('A`)ドクオは方舟に乗るようです

7: ξ゚。゚)ξ ◆ph2O.JlUMw :2008/02/27(水) 20:49:11.90 ID:SyumsW/BO





『第十三話 追想』






8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 20:49:44.00 ID:SyumsW/BO
从 ゚∀从「おいしい……」

ハインリッヒはニダーが持ってきた朝食を美味しそうに頬張った。
ニダーはその様子を嬉しそうに眺める。

<ヽ`∀´>「………」


从 ゚∀从「…………ん?」

从 ゚∀从「な、なんだよ人の顔をじっと見て……」


<ヽ;`∀´>「あ、いや……
ここの食べ物って美味しいニダね! 村にないような物ばかりだし……それにウリの家は…」

ニダーは一瞬自分の家の話をしようかしよまいか躊躇した。自分が話していても気分が悪くなるような話を、ましてや彼女に話しても彼女は困るだけかもしれない。

そうこう考えている間に、会話に不自然な間が開いてしまった。
ハインリッヒは言葉に詰まったニダーを不思議そうな顔で見る。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 20:50:52.66 ID:SyumsW/BO
从 ゚∀从「ん? どうした?」

耐え切れなくなり彼女の方が先に口を開いた。

<ヽ;`∀´>「いや……その……」

从 ゚∀从「ま、話したくなければいいんだけどさ」


彼女はさっぱりと諦めた。
それ以上ニダーに追求するでもなく、また朝食を取り始める。そうした彼女の爽快さがニダーに話しをする勇気を与えたのだろう。


<ヽ`∀´>(この子になら……ウリの事、話しても……)

<ヽ`∀´>「ウリの家は……最悪ニダ、だから…村でさえまともなものを食べれなかったのに
ここへ来てからは随分ともてなされて夢みたいニダ」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 20:51:56.44 ID:SyumsW/BO
从 ゚∀从「……」
<ヽ`∀´>「それで、ハインリッヒにはニダーが方舟に志願した理由を聞いておいて欲しいニダ
その……これから一緒に頑張るパートナーだから……」


ニダーの家は四人家族だった。
気立てのいい優しい母親に、いつもニダーを慕って彼が何処にいくにも側についてくる弟。
ただ父親だけが悪かった。
彼の父親は仕事をクビになってからは働こうとはしなかった。代わりに母親が働いた。
しかし、父親は彼女が必死の思いで稼いだお金をすぐに酒に代えた。
優しい彼女はいつか夫がまた元に戻ると信じて健気に働いた酒を飲んでは暴力を振るう夫をそれでもいつまでも信じていた。
いつしか父親の暴力は母親だけではなく、小さかったニダーやその弟にまで及んだ。
父親が働き口を失ったのもそうした酒癖の悪さが原因であった。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 20:54:42.21 ID:SyumsW/BO
母親は子供達に謝った。父親の代わりに毎日謝った。
日々悪化する父親の傾向に、それでも母親は信じていた。いつかまた幸せだった時に戻れる日がくると。
ニダーは今思うと、母はもう幸せな時は訪れない事を信じたくなかったのかもしれない、現実を受け入れたくなかったのかもしれない、とあの時の母の顔を思い出した。

母は現実から逃げるように夫を信じ、子供に謝った。

ある日父親は人を殺した。

始まりは酒の勢いから始まった些細な口論だという。

「なあ、お前の家族は本当に可愛いそうだよ、まったく気の毒だ。
働きもしないでこんな所で酒浸りになってる奴の家族が幸せなものか。
奥さんも子供もきっとお前を恨んでいるに違いないよ」

その言葉の後に父親は酒瓶を振り上げた。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 20:56:06.87 ID:SyumsW/BO
父もまた母と同じで現実から逃げていたのだろう、とニダーは考えた。

その日事情を聞かされた母親は子供達に何を言う事もなく自室に籠った。
ニダーは弟をあやすために散歩に出た。何も知らない子供達は無邪気に虫を追いかけたり、親鳥が雛鳥に餌を届ける様子を見守った。

日も暮れる頃、家に帰ると嫌に静かだった。
その静かさは普段家に響く父親の怒鳴り声や、母親の謝る声を聞くよりもニダーを不安にさせた。
無音と言うよりは、静けさという不気味な音が鳴っているような印象を受けた。


彼は今でもはっきりと覚えてるいる。
椅子に座りながら、なんとなく窓から覗ける空を眺めていると黄昏に染まる雲が見えた。
水平に棚引く雲は何故だか彼に母親を連想させた。すると奥から母親の様子を見に行った弟の泣き声が聞こえてくる。
彼が慌てて母親の部屋に入ると彼女は天井からぶら下がっていた。丁度夕刻を知らせる教会の鐘がなった。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 20:58:30.72 ID:SyumsW/BO
ニダー達の処遇は村長達一部の人間により決められた。
だから彼等の事情を知るものは少ない。
ニダーと弟は母親の弟夫婦に引き取られた。
父親は数年たった今も地下の牢にいる。この人のあまり多くないこの村では重い罪であった。


ニダーも弟も弟夫妻にいいように思われていなかったが学校には通わせてもらえた。
だが一連の事情で卑屈になっていったニダーは、学校で皆とうまく馴染めず、孤独だった。
同じ子供達からは見下され、一部の大人からは疎まれ、それでも彼が人格を破綻させなかったのは弟の存在があったからだろう。
彼は不運な生活の中で思いやりと優しさを忘れなかった。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 21:00:04.41 ID:SyumsW/BO
ニダーは大方、自分の事情を話し終えた。


从 ゚∀从「………」


彼女はニダーの語る話を終始黙って聞いていた。

<ヽ`∀´>「だから……ウリ達はおばさんやおじさんにとっては忌み嫌われる存在ニダ
とても満足いくような食べ物は与えられなかったニダ」

<ヽ`∀´>「でもそれは仕方のない事……ただでさえ学校まで通わせてもらっているのに
贅沢な事は言えないニダ」


ニダーはハインリッヒが持っているお皿から、チキンを一つつまみ自分の口に運ぶ。


<ヽ`∀´>「ウリが家からいなくなればその分食い扶持も減って弟が少しは優遇を受けるかもしれないニダ」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 21:02:16.66 ID:SyumsW/BO
从 ゚∀从「お前……」

<ヽ`∀´>「それに方舟に乗って楽園に行けばウリは英雄扱いニダ!
皆を見返して、ウリも弟ももう誰にも文句を言われず胸を張って暮らせるニダ」


从 ∀从「………」


突然ハインリッヒがニダーから顔を背ける。

<ヽ`∀´>「どうしたニダ?」

何事かと顔を覗きこもうとするニダーを彼女は必死に制止する。

从 ∀从「な、なんでもない!!」


从 ∀从(見られてたまるか……)

彼女はそっと目を拭った。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 21:04:54.55 ID:SyumsW/BO
<ヽ`∀´>「それで……その……よかったら……」

ニダーは彼女の志願理由を予てから気になっていた。
意を決して彼女に尋ねる事にした。

从 ゚∀从「そうだな……お前はパートナーだ
これ以上迷惑をかける前に言っておかなきゃな」

ハインリッヒはニダーの目を見据えて一言と呟く。

从 ゚∀从「俺は病気なんだ……」

<ヽ;`∀´>「!!」

薄々は予感していた。
方舟についてからの彼女の様子はただの貧血や目眩といった類ではなかった。にこうして自分の目の前にいる彼女の表情は儚く見えた。

从 ゚∀从「はは、そんなに慌てなくても移りはしないから大丈夫だよ」

<ヽ;`∀´>「違うニダ……そんな心配はしていないニダ」

彼は単純に彼女が心配だった。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 21:06:52.49 ID:SyumsW/BO
从 ゚∀从「どうやら治らないらしいんだ……俺の婆ちゃんもこの病気で死んだらしい
うちの家系特有なのかもな……」

彼女は静かに語った。

从 ゚∀从「もし、方舟に乗って楽園って奴にいけばもしかしてこの病気が治せるかも……ってな」

<ヽ`∀´>「……大丈夫!きっと治るニダ」

从 ゚∀从「ふふ。ありがとうな
お前……優しいよな」

<ヽ*`∀´>「え……そ、そうニダか?」


ハインリッヒの笑顔と何気ない一言に胸がドキっとした。
それは普段から褒められる事になれてないためか、はたまた彼女の消え入りそうな儚げな笑顔を愛しく感じたからかは彼にも分からない。


从 ゚∀从「足引っ張るかもしれないけどよ
改めてよろしくな」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 21:08:20.11 ID:SyumsW/BO
<ヽ`∀´>「大丈夫ニダ!」

ニダーは力強く胸を張る。


<ヽ`∀´>「だってウリ達はもう方舟の―」


彼が言い掛けた時、部屋のスピーカーから内藤の声が響く。
突然部屋に備えられていた箱から音がなり二人は驚いた。

『ぶひひ。ニダー君、申し訳ないが最上階の管制室まで来て欲しいお』


<ヽ`∀´>「………」


从 ゚∀从「呼ばれてるみたいだな、いってこいよ
戻ってきたらまたゆっくり話でもしようぜ」


<ヽ`∀´>「わかったニダ」

ニダーは部屋を出て管制室に向かった。
期待を不安を織り交ぜながら。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/02/27(水) 21:09:20.66 ID:SyumsW/BO




『第十三話  追想』 完






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