(#゚;;-゚) でぃが笛を吹くようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:23:21.53 ID:Z9WTJMfwO

「――――でぃ」

薄い光の視界の中で、誰かの声が私を呼んだ。
柔らかい、優しい声。

私が一番好きな声。

(#゚;;-゚) 「……お母さん? お母さんなの?」

「ごめんね、でぃ。一人にさせちゃって……」

(#゚;;-゚) 「謝らないで、お母さん……」

お父さんがいなくなってから、お母さんはずっと一人で私を育ててくれた。
謝りたいのは……私の方だ。

(#゚;;-゚) 「お母さん、私……私、お母さんに謝らなきゃ」

「……でぃ。これが、最後なの。
 お母さんに言う言葉を、よく考えて。
 お母さんも、あなたに言う言葉を、考えてきたから」

ゆっくりと少しずつ、時間を惜しむようにお母さんは言う。
……お母さんに、最後に言う言葉?

私はそれを、必死に必死に考える。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:25:04.64 ID:Z9WTJMfwO

(#゚;;-゚) 「えと、私……」

なんて言えばいいのか、わからない。
そんな私を見兼ねたのか、お母さんはくすりと笑い、またゆっくりと、話し始めた。

「あなたは、あなたにできる事をしなさい。
 それだけで頑張っていれば、いつか幸せになれるわ」

(#゚;;-゚) 「……?」

「でぃ、私たちの子供になってくれて、ありがとう」

声が、小さくなっていた。


(;#゚;;-゚) 「お母さん! 私!」


「……でぃ」



(;#゚;;-゚) 「お母さん……!」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:27:51.44 ID:Z9WTJMfwO
「でぃ……」



………おかあ……さん



「……でぃ!」



……



「おい、でぃ! 起きろッ!!」


……ぅ


「起きねぇと裸にして縛り上げるぞッ!?」


……うぅ


「起きろぉぉぉぉぉおッ!!!!11」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:29:30.99 ID:Z9WTJMfwO

(;#゚;;-゚) 「ゔぁッ!?」

从#゚∀从「やーっと起きやがったか。もう昼だぞ!?」

(;#゚;;-゚) 「あ……す、すいません……」

……朝? 昼?

あれ? なにか、夢……?

从 ゚∀从「そこに飯置いといたから、適当に食っとけ。
     少し外すけどすぐ戻るから、そしたら町にでも行こうぜ」

(#゚;;-゚) 「は、はい。わかりました……」

ばたばたばたばた どかん

最後のは扉を閉めた音。もう少し静かに閉めないと壊れると思う。

(# ;;- ) 「ふぁ……〜」

大きなあくび。涙がでたのでこすり拭く。

ぼやける視界に、食事が見える。

あれ?いつ身体を起こしたんだろう。

……頭の後ろが熱い。窓からの日差しだ。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:32:16.94 ID:Z9WTJMfwO

(#゚;;-゚) 「……もうお昼……寝すぎちゃった」

ベッドの上で膝立ちして、窓から外を見る。
快晴の真っ青な空、頂点には白い光をサンサンと照らす太陽。
上にはそんな空。下には赤い屋根の家々が見える。

そうだ、今は王都にいるんだ。

(#゚;;-゚) 「……お腹空いた」

強い光のお陰か、醒めた頭はご飯を要求する。
それと同時にどこかで引っ掛かっていた何かも、遠くへと行ってしまった。

(#゚;;-゚) 「……ふぅ」

一つ息を吐き、ベッドから降りる。
ズキンと足、続いて身体中に痛みが走る。
それでも身体を引きずるように、ご飯の置かれた机を目指す。

(#゚;;-゚) 「朝食……昼食になるのかな……?」

置かれてるご飯は、パンとサラダ。そして目玉焼き。
私が家で食べていたご飯とほとんど同じで、何処か懐かしくなった。

(#゚;;-゚) 「……いただきます」

手を合わせ、下から賑やかな声がするハインさんの部屋で、食事を始めた。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:34:04.00 ID:Z9WTJMfwO




(#゚;;-゚) 「ごちそうさまでしたー」

「はい御粗末さまー」

ここは食堂、というらしい。
椅子と長い机がたくさんある部屋で、壁の向こうで料理を作り、大きな穴から渡すとか。
私がその穴に空の食器をを入れると、奥から声が返された。

从 ゚∀从「んじゃ、町行くか」

(#゚;;-゚) 「はい」

私の頭を軽く撫でながら、ハインさんが言う。
次に左手を差出し、私は恐る恐るハインさんと手を繋いだ。

なんか、優しいなハインさん。

从 ゚∀从「なんか欲しい物あるか? なんでも買ってやるよ」

(;#゚;;-゚) 「え? いえそんな……大丈夫ですよ」

从 ゚∀从「そうか? ま、なんかあったら言えよ」

(;#゚;;-゚) 「は、はい……」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:36:19.77 ID:Z9WTJMfwO

……なんか変。優しすぎる。

ハインさんの歩幅が短い。私に合わせて歩いてるからだろう。
でも昨日はずんずん歩いてたし、お風呂から上がった後も早足で追い掛けたくらいだ。

(#゚;;-゚) 「ハインさん、何かあったんですか?」

思わず聞いてみたが、ハインさんは前を向いたまま歩くだけ。
何も言わずに城の門を抜け、町へと出る。

(;#゚;;-゚) 「あの……ハインさん?」

从 ゚∀从「あ、花買うか?
     お前のお母さんに供えてやろうぜ」

私を見ながら笑顔で言うハインさんを見て、これ以上聞くのは止めた。
何かを隠されるのは嫌だけど……ハインさんが隠したいなら無理は言いたくない。

私も笑顔で返し、手を繋ぎお花屋さんへと向かう。


はずが


从 ゚∀从「……花屋ってどこだ?」

(;#゚;;-゚) 「私に聞かれましても……」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:38:53.30 ID:Z9WTJMfwO

从 ゚∀从「まぁいいや。ぶらぶら探すかぁ」

(#゚;;-゚) 「そうですね。町も見たいですし」

鼻歌交じりに歩きだしたハインさんの、その手。
今日は黒の手袋は付けてないから温もりが伝わってくる。
人の多い喧騒の中で、私は離れないようにギュッとそれを握った。

从 ゚∀从「しかし、なんでこんなに居らっしゃるのかねぇ……」

大きな噴水まで来ると、人はドッと増えた。
それぞれは何をするわけでもなく、ただベンチや噴水に腰掛けているだけの人も多い。
でもどこか、活気に溢れていた。

(#゚;;-゚) 「みんな……忘れたいんじゃないですかね」

从 ゚∀从「……」

私は、どうなんだろう。

浸透者は恐い。
それでも昨日まで、私の村に来るなんて事は無いと思っていた。
でも今はその浸透者に追われ、このVIPに逃げ込んでいる。

だから今は、知りたい。
浸透者が何なのか、今何が起こっているのか。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:40:08.56 ID:Z9WTJMfwO

ハインさんは知っているはずだ。でもその話はしてはくれない。
私に、忘れて欲しいのかな。

(#゚;;-゚) 「……」

从 ゚∀从「……」

暫らく、無言が続いた。
周りは騒がしいはずなのに、なぜか静かになった気すらする。

だからか、あの人に気付けたのかもしれない。

(#゚;;-゚) 「あ……」

从 ゚∀从「ん? 何か言ったか?」

(#゚;;-゚) 「いえ、あの人……」

空いてる左手で、前方を指差す。
噴水を過ぎ行けば着く、正面門からの通り。
そこは路店が多くて、あの格好の人はたくさんいる。

だけどあの特徴的な顔は、ずっと頭の隅に残っていたようだ。

从 ゚∀从「あ、あいつか? なんだお前、知り合いなのか」

(#゚;;-゚) 「いえ知り合いでは……昔、私の村に来てたんですよ」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:41:44.82 ID:Z9WTJMfwO

从 ゚∀从「へぇ……おーい、ブーン!」

ハインさんは右手をあげ、あの行商人さんを呼んだ。
昔見た、あの朗らかな顔の人。

その人も私たちに気付いたようで、こちらへと向かってきた。

( ^ω^)「おぉ、ハインさんじゃないですかお」

从 ゚∀从「王都に来てたんだな。相変わらず重そうな荷物だ」

歩幅を広げ歩み寄るハインさんに、私は小走りで着いていく。
手は握ったまま。少し汗ばんできたかも。

( ^ω^)「お? そちらは……お子さんですかお?」

从 ゚∀从「んな訳ねぇだろ。人を何才だと思ってんだ」

(#゚;;-゚) 「初めまして、でぃです……」

( ^ω^)「おぉ、ご丁寧にどうも。僕はブーンですお」

軽く膝を曲げ私に視線を合わせ、ブーンさんは挨拶をしてくれた。

ハインさんが言うように、背には濃い緑のパンパンに膨らんだリュック。
重たくて後ろに落ちるのか、常に両手で肩に掛ける紐を押さえていた。

( ^ω^)「それで? 何かご用ですかお?」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:44:02.28 ID:Z9WTJMfwO

(#゚;;-゚) 「あの……昔、私の村に来たことが……」

冷静になると、呼び止める程の話ではない。

でも王都に来て、初めて知ってる人を見たから、思わず声を出してしまった。
恐らく私一人じゃ、声までは掛けれなかっただろうけど。

( ^ω^)「おぉ、そういう事ですかお?
       自慢じゃないですけど、僕はこの全ての村々に行った事があるんですお」

从 ゚∀从「あと全ての遺跡も、だろ?」

(;^ω^)「……お」

(#゚;;-゚) 「遺跡?」

遺跡。確か昔の神殿とか、そういうのが朽ちた所だ。

从 ゚∀从「こいつこんな格好してるけど、中身は盗人なんだよ」

(;#゚;;-゚) 「え!? そうなんですか……?」

(;^ω^)「いや、えー……と」

从 ゚∀从「こいつが売ってるのも盗品だよ。
     遺跡の神具やら、宝物やら」

(;#゚;;-゚) 「わ……悪い人だ」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:49:17.76 ID:Z9WTJMfwO

後退りして、ハインさんの後ろへと下がる。
手を離し、ハインさんの服を掴んだ。

悪い人……初めて見た。

(;^ω^)「いやそんな! 恐がらないでくださいお!」

从 ゚∀从「こいつに人を殺すほどの根性はねぇよ」

(;#゚;;-゚) 「こ、ころ……」

从 ゚∀从「お前も程々にしねぇと。この前会議にあがってたぞ?」

(;^ω^)「マジですかお……馬に追われたくはないですお」

(;#゚;;-゚) 「村の人にも盗んだ物を……?」

(;^ω^)「き、基本は物々交換ですので……。
       売った人が流通させなければ、あちらに罪は無いと思いますお……」

从 ゚∀从「まぁ確かに。悪いのはお前だけだな。
     ……しかし、基本、ね。金持ちからはしっかり貰うんだな?」

( ^ω^)「そりゃあもう……世の中金ですお、ぐへへ……」

(;#゚;;-゚) 「……」

(;^ω^)「あ、いや! 違いますお!」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:50:43.87 ID:Z9WTJMfwO

一歩寄ってきたブーンさんに対応し、私も一歩下がる。
ブーンさんは困った顔で、ハインさんに視線で助けを求めた。

(;^ω^)「……」

从 ゚∀从「お前が悪いんじゃねぇか」

(;^ω^)「それはそうですけどお……」


( ^ω^)「あ!!」

ブーンさんの頭の上に、見た事もない光る物体が見えた気がした。

(^ω^ )「えーと、あれあれ……」

荷を下ろし、ガサゴソと漁るブーンさん。
私とハインさんは不思議に見ていたが、暫らくすると何かを取り出した。

( ^ω^)「これ! これあげますお!」

(#゚;;-゚) 「……笛?」

( ^ω^)「はい、横笛ですお。よければ貰ってくださいお」

パッと見は、ただの白く綺麗な棒。
ちゃんと見れば、小さな穴が定期的に並ぶ、綺麗な笛。
よく見れば、薄いけどしっかりと装飾のされた、豪華な笛だ。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:52:21.89 ID:Z9WTJMfwO

从;゚∀从「お前……物で釣るなよ」

(;^ω^)「子供には嫌われたくないんですお……」

何か二人が話してたけど、声が小さくて聞こえなかった。
とりあえず私は、ゆっくりと手を伸ばし差し出された笛を貰った。

(#゚;;-゚) 「……綺麗」

从 ゚∀从「へぇ、ほんとだ。
     所でブーン、これは何処で手に入れたんだ?」

(;^ω^)「え? ……なんで聞くんですかお?」

从 ゚∀从「顔も知らん他人が吹いたのは嫌だろ?
     で、何処で手に入れた?」

(;^ω^)「……」

(;#゚;;-゚) 「……」

(^ω^;)「た、他人が吹いたって事はないですお……多分。
       僕も吹いた事ないですし……」

ブーンさんは額に汗を浮かべ、そう言った。
あからさまに視線を逸らして小さく言う様から、聞かなくても答えは知れた。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:54:57.05 ID:Z9WTJMfwO

从#゚∀从「……子供に盗品渡すなよ」

(^ω^;)「な、なんの事かわかりませんお?
       あ! もうこんな時間! 用があったんですお!」

(;#゚;;-゚) 「……時間?」

(;^ω^)「し、失礼しますおー!」

リュックを背負わず掴むと、ブーンさんは逃げるように去って行った。
ハインさんはその格好悪い後ろ姿を暫らく見つめ、ため息をつく。

(#゚;;-゚) 「……なんか、面白い人ですね」

从 ゚∀从「手癖が悪いの治せば、いい奴なんだがなぁ……」

ハインさんも騎士として、あまり見逃せないのだろうか。
少なくとも私は、頭の中で想像していた『悪い人』とは違う印象で、むしろ好きだ。

从 ゚∀从「んじゃ、花屋探すか」

(#゚;ー゚) 「はい」

綺麗な笛、嬉しいな。

無くさないよう大事に両手で持ち、ハインさんとお花屋さん探しを再開した。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 00:58:16.04 ID:Z9WTJMfwO





(# ;;- ) 「……」

从 ゚∀从「……もうすっかり、日も暮れそうだな」

(;#゚;ー゚) 「……寝すぎちゃいましたから」

言いながら立ち上がり、ハインさんを見る。
丁度後ろから日が差して顔は見えなかったけど、私の後ろで手を合わせてくれていたようだ。

从 ゚∀从「花、買えてよかったな。てっきり花屋無いかと思ったよ」

(#゚;;-゚) 「はい……ありがとうございます」

お母さんのお墓に、添えて置いた百合の花。花束ってほどじゃなくて、3、4本。
白いその可愛い花は、お母さんが好きだった花。

小さく風に揺らされる、追悼の白花。

(#゚;;-゚) 「あの、これからどうします?」

从 ゚∀从「ん、もういいのか? なら……」

ハインさんはキョロキョロと辺りを見回し、一人歩きだした。
私は置いていた笛を持ち、駆け足で追い掛ける。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:01:40.82 ID:Z9WTJMfwO

少し墓地内を歩くと、草の生え揃った高台に出た。
ぽっこりと膨れた小さな山で、大きな木が一本、頂点で葉を揺らしている。

从 ゚∀从「それ、聞かせてくれよ」

(#゚;;-゚) 「え? これ、ですか……?」

从 ゚∀从「そう、それそれ」

言うと腰を下ろし、木に背を預けた。

この、笛……吹けないと思う。初めて触ったし。
でもハインさんに急かされたまま、私はゆっくりと笛を口元に持っていく。

(#゚;;-゚) 「で、ではいきます……」

横笛ってもち方が横だから横笛なんだよね……?
なんか、妙に緊張するな……。

一番端の大きな穴に口をつけ、小さな穴の押さえ方は適当に、息を吹いてみた。


ピョヒ〜


从 ゚∀从「……」

(#゚;;-゚) 「……」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:02:33.37 ID:Z9WTJMfwO


プヒョ〜

从 ゚∀从「……」

(;#゚;;-゚) 「……」


ピョッ ピョ〜

从;゚∀从「……」

(*# ;;- )「……」

……恥ずかしい。

从 ゚∀从「お前、へったくそだなぁ〜」

(;# ;;- ) 「……」

あっさり言われた……。

なんか立ってるのも疲れたので、ハインさんの横に座り笛を眺めてみる。

从 ゚∀从「笛の音、聴いた事あるか?」

(;#゚;;-゚) 「あ、ありますよ……! 馬鹿にしないでください」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:03:30.62 ID:Z9WTJMfwO

村に楽団が来た事もあったし、隣村に笛が上手いお爺さんが居て、聴きに行った事もある。
でも吹くのは初めてだ。だから下手でもしょうがな……

从 ゚∀从「しかし下手すぎ」

(;#゚;;-゚) 「……じゃ、じゃあハインさんがお手本見せてくださいよ」

从 ゚∀从「おう、俺にできない事はない。貸してみ?」

自信満々なハインさんに笛を渡す。
吹いた事は無いような言い方なのに、その自信は一体どこからくるのだろうか。

从 ゚∀从「うし、よく聞いてろよ?」

(#゚;;-゚) 「はい」

一つ咳払いをして、ハインさんは片目を閉じ、口元に笛を持っていく。
集中しているのか、少しの間を作ると、静かな空間に息を吸う音がした。

そして……


プシュー


(#゚;;-゚) 「……?」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:05:07.30 ID:Z9WTJMfwO

プスー

(#゚;;-゚) 「……」

从 ー∀从「……」

プヒュー

从#ー∀从「……」

プピュー!!

从#ー∀从「……!!」

(# ;ー ) 「……プッ」

从#゚∀从「なに笑ってんだお前ぇ!!」

(;#゚;;-゚) 「う、うわッ!!」

怒ったハインさんは私を押し倒し、両頬をつまんで横に引っ張った。

从#゚∀从「ごめんなさいは?」

(;#゚;;−゚ ) 「ご、ごめんにゃひゃい……」

从 ゚∀从「よし、許してやる」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:06:50.16 ID:Z9WTJMfwO

言うと手は離されたけど、ジンジンとした痛みは引かず、ほっぺを両手で押さえた。
……笑った私も悪いけど、音も鳴らせないハインさんも悪いと思うな。

从 ゚∀从「おっかしーな。壊れてんじゃねぇのか? コレ」

ぼやきながらもう一度試してたけど、するのは息を吹く音だけ。

从#゚∀从「ブーンの野郎、バッタもん寄越しやがったな……!?」

(#゚;;-゚) 「でも私、一応音は出ましたよ……?」

从 ゚∀从「……」

(#゚;;-゚) 「心が純粋じゃないと音が出ないんじゃないですか?」


(;#゚;;−゚ ) 「ごめんにゃひゃい……」

从#゚∀从「さっきから生意気だぞ」

怒られた……。
ハインさんは手を離すと、笛を私に放り投げ、木にもたれ空を見上げた。

私も釣られて空を見る。
青と赤の中間、紫色した変な空。でも、綺麗な色をしてた。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:08:28.54 ID:Z9WTJMfwO

从 ゚∀从「……」

(#゚;;-゚) 「……あの、ハインさん」

从 ゚∀从「ん?」

笛の小さな穴を軽く触れながら、ハインさんの方は見ずに言った。
周りはとても静かで、今ならゆっくりと話ができそうだ。

(#゚;;-゚) 「……クーさん、帰って来てないんですか?」

从 ゚∀从「……あぁ。まだ戻ってない」

(#゚;;-゚) 「……」

静かな間。嫌な、間だ。

从 ゚∀从「……クーの馬は」

从 ゚∀从「クーの馬は、自分だけになったらここに戻ってくるらしい。
     それで、昨日送り出してから、付近に黒馬は来てないそうだ」

……自分だけになったら。
つまり、主人が……死んだら、という事?

(#゚;;-゚) 「それって……」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:09:54.53 ID:Z9WTJMfwO

从 ゚∀从「アイツはまだ、死んでねぇ。
     それに、死なれちゃ困るんだよ。まだ俺は、恩を返しきれてねぇんだから」

ハインさんの声は、いい声だ。
何か心まで響く声。
私は力強くなった後ろの言葉を聞いて、そう思った。

从 ゚∀从「……少し、昔話を聞いてくれるか?」

空を見たまま、ハインさんは言った。
私は了承し、ハインさんを見つめる。
遠くの何かを懐かしむかのように、ハインさんはゆっくりと話し出した。

从 ゚∀从「……俺は浸透者に、両親を目の前で殺された。
     昨日見せた背中の傷は、その時についた傷だ」

(#゚;;-゚) 「……そうだったんですか」

騎士になるきっかけの傷、確かハインさんはそう言っていた。
それじゃあハインさんは、浸透者に復讐するために……。

从 ゚∀从「……もう、去年の話だ。
     俺が生まれた村はここからかなり遠いんだが、そこに浸透者がやって来やがった」

ハインさんは言う、憎そうに。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:11:46.08 ID:Z9WTJMfwO

从 ゚∀从「……親父とお袋は俺を庇って、あっという間にやられちまった。
     俺は、親父の亡骸は見捨てた。でもまだ息があったお袋は、何とか連れて行こうとしてな。
     ……そん時に、背中を斬られた」


 背から血流しながら、痛さと恐さでどうにかなりそうだった。
 暫らく必死こいて逃げてたら、奇跡が起きた。

 浸透者を食い止めるために来てた王都の騎士団の、当時の副隊長。
 たまたま通りかかったそいつが、俺を城まで運んでくれた。


(#゚;;-゚) 「それって……」

从 ゚∀从「クーだよ。そのまま墓にお袋埋めてくれて、一緒に風呂入った」

……真似、って、そういう事だったんだ。

从 ゚∀从「傷が痛い、っつってんのに、人の話し聞かないでよぉ……。
     お陰で浅いはずの傷が、随分と大袈裟に残っちまった」

『傷は勲章』も受け売り文句だとか。
それを今度は嬉しそうに、ハインさんは言っていた。

从 ゚∀从「それからクーの元で訓練して、騎士になった。
     ……最近は死人が多くてな、気付けば副長補佐だよ」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:13:04.62 ID:Z9WTJMfwO

(#゚;;-゚) 「……クーさんはハインさんにとっても、命の恩人、なんですね」

从 ゚∀从「あぁ。……この世に、命より高いモノなんかねぇ。
     だから一生恩は返せないかもしれないが、それならそれで、俺はアイツに一生ついていく」

(#゚;;-゚) 「なら、クーさんを探しに……」

从 ゚∀从「今、王都に残っている騎士団で、一番の上官は俺だ。
     副隊長は南の浸透者を押さえに、昨日の夜に出撃したからな」

(;#゚;;-゚) 「え……? じゃあ、こんな所に居ていいんですか?」

一番上官、つまり命令する側の、偉い人という事?
……それなのに私なんかと一緒に?

从 ゚∀从「……俺が命令したんだ。
     今日一日は、好きに行動していい、ってな」

(#゚;;-゚) 「……なぜ、ですか?」

好きに行動……。
それじゃ王都が手薄になるんじゃ……?

从 ゚∀从「……昨夜副隊長が目指した村は、今までで一番王都から近い。
     最初に浸透者が確認されたのは……ここから一番遠い村だ」

(;#゚;;-゚) 「……え? それって……」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:15:33.38 ID:Z9WTJMfwO

从 ゚∀从「……浸透者が、もしかしたら明日。
     ……王都に攻め入ってくるかもしれないんだ」







クーさんの部隊に向けて、捜索隊は出したそうだ。
あまりに遅すぎるから。

その捜索隊も、まだ戻ってはこないけれど。

(# ;;- ) 「……」

……あの言葉が、頭から離れない。

(# ;;- ) 「明日……浸透者が……?」

攻め入ってきたら、勝てるわけがない。
浸透者には、触れられないから。
鎧を着けているようだけど、どっちみち当たらないんだ。嫌味みたいなもの。

でも向こうからは当たる。
……卑怯だよそんなの。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:17:17.23 ID:Z9WTJMfwO

(# ;;- ) 「卑怯だよ……!」

……ハインさんもわかってるんだ。
だから今日、騎士の人たちにあんな命令をしたんだ。

(;# ;;- ) 「……恐いよ、お母さん」

今ハインさんは、部屋にはいない。何かやる事があるらしい。
居るのは一人、ベッドに俯せになっている私だけ。

……ハインさんだって忙しかったのに、私の為に時間を取ってくれたんだ。
でも墓地を出てから今まで、私はほとんどハインさんと言葉を交わさずにいた。


(# ;;- ) 「……クーさん」

どうか、生きていてください。

(# ;;- ) 「……ハインさん」

私と一緒に居てくれて、ありがとうございました。

(# ;;- ) 「……ブーンさん」

綺麗な笛……最期まで、大事にしたいな。

(# ;;- ) 「……おやすみなさい」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/18(木) 01:19:05.95 ID:Z9WTJMfwO


考えるのはもう疲れた。だから、眠る。


……もし、明日があるのなら。


……みんなに、お礼を言いたい。


なにもできない私なんかに、よくしてくれたみんなに。






 二日目【盗人と白花】終



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