( ^ω^)は霊探偵になったようです
- 2: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 21:49:42.90 ID:zsO/jz/g0
- 一章 「夢しかない世界」
1
朗々と、時に鬱々と歌い上げるメロディー。
耳を劈く鋭いリード。
力強く叩き出される、地響きのようなリズム。
全てがバラバラで。
俺達の奏でる音楽は、いつも不協和音にしかならない。
――――だけど。
俺にはそれが心地良く感じられた。
そこには夢しかなかったから。
- 4: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 21:52:06.88 ID:zsO/jz/g0
「ちきしょう!」
俺は苛立って、生意気な餓鬼のように叫んだ。
自分に腹が立つ。
理想を表現出来なかった喉を、引き千切りたくなる。
「はぁ……クソッ!」
溜息をと悪態を同時に吐く。
むしゃくしゃする感情を鎮めようと思った俺は、
アンプの上に置いたペットボトルを乱暴に掴み取り、水を一口飲んだ。
――――ぬるい。
真空管の熱で温まっていやがった。
俺は一層、機嫌を悪くした。
そんな風に振る舞う俺を見て、
奴らは「やれやれ」と、動じる事もなくいつものように呆れていた。
- 6: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 21:54:43.92 ID:zsO/jz/g0
- ( ・∀・)「……ふぅ」
俺は煙草を取り出し、安物のライターで火を点けた。
気を落ち着かせるにはやはり一服するに限る。
肺に入れた煙をふっと吐き出すと、それは照明に吸い寄せられるように昇っていった。
( ´∀`)「煙草の吸い過ぎは良くないモナー。もっと喉を気遣うべきだモナ」
紫煙で苛立ちを抑えようとする俺に、
先程までルート音を確認していたモナーが、お節介にも話し掛けてきた。
( ・∀・)「うっせーよ、煙草はロッカーの嗜みだろうが」
俺の声は、喉を汚す事で作ってるんだよ。
そう吐き捨てようと思ったが、面倒だったので止めた。
言ったところで何も変わる訳ではない。
それに、ただの堕落の言い訳だって事ぐらい自分でも分かっている。
- 8: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 21:57:33.62 ID:zsO/jz/g0
- ( ゚д゚ )「モナー、そいつがセッションの後愚痴るのはいつもの事だろ」
他愛もない会話をする俺達に、ミルナが噛み付いた。
ひどく汗をかいている。余程熱中していたのだろう。
その割には、やけに落ち着いている。
真面目くさった態度が気に障るが、これも俺同様いつもの事。
「こういう奴だ」と一度分かってしまえば――――それで構わないと感じるようになる。
( ゚д゚ )「お前は完璧主義者過ぎるんだよ。もっと力抜いていけ」
( ・∀・)「今更直せるかよ。
それにな、俺は完璧主義者なんかじゃねぇ。理想が高いだけだ」
( ゚д゚ )「大して変わらんと思うがな」
俺の詭弁を適当にかわして、ミルナは自分のペットボトルに口を付けた。
疲弊した俺は煙草をぐりぐりと携帯灰皿に押し付け、その場に座り込んだ。
( ´∀`)「まあ、とりあえず僕らも休憩にするモナ」
何とも言えない空気の中で、呑気にモナーは一人体を伸ばす。
俺はその様子を見て乾いた笑いを零した。
こいつのマイペースさが鬱陶しくもあり――――羨ましくもあった。
- 10: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:00:46.03 ID:zsO/jz/g0
- (・∀ ・)「……ん? 休憩なの?」
ボケっとしていたまたんきが、思い出したように口を開いた。
肩から不釣り合いなほど洒落たルックスのギターをぶら提げたままに。
(・∀ ・)「俺、あんまりよく話聞いてなかったからさー。
今から休憩?」
( ´∀`)「そうモナ。どうせこの調子じゃ練習もジャムも無理モナ」
(・∀ ・)「言うのが遅ぇよバーカ。ずっと次の曲の待機してたぜ」
相変わらず口が悪い。
その上、使用する言葉も幼稚でいやがる。
俺が生意気な餓鬼なら、こいつは呆けた餓鬼みたいなもんだ。
ペーパーナイフ一つで殺してしまえそうな、無防備で油断し切った態度。
いつか足元を掬われるタイプだな、こいつは。
俺は相手をする事すら億劫に思えて、
聞いていないフリをして中途半端な温度の水をまた一口飲んだ。
- 11: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:03:31.55 ID:zsO/jz/g0
- (・∀ ・)「アンプの電源どうすんの?
あんまりほったらかしにしとくとブギーちゃんに悪いぜ」
( ゚д゚ )「スタンバイだけ落としておけばいいだろ」
(・∀ ・)「……って事は休憩ちょっとだけかよ! 流石に疲れるぜそりゃ。
もう既に三時間はスタジオにいるんだぜ?」
またんきがぶつくさと文句を垂れる。
( ´∀`)「どうせモララーの事だから、すぐに再開するつもりモナ。
――――そうモナ?」
( ・∀・)「ん、ああ、そうだな」
不意に話を振られ、迂闊にも俺は言葉に詰まりそうになる。
その結果、特に考えもせず腑抜けた返事をしてしまった。
床に置いたマイクには俺が吐き散らした唾が付着している。
熱唱の証なのだが、やはり汚い。
俺は嫌になった。
それが俺を表しているかのように思えたからだ。
- 12: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:06:05.17 ID:zsO/jz/g0
- (・∀ ・)「――――そう言えばよー、次のライブどうすんの?」
一息つき、まどろんだ空気が俺達を包む中。
またんきが突然切り出した。
(・∀ ・)「セットリストとか、そろそろ決めた方がよくね?」
( ・∀・)「んなもん、バンマスにでも聞けよ。俺は知らねぇ」
( ゚д゚ )「おいおい、こんな時だけ俺頼みか?」
やる気無く答える俺に対して、ミルナが嫌みっぽく口を開いた。
実際に悪気が込められている訳じゃない事は重々分かっている。
こいつはこういう奴だ。
だから俺は気にするでもなく、今度は造作無く答えた。
( ・∀・)「何だよ、いつもは決めてくれてるじゃねーか」
( ゚д゚ )「とは言え、実質的にバンドを主導しているのはお前だろう。
偶には自分で決めて見るのもいいんじゃないか。
……まあいい。今週中にリストを作っておくから、ちゃんと歌詞覚えておけよ」
文句を言いながらも、ミルナは最終的には受け入れた。
その一部始終をモナーはただ笑いながら傍観しているだけだった。
- 14: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:08:51.97 ID:zsO/jz/g0
- 俺はまた一本、煙草を取り出した。
箱の中を見ると、もう二本しか残されていない。
俺はそれをぐしゃりと握り潰してポケットに突っ込んだ。
(・∀ ・)「あー、前リハの時の機材持ち込みはどうすんの?
本番は全部自前で調達するんだろうけど」
( ゚д゚ )「出来れば前日から運び込んで置きたいところなんだけどな。
しかし、最近盗難が流行ってるからな……。
面倒だが、リハの時は備え付けのアンプとドラムセットを使えばいいだろ」
( ´∀`)「この頃特に多いモナ。この前も起きたみたいだモナ」
( ゚д゚ )「どうせ目的はネットオークションか何かで売り飛ばすためだろうよ」
( ・∀・)「マジかよ、物騒な世の中だな」
心からそう思った。
俺はただ自分達の音楽を楽しみたいだけだ。
そこに障害なんかあってはならない。あって欲しくない。
- 15: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:12:26.55 ID:zsO/jz/g0
- ( ´∀`)「じゃあ、機材は当日箱入りと同時に運搬する方向で決定モナ?」
( ゚д゚ )「そう言う事だ。全員把握しておけよ」
ミルナが俺達を見回しながら指示する。
こいつの実直過ぎる目――――これだけは、いつまでたっても慣れる事が出来ない。
( ・∀・)「了解、っと」
( ゚д゚ )「お前は関係ないだろ、いつものように手ぶらで来い」
( ・∀・)「うっせー、ノリだよノリ。この堅物め」
(・∀ ・)「ぶひゃひゃwwwwwwwやっぱ面白いなお前らwwwwwwwww」
俺達の噛み合わない会話を聞いて、またんきが狂ったように笑った。
うるせぇ、別に面白くなんてねぇよ。
煙を吸い込み、いつものペースで吐き出す。
変わらない自分特有の間。
歳をとれば、はたまた俺の境遇が変われば変化する事があるだろうか。
俺が変われば、俺以外の何かも変わるのだろうか。
柄にも無くそんな事を考えて、「知ったこっちゃねぇ」と心の中で吐き捨てた。
- 16: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:14:24.16 ID:zsO/jz/g0
- 俺は現状には満足していない。
このバンドを結成してから特に大きな進歩は見られないでいる。
自主制作のアルバムを出しはしたが、
当然のように1000枚、それどころかその半分もいかなかった。
――――とは言え、売れるってのはどういう事なのか。
「ミリオンセラー」
「武道館でライブ」
「全米デビュー」
どれも俺達には有り得ない。
あまりにも遠い夢想話だ。そのぐらい分かっている。
ただ少しでも、上に行きたい。
- 17: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:16:56.83 ID:zsO/jz/g0
- ( ・∀・)「あー、でかい箱でやりてぇなー」
欠伸混じりに不満を漏らした。
考えている事が声になってしまっている事に気付かず。
(・∀ ・)「何だお前、とうとう頭イッちまったのか?」
( ・∀・)「正常だ、バカ。ただ愚痴ってみただけだっつーの」
照れ隠しに―――全く隠せていないが―――再び悪態を吐いた。
そんな俺のくだらない妄想じみた願望を耳にして、気の抜けた声でモナーが口を挟んだ。
( ´∀`)「流石にそれは厳しいモナー。僕達のレベルじゃ絶対無理モナ」
( ・∀・)「でもよ、やっぱあの箱じゃ物足りねぇよ。
駅からの道の街灯も壊れてやがるし。暗いったらありゃしねぇ」
(;´∀`)「それは別に関係ないモナ」
( ・∀・)「だけどよ、こう、ぐにぃってひん曲がってるんだぜ?
……そういや飲み屋の立て看板もいくつか壊れてたな。
どうせタチの悪い酔っ払いのせいだろうけどよ」
ぶつくさ言いながら身振り手振りで説明する俺の話に、ただモナーは苦笑していた。
またんきは爆笑していやがった。うぜぇ、と心底思った。
- 18: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:19:47.37 ID:zsO/jz/g0
- ( ゚д゚ )「だがな、この辺りの治安を考えれば普通の事だろう」
話の途中でミルナが割り込んできた。
「またお前か」と、口に出してしまいそうになる。
( ・∀・)「そういうもんかねぇ」
( ゚д゚ )「そういうもんだ。
それにな、俺達の町はまだ恵まれてる方だろ。
そこそこのスタジオとライブハウスがある。それだけで十分じゃないか」
( ・∀・)「まっ、そうなんだけどよ」
確かにその通りだ。
分かっている。分かっているつもりだ。
だが――――やはり、俺は満足出来なかった。
呑気なモナー、阿呆なまたんき、お堅いミルナ。
全員が俺とは違う。俺の考え方だって、俺だけのモノだ。
- 19: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:22:31.64 ID:zsO/jz/g0
- ふと、喉に痛みを覚えた。
ちょっと酷使し過ぎたか――――軽くさすり、咳払いをする。
( ´∀`)「どうかしたモナ?」
そんな俺を見て、モナーがいつものような、柔和な口調で気配りをした。
ありがたい、と素直に思った。
( ・∀・)「……ん、ちょいとばかし違和感を感じてな」
( ´∀`)「分かってるモナ? 何が原因だとか、心当たりがあるとか」
相も変わらず、こちらが逆に遠慮してしまうほどこいつはお人好しだ。
そして、それが自分に欠けているモノ。
俺は強がる事しか出来なかった。
( ・∀・)「知るかよ、そんなもん」
(・∀ ・)「何でぇ、お前も知らないんじゃねーか」
( ・∀・)「仕方ないじゃねぇかよ――――」
- 20: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:25:23.73 ID:zsO/jz/g0
- 神様じゃあるまいし。
そこまで言いかけて、俺は口を閉じた。
馬鹿げた事だと悟ったから。
痛みの原因は知らない。
敢えて挙げるならば、ここ最近無理やり捻り出すように歌っていた事ぐらいか。
それさえも、確証はない。
――――ただ。
知らないんだから、どうしようもないだろうが。
自分にとって重要な事以外は知る必要がない。
本当に大事なモノは、少なければ少ないほど磨き上げられる。
俺にとってそれは――――音楽なんだ。
- 22: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:28:10.72 ID:zsO/jz/g0
- ( ・∀・)「――――よっと!」
気合を入れながら立ち上がり、軽くストレッチをした。
パンパンに張った筋を伸ばす。
やや痛い。
ただ、それは嫌ではない痛み。むしろ気持ちいいとさえ感じるぐらいだ。
こうやってダベっていても何も変わりやしない。
変わっていくのは外の世界だけ。
それは自然現象と同じだ。世界が一ヶ所に留まる事など、ある筈がない。
転がっているマイクを拾う。
ガシガシと、乱暴にそれをシャツで拭いた。
電源が入っていたならば、間違いなくノイズになっていただろう。
俺は残りの水を一気に飲み干し、三人に呼び掛けた。
( ・∀・)「十分後、セッション再開するぞ。
きっちり準備しておけよ、機材と心のな」
- 23: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:30:42.58 ID:zsO/jz/g0
スタジオからの帰り。
明かりの乏しい夜道は、ますます俺を不安にさせる。
( ・∀・)「――――ちきしょう!」
俺は路上の空き缶を思い切り蹴っ飛ばした。
今日のスタジオ練習で、一度たりとも納得のいく歌が歌えなかった。
その事を思い出すだけで腸が煮え繰り返る。
( ・∀・)(不甲斐ねぇな……)
人知れず自責の念に駆られ、声にせずにぼやく。
もっとも、これは毎度の事だ。
俺が心の底から満足した事など、これまでにあっただろうか。
――――答えは「No」だ。
何故なら、俺の考える「理想」すら、明確に思い描けていないのだから。
- 24: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:33:30.66 ID:zsO/jz/g0
- とは言え、今日は特別ムカついていた。
( ・∀・)「街灯ぐらい修繕しておけよ、無能な公務員め」
殆ど闇に近い道路を見て、俺は八当たりするかのように無駄な愚痴を零す。
実際にそこを歩いてみれば猶の事暗い。
不吉だ。
俺の進む道は、お先真っ暗って事か。
( ・∀・)「……くだらねぇな」
くすんだ星空を見上げながら、小声で独り言ちた。
光なんかどこにでもある。それに気付いていないだけだ。
俺にだって隠されている筈だ。
――――まあ、単に自己の正当化と言ってしまえばそれまでだが。
( ・∀・)「あー! やっぱ暗ぇよ馬鹿野郎!」
勢いよく蹴飛ばした空き缶は、
驚くほど綺麗な放物線を描いて、遠く離れた地点で音を鳴らした。
- 26: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:37:22.47 ID:zsO/jz/g0
- くだらない事を言いながらも、俺は気付けば駅近くの高架下の辺りまで辿り着いていた。
ここを潜れば駅に――――通い慣れた場所に到着する。
そこまで行けば「俺は解放された」と感じられる。
或いは、「一日が終わった」と感じているのかもしれない。
駅は俺に安心を与えてくれる。
例えるとしたら、家に帰った時のような。
そして、俺はいつしかこの高架下に着いただけでそう考えるようになった。
ここに来ればもう帰宅したも同然だと。
そう思うようになってしまった。
そんな風に考え始めたのはいつからだろうか。
今年に入ってからだと思うが、詳しい事はとっくに忘れている。
――――それも、大切なモノではないと判断したからだ。
- 28: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:41:01.15 ID:zsO/jz/g0
- しがらみの無い、本当の意味での自由な世界。
疲れ切った顔をして、下品な落書きだらけの高架下を通り過ぎる。
その時点で、俺は「ただいま」とうっかり言いそうになるほど、
もう自宅に到着したかのように錯覚した。
あらゆるストレスから解き放たれる。
代わりに、充実感だけが俺を包む。
素晴らしき安息を与えてくれる。
この瞬間だけ、楽になれる。
そして俺は――――俺だけの世界を彷徨った。
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