( ^ω^)は霊探偵になったようです

2: ◆zS3MCsRvy2 :2007/11/12(月) 00:48:31.33 ID:tPx7iKFa0




渋澤が逮捕されるのにそう時間は掛からなかった。
何でも、最初の事情聴取をした段階であっさりと犯行を自供したらしい。

……不思議だと思う。物的証拠はないのだから、
黙秘を続けていれば少なくとも即御用とはならなかっただろうに。


(;^ω^)「あ〜、やっと終わったお」


水の入れ替えを終えて、ライラックを生けた花瓶を元ある場所に置いた。
こうした雑用は下っ端である僕の仕事となっている。
休日ならツンがやってくれるのだが、
残念ながら今日は火曜日。所内の面倒事は全て僕に押しつけられているのだ。

鉢植えならば、水をやればいいだけなので、一々こんな事をせずに済む。
けど、何故かドクオが鉢植えの花を嫌っているので、
そんな意見は一瞬で却下されたのだが。



4: ◆zS3MCsRvy2 :2007/11/12(月) 00:51:19.87 ID:tPx7iKFa0
今頃、ツンは学校で呑気に過ごしてるんだろうなぁ。
少し羨ましく思う。
そりゃ当然、勉強はしなければならない。
それでもきっと楽しいだろう。
――――少なくとも、今この時間よりマシなのは間違いない。

もっとも、自分は学生生活なんてものは経験した事が無いので、
想像の及ぶ限りではないのだけども。


('A`)「しっかし、まあ……」

新聞を捲りながら、ドクオがこちらに呼び掛けてくる。
ショボンが出掛けているのをいい事に、応接用の椅子にふんぞり返って座っていた。

('A`)「警察の野郎、やっぱり殺人やそれに見せかけた偽装が
   行われていた事は公表する気ねぇのな。
   紙面に載せてんのはシブサワ建設が死亡事故を隠匿してたって記事だけで、
   その裏で異常者が関わっている事はまるで無視されてやがる」

僕はその隣に座り、愚痴の相手をする事にした。
特に深い意味はない。ただ単に、何となくそうしたくなっただけだ。



7: ◆zS3MCsRvy2 :2007/11/12(月) 00:54:13.06 ID:tPx7iKFa0
('A`)「情報の統制かよ、時代錯誤もいいとこだぜ」

嘆息混じりに呟く。
――――むしろ、ほとんど嘆いているようなものだ。
それもそうだろう。事件の隠蔽をしているのは警察側も同じなのだから。

ただ、僕にも少々思う所がある。

( ^ω^)「……と言っても、
      ドクオにだって隠している事が一つあるじゃないかお」

思い切って尋ねてみた。
……いや、「思い切って」も何もないな。そう訊くのが当然だろう。
僕と同じ立場に立てば、誰もがが同じ疑問を抱くに違いない。


('A`)「ん、何がだ」

( ^ω^)「ほら、殺人鬼の正体を教えてなかったじゃないかお」


シャキンに渋澤の容疑等を話す際、どういう訳かドクオはその事だけを告げなかった。
そして僕もまだ知らない。
聞く機会がその時しかなかったからだ。



9: ◆zS3MCsRvy2 :2007/11/12(月) 00:56:51.85 ID:tPx7iKFa0
それどころか、ドクオは誰にも伝えずにいる。
ショボンにさえもだ。
どうにも不可解だし、何より、胸のモヤモヤが取れないで気持ちが悪い。

('A`)「どうでもいい事じゃね? それ」

( ^ω^)「ちょwwwwいくらなんでもそりゃねーおwwwwwwww
      どう考えても重要な話題だと思うお」

流石にその理屈は斜め上過ぎる。

個人的には、花瓶の水を替える作業の方がどうでもいいと感じるな。
あれは本当に面倒だ。


('A`)「つか、俺は後で言うつもりでいたんだぞ」

後ろ髪を掻くように撫でながら言う。

('A`)「ただ奴の身元だとか、そうした詳しい事を調べてんだ。
   警察に情報を渡す前に、自分で出来る事はやっておきたいからな。
   他人に丸投げすんのも癪だし」



10: ◆zS3MCsRvy2 :2007/11/12(月) 00:59:51.78 ID:tPx7iKFa0
('A`)「こいつは実に厄介な性分でね、俺自身も厭になるよ」

( ^ω^)「ほほう……で、何か新しく分かったのかお?」

('A`)「おう、全然進展なしだぜ!」

うん、実に頼り甲斐のある主張だ。
肝心の内容を除いてだけど。
こうはっきり宣言されると、逆に格好いいと錯覚してしまうのが怖い。

('A`)「ったく、ストリートの人間てのは本当に調査しづれぇな」

……何やら訴えるような眼差しが向けられたが、ここは無視する事にする。


( ^ω^)「それじゃ、せめて僕達には先に教えて欲しいお」

('A`)「あー……じゃあ、ジョルジュを呼んでくれ。
   ショボンは今いねぇからな、お前らにだけでも言っておくか」

( ゚∀゚)「呼んだッスか?」

('A`)「はえーよボケ」



12: ◆zS3MCsRvy2 :2007/11/12(月) 01:03:03.19 ID:tPx7iKFa0
――――いつの間にか、ジョルジュは僕達の傍に来ていた。
全く気付かなかった。どんなトリックだよ。

('A`)「お前、どこにいやがったんだ」

( ゚∀゚)「まあ細かい事はいいじゃないスか。それより、早く教えてくださいよ」

催促するジョルジュ。こういう場面だと、妙に頼もしい。


('A`)「……チッ、何かすげぇ嫌なんだが……。
   まあアレだ、簡単に言うと殺人鬼は女だったんだよ」


犯人は女。
そう知らされて、僕は完全に意表を衝かれた。
猟奇殺人を犯すぐらいなのだから、てっきり男だろうと推測していたからだ。

(;^ω^)「女ってホントかお……ちょっとびっくりだお」

('A`)「ああ、俺も驚いたさ。
   しかもこんなちっこい女だったんだぜ? 焦るっつーの」

ドクオは手を宙にかざし、身長を表そうとしている。
それを見る限りでは、殺人鬼は僕よりも20cm程背が低いという事になる。



13: ◆zS3MCsRvy2 :2007/11/12(月) 01:05:57.55 ID:tPx7iKFa0
ますます意外だ。

( ^ω^)「むぅ……予想外な事ばかりだお」

困惑と動揺を誘う出来事が一気に押し寄せてくる。
僕はただ適当に頷くだけで、未だにドクオの話を信じられないでいた。


――――しかし、ジョルジュは僕とは違う反応をしていた。

( ゚∀゚)「……」

チラリとジョルジュに目を遣ると、
変に思い詰めたような、形容しがたい表情を顔に張り付かせていた。

笑っているようにも見える。
困っているようにも見える。
――――そして恐らくは、そのどちらでもない。

( ^ω^)(おっ、一体どうしたのかお?)

訝しく思ったが、何だか話し掛け辛いと感じてしまった。
その理由は、ジョルジュの放つ無言の圧力。
一本の線のようになって、僕の肌に鋭く突き刺さってくる。



14: ◆zS3MCsRvy2 :2007/11/12(月) 01:08:48.41 ID:tPx7iKFa0
( ゚∀゚)「ドクオさん――――そいつ、何て名乗ってましたかね?」

('A`)「んー、確か『シンガン』とか言ってたな。
   つっても愛称だとか、ふざけた事を吐かしてたけどよ」

( ゚∀゚)「……そうッスか」

時間差のある返事。
幾度か頭の中で咀嚼を繰り返したのだろう。


( ゚∀゚)「スンマセン。そいつの調査、俺に任せてくれないスかね。
    警察に報告する前に、ちょっとやりたい事がありましてね」


ジョルジュは真っすぐに瞳を向けて、
突飛な言葉に戸惑いを見せるドクオにそう懇願した。

('A`)「いやいや、何でまた――――」

( ゚∀゚)「もう決めましたよ。俺はこいつを追います。
    こいつの事件は俺が受け持つッス」



15: ◆zS3MCsRvy2 :2007/11/12(月) 01:11:05.36 ID:tPx7iKFa0
強引に話を打ち切り、ジョルジュは席を離れて自分のデスクへと行ってしまった。


(;^ω^)「おー……」


――――どういう事なんだろうか。
軽く頭を捻る。
僕の目にはジョルジュの行動の全てがおかしく映ったし、
僕の耳にはジョルジュの発言の全てがおかしく聞こえた。

第一、不自然だ。
いきなり真剣になって「俺にやらせてくれ」と頼むだなんて。
普段は決してそんな殊勝な事は言い出さないのに。

訳が分からない。
何があってそんなに固執しているのか。


('A`)「……意味分かんねぇ。何必死になってやがんだ、アイツ」

それはドクオも同様なようだ。



17: ◆zS3MCsRvy2 :2007/11/12(月) 01:13:18.69 ID:tPx7iKFa0
黒革の椅子に腰掛けたまま、少し遠くにいるジョルジュの顔を観察する。

先程は微妙な表情を作っていた。
言い換えれば繊細。
ふとした事で揺らいでしまいそうな感情が顔に出ていた。


――――けれど今は、嬉々として嗤っているように見える。


見間違いだろうか。
理由も無く、出来る事ならそうであって欲しいと無自覚に願ってしまった。



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