( ^ω^)は霊探偵になったようです
- 62: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:38:27.38 ID:jaWPo1zl0
- 7
六両編成の電車が鉄橋を通過した。
その下の闇黒で、うつ伏せに倒れていた男がのそりと立ち上がった。
重なり合う影と陰。
男は自分の肉体を確かめるように、厳めしく手の平の開閉をする。
滞りなくそれが行えた事を知覚すると、
一歩一歩が過剰に重々しい歩き方で、深い黒で覆われた高架下を後にした。
男は市民公園を目指していた。
ふらふらと、よろめきながらだった足取りも、
公園に到着する頃には、しっかりとしたものに馴染んでいった。
錆び付いたブランコの鎖を握り締める。
そして、豪快に引き千切る。自らの力を、確かめるかのように。
やり終えると、男は満足げに笑みを零した。
もう既に男の――――毛利モララーの体は、違う人物のモノとなっていた。
- 63: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:40:59.43 ID:jaWPo1zl0
- ( ・∀・)「チッ、ここにもねぇのか」
男は死体を探していた。
あの男性を殺害したのは紛れもなく彼である。
モララーの意識を奪い、自分の自由になった肉体を操り犯行に及んだ。
即ち、モララーの悪い予感は的中していたのだ。
公園を隅から隅まで捜索する。
だが、発見出来ない。いつの間にやら処理されていた。
男は不審に思い、苛立ちながら中央で考え込んだ。
( ・∀・)「サツが片付けやがったのか……?」
それは有り得ない。
男は疑う事無くすぐさまその説を却下した。
器の持ち主であるモララーの意識の裏に潜んでいる間、男はそんな噂は耳にしなかった。
先程の探偵の話でも、全くその事には触れられなかった。
( ・∀・)(んっ? そういやあの男、まだ何か言おうとしてたな――――)
気付き始めた瞬間。
男は背後から気配を――――いや、殺気を感じ取り、
思惟を即座に放棄して、その気を発する男を借り物の両目で視認した。
- 64: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:43:41.35 ID:jaWPo1zl0
( ゚∀゚)「とうとう現れやがったな、てめー」
立っていたのは、ジョルジュ長岡。
両の手をジーンズのポケットに突っ込み、人を食った態度を取っている。
( ・∀・)「ああ、さっきの奴か」
男はジョルジュを見下すように向き返した。
( ・∀・)「こんなとこまで来るたぁ、俺に何か用でもあるのか?」
( ゚∀゚)「もう分かってんだよ。設置物を壊してるのも、とある男を殺したのも。
――――全部、毛利に取り憑いたてめーの仕業だってなぁ!」
提げていたカバンを地面に叩きつけ、ジョルジュがジリジリと滲み寄る。
硬い靴底と砂利が擦れる音が、それに伴って生じる。
( ゚∀゚)「目的を言いな。聞き終わったら、一瞬でぶっ殺してやるからよー」
尊大に言い放った。
キッと、ジョルジュが眼光を飛ばす。
しかし男は動じる風もなく、悦に入っているかのようにニヤケ笑いを浮かべた。
- 66: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:46:50.80 ID:jaWPo1zl0
- ( ・∀・)「目的か……んなもん、簡単な事だよ。
この薄汚れた世界で、俺の存在を証明するためさ」
男も一歩、ジョルジュへと歩み寄った。
ただ一本のライトと、儚く地上を照らす月光。
絡まり合う、二つの狂気。
( ・∀・)「俺よぉ、バイクの事故で死んだんだわ」
この上なく美しい満月の下、男は自虐気味に吐き捨てた。
( ・∀・)「まだ若いのにwwwww事故でポックリ逝っちまうとかwwwwwww
笑っちゃうよなぁ! バカみてぇだよなぁ!
まだ何も成し遂げてないのに……ククwwwwwヒヒヒwwwwwwwwwww」
突然男は狂ったように笑い始めた。
腹を抱え、引き笑いを交え、時折口の中に溜まった唾液にむせ返りながら。
ジョルジュは訝しげに、冷たい目でその様子を見ていた。
( ・∀・)「――――だからよ、何もかもぶっ壊して、俺の証を残してやるんだ」
笑い声が止むと、男の纏う空気が一変した。
木々がざわめく。一羽の鳥が、ただならぬ気配を感じてか、どこかへと飛び去っていった。
- 68: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:49:23.03 ID:jaWPo1zl0
- ( ゚∀゚)「成程な……どうしようもないゲス野郎って事だけは分かったぜ」
ペッと、唾を吐き、男を睨み付けた。
( ゚∀゚)「だーが、人まで殺しちまったのはいただけねぇなぁ。
そんな事をして何になる? ただの殺人狂だろうが」
( ・∀・)「殺した理由? そんなの決まってるじゃねぇか。
この世で一番価値のあるモノは人命だろ?
それをよ、俺はぶっ壊してしまいたかったのよ。クヒヒwwwwwwww」
邪な笑い。
ぺろりと舌を出し、男がジョルジュを挑発する。
男の話を要約するとこうだ。
彼は何かを壊す事で、自らの存在を世間の人々に知らしめようとしていた。
そして、より高価値のモノを壊すほどに、その目的がますます達成されると考えていた。
それが自分の存在証明になるなどと、歪んだ思想を主張しているのだ。
( ゚∀゚)「つまりあれだろ、お前のやってる事は八つ当りだろ?
自分の不注意で死んだのが悔しくて、生きてる奴らに嫉妬してんだろ?
それで人様まで殺すなんざ――――どこまでも腐ってやがんな」
ジョルジュの眼光が、更に鋭くなる。
- 69: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:51:54.55 ID:jaWPo1zl0
- ( ゚∀゚)「てめーのやってる行為は、屑のやる事だよ」
ジョルジュが歩を進める。
両手はポケットの中に入れたままだ。
( ゚∀゚)「破壊が存在の証明だぁ!?
舐めてんじゃねぇ。そんな不毛な行為の、どこに敬意を払う部分がある。
その体の持ち主の方がよっぽど立派だぜ」
( ・∀・)「……んだと」
( ゚∀゚)「こいつは音楽で自分を世に知らしめようとしている。
その方が、お前なんかよりずっと生産的で、尊敬すべき人生だ。
自分の存在を証明したけりゃ、こいつみたいに生き方で示すんだな。
……あ、もう死んじゃってましたねwwwwwwwサーセンwwwwwwwwwww」
小馬鹿にしたような態度で、ジョルジュも愚者のように笑った。
男は沈黙していた。
だが、怒りを堪え切れずに、わなわなと肩を震わせている。
何かが切れるような音を、男は頭の中で聴いた。
( ・∀・)「――――面白ぇ、お前もぶっ壊してやるよ!!」
男が吠え、怒気を発する。
それは雷鳴のように、踏み締めた大地を轟かせる。
- 70: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:55:05.49 ID:jaWPo1zl0
- ( ゚∀゚)(作戦、成功っと)
自分の狙い通りに計画が進行し、ジョルジュは内心ほくそ笑んだ。
行き過ぎた怒りは視界を曇らせる。
まして男が使用するのは借り物の肉体。我を忘れさせればこっちのものだ。
( ゚∀゚)「成仏させてやるよ、俺の手でなぁ!」
ジョルジュの右手がポケットから出された。
そこに握られているのは、妖しい銀光を放つ刃渡り二十センチ弱のフォールディングナイフ。
月明かりを浴びて、ぞっとするほど綺麗に煌いている。
男は傍にあった清掃具入れから、一本の箒を取り出した。
その穂を取り外し、柄を六尺棒のようにして構える。
数回くるくると回転させると、
余程手に馴染んだのか、しっくりくる感触に満足して一人悦に浸った。
( ゚∀゚)「来いよ」
ジョルジュが呼び掛ける。
( ・∀・)「面倒くせぇ、お前からかかってきな」
お返しに、クイと指を曲げてジョルジュを招く。
その動作を見た時、ジョルジュは滾る血潮を感じて愉快そうに嗤った。
- 72: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:57:21.25 ID:1EBuFULc0
- ( ゚∀゚)「それじゃ、お言葉に甘えて――――行くぜ!」
立ち塞がる男目掛け、ジョルジュは一筋の閃光のように突進した。
左手は依然ポケットに突っ込んだまま。
ナイフを握る右手に全ての力を集中させる、ジョルジュが編み出した独自の戦闘体勢だ。
ジョルジュが疾走する。
心の臓が、早鐘を打つ。
二人の距離が、一気に縮められる。
( ゚∀゚)「何で出来てるか知らねーが、ぶった切ってやるぜ!」
男が手にしているのは、所詮は木製の棒だ。
樫の木か、樟の木かは分からないが、金属であるナイフの敵ではない。
その上、自分には霊から授けられた抜群の身体能力と、それに見合う技術がある。
間違いなく、切断できる。そう確信していた。
( ゚∀゚)「うらぁぁぁぁぁぁ!!」
エッジを立て、押し込むようにして棒に刃を当てる。
突進の威力を利用したその一撃は、彼自身も満足のいく太刀筋だった。
――――断てた、とジョルジュは想った。
- 74: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 21:59:21.20 ID:1EBuFULc0
- きぃん。
夜の公園に響き渡る、金属音。
ジョルジュはその異質な音に違和感を覚えた。
接触し合ったのは金属と木。
にも拘らず、聴こえた音と手に伝わった感触は、紛れも無く金属同士のそれであった。
男が手にしている棒を見る――――切断されていない。
それどころか、かすり傷さえも付いていない。
( ゚∀゚)「……どうなってやがんだ」
こめかみに冷たい汗を感じながら、ジョルジュは不可解な現象に首を傾げた。
――――男は静かに答える。
( ・∀・)「何でか知らんがな、俺、触ってる物の硬さを変えられるんだよ」
そう言って棒を振り回し、ペンキの剥げた滑り台の鉄柱に叩き付けた。
だが、曲がったのは棒ではなく柱の側。
当然鳴り響いたのは、カキンという硬質な音。
火花さえも飛び散っていた。
- 75: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:02:00.00 ID:1EBuFULc0
- ( ゚∀゚)「成程、な」
ジョルジュは瞬時に理解した。
これが、こいつの常識を捻じ曲げる力であると。
飢えた豹のように舌なめずりをし、再び地を蹴って男の元まで駆ける。
( ゚∀゚)(何、ぶつからなけりゃどうってことねぇ――――!)
武器破壊は諦め、男の体に直接ナイフを向けた。
だが男は巧みに棒を操って防ぎ、距離を置こうとしてジョルジュの胴付近を薙ぎ払う。
( ・∀・)「うっだらぁっ!」
攻撃は空を切ったが、一定の間隔は空けられた。
ジョルジュがその距離を詰める前に、一突き、鋼の如き硬さの棒を丹田目掛け突き出した。
しかし、ジョルジュも器用に身をくねらせて避ける。
防御ではなく、回避を選択した。
その動きを確認すると、男は棒を高くに構えジョルジュの頭の頂に思い切り振り下ろした。
今度はナイフをかざしてガードする。
一瞬、男の動きが止まる。
そこを付け狙って、ジョルジュはナイフを伸ばし男の左腕に軽い切り傷を負わせた。
掠められた左腕部の切り口から血が滴る。
男はジョルジュの的確過ぎる判断力に驚きを覚え、同時に、歓喜を覚えた。
- 77: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:04:46.71 ID:1EBuFULc0
- 男は不可思議に思った。
ジョルジュが何故、これだけ素早く、かつ正確に攻撃に対応できるのか。
( ・∀・)(読まれてんのか……。初見だぜ?)
そう思い、男はパターンを変えた。
これまでは積極的に出るのではなく、相手の攻撃を受け流しながらの反撃を主体に戦っていた。
ここで無理に打って出るのは素人の策だと、男は考えた。
男が選んだのは、より消極的になる事。
相手の刃の全てを受け止めるべく、棒を自由自在に動かせるよう限界まで肩の力を抜いた。
( ・∀・)「来やがれ!!」
( ゚∀゚)「言われずとも、よ!」
呼応し、ジョルジュが天を翔るように走る。
ナイフは下げられている。
ギリギリまで接近してから、最も大きな隙を見つけて攻撃するつもりだろう。
男の予想通り、ジョルジュは射程に入ると共にナイフを構え脇腹を裂こうとした。
自分自身も気付かなかった隙であるが、男は懸命にガードする。
ジョルジュのナイフと、男の棒が鍔迫り合う――――。
- 79: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:06:43.84 ID:1EBuFULc0
- しかし、ジョルジュはその衝撃を感じなかった。
ナイフから生じる威力は、ゴムのように柔らかくなった棒に吸収され消失した。
( ゚∀゚)「んなっ……?」
ジョルジュが見た物は、ナイフを軸にして「く」の字に折れ曲がった木の棒。
肩透かしを喰らい、一瞬判断が遅れる。
そこに飛んでくる、男の右足。
(;゚∀゚)「ぐがっ!?」
蹴り倒され、不覚にも地面に尻を着いてしまった。
即、立ち上がる。そして気が付いた。
( ゚∀゚)「あー、そういう事か……クソッ、電柱を曲げられる時点で気付くべきだったぜ」
ジョルジュは尻に付いた砂を掃い、少しばかり後悔しながら男の言葉を思い出した。
「触っている物の硬さを変えられる」
――――何も、硬くするだけとは言っていない。
( ・∀・)「柔らかくする事だって、出来んだよ。ヒヒヒwwwwwwwww」
男は口元をほころばせ、「してやったり」の表情を作った。
- 80: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:08:49.83 ID:1EBuFULc0
男からすれば、完璧なまでのプランだっただろう。
意表を突き、更に打撃も加えられた。
唯一の失敗点と言えば、大したダメージにはならなかったという事ぐらい。
( ・∀・)(読んでる訳じゃねぇんだな……って事は、ただ反応が優れているだけか)
勝てぬ相手ではない、と男は思った。
こちらから仕掛けなければ、この類稀な対応能力もさして意味を成さない。
( ・∀・)「どうした、来いよ? キヒヒヒwwwwwww」
おちょくるような声でジョルジュを唆す。
全ては罠。
ジョルジュが交戦当初にしたように、挑発して冷静さを欠けさせるため。
( ゚∀゚)「――――舐めてんじゃねぇぞ、クソがっ!」
その事を熟知しているにも拘らず、
右肩に出来た痣をちらりと確認すると、ジョルジュは一目散に疾駆した。
- 81: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:11:58.41 ID:1EBuFULc0
- ナイフが振りかざされる。
水平に斬りかかるが、当然のように男の持つ棒に裁かれた。
一撃、更にもう一撃とジョルジュがナイフを振るう。
幾度となく打ち合い、その度にキンと硬質で高い音が二人の居る空間に残響した。
ジョルジュの勢いは止まらない。
一旦離れては、また唸るような突撃を繰り返す。
自らの肉体を一本のナイフに例えて。
時に突き、時に切り裂きながら。
何度目かの突きを男は身切り、食い止めた。
弾かれてはならないとばかりに、両者がそれぞれの獲物を手に全精力を込めて押し合う。
鉄と木が拮抗する。
「このままでは埒が明かない」とジョルジュは考え、
奇を衒って一度力を緩め、男がよろけたところでその側面に回ろうと思案した。
――――だが、その前に棒は真っ二つに折れた。
( ゚∀゚)「っ――――!」
よろめいたのは、逆にジョルジュの方。
男は握っている棒の硬質化を解除し、ただの箒の柄に戻したのだ。
- 83: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:14:42.84 ID:1EBuFULc0
- 男は再度木を硬くした。
折れた部分が棘になり、二本の新たな凶器としてジョルジュを襲う。
槍のように尖った先端部が、攻撃を逸らされて油断の生じたジョルジュの大腿に突き刺さった。
ジョルジュの顔が歪む。
骨にまで達してはいないが、ほぼ確実に筋を損傷しているだろう。
未だ棒が刺さっている傷口から、浅黒い血が流れ出す。
ジョルジュは痛みと心理的衝撃からか、不意にがくんと片膝を落としてしまった。
( ・∀・)「ヒヒwwwwwwざまあねぇなwwwwwwwwww」
その様を俯瞰して、男はたまらなく愉快そうに笑った。
けれども、それはすぐに収まった。
千載一遇のチャンス。男がこの絶好の機を逃す筈が無い。
( ・∀・)「――――死ね」
冷酷に言い捨て、手にした短い棒を振り上げた。
ジョルジュの顔面に突き立てるために。
男は武器を固く握り締めた拳を、力の限りにジョルジュ目掛けて振り下ろした――――。
- 84: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:17:05.12 ID:1EBuFULc0
- ――――だが、為らない。
(;゚∀゚)(あっぶねー、ギリじゃねぇか)
棒を構えた男の体が、氷漬けになったかのようにぴたりと止まっている。
それは男だけではない。
ジョルジュの体も、彼の首筋を伝う冷や汗も、流れる空気も、更には時間さえも。
全てが一時停止したテレビ画面の如く静止していた。
ただ唯一、動いているのはジョルジュの思考だけ。
( ゚∀゚)(はっはーん、こいつ、俺の顔を狙ってやがんな)
男の体勢を見て、その照準を推測する。
そして、この状況を打破する妙案を思い付くべく、思考を張り巡らせる。
( ゚∀゚)(躱すのは無理だな……かと言って、直線的な攻撃はナイフじゃ防げねぇ)
切っ先を見つめ、この後取るべき最適な対応を考える。
( ゚∀゚)(こりゃあ、やられる前にやるしかねーな)
考え抜いた末。
最終的にジョルジュが下した決断は単純で、かつ実践的だった。
- 85: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:19:04.53 ID:1EBuFULc0
- これこそがジョルジュの常識を捻じ曲げる力。
自らの思考を除く、全てのモノを静止させる事が出来る。
攻撃の際、防御の際。
この力を発動させる事で、じっくりと相手の動きを読み取って対策を練れる。
それにより、的確な判断を下す事が可能であった。
男の勘違いした点はそこである。
ジョルジュが何故、瞬間的に男の行動に対応出来たのか。
男は直感的に、「こいつは物凄い判断力を持っている」の一言で済ませていた。
しかし、それは間違いである。
ジョルジュは別に瞬時に、しかも的確に反応していた訳ではなく、
ただ単に、静止した世界の中で自分が納得するまで思考を繰り広げていただけなのだ。
結果、常にジョルジュは最良の選択を弾き出す事が出来た。
相手からすれば、ジョルジュが超人的な反応速度を誇っているかのように思えるだろう。
そのため、彼はこの能力を「超反応」と呼んでいた。
- 88: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:21:31.35 ID:1EBuFULc0
- ジョルジュが静止を解除した。
万物が時を刻み始める。
同時に、ジョルジュはナイフを横薙ぎに振り払い男の脛を切り裂いた。
返り血を浴びて、ジョルジュのシャツが紅に染まる。
(;・∀・)「ぐぅ――――っ!」
振り下ろされる筈だった腕が、下りてこない。
痛みだけではなく、虚を衝かれた事も影響し、男は一瞬怯んでしまった。
男は、「何故だ」と思った。
未だにジョルジュの能力を理解していないため、どうして即座に見破られたのかが分からなかった。
その隙を見計らい、ジョルジュは飛び跳ねるようにして後退した。
( ゚∀゚)「あー、ちょっと余裕こき過ぎちまったな」
ジョルジュが頭を掻く。
さらりとした金髪が揺れて、夜風になびく。
いくら治癒力が向上しているとはいえ、太腿の傷は治り切っていない。
自らの血と男の血で、ジョルジュの服は真っ赤に汚されていた。
右手には赤く輝くナイフ。
その姿はさながら殺人狂のようだった。
- 89: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:23:33.29 ID:1EBuFULc0
- ( ゚∀゚)「余裕ついでによ、ちょっと話でもさせてもらっていい?」
突然の提案。
男がそれを許可する前に、ジョルジュはべらべらと語り始めた。
( ゚∀゚)「俺の爺さん、イギリスで農夫やってんのよ。
こーんなデカイ麦畑持っててさ、収穫時期は結構大変らしいぜ」
言いながら、両手を広げてその面積を伝えようとする。
( ゚∀゚)「麦を刈り取る人の事を、英語で『Reaper』っつーんだ。
つまり、俺の爺さんは『Reaper』ってわけ。分かる?」
( ・∀・)「……それが、何か関係あんのかよ?」
( ゚∀゚)「いやね、俺が言いたい事はつまりだな……血は争えない、って事だよ。
俺にも爺さんと同じ『Reaper』の血が流れてんだ」
言い終え、ナイフをかざす。
男の顔を、凍るような視線で凝視しながら。
ジョルジュの表情を見れば、瞳孔は開かれ、口角は吊り上がっている。
不気味に――――唄うように嗤っていた。
ぞくりと背筋に伝わる寒気。
男は計り知れない戦慄を覚えた。
- 91: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:26:23.92 ID:1EBuFULc0
- 吹き止む風。
( ゚∀゚)「本気で行く。殺してやるよ――――!」
怪我をしている脚を庇う事無く、ジョルジュは真っすぐに駆けた。
男は二本になった棒でガードを固める。
一本は顔を、一本は胴を。
その防御姿勢を捉えた途端、ジョルジュは思考以外の全てを静止させた。
静かで、音さえも聴こえない空間。
ジョルジュは何度も男の体勢を確認し、それに添う案を思い浮かべた。
急所が存在する部位のうち、ガラ空きになっているのは胸部のみ。
照準は瞬く間に定まった。
――――静止が解かれる。
男はやはりジョルジュの狙いに感付いていない。
それ幸いとばかりに、ジョルジュは全体重を乗せて男の左胸へとナイフを刺し込んだ。
ジョルジュが口にした、「Reaper」という単語。
一つの意味は、収穫者。
そしてもう一つの意味は、死神である。
- 97: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:44:36.01 ID:1EBuFULc0
- ざぐり。
男の胸に冷たい刃が突き刺さる。
地面に平行に構えられたナイフが、入り組んだ肋骨の隙間を掻い潜り心臓を貫通した。
手首を捻り、肉を抉るようにして傷口を広げていく。
ジョルジュは確かにその手応えを感じ取った。
ドクン、という力強い脈動がジョルジュの掌に伝わる。
それは最後の一足掻きであり、その後は段々と鼓動は弱まっていった。
( ∀ )「う……ぐ……ぉ、ぐぅ…………!!」
男は痙攣しながら悲痛な呻き声を漏らした。
尋常ではない量の鮮血が、左胸に大きく空いた穴から噴き出している。
びちゃびちゃと音を立てて、所構わず真紅の液体が飛び散っている。
ジョルジュはひたすらに嗤っていた。
彼は楽しんでいたのだ。
( ゚∀゚)「始末、完了っと」
ナイフを乱暴に引き抜くと、男は力無く血溜りの上に倒れ込んだ。
最早声を発していない。脈さえ打っていない。
――――男の魂は、完全に滅した。
- 100: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:48:45.22 ID:1EBuFULc0
- カバンに控えていた服に着替えた後、
ジョルジュはその場を離れず、横たわっている男の姿をずっと眺めていた。
「ある時」が来るのを、彼は待っていた。
そして、その瞬間が訪れる。
( ゚∀゚)「おっ、やっとこさ始まったか」
男の――――モララーの肉体が柔らかい光に包まれる。
傷口が、流れ出た血が、元の状態へと修復されていく。
見るも無残な傷だらけの体は、ジョルジュと戦う前の健康な姿へと蘇った。
あたかも、戦闘など無かったかのように。
――――浄化、と彼らが呼ぶ現象。
憑いている霊を取り除くには、器である肉体ごと死滅させるしかない。
だが、それでは元の持ち主までも滅してしまう。
そんな悲劇が起こらない理由は、偏にこの浄化のおかげである。
天に昇っていく霊の魂から溢れ出す生命力の最後の輝き。
その爆発的な生のエネルギーにより、一度死滅した肉体が治癒され復活する。
一種の蘇生と言えよう。
- 102: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:52:10.62 ID:gpLPRuCo0
- 器さえ再生されれば、後は何の問題も無い。
その中には、既にもう一つの魂が入っているのだから。
( う∀-)「――――ん……あぁ、どこだここ?」
真っ暗な高架下で、意識を取り戻したモララーが目を覚ました。
辺りを見回し、まだ夜である事を認知する。
( ・∀・)「あれっ、俺は確か、ここで気を失って――――」
( ゚∀゚)ノ「よー、やっと起きやがったか」
(;・∀・)「うがっ、あんたは……!」
突然声を掛けられ、モララーは驚きの声を上げた。
起きて最初に目にした人物。忘れもしない、今晩出会ったジョルジュ長岡だ。
最悪だ、と彼は思った。
( ゚∀゚)「いやいやいや、別に俺怪しい奴じゃねーって、マジで」
くだけた調子で釈明する。
浄化後、意識を無くしていたモララーをここまで担いできたのも彼である。
ジョルジュは何事も起こらなかったかのように繕った。
霊に関する事は知るべきではないという、彼なりのちょっとした気遣いだった。
- 104: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:54:57.71 ID:gpLPRuCo0
- (;・∀・)「何スか、まだ俺を疑ってるんスか!?
言っておくけど、俺はやってな――――」
必死で弁解する。
ここまで追って来ているという事は、やはり自分が一番怪しいと踏んでいるのだろう。
などと、モララーはまだはっきりしていない頭脳で考えた。
けれど、彼の熱弁をジョルジュは強引に遮った。
そこで告げられた事。それはモララーにとって、思ってもみない答えだった。
( ゚∀゚)「あー分かってる分かってる。あんた犯人じゃなかったよ。俺の早とちりだった」
( ・∀・)「――――はい?」
モララーが間の抜けた声を漏らす。
( ゚∀゚)「見つけたよ、マジモンの犯人。もう対処もしてある。
しかもそいつ、殺人までしてやがった。鈍器で殴って殺したらしいぜ」
重要な事項をあっけらかんと言い放った。
ジョルジュの話を聞いて、モララーは安堵して深い溜息を吐いた。
話を聞く限り、死因からして先日見た死体の事だろうとモララーは解釈する。
――――ああ、やっぱりやっていなかったんだ。
頭の中はその事で一杯で、疑われた事に対する怒りなど微塵も感じていなかった。
- 106: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/23(日) 22:58:08.47 ID:gpLPRuCo0
- むしろ、彼の心中に沸いてきたのは「犯人が誰であるか」という事だ。
( ・∀・)「ほ、本当スか! それ、一体誰だったんスか!?」
( ゚∀゚)「お前」
( ・∀・)「……へっ?」
( ゚∀゚)「うひゃひゃwwwwwww冗談だってwwwwwwwwwww」
本当に愉しそうに、ジョルジュは呆気に取られるモララーを放置して笑った。
( ゚∀゚)「そんじゃ、俺帰るわ。悪いねー、疑ったりなんかして」
そう言って、豆鉄砲を喰らったような顔をしているモララーを残し、
ジョルジュは痛む脚を引きずりながら、ゆったりとした歩調で闇の中へと去っていった。
消えない残香。
ただ一人、蒼ざめた月を仰ぎながら。
戻る/8