( ^ω^)君に空を贈るようです
- 5: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:22:34.84 ID:v1j06qCP0
第二話 MONEY
サスガ兄弟との死闘から一夜明けた翌日。
相変わらずの空色の中、のんびり飛行する銀色の飛行機械の上。
配達先のドクシン国で一泊したブーンとツンは、
昨夕とはうって変わった満面の笑みで、それぞれの座席に座っている。
ξ゚ー゚)ξ「青い空! 白い雲!
たなびく飛行機雲の軌跡は、満ち足りた未来への道しるべとなるでしょう!」
( ^ω^)「おっおっお。ツンに詩人の才能はないお」
ξ゚∀゚)ξ「おほほほほ! なんとでもおっしゃい!
今のあたしは、何を言われても赦すことのできる大らかな心を手に入れたのよ!!」
( ^ω^)「手に入れたのは大らかな心じゃなくて大量のお金だお」
ξ゚ー゚)ξ「そう! そうなのよ! 見てよブーン、この分厚い諭吉さんの束を!!」
(;^ω^)「操縦中は見れないお」
- 10: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:24:37.39 ID:v1j06qCP0
前を向き続けて飛行機械を操るブーンをよそに、
ツンは後部座席からひと束の札束を取り出すと、それを扇状に広げて顔を扇いだ。
ξ゚∀゚)ξ「一度でいいから札束で顔を扇いでみたかったのよね〜!
これってセレブの特権よね?
ああ……札束が巻き起こす風って、なんでこんなにいい香りがするのかしら……」
(;^ω^)「……趣味悪いからやめたほうがいいお」
着古した飛行服姿のツンがいくら札束で顔を扇ごうと、セレブリティなど微塵も感じられない。
根っからの貧乏人ツンは身を乗り出すと、前部座席に座るブーンの後頭部を札束でポンポンとはたく。
ξ゚ー゚)ξ「うりゃ! 諭吉さんアタック!!」
(;^ω^)「……ツン、そろそろいい加減にするお」
ξ゚ー゚)ξ「あはは! ごめんごめん! 悪ふざけはここまでにしておくわ!!」
再び後部座席に背を預けると、即座に札束を懐へしまい入れたツン。
そのまま満足そうに一息つくと、いまだ興奮冷めやらぬといった表情で再びブーンに話しかける。
- 11: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:26:33.71 ID:v1j06qCP0
ξ゚ー゚)ξ「それにしても、まさかこんなことになるとは思わなかったわよねぇ」
( ^ω^)「本当だお。人生一寸先は闇じゃなくて、一寸先は光だお」
昨夕は世の無情さにしおしおと涙を流していた二人。
それなのに、この変貌振りはいったいどういうことなのだろうか。
ξ゚ー゚)ξ「まさか流石一家の飛行機械に懸賞金がかかっていたとはね!
そんで、助けたカーゴからは報奨金をもらえたでしょ?
おまけに郵便の受け取り主さんに事情を話したら、
違約金どころかランクA分の報酬を約束してくれたし! もう至れり尽くせりってやつ!?」
( ^ω^)「ひとを呪わば尻穴二つって言うけど、その逆もありえるもんだおね」
ξ;゚听)ξ「……どうでもいいけどさ、あんた、最近言うことがおっさんくさくなったわね」
(;^ω^)「え? 僕、まだ二十一歳だお?」
ξ゚ー゚)ξ「そうだっけ? 実は三十一歳じゃないの?」
(;^ω^)「ちょwwwwwwロマネスクのおっさんと一緒にするなおwwwwwwwwww」
風に乗り流されるブーンの声。
銀色の飛行機械は一路、ツダンニへと舞い戻った。
- 14: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:27:45.63 ID:v1j06qCP0
*
昼過ぎになってツダンニへと帰ってきた二人。
いつものように飛行機械郵便行組合で報告を済ますと、
外に出て、飛行機械を前に大きく伸びをした。
ξ゚ー゚)ξ「なんてすがすがしい気分なのかしら!
やっぱり仕事終わりは最高ね! おまけにお金もたんまり入ったし!」
( ^ω^)「これでエンジンを買い換えられるお!」
ξ゚ー゚)ξ「それどころか一ヶ月は遊んで暮らせるわ! まあ、遊ぶ気はないけどね」
( ^ω^)「おっおっお! それじゃあ早速パーツ屋へ……」
『レッツゴー!』と飛行機械に飛び乗ろうとしたそのときだった。
ブーンの言葉をかき消しながら、
突如、高排気量エンジン特有の甲高い駆動音が辺りに響き渡った。
- 20: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:29:30.80 ID:v1j06qCP0
(;^ω^)「げっ! ……この独特のエンジン音は!!」
まるで敵影を探索するかのような目つきで周囲を見渡し始めたブーン。
彼の見上げた空には、遠目にもわかるほどに派手な金色の飛行機械の姿が一機。
縦に異様に長い流線型のそれが猛スピードでブーンとツンの前に着陸したため、
風圧で二人の髪がバサバサと揺れた。
そして金色に輝く機体の操縦席からバカでかい笑い声とともに、一人の男が颯爽と姿を現す。
( ФωФ)「はーっはっはっは! ハウアーユー! ご機嫌いかがかね諸君!?」
長身で、飛行服の上からもわかるほどに筋骨隆々なたくましい体つきの男。
シャープなあご、口と鼻の間に蓄えられた豊満な黒ひげ、そして猫を連想させる鋭い目つき。
一見するとクールでダンディな、俳優にも見えるその風貌。
しかし、その外見とは裏腹な大声と派手なアクションで、彼は叫ぶ。
- 21: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:31:46.66 ID:v1j06qCP0
( ФωФ)「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 音速超えよと我輩を呼ぶ!!」
(;^ω^)「誰も呼んでねーお……」
ブーンの突っ込みなどお構い無しに、
男は操縦席の上に肩幅に足を広げ、左手は腰に、右手は高々と天に伸ばして、人差し指で空を指した。
そこにツンの黄色い声援が割って入る。
ξ*゚听)ξ「キャー! ロマネスクさーん!!」
( ФωФ)「そう! 我輩こそが空と速度の申し子!!
『音速の貴公子』ロマネスク=ハルトマンである!!
ただいま華麗に推参! とうっ!!」
どうやら納得のいくポーズをキメることの出来たらしい男は、
満足そうな顔のまま、飛行機械の座席から地面に向けて飛び上がった。
しかし、どうやら着地時に足を滑らしたらしく、
彼は盛大に尻もちをついてしまった。
- 26: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:33:06.15 ID:v1j06qCP0
(;ФωФ)「あいたたた……持病の痔が再発しそうである……」
尻から着地し、涙目のまま尻をさすったロマネスク。
それを見て、別の意味での涙目でブーンが大笑いする。
( ^ω^)「おっおっおwwwwwwww
ダサすぎるおロマネスクのおっさんwwwwwwww」
(# ФωФ)「うるさい! 我輩はおっさんではないわ!!」
( ^ω^)「何言ってんだおwwww
今年で三十一のくせに『貴公子』だなんて厚かましいおwww
今度から『音速の中年』って名乗れだおwwwwwww」
(# ФωФ)「黙れ! この金玉唇が!!」
(;゚ω゚)「あ、あんたに言われたくないお! この大痔主!!」
- 31: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:34:50.53 ID:v1j06qCP0
顔をあわせて一分もたたずに言い争いをはじめた二人。
その間に割って入るように、ツンがロマネスクに声をかける。
ξ*゚听)ξ「ロマネスクさん、お尻、大丈夫ですか?」
なぜだか平時より色っぽい声色のツン。
彼女の声を聞くや否や表情をキリリと引き締めたロマネスクは、
慌てて首元のスカーフの位置をただすと、
飛行服の埃を払いながら、わざとらしい渋い声でツンの言葉に答えた。
( ФωФ)「おお! これはこれはツン殿ではないか!
我輩の尻なら心配ご無用! 日々鍛えておるからな!!」
(;^ω^)「何をどうやったら尻を鍛えられるんだお?」
( ФωФ)「金玉唇は黙ってろ。我輩は今ツン殿に話しかけているのである」
(# ^ω^)「……」
- 35: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:36:42.80 ID:v1j06qCP0
( ФωФ)「それにしてもツン殿、そなたは相変わらず見目麗しく早漏。
空広しと言えども、そなたほどの器量の持ち主はなかなか見つけられないものである。
ここで再び会いまみえた奇跡に、我輩、思わず神を信じそうになったのである!!」
(;^ω^)「何言ってんだお。二、三日前に会ったばかりだろうがお」
( ФωФ)「だから金玉は黙ってろ」
(# ^ω^)「……」
大げさな身振り手振りを交えながら、歯の浮くような台詞をさも平然と言ってのけるロマネスク。
彼は金玉の横槍などものともせず、
口ひげの下の白い歯をむき出して、ツンに向かって輝やかしい笑顔を見せる。
ξ*゚ー゚)ξ「もう! ロマネスクさんったら!!」
その笑顔に魅了されたのか、はたまた先ほどの台詞に照れたのか。
いずれにせよ顔を真っ赤に染めたツンは、照れ隠しと言わんばかりにロマネスクの背中をバシバシと叩く。
(;ФωФ)「痛い、痛い、痛い。尻に響くからあんまり叩かないでほしいのである……」
ξ;゚听)ξ「あ、ごめんなさい!」
- 39: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:38:14.37 ID:v1j06qCP0
ξ*゚ー゚)ξ「ところでロマネスクさん、今日は何をなさっていたんですか?」
( ФωФ)b「本日は近場に郵便物を届けに行っていたのである。
簡単な仕事だったからちゃちゃっと済ませてきたのである。もちろん音速で」
ξ*゚ー゚)ξ「音速ですか! さすがですね!」
( ФωФ)「はっはっはっは! それほどでもあるのである!!」
するとロマネスクはツンのあごにそっと手をやり、彼女に顔を近づけながらささやく。
( ФωФ)「しかし、どんな音速の空よりも、そなたの笑顔が美しい」
ξ*゚ー゚)ξ「……まぁ! ありがとうございます!!」
急接近した二人。周囲にはハートマークが飛び交っている。
それがよほど面白くないのであろう。
二人の間に割って入り、ブーンが二人の身体を引き剥がそうとする。
- 42: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:39:43.59 ID:v1j06qCP0
(# ^ω^)「はいはい! そこまでだお!!
ツン! そろそろエンジンの交換に行くお!!」
(# ФωФ)「むぅ……せっかく良い雰囲気だったのに……憎たらしい小童め。
前々から思っていたのだが、貴様とは一度決着をつけなければならないのである!」
( ^ω^)「何言ってんだおwwww四年前のニューソクカップで決着は付いてるおwwwwww
僕とツンの勝利だったおwwwwwww」
( ФωФ)ノ「あれは無効。我輩、あの時風邪をひいていたであるから」
(;^ω^)「バレバレの嘘をつくなお……。
あんたあの時、レース前から優勝パレードやってたじゃないかお?」
( ФωФ)「細かいことは気にするなである。ここで改めて決着を付けるのである!」
- 45: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:41:32.60 ID:v1j06qCP0
そう言うや否や、ロマネスクの目がブーンに向けて一気に見開かれた。
強烈な眼力。音速と銘打つほどの高速にも耐えられるよう鍛え上げられた、
『VIP』の艦長や整備長にも負けず劣らずの体躯のロマネスク。
その威圧感に思わず後ずさりしながらも、
ブーンはファイティングポーズをとって臨戦態勢に入った。
(;^ω^)「な、なんだお? やる気かお? う、受けて立つお!」
( ФωФ)「ふん、何だその構えは?
まさか殴りあいで決着を付けるつもりであるのか?」
(;^ω^)「え? 違うの?」
( ФωФ)「紳士な我輩がそんな勝負を望むわけなかろう?
ここは正々堂々、顔のよさで勝負を決めるのである!!」
ξ゚听)ξ「ロマネスクさんの圧勝!」
( ;ω;)「そんな……そんな―――――――!!」
- 48: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:42:26.91 ID:v1j06qCP0
宣言の一秒後に勝敗は決した。
無情な結果に泣き崩れるブーン。そして高笑いを上げるロマネスク。
( ФωФ)「はーっはっはっは! さも当然の結果でありなん!
これに懲りたら二度と我輩にたて突くなである、『エデンを見た男』よ!!
それではツン殿、また会おうである! アディオス!!」
ξ*゚ー゚)ξ「お疲れ様でした!」
やっぱりいつもと声色の違うツン。
ロマネスクは二人に背を向けると、飛行機械郵便行組合の屋内へと姿を消した。
- 51: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:44:12.88 ID:v1j06qCP0
*
一時間後。飛行機械を自宅に格納した二人は、
人や露店でにぎわうツダンニのメインストリートを歩いていた。
从 ゚∀从「よう、『エデンを見た男』! 景気はどうだい!?」
( ^ω^)「あ、ハインリッヒさん。こんなところで何してるんだお?」
从 ゚∀从「タイ焼き売ってんだ。買ってかねーか?」
(;^ω^)「いやまあ買いますけど……。パーツ屋のほうはどうしたんですかお?
これから僕たち、ハインリッヒさんのお店に行くところだったんですけど……」
从 ゚∀从「おっと! そいつはいけねぇや! すぐに行くから店の前で待ってろ!
ところでツンちゃん、今日もベッピンさんだね! カスタードが焼けてるけど、どう!?」
ξ*゚ー゚)ξ「あらやだハインリッヒさんったら! 十個ください!」
从 ゚∀从「へい! 毎度あり! そんじゃ、またあとでな!!」
- 53: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:46:10.07 ID:v1j06qCP0
いなせなタイ焼き屋の女主人と会話を交わしたあと、
時間つぶしとばかりにちんたらとストリートを渡るブーンとツン。
どうやら有名人らしいこの二人。
道行く人の声に応えながら、先ほどのタイ焼きをおいしそうにほお張っている。
(;^ω^)「それにしても、ロマネスクのおっさんを相手にするのは疲れるお……」
ξ゚ー゚)ξ「何言ってんのよ?
ロマネスクさん、ハンサムだし素敵じゃない!! 性格ちょっと変だけど」
(;^ω^)「あのヒゲ面女たらし中年のどこがいいんだお……。
大体ツン、『VIP』にいたときモナーさんの女癖の悪さにブーたれてたじゃないかお」
ξ*゚ー゚)ξ「まあそうなんだけど、実際にあんないい男に言い寄られるとクラっときちゃうもんよ?
ロマネスクさんにプロポーズされちゃったりしたら、あたしどうしよう!!」
紅調させた頬に手を当て『いやんいやん』と身をよじるツン。
一方で、ブーンの視線は冷ややかだ。
( ^ω^)「……そんなにロマネスクがいいんなら、さっさと嫁にでも何でもいけばいいお」
- 56: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:47:40.45 ID:v1j06qCP0
そう呟いて歩く速度を速めたブーン。
その背中に、相変わらず上機嫌なツンの声が飛ぶ。
ξ゚ー゚)ξ「あらなに? あんた、もしかして妬いてんの?」
( ^ω^)「……そんなわけないお。バカなこと言うなお」
ξ゚ー゚)ξ「もー! 可愛いところあるじゃない!! とりゃっ!!」
大量の金のおかげか、はたまた別の理由か。
すこぶる機嫌のいいツンは、前を行くブーンの背中へと飛んだ。
(;^ω^)「うおっ! 急に飛びつくなお!!」
ξ゚ー゚)ξ「疲れたからおんぶしなさい!!」
(;^ω^)「人前で恥ずかしいお……それよりツン、ちょっと太ったかお?」
ξ#゚听)ξ「うるさい! さっさとパーツ屋へ行くのよ、金玉唇!!」
(*^ω^)「……はいはいだお」
仕方なさそうな口ぶりをしながらも、どことなくうれしそうな顔のブーン。
二人は道行く人に冷やかされながら、お目当てのパーツ屋へと向かっていった。
- 57: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:49:17.91 ID:v1j06qCP0
*
お目当てのパーツ屋へとたどりついたブーンとツン。
しかしその店の主は、路上でタイ焼きを売っていた先ほどの女であるため、
二人は彼女が来るまで少し待たなければならなかった。
パーツ屋の前に立つ二人。
その家屋は幼いころから二人が何度も入り浸っていた店、オカマのパーツ屋の跡を継いだもの。
そのため自然と、そこで待つ二人の顔に陰りが見え始める。
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「……」
先ほどまでの上機嫌が嘘のように黙り込んでしまった二人。
目線は道行く人々に向けられているが、焦点は別のところに合っているようだ。
二人は何を見ているのか?
それは二人にしかわからない。
- 60: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:50:50.75 ID:v1j06qCP0
从 ゚∀从「ういーっす。待たせたな」
にぎやかな路上でもよく通るアルトボイス。。
その声を合図に振り向いた二人の前に、ようやく女店主ハインリッヒが姿を現した。
(*'ω' *)「ちんぽっぽ!」
( ><)「ブーンさんにツンさん、こんにちはなんです!」
そして彼女の後ろには、タイ焼きを食べる二人の少年少女の姿。
よく見知ったその顔に、ブーンとツンがやっと嬉しそうな顔を見せる。
ξ゚ー゚)ξ「あら、ちんぽっぽちゃん。今日もちんぽっぽな感じね」
(*'ω' *)「ちんぽっぽちんぽっぽ!」
( ^ω^)「おいすーだお。それにしても、どうしてハインリッヒさんと一緒なんだお?」
(;><)「ここに来る途中で会ったんです。そしたらタイ焼きを買わされたんです。
『買わなきゃパーツ売ってやんねーぞ』って言われて……あんまりお金ないのに……」
- 61: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:52:24.57 ID:v1j06qCP0
ビロードの弱弱しい抗議の声。
代弁するかのようにブーンがハインリッヒに問いかける。
(;^ω^)「……ハインリッヒさん、それって職権濫用じゃないですかお?」
从 ゚∀从「うひゃひゃひゃwwww 気にすんなって!
残りもんだから格安で売ったんだ! ビロードだって安くでタイ焼き食えて得しただろ?
俺も残り物が売れて得したよ? これぞ一挙両得ってやつだ!
みんなハッピーになったんだからそれでいいじゃねぇかwwwwww」
(;^ω^)「……一挙両得ってそんな意味だっけかお?」
(;><)「……違うと思うんです」
腑に落ちない顔を見合わせるブーンとビロード。
一方で、彼らの不満などどこ行く風のハインリッヒは、
ガチャガチャと鍵穴に鍵を差し込み、店の扉を開けた。
从 ゚∀从「細かいことは気にすんなって!
それより入れよ! 汚ねぇところだけどよ!!」
- 65: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:56:04.29 ID:v1j06qCP0
その声に導かれるように店内へと足を踏み入れたブーン、ビロード、ツン、ちんぽっぽ。
四人は、申し合わせたように同じタイミングでため息をついた。
(;^ω^)「……相変わらず汚いお」
(;><)「……足の踏み場もないんです」
店内は言葉どおりに汚かった。
さまざまなパーツやジャンク品が床を覆いつくしていたり、山積みになっていたり。
かろうじてカウンターの位置が確認できることがせめてもの救いか。
いずれにしても、几帳面だった前店主のオカマがこの光景を目にしたら卒倒するであろう。
从 ゚∀从「うひゃひゃひゃひゃwwwwwww今度片付けておくから勘弁してくれや!」
雑然とした店内を進み器用にカウンターへ腰掛けると、
パーツとジャンク品を前に立ち尽くす四人に向け、ハインリッヒは清々しい笑顔を見せた。
前店主のオカマには及ばないものの、
ハインリッヒにはパーツの知識はあるし、店の品揃え自体も充実している。
しかし、ブーンがこの店を利用する一番の理由は、店主である彼女の笑顔と笑い声であった。
- 66: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:57:42.33 ID:v1j06qCP0
今から四年前。
漂流しあちこちを転々とした末にようやくたどり着いた故郷の町『ツダンニ』。
いつぞやの騒動で破壊された我が家を直すため。
その年開催予定だったニューソクカップに向け、ボロボロだった機体を何とか飛べるようにするため。
そして『もしかしたらあの人が帰ってきているかもしれない』という淡い期待。
それらを胸に秘めてこの店を訪れたブーンが見たのが、ハインリッヒ高岡。
彼女の笑い方は、からりとした性格は、
隻眼の整備士『桃色の乳首』と酷似していた。
初めて彼女に笑いかけられたとき、ブーンは不覚にも涙を流してしまった。
はるか彼方の空に散った『桃色の乳首』、
ジョルジュ長岡の笑顔が彼女の笑顔に重なって見えたからだ。
しかし、ハインリッヒとジョルジュ長岡には何の関係もないという。
他人の空似。言葉に表せばただそれだけのこと。
- 68: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 21:59:36.79 ID:v1j06qCP0
从 ゚∀从「俺はこの島出身じゃねぇからな。桃色の乳首の名前は聞いたことあるが、
そいつの顔も見たことねぇし、会ったことだってねぇよ。悪ぃな」
そう言って、泣きじゃくるブーンの頭をなでた彼女の手のぬくもりは、
やっぱりジョルジュ長岡とそっくりだった。
そして、ハインリッヒは前店主のオカマとも何の関係もないという。
从 ゚∀从「この店は不動産屋を通じて間借りしたもんだからな。
俺が不動産屋にこの店舗を見せてもらったとき、中には綺麗さっぱり何も無かったし、
毒男とかいう奴とは会ったことも話したことねぇ。そいつの行方もわかんねぇよ。
何か情報が入ったら知らせてはやるが、期待はすんなよ?」
その言葉を聞きガックリとうなだれた当時のブーン。
そのとき改めて、自分は大切なものを捨ててきてしまったのだと、やるせない思いに彼は打ちひしがれた。
それから四年経った今でも、ハインリッヒの口からオカマの情報が語られることは無い。
- 72: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:01:50.45 ID:v1j06qCP0
从 ゚∀从「そんで、今日は何を買いにきたんだ?」
(;^ω^)「あっ……」
物思いにふけっていたブーンが、
ハインリッヒから投げかけられた言葉に答えることはかなわなかった。
その代わり、傍らにいたビロードが口を開く。
( ><)「機体を軽くするための軽量素材のネジとか合板を買いにきたんです!」
( ^ω^)「……??」
なぜ機体を軽くする必要があるのだろう?
確かに飛行機械は軽ければ軽いほど旋回性能やスピードは向上するが、その代償として安定性が失われる。
自分やビロードのように長距離を長時間飛ぶことになる郵便業を生業とするならば、
どちらかというと機体の安定性が優先されるべきだ。
旋回性能やスピードを重視する状況と言えば、空戦か、もしくは……
そう思ったところで、即座にブーンは自らの問いに答えを見つけ出した。
( ^ω^)「もしかしてビロードたちも『ニューソクカップ』に出るのかお!?」
- 75: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:03:36.56 ID:v1j06qCP0
( ><)「ハイなんです! 僕たちの腕を試したいんです!!」
(*'ω' *)「ちんぽちんぽ!」
握り締めたこぶしを力強く前に押し出したビロード。
そして気合十分と言わんばかりに汚い店内を飛び跳ねるちんぽっぽ。
二人はまだ十五歳。
それなのに、あどけなさの残るその顔には、なぜか頼もしさが感じられた。
上質の水のごとく透き通った二人の瞳を前に、ブーンとツンはうれしそうに笑う。
( ^ω^)「それはいいお! 俄然盛り上がってきたお!!」
ξ゚ー゚)ξ「今回どころか、ニューソクカップ史上でも最年少になるんじゃない?
だからといって手加減はしないけどね! やるからには全力で勝負よ!?」
( ^ω^)「そうだお! 弟子とはいえ容赦はしないお!?」
( ><)「もちろんなんです! たぶん予選落ちだろうけど、今持っている力は全部出し切るんです!!」
(*'ω' *)「ちんぽっぽ! ちんぽっぽ!!」
- 77: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:05:32.22 ID:v1j06qCP0
乱雑で狭い店内に明るい四人の声が響き渡る。
カウンターでその様子を眺めていたハインリッヒは、
盛り上がる四人を目を細めて眺めた後、彼女独特のカラリとした笑い声を上げる。
从 ゚∀从「うひゃひゃひゃひゃwwwwそりゃいいや! 気に入った!
ビロード! ちんぽっぽ!
今日は定価の十割で売ってやるからたっぷり買い込んでいけや!!」
( ><)「本当なんですか!? ありがとうなんです!!
そうと決まればちんぽっぽちゃん、早速良さげなパーツを発掘するんです!!」
(*'ω' *)「ちーんぽっぽー!」
定価の十割の意味に気づいていない二人は、嬉々とした表情を浮かべ、
うず高く積まれたパーツの山から使えそうなものをまさに文字通り発掘し始めた。
それを見てようやく自分たちの用事を思い出したらしいブーンとツンも、
ハインリッヒに本日の用件を説明する。
- 79: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:06:54.39 ID:v1j06qCP0
从 ゚∀从「エンジンを交換とはまた豪気だな!
おめぇらには『音速の貴公子』も『桃色の乳首』も成しえなかった
ニューソクカップ史上初の連覇もかかってるし、気合が入らないわけがねぇか!!
そんで、どういったエンジンをお望みだい?」
ξ゚听)ξ「ニューソクカップのコース設定にもよるのよね……。
前回はテクニカルコースが多かったから、今回は直線コースが多くなるのかしら?
だとすると、高回転でもヘタらないエンジンがいいんだけど……」
そこまでツンが言ったところで、
パーツの山を掘り進んでいたビロードが思い出したかのように声を上げた。
( ><)「そう言えば今朝、組合の人に聞いたんですけど、
今回はレースコースが一新されるようなんです!」
- 83: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:09:10.45 ID:v1j06qCP0
ξ゚听)ξ「え? そうなの?」
从 ゚∀从「そーいや俺もそんな話を聞いたな」
ビロードの声に振り返って、次はハインリッヒの声に振り返るブーンとツン。
首を痛めないか心配だ。
目の前のハインリッヒは含みのある笑みを浮かべると、
特ダネを嗅ぎつけた記者のような目をして、低い声をことさら低くして言う。
从 ゚ー从「なんでも、今回のニューソクカップには
『鈍色の星』がスポンサーとして絡んでくるそうだ。
賞金はなんと、前回の倍額だって話だぜ?」
(;^ω^)「ど、『鈍色の星』がですかお!? またなぜに!?」
从 ゚∀从「『鈍色の島』の長であるシャキン=ザ=パンティー氏が引退を表明されてな。
その後継者であるブック=ブラフマン氏が
かなりニューソクカップに興味を持たれているお方らしい」
とつとつと裏事情を語るハインリッヒの言葉に、ブーンはあからさまにがっかりした。
かつて会ったことのあるシャキンが引退したことも少なからずショックだったが、
それ以上に、鈍色の星と聞いて、もしかしたらあの人の名が出るかと期待していたからだ。
- 85: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:11:10.66 ID:v1j06qCP0
気落ちしてうなだれるブーン。
彼は目の前から注がれるハインリッヒの訝しげなまなざしに気づくと、
すぐに話題を別の方に持っていった。
(;^ω^)「し、しかし、賞金が倍額とはかなりのものですおね!」
从 ゚∀从「ん? ああ、そうだな。でもそのせいか、参加希望者が急増しそうでな。
金に目のくらんだだけの腕の無いバカどもの意欲を失せさせるよう、
今回は直線、テクニカルが満遍なく混ざった、かなり難易度の高いコースにするんだってさ!」
(;^ω^)「それじゃあエンジンの選び方次第で勝敗が左右されかねんお! ツン、どうするかお!?」
焦りを満面に浮かべてツンへと顔を向けたブーン。
ξ゚∀゚)ξ「賞金……倍額……お金……ザックザク……」
しかし当の彼女はブーンの言葉など耳に入っておらず、
ただ恍惚とした表情で何やらぶつぶつと呟やいているだけだった。
- 89: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:14:40.51 ID:v1j06qCP0
(;^ω^)「あの〜……ツンさん?」
ξ#゚听)ξ「ブーン! 勝つのよ!! 絶対に勝つのよ!!」
(;^ω^)「は、はいですお!!」
恐る恐る話しかけたツンは、夢見る少女の瞳から一転、
金にくらんだ亡者の目になって怒鳴り声をあげる。
条件反射で返事したブーンに詰め寄ると、彼女はマシンガンのごとくまくし立てる。
ξ#゚听)ξ「倍額よ! BA・I・GA・KU!!
前回の賞金だけでも飛行機械全体を余裕でレストアできたのに、
今回はその倍額なのよ!?」
(;^ω^)「そ、そうですね……すごいですよね……」
ξ#゚听)ξ「何よそのちんけな感想は! あんた、事の重大さをわかってるの!?
前回の賞金の倍額なら、
飛行機械をレストアどころか一段階ビルドアップさせることも出来るの!
この汚い飛行服も、ゴーグルも、ツナギも、へたれた工具も、
何もかもを買い換えることだって出来ちゃうの! あ、フライパンも買い換えなきゃ!!」
(;^ω^)「最後のは今からでも出来るんじゃ……」
- 92: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:16:32.74 ID:v1j06qCP0
ξ#゚听)ξ「シャラップ! お黙り! ハインリッヒさん!!」
从;゚∀从「な、なんでしょう?」
ξ#゚听)ξ「今回のレースコースについての情報、他に入ってないの!?」
ツンの剣幕に気おされていたハインリッヒだったが、
彼女の要求を聞くや否や、あきんどの顔に様変わりしてにやりと口の端をあげた。
从 ゚ー从「お望みどおり、本当は一週間後に発表予定のコース表、ばっちり手に入れてるぜ?」
ξ#゚听)ξ「金なら出すわ! よこしなさい!!」
从 ゚∀从「ヘイ! 毎度あり!! ただし規定に引っかかるから、
レースコースでの飛行練習は正式発表後にしておけよ?」
ξ゚听)ξ「わかってるわ! そんなズルはしないわよ!
エンジンの選定が済み次第、このコース表はすぐに返すわ!!」
从 ゚∀从「うひゃひゃひゃwwwww お前らのそういうところ、好きだぜ?」
そう言って、ポケットからクシャクシャの紙を一枚取り出したハインリッヒ。
ひったくるようにしてそれを受け取ると、
ツンはブーンとともにコース特徴の割り出しに専念し始めた。
- 97: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:18:39.75 ID:v1j06qCP0
(;^ω^)「……『地下水道』、『旧市街地』、さらには『クラッシュバレー』かお。
これはかなりのテクニカルコースだお……」
ξ;゚听)ξ「それだけじゃないわ。難所と難所の間に直線が多い。
他にも『旧市街地』と『クラッシュバレー』の間では、
高高度に設置されたブイのまで上昇してそれから下降をしなきゃいけないみたいだわ。
おまけに『クラッシュバレー』を抜けてからゴールまでには長い直線も準備されてる。
単純なテクニカルコースじゃない。スピードだって必要になる。
なんとまあいやらしい……コース決めた奴の顔が見てみたいわね……」
穴が開くほどコース表をにらみつけて議論する二人。
ハインリッヒはおろか、パーツを発掘していたビロードとちんぽっぽまでもが
手を休めて二人の議論に聞き入っていた。
ξ;゚听)ξ「これだと、どのエンジンを乗せたとしてもメリットとデメリットが出てくるわね。
高回転エンジンだと、ブイからの下降時と点在する直線で一気にスピードを稼ぐことが出来る。
その反面、ブイまでの上昇時や他の難所ではトルクが無い分操縦がしづらいわ。
トルクエンジンだとその逆ね。問題はどっちを取るかだけど……」
そう言って、あごに手をやり首をかしげたツン。
悩ましげな彼女とは対照的にさっぱりとした表情のブーンは、ツンの肩をポンとたたいた。
- 104: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:23:44.73 ID:v1j06qCP0
( ^ω^)「ツン。僕たちの強みは何だお?」
ξ゚听)ξ「えっ? えっと……」
突然の問いかけに言いよどんだツン。
ブーンは自信に満ちた口調で、彼にしては珍しくはっきりと答えた。
( ^ω^)「僕たちの強みは、モナーさんとクーさんから譲り受けた技術と、君の目だお。
それを活かせるエンジンを選びさえすれば、僕たちは絶対に負けないお」
ξ゚ー゚)ξ「……そうね!」
幼馴染の言葉を受け、彼女はサッパリとした顔で笑った。
そしてハインリッヒに向き直ってコース表を返還すると、はっきりキッパリ言い切った。
ξ゚ー゚)ξ「トルクの強いエンジンをお願いするわ!」
- 105: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:25:28.07 ID:v1j06qCP0
*
それからハインリッヒの提示した数基のトルク型エンジンとにらめっこしたブーンとツン。
議論に議論を重ねてようやく購入するエンジンを決めた頃には、すっかり日は傾いてしまっていた。
当の昔に購入するパーツを発掘してしまっていたビロードとちんぽっぽは、
( ><)「これも勉強なんです!!」
(*'ω' *)「ちんちん!!」
そう言って、ブーンとツン、
そしてハインリッヒのエンジン談義を聞きながら必死にメモを取っていた。
勉強熱心だと、そんな二人に感心しきりだったブーンとツン。
( ^ω^)「これは僕たちもうかうかしていられんおwwwwwww」
店を去り際、冗談めかして笑ったブーンであったが、内心ではかなり焦っていた。
- 110: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:28:11.95 ID:v1j06qCP0
ビロード=ワッカナイデス。
ちんぽっぽ=ぼいん。
ともに飛行機械乗りの父を持ち、空を見て育った二人。
不慮の事故でそれぞれの父を失った二人は、
四年前、この地に舞い戻ったブーンとツンにとてもよく懐き、
二年前、ブーンとツンの指導の下で、齢十三にして初めて単独で空を飛んだ。
それからすぐに『飛行機械郵便業組合』に加盟し、
ブーンとツンの保有する最年少飛行機械乗りの記録と同じそれを持つようになった二人は、
その勤勉な性格が功を奏したのか、見る見るうちに腕を上げていった。
現在二人は十五歳。
ブーンが『VIP』に入隊した歳と同じである。
あの頃の自分たちとビロードたちのどちらの腕前が上か、
ブーンにはハッキリとはわからない。
実績で見れば、当時ランクAを二つ、そしてファイブAを一つこなしたブーンたちの方が、
国内向け郵便最高ランクであるランクCまでしかこなしていないビロードたちより、はるかに上であろう。
- 114: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:30:42.44 ID:v1j06qCP0
しかし、今と当時では状況が違う。
現在は、国外向け郵便であるランクB、
そして本当に稀に依頼される最難間ランクAのほとんどを
実績のあるロマネスク、ブーンとツン、その他少数のベテラン飛行機械乗りが独占しているのだ。
以上のような現状から、
若すぎるビロードとちんぽっぽには機会が回ってこないだけであって、
純粋な飛行機械の腕前だけで判断すれば、
二人ならランクBくらいは苦も無くこなせるだろうとブーンは踏んでいた。
そして何より、二人に教えを乞われて実際に指導するたびに、
二人の成長速度につくづく目を見張らされるという事態にブーンは直面していた。
もちろん、教える側としてはこれほどうれしいことは無い。
しかし純粋な飛行機械乗りという立場から見たとき、
まるで自分のたどってきた軌跡をなぞるように成長していく二人が、
後ろから猛スピードで迫ってくる二人の影が、ブーンには正直恐ろしかった。
- 115: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:32:16.54 ID:v1j06qCP0
かつて、彼の師である蒼い風はこう言った。
『もう少し時が経てば、お前達は私やモナーなどすぐに追い抜いてしまうだろう』
そう言って優しい笑みを浮かべたその人。
その笑みは、これから衰えていくだけの自らの技術を後世が受け継ぎ、
さらなる高みへと昇ってくれるはずだという期待から生まれたものなのだろう。
しかし、年月を経たとはいえ、ブーンはまだまだ二十一歳。
自らに衰えなんてサラサラ感じないし、まだまだ成長する余地はあると自覚している。
それだけに、ビロードとちんぽっぽという未完の大器は、
ブーンにとって成長の楽しみな弟子であり、
かつ、ロマネスク以上にしのぎを削りあうことになるであろう将来的なライバルという、
非常に複雑怪奇な存在であった。
- 117: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:34:23.65 ID:v1j06qCP0
从 ゚∀从「んじゃ、エンジンは明日までに届けるからよ」
ξ゚听)ξ「頼みますね。それじゃブーン、帰るわよ」
店の外に広がる日の暮れた町。
複雑な胸の内のブーンをよそに、手際よくエンジンの配送段取りを決めたらしいツンは、
道の向こう側から訝しげなまなざしを彼に向けた。
(;^ω^)「おっ……了解だお」
その視線に平静を装って返し、小走りでツンの後を追ったブーン。
やがて二人の姿は、仕事帰りの人波にまぎれてすぐに見えなくなった。
( ><)「それじゃあ、僕たちもお暇するんです!」
(*'ω' *)「ちんぽっぽー!」
購入したパーツを抱え、
これまたブーンたちと同じように雑踏の中へと姿を消そうとしたビロードたち。
と、そこで、二人の身体が大きく後ろへのけぞった。
- 120: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:35:33.15 ID:v1j06qCP0
何事かと思い二人が後ろを振り向くと、
彼らの肩をぐっと掴んで、ハインリッヒがニヤリと笑っていた。
つい先ほど、露店でタイ焼きを無理やり買わされたときとまったく同じ笑い。
その笑みに寒気を覚えたビロードは、冷や汗を垂らしながら震える声で聞いた。
(;><)「も、もうお金は無いんです! タイ焼きなんて買えません!!」
从 ゚ー从「もーっといいもんがあるんだよ。損はさせねぇから見て行けや。なっ?」
(;><)「ひいいいいいいいいいいいいいいい」
(*'ω' *;)「ぽっぽ――――――――!!」
ブーン芸VIPのTOP絵のような顔をしたハインリッヒは、
悲鳴を上げるビロードたちの首根っこを掴むと、二人を店内へと引きずりこんでいった。
- 127: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:38:09.59 ID:v1j06qCP0
*
从 ゚∀从「まあ、お茶でも飲んでゆっくりしていけや」
(;><)「は、はいなんです……」
(*'ω' *;)「さもはんちんぽー……」
店内へと引きずり戻された二人は、あろうことかハインリッヒにお茶を差し出された。
パーツの山の上に腰掛け、恐る恐る茶をすするビロード。
彼の心中は尋常じゃないほどに追い込まれていた。
店内の様子を見て一目瞭然にずぼらだとわかるハインリッヒが、こともあろうかお茶を差し出してきた。
おまけに、ブーンとツンを送り返したあとに、である。
奇怪な彼女の行動はつまり、まだ年端もいかない世間知らずな自分たちを軟禁し、
高い買い物をさせる気なのか、もしくはなにか壮大な罠にはめようとしているのかもしれない。
ハインリッヒのパーツ屋としての腕は信頼してはいるが、
こと金銭面の話になると彼女はこの上ないほどにがめつい。
先ほどのタイ焼き、そして定価の十割の二件を思い出したビロードは、
何が何でも借金の保証人にだけはなるまいと、固く胸に誓った。
- 129: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:40:03.78 ID:v1j06qCP0
从 ゚∀从「おいおい、顔が真っ青だぜ? 大丈夫か?」
(;><)「だ、大丈夫なんです! それで、僕たちは何を買わされるんですか?」
从 ゚∀从「はぁ? 何言ってんだお前? 今日はお前に会わせたい方がいらっしゃるんだよ」
(;><)「そ、そうなんですか?」
予想しなかったハインリッヒの言葉にほっと胸をなでおろしつつも、
ハインリッヒの丁寧語を聞き、またも気持ちを引き締めたビロード。
もしかしたらヤクザを紹介されて、何かとんでもない仕事をさせられるのかもしれない。
そのときは一目散に逃げようと、隣で同じように顔を硬くしているちんぽっぽに目配せしながら、
扉の位置と脱出経路を再確認したビロード。
从 ゚∀从「おーい、旦那。もう出てきていいですぜー」
ハインリッヒの大声にまたも汗をかいて振り返ると、
その声に呼応して、暗いカウンターの奥から、男のものらしき渋い声が聞こえてきた。
- 136: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:42:12.05 ID:v1j06qCP0
「やれやれ。スロウライダーも昔とちっとも変わらんようだな。
あれだけのことを経験したんだから、もう少し陰りのある声になっているかと期待していたんだが……」
从 ゚∀从「あいつら、昔からあんなんだったんですかい?」
「ああ。ちっとも変わってないな。相変わらず子供のように明るい声だ」
从 ゚∀从「中身も結構子供ですぜ?
ついさっきも『音速の貴公子』とギャーギャーじゃれあっていましたし。
まあ、こと仕事に関しての周囲の信頼はかなりのものみたいですがね」
( ●●メ)「ふふ。それでこそのあいつらだ」
声とともに暗闇から姿を現した男。
サングラスにスーツ姿、おまけに頬には深い傷跡が刻まれている。
ビロードと同じほどの背丈なのが唯一のウィークポイントか。
しかし、どう頑張ってもカタギの人間には見えない。出てくる小説を間違えている。
彼が出るべき小説はどうみても『( ^ω^)ブーンがギャングスターになったようです』だ。
間違いなく、男はヤクザだった。
- 145: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:45:22.88 ID:v1j06qCP0
从 ゚∀从「で、こいつらがこの前話した二人ですわ」
( ●●メ)「……ふむ」
ハインリッヒを後ろに引き連れ、ビロードへと向かってきたヤクザ。
小さい身体なのに異常な威圧感を背中からかもし出す彼に見据えられ、
逃げようと立ち上がったビロードの足は瞬く間にすくんでしまった。
ちんぽっぽの方はというと、立つことさえもままならないらしく、
ジャンクに腰掛け、ただぶるぶると震えているだけである。
その間にも、ヤクザはゆっくりと、しかし着実にこちらへと進んでくる。
ビロードは震える身体を鼓舞して、
ちんぽっぽを男から隠すように立ち位置を変えた。
- 147: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:46:18.44 ID:v1j06qCP0
( ●●メ)「……」
(;><)「……」
ビロードの正面で立ち止まった男。
同じ背丈で目線の高さも同じだというのに、迫力がまるで違う。
サングラスの奥、かろうじて確認できる丸い目が、
ビロードの身体を嘗め回すように見つめていた。
そして、一つ納得したように息をつくと、ヤクザはゆっくりと口を開いた。
( ●●メ)「お前たちに二つ、聞きたいことがある」
(;><)「は、はいなんです!」
( ●●メ)「まず一つ目。お前たちはなぜ空を飛ぶ?」
- 151: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:47:49.61 ID:v1j06qCP0
(;><)「は、はい?」
てっきり
『いい麻薬があるんだけど、どう?』
なんて聞かれるのかと思っていたら、
ヤクザの口から出たのはまともで、いささか抽象的な問い。
それに戸惑って何も言えないでいるビロードの肩に優しく手をやると、
なんとヤクザは信じられないことに、謝りながらもう一度問いを言い直した。
( ●●メ)「聞き方が悪かったな。すまん。
行商人、技術屋、工場の職員など、仕事ならいくらでもあるだろう?
それなのになぜ、お前たちは飛行機械乗りという危険が危ない仕事を選んだ?」
- 155: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:49:17.04 ID:v1j06qCP0
( ><)「……」
(*'ω' *)「……」
自分たちのような子供に謝るとは、なんと腰の低いヤクザなのだろう。
もしかしたらいい人なのかもしれない。
冷静に思い返せば、口調こそぶっきらぼうであれ、
男の言葉にはそこここに誠実さが見え隠れしていた。威圧感も心なしか消えている。
少しだけ警戒を緩めたビロードは、ちんぽっぽと顔を見合わせると、
わずかな沈黙を挟んで、自分の気持ちを正直に言い放った。
( ><)「わ、忘れられないからなんです!」
- 160: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:50:48.23 ID:v1j06qCP0
( ●●メ)「……忘れられない?」
(;><)「は、はいなんです!」
サングラスの奥の男の瞳が、ふいにギラリと光った気がした。
どんな嘘も見通してしまいそうな、鋭いまなざし。
同時によみがえってきた男の威圧感にまたしてもたじろぎながらも、
ビロードはやけくそになって言葉を連ねた。
(;><)「ブーンさんから乗り方を教えてもらって、何回も失敗して……。
それでようやく初めてちんぽっぽちゃんと二人で空を飛んだときの、
あの感動が忘れられないんです! 文句ありますか!?」
- 165: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:52:10.54 ID:v1j06qCP0
( ><)「そこには僕たちと飛行機械と空しかなくて、
これまで見たことない世界が広がっていて、
これから僕たちはどこまでも行けるんだって思えて……。
そのときの感動が忘れられなくて、
空にいれば、またいつかそんな感動に出会える気がして、
……だから僕は空を飛んでいるんです!」
いつの間にか、口が自然と言葉を形作っていた。
同時に初めての空が思い起こされたのか、
ビロードの、そしてその後ろに立つちんぽっぽの目がうっとりと緩んでいく。
すべてを言い終えた後、しばしの沈黙が流れた店内。
( ●●メ)「あっはっはっは!」
まずいことを言ったのかと、内心でおろおろしていたビロードの杞憂をよそに、
沈黙を破ったのは、男の大きな笑い声だった。
- 168: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:53:44.44 ID:v1j06qCP0
(;><)「……」
(*'ω' *;)「……」
从;゚∀从「だ、旦那?」
男の突然の笑い声に、ビロードとちんぽっぽだけでなくハインリッヒもまた驚いたようだ。
心配そうに名を呼ぶハインリッヒへ手のひらを向けると、男は頬を緩めながら口を開く。
( ●●メ)「いや、すまん。気を悪くしたのなら謝る。
まさかここまで期待どおりだとは思わなくてなw」
それから急にキリッと顔とネクタイを引き締めると、
場をとりなすように一つ咳払いをして、男はビロードへと向き直った。
( ●●メ)「物事は複雑であればあるほど、嘘と虚栄に満たされていく。
逆に単純であればあるほど、限りなく真実に近づいていく。言葉も動機も何もかも、だ。
それでいいだ。すべては単純でいいんだ。
お前たちはこれからもずっと、そのままでい続けてくれ」
- 172: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:56:52.85 ID:v1j06qCP0
(;><)「はぁ……なんです……」
(*'ω' *;)「ぺにす……」
男の言葉の意味がよくわからないのであろう。
ビロードとちんぽっぽは困った顔で所在無げに目線を泳がせている。
そんな二人を微笑ましげに見つめていた男。
彼の背中からは、先ほどの威圧感など微塵も感じられない。
( ●●メ)「それでな、そんなお前たちにもうひとつ聞きたいことがある。
お前たち、一ヵ月後のニューソクカップに出るのだろう?」
(;><)「そ、そうなんですが……」
次々と出てくるわけのわからない質問。それでも律儀に答えるビロード。
そんなビロードの答えに満足したのか、『うんうん』と首を縦に振る男。
( ●●メ)「なおのこと結構だ。そこでお前たちに相談なんだが……」
そして、スッとサングラスへ手をやると、
丸く、つぶらで、柔和な瞳を白日の下に晒し、男はビロードたちの顔を射た。
- 176: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/10/04(木) 22:57:45.77 ID:v1j06qCP0
( ゚д゚メ)「……『エデンを見た男』に勝つ気はないか?」
第二話 おしまい
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