( ^ω^)は霊探偵になったようです
- 3: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:12:19.21 ID:4OV3KPHD0
- 4
――――ハァ、ハァ。
がちがちがちがちがちがち。
震えが止まらない。
呼吸困難に陥りそうなほどの、動悸。
モナー達と別れた後、俺は徒歩で駅に向かっていた。
いつもの道を、いつもの交差点を、いつもの高架下を、いつものように歩いていた。
そこまでは、覚えている。
じゃあ何で。
俺は今、公園にいて。
足元に、死体が転がっているんだよ。
- 4: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:14:10.56 ID:4OV3KPHD0
- 気が付いたら俺はここにいた。
駅に続く道を歩いていた筈なのに、何故かその間の記憶が消し飛んでいる。
(;・∀・)「ふぅ……! ふぅ……!」
短い息が漏れる。
全身の毛穴から、絞り出されるように汗が噴き出してくる。
人だったモノを見下ろした。
がっしりした体付きからして、恐らくは男だろう。
砕けて原型を留めていない頭蓋からは、血に混じって脳漿がぶち撒けられている。
公園の乾いた土が、死体から流れ出る多様な体液で湿り気を帯びている。
臭い。生臭い。
体自身が拒絶するような、そんな異臭が漂ってくる。
ぐちゃりと潰れた肉片の周りには、小蝿が飛び交い、幾匹もの蟻がたかっていた。
これは、何だ。
どういう事なんだ。本当に現実なのか。
目の前の光景を直視できない。
こんな不気味な物を見続けられる人間がいたとしたら、そいつは間違いなく狂っている。
何なんだ、一体どうして、俺の前に死体があるんだ。
これは――――俺がやったのか?
- 6: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:17:04.30 ID:4OV3KPHD0
- (;・∀・)「違う!!」
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う。
俺は何度も否定した。
口に出して、頭の中で唱えて。俺は必死で否定し続けた。
(;・∀・)(やっていない、俺はやっていない!)
そうだろう、これだけの事をやったとしたら、嫌でも覚えている筈だ。
その記憶が無いんだ。
絶対に、俺は殺人なんか犯していない。
記憶を辿る。
夜道を歩く俺の姿が、脳内のスクリーンに映し出された。
そう――――そう、ここまでは合っている。
仄暗いT字路を曲がり、高架下の辺りまで来たところまでは、間違いなく合っている。
脳も覚えているし、体も覚えている。
(;・∀・)(けど――――)
その先の記憶が、やはり途切れている。
理由は分からない。だが、そこからのシーンはどうしても上映されなかった。
空白の時間に、俺は何をしていたのか。
- 9: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:20:21.47 ID:4OV3KPHD0
- 考えれば考えるほど、可能性について意識してしまうようになる。
こんなに都合良く、記憶が飛んでいるなんて事があるのか。
その意識が無い間に、もしかしたら俺はとんでもない事をしてしまったのではないか。
違う。そんな事――――する筈が無い。
俺が見知らぬ人なんか殺して、何のメリットがあるって言うんだ。
理由が存在していないんだから、やる意味だって存在しないだろう。
だけど、証拠が無い。
(;・∀・)「ふぅ、ふぅ、ふぅふぅ、ふぅふぅふぅふぅ」
息が早くなる。過呼吸になって、まともに酸素を取り込めていない。
ただでさえショックで掻き乱されているのに、余計に頭がくらくらする。
腹が痛い。体が重い。背筋に流れる汗は、ぞっとするほど冷たい。
「死」を、まざまざと突きつけられている。
この状況で平静を保っていられる人間がいるのならば、是非教えてくれ。
現実から逃げようと、何か違う風景を見ようとした。
深い黒を湛えた夜空を見上げると、中途半端に欠けた青白い月が輝いていた。
特別綺麗とは思わないが、今は何を見てもマシに思える。
だが――――結局は、グロテスクな亡骸に目を戻してしまう。
- 10: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:22:28.92 ID:4OV3KPHD0
- 死体はまだ腐敗していない。
恐らく、ついさっき死亡したばかりだ。
頭部らしき部位を見る限り、何かで後頭部を殴られて殺されたのだろう。
数秒見た後で、はっとしてすぐに目を逸らす。
なるべくなら、見たくない。だけど、どうしても見えてしまう。
(;・∀・)「ふぅふゥふゥふぅフゥふぅフぅふぅふゥ、ぐほ、ゲほォッ!」
気持ち悪い。何もかもが、気持ち悪い。
この人間を殺したのが、もし自分だったとしたら。
考えたくもない。そんな事をしたら、確実に発狂しておかしくなってしまう。
やったのか、やっていないのか。
やっていないと信じたいが、如何せん記憶が重要な部分に限って欠落している。
断言したいのに、それが出来ない。
辿り着けない、真実。
――――分からない。
分からない、分からない、分からない。
分からないんだ――――俺は神様じゃないんだから。
- 11: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:24:24.93 ID:4OV3KPHD0
- もしかしたら、夢かもしれない。
一縷の望みを託して、頬をつねってみる。
――――はっきりとした、痛覚。
残酷なまでに、それが感覚神経を通じて、無秩序に陥っている脳へと伝わってきた。
痛みと同時に、受け入れ難い事実も伝わった。
これは、紛れもない現実であると。
どうしてだ。
俺が何をしたって言うんだ。
俺はただ、自分の好きなように生きていただけなのに。
夢だけを追いかけて、生きたかっただけなのに。
その真っ白な世界の中に、何でこんな、おぞましい場面が挿入されているんだ。
モナーがいて、ミルナがいて、またんきがいて。
衝突と和解を繰り返しながら、一つの光を追いかけ続けた日々。
決して満足はしていなかったけれど――――確かにそれは、楽しかったんだ。
でも今あるのは。
死体と、それを見つめる俺の二つだけ。
――――これが、俺の望んだ世界なのか?
- 13: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:26:20.91 ID:4OV3KPHD0
- (;・∀・)「ウッ――――」
耐えかねて、俺は戻してしまった。
吐いても吐いても、まだ吐き気は治まらない。
胃の中の物が無くなると、代わりに、胃液だけが食道から逆流してきた。
嘔吐物で地面が汚されていく。
血に濡れた地面よりも、更に悪臭を放っていた。
吐き続けて、終いには吐血までしそうになってしまった。
頭が痛い。空っぽになった胃が、焼けるように熱い。
ひりひりとした喉の痛みがぶり返してくる。
いや、痛いんじゃない――――渇いているんだ。
身体が何かを、俺の知らない何かを、本能的に欲している。
俺はもがき苦しんだ。
灼熱が全身を駆け巡る。それとは対照的に、氷のような冷気が脊髄の中を流れている。
呻くような声が、自然と半開きの口から漏れる。
そして下を見れば、そこにあるのは圧倒的な質量を伴った死。
- 14: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:27:46.49 ID:4OV3KPHD0
助けてくれ――――!
誰か、俺を救ってくれ――――!
(;・∀・)「う、うああああああああああああああああああああああ!!!!」
- 15: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:29:59.71 ID:4OV3KPHD0
- (; ∀ )「あああああああああああああああああ!!!
うあ、ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!」
破裂寸前の頭を抱えて、狩り立てられた獲物のように叫び声を上げた。
止んだのは、それから暫く経ってからの事。
俺はその間、喉が裂けそうになるまで叫び続けていた。
事実、むせて咳をすると、口の中には鉄のように無慈悲な血の味が広がった。
( ∀ )「…………」
佇む、虚空。
最早声も出ない。俺はただの白紙になってしまった。
何も考えられない。そんな余裕は、一握も残されていない。
( ∀ )「……はは……は……」
俺は不完全な月を見上げて、ヤケクソに乾いた笑みを浮かべた。
もう俺の世界は壊れてしまった。
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