( ^ω^)君に空を贈るようです

44: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 22:59:45.44 ID:b4T/x6gf0

第一話 南風


この世界の大地は空に浮かぶ島々。

最上層に浮かぶ『水の島』を頂点に、
流れ落ちる水を共有する幾層にも折り重なった島の集合体がひとつの国を形作る。

そしてここは飛行機械のメッカ、ニューソク国最下層の島『ツダンニ』。

工場作業員、整備工、パーツ屋、ジャンク屋。
その他多くのブルーカラー労働者が住みつくこの島の町並みは実に雑然としている。

所狭しと並ぶつぎはぎベニヤの屋根。
網目状に張り巡らされた小道。
モクモクと煙を吐き出し続ける工場の煙突。
上層の島から流れ落ちてきた汚水を運ぶ川の流れ。

互いにひしめき、己の存在を主張し合うそれらを見下ろしながら、
ブーンとツンを乗せた銀色の飛行機械は、今日も悠々と空を渡る。


ξ;゚听)ξ「はぁ〜……今月はピンチだわ〜……」


しかし、後部座席で家計簿をにらみつける彼女に限っては、
まったく悠々としてはいなかった。



49: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:01:28.77 ID:b4T/x6gf0


( ^ω^)「値下げしたからって燃料を大量に買い込むからそうなるんだお。
     燃料さえ買わなかったら、エンジン代だってなんとか工面できたはずだお?」

ξ#゚听)ξ「うるさい! 家計を預かる身としては当然の行動よ!
     燃料みたいな生活必需品を安いときに大量に買い込むのは、消費者としての鉄則よ!?」

(;^ω^)「……なんかツン、最近考え方がおばさんっぽくなってきたお」

ξ#゚听)ξ「なんだと!? 生活力ゼロ人間がゴチャゴチャ言うんじゃない!!」

( ;ω;)「アウチ!」


ツンの投げたスパナが見事にブーンの後頭部へと直撃した。

あまりの痛みに、操縦桿を握る手を一瞬放してしまったブーン。
そのせいで飛行機械が上下左右に揺れに揺れ、彼は慌てて体勢を立て直す。



53: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:02:57.98 ID:b4T/x6gf0


( ;ω;)「痛いお〜。頭が割れるお〜」

ξ゚ー゚)ξ「そう言って割れた奴はいないから安心しなさい」


泣きながら後頭部をさするパイロット。それを見て微笑むナビ。
その様子をバックミラーで確認すると、ブーンはおチャラけた調子で言った。


( ^ω^)「まったく……ツンみたいにがさつだと、嫁の貰い手が心配だお。
     売れ残ったら僕がお嫁にもらってやるから安心しろおwwwwwwwwww」

ξ;゚听)ξ「よ、余計なお世話よ! 
     あんたみたいな生活力ゼロの男なんか、こっちがお断りなんだから!」

( ^ω^)「……そうかお」


冗談まじりに放った言葉の返答に残念そうな表情を浮かべたブーン。

やがて飛行機械は町を抜けて丘陵地帯の草原へと入り、
その先にポツリと鎮座した木造建物の前へと着陸した。



57: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:04:24.94 ID:b4T/x6gf0

降り立った二人が前にした木造建築物。
これが彼らの所属する『飛行機械郵便行組合』だ。

各国各地にあるこの組合を窓口として、
ブーンら大多数の飛行機械乗りは日夜郵便業にいそしんでいる。

いつものように屋内のエントランスへと足を踏み入れた二人。
そのまま受付で書簡を受け取ると、ニコニコ顔で飛行機械へと戻ってくる。


ξ゚ー゚)ξ「ロマネスクさん、今日は寝坊したみたいね。
    今日のランクBはひとつだけだったから助かったわ!」

( ^ω^)「あのおっさんは本当にだらしないおwwwwwwwww」

ξ#゚听)ξ「あんたが言うな! 
     ビロード君とちんぽっぽちゃんは朝早くから頑張ってるみたいよ?
     あんたもちょっとは見習いなさい!!」

( ^ω^)「何言ってんだお。ビロードたちに飛行機械の乗り方を教えたのはこの僕だお?
     むしろ二人が僕を見習うべきだおwwwwwwwwwwww」

ξ#゚听)ξ「寝坊を直せって言ってんのよ! このドアホ!!」



63: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:05:58.35 ID:b4T/x6gf0

ブーンの尻を蹴り上げるツン。

そのまま何度も何度も蹴り上げながら、
彼女はたくみにブーンを操縦席へと誘導していく。

そんな二人は、やはりご主人様と豚にしか見えない。


( ;ω;)「痛いお〜。お尻が割れるお〜」

ξ゚ー゚)ξ「そう言って割れた奴はいないから安心しなさい」

( ^ω^)「いや、お尻はもともと割れてるお?」

ξ#゚听)ξ「つべこべ言うな!」



64: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:07:15.32 ID:b4T/x6gf0

口は災いの元。
もう一撃強烈な蹴りを尻に頂戴しながら操縦席へと乗り込んだブーン。

続けて後部座席へと乗り込んだツンは地図を広げ、
パイロットに対しテキパキと指示を出していく。


ξ゚听)ξ「今日の配達先はドクシン国よ。
   距離が長いから今夜は向こうで泊まりね。それで、風は……」

( ^ω^)「南風だお。少し強めだけど、いい感じの風だお」

ξ゚听)ξ「把握。あと、泊まりだと時間的に余裕があるから、
    途中でこことここのコンビニエンス島に立ち寄りましょう。
    今朝のエンジンの調子を見る限り、ちょくちょく休ませなきゃ墜ちるかもしれないわ」

(;^ω^)「把握したお。雲海の中はもうコリゴリだお」



68: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:08:58.55 ID:b4T/x6gf0


ξ゚ー゚)ξ「あら? あたしなんか雲海から下の世界に飛び降りたのよ?
    それに比べれば、あんたなんかまだまだ甘ちゃんよ!」


ブーンの言葉に数年前の体験を思い出したのか、ツンは高らかに笑い声を上げる。
彼女の挑発的な笑いにのせられたのか、少しムッとした表情でブーンが応答した。


( `ω´)「飛び降りたツンを空中で拾い上げたのは誰だったかお?
     この僕だお! そこんとこ、ちゃんと感謝してほしいもんだお!!」

ξ#゚听)ξ「何言ってんのよ! あたしは助けてって言った覚えは無いわ!!
     あんたが勝手にあたしを拾ったんでしょうが!
     大体あの時あんたがヘマしてなきゃ、あたしが飛び降りる必要なんて無かったのよ!!」

(;^ω^)「うう……痛いところを突いてくるお……
     でも、僕が雲海から落ちたからこそエデンを見つけられたわけで……」

ξ#゚听)ξ「うるさい! 黙れ!!
     ったく、時間があるとはいえね、無駄話してる余裕は無いのよ! 
     どっかの誰かさんの寝坊のせいでね!!」



70: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:09:32.76 ID:b4T/x6gf0


(;^ω^)「……ごめんだお。僕が悪かったお」

ξ゚ー゚)ξ「わかればよろしい。ほら、さっさと離陸する!」

(;^ω^)(……口ではツンに勝てないお)


敗北感に打ちひしがれながらも、
ブーンはスロットルレバーを引き、スムーズな離陸をこなして見せた。

危なげない角度で上昇した銀色の空の舟は、
青と白の中、強い日差しを身にまとい、今日も変わらず空を行く。



71: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:10:35.89 ID:b4T/x6gf0

                *

予定通り、最初のコンビニエンス島へと停泊した二人。

各国を結ぶ航路の小島に設けられたそこは、
飛行必需品を割高で販売するコンビニエンスストア以外に、あとは草原しか存在しない。


ξ;゚听)ξ「しっかしエンジンの調子が悪いわね……。
    昨日まではそんな兆候は無かったんだけど……どうしてかしら?」

( ^ω^)「……」


まさか今朝のツンとフライパンが原因だろうとは口が裂けても言えない。

ブーンはコンビニエンスストアで買ったタイ焼きをほお張りながら、
エンジンをいじくり回すツンの背中を黙って眺めることにした。



76: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:11:51.33 ID:b4T/x6gf0


ξ;゚听)ξ「……こりゃダメだわ! もう限界なのかしらね?
    騙し騙し使えばもう少しは持つだろうけど、
    レースに出場できるかどうかはかなーり微妙ね」


まさに『お手上げ』と言わんばかりに、両手を上げて草原に背中から倒れこんだツン。

その口にブーンがタイ焼きを突っ込めば、
彼女は手を使わず口だけで器用にそれを平らげていく。


ξ゚听)ξ「何よ? このタイ焼き、中身あんこじゃない。カスタードは無かったの?」

( ^ω^)「カスタードは二倍の値段だったお」

ξ゚听)ξ「そう。それじゃあしょうがないわね」


貧乏くさい会話を交わした後、黙々とあんこ入りタイ焼きに食らいついた二人。
一足先に食べ終えたブーンは、寝転ぶツンと同じように草原へと背中を預けた。



78: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:13:37.70 ID:b4T/x6gf0

見上げた今日の空は、薄い青。
俗に言う『空色』というやつである。

淡い色彩のそれは、強烈な白を誇る雲が並存する場合は映えることは無いのだが、
見上げた今の空は快晴であり、雲影ひとつ見当たらない。

そんなとき、一面に広がる空色の淡さは目に優しく、
見ている者の気分を穏やかにしてくれる。

心地よい日差し。おまけに吹き抜ける風は絹のように肌を撫で、
吹かれた草木が奏でる柔らかな音も相まって、ブーンは強烈な眠気に駆られた。


(;^ω^)(でも、ここで寝たらツンに怒られちゃうお……)

ξ−凵|)ξ…zzZ「……違います……私は沢尻エリカではありません……」

( ^ω^)(……なんだお。ツンも寝てるのかお)



82: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:15:05.28 ID:b4T/x6gf0

ちらりと横目で盗み見たツンは、
普段の気性の荒さなど微塵も感じさせないほど穏やかな顔で眠っていた。


(*^ω^)(こうして改めて見ると、やっぱりかわいい顔してるお)


すやすやと寝息を立てるツン。
これ幸いとブーンは彼女の隣に移動して、その顔をまじまじと眺めることにした。

整った目鼻立ち。
柔らかそうな頬。
ちらりと見える白いうなじ。
申し訳程度に膨らんだ胸。

吹く風に乗って、彼女の栗色の髪の香が届く。
何度か嗅いだことのある甘い香りの中には、ほのかに草の匂いが混じっていた。


(*^ω^)(……幸せって、こういうことを言うのかもしれないお)


それからしばらく眠る幼馴染の顔を眺めて、再び視線を空に戻したブーン。
やがてまぶたが重くなり、彼の意識もまた眠りの底へと堕ちてしまっていた。



84: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:16:17.32 ID:b4T/x6gf0

                     *


( ‐ω-)…zzZ「違いますお……僕は福山雅治ではありませんお……」

ξ;゚听)ξ「うわ―――! 起きろこのバカち―――――ん!!」

(;゚ω゚)「ひでぶ!!」


突如わき腹に走った激痛。どうやら誰かに蹴られたらしい。

あわてて飛び起きたブーンが目にしたのは、
文字通り草原を右往左往しながら慌てふためく幼馴染の姿だった。


ξ;゚听)ξ「どうしよい! どうしよい!!」

(;^ω^)「あいたたた……どうしたんだお、ツン?」

ξ;゚听)ξ「寝過ごした! 二時間も寝過ごした!!
    夢の中に和田アキコが出てきたせいよ! どうしてくれんのよ!!」

(;^ω^)「いや、僕に言われましても……というか、和田アキコって誰だお?」

ξ;゚听)ξ「あたしが知るか!」

( ^ω^)ノシ「いやいや、お前しか知らねーお」



88: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:18:04.11 ID:b4T/x6gf0


ξ;゚听)ξ「それよりどうしよい! どうしよい!! 
     配達時刻に間に合わないわ!ってどわ―――――っ!!」


相変わらず慌て続けるツン。
右往左往しすぎるあまり、彼女は足を絡ませ、草原へと転がり倒れてしまった。

アホな幼馴染の姿にため息をつくと、
ブーンは飛行服の懐から懐中時計取り出し、何かを考え込むようにしばらく押し黙った。


( ^ω^)「……確かに二時間のロスは痛いけど、間に合わないことはないお。
     もうひとつのコンビニエンス島に寄らないで飛び続ければなんとかなりそうだお」

ξ;゚听)ξ「え! ホントに!? でも、それってかなり厳しいんじゃない!?」

( ^ω^)「確かに厳しいけど、僕たちは誰もたどり着けなかった『エデン』を見たんだお?
     それに四年前の『ニューソクカップ』だって制覇したんだお?
     やって出来ないことはないお!!」



90: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:18:50.57 ID:b4T/x6gf0


ξ゚ー゚)ξ「……そうよね! たまにはいいこと言うじゃない!!
    現時点では、あたしたちが一番のパイロットとナビだもんね!!」

( ^ω^)b「そうだお! 
      一ヵ月後の『ニューソクカップ』連覇に向けて、ここで弾みをつけておくお!!」

ξ゚ー゚)ξ「オッケー! そんじゃ、気合入れていくわよ!?」

( ^ω^)ノ「お――――っ! だお!!」


意気揚々と飛行機械に飛び乗った二人。
彼方まで続いてく空には、二人の行く手をさえぎるものなど何も存在……



94: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:19:49.36 ID:b4T/x6gf0

                         *


ξ#゚听)ξ「……するのよねぇ」


数時間後。
いつかの空戦と同じ色をした黄昏の空。

ドクシン国領空へとたどり着いた二人が目にしたのは、
黒煙を後ろになびかせながらヨタヨタと飛ぶ大型のカーゴ(物資運搬用の飛行機械)の機影。

豆粒のように見えるそれを視界に捉え、ツンが大きくため息をつく。


ξ゚听)ξ「……トラブルってやつは、一気呵成に降りかかってくるもんなのよねぇ」



96: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:21:09.20 ID:b4T/x6gf0


(;^ω^)「そんなことよりカーゴから発光信号が出てるお! 解読してくれお!!」

ξ゚听)ξ「はいはい」


はるか前方より明滅する発光信号。
それを読み取ったツンが、苦々しげな短声を上げる。


ξ;゚听)ξ「ゲッ! こりゃまたやっかいなことになりそうだわ……」

(;^ω^)「向こうはなんて言ってるんだお?」

ξ;゚听)ξ「『流石一家』に襲われているんですって」

(;^ω^)「あちゃー……」



98: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:22:46.03 ID:b4T/x6gf0

速力を上げてカーゴへと向かった二人。

それに近づくにつれて、カーゴ周辺を飛び交う迷彩柄の複座式飛行機械と、
その母船らしき超小型戦艦の機影が目視できるようになった。


(;^ω^)「……間違いないお。
     迷彩柄の飛行機械と言えば『流石一家』の搭載機に決まってるお」

ξ゚听)ξ「実際に見るのは初めてだけど、かなーり趣味の悪い色してるわよねぇ」

(;^ω^)「それにしてもあのカーゴ、護衛の飛行機械も付けずに何をやってるんだお……」

ξ゚听)ξ「護衛機は墜とされちゃったんじゃないの? 
    『流石一家』の飛行機械って、結構強いって聞いたことあるし」


先ほどコンビニエンス島で買ったタイ焼きの残りをほお張りながら、まさに人事のようにぼやくツン。
一方でブーンは、真剣な表情で対策を練り始める。



101: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:24:10.73 ID:b4T/x6gf0


(;^ω^)「さて、どうしたもんかお。僕たちの飛行機械には武器がないお。
     応戦無しで足の遅いカーゴを安全圏まで誘導するには……」

ξ゚听)ξ「これ使ったらどう?」


そう言ってツンが取り出したのは、手のひらサイズの丸い物体。
それを見たブーンの頭上に電球がともる。


( ^ω^)「なるほど! 目潰しかお!!」

ξ゚听)ξ「そ。これで敵の視界を潰しておいて、
    その間を使ってカーゴに安全圏まで避難してもらうのよ」

( ^ω^)「それはいいお! で、どっちを潰すかお? やっぱり飛行機械の方かお?」

ξ゚听)ξ「それが定石でしょうけど、飛行機械は機動性が高くて当てづらいわ。
    ここはあっちの鈍亀のほうを狙いましょう」


そう言ってツンが指差したのは迷彩柄の飛行機械ではなく、
少し離れたところに浮かぶ、流石一家の母艦らしき超小型飛行戦艦の艦影。

速力が無い上に大きな艦体。目潰しの的としてこれほど格好なものは無い。



103: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:24:50.67 ID:b4T/x6gf0


ξ゚听)ξ「こっちの最優先課題はカーゴの死守よ。
    火力の高い飛行戦艦を先に潰しておいたほうが得策だわ。
    それに母艦を狙われたとなれば、飛行機械もこっちを向かざるを得ないはずだし」

( ^ω^)b「把握したお!」

ξ゚听)ξ「まずは敵をこっちに引き付けて、カーゴの脱出時間を稼ぐのよ?
    それじゃ、あたしが目潰し攻撃を仕掛けるから、
    あの鈍亀まで接近してちょうだい。機銃にやられないようにね?」

( ^ω^)b「任せてくれお! 僕を誰だと思ってるんだお?」

ξ゚听)ξ「朝に弱いへちゃむくれ」

( ^ω^)「……」



106: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:26:04.72 ID:b4T/x6gf0

ブーンの双眸が索敵のためにせわしなく動く。

守るべきカーゴは前方斜め五時の方向。
敵の母艦はその後方。

敵飛行機械はカーゴ周辺に一機。
どうやらブーンたちに気づいたらしく、彼らは機首をこちらに向けて距離を詰めてくる。


(  ω )「僕はへちゃむくれなんかじゃないお……」


西日は十時の方向。
スロットルレバーを限界まで引き、上昇して位置エネルギーを稼ぐ。

そのまま西日を背に預け、敵母艦へ向けて急速ダイブ。


( ゚ω゚)「僕は『VIP』の子供だお――――――!!」


ブーンの叫び声は風に乗り、黄昏の空に響いた。



108: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:28:22.50 ID:b4T/x6gf0

                        *


(´<_` )「アニジャ。あれはもしや……」

( ´_ゝ`)「わかってる。みなまで言うな、マイ・ブラザー」


ブーンの叫びから数分前のこと。
迷彩柄の飛行機械を操る、同じく迷彩柄の飛行服をまとった顔がそっくりの二人組み。
空で迷彩柄をまとっても何の意味も無いのに、なぜに彼らは迷彩柄なのだろうか?

そんな疑問はさておき、
後部座席に乗ったナビらしき男は、前部座席で操縦桿を握る男をアニジャと呼んだ。
彼はアニジャの返事に感心した様子で、再びアニジャに声をかける。


d(´<_` )「こんな状況でも七五調で返事をするとは……さすがだなアニジャ」

( ´_ゝ`)b「まあね。もっと褒めて」

(´<_` )「おや、今度の返事は七五調ではないな?」

( ´_ゝ`)「当たり前だ。こんな状況で七五調の返事などしていられんよ」

d(´<_`;)「おお! 実に的確な状況判断だ! さすがだなアニジャ!」

( ´_ゝ`)b「まあね。もっと褒めて」



111: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:30:14.01 ID:b4T/x6gf0


(´<_` )「しかし、まさかこんなところで奴らにお目にかかれるとはな」

( ´_ゝ`)「人と人とのめぐり合わせなんてものは実に数奇なものなのだよ、オトジャ君。
      あ、これ、今日の俺の名言ね?」

d(´<_` )「把握した。早速『アニジャ名言集』に書き加えておく」


なんだか間の抜けた掛け合いを見せる二人。
彼らの視界の真ん中には、西日を背負いこちらへ向かってくる一機の飛行機械らしき黒い影。

攻撃目標であったカーゴから離脱すると、
彼らは敵機影が西日から外れるよう、己の位置を修正した。

近づいてくる敵機。位置修正の甲斐があったのか、
二人は敵機を影ではなく、その色や形までもハッキリと捉えることに成功した。


(´<_` )「……機銃の無い洗練されたフォルム。銀色に輝く機体。
     そして空の上で踊るかのような、軽やかな身のこなし。間違いない」

( ´_ゝ`)「ああ。奴こそが『エデンを見た男』だ」



113: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:31:38.77 ID:b4T/x6gf0

冗長で回りくどい会話を繰り広げるこの二人。

彼らの名は『アニジャ=サスガ』と『オトジャ=サスガ』。
前者がパイロットを、後者がナビをそれぞれ務めている。

二人はドクシン国を縄張りとする海賊『流石一家』の棟梁の双子としてこの世に生を受け、
現在はこうやってカーゴなどを襲い金品を強奪する、非常にせこい飛行機械乗りをやっている。

この『流石一家』とは、
さかのぼること二十数年前から活動を続ける由緒正しきアウトロー一家である。

棟梁の『ハハジャ=サスガ』も、かつてはこの二人同様飛行機械を操っており、
ドクシン国近辺ではそれなりに幅を利かせていた。
噂では、当時の連合艦隊のエース『レッドバロン』とも対決したことがあるらしい。

しかし、今からおよそ十数年前。
突如勢力を伸ばし始めた『海賊狩りのVIP』に喧嘩を売り、
完膚なきまでに返り討ちにされて以来、彼らはしばらくなりを潜めていた。

そして今から五年前、『VIP』の面々が
メンヘラ国ラウンジ艦隊に捕らえられ処刑されたという情報をキャッチするや否や
ここぞとばかりに活動を再開した。

そんな卑怯な海賊が、彼ら『流石一家』なのである。



120: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:33:22.48 ID:b4T/x6gf0


( ´_ゝ`)「それでときにオトジャよ、敵はなぜこちらに向かってこんのだ?」

(´<_` )「うむ。それは俺も疑問に思っていたのだ。しばし待たれよ」


敵機であるブーンたち銀色の飛行機械は、
明らかにサスガ兄弟の方角ではなく別の方角へと進路をとっていた。

ナビであるオトジャは、双眼鏡を片手に敵機の動向を観察する。


d(´<_` )「わかったぞアニジャ」

( ´_ゝ`)b「偉いぞオトジャ」

(´<_` )「ありがとう。それでな、敵機は我々ではなく
     我らが母艦『ブラクラゲット号』へと進路をとっている」



124: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:34:42.54 ID:b4T/x6gf0


( ´_ゝ`)「ほう? 聞くところによると、
     彼らの機体には武器が搭載されていないと言うではないか。
     武器なしで我らが母艦に挑めば、たちまちハハジャの対空砲火の餌食になるというのに、
     なぜにまた彼らはそんな愚かしいことを?」

(´<_` )「わからん。しかし相手は『エデンを見た男』。何か秘策があるのやもしれん」

( ´_ゝ`)b「なるほどな! しかしそれでこそ燃えるというものだ!!
      今こそ我らサスガ兄弟がやつらを墜とし、
      『エデンを見た男をやっつけた男』として世界に名を轟かせるときなのだ!!」


そう宣言してオトジャへと振り返り、ポーズを決めたアニジャ。
すかさずオトジャがカメラを取り出し、立て続けにシャッターを切る。



127: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:36:12.85 ID:b4T/x6gf0


d(´<_` )「完璧だぞアニジャ」

( ´_ゝ`)「ちゃんと右斜め四十五度で撮れたか?」

d(´<_` )「ああ。すぐに現像して『アニジャ写真集』にファイリングしておく」

( ´_ゝ`)b「さすがはオトジャ。見事な手際だ」


満足した表情で前を向きなおしたアニジャ。

スロットルレバーをめいっぱい引き、急加速。
舵を銀色の飛行機械へ向けて倒し、高らかに勝ち名乗りを上げた。


( ´_ゝ`)「覚悟せよ『エデンを見た男』! この空が貴様の墓場だ!!」



130: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:38:08.41 ID:b4T/x6gf0

                     *

こうして始まった空戦は、十数分が経ってもこう着状態が続いていた。

敵母艦『ブラクラゲット号』のブリッジに目潰しを仕掛けるブーンとツン。
二人を墜とそうと弾幕を張りまくるブラクラゲット号艦長、ハハジャ=サスガ。
そして、二人を墜とし名を上げようと目論むサスガ兄弟。

戦力的には流石一家が断然有利。
しかしブーンたちは、雨あられと降り注ぐ弾幕の間隙を縫い、華麗に空を飛び続ける。

その間に、防衛対象であるカーゴは少しずつではあるが確実に空域から離脱を始めていた。


(´<_`;)「アニジャ、ハハジャからの発光信号だ。
     『ここはいいからカーゴを追え』だそうだ」

(# ´_ゝ`)「何をおバカさんなことを! 
     『エデンを見た男』を墜とす千載一遇のチャンスだぞ!? カーゴなんて知ったことか!!」

(´<_`;)「……追伸だ。『早くカーゴを追わないと晩飯抜き』」

( ´_ゝ`)「……お腹減ったなー」



132: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:39:43.70 ID:b4T/x6gf0

二人がブーンを追う間にも、確実にカーゴの機影は小さくなっていく。

晩飯を取るか、名誉を取るか。
アニジャは選びきれない二者択一の板ばさみにあっていた。

そんなアニジャに向け、オトジャが申し訳なさ気に意見を言う。


(´<_`;)「なあアニジャ? さすがの俺たちでも、
     『エデンを見た男』に挑むのはちと時期尚早だったんじゃないのか?」

(# ´_ゝ`)「……オトジャ、貴様、俺の飛行技術がやつらに劣っているとでも言いたいのか?」

(´<_`;)「そうは言わん。しかし、奴らのあの動きを見ろ。
     もう十数分もハハジャの弾幕を避けつつ、我らの追随からも逃れ続け、
     おまけに『ブラクラゲット号』のブリッジへ目潰しらしき攻撃を仕掛けているのだぞ?
     さすがの俺たちでもあれを墜とすのは至難の業ではないか?」

( ´_ゝ`)「……確かにそうかも知れんなー。それにお腹すいたしね。
     『アレ』を使ってダメなら、カーゴのほうを狙いにいこうか?」

d(´<_` )「さすがはアニジャ。見事な妥協だ。それでは『アレ』を起動させる」



135: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:41:39.32 ID:b4T/x6gf0

そう言って後部座席の奥へともぐりこんだオトジャは、
即座にコントローラーらしきものを取り出した。


d(´<_` )「アニジャ、準備おkだ。いつでもいいぞ」

( ´_ゝ`)b「把握した。それでは受けてみよ『エデンを見た男』!
      我ら流石一家のメカニック『チチジャ=サスガ』が開発した恐るべき新兵器、
      有線式誘導ミサイル『>>1さん待って君三号』の威力を!!」


長ったらしい決め台詞と同時に、操縦席のとあるボタンを押したアニジャ。
直後、サスガ機の機体下部より、一基のミサイルが射出された。



140: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:43:11.31 ID:b4T/x6gf0

発射された有線式誘導ミサイル『>>1さん待って君三号』。

これは機体とミサイルを結ぶケーブルを通じ、
コントローラーの操作で自在に標的を追い続けるという恐ろしい兵器なのだ。

それはオトジャの操作により、ブーン機へと高速で接近していく。


( ´_ゝ`)「ふはははは! 討ち取ったり『エデンを見た男』!!」


しかし攻撃に気づいたらしいブーンたちは、
『>>1さん待って君三号』を後ろに引き連れつつ、
ロールで機銃を避けながら、サスガ兄弟に向かって急速接近してくる。



141: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:43:49.88 ID:b4T/x6gf0


( ´_ゝ`)「愚かな! どうせ我々と激突する直前に急降下か急上昇をして、
     後ろに引き連れた『>>1さん待って君三号』を我々に当てる、
     つまりフリーザ様と気円斬みたいな関係を狙っているのだろう!?
     そうは問屋が卸さんよ! オトジャ!!」

(´<_` )「アイアイサー」


アニジャの予想通り、ブーン機はサスガ機に衝突スレスレまで近づき、急降下。
オトジャはすかさず『>>1さん待って君三号』を急降下させ、ブーン機を狙いからはずさない。


( ´_ゝ`)「さーて、どこまで逃げ切れるかな?」



144: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:45:35.63 ID:b4T/x6gf0

と、余裕の表情でブーン機の動きを眺めていたアニジャであったが、
『>>1さん待って君三号』はいつまでたってもブーン機に命中しない。


(# ´_ゝ`)「オトジャ! さっさと当てんか!!」

(´<_`;)「しかしだなアニジャ……奴ら、ものすごくすばしっこくて……」

(# ´_ゝ`)「ええい! ほんなこつ歯がゆか! コントローラーを貸せ! 俺が当てる!!」


短気なアニジャはオトジャからコントローラーを奪い取ると、
『>>1さん待って君三号』の操作に全神経を注ぎ始めた。


( ´_ゝ`)「わーい、有線操作って楽しいなー。
      今度チチジャにこの形式のおもちゃを作ってもらおう」

(´<_`;)「そんなことよりアニジャ! 高度が下がってる! 雲海に墜ちるぞ!!」


子供のように『>>1さん待って君三号』の操作に夢中になっていたアニジャ。

操縦主を失ったサスガ機は雲海の下、
すでに失われた地表の引力に引かれ、徐々に高度を落とし始めていた。



145: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:47:20.20 ID:b4T/x6gf0


(;´_ゝ`)「む! ぬかった! 
     有線式誘導ミサイル『>>1さん待って君三号』の操作が面白すぎたあまり、
     つい飛行機械の操縦を疎かにしてしまっていた!!」

(´<_`;)「言い訳はいいから! 早く上昇してくれ!!」

( ´_ゝ`)「よーし、急上昇だー」

(´<_`;)「バカ! 『>>1さん待って君三号』を急上昇させてどうする!!
     っておい! ミサイルこっちにきてるぞ!!」

( ´_ゝ`)「よーし、ロールで避けるぞー」

(´<_`;)「だから『>>1さん待って君三号』をロールさせてどうするんだ! 
     ってぬわ―――――――っ!!」


ロールというマニューバは、機軸を中心に回転するだけで軌道は変わらない。
よって、当然のごとく『>>1さん待って君三号』はサスガ機へと命中。

黄昏の空には、轟音とともに派手な爆発が巻き起こった。



153: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:49:57.54 ID:b4T/x6gf0

                    *

(;^ω^)「……」

ξ;゚听)ξ「……」


自らの操るミサイルで自爆したサスガ機。
それを呆然としながら眺める飛行機械上のブーンとツン。


ξ;゚听)ξ「……ねぇ? これって、あたしたちのせいなのかしら?」

(;^ω^)「いや、さすがに自爆となれば、僕たちも責任を負いきれないお……」


それからしばらく口をあんぐりとあけ、爆煙を眺め続けたブーンとツン。
やがてようやく正気を取り戻したらしいブーンが、爆煙の方へと機首を向ける。


(;^ω^)「と、とにかく救出に向かうお! もしかしたら生きてるかもしれないお!!」


と、スロットルを全開にしようとしたそのとき。


ξ;゚听)ξ「ブーン! 後ろ!!」



155: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:50:50.84 ID:b4T/x6gf0


(;゚ω゚)「おわっ!!」


ツンの声に、反射的に舵を切ったブーン。
コンマ数秒の差で、彼らのいた場所へと火線が走る。

冷や汗をかきつつ体勢を立て直し周囲を確認すると、
そこには流石一家の母艦『ブラクラゲット号』の姿。


(;゚ω゚)「しまったお! まだこいつが残ってたんだお!!」

ξ;゚听)ξ「……ブーン! ちょっと待って!」


しかしそれはブーンたちを追いかけることはなく、
一直線にサスガ機が散った場所へと向かっていく。

しばらく『ブラクラゲット号』の尾翼を眺めていた二人。

その先の空に、突如二つの花が咲いた。



157: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:52:16.85 ID:b4T/x6gf0


( ^ω^)「お? 落下傘だお」

ξ゚听)ξ「どうやらあの機体のパイロットたちみたいね。うまいこと脱出していたみたいだわ」


双眼鏡いらずの視力を誇るツンは、目を細め、空に咲いた花の正体を見極めることに成功した。


( ^ω^)「それは良かったお! 流石一家の母艦もあっちに気を取られてるみたいだし、
     今のうちにカーゴを安全な場所まで誘導するお!!」

ξ゚ー゚)ξ「オッケー!」


即座に機首を向けなおし、すでに豆粒ほどの大きさとなっていたカーゴへと向かった二人。
カーゴへと近づき発行信号で連絡を取ったツンは、笑顔を向けて、ブーンに通信内容を報告する。


ξ゚ー゚)ξ「カーゴは何とか飛べるみたいよ。これからドクシンまで戻るんだって。
    何かあるといけないから、このまま一緒に付いていってあげましょ?」

( ^ω^)「把握したお! これにて一件落着だお!!」


黒煙を吹いてはいるが辛うじて飛べるようであるカーゴを先導し、
二人はドクシン国へと進路を取る。



158: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/09/30(日) 23:53:42.16 ID:b4T/x6gf0

しかし、トロトロと足の遅いカーゴ。
それに合わせなければならないブーンたちは、機体の速度をまったく上げられない。

そんな現実を前に、先ほどまで笑顔だった二人の表情が一気に曇っていく。


ξ;゚听)ξ「この速度じゃ、配達のほうはとても間に合いそうにないわね」

(;^ω^)「遅れた場合の違約金って、いったいいくらだったっけかお?」

ξ ;凵G)ξ「……報酬の半額よ。
     流石一家に遭遇して、被弾したカーゴを先導して、その上報酬はランクBの半分。
     割りに合わなすぎるわよ……エンジンの交換なんて夢のまた夢ね……」

( ;ω;)「あうあう〜」


そしてようやくドクシンまでたどり着いた頃には、
まるで二人の気分を代弁するかのごとく、空はすっかり暗くなってしまっていた。


第一話 おしまい



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