( ^ω^)は霊探偵になったようです

29: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:43:41.50 ID:zsO/jz/g0




生きてきた中で、最も早い一ヶ月が過ぎていった。


この事務所で働き出してからそれだけの時間が経過した。
瞳に映り込んでくるのは、ストリートとは違う風景。
最初の一週間は違和感を覚えっ放しだった事を覚えている。

環境の変化と共に、自分自身も変わっていった。

それは心情だけじゃない。
「まずは身なりからだな」と、服装や髪型まで改善させられた。
その後は識字能力の向上。
続いて、ある程度の知識の蓄積。
教えられるままに、何も知らない幼児のような空っぽの頭に詰め込まれた。


何だかんだでこの生活にも順応してきている。
――――かと言って、充足していた訳じゃなかった。



30: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:46:32.67 ID:zsO/jz/g0
(#^ω^)「つまんNEEEEEEEEEE!!!!!」


握り締めていたペンを机の上に放り出し、僕は思わず大声を上げた。
積もり積もった不平不満を、叫びに乗せて爆発させた。
周囲からは発狂でもしたかのように見えただろう。
事実、ショボンはそんな具合に僕を見てキョトンとした顔を作った。

(´・ω・`)「何だ、騒々しい。腹でも減ったのか?」

大人が子供を軽くあしらうような口調。
そして、特に気にするでもなくデスク上の書類に目を戻した。

僕は詰め寄った。
椅子に座ったまま、部屋中に響き渡る声だけで。

(#^ω^)「おま、話と違うお! 霊に関する依頼なんて全然来ないお!」

(´・ω・`)「何を言う。『普通の依頼も受け付けている』と説明しただろうが」

(#^ω^)「まさかそれが大半だなんて思うかお!」



31: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:50:47.89 ID:zsO/jz/g0
自分のデスクに目を遣ると、そこにあるのは、
迷子のペットに関する調査書と、それに寄せられた情報を書き留めたメモの山。
整理の途中で投げ出した紙が散乱している。

嫌気が差した僕は脱力して椅子にもたれ込んだ。


これまでにあった依頼と言えば、
迷い犬の捜索だの、浮気調査だの、そんなありふれた物ばかり。

僕は退屈していた。
強引にスカウトされたけれど、当初は少なからず胸躍らせていた部分もあったのも事実。

――――が、それも無駄骨だった。
現実は所詮こんなもの。
ストリートでの生活以上に刺激に欠けた、平凡な日常の連続。
ショボン曰く、「生活のため」そう言った依頼も受け付けているらしいが。

これだったら、僕じゃなくてもよかったんじゃないのか。
時折そんな事を思い浮かべてしまう。


(;^ω^)(騙されたような気がするお……)

決して口にはしないで、僕はより深く背もたれに寄り掛かった。



32: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:53:28.65 ID:zsO/jz/g0
低くなった視点から積み上げられた書類を見る。
――――ああ、これ目を通してたっけ。
見れば見るほど、どうしようもない倦怠感が漂う。

よく冷えた麦茶に手を伸ばした。
ごくり、と喉を鳴らす度にますますダルくなってしまう。
恐らくは、自分の中で区切りを作っているかのように感じてしまうからだろう。

はぁ、と溜息を吐いて、僕は外の景色を眺めた。
四階から見る街の様子は以前ほど新鮮ではなくなっている。
僕の見方が違ってきたからだろうか。
そんな事、判断材料が無いのだから分かる訳がない。


(´・ω・`)「おい、寝たりなんかするなよ。一応勤務中なんだからな。
     捜索に行っている奴と比べれば情報の整理ぐらい簡単なものだろう」

( ^ω^)「へいへい、分かってますおー」

ショボンの注意に気の抜けた返事をし――――。


そして、ドアが開かれる音を聴いた。



34: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:56:44.50 ID:zsO/jz/g0
( ゚∀゚)「たっだいまー、ワンちゃん見つけてきたッスよー」

玄関先に立っていたのは――――ジョルジュ長岡、僕の先輩所員だ。
その鮮やかな金髪に嫌でも目を引き付けられる。
「惹かれる」ではなく、「引かれる」。そう表現するのが相応しい。
歳は確か――――そう、二十歳を過ぎたばかりだったと思う。

( ゚∀゚)「いやー、しかしこのワンちゃん可愛いッスね。
     こういうのって、血統書付き、とか言うんスかね?」

両腕に、今まさに僕が調査を進めていた子犬を抱きかかえている。
犬の種類は「ヨークシャーテリア」とか言ったっけ。
青い首輪をはめたそれは少しも暴れたりせず、かなり懐いているように見えた。

(´・ω・`)「ご苦労だったな、ブーンももうその作業上がっていいぞ」

( ^ω^)「おっ? このメモとかはどうすんだお?」

(´・ω・`)「そんなもん捨てちまえ。今やただの紙屑だ」

そう言うと、先程まで集まった情報等を細かく書き込んでいた紙を手にし、
ショボンは躊躇なく、くしゃり、と丸めた。



35: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 22:59:25.31 ID:zsO/jz/g0
( ゚∀゚)b「うひゃひゃwwwwwwwwwwwww
     まっ、そういう訳だ。良かったじゃん、面倒事が省けてよ!」

(#^ω^)(ムッ――――)

嘲り笑うようにジョルジュが僕に声を掛ける。
こっちはこっちで一生懸命やっていた。
労いの言葉の一つぐらい掛けてくれてもいいじゃないか。無神経な。
この男のこういう所が、僕は好きになれなかった。

書類を一枚手に取る。
雑な字で埋め尽くされたそれを、感情に任せてビリリと破いた。

( ゚∀゚)「んっ? どうかしたか?」

( ^ω^)「いんや、別に」

( ゚∀゚)「そかそか。
    いやー、それにしても俺の仕事の速さたるや、我ながら惚れぼれするね」

子犬をケージに入れつつ、ジョルジュがいつものように自画自賛を始める。
もう慣れっこだ。
この光景を目の当たりにする度に、「ナルシストなんじゃないか」と考えさせられた。
それも何度もだ。気が滅入りそうになる。



36: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:02:13.42 ID:zsO/jz/g0
( ゚∀゚)「俺のおかげだぜ、そんな面倒くさい仕事が終わったのも」

矛先が僕にまで向いてくる。いかにも恩着せがましい言い方。
何となく、口答えしてみたくなった。

( ^ω^)「そんな事、僕でも余裕で出来るお」

( ゚∀゚)「うはwwwwww無理無理wwwwwwwwww
    俺はさ、全人類の中でも飛び切り有能な方なの。分かる?」

おどけるピエロのように、
はたまた囚人を罵る看守のように、ジョルジュが振る舞う。
首から提げたシルバーのアクセサリーが光を反射しながら揺れている。

(#^ω^)「……腹立つお」

僕はあからさまに嫌な顔をした。
それが癪だったのか、ジョルジュの表情からふっと笑みが消えた。

――――面白い、丁度退屈していたところだ。

僕だって久しぶりに頭に来ている。



37: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:04:51.18 ID:zsO/jz/g0
カチリ。

ショボンに貰った腕時計の針が刻まれる。
一秒にも満たないその瞬間に、僕達は互いを牽制し合った。


いや、「着火寸前になった」が正しい。


( ゚∀゚)「随分生意気な口を聞くじゃねぇか、ご立派な事で」

( ゚ω゚)「うざいお……僕を怒らせるとは、そっちこそ相当なもんだお」

( ゚∀゚)「上等――――」

僕は伸び切らない爪を。
ジョルジュは手元にあったボールペンを。
お互いの首筋に、今にも切り裂いてしまいそうな勢いで当てている。

少しでも力を加えれば、頸動脈から生温かい鮮血が盛大に噴き出すだろう。
そして、それは自分も同じ。

時間を忘れて睨み合う。
交錯する視線。
――――着火点はどこだ。どこにある。



39: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:07:08.44 ID:zsO/jz/g0
(´・ω・`)「はーい、二人ともそこまで」

ぱんぱん、とショボンが手を叩き僕達を制した。
その単調な音を聴き、僕は我に返ってゆっくりと爪を下ろした。


(´・ω・`)「喧嘩はやめておけ。ましてここは室内だ、鬱陶しくてたまらん」

( ゚∀゚)「いや、喧嘩なんかしてないッスよ? 俺らこんなに仲良いですもん」

( ^ω^)「そうだお、僕とジョルジュは熱い友情で結ばれてるお」

二人肩を組み、引き攣った笑顔を作る。
――――痛い。凄く痛い。
肉が千切れるような感覚が伝わってくる。
ジョルジュが僕の肩を思い切り掴んでいるからだ。

まあ、それは僕も同じなのだけど。



40: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:09:49.43 ID:zsO/jz/g0
(´・ω・`)「本当か、それ」

(#゚∀゚)「本当……ッス、よ」

(#^ω^)「間違い……ないお……」

無理をして声を絞り出した。
ギリリと軋む音さえ聴こえてきそうなほど力を込めて握り締める。
引くに引けない、限界の境界線上で鬩ぎ合う。


(;゚∀゚)「ぐぐ……」

(;^ω^)「うぎぎ……」


駄目だ、我慢できない。
これ、捩じ切れるんじゃないのか――――。

(;^ω^)(いてええええええ! 早くやめるお……!)

こちらから中断する事は出来ない。それがプライドってやつだ。
ただ、都合の悪い事にジョルジュも同じ考えなので、心が折れそうになる。
いい加減もうやめたいのに。



42: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:12:58.66 ID:zsO/jz/g0
(´・ω・`)「……ふぅ」

ショボンが浅い溜息を吐く。
そして机上の琥珀色をした液体に手を伸ばし、湯気が立ち上るそれに口を付けた。

(´・ω・`)「……苦いな、ミルクぐらい入れておけば良かった。
     そのぐらいならブラック派の神様も見逃してくれるだろうしな」

気だるそうに感想を述べる。
よっぽど呆れたのか、ショボンは僕とジョルジュの意地の張り合いを完全に無視し出した。
――――賢明な判断のように思えた。

その間にも痛みは続いている。
どこか虚しくなった僕達は、どちらともなく手を離した。


(´・ω・`)「ドクオを見習え、ドクオを」

ようやく終了した無駄過ぎる抗争を見て、最後にそう言い放った。
名を呼ばれた男のデスクに目を移す。
こちらの騒ぎを気に掛けるでもなく、いつも通りパソコンをカタカタと弄っていた。



43: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:16:30.06 ID:zsO/jz/g0
('A`)「んあ、何だ? 呼んだか?」

パソコンのディスプレイから目を離し、
静脈血のように澱んだ赤黒い髪を掻き上げ、陰気臭い顔を覗かせた。
今日初めて声を聞いたような気がする。


内海ドクオ。

年齢はショボンと同じぐらいだっただろうか。
性格は――――良く言えば自分の世界を持っている。
悪く言えば、どんな物にも興味が無さそうな無愛想で覇気の無い人間。
もっとも、自意識過剰でない分ジョルジュよりはずっと好感が持てる。


('A`)「俺、次のクライアントからの依頼を調査してたんだけど……何かあったのか?」

おいおい、全く聞いてなかったのか。

(´・ω・`)「いや、何でもないさ。作業に戻ってくれ」

('A`)「あいよ」

ドクオはただの一言だけ無気力に返事をして、再び電子画面に両目を集中させた。
僕とジョルジュは自らを顧みて、自分の子供っぽさに恥ずかしくなってしまった。



45: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:19:16.98 ID:zsO/jz/g0
(´・ω・`)「……と言う訳で、お前らもさっさと次の仕事に移行しろよ」

最後にそう言い残して、ショボンは椅子に腰掛けテキパキと別の書類の確認を始めた。
その時、電話が鳴った。
ショボンが受話器を取り、懇切丁寧な口調で応対する。
どうせまた浮気調査の依頼かセールスに違いない。
せめて訪ね人の捜索等ならまだやる気が湧いてくるのだが、流石にそれは無いだろう。


( ゚∀゚)「反省しとけよ」

( ^ω^)「ジョルジュにだけは言われたくないお……」

( ゚∀゚)「……まっ、今回は痛み分けだな……」

どっと疲労感が押し寄せ、二人してその場にへたり込み、天井を見上げ呟く。
そしてまた退屈な時間が訪れた。


――――ほんの数分だけ。


(´・ω・`)「良かったな、興味深い依頼が来たぞ」



47: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:22:42.65 ID:zsO/jz/g0
がちゃりと受話器を置くよりも早く、ショボンが声を掛けてきた。
僕とジョルジュ、そしてドクオが立ち上がり、所長のデスクの周囲に集合する。

(´・ω・`)「役所からの依頼だ。用件はとある事件の調査と解決。
     ……器物破損が相次いで発生しているらしい。場所はここだ」

簡易メモを読み上げながら机の上に広げた地図の一ヶ所を指差す。
ここから少々離れた所にある町。
僕はその一点を凝視した。

( ゚∀゚)「それってマジに霊が関与してるんスかね?
    物が壊れてるだとか、そのぐらいだったら珍しくなさそうッスけど」

一番にジョルジュが口を開いた。
こういう時、常にこの男が話を展開させようとする。
それが長所でもあり、強過ぎる自己主張の表れなんだろうと思う。

( ^ω^)「確かにその通りだお。普通にありそうな事じゃないかお?」

ただ共感できる部分があったので、僕もそれに乗りかかった。
ドクオは腕組みをして黙って考え込んでいる。



48: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:25:54.11 ID:zsO/jz/g0
(´・ω・`)「いや、少々不自然な点があってな」

そう言って、メモを僕達に見せた。

電話で聞き取りながら書かれた物なので、字はかろうじて読める程度。
ところどころ誤字をインクで塗り潰した跡が見える。
その上、書かれてある事も瞬きを何度もしてしまいそうな程とっ散らかっている。
何で箇条書きにするとかしなかったのだろうか――――。

正直言って、見辛い。
言葉にしたら殴られそうなので、必死で読み取ろうとしたが。


(´・ω・`)「いくつか例外はあるが、基本的に目撃された時間に規則性がある。
     更に、だ。目撃されているのに足が掴めていない……どういう事だか分かるか?」

語尾を強め、僕達全員を試すように質問する。


('A`)「短時間で実行されている……って事か」

(´・ω・`)「――――そうだ」



49: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:29:06.32 ID:zsO/jz/g0
(´・ω・`)「話を聞く限り、短時間でこなせるような度合ではなさそうだ……。
     詳しくはこれから現場での捜査も含め、調査を進めていこうと思う」

ショボンは地図をしまい、すっかり冷めてしまったコーヒーを飲んだ。
やはり苦いのか、顔をしかめて一気に空にした。
トン、とカップを置く音が響く。


――――ようやく、か。

若干、緊張にも似た興奮が体の中を駆け巡る。
詳細は未だ分かっていない。
聞かされた話は欠片程度でしかなく、漠然とし過ぎている。
もし本当に霊が関わっている場合、僕は何をすべきなのだろうか。
そんな事をとりとめもなく思い浮かべていた。


転換。

今まさにそれが起きている。
ドクオは早速パソコンに何やら入力を始め、
ショボンは上着に袖を通し、車のキー片手に事務所を出ていった。



50: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:32:45.85 ID:AUwEMiik0
黄色がかった光がブラインドの隙間から差し込んでくる。

今現在、特にする事もなく手持無沙汰な僕とジョルジュは、
応接用の椅子に向かい合って座り、先程聞いた話の内容を語り合った。

( ゚∀゚)「しかし、本当に霊の憑いた人間の仕業なのかねぇ」

( ^ω^)「どちらにせよ僕にとっては初めての特殊な依頼だお。ドキドキするお。
      むぅ、もしも霊絡みの事件だったら色々と厄介事も多そうだお」

( ゚∀゚)「……問題は、それがエボニーかアイボリーかだな」

――――何だそれ。
僕は聞き慣れない、いや、聞いた事も無い言葉に首を傾げる。

( ^ω^)「何だお、その『えぼにー』とか『あいぼりー』とか言うのは」

( ゚∀゚)「お前さ、ピアノ分かる?」

( ^ω^)「全く分かんないお」

( ゚∀゚)「あー、じゃあ理解出来ないだろうな。
    まっ、そのうち分かるだろうから気にしないでいいぞ」

おちゃらけてくるくるとペンを回す金髪男に、僕の疑問ははぐらかされた。



51: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/11(火) 23:35:41.57 ID:AUwEMiik0
カチリ、カチリ。

時計の秒針が変わらぬペースで時を刻む。
今が何時かを、報せてくれる。

だけども、時計は今何が起こっているかは教えてはくれない。
教えてくれるのは共通の事実だけ。

僕は自分のデスクに戻り、メモ帳と銀の名刺入れを引き出しから取り出した。
確認する。間違いなく、この手にそれはある。
その二つの品をハンガーに掛けた上着のポケットに突っ込み、
いついかなる時でも調査に出られるよう準備をした。

( ゚∀゚)「んー? 何で今そんな事やってんの、お前?」

( ^ω^)「準備は、出来るうちにやっておいた方がいいんだお」


次に何が起こるかは、予知できないから。



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