と転がった床は既に第五課のテリトリー。
从 ゚∀从「おう、らっしゃい」
出迎えてくれたのは、白衣の女だった。
手入れされていないのか、ボサボサの黒髪。しかしそれでいて艶のあるそれ。
地面につっぷしながら、数秒見惚れている自分がいる事をブーンはどこかで自覚する。
……しかしそれでいて白衣の美女は火薬臭かった。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:35:59.93 ID:aoUaaI3Q0
- 从 ゚∀从「あん?」
メキョ、と女の足裏がブーンを頭を踏む。
(;; ゚ω゚)「ふもっふ!!!?」
視界と意識はブラックアウト。
■■■
(〃^ω^)「……あれ、何か五分前くらいからぷっつりと、綺麗さっぱりに
記憶が途切れてるんですけれども、何かしましたかお、お二方」
从 ゚∀从「いやいや、気のせいだろう?」
ξ゚听)ξ「うんうん、気のせいよね」
(〃^ω^)「……アンタら何か同じ匂いがするんですけれどもこれもですかお?」
从 ゚∀从「はっはっはっは、願い下げな事言うなよなぁ新人クン」
ξ゚听)ξ「うふふふふふふ、ホントに全くね、こんな暴力女とか弱い私と何、アンタ同列にする気?」
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:39:12.24 ID:aoUaaI3Q0
- 从 ゚∀从「そうそう、外面がいいのだけが取り得のコイツと一緒くたにするなよなぁ」
ξ゚听)ξ「あらあら、ポンコツ発明品作るしか脳がないアンタが言えた事かしら?」
ξ゚听)ξ「うふふふふふふ」
从 ゚∀从「はっはっはっは」
めきめきめきめきめき、めり、めりめり、
両手に花ならどんなに良かっただろう、とブーンは思う。
笑いながら腕を掴む美女たちは、相貌からは想像もつかない腕力で自分のそれを締め上げていく。
(;; ゚ω゚)「ちょ、すみませんお! 謝りますお! 謝りますから、だから口喧嘩するか
人を攻撃するかどっちかにしてくださいお! いてぇ! マジでいてっぇえええ!!」
从 ゚∀从「……うん、おもしろいなぁ、コイツ」
ξ゚听)ξ「ノシ紙つけて送ってやるわ」
( ω )「…………ふ、ふはァっ」
崩れ落ちるブーン。心なしか腕のあたりが痙攣している。
窓一つなく、蛍光灯の明りも少々薄暗い第五課のオフィスには、その端々から電子音や摩擦音が上がっていた。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:42:39.80 ID:aoUaaI3Q0
- 从 ゚∀从「――で、何しに来んだ。珍しいじゃねぇか、お前がここに来るなんてよ」
それを軽やかにスルーした白衣の女は、以前崩れ落ちたままのブーンの隣にいたツンに聞く。
……でもやはり火薬くさい。
ξ゚听)ξ「…………頼みたい事が出来たのよ」
从 ゚∀从「――たのみ、だぁ? ……ったく。あ゛ー、忘れてた」
ξ゚听)ξ「何を」
从 ゚∀从「違う課の奴がここに来る時、たいてー厄介ごとと一緒になんだよな」
ξ゚听)ξ「……別に厄介事って訳じゃないわ」
从 ゚∀从「どうだか。で、何だよ」
低いトーンで言い、こちらを睨みつけてくる第五課の同僚。
ツンは瞼を伏せ、
ξ゚−゚)ξ「身代り君の設定を変えて欲しいの」
そう言う。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:43:58.61 ID:aoUaaI3Q0
- ( *ω*)「――身代り君、って言ったら、あのワラ人形ですかお?」
从 ゚∀从「ん? ああ、いつのまに意識戻ったんだ。そうだよ。あのワラ人形だ。
アレは課長の発明品でな、魂の入れ物みたいなもんなんだぜ。
通常人の姿って言うのは精神の《波長エネルギー》に支配させられていて、鍵と鍵穴の関係みたいに一つの体、
つまり鍵穴には、それに合った鍵、要は魂しか入らないんだが、身代り君の凄い所はその鍵あ――」
ξ゚听)ξ「講釈垂れてる所申し訳ないんだけど、こっちの話の返答は?」
从 ゚∀从「む。お前ここからがいい所だぞ!」
ξ゚听)ξ「後でゆっくりコイツ貸し出すからお好きにどうぞ」
( ゚ω゚)「へ、へぅえぇぇ!!!?」
从 ゚∀从「ん。返答だがお安い御用だ。ってぇ言いたい所だが――無理だな」
ξ゚听)ξ「設定変更する事なんて簡単でしょ?」
从 ゚∀从「ああ、ま、身代り君の《鍵穴》設定を変える自体は簡単だ。片手間でも出来る」
ξ゚听)ξ「なら!」
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:46:20.03 ID:aoUaaI3Q0
- 从 ゚∀从「お前の注文を聞き入れる事が無理だって言ってるんだよ」
从 ゚∀从「ツン、お前――その鍵穴を今回の客の鍵に合わせるつもりだろ」
ξ゚听)ξ「…………」
白衣のポケットに突っ込んでいた右手で首筋あたりを乱暴に掻き、やれやれと首を横に振る。
从 ゚∀从「図星だからって黙り込むな。あの、なぁ図星ついでに言っとくが、お前――」
「懐くなよ、ツン」
そうして背後から聞こえてきた渋い声。淀んだ場の雰囲気を一掃する、低い地鳴りのような声だった。
从 ゚∀从「……っち」
言葉を切られた事が気に入らなかったのか、白衣は舌打ちを一つ漏らす。
これ好機だとブーンは立ち上がり、扉の方向を見れば、
ξ゚听)ξ「ギコ先輩……」
心なしか震えた、ツンの声が響いた。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:48:36.79 ID:aoUaaI3Q0
- 从 ゚∀从「誰かと思えば第三課の係長さんじゃないですか。――課長、今外に出てますよ?」
ミ,,゚Д゚彡「あー、モナーに用はねぇよ。ただ――不良品は掴ませるな、っとけ」
粗暴に言い、ギコは右手に持っていた何かを女に向かって投げる。
放物線を描きながら女の手元に納まるそれは、陰陽道でよく見る人型の式神のそれとよく似ていた。
从 ゚∀从「――……あ、追跡ちゃんじゃねぇか」
追跡ちゃんと言うらしい。
ミ,,゚Д゚彡「追跡追撃機能つけてくれるのはいいが、設定したターゲット追わないんじゃ意味ねぇだろゴルァ」
从 ゚∀从「……きつく言っときます」
ミ,,゚Д゚彡「頼むぜ第五課クオリティ」
厳格なギコには珍しく、冗談っぽい口調だった。
ギコハハハ、とくぐもった笑い声をもらし、それから真顔を作る。
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:50:11.97 ID:aoUaaI3Q0
- ミ,,゚Д゚彡「おいブーン。社訓の第一条言ってみろ」
(; ^ω^)「おっ! ――えーっと。お客様は、ホトケ様ですお」
ミ,,゚Д゚彡「そう言うこった。ホトケと自分を同じ系列で扱うな。
あくまでもアイツらは畏怖と侮蔑の念を持って接しろっつてんだろゴルァ」
ξ;゚听)ξ「で、でも――――」
ミ,,゚Д゚彡「あーもうっ、おいブーン!」
(; ^ω^)「は、はいですお!」
自分が呼ばれた、と気付き、ブーンは背筋をのばして返答した。
タバコを取り出そうとギコは懐に手を伸ばし、思い直してその欲求を噛み殺す。
ため息と舌打ちをもらしてから荒々しい声で、
ミ,,゚Д゚彡「なんでこーなったか説明しろゴルァ!」
(;; ^ω^)「は、はいですお! えーっと、今回のクライアントの名前は都村トソンさん。
彼女の未練は告白。それが多分、一番の問題で――」
■■■
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:50:53.04 ID:aoUaaI3Q0
- 力強いセミの合唱が聞こえる。
ざらついたコンクリート、真上で笑う太陽。
うだるような熱さ。数メートル先にある陽炎。
(゚、゚トソン 「…………」
ξ゚听)ξ「都村さん。いい加減、納得して頂けませんか」
見慣れた学校のプールサイド。
風が吹いている訳でもないのに、ゆらゆらと揺れる水。
そこに立っているのは水着姿の生徒でもなく、
白い死に装束を着て水打ち際に座り込む少女と、それとは対照的な黒いスーツの男女だった。
ツンはと言えば、精悍なその顔立ちを厳しく崩し少女の方を睨んでいる。
(゚、゚トソン「……わ、私は」
ξ゚听)ξ「こちらも出来る限り譲歩しているんです。この形でしか、貴女の未練を晴らす方法はない」
(゚、゚;トソン「ゃ、いやです、絶対にいや!」
ξ゚听)ξ「……すでに亡くなった貴女に残されている時間はごくごく僅かだと申し上げた筈です」
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:53:00.67 ID:aoUaaI3Q0
- (゚、゚トソン「それ位、解かってます……死んでから四十九日、それが許された滞在時間なんでしょう?」
ξ゚听)ξ「ええ。その時間を過ぎれば、貴女は《貴女》と言う形を保てなくなる。
そして貴女は死んでから四十八日目。……このまま未練と一緒に消えていいんですか?」
(゚、゚トソン「それもいやです! 解かってる、そんな事解かってるけど!!」
ξ゚听)ξ「…………」
(゚、゚トソン「私で思いを伝えられないなんて《死んでも》嫌!!」
始めの時とは比べ物にならない程のエネルギーをもった声。
怒声と言うよりは悲哀の色が強く、泣き声と言うよりは力強いそれ。
都村と呼ばれた死に装束の少女は立ち上がり、声色と同じような視線で二人を見た。
ξ゚听)ξ「――都村さん」
(゚、゚トソン「それならいっそ、この思いを抱いたまま消えてなくなります。
すみません、ツンさん、ブーンさん、無駄足を踏ませました。お帰り、ください」
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:55:57.26 ID:aoUaaI3Q0
- ξ゚听)ξ「……また明日来ます。その時までに、貴女なりの結論を」
(゚、゚トソン「いつ来たって同じです――私は、」
ξ゚听)ξ「また明日来ます!」
ツンの声は、少し震えていたように思う。
( ^ω^)「……って言う事があったんですお」
ミ,,゚Д゚彡「そうか、やっこさん《死んでも》嫌、と来たもんか」
眉根に気難しげなシワを作ってから、ギコは苦々しい顔をする。
仄かな暗がりの中で、厳しさを倍化させていた。
ξ゚听)ξ「…………」
ミ,,゚Д゚彡「ツン。自分とホトケを重ね合わせるってぇのは論外だ俺たちは――」
ξ゚听)ξ「この世のものでもあの世のものでもない、でしょう?」
ミ,,゚Д゚彡「……理解してんなら言わねぇがな」
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:57:09.60 ID:aoUaaI3Q0
- ξ゚听)ξ「それでも、ギコさん――」
ミ,,゚Д゚彡「あれがあるだろ。どうしても言う事訊かねぇ奴には一番だ」
ξ;゚听)ξ「っ、でもあれは! あれを使わないのが、三課の誇りじゃなかったんですか?」
( ^ω^)「……解説の第五課さん。アレ、ってなんですか?」
从 ゚∀从「高岡だ。あー、アレは第一課の常套手段なんだが、物理的な銃じゃなく魂を殺すための銃つーかな。
通称ソウル銃さん。これは先代の課長の発明品なんだが――」
( ^ω^)「解説ありがとうございますだお。ソウル銃さんてまた凄いネーミングセンスですおね」
从 ゚∀从「ち、話切替えやがって。ここからがいい所なんだぞコラ」
ミ,,゚Д゚彡「俺はここでは何も聞かなかった事にする。いいか、くれぐれも連れて行かれるなよ、ツン」
用事は済んだ、とばかりに踵を返すギコ。スーツが翻り、大きな背中が目に入る。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 21:58:00.90 ID:aoUaaI3Q0
- ξ゚听)ξ「…………」
ミ,,゚Д゚彡「ブーン!」
(; ^ω^)「は、はいですお!」
ミ,,゚Д゚彡「お前もだぞ、ゴルァ」
( ^ω^)「はいですお!」
ギコは後ろ手で扉を閉めて出ていった。
ツンのそれよりも乱暴な足音が段々と遠のいて行く。
从 ゚∀从「ったく――どーしてこうウチを訪ねる奴は厄介モン揃いなのかね……」
残された三人で最初に沈黙を破ったのは第五課、白衣の彼女だった。
もうウンザリだ、と付言した言葉に反応して、ブーンは質問する。
( ^ω^)「おっおー。と言うと過去にも?」
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:00:24.04 ID:aoUaaI3Q0
- 从 ゚∀从「色々居やがったよ。幽体離脱飴っ子の味変えろとか、
あとは身代り君の設定を自分に合うように変えろだとかな。
ソウル銃さんの銃口向けながら凄むもんだから救いようがねぇ」
( ^ω^)「おっwwww ……それにしても都村さん、どうしたもんですかお」
从 ゚∀从「さぁな。コレばっかりはウチの管轄じゃねぇしお前らの問題だろ」
( ´ω`)「…………おっおー………」
从 ゚∀从「あー、きな臭せぇ。はいはい、ほれお前が持って来た身代り君返しとく」
( ^ω^)「おっ!」
ぽすん。胸元に投げつけられたワラ人形、もとい身代り君をキャッチし、ブーンはそれと高岡とを交互に見る。
半目になっていた自分の視線に気付いたのか、高岡はまた首筋を掻いた。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:03:03.20 ID:aoUaaI3Q0
- 从 ゚∀从「あー、あとそれさー、ちょっと設定が狂ってるかもしれねーから使わんで捨てといてくれねぇ?」
ξ゚听)ξ「…………ハイン?」
高岡の言わんとする所に気付いたのか、それまで無言を通していたツンが顔を上げた。
独り言じみた忠告をする白衣の女――ハイン――は、ニヤリと悪そうな笑みを一つ。
从 ゚∀从「もうこれ以上五課の作るもんは不良品だとか言われたくねーんだよ」
ξ゚听)ξ「…………解った。でも、もしかすると使っちゃうかも知れないわよ?」
从 ゚∀从「ウチは責任とれねーよ。だからさっさと行け。コッチだってそうそう暇じゃねーんだ」
ξ゚听)ξ「「はい!」」(^ω^ )
薄暗いオフィスに、応答があがった。
■■■
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:04:43.44 ID:aoUaaI3Q0
- (゚、゚トソン「また――来たんですか?」
同じような場面だった。学校のプールサイドに佇む死に装束の少女。
特に驚いた様子もなく、少女は突然現れた黒スーツの二人組に声を掛ける。
ξ゚听)ξ「…………」
(゚、゚トソン「何度言われたって返答は同じです。私、もうこのまま――」
クマゼミだかアブラゼミだか、様々なセミたちの大合唱が反響して幾重にも重なっていた。
ギラつく太陽は西に傾きかけていて、橙と黒のコンテラストを空一面に描いている。
( ^ω^)「僕たちは極楽送迎会社、VIPの者ですお」
(゚、゚トソン「…………」
ξ゚听)ξ「全ては顧客サービスの為 ――皆様に後悔なく浄土へ渡って頂く為に」
ξ゚听)ξ「「貴方の生涯にある『一片の悔い』を晴らしに来ました!」」(^ω^ )
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:08:00.00 ID:aoUaaI3Q0
- ξ゚听)ξ「都村トソンさん!」
(゚、゚;;トソン「は、はい!?」
大きな声で呼ばれ、面を食らったらしい少女が反射で言葉を返す。
ツンは波打つ水面に視線を投げ、トソンの方を向かないまま言葉を紡いだ。
ξ゚听)ξ「貴女の未練は《思いを伝えたい》、その一点ですね?」
(゚、゚トソン「……そう、です。けど」
ξ゚听)ξ「しかも貴女の体のままで」
(゚、゚トソン「…………はい」
ξ゚听)ξ「夢枕に立つと言う手段も有りますが、貴女はそれを拒否なさった」
(゚、゚トソン「夢だって思われて、それだけで終るのは嫌……です」
ξ゚听)ξ「まったくもって、わがままの多い依頼人です」
(゚、゚トソン「すみません――」
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:08:47.95 ID:aoUaaI3Q0
- ( ^ω^)「……都村さん、貴女のその願い、叶えられない事もありませんお。
けれど、ただ一点だけ守っていただきたい事がありますお」
(゚、゚トソン「…………」
( ^ω^)「彼の前に姿を見せないで下さい。それだけでいいんですお」
(゚、゚トソン「でも――それならどうやって告白しろって言うんですか?」
ξ゚听)ξ「――扉越しの告白になりますが、よろしいですね?」
座り込むトソンに、ツンは手を差し伸べる。それから、少女が自分の手にそれを乗せてくるのを待った。
プールサイドと隣接した運動場から、生徒たちがランニングする掛け声が聞こえてくる。
(゚、゚トソン「……わかりました!」
トソンは大きく頷き、そしてツンの手を取る。
それが、仕事開始の合図だった。
■■■
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:23:21.23 ID:aoUaaI3Q0
- ( ^Д^)『はじめまして。男臭い所だけどよろしくな、マネージャー』
サッカー部の部活初日、マネージャーになったはいいけどどうやってあの男子の輪の中に入ろうか迷って、
一人輪の外で立ち尽くしていた私に齎されたのは、その言葉と、背中に当てられた暖かな手。
一歩前につんのめり、驚いて振り返った先に、
( ^Д^)『キャプテンのプギャーだ。ごめん、ビックリしたか?』
彼がいた。
スポーツマンらしい清々しい笑顔を浮かべて、私の背中を押したであろう右手を胸元に掲げ軽く振りながら。
( ^Д^)『変なこというようだけどさ。もし俺がユニフォームを脱ぐ時が来たら、その時は一緒にいてくれねぇか?』
――出会いも切欠もよくある話。だけど私にしてみれば、最高にロマンティックな初恋の話。
恋に落ちる要素は、始めから全て揃っていたんだと思う。
きっと私に必要だったのは、あの一瞬。
あの、私の背中に当てられた優しい手の体温が伝わってくる時間さえあればそれでもう充分だった。
呼吸をする間も、瞬きする間でさえ、きっとあれに比べれば永遠より長かったのだし、と永遠の身分になった今私は気付く。
- 44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:28:39.16 ID:aoUaaI3Q0
- (゚、゚トソン「恋は盲目、何て言うか解からない、ですよね」
( ^ω^)「……いつ人が恋に落ちるかの話ですおね。そんなものですか?」
(゚、゚トソン「そんなものです。ブーンさんにも経験ありませんか?」
( ^ω^)「…………」
そして私はいま、自分の教室だった1年3組で先輩の到着を待っている。
私の席だった所へ控えめに添えられた花瓶。ズン、と心のどこかが重くなった。
許されるなら、もう少しだけ、あの柔らかい日々の中に居て、あの暖かな人たちと幸せな時間を過ごしていたかった。
16年は長いようで短くてだけどあっと言う間って程でもなく調度木の成長に似ていた。
緩急もあるけれど、基本的には穏やかな365日の繰り返し。
( ^ω^)「やっぱり恋って特別ですかお?」
(゚、゚トソン「それはもちろんです」
特に意味もなく、暇つぶし程度に拙いながら初恋話を語ってみれば、
黒服の男の人――ブーンさんは思いのほか親身になって聞いてくれた。
初めて会った時にも感じたけれど、この人からはあまり事務的な雰囲気がない
(ツンさんはあくまで「仕事で」私に接している風だったけれど)
だから私も(それこそ、初対面の人にこんな話をする程)親しみやすいのかも知れないな、と彼を見つめながら思った。
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:31:40.77 ID:aoUaaI3Q0
- ( ^ω^)「トソンさん。貴女の要求には――その、重い枷をつけたようで申しわけないですお」
(゚、゚トソン「そんな、謝ることなんてありません!」
( ^ω^)「しかし……」
(゚、゚トソン「ブーンさん」
名前を呼べば、ブーンさんは悪戯を咎められた子供のような表情をした。
(……やっぱりこの人の顔には温度があるなぁ)歳不相応な彼のギャップに、不覚にも心はときめいてしまった。
大人が持つ子供の部分に女は弱いという通説は大いに正しい。
(……でもいまはそれじゃあどっちがどっちだか、解からなくなるじゃんか。)
ふるふると頭を振り、私はブーンさんに切り出した。
真夏の夕方なのに、教室には暖かい光が溢れんばかりに差し込んでいて、
お母さんの胎内にいるみたいに安心できる暖さがある。
(゚、゚トソン「本当は、あの無茶な願い事は私のつまらない意地だったんです。実の所、夢枕に立つぐらいでもよかった」
( ^ω^)「……意地、ですかお?」
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:32:28.11 ID:aoUaaI3Q0
- (゚、゚トソン「はい。漠然と、だけれど《この人》と私は同じになっちゃいけないんだ、と思って」
( ^ω^)「この人?」
(゚、゚トソン「――似てるなぁ、と思っちゃったんです。私と、ツンさん」
( ^ω^)「……………………どこがですかお?」
随分と長い間を置いて、ブーンさんが返答した。
それは私がまだ子供だ、ということだろうか? (いやそれはないか)
(゚、゚トソン「女の直感です、と言えば怒られますね。共鳴、と言うか。多分あの人も――」
私は一端そこで言葉を区切り、最後は言葉にならない声でいった。
『私と同じような経験をしたんじゃないでしょうか』
ブーンさんは黒板クリーナーをしげしげと見つめた姿勢のままで固まっている。
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:32:52.85 ID:aoUaaI3Q0
- (゚、゚トソン「一緒になるのが少しだけ怖くて。それと――あの人の、ツンさんの瞳が、何故か泣きそうになっていたから」
( ^ω^)「………………」
(゚、゚トソン「意地と言うよりは我が侭です。もしも、もしも私の予想が正しいのであれば、
『私がツンさんの未練を晴らそう』、と。おかしいですよね、私が晴らして貰う方なのに」
花瓶の花を弄りながら笑えば、ブーンさんは背中を向けたまま返して来てくれた。
( ^ω^)「我が侭は子供の特権ですお」
振り返ったブーンさんの顔に浮かぶ、情けなくて、でも少し誇らしげな顔つき。
彼は優しい人だ、と直感する。そして多分――彼女も。
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:33:44.25 ID:aoUaaI3Q0
- (゚、゚トソン「……ブーンさん、無理を承知でお願いします。もう一つだけ、私の我が侭を聞いていただいてもいいですか?」
教室の扉にはめ込まれた擦りガラスには、待ちわびたツインテールのシルエットと、
それより何頭身か高い――先輩の影があった。
■■■
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:35:13.54 ID:aoUaaI3Q0
- ξ#゚听)ξ「ホンッットアンタ信じらんないわ!! ああ、そう、バカ!!!??」
ツン先輩の怒声が夕日に照らされたプールサイドに響いた。
パシャパシャと水が跳ねる音と、キャッキャと黄色い女子の歓声が飛ぶ真夏のプール。
ひと時の水行を楽しむ生徒たちは、明らかに場から浮いている黒服の男女二人には驚くほど無関心である。
( ^ω^)「先輩にも譲れないものがあったように、僕も譲れませんお」
ξ#゚听)ξ「……! だからって言ってね、あのクライアントを二人きりにさせておく!?」
( ^ω^)「あの場じゃ先輩だって同意したくせに、ここでの全責任は僕ですかお」
ξ#゚听)ξ「この――! アンタも言うようになったわね、このスカポンタン!」
憤怒の表情で言いまくるツンであるが、その顔にはどことなく、安著じみた色が伺えた。
そのことがあるからこそ、ブーンもこうやって強気に出れている。
ブーンは幾許か夕暮れに染まってきた空を見上げ、
( ^ω^)「きっと、きっと大丈夫ですお」
ξ゚听)ξ「……んでそんなこと自信満々に言えるのよ、アンタは」
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:35:48.62 ID:aoUaaI3Q0
- ( ^ω^)「なんとなく、ですお」
男の直感だ、と言うと目の前の般若はさらに声を荒げるであろうことは目に見えていたので、ブーンはあえて口を閉じた。
ツンもそれきり押し黙り、二人は水の心地良さに沸く水泳部の姿をぼんやりと見めていた。
ξ゚听)ξ「きっと、大丈夫――ね」
確認するように、独言のようにツンが言った。
ブーンは力強く頷いた。
クライアントの少女――都村トソンの姿は、未だ見えない。
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- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:37:02.79 ID:aoUaaI3Q0
- 『運命、だと想いました。いまも想ってます。ずっと、ずっと想ってます』
身勝手な願いだと自覚している。
『大好きでした。貴方に逢えて、嬉しかった。
――願えるなら、貴方の口からもそんな言葉を聞きたかった』
もう届かない願いだと心得ている。
『さようなら。ありがとう。ごめんなさい』
置いてきてしまった願いだと、本当は――――
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- 54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:37:41.60 ID:aoUaaI3Q0
- 都村トソンが二人の所へ戻って来たのは、それから30分ほどたった後だった。
相変わらずの死に装束を身にまといながら左手に藁人形――身代り君を持ち、
だがしかし充実感に溢れた眼差しでこちらに歩んで来ていた。
トソンは二人が駆け寄ってくるのを見るなり、安心させるように笑いながら、
(゚、゚トソン「約束は守れました。ありがとうございます、ツンさん。ブーンさん」
『約束は守れた』
二つの意味での言葉と、感謝を述べた。
一つは二人と交わした『彼の前に姿を見せるな』ということ。
そしてもう一つは――――
(゚、゚トソン「思い残す事はいっぱいあるけど、一足先に行く事にする、ってちゃんと言えました」
トソンは泣きながら、それでも尚笑っていた。
コンクリートに響く歓声はもう無く、プールサイドには居るのは死に装束の少女と黒スーツの二人組み。
夕暮れの鮮やかな色合いはプールの水に映され、七色の光で満たされていた。
ここが此の世と彼の世の境目であることがよく解かる、とトソンは思った。
- 56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:43:30.79 ID:aoUaaI3Q0
- (゚、゚トソン「私の人生に、一片の悔いもありません」
言い切り、少女は光に包まれた。
都村トソンがその形を保てなくなるタイムリミットが2分を切ったときの出来事だった。
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( ^ω^)「先輩は――」
いつもの休憩所。
報告書の提出も終わり、あがった二人は、缶コーヒーを飲みながら一息ついていた。
ベンチに座りながら、先輩は、ともう一度弱い呼気で切り出したブーンは伺うようにツンの方を見る。
- 59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:48:39.72 ID:aoUaaI3Q0
- ( ^ω^)「この仕事を傷の舐めあいだ、って言いましたおね」
ξ゚听)ξ「ええ」
( ^ω^)「それはいまも変わってない?」
一仕事終えただけで変わるような種類の意志ではないことをブーンも薄々感づいてはいたが、
その言葉には一抹の期待が宿っていた。コーヒーを飲み干し、ツンは苦々しげな顔つきでこう返した。
ξ゚听)ξ「ここにいるのは全員あの世に未練タラタラの手負いトラよ」
もちろん私も、と。
《置いてきた》ものがあるからこそ、こうも《未練》がましく
あの世とこの世を繋ぐ仕事をやっているのだ、と。
ツンはゴミ箱へ缶を投げるとユニフォームである黒いコートを肩に掛け、
むしろそちらの方が不思議だ、というような表情で言って来た。
ξ゚听)ξ「ねえ、アンタはどうしてここにいるの?」
ブーンはその問いの答えを、すぐさま返せなかった。そもそも見つからないのでは話にならない。
適当な言葉や体のいい返答を捜すが、それさえも見つからない。
濃霧に眩まされた子羊のような絶望感でツンを見れば、彼女はすでに踵を返し、ブーンに背中を向けていた。
- 60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:52:40.66 ID:aoUaaI3Q0
- ( ^ω^)「そうか。傷の舐めあいって、そう言うことだったのかお……」
一人になった休憩所で、ブーンは独言した。
傷ついた身を癒し癒され――まるで僕らは相互依存のような関係なのだとブーンは気付いた。
( ^ω^)「それが正しいのなら……魂の救済なんて、おこがましいにも程があるお……?」
呟き声よりも力なく、ブーンは手の中にあった空き缶を取り落とした。
濃霧は晴れる素振りを見せない。
- 61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/01/07(月) 22:54:20.39 ID:aoUaaI3Q0
- NO.146*****0
氏名 都村 トソン
性別 女
享年 16
死因 交通事故による出血死
未練 告白をしたい
管轄 第三課
担当 ツンデレ (補佐 ブーン)
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