( ^ω^)は霊探偵になったようです
- 19: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:33:21.75 ID:4OV3KPHD0
- 5
ライブ前最後のセッションを終えて、
俺達はある程度の手応えを感じつつ、馴染みのスタジオを発った。
もっとも、正確には帰路についた訳ではない。
毎度の如く、駐車場で淡々とした雑談を交わしていた。
( ゚д゚ )「どうした? そんな、呆けた顔をして」
( ・∀・)「……何でもねぇよ」
視線を動かさずにミルナを制して、また一息、煙草の煙を吸った。
癖のある洋モクの煙が咽喉に染みる。
「間違いなく、将来ガンになるだろうな」と、心の中で自棄気味に笑った。
セットリストも決定し、あとはリハを通過して本番を迎えるだけ。
順番は今回、トップを張らせてもらえる事になった。
こう見えて、俺達はライブハウスに出演するバンドの中では結構人気がある。
「ほぼ毎回出ているから」と言ってしまえば、それだけだが。
- 20: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:35:42.35 ID:4OV3KPHD0
- 死体を見た日からも、俺は変わらない生活を送っていた。
幸いにも、この辺りで死者が出たなどとは報道されていない。
――――男の死体をそのままにしておいたのにだ。
死体を放置したまま公園から逃げ出したのに、
まだニュースになっていないというのは、少々不思議な気もする。
そう思って、公園に行ってみたりもしたが、死体は何故か見当たらなかった。
それどころか、死体があった気配すら消え失せていた。
あの事件から数日は怯えながら過ごした。
目を閉じれば、不気味な死体が、非情な現実が映っていた。
俺は忘れるように努めた。
正確に言えば、強く信じ込む事にした。
俺は何もやっていない。だから、すっかり忘れてしまえと。
だが、流石に忘却は無謀過ぎた。
けれども、信じ続けるだけで多少は効果があった。
「やっていない。安心しろ。忘れても大丈夫だ」
何の解決にもなりやしないが、そうやって暗示をかける事で、幾分気は楽になった。
- 22: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:37:58.44 ID:4OV3KPHD0
- 今夜は満月。
あの日見たものとは違って、完全な円を形作っていた。
そもそも、これがあるがままの姿なのに、
地球に住む人間がその姿を見られるのは、一年の内でほんの数日でしかない。
それ以外は紛い物の月だ。
本物の多くが、ちっぽけな偽物の影に隠れてしまっている。
どの世界でも一緒だ。本物はいつだって偽物に誤魔化されているんだ。
(・∀ ・)「いやー、しかし今日の演奏は完璧だったな!」
( ´∀`)「本当だモナ。この調子なら、今度こそレーベルの目に留まるモナ!」
(・∀ ・)「うひょwwwwwwそうなったら俺も大スターじゃんかwwwwwwwww」
二人揃って、妄言を垂れ流していやがる。
そりゃあ、俺だってミュージシャンを名乗るからには有名になりたいさ。
――――ただ、夢物語でしかないんだ。
あの夜、この目で公園で「死」に触れてから、
俺は現実という、見えそうで見えないモノを嫌ほど実感させられた。
自分が信じている夢は、決して裏切らないと思っていた。
だけど、裏切られる前に、現実がその夢を噛み砕いてしまった。
- 23: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:40:18.56 ID:4OV3KPHD0
- 飽きもせず二人は妄想を広げているが、俺はそれどころじゃない。
大体、今日の出来は良かったとは言え、やはり満足には至らなかった。
抱いている不安と、爆発しそうな癇癪が混じり合って、俺本来の歌唱が妨げられている。
セッションの間中、そんな風に感じられて仕方がなかった。
( ゚д゚ )「あまり期待し過ぎると、叶わなかった時が辛いぞ?」
( ´∀`)「ネガティブな事言うんじゃないモナ。
ミルナだって、今日の仕上がりには満足しているんじゃないかモナ?」
( ゚д゚ )「む……、あぁぁぁ! 分かった、俺も正直に言うよ。
俺だって期待してるさ。それに、その期待に見合うレベルにはなっていると思う」
( ´∀`)「そうモナそうモナwwwwwwwww」
ミルナまでにやけながら、顔を突き合わせて考え得る最高のシナリオを語り始めた。
――――俺だって、何も悩まずにあの夢しかない世界に入っていきたい。
だけど、もう、出来なかった。
( ´∀`)「にしても、本当に今日は良かったモナ」
(・∀ ・)「あれだな、特に、モララーのボーカルが冴えてたな」
- 24: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:42:45.27 ID:4OV3KPHD0
- 不意に聞こえてきた、またんきの声。
俺は思わず、煩い事を放棄してそちらに目を移してしまった。
――――俺のボーカルが、冴えていただって?
(・∀ ・)「何て言うかね……あれだよ、アレ」
ジジイ一歩手前の中年のように、指示代名詞を多用して表現を試みている。
少しの間言葉を探して、いい形容詞が思いついたのか、ぱっと明るい表情で喋り出した。
(・∀ ・)「ハスキー、って言うの? ああいったしゃがれ声の事。
何でいきなりそうなったのかは知らないけどよー。
いい感じにかすれてて、味があったな」
( ゚д゚ )「言えてるな。いつもより憂いがあって、俺達の音楽にマッチしていた」
ミルナも同調する。
( ・∀・)「……お前ら、それマジで言ってんの?」
(・∀ ・)「この時期に冗談なんか言うかよ、バーカ」
からかうように手を振りながら、俺を罵るまたんき。
こいつの憎たらしさと来たら一級品だ。
俺は一発、ゴンと拳骨を喰らわせ、また思索にふけった。
- 25: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:45:19.42 ID:4OV3KPHD0
- 俺の声が、良かった。
違う、違うんだ。
それはただ、喉が痛かっただけなんだ。
勘違いしないでくれ。俺は単に、ああした歌い方しか出来なかっただけなんだ。
今も喉は渇いている。
まるで、火焙りにかけられているかのようにだ。
そんな声が俺達の音楽に合っているだなんて、皮肉にしか聞こえない。
滅茶苦茶に壊れてしまったモノが、
自分さえも知らない理想に近付いているだなんて、ふざけているにも程がある。
( ・∀・)「――――そんなに、良かったか?」
半信半疑でモナーに尋ねてみた。
( ´∀`)b「バッチリだったモナ! もっと自信を持つモナ!」
親指を立て、夜だというのに太陽のような笑顔を見せる。
決して大きいとは言えないその手には、懸命に練習を重ねた跡が見られる。
( ・∀・)「そうか……」
それ以上、何も言えなかった。
- 27: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:47:59.65 ID:4OV3KPHD0
( ・∀・)「んじゃ、リハで会おうぜ」
車に乗り込もうとする三人に、別れの言葉を掛けた。
俺と違って、こいつらは一々機材の持ち運びをしなければならないので、
セッションの度に車を出し、行き来している。
大都会では通行量の問題もあって不便な点も出てくるだろう。
だが、荒んだこの町ではそんな心配はいらなかった。
枠を区切る白線が、タイヤの摩擦で所々途切れ途切れになっている。
その原因の大半が、三人の車によるものだろう。
( ゚д゚ )「ああ、そうだ」
柔らかな月光を浴びる銀色の4WDに乗り込む直前、ミルナが思い出したように言った。
( ゚д゚ )「お前の言っていた事、マジだったんだな。
気になって例の道路を走ってみたんだが、確かに街灯がコキッっと折れていた」
手をあれこれと動かして、その様子を解説しようとしている。
俺と同じだ。
- 28: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:50:26.06 ID:4OV3KPHD0
- (・∀ ・)「おー、結局本当の事だったのか。俺もいつか見に行ってみるかな」
何にも考えていないような、またんきの脱力感漂う声。
こっちまで気が抜けてしまう。大事なライブ前だというのに。
( ・∀・)「んなもん見てどうすんだよ」
(・∀ ・)「さあ?」
またんきはトボケて、ケケケとおちょくるように笑った。
モナーは既に駐車場を出発していた。
相変わらずマイペースな奴だ。
見えなくなっていく車体の後姿に向けて、俺は軽く手を振った。
( ゚д゚ )「あと、もっと凄い物も見たぞ」
俺の顔をじっと見つめて、車のドアを空けながらながらミルナは続けた。
やはり、こいつの視線は直情的過ぎて怯んでしまう。
( ゚д゚ )「電柱まで折れていたんだ。曲がっていた、と言った方が分かりやすいかな。
あれは凄かった……思わず、『うおっ!?』と声を上げてしまったよ」
- 31: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:52:06.72 ID:4OV3KPHD0
- ああ、あれか。
この頃新しく発見された、奇天烈にひん曲がった電柱の事だろう。
( ・∀・)「知ってるぜ、とっくにな」
( ゚д゚ )「何だ、もう見ていたのか。
……よく考えれば、お前がいつも通る道なんだから知っていて当たり前か。
俺にとっては反対側の道だったし、気付かなかったな、あれは」
ミルナは一人で納得しながらドアを開け、中へと乗り込みエンジンをかけた。
――――いつの間にか、またんきの車もいなくなっている。
神出鬼没な奴め。
ブルッ、とミルナの四駆が震える。
ヘッドライトがコンクリートの壁を不自然なまでに明るく照らす。
( ゚д゚ )「じゃあな」
開いた窓から一言だけ言い残し、ミルナを乗せた車は闇へと消えていった。
- 32: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:54:58.61 ID:4OV3KPHD0
- ( ・∀・)「――――さて、帰るかね」
全員の見送りが完了。俺はガラガラになった駐車場を出て、ようやく帰路についた。
この辺りはまだ光も多い。
設置された街灯だけじゃなく、商店から漏れる蛍光灯の明かりも見られる。
だけど、歩いていくうちに徐々に光は絶えていく。
やがて訪れるのは暗闇。
満たされた世界から、壊れた世界へと変容していく。
以前は家に近づけば近づくほど安心感を得られた。
自分が真に解放されるのは、そこだけだと思っていたから。
でも、それはあの日から変わってしまった。
今はむしろ、この壊れていない、あいつらと居られるスタジオこそが安息の地だ。
改めて考え直せば、自分だけの世界の、何処に魅力的な事があろうか。
現実は厳しい。一人だけでは何にもならない。
だからこそ、俺達人間は寄り合って生きていくべきなんだ。
俺は「死」を直に感じて、それに気付く事が出来た。
そういう意味では、ある意味感謝すべき事なのかもしれない。
( ・∀・)「……どこぞの教祖かよ」
自分でも恥ずかしくなるぐらいクサい考え方に、人知れず赤面して呟いた。
- 34: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 20:58:38.32 ID:4OV3KPHD0
- 疲労困憊して歩いていると、高架下まで着いた。
ここに来ると、何か不吉な事が起こりそうで気が重くなる。
事実、ここを潜り抜けた辺りで俺は記憶が飛んでしまったんだ。
そのおかげで、あんな恐ろしい目にあって――――。
( ・∀・)「――――ん?」
俺は足を止めた。
そう言えば、何でこの道を歩いている途中で意識が無くなったんだ?
特に考えはしなかったが、今思えば奇妙だ。
普通に考えれば、ここを歩いている時に自分の身に何かあったのだろう。
大体、これまで高架下を潜る度に解き放たれるような感覚に陥っていたのもおかしい。
――――もしかして、それ以前にも記憶が飛んだ事があったのではないか。
思考を張り巡らすが、答えを出し切る前に。
背後から妙に明朗な男の声が聞こえたので、俺は体ごと振り返った。
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