( ^ω^)は霊探偵になったようです
- 3: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 21:37:28.84 ID:DrprLDua0
- 3
夕日が赤々と燃えている。
大通りを行き交う人々の歩みは速い。
彼らには、彼らの生活がある。
金銭を得るために、地道な作業を駆け足で行っているのか、
はたまた、食料を求めて東奔西走しているのか。
どちらにせよ、明日なき者達は今を生きるために走り回っている。
夢と希望などそこにはない。あるのは現実と渇望だけ。
それがこの荒廃した街の全てだ。
――――ただそんな環境にあっても、
一つの薄暗いストリートから聞こえてくる声は、その明度に反して愉快だった。
- 7: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 21:39:53.74 ID:DrprLDua0
- ( ><)「――――あの、誰かダイヤの9持ってないんですか?」
( ^ω^)「ないお」
( <●><●>)「同じく」
(*‘ω‘ *)「残念。みんな持ってないみたいだっぽ」
(;><)「そんな訳ないんです! わざと止めてる人がいるんです!」
ワカンナインデスが猛る。
その声はストリートを囲む建造物の壁に跳ね返り、
茜雲を引き連れた空の彼方へと昇っていった。
- 15: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 21:42:27.32 ID:DrprLDua0
- 四人は七並べに熱中していた。
きっかけは、今朝ワカンナインデスが拾ってきた古惚けたトランプ。
幸いにもカードの欠損はなく、滞りなくゲームを楽しむことが出来た。
とは言え、裏面の傷で多少なりともカードの種類が読めてしまうのが難点だが。
(*‘ω‘ *)「〜♪」
(;><)(絶対ちんぽっぽちゃんが持ってるんです……!
僕の手札がダイヤばかりなのを分かってるんです!)
じとりと手持ちのカードを睨む。
自分を除く三人の残り枚数は二枚。
一方、自分は四枚も残っている。
そのうちの三枚が連続したダイヤのカードであり、大きな枷となっていた。
- 18: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 21:45:10.61 ID:DrprLDua0
- ( ><)(ここはちんぽっぽちゃんが切る時をじっくり待つんです!)
ブーンが一枚並べ、これで場に出されていないカードは九枚。
ここまで進めばやむを得ず切るしかないという場面が来るだろう。
ただその時を、ワカンナインデスはじっと堪えて待ち続けた。
(*‘ω‘ *)「私はスペードの12を出すっぽ」
( <●><●>)「では、その13を出します」
( ><)「パスなんです!」
( ^ω^)「最後にダイヤの9並べて上がりだお」
(;><)「アッー!!」
- 22: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 21:48:32.55 ID:DrprLDua0
- ワカンナインデスの戦いはそこで終了した。
例え三枚のダイヤを並べたとしても、
残る一枚が隅に置くクローバーのAでは勝ち目がない。
案の定、クローバーの2はワカッテマスが最後の一枚として切るまで場に出なかった。
(;><)「下家のブーンさんが持っていたとは、分かんなかったんです!」
悔しがるワカンナインデスをよそに、
勝者である三人は、何を企んでいるのかにやにやと笑っている。
(*‘ω‘ *)「負けた者には罰ゲームだっぽ!」
( ^ω^)「断罪! 断罪!」
(*‘ω‘ *)「それでは、ブーンさん張り切ってどうぞ!」
( ^ω^)o彡゜「必殺! 二週間穿いたパンツto顔面の刑だお!」
(;><)「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
彼の絶叫は、今度はどの空まで昇っていっただろうか。
- 25: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 21:51:06.35 ID:DrprLDua0
- (*‘ω‘ *)「……さて、そろそろ食べる物を探さないといけないっぽ」
ちゃっちゃと散乱したトランプを整え、ボロボロのケースにしまいながら話を切り替える。
現在の時刻は午後五時半。
彼女の腹時計は腕に巻いた時計よりも正確だった。
( ^ω^)「おっおっ、ここはやはりワカンナインデスが行くべきだお」
(;><)「何で僕なんですか!」
(*‘ω‘ *)「それはやっぱり」
( <●><●>)「敗者ですから」
(;><)「……何も言い返せないんです!」
観念するしかない、といった空気。
ワカンナインデスは「諦める」という選択肢か残されていない事を察した。
(;><)「分かったんです、行ってくるんです……」
- 29: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 21:53:35.09 ID:DrprLDua0
- ワカンナインデスが尻をはたきながら立ち上がる。
理不尽さに不満をぶつくさと呟いて。
その時だった。
ざさん。
彼らのストリートに、砂利を踏み締める音が響いた。
「おい、『化け物』はいるか」
今度は野太い声。
ブーンが音の出所に目を向けると、そこには二人組の男が立っていた。
( ^ω^)「何の用だお?」
息を潜め事の成り行きを見守る三人を庇うように、
二人組の前に立ち塞がり、全くと言っていいほど表情を崩さずに返事をするブーン。
その態度が癪に障ったのか、ガタイのいい方の男は更に声を荒げた。
- 30: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 21:56:40.19 ID:DrprLDua0
- 「おーおー、丁度いいじゃねぇか。化け物さんが直々に挨拶してくれるとはなぁ。
いろいろと面倒が省けてラッキーだぜ」
( ^ω^)「だとしたら何だお?
僕はお前みたいにお友達連れでないと来られないような奴に興味はないお」
「あぁっ!?」
挑発を受け、憤怒を露にする。
怒髪天を突くと言うが、男のそれはまさに空を突き刺さんとばかりに熱り立っていた。
当然、誇張した表現だが。
「兄貴、落ち着いて下さいよ。俺達の目的は口喧嘩じゃねぇッス」
「おっ、おお、そうだな」
見るからに小物臭のする小柄な男が宥める。
「そうッスよ。俺達の目的は――――ガチの喧嘩ッス」
一転して煽る。
その様は調教師を思わせた。
が、あくまでも猛り狂わせることだけに特化している。
- 32: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:00:44.08 ID:DrprLDua0
- ブーンはその様子をキッと一瞥した。
こいつらが自分を付けていた人間だろうか。
だとしたら不自然、その辺に転がっているチンピラと大差ない。
( ^ω^)(雑魚くせぇwwwwwwっうぇwwwwwwwwww)
心の中で嘲笑する。
むしろ、気に掛けていた自分を嘲笑いたいぐらいだ。
――――だがもしも。
本当に、自分に勝つ自信があって来たのだとしたら。
(;><)(ヤバイ雰囲気なんです!)
( <●><●>)(そんな状況なのは、分かってます)
(*‘ω‘ *)(……どうするっぽ? ブーン)
ひそひそ声で喋る三人を振り返り見て、ブーンは軽く微笑んだ。
( ^ω^)「……問題ない、お。僕に任せておくお」
- 33: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:03:46.15 ID:DrprLDua0
- ブーンは正面を見据え、嘲るピエロのように男を挑発する。
( ^ω^)「喧嘩? 僕と?
こwwwれwwwはwwwwwww久々の馬鹿ktkrwwwwwwwwwww」
「……何だと」
( ^ω^)「寝言は寝て言えお。身の程を知る事がストリートで長生きするコツだお」
「ほう、どっちがだろうな」
対峙する二人。
体中を駆け巡る熱を抑えながら、ぎこちない冷静さで男が対応する。
ブーンは男を睨み、男もブーンを睨んだ。
互いの導火線に火を着ける合図として、それは十分過ぎた。
「上等だこのガキャア!!
舐めてんじゃねぇぞ、かかってきやがれ! ぶっ殺す! !!」
(#゚ω゚)「こっちの台詞だおおおおお!!」
- 36: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:06:47.13 ID:DrprLDua0
- 燃え盛る炎。
煮え滾る血
この灼熱はどこから湧きあがってくるのか。
それは本人にも分からない。
沸点。
人の怒りの限界点としてしばしば例えられる。
このブーンという少年は、常人と比べ沸点が高く定まっている。
口は少々悪いが、滅多な事では本気で怒りの感情を見せない。
挑発や威嚇をする事はあれど、基本的に柔和で温厚、それが普段の彼だ。
だが沸点が高ければ高いほど、
噴き上がる気は、より熱くなる。
- 38: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:09:20.41 ID:DrprLDua0
- (#゚ω゚)「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
高揚したブーンの雄叫びが響き渡る。
同時に、体に異変。
ストリートの空気が一変した。
中肉中背、お世辞にも強そうには見えない身体が異形へと変わっていく。
全身の筋肉が瞬く間に強化され、
かつ、無駄のない彫刻の如く洗練された肉体へと研ぎ澄まされていった。
何よりも異質なのは、両手に光る獣のように鋭く尖った爪。
まさに、凶器。
そう呼ぶのが相応しい。
その姿は人間であって、人間ではなかった。
- 41: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:13:42.36 ID:DrprLDua0
- 「おい、おっ、お前、それ……どうなってやがんだ!?」
自分を血走った目で睨みつける獣を前に、男が無意識にたじろぐ。
圧倒的な威圧と緊張のオーラ。
貧弱だった少年は今はもういない。
目の前にいるのは――――化け物としか言いようがなかった。
( ゚ω゚)「……最初に伝えておくお」
「な、何だ!?」
( ゚ω゚)「僕は手加減が出来ないお。
もしかしたら――――本当に殺してしまうかもしれないお」
ダラリと下げた右腕を前に突き出し、警告。
怒りを限界まで自制する彼なりの優しさなのかも知れない。
しかし、最後の親切は沸点に達する事の兆しだ。
(#゚ω゚)「いくおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
気合を込めた叫びを皮切りに、ブーンを覆う熱は爆発した。
- 42: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:16:40.39 ID:DrprLDua0
一瞬の出来事。
ちんぽっぽ達に捉えられただろうか。
ブーンは腕をただ一度、薙ぎ払っただけだ。
が、「ただそれだけ」で男は数m程後ろに吹き飛ばされた。
あまりにも速く、重い一撃。
強烈な裏拳を顔面に喰らい、叫ぶ事も出来ず呻く。
歯は折れ、鼻の骨は砕け散り、顔からは夥しい量の血が流れていた。
「グハァッ、ハァッ! ガッ……!」
( ゚ω゚)「今のは手の甲での打撃だお」
「ひぃっ! く、来るな!」
倒れた男に近寄り、ブーンは宣告した。
( ゚ω゚)「もしこれ以上、僕とやり合うつもりなら……。
……次はこの爪で引き裂いて、二度と世界を見られなくしてあげるお」
- 44: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:20:33.86 ID:DrprLDua0
- 凍るような声。
いや、事実として空気は凍りついている。
噴射されるブーンの熱で。
「――あっ――あぁ――――あぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」
恐怖のあまり、気圧された男は悲鳴を上げる。
断末魔の叫びとはこの事を言うのだろう。
( ゚ω゚)「どうしたお? 喧嘩が望みじゃなかったのかお?」
じりじりと歩み寄る。
男はその度に震え上がり、血を零しながら怯えた声を漏らした。
( ゚ω゚)「顔が滅茶苦茶になってもいいのなら、さっさと立ち上がるお」
「ひっ……」
( ゚ω゚)「まだやるつもりなら、いくらでも相手してあげるお」
ゴキリ、とブーンが指の骨を鳴らす。
まるで本当に骨が砕けたかのような、鈍く痛々しい音。
熱を帯び、それでいて冷酷な瞳で男を睨んだ。
- 45: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:23:42.84 ID:DrprLDua0
- 「……っああああ!! もう見逃してくれ!!」
男は情けなく叫ぶと尻を付けたまま不格好に後退りし、
痛みを堪え立ち上がると、振り返る事なくおぼつかない足取りで逃げ出した。
「ちょ、兄貴!」
「とっととずらかるぞ! こいつマジで化け物だ!
――――クソッ、やっぱやるんじゃなかったぜ!」
その逃げ足たるや、脱兎の如し。
負け惜しみなのか、去り際に惨めな文句を吐き捨てて立ち去った。
ひび割れたアスファルトに足跡以上にくっきりと血の跡が残されている。
大地に落ちた赤はこの上なく汚らわしい。
少なくとも、ブーンにはそう思えた。
- 46: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:26:04.50 ID:DrprLDua0
- 夕日が沈むよりも早く、決着は着いてしまった。
ブーンが一息吐くと、爪は縮み肉体は元に戻り、
鬼神の如き表情は一転して笑顔になった。
空気が再びガラリと変わった。
今ストリートを包んでいる空気は、先程とはうってかわって穏やかだった。
( ><)「流石なんです! 一瞬すぎてよく分かんなかったんです!」
二人組の影が見えなくなると共に、身を潜めていたワカンナインデス達がブーンに駆け寄った。
(*‘ω‘ *)「いい暴れっぷりだったっぽ。久々なんで勘が鈍ってないか心配したっぽ」
( <●><●>)「ですが、杞憂でした」
( ><)「これでもう安心なんです!
あの程度でブーンさんに喧嘩を挑むだなんて一万年と二千年早いんです!
なんか拍子抜けしちゃったんです!」
- 47: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:29:26.74 ID:DrprLDua0
- 歓喜の声が轟く。
しかし、ただ一人だけ明らかに様子が異なっていた。
( ^ω^)(呆気なさすぎるお……)
興奮冷めやらぬ三人を無視し、ブーンは考える。
ワカンナインデスの言うとおり、あの程度の実力で自分を狙っていたとは信じ難い。
本当に、奴らが自分を付けていた人物だったのだろうか。
( ^ω^)(うーむ、どうにもそう思えないお)
心のモヤモヤ感が取れない。
自分を尾行して、監視までしていた人間が何の策も無しに現れる訳がない。
これは恐らく想定できる範囲の、表向きの出来事。
まだ裏が隠されているはずだ。
ブーンは熟考する。
存在していないのか。もっと何か、確固たる証拠が――――。
- 49: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:32:24.11 ID:DrprLDua0
- ( ゚ω゚)「――――っ!!」
見えた。
今度は、はっきりと。
ストリートの交差点に人影。
姿をちらつかせると、すぐに立ち去っていった。
あの日、大通りを歩いている時に見た人影だろうとブーンは即座に判断する。
手口は同じ、建物の陰から覗かれていた。
( ゚ω゚)(一部始終を観察していたのかお……?)
顔はよく見えなかった。
背格好も正確には分からない。
けれども、「存在」は確認出来た。
ブーンにとって、それは十分に確証足り得た。
- 50: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:35:22.50 ID:DrprLDua0
- ( ω )「……みんな、ちょっと待っていて欲しいお」
一言言い残し、駆け出す。
追うなら今しかない、とブーンは決意していた。
夕日は最後の赤を放出している。
夜が近づくにつれ、この街は狂気を増していく。
行方が分からなくなる前に探り当てなければならないのは自明。
ブーンの体は再び熱を帯びる。
(;><)「えっ、ちょっと! どうしたんですか!」
( ω )「悪いお。お詫びに夕ごはんを探して帰るお」
ただ一度だけ振り返り、そう答えた。
- 51: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:39:03.30 ID:DrprLDua0
- ブーンは仲間を残し、赤く染まった街へと走り去っていった。
残されたワカンナインデス達は困惑し、顔を見合わせる。
(;><)「一体何があったんですか!」
(*‘ω‘ *)「分からないっぽ……」
答えを見つけ出せず、黙りこむ三人。
ただでさえ今日は襲撃があったばかり。
その上、更なるブーンの奇妙な行動。
彼らは戸惑いを隠せないでいた。
(;><)「心配なんです! 眠れなくなっちゃうんです!」
(*‘ω‘ *)「いちいちうるさいっぽ。ワカンナインデスが騒いでも仕方がないっぽ。
……でも、やっぱり気になるっぽ」
( <●><●>)「果たして、彼の周りで何が起きているのでしょうか」
(*‘ω‘ *)「そんな分かりようのない事を聞かれても困るっぽ。
でもまあ、ブーンの事だから多分大丈夫だっぽ」
- 53: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:42:51.89 ID:DrprLDua0
- 導き出した答えは楽観的過ぎて、余計に彼らを不安にさせた。
とは言え、それ以上の模範解答は思い浮かばなかった。
どう考えても辿り着く地点は変わらない。
故に交わす言葉はどんどん少なくなっていく。
結果、また沈黙が支配するようになってしまった。
流れる静寂。
だがその静寂はただ一声によって切り裂かれた。
「あのー、ちょっといいッスかね――――」
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