( ^ω^)は霊探偵になったようです
- 2: ◆zS3MCsRvy2 :2007/10/20(土) 21:58:13.75 ID:EHvlXSOS0
- 4
事件の調査を粗方済ませた後、僕とドクオは遂に捜査の最終段階に乗り出した。
後は最後の一歩を踏み込むだけ。
もっとも、僕が推理及び解読を行った訳ではない。
全てドクオがやったのだ。
何故かは不明だが、この日に至るまでドクオは仮の結論を教えてくれなかった。
いや、厳密には「この日に至っても」だ。
理由は知らない。それさえも告げてくれないからだ。
どうしてだろうか。
うん、まあ、ショボンより先に僕に知らせる訳にはいかないとの判断なんだろうなぁ。
自分はあくまで新参者なのだし。
だけど、少しぐらい口を緩めてくれてもいいじゃないか。
――――もっとも、そんな態度を取ってみたって、
ドクオは焦れる僕を無視するのだけど。
- 5: ◆zS3MCsRvy2 :2007/10/20(土) 22:00:15.51 ID:EHvlXSOS0
('A`)「あれだ、朝に来るのは正解だったな。客が全然いねぇ」
注文したホットコーヒーに角砂糖を二つ放り込みながら、くぐもった声でドクオが言う。
手にした金のスプーンがやたらと眩しい。
天井から吊るされたライトが、やり過ぎなぐらいに立派なせいでもあるのだろう。
僕達は現在、通い慣れた喫茶店の中にいる。
ドクオがこの店を贔屓にしているので、自分も連れていかれる事が多いのだ。
照明の豪華さに反して、椅子やテーブル等の道具類はシンプルそのものだ。
このアンバランスさが良い、とはドクオの弁。
つくづく変わった人種だと思う。
綺麗に磨かれた窓ガラスには僕の顔と、
その向こう側に、秋風と共にすれ違いを重ねる通行人が写っている。
そう言えば、ガラスって本来の状態は液体なんだっけ。
どう観察してもそうは見えないけどなぁ。
- 6: ◆zS3MCsRvy2 :2007/10/20(土) 22:02:41.38 ID:EHvlXSOS0
- 静けさに包まれた店内には、僕らを除くと、
一組の、営業の途中だと思われるサラリーマンの客がいるだけだ。
まあ、平日の午前中なのだから、それもその筈だ。
鼻腔を突くコーヒーの芳香。
挽き立ての豆から淹れた本物でしか味わえない、奥行きのある香りだ。
ミルクで阻害されていないのも一因だろう。ドクオはミルクを入れるのが嫌いなのだ。
僕自身はあまりコーヒーは好きではないのだが、
ドクオは「五臓六腑に染み渡る」と言わんばかりに、満足そうにそれを飲んでいる。
……美味しいモノなのかな、やっぱり。
今度ここに来店した時には自分も背伸びして注文してみようか。
( ^ω^)「ドクオ――――そろそろ教えてくれないかお?
もう答えは出ているって言っていたじゃないかお」
グラスの中のレモンティーをストローでぐるぐる掻き回しながら訊く。
氷の接触し合う音が涼しげに響き渡る。
うーん、早く飲んでしまわないと氷が溶けて折角の紅茶が薄まってしまいそうだ。
けど今はそれどころじゃない。
( ^ω^)「結局、あれは誰がやったんだお。見当は付いてるんじゃないのかお?」
- 8: ◆zS3MCsRvy2 :2007/10/20(土) 22:05:33.01 ID:EHvlXSOS0
- 警視庁から譲り受けた、百枚以上にも及ぶ写真。
その半数近くが人体切断で飾られた死体の写真だった。
目を見張るほどに解体は見事だった。
手足が無いのはまだマシな方で、
中には、上半身と下半身が完全に分離している物もあった。
それぞれ違う場所に捨てられていたと言う。
また、中途半端に部位が残されているものだから、より一層人体の残滓が強調されている。
見るだけで気分が悪くなる。吐き気を堪えるので精一杯だ。
それらが公表されていないと知った時、僕は多大なショックを隠せなかった。
国家権力さえも信用できないとしたら、一体何を信じればよいのか。
ドクオは遺体の容態を詳しく知るために、わざわざ警視庁まで出向いたりもしていた。
詳細な情報を聴取したり、はたまた、実際に解剖された死体を見たりもしたらしい。
ある意味尊敬するよ。
写真でさえ鳥肌が立つほど不気味なのに、直接その目で見るだなんて。
とてもじゃないけど、僕には出来ないな。
- 9: ◆zS3MCsRvy2 :2007/10/20(土) 22:07:58.95 ID:EHvlXSOS0
- ('A`)「まあそう急くんじゃねえ」
長く伸ばした前髪を掻き上げながら諭す。
('A`)「……つーか、重要なのは誰がやったかじゃないんだな、これ」
( ^ω^)「おっ?」
('A`)「件数と手口からして、殆どの猟奇殺人は同じ奴の仕業と見ていいだろ。
だがな、そいつ自身を探し出すのは極めて困難だ。
目撃者も疑わしい奴も何もいねぇ。ただ断片的な証拠を残しているだけだからな。
でも、だ。警察から聞かされた話を聞いてな、少々訝しい点があったんだよ。
死因は失血またはそれによるショックの筈なんだが――――いや、詳しい説明は省くか」
僕は首を傾げた。
その仕草さえも無視された。
('A`)「簡単に言うとだ、フェイクだよ、ありゃ」
- 10: ◆zS3MCsRvy2 :2007/10/20(土) 22:09:59.67 ID:EHvlXSOS0
- ( ^ω^)「――――フェイク?」
('A`)「そう、フェイク。要は目眩ましだ」
虚を衝かれて、鼻の頭を弾かれたような顔をしている僕をよそに、
ドクオは表情どころか所作の一つも変えずにコーヒーを啜った。
まるで訳無い事のように。
('A`)「直接の死因がおかしい死体があったんだよ。それも数件」
親指を除く四本の指をぴんと立てる。
('A`)「四人。四人だ。
同一犯と思しき事件のうち、四件の被害者の骨がぽっきり折れてやがっんだ。
折れたあばら骨が突き刺さって、肺出血を引き起こしていたらしい。
その上、強く打ちつけられたような痕も見られる。
――――不自然だろ? 凶器は刃物の筈なのに、だ」
念を押すように、ドクオが僕の瞳を覗き込んできた。
確かにおかしい。
殺人を遂行するためなら、写真の通り致死量の血を流させるだけで十分だ。
そうであるのに、何故他とは違う傷痕が発見されているのか。
- 11: ◆zS3MCsRvy2 :2007/10/20(土) 22:12:19.14 ID:EHvlXSOS0
- ('A`)「大方、事故か何かで死んだんだろうよ。
脚や首を落としたりしているのは、まあほぼ間違いなく後付け。
……ったく、悪趣味な死に化粧だぜ」
はぁと長い息を吐く。
('A`)「俺の勝手な推理だが、恐らくこれは隠匿目的だな。
奇怪な事件は世間に公表されないという事情を知っての犯行だ。
……どこぞの企業が、手前で発生した事故が発覚するのを恐れてるんだろう」
という事は。
( ^ω^)「その事故を隠すためだけに、あんな大量殺人が行われていたのかお?」
('A`)「いや、そいつはまだ分からん。
それに、聞いた話だと猟奇殺人自体は今年初めから起きている。
例に挙げた不審な事件の前にだ。別の誰かが絡んでいるのは間違いないだろうな。
しかも、死体の様子を見る限りじゃ、人体切断を行ったのもそいつだろうし。
あれだけ完璧に解体をこなせるとは、同じ人間の所業としか思えねぇ」
- 13: ◆zS3MCsRvy2 :2007/10/20(土) 22:14:27.37 ID:EHvlXSOS0
- ('A`)「多分だが、両者の間に何かしらの接触があったんじゃねぇか?
仮定が成り立つためには、犯人が猟奇殺人犯を知っている事が条件だ。
如何にして出会ったかどうかとか、そこまでは俺の知る余地じゃないけどよ」
小声でぼやいて、ドクオは既に湯気の立ち上っていないコーヒーのカップに手を伸ばした。
頭の中を整理しよう。
まず最初に。
この辺りで猟奇殺人が発生している――――これは確定だろう。
そして。
前言の事件を利用して誰かが自らの関わっている事故の隠蔽を企てた。
それに際して、どういう経緯があったかは不明だが、殺人鬼が直々に死体の扮装を行った。
ドクオの言っている事が本当なら、話としては辻褄が合う。
(;^ω^)(うぅ、頭が痛いお)
……こんなに頭を使ったのは久しぶりだ。
もしかしたら初めてかも知れない。
- 15: ◆zS3MCsRvy2 :2007/10/20(土) 22:17:00.80 ID:EHvlXSOS0
- ( ^ω^)「んー、じゃあ、犯人はまだ分かっていないって事かお?
さっき殺人をしている奴を見つけ出すのは難しいって……」
('A`)「ああ、まだ分からないな――――もう一人の方は」
カップを置きながら言葉を返すドクオ。
( ^ω^)「おっ?」
('A`)「そいつを探すのは難しいよ、確かに。
それこそ五里霧中だ。追えば追うほど深みに嵌っちまう。
――――けど、それは猟奇殺人者の話だ。
もみ消しを図った奴が誰かは、実はもう見当を付けてあるんだな、これが」
そう言って、一枚のメモを僕に渡す。
白を埋め尽くす文字の羅列。
印刷に失敗したコピー用紙か何かに書かれたそれは、
体裁のお粗末さとは裏腹に、不思議な説得力を放っている。
- 17: ◆zS3MCsRvy2 :2007/10/20(土) 22:19:19.24 ID:EHvlXSOS0
- ('A`)「職場で事故が起きる仕事なんて、数が限られている」
紙面に目を通す。
('A`)「まして骨折だ。余程の事が、例えば高所から落下でもしなけりゃそうはならない」
それは、核心に触れる資料。
('A`)「……となると、建築業者しかないだろう」
そこに記された名前。
('A`)「俺は調べた。この頃、不穏な動きが見られる会社を」
ゆっくりと、脳内で読み上げる。
('A`)「そして辿り着いた」
一つの回答。
('A`)「シブサワ建設――――そこの社長、渋澤が最大にして唯一の容疑者だ」
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