( ^ω^)は霊探偵になったようです

55: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:46:36.12 ID:DrprLDua0




気付いた時にはこうだった。


いつ頃からストリートで暮らすようになったのか、
それすらも忘れてしまっていたのに、そんな事覚えているはずがなかった。

体中を駆け巡る熱。
熱が最高潮に達した時、自分が自分じゃなくなる。
それは手を見るだけで理解できた。
瞳に映る我が身は、奇怪で滑稽で、具現化された恐怖だった。

畏怖を与える爪と肉と血。
周囲からも呼称されたし、自らもそう思うようになった。


ああ、僕は化け物なんだって。



56: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:48:34.48 ID:DrprLDua0
(;^ω^)「ハァ……ハァ……」

ブーンは走り続けていた。

大通りを通り過ぎ、幾多のストリートを巡回した。
全てはあの影を追うため。
流れる汗はさながら道標のようにアスファルトを濡らしていた。


(#^ω^)「いNEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!」


焦りと苛立ちからか、立ち止まって大声を上げる。

既に日は落ち、夜がこの世界を支配している。
闇を照らす光は、ぼんやりとした月明りと、ほんの数基の街灯のみ。

(;^ω^)「まずいお、逃走経路が全く読めないお。
      見失ってしまう前に、せめて足だけでも掴んでおくお」

ブーンは息を切らしながら呟くと、再び走り出した。



57: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:52:05.53 ID:DrprLDua0
瞼の裏に焼き付いた影を分析する。
曖昧な記憶しか頼りにならないが、恐らくあれは成人男性。
また、見えた人影は前回同様一つだけだ。
かと言って、複数犯ではないという確証はどこにもない事もブーンは理解していた。


( ^ω^)「おっ?」

ある程度歩を進めた所で、ふとブーンは足を止めた。
辺りを見渡すと、自分の見知らぬ土地である事に気が付いた。
これまでに来た事のないストリートが張り巡らされている。

( ^ω^)「なーんか、僕の勘がビンビン反応しているお。
      ……大方知っている道は調べ尽くしたし、この辺りを回ってみるかお」

そう言って、少年は一歩を踏み出した。
未踏の地に、少しだけ戸惑いを覚えて。



58: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:55:41.29 ID:DrprLDua0
ブーンは走るのを止め、慎重に歩きながら未知のストリートを探った。

この時間帯、人々は自分達のストリートに戻り各々の生活を営んでいるはず。
――――にも拘らず、人の姿は全く見られなかった。

ちかちかと瞬くように光る街灯。
道の上にはゴミどころか塵さえもなく、生活臭が感じられない。
自分だけでなく、誰もこの通りを知らなかったのではないかとブーンは疑った。

( ^ω^)「誰もここに住んでないのかお。
      つーか、僕のストリートよりも街灯が多いお! 贅沢な!」

ゲシッ、とその一本に蹴りを入れる。
異形と化していない現在の肉体では大した損害を与えられない事を承知の上で、
ブーンは無駄な八つ当たりをした。



61: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 22:59:05.73 ID:DrprLDua0
街灯があるからと言って、決して明かりは十分とは言えない。
僅かな光源は暗闇を薄暗い空間に変えているだけ。

( ^ω^)「大分目が慣れてきたお。
      でも、この暗さじゃくっきりとは見えないお……」


いくつか巡ったところでブーンは歩みを止めた。

(;^ω^)「……と言うより、見つかるのかお?
      なんか無理な気がしてきたお」

キョロキョロと周囲に目を配りながら弱音を吐く。
何処に行ったのかも分からぬまま、勘に頼って探索している。
それはとてつもなく無謀な事ではないかと、ブーンはここに来て改めて思い返した。


(#^ω^)「こうなりゃヤケだお!
      隠れてないで出て来るお! 僕はここにいるおー!」



62: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:01:40.66 ID:DrprLDua0
少年の叫び声が虚しく響いた。
闇夜は決してそれに答える事はなく、深い黒を湛えている。

(;^ω^)「……ムナシス」

はぁ、っと息を吐き、がっくりと肩を落とすブーン。
時計を持たない彼には時刻を知る由もない。
今どこに居るかだけではなく、今何時であるかも不明なまま歩き続けていた。


( ^ω^)「おーい、出て来いおー」

当てもなく呼び掛ける。
我ながら間抜けだ、とブーンは思った。

(;^ω^)「なんか緊張感が逃げていくような気がするお」



63: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:04:39.43 ID:DrprLDua0
( ^ω^)(でも、この辺りにいそうな気がするんだお……)

広い通りに出たところで、一旦落ち着いて考え直す。
暗順応し切れていない目でブーンは再度周りを確認した。



前方を見る。
何もない

左右を見る。
何もない。

後方を振り返る。



――――男の声がした。



64: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:07:42.76 ID:DrprLDua0
「よう、遅かったじゃないか」


(;゚ω゚)「――――!?」

姿は見えていない。
だがはっきりと声を聞き取り、息を飲んで反応する。

「長い距離を歩かせやがって、出来れば早く気付いて欲しかったんだがな」

(;゚ω゚)「お前は誰だお!? いつからそこにいたんだお!?」

「いつからか。そうだな……ずっと、かな」

背筋が凍る。
付けられていたのは過去の事ではない。
今の今までそれは続いていた。

自分が男を「追っていた」つもりが、
実は「追われていた」と言う事に、ブーンはようやく気付いた。



65: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:10:12.96 ID:DrprLDua0
例えようもない恐怖がブーンを襲う。
目の前に――よくは見えないが――立つ男に圧倒されていた。

(;^ω^)(落ち着くお。だからと言ってどうって事はないんだお)

ブーンは高鳴る鼓動を抑え、冷静になろうと努める。


大丈夫。負ける事はない。
何故なら自分は――――。


(;^ω^)(……僕は、化け物、なんだお)


気を鎮めながらも、見えぬ何処かから熱を呼び起こす。
いつ襲われても構わないよう、細心の注意を払いながら。
徐々にブーンの体を焼けるような感触が支配していく。



66: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:13:02.24 ID:DrprLDua0
(;^ω^)「名前を、名前を名乗るお!」

べとついた口で話す。
唇を動かす度にブーンは渇きを覚えた。

(;^ω^)「お前の名を先に聞いておくお!
      早く名乗るお!」

「名を名乗れ、か……」

男がブーンへと近付いていく。
一歩、また一歩と。
暗闇から這い出るように歩み寄って来る。

ちらつく街灯の明かりの下に入ったところで、
男の顔が照らされ、見えなかった物が明らかになった。



(´・ω・`)「その要求に対する返事は、今必要な事じゃないな」



67: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:16:11.08 ID:DrprLDua0
現れた男の顔を見たブーンの感想は、
「意外と普通の人だ」というものだった。

身長は結構あるが、服の上から見て筋肉はさほど無い。
外見からは異様さも怖さもブーンは感じなかった。
ただ、それ以上の何かが少年の気を圧迫している。

(´・ω・`)「さて、今度は俺が尋ねる番だ」

(;^ω^)「……何だお」

男とブーンとの距離は大分狭まっている。
隙を突いて飛び込めば、一気に詰められるであろう程に。


(´・ω・`)「俺よりも若い奴には言いにくい事なんだがな……」

男は頭を掻きながら、かつブーンから目を離さずに、告げた。


(´・ω・`)「――――お前を、始末しても構わないか」



68: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:19:05.43 ID:DrprLDua0
(#^ω^)「ふざけんじゃないおっ!!」

思わず語調を強める。

(#^ω^)「訳分かんないお! お前の目的は何だお!」

(´・ω・`)「目的か。ついでだから言っておくかな」

ブーンの威嚇に微塵も怯む事無く、直視したまま男は答えた。

(´・ω・`)「俺の目的は、お前のような人間の存在を消す事。
     それ以上は蛇足になるから言わないがな」

(#^ω^)「へー、そいつは有難い事だお」

(´・ω・`)「そしてもう一つ、今度はお前にとって良い事を伝えてやる」
     
(#^ω^)「何だお。僕は苛立っているんだお、早く言えお!」

男は今にも突撃せんとばかりに戦闘体勢を構え、口を開いた。

 
(´・ω・`)「俺も、お前と同類だ」



71: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:22:17.58 ID:DrprLDua0
その言葉と同時に、ブーンの熱は臨界を超えた。

(#゚ω゚)「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

闇夜に響き渡る轟音。
獣の如き声と共に、獣の如き体へとブーンは姿を変えていく。

( ゚ω゚)「上等だお……本当に僕と同じなら手加減は一切しないでいいお。
     久しぶりに全力でぶつかる事が出来るお!」

(´・ω・`)「ほう、近くで見ると一段と壮絶だな」

異形を前にしてなお、不気味な程冷静に男は答える。

(´・ω・`)「身体の爆発的強化か……こいつは興味深い」

構えを崩さず、互いに睨み合う。
開始のゴングは二人にしか聴こえない。
そしてその音は、決して耳では感じ取れない音だ。



72: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:24:31.44 ID:DrprLDua0
(´・ω・`)「……いくか」

先手を取ったのは男。

頭を下げ、低い姿勢でブーンの懐に突っ込む。
一撃、様子見とばかりに掌打を放った。
当然の如くそれを見切り、あえてギリギリで回避しカウンターを狙うブーン。

( ゚ω゚)「うおぉっ!」

右腕を思い切り薙ぎ払う。
鋭き爪は弧を描き、男の腹部を裂かんとする。

(´・ω・`)「俺が読めていないとでも?」

――――叶わず、男は易々と身を翻して避け、爪は空を切った。
かわされたブーンは一旦距離を取り、警戒を強める。



73: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:27:07.19 ID:DrprLDua0
( ゚ω゚)「ちぃっ、しくったお」

(´・ω・`)「いや、お前のミスじゃない。単に俺が勝っていただけだ」

(#゚ω゚)「でかい口叩いてんじゃないお!」

挑発の応酬。
視線の先に飛び交う炎は、火花などと言う生易しいレベルではない。
あえて例えるならば、真紅に燃ゆる業火が適している。
二人を包む熱はまさに絶頂を迎えていた。


( ゚ω゚)(一撃で仕留めてやるお……!)

(´・ω・`)(さて、そろそろ真面目にやるか)

偶然にも、いや、必然的に、
彼らが抱いている感情は一致していた。


―――久々に、面白い戦いが出来そうだ―――。



74: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:29:54.82 ID:DrprLDua0
無言で隙を探り合ったまま、数分が経過した。
先に口を開いたのは、またしても男の方。

(´・ω・`)「最初に言ってあったな」

( ゚ω゚)「……何がだお」

(´・ω・`)「俺は、お前と同類だと」

( ゚ω゚)「それがどうしたお!!」

声を荒げる。
男は身動ぎ一つしない。
ただ一点――――ブーンの顔を見つめ穏やかな口調で語り出した。

(´・ω・`)「まあそう急くな。
     俺が言いたいのは、どの点において同じであるか、と言う事だ」



75: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:32:36.64 ID:DrprLDua0
男はゆっくりと言葉を紡いでいった。
辿るように、巡るように。


(´・ω・`)「俺とお前の共通点……。
     それは『霊』が取り憑いている事だ」


( ゚ω゚)「……『霊』?」

常識外れ過ぎる一言。
ブーンはぴくりと肩を動かした。

(´・ω・`)「そうだ。俄かには信じ難いだろうがな」

( ゚ω゚)「信じ難い? 馬鹿言うなお。
     こんな体を持っている僕が、今更そんな事を聞いたって動揺する筈がないお」

体の奥から放っている空気を変えぬまま、ブーンは答えた。

( ゚ω゚)「むしろ、説明が付いていいぐらいだお」

(´・ω・`)「成程、聞分けが良くて助かる」



76: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:35:07.07 ID:DrprLDua0
( ゚ω゚)「で、その霊がどうかしたのかお」

(´・ω・`)「まあ、まあ。落ち着いて聞け」

男は強固な構えを緩め、わざとなのか油断を見せる。
だがブーンは襲う気になれなかった。
それ以上に、男の話に興味があった。

(´・ω・`)「お前の肉体の変化、これは霊が憑いている事による能力の一端だな。
     霊は現世に彷徨う具現化した死者の魂、極端に言うと超常現象だ。
     
     そして、運悪く――――いや、場合によっては幸運な事かも知れないが、
     取り憑かれた人間は、霊から常識を捻じ曲げられる力を授けられる。
     霊自体が超越的な存在だからな。もうその時点で常識は捻じ曲がっている。
     ……詳しい論理は俺にもよく分からんが」

男は淡々と話し続け、途中、ブーンを指差した。

(´・ω・`)「例えばだが、お前のその異様な体。
     爪での打撃を主体とする事から、恐らく熊だか虎だかの獣の魂が宿っているのだろう。
     その霊がお前に与えた力が、『身体の変容』だ」



77: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:37:58.86 ID:DrprLDua0
( ゚ω゚)「ほー、そうかお」

不思議と、ブーンは男の話を受け入れられる事が出来た。
オカルト的でいて、科学的でもある胡散臭い話。

けれども、ブーンが納得する理由として、それはなり得た。


( ゚ω゚)「つまり、あんたと僕には霊が憑いていて、
     その霊が僕達に色々と力を与えている、って事かお」

(´・ω・`)「まあ、簡単に言えばそう言う事だな」

( ゚ω゚)「……じゃあ、あんたにも何か凄い力があるのかお?」

(´・ω・`)「ご名答」

男がニヤリと笑う。
話が早い、と密かに思いながら更に話を続けた。



82: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:41:27.12 ID:DrprLDua0
(´・ω・`)「だが、俺にとって幸いだった事もある」

( ゚ω゚)「幸いって、ここまで来ておいて何がだお」

(´・ω・`)「お前が霊に支配されていない事だ」

( ゚ω゚)「おっ?」

男の言葉に、ブーンは意表を突かれる。

(´・ω・`)「憑いている魂よりも、憑かれた者の魂の精神力が劣っている場合、
     意識と肉体を丸ごと乗っ取られる場合もある。
     俗に言う憑依だな、簡潔に言えば」

( ゚ω゚)「…………」

ブーンは今一度、自分の中の自分を確かめた。

(´・ω・`)「まあ、獣の魂が人間よりも勝っているなんて事はないだろうがな」

( ゚ω゚)「……そうかお」



83: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:44:22.76 ID:DrprLDua0
(´・ω・`)「さて、このぐらいで俺の話はお開きにしよう」

演説は終いだ、とばかりに、
雄弁を振るった政治家のような仕草で上着の襟を整える。

( ゚ω゚)「ちょい待つお。どうしてわざわざ僕に説明したんだお?」

(´・ω・`)「……まあ、俺にもそれなりの考えがあってだな」

ブーンが尋ねると、男は話題をぼやかした。
――――何かを隠している、とブーンは直感する。

(´・ω・`)「そんな事より、今は身の安全を考えた方がいいんじゃないか?」

再び男が戦闘態勢に入る。
闇夜に向かい合う二人。
張り詰めた空気はよりその息苦しい緊張感を増した。


(´・ω・`)「――――さあ、再開だ」



84: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:47:18.73 ID:DrprLDua0
しかし男が口を開くと同時に、今度はブーンが突進した。

(#゚ω゚)「こちらからいくお!!」

急転。

防御を捨て、インファイトに持ち込む能動的な戦法こそが、
ストリートファイトで鍛えられた自分の真骨頂。
ブーンはそれを十分に理解していた。

( ゚ω゚)「うらぁっ!」

先制の打撃。
長い爪を活かし、右腕を袈裟斬りのように振り下ろす。
これまでに星の数ほどのゴロツキを仕留めてきた必殺の一撃だ。

(´・ω・`)「よっと」

だが――――男は対応し、バックステップを踏んで回避する。
回避際に、無防備になった顔面を狙って前蹴りを放った。



85: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/05(水) 23:49:54.67 ID:DrprLDua0
( ゚ω゚)「っ!!」

避けきれず、男の足先がブーンの頬を掠めた。
ダメージは微小。
しかし先に攻撃を受けた事で、ブーンの頭の中を「劣等」の二文字が過る。


(´・ω・`)「どうした、怖気付いているのか?」

(#゚ω゚)「舐めるなおぉぉ!」

再度、突進。
今度はアッパーの要領で右手の爪を振り上げる。

男はまたも回避。

だが、これはあくまでも罠。

( ゚ω゚)「はぁっ!!」

振り上げた右腕の脇の下から、左腕を勢いよく伸ばす。
リーチの異なる攻撃に男は対処しきれず、肩に爪が突き刺さった。



91: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:08:02.65 ID:2Y/Hh19e0
( ゚ω゚)「まだまだ!」

一瞬よろめきを見せた男に、ブーンはすかさず追撃を加えていく。

右腕を今度は手の甲から振り下ろした。
男は咄嗟の判断で腕をかざし防御。

(´・ω・`)「――――!」

が、腕力の差で防ぎ切れず衝撃と共に後方へと押し戻された。


(´・ω・`)「……成程な、確かに化け物級の腕力だ」

この状況に置かれてなお、男は涼しい顔で戦況の分析をする。

( ゚ω゚)「どうしたお? 僕を倒すんじゃなかったのかお」

(´・ω・`)「無論、そのつもりだ。
     しかし予想外だったな。これ程の力とは」

左肩から流れる血を乱暴に拭い、男は構え直してブーンを睨みつけた。

(´・ω・`)「――――俺も、そろそろマジになるか」



94: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:11:15.50 ID:2Y/Hh19e0
二人が同時に相手の元へと突っ込んだ。

先にブーンが右の爪を突き出し、男が体の翻し方のみで回避する。
ブーンの一撃は重い代わりに、繋がりと柔軟性に欠ける。
その隙を狙って男は素早く拳を振るった。

(´・ω・`)「ほい――ほい――ほいっ、と」

一発、また一発と次々に、かつ的確に拳打と蹴りを打ち込んでいく男。
その上、表情から読み取れるのは余裕。
ブーンが攻撃する暇を与えまいと間髪入れずにラッシュを仕掛ける。

(;゚ω゚)「くぅっ!」

防ぐので精一杯、それどころか防ぎ切れない程の数の打撃にブーンは怯む。
何発かはガードを掻い潜って脇腹に命中した。

( ゚ω゚)(だけど、致命傷となる一撃はまだ貰っていないお!)

それが、唯一とも言えるブーンの勝機。
軽打はいくらでも喰らって構わない。
一度だけでいい、確実に急所を捉えられる攻撃を加えられたならば。



96: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:14:03.48 ID:2Y/Hh19e0
(´・ω・`)「せやっ!!」

(;゚ω゚)「――――ぐぅっ!」

撹乱目的の散打を放った後、男の強烈な正拳がブーンの腹部を襲う。
込み上げてくるような痛みにブーンは顔を歪めた。

しかし、ブーンにも男の攻撃リズムが掴めてきた。

何発かの囮の後、狙ってくるのは顔面もしくは鳩尾始め人体急所。
その際の攻撃は威力を重視している代わりに、大振りで隙も大きい。

( ゚ω゚)(いけるお! 見切れるお!)

痛みを堪え防御に徹し、その瞬間を待つ。
右、左、右、左、右。
次に飛んできたのは、左の軽いジャブ。

( ゚ω゚)(そして次に来るのは、鳩尾を狙う右の正拳突きだおぉぉぉ!!)



99: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:17:39.42 ID:2Y/Hh19e0
確信を持ってガードを胸元に集中させる。
ブーンの読み通り、男の右の拳はそこに向かって飛んできた。

( ゚ω゚)(これを左腕で受けて、右の爪で顔面を切り裂くお!)


勝った。
ブーンは絶対の自信を持って、そう信じた。



――――だが。



(;゚ω゚)「ぐぼぉぉぉっ!?」


男の右腕が靄のような光に包まれ、肘から先が――――消失。
放たれた打撃は消え、何故か後方からの衝撃がブーンの後頭部を襲った。


霞む視界の中で、ブーンは男の顔を見た。
その顔はやはり余裕を崩していなかった。



101: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:20:55.93 ID:2Y/Hh19e0
脳を揺るがす衝撃を受け、膝を地に付けそうになる。
目の眩むブーンは自らの腕を裂き、
噴き出す赤を見て気分を昂らせ、意識を取り戻した。

(;゚ω゚)「な、何だお!? 今の攻撃は!?」

頭を摩りながら、先程起きた出来事を顧みる。
考えれば考えるほどブーンは混乱した。

直線状に飛んで来ていた筈の拳が、突然後ろから出現。
あまりにも非常識で奇妙過ぎる。

が、この現象は、既に説明が付いていた。


(;゚ω゚)(まさか――――)

(´・ω・`)「驚いたか。或いは、肝を冷やしたか。
      これが俺の常識を捻じ曲げる力、多角方位からの打撃だ」



102: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:23:24.69 ID:2Y/Hh19e0
(´・ω・`)「俺は打撃の道筋を完全に変える事が出来る。
     『完全に』、な。どの方角からでも瞬時に変更して攻撃する事が可能だ。
     つまりは腕を消し去り、別方位から出現させ打撃を放てる。
     それはお前が今見た通りだ」

男は右手を優しく撫でながら、只今の解説をする。

(´・ω・`)「リーチは大した事ない上、連発は不可能なのが難点だがな……。
     まあ、贅沢な悩みだがね」


(;゚ω゚)「…………」

無茶苦茶だ。

しかし、思えば自分もそうである事にブーンは気付く。
自分だって、霊からの力を受けている。

( ゚ω゚)(何だか―――熱がまだまだ湧き出してくるお――――)

この勝負には、世間一般の、表の常識など通用しない。
極限の地点を通り過ぎた、裏の常識だけが全てである。

ブーンは異質な自分の掌を見つめ、決意を新たにした。



107: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:28:58.61 ID:2Y/Hh19e0
( ゚ω゚)「……来るお。僕はまだ、倒れてなんかいないお」

戦闘態勢に入る。
ダラリと腕を下げたブーン独特の構え。
発達した腕部を最も効果的に使う事が出来る体勢である。
そんな自信の構えを取って、男を挑発した。

(´・ω・`)「面白い。そうでなくてはな」

何故か嬉しそうに答える、奇抜な技を駆使する男。

(´・ω・`)「それでは、お言葉に甘えて――――」

宣言、構え、直進。
何度となく見た一連の流れ。

(´・ω・`)「――――行くぞ!」

ブーンは男の突撃を待ち構え、両腕を前に突き出した。



108: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:32:05.45 ID:2Y/Hh19e0
(´・ω・`)「おぉっと、危ない危ない」

即座に見切って、腕の横側に回避する。
そこを付け狙って、ブーンは横に避けた男に向けて腕を薙ぎ払う。

(;´・ω・`)「つっ!」

男は有効な逃げ道を発見出来ず、仕方なく防御に回った。
防いだ左腕と左脚に痛みを覚える。

(´・ω・`)「考えたな……」

( ゚ω゚)「そりゃ考えるお。あんたみたいなトリックは僕には出来ないお。
     だから、悪いなりに頭を使って戦うしかないお!」

(´・ω・`)「ふむ、大凡戦闘に関しては馬鹿とは言い切れないようだな。
     ――――だが、俺も尻に火が付いたぜ。
     遠慮なく、地に伏せさせてやるさ」



111: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:35:21.66 ID:2Y/Hh19e0
男が接近し、ラッシュを掛ける。


(´・ω・`)「対応しろ、それが可能ならばな」


時折、腕を消し死角から拳撃を放っていく。
連発は出来ないため、不意打ち或いはタイミングをずらす程度にしか使えないが、
それでもブーンを追い詰める戦術としては十分に有用。


(;゚ω゚)「くぉぉぉぉ!!」

ブーンは懸命に防御に集中した。
既にネタバレした技、確かに防ぎようはないが、対策は出来る。


(´・ω・`)(――――ほう)

見れば、ガードを分散し対応可能な範囲を広げている。
喰らう回数は多くなるが、その分致命的な一撃を防げるようにしていた。

(´・ω・`)(厄介だな……俺は一発一発の威力は低いからな)

時に、反撃。
ブーンの腕が伸びて男の羽織っているジャケットが引き裂かれる。

(´・ω・`)(何より、脅威なのはあの爪だ。アイツに任せれば良かったか……)



113: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:38:53.30 ID:2Y/Hh19e0
四度目のブーンのカウンターを回避し、男は心を決めた。

(´・ω・`)「面倒だ、決めるぞ――――!」

男は散打を加えた後、これまでのパターンに捻りを加えた。
顔面のガードが空いた所に、勢い良く上段蹴りを放たんと脚を上げる。

(´・ω・`)「喰らいなっ!」

(;゚ω゚)(おぉぉっ!?)

意外な戦法に若干対応が遅れるも、ブーンはその一撃は見極められた。

( ゚ω゚)(チャンスだお! 道が見えたお!)

この蹴りを受け止め、脚を掴めばしめたものだ。
男の姿勢を崩し、倒れた所に乗りかかって強烈な打撃をお見舞い出来る。
防御に失敗したとしても、これだけ隙の大きな攻撃だ。
勝機は無限に広がっていく。

ブーンの作戦は刹那に定まった。



114: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:41:50.88 ID:2Y/Hh19e0
(#゚ω゚)「おぉぉぉぉぉぉ!!」

ブーンは全神経を向かってくる男の右脚に集中させた。

( ゚ω゚)(これさえっ! これさえ成功すれば!!)

熱情を剥き出しにする。
男の渾身の蹴りが迫ってくるのを、ブーンははっきりと見た。


(´・ω・`)(……甘いな。甘過ぎる)

戦いに身を置いているにも拘らず、男は一切表情を崩さない。
相変わらず余裕すら感じられるほどだ。

まるで、最初から勝利を分かっていたかのように。


ブーンが側頭部に左腕を構えた所で、
男の脚は光に包まれ消失した。



116: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:45:38.92 ID:2Y/Hh19e0


(;゚ω゚)「ウグッ――――!?」


現れた脚はがら空きのブーンの腹部に直撃した。
内臓へのダメージは甚大、等しくして決定的。
口の中に胃液の酸味が広がる。
唾と血の混じったそれを吐き出し、ブーンはその場に倒れ込んだ。

(´・ω・`)「方位を変えられるのは拳だけじゃない。
     その事の可能性を考えておくべきだったな。
     俺達のような者の戦闘において重要なのはいかに偽を見抜けるか。
     それに気が付けなかったお前は俺に、一歩、及ばなかった」

(;゚ω゚)「ハァ――――グッ、ハァ――――!」

丁寧に講釈する男を、飛び出しそうな眼球でじっと睨むブーン。
その目は死んではいなかった。


(;゚ω゚)「まだ……負けてはいないお……!
     負けは……僕が認めるまで存在しないんだお……!」



118: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:49:58.96 ID:2Y/Hh19e0
(´・ω・`)「ほう、中々に根性があるな」

落ち着き払った視線で、男は呻き声を漏らすブーンを見下ろす。

(;゚ω゚)「僕は……負…られな…んだお……」

(´・ω・`)「おいおい、碌な声になっていないぞ」

(;゚ω゚)「僕は……僕が……」


負けてはならない。

その事は、ブーン自身が最も良く分かっていた。
分からざるを得なかった。


(;゚ω゚)「僕が負けたら……。
     ストリートのみんなを、守れなくなるんだお……!
     あの生活を、守れなくなるんだお……!」



120: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:53:33.23 ID:2Y/Hh19e0
ブーンは仲間の顔を思い出した。

赤く霞んだ少年の瞼の裏に映る彼らの顔は、
いつだって、笑っている。


(;゚ω゚)「クソッ――――」

熱と意志と気力。
曖昧だが、十分過ぎる活力の供給源。
それだけを頼りに、ブーンはふらつきながらも立ち上がった。


(#゚ω゚)「うぉぉぉぉぉぁぁぁぁああああああ!!!!」


窮地に立つ獣のような雄叫びが、
行き場のない月光が彷徨う闇に響き渡る。



( ゚ω゚)「来るお! この声を聞いたなら!
     喧嘩はまだ終わっちゃいないお!!」



121: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:56:32.67 ID:2Y/Hh19e0
ブーンが吠える。

さながら月夜に遠吠えする気高き狼の如く。
ただ狼と違い、彼は孤独ではなかった。


しかし、ただ一つの異変。
男は動かず、何か、思案するように一点を見つめている。

( ゚ω゚)「どうしたお! やるなら早くするお!」

(´・ω・`)「いや、ちょっと考え事をしていてね」

何故か、男は熱狂するブーンを尻目に構えを崩した。
襲いかかるような動き、いや、それどころか戦意すら見せていない。

(´・ω・`)「……ふむ、こいつは中々気概のある男だな。
     偶然も時には粋な計らいをするじゃないか」

独り言を言いながら、やけに嬉しげにほくそ笑む。
男の握られた拳は開かれていた。



123: ◆zS3MCsRvy2 :2007/09/06(木) 00:58:49.33 ID:2Y/Hh19e0
(´・ω・`)「俺が言うのも何だが、お前は見込みがある」

男は完全に構えを解いた。
両手を下げ、目は少年を捉えて。
幽かな明かりに照らされた男の顔は、やはり恐怖を感じさせなかった。


( ゚ω゚)(何なんだお、こいつは――――)

漂う不可思議。

(´・ω・`)「どうやら俺の計画は、最高の方向に進んだようだ」

男は呟くと、ブーンの元へと歩み寄った。



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