( ^ω^)は霊探偵になったようです

31: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 01:39:37.98 ID:Z+qiXqpa0




また声が聞こえる。


しかし、今回はいつもとは違った。
明確に聞こえる。自分の名を呼ぶ声が。

ようやく声の正体が掴めるのか。
それとも、やはり幻なのか。

それはこの時点では分からなかった。

分かっているのは、もう朝が来たという報せと、
自分が睡眠から解放されている事の証明のみ。


そんな事を寝ぼけた頭で考えながら、目を覚ますと――――。



32: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 01:41:46.66 ID:Z+qiXqpa0
( ><)「ブーンさん、いい加減起きるんです!」


(;うω^)「うおぉっ!?」




――――目の前に現れたのはワカンナインデスだった。

同時に、先程聞こえた声の正体が彼であった事もブーンは理解した。



34: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 01:44:25.20 ID:Z+qiXqpa0
(;^ω^)「びっくりしたお。驚かすなお」

( ><)「こんな時間まで眠ってたブーンさんが悪いんです!
      もう昼前なんです!」

(;^ω^)「mjd?」

( ><)「マジなんです!」

辺りを見渡すブーン。
成程、日はすっかり昇って朝はとうに過ぎてしまっている事が容易に分かる。


(;^ω^)(やっぱり目覚ましの声がないとダメだお……)


ぽかぽか陽気に再び眠気を覚えながら、呑気な考えを浮かべる。
そんなブーンを、ワカンナインデスは「やれやれ」と言った様子で見つめた。

( ><)「早くみんなの所に行くんです! 大事な話があるんです!
      ……あっ、それと、今日は朝ごはん抜きなんです!」

(;^ω^)「あうあう、そいつは厳しいお」



35: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 01:47:31.42 ID:Z+qiXqpa0
( ^ω^)ノ「おいすー。今起きたおー」


遅刻をした。それは最早仕方のない事実。
だが言い訳をするのは火に油を注ぐようなものだ。
ここはいつものように明るく、気さくに話しかけるのが得策。

歩いている間に少ない脳ミソで考えたブーンなりの結論だった。


(#<●><●>)「遅すぎるという事は分かってます」

(#*‘ω‘ *)「トロいっぽ! 流石の私も怒るっぽ!」

二人の目が一斉にブーンに向けられる。
遅い、ぬるい、トロくさい、自堕落、ノロマ。
あらん限りの罵倒と不満の言葉をぶつけた。

(;^ω^)「正直すまんかった」

予想以上の罵声。
彼はただ、お茶を濁しつつ謝るだけだった。



37: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 01:50:55.13 ID:Z+qiXqpa0
( ^ω^)「――――ところで、大事な話ってなんだお?」

必死の弁解を終えた後でブーンが尋ねる。
遅刻の対応を考えている間も、その言葉がずっと脳裏から離れなかった。

( ><)「あっ、その事なんです!」

思い出したようにぽん、と手を叩く。
一度深呼吸をし、焦りを抑えながら口を開いた。

( ><)「凄く大変な事なんです! 聞いて欲しいんです!」

( ^ω^)「もったいぶらずに早く言うお」

( ><)「えー、こほんこほん。それでは言うんです!
      ……実はです、ブーンさんが付けられてるみたいなんです!」



38: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 01:53:52.73 ID:Z+qiXqpa0
( ^ω^)「付けられてる? 僕が?」

(;><)「そうなんです! きっと別のグループに狙われてるんです!
      あ〜おっかないんです! きっと集団で襲うつもりなんです! あわわ!」

( ^ω^)「おっおっwwwwww全然問題ないおwwwwwwww」

(;><)「へっ?」

大声で笑うブーン。
その意外な反応に、恐れ戦くワカンナインデスは拍子抜けした声を出した。

( ^ω^)「狙われていたとしても、僕に勝てる奴なんかこの辺りのストリートには居ないお。
      ……それに、丁度退屈していた所だお。返り討ちにしてやるお」

そう言って指の骨を鳴らす。
最初は「ポキリ」と小気味よい音だったが、次第に「ボキリ」と重い音に変わっていった。
ちんぽっぽはそれを見て、どこか嬉しそうにブーンに語りかけた。

(*‘ω‘ *)「何だかんだで、やっぱりブーンも喧嘩したいと思ってるんだっぽ」

( ^ω^)「いんや、そいつは違うお。
      僕たちの平和を邪魔する者は、誰であろうと許さない。ただそれだけだお」



40: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 01:56:31.26 ID:Z+qiXqpa0
力強く、自らの意志を言い切った。


(*‘ω‘ *)b「それでこそブーン、だっぽ」

グッ、と親指を突き立てる。
ちんぽっぽは少年の想いの込もった言葉に頼もしさを覚えた。

( ^ω^)「……でも、思いっ切り暴れたいっていう気持ちも少しはあるおw」

( <●><●>)「それもまた、ブーンさんらしいと思います」

手を組み、黙っていたワカッテマスも口を挟んだ。
その顔には僅かに笑みが浮かんでいる。
聞き手に回り、自分たちのリーダーの決断に従う。それが彼のポリシーだった。



(;><)「なんか僕だけ置いてけぼりなんです!」

会話から取り残されたワカンナインデスは、一人疎外感を感じていた。

( ><)「でも、ちょっと安心したんです!
      確かに、ブーンさんが負ける事なんて有り得ないんです! 心配して損したんです!」



41: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:00:05.96 ID:Z+qiXqpa0
ハハハ、と四人が笑う。


しかしただ一人、ブーンだけは心の底から笑ってはいなかった。
どうも引っ掛かる部分がある。

( ^ω^)(僕を他所の奴らが狙う……?)


それは有り得ない事だ。
自分が負ける事と、どちらが有り得ないだろう。

この辺りで自分の名を知らない者はほとんどいない。
「化け物」、それがストリートでの通り名。

実際、これまでにも無謀な勝負を挑んできた連中は数多いたが、
誰一人、傷をつけることすら叶わなかった。

――――それにも拘らず、だ。
今更自分を攻撃しようと考える人間がが、果たしているのだろうか。


ブーンの頭の中を駆け巡る思考は、結局最後まで答えを弾き出す事はなかった。



42: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:03:23.38 ID:Z+qiXqpa0
( ^ω^)(まっ、どっちにしろ問題ないお)

そう、問題ない。
誰が相手だろうと、絶対に勝てる自信があるのだから。
むしろゾクゾクさえしてくるぐらいだ。

新しい果敢なる挑戦者。
その存在を知り、ブーンはある種の興奮を覚えていた。


( ><)「あっ! もう一つ言う事があったんです!」

再びぽん、と手を叩くワカンナインデス。

( ^ω^)「まだあるのかお?」

( ><)「お昼ごはんはカレーなんです! 僕が作ったんです!」

そう言って胸を張り、ガスコンロの上に置かれた黒ずんだ鍋を見せる。

(*^ω^)「ktkrwwwwwwwwwwww」

テンションMAX、先程までの熟慮もどこへやら。
朝から何も口にしていないブーンは更に大きな興奮を覚えた。



43: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:06:09.06 ID:Z+qiXqpa0
( ^ω^)「ふぃー、腹いっぱいだお」

膨らんだ腹を撫で、満足げに食後の感想を言うブーン。

( ^ω^)「それにしても、よく準備できたお」

( ><)「材料は捨てられる物ばかりだったからタダなんです!
      ちょっと賞味期限を過ぎただけで捨てちゃうのは勿体無いんです!」

(*‘ω‘ *)「ワカンナインデスの言うとおりだっぽ。
      私たちの生活では、どんな物だって貴重だっぽ」

所々ヒビの入った皿を米一粒すら残されていない程に綺麗にし、
感謝しながらカレーを食べ終えたちんぽっぽが、しみじみとそう言った。

ワカッテマスはその言葉に、静かに「うんうん」と頷いた。

( ^ω^)「本当にそうだお。贅沢なんて言えないお。
      こうして生きられることに感謝しないといけないお。
      ……それだけで、幸せな事なんだお」



44: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:08:49.54 ID:Z+qiXqpa0
幸せ。
それは今この瞬間瞬間だ。

決して崩れる事のない、平和で穏やかな時間と空間を、
こうして仲間と共有して過ごす。

それが幸せな事なんだ。


ブーン流の哲学を、三人の前で語った。


( ><)「偶にはいい事を言うんです!」

( <●><●>)「本当はちゃんとしていることぐらい、分かってました」

(*‘ω‘ *)「ただこれが長続きしないのが難点だっぽ」

(;^ω^)「おまいらひでぇwwwwwwwwww」



45: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:11:49.98 ID:Z+qiXqpa0
(*‘ω‘ *)「大体、本気でそう思っているんなら遅刻なんかしたりしないっぽ!」

(;^ω^)「ちょ、まだ言うかお」

ブーンに詰め寄り、再度遅刻を咎める。

(*‘ω‘ *)「今日一日ずっと言い続けるっぽ! 罰として夕ごはんはブーン一人で貰ってくるっぽ!」

( <●><●>)「いいアイデアです。流石はちんぽっぽさん」

(*‘ω‘ *)「褒められると照れるっぽw」

きゃっきゃと喜びながら、赤くなった顔を隠すちんぽっぽ。

(;^ω^)「……分かったお、やるお」

観念して、相応の罰ゲームを受け入れた。


そしてもう一人。

(;><)「仲間外れにしないで欲しいんです!」

またも話に入れなかった少年が、切実に叫んだ。



46: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:14:27.96 ID:Z+qiXqpa0
( ^ω^)「それじゃ、僕は早めに行ってくるお」

ゆっくりと腰を上げ、軽く体をほぐした後、ブーンは出発を決めた。

(*‘ω‘ *)ノシ「気を付けるっぽ!」

( ><)「背後に誰かの存在を感じたら、すぐに帰ってくるんです!」

( ^ω^)「おk、夕方には帰るお」

一旦別れを告げ、ストリートを出ていくブーン。
リーダーの背中を、やはりどこか不安げに三人は見守った。



48: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:18:00.38 ID:Z+qiXqpa0
( ><)「……ブーンさんはああ言っていたけれど、やっぱり心配なんです!」

ブーンの姿が見えなくなったところで、ワカンナインデスが口を開いた。

(*‘ω‘ *)「うーん、まぁブーンなら大丈夫だと思うっぽ」

( ><)「でもブーンさんを狙うぐらいだから、きっと凄い奴なんです!」

( <●><●>)「僕もそう思います」

ワカッテマスも賛同する。

( <●><●>)「恐らくですが、相当腕に自信のある人物であると思われます」

冷静な意見。
ちんぽっぽは「ふむ」と頬を触り、彼女なりの意見を伝えた。

(*‘ω‘ *)「だけど、心配してもしょうがないっぽ。
      もしブーンが自分以上に強い相手に襲われたとしても、
      ブーンが敵わない相手に私たちが勝てるはずがないっぽ。
      私たちに出来るのは、ブーンを信じる事だけだっぽ」

そう言うと、他の二人も頷いた。
これ以上の結論には辿り着けなかった。



49: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:21:13.33 ID:Z+qiXqpa0
三人が自分の居ない所で心配している事も知らずに、
ブーンは意気揚々とコンビニを目指し、メインストリートを歩いていた。


( ^ω^)「ふんふ〜ん♪」

適当に即興で作曲した鼻歌を歌う。
粗末な服装に反した陽気な姿は滑稽であった。

更に奇妙に思える光景は、
とても強そうには見えない少年を、厳ついゴロツキ共が顔を伏せて避けて歩いている事。

その事がブーンにはひどく不快に感じられた。
人から避けられて喜ぶ人間など、この世界に存在しない。

( ^ω^)(まっ、言い方は悪いけど有名税みたいなもんかお)

すれ違う人々の表情を伺いながら、ブーンは心の中で呟いた。



51: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:26:25.27 ID:Z+qiXqpa0
徐々に暮れていく日。
ブーンは目的地へと向かう途中、
雑居ビルの間に何か―――不確かな違和感を感じ取った。


見えた物は、人影。


( ^ω^)「おっ?」

あの辺の道はストリートとして認知されていたかどうかを、ブーンは記憶を頼りに導き出す。
彼が知る限り、そんな事はなかった。
あんなに細い道が生活区として成り立つ訳がないからだ。

( ^ω^)(何か気になるお……)

ワカンナインデスの言葉を思い出す。


『……ブーンさんが付けられてるみたいなんです!』


こんなにも早く現れるものなのだろうか。
――――或いは、疑心暗鬼に陥っている自分が見た幻影かも知れない。

それを確かめるべく、ブーンは人影が見えた場所に近付いていった。



53: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:30:49.18 ID:Z+qiXqpa0
( ^ω^)「確か……この辺りに……」

悟られないよう、こっそりとビル付近にまで近寄り、
物音がしない事を確認すると、キョロキョロと周囲を見渡した。

埃にまみれ、人気の感じられない狭く暗い空間。
ブーンは標的を睨みつける鷹のような目で探索する。


( ^ω^)「……むぅ、どうやらいないようだお」

しかし、それも徒労に終わった。
視界に捉えていたはずの影は既に消えていた。

( ^ω^)「何だお、気のせいだったのかお。
      気のせいじゃなかったとしても、僕には関係のない事だったのかもしれないお」

ブーンはそう、信じ込むように、思い込むように自分に言い聞かせた。

だが胸騒ぎは収まらない。
鳴り響く鼓動が自らの耳にも届いた。



55: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:34:11.94 ID:Z+qiXqpa0
疑念。疑惑。
払拭不可能、それどころかますます勢力を増していく感情。

( ^ω^)「……とりあえず、当初の目的を果たすお。みんなが腹を空かせて待ってるお」

強引に諦めてその場を後にする。
もう一度だけ振り返るが、細い路地には何も変わった所はない。
自分が蹴り飛ばした石がいくつか転がっているだけだ。


モヤモヤとした気分で、ブーンはまた大通りに戻った。

( ^ω^)「…………」

歌っていた鼻歌を止め、思考を巡らす。
見つけ出した答えは、結局何も変わっていなかった。

( ^ω^)(どちらにせよ、問題ない事だお)


――――そう。
問題など、最初からないのだ。



57: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:37:34.68 ID:Z+qiXqpa0
ふと空を見上げると、陽光が随分淡くなっている事に気が付く。

( ^ω^)「さっさと用事を済ませるお!」

虚ろな少年は顔を二回パンパンと叩き、気分を入れ替える。
今心配しなくてはいけない事は、夕食にありつけるかどうかだ。

(;^ω^)(あー、もしダメだったら後で怖いお……)

いくら捨てられる物とは言え、譲ってもらえるかはその時の店員の気分次第。
相手が誰であろうと態度は平等。その強弱に拘らず、だ。
それはブーンとて例外ではない。

その日暮らしのストリートの人間にとっては毎日がスリルである。

(;^ω^)(僕一人だと成功率低いんだお。店の人はシビアだお)

そんな風に思案しながら、
ブーンはメインストリートを重い足取りで進んだ。



58: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:41:16.89 ID:Z+qiXqpa0


「――――ちょっとちょっと、危ねぇッスよ!」


ブーンが探っていた路地を挟む建物の裏側。
痺れを切らした男の声が響いた。
あくまで、静粛を保ったままで。

「あれほど自重してくれって言ったじゃないスか!」

「いやいや、すまんな」

今度は、別の男の声。

「没頭し過ぎて、ついうっかり我を忘れていた」

「うっかりって……駄洒落じゃないッスけど、しっかりして下さいよ」

「ああ、分かった分かった。次からは気を付けるさ。
 ……だがな、接近したおかげで分かった事もあったぞ」

インクの大分減ったボールペンを握り、
雑な字でメモを取りながら、ニヤリとほくそ笑む。



59: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/04(火) 02:43:58.86 ID:Z+qiXqpa0
「ほぉ、何スか?」

軽い口調で聞く。
メモを書き終えた男は、ニヤケ笑いを堪えながら答えた。

「あの飢えた目……。
 間違いないな、俺の考えていた通りだった」

「……つーことは……ッスね……」

「依然、計画に変更なし。明日以降も監視は続行だ。
 回りくどい事は承知だが、我慢してくれよ。
 ――――時が満ちるまで、な」



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