( ^ω^)は霊探偵になったようです

37: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:04:00.78 ID:4OV3KPHD0




そこに立っていたのは、見た感じ、俺と同じぐらいの年齢の男だった。
唯一生き残った街灯がその顔を照らし出している。

「あー、ちょっといい?」

男は何やらゴソゴソとポケットを漁り始め、
一枚の、角に折り目の付いた名刺を取り出し、俺に手渡した。

「あっ、時間はあまり取んないから。ちょっと話聞くだけだから」

こちらの返事は無視して、男は慣れた手つきでメモの用意を始め出した。

俺は突然の事にまごつきながらも、この男の秀でた容姿に目を奪われた。 
端正で、日本的な顔立ちをしている。
だが、その髪は薄暗い中でも分かるぐらいに鮮やかな金色に染まっていた。
瞳の色は藍に近い濃い青色で、肌は雪解け水のように透き通っている。
そのせいか、和風な顔の作りにも拘らず、どこか異邦人を連想させられた。


名刺を黙読する――――初本探偵事務所、所員、ジョルジュ長岡。



38: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:05:58.47 ID:4OV3KPHD0
( ゚∀゚)「あっ、俺ね、ハーフなの」

男はペラペラとメモ帳のページを捲りつつ、説き明かすように言った。

( ゚∀゚)「だからさ、名前と苗字も逆になってんの。分かる?」

もう一度、口を閉ざしたまま男の名前を読み上げてみる。
ジョルジュ長岡。
成程、そういう事ならこの外人めいた容姿も合点がいく。

( ・∀・)「……長岡さんスか」

( ゚∀゚)「そっ、よろしくな。
    職業はそこにも書いてあるけど、探偵やってんだ。こう見えてもな」

( ・∀・)「はぁ……」


探偵。


その単語が少々引っ掛かった。
どうして、探偵が俺のところに現れる必要があるんだ。



39: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:07:30.58 ID:4OV3KPHD0
もしや――――死体の事がバレたのか?

報道されていないだけで、調査は秘密裏に進められていたのかも知れない。
そして、俺を犯人として疑っているんじゃ――――。

(;・∀・)(違う! 俺がやったんじゃない!)

やっていない。そんな大それた事を、俺がやる筈がない。
そう強く信じていたからこそ、ここまで平常通りに生活をする事が出来たのだ。

もうこれ以上壊したくない。
何を聞かれても、剛気に徹底して否定してやる。俺は内心怯えながらも、そう決意した。


( ゚∀゚)「……んで、話っていうのはな……」

長岡が発する言葉の一つ一つに、一挙手一投足に全神経を集中させる。

メモの捲れる音が止まった。
お目当てのページに辿り着いたのか、長岡は勿体ぶった口調で喋り始めた。

( ゚∀゚)「最近、この辺で起こっている器物破損についてなんだけどよ」



40: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:10:10.42 ID:4OV3KPHD0
( ・∀・)「……は?」

意表を突かれ、俺は気の抜けた声を漏らした。

( ゚∀゚)「いやだから、知らない? この町で物が壊れまくってるの。
    ほら、あの街灯も壊れてやがるし……ってあれもじゃねぇか……」

長岡が点在する折れた街灯を指差す。
当然知っているさ。この道を何度も往復しているのだから。

( ・∀・)「知ってるけど、それがどうかしたんスか?」

( ゚∀゚)「いやね、その事について何個か聞きたい事があるんだわ。
    数分で終わるから、ちょっと時間くれねぇか?」

( ・∀・)「まあ、いいッスけど」

( ゚∀゚)「おー、そいつはありがてぇ。
     そんじゃ、パッパと終わらせたいから直球で聞くぜ」

軽い調子だった声が、急に、厳粛な声に変わった。


( ゚∀゚)「あんた、犯人だろ?」



41: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:13:03.72 ID:4OV3KPHD0
(;・∀・)「なっ――――」

ガツン、と後ろから殴られたような驚駭。
予想を外れ過ぎていて、計らずも言葉に詰まってしまった。

何を言い出しやがんだ、この男は。


( ・∀・)「いきなり何言ってんスか!? そんな根も葉もない事を……」

( ゚∀゚)「驚くのも無理ないけどよ、まあ聞いてくれ」

あくまで落ち着いた声。

( ゚∀゚)「それにだ、まだ断定してる訳じゃねぇ。証拠も不十分だしな。
    だから、質問とか詳しい話をするからそれに答えてくんねぇかな?」

断定してる訳じゃない。
――――あの言い方では、完全に断定しているように聞こえたが。

けど、ここで狼狽すればますます怪しく思われるだろう。
していないという絶対の自信があるのだから、普通に受け答えすれば問題ない。


( ・∀・)「……分かりましたよ」

俺は頷き、覚悟を決めた。



44: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:14:57.40 ID:4OV3KPHD0
( ゚∀゚)「それじゃ、まず質問そのいーち」

再び長岡は軽い口調に戻した。
そのせいか、緊張感は感じられなかった。
こうして俺を委縮させないようにしているのだとしたら、大した策士だ。


( ゚∀゚)「あんたの名前は毛利モララーで、バンドをやっている。
    ……これは間違いないな?」


俺は、「はい」と答えた。


( ゚∀゚)「質問その二。
    そのバンドは、この町にあるライブハウスでイベントが行われる度に出演している。
    これも間違いないな?」


俺はまた、「はい」と答えた。


( ゚∀゚)「質問その三。あんたの担当パートはボーカルで合ってるか?」


俺は億劫になりながら、「はい」と答えた。



45: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:17:25.27 ID:/UOmGav10
( ゚∀゚)「成程、ねぇ……」

( ・∀・)「あの、それが何か関係あるんスか?」

( ゚∀゚)「いや、確認だよ、確認」

紙が捲れる音がまた流れ出した。

待たされている間、俺は長岡から目を離して煙草を吸った。
月は見えるのに、星は見えない。
等しく煌くものであるのに、一方は晒され、もう一方は隠されている。
どこかしら不条理に思えた。

不条理――――と言えば、俺が今置かれている状況もだろう。
死体ではなく、器物破損について尋ねられている。
それも犯人として疑われているのだ。
突飛過ぎる。目にする度に不審に思っていたのに、それを俺がやったとか――――。


いや、待てよ。


( ・∀・)(もしや……)

些か不可解な点があったので、気に掛かり再考する。
だが、すぐに止めた。その先を考えるのが、怖くなった。
最悪の解答に、辿り着いてしまいそうだったからだ。



46: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:19:06.40 ID:ZkSq8aJH0
( ゚∀゚)「質問はこれで終わりだ。こっからは、ちょいとばかし長くなるぜ」

ぴたり、とメモを捲る手が止まる。
俺は生唾を飲み込んだ。

( ゚∀゚)「俺達が推理した、この事件に関しての一つの仮説を話す。
    言っておくけど、あくまでも憶測だからな。まだ容疑の段階だ。分かる?」

( ・∀・)「……聞くだけ聞いておきます」

高圧的な態度。
憶測などと言っているが、ハナから俺を犯人と決めつけているのは明白だ。

なのに、俺は反論する気になれなかった。
思い当たる節があるからか?
違う、そうじゃない――――そうじゃないけど、不思議と言葉を受け入れてしまう。

( ゚∀゚)「んじゃ、話すぜ」

身構える。
体を強張らせ、男の顔を凝視して。



49: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:20:28.04 ID:ZkSq8aJH0
( ゚∀゚)「まず最初に目を付けたのは、目撃された時間だ。
    基本的に、夜間に犯人の姿が近隣住民に目撃されてんのよ。

    んで、物凄い興味深いデータがあってな。
    ある事が行われる日にだけ、その時刻に規則性が見られた。
    その日ってのは――――あんたのバンドがライブハウスに出演した時だ」

長岡は語尾を強め、睨むように俺の眼を覗き込んだ。
思わず、目を切りそうになる。

( ゚∀゚)「あー、そうだ、まだ質問が残ってたわ。
    ライブの開演が午後八時。持ち時間は四十分。インターバルが二十分。
    終了が午前一時四〇分。出演バンドは六組まで。全部正しい情報だよな?」

声を出せず、ただ黙って頷いた。

( ゚∀゚)「あんたらのバンド、調べたけど結構人気あるんだろ?
    そのおかげか知らんが、出演順がアタマかトリばっかになってたんだ。
    ――――単刀直入に言うぜ。
    あんたのバンドがアタマの時、犯人は午後九時過ぎに目撃されていて、
    トリの時は午前二時過ぎに目撃されている……どういう意味か、分かる?」

冷汗が首筋を伝わる。
やっていないという自信が、俄に揺らぎ始める。

( ゚∀゚)「どう考えても出来過ぎだろ、これ」



50: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:22:07.45 ID:ZkSq8aJH0
(;・∀・)「…………」

脳が揺れる。
――――苦しい。呼吸が上手くいかない。
あの日、死体を見た時のように。


( ゚∀゚)「持ち時間の終了時間は」

長岡は続ける。その顔は、嗤っているように見えた。

( ゚∀゚)「最初に出た時は午後八時四十分。最後に出た時は午前一時四十分。
    そして、目撃された時間帯。
    この時間の一致からして、あんたが怪しいと踏んだんだ」

(;・∀・)「ちょっと待ってくれよ、何で俺だけなんスか!?
     百歩譲って推理が当たっていたとしても、バンドのメンバーはまだいるでしょうよ!」

困惑しながらも、俺は必死になって男の言葉尻に噛み付いた。
四人いる中で俺だけを疑うのはおかしいだろう。

( ゚∀゚)「あー、それな」

ヒートアップする俺とは対照的に、あくまで冷静な長岡の対応。
うろたえる風もなく答える。
事も無げに。まるで、そう反論される事を知っていたかのように。



51: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:24:13.79 ID:ZkSq8aJH0
( ゚∀゚)「他の三人、車で帰ってんだろ?」

(;・∀・)「――――!」

( ゚∀゚)「ボーカルのお前と違って、重たい機材を運ばなくちゃいけねぇからな。
    電車を使う必要が無いから、この道を通ったりもしない。
    ――――ここを通るのは、バンドの中であんただけなんだよ。分かる?」

何も言い返せなかった。
ただ口を閉じて、がたがたと、体を震わせた。


( ゚∀゚)「街灯を壊してんのは……あれだな、顔を見られないようにするためだろうな。
    明かりが無けりゃ、見えるもんも見えやしねぇ」

話が終わったのか、周囲を見渡して長岡は独り言を呟き始めた。
誰に聞かせるでもない筈なのに、その言葉が俺の耳に突き刺さる。

男の話に俺は恐怖した。
言い逃れが出来ないぐらいに、長岡が言っている事は理に適っている。

考えたくなかった事が、嫌でも頭の中で渦巻いている。
思いつく最悪の解答。
それは、意識が飛んでいる間に俺が町の物を壊したという事。
――――そして、あの男を殺したのも、俺だという事。



52: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:27:51.44 ID:jaWPo1zl0
チャリリ、と長岡の腰に付けられたチェーンが鳴る。
顔を下げていたので、その様子がよく見えた。

手の平に大量の汗をかいている。
握り締めると、不快な湿り気が皮膚に伝わる。
これまでこんな事は無かった。
にも拘らず、全身の至る所からねちゃりとした汗が噴いている。


暗にではなく、直接に長岡は俺が犯人だと宣告している。
そんなの、認めたりなんかするものか。

だけども、意識が飛んだ事は経験済みだ。
以前にもそれが起こっていたという可能性は完璧には否定出来ない。

意識の無い間に俺が何もかもやったと仮定すると、確かに全ての説明がつく。
――――何だよ、所詮仮定の話じゃねぇか。馬鹿らしい。

そう、これは馬鹿げた話なのだ。
はっきりとした根拠も、物的証拠も無い、憶測の域を出ていないスカスカの論述だ。
いくら俺が疑わしいとは言え、断言する事は誰も出来やしない。


その筈なのに。
俺は怖くて怖くて仕様が無かった。



55: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:30:30.13 ID:jaWPo1zl0
( ゚∀゚)「それで、本題に入るんだが――――」

(;・∀・)「やってない! 俺がやったんじゃない!」

長岡の言葉を遮り、俺は掠れた声で叫んだ。

別に器物破損を認めたって構わない。
ただそうすると、殺人まで俺がやったと自分の中で認める事になる。


――――それだけは絶対に避けたい。
認めてしまったら、まず間違いなく気が触れる。
そうした場合、俺が何を為出かしてしまうのか想像も付かない。


(;゚∀゚)「いや、ちゃんと最後まで聞けって……」

(;・∀・)「やめろ! もう何も言わないでくれ!
     やってない! やってないんだ! 断じてやってないんだ!」

もうどんな言葉も俺の耳には届かない。
今俺が出来るのは、大声を出して全面否定する事だけ。
自分にそう言い聞かせるように、俺は「やっていない」と叫び続けた。



57: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:32:58.05 ID:jaWPo1zl0
そうして俺は駆け出した。
長岡の声が聞こえたような気がしたが、無視してその場から逃げ出した。

喉がひどく渇く。
「助けてくれ」と、思い切り叫びたい。

だが、何に脅えているのかが分からない。
少なくとも、それは長岡ではない。もっと大きくて真っ黒なモノだ。
その見えない何かに追いかけられながら、俺は夢中で暗闇の中を走り続けた。

慣れ親しんだ高架下の出口が見えてきた。
ここさえ、ここさえ潜り抜けてしまえば――――!


足を踏み出す。
すると、一気に力が抜けた。
――――力だけではなく、何もかもが俺の虚ろな肉体から抜けていく。

朦朧とする意識の中、最後に覚えていたのは瞳に映ろう霞だけで、
俺は訳も分からぬまま冷たい地面に倒れ込んだ。

堕ちていく瞬間を、確かに認識した。



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