( ^ω^)君に空を贈るようです

53: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:20:22.28 ID:HePFKFWY0

第五話 ルパン・ザ・ファイヤー


( ^ω^)「確かにお届けしましたお。ありがとうございましたお」


受け取りの判を得たブーンは、早々に母屋をあとにした。

配達先は上空に数えるほどしか島が見られない最上層と呼んで問題ない富裕層の邸宅で、
母屋の玄関を出ても数分は歩かねばならないほどの庭があった。
庭内には小川も流れており、飛行機械数十台が離着陸しても問題ないほどに広い。

これほどの金持ち宅に配達することは、さすがの彼でも久しぶりのことだった。



58: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:21:49.63 ID:HePFKFWY0
 

( ^ω^)「まるで別世界だお」


まさしく他人事として呟いた彼は、飛び立つ前、小川の水を常備している容器へと失敬した。

途中で迷い、地図見ながら片手間で飛ばざるを得なかったせいで、
燃費重視の運転は当然出来ず、燃料を大幅にロスしてしまっていたからだ。

手土産に水の一杯でも調達していかなければ、ツンにレンチを投げられてしまう。


( ^ω^)「……何考えてるんだかね」


ツンがロマネスクに嫁げば、そんな配慮も無用だというのに。
呟きは飛行機械の起動音にかき消され、当の本人にすら聞こえることはなかった。



60: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:24:02.53 ID:HePFKFWY0
 
ツンがいないせいか、いつもより軽い機体は心なしか浮足立っているように感じられた。
心地よいとはいえない軽さで上空を横切りながら、ブーンは島を見下ろす。

町はどこにも見当たらなかった。
広大な地表には、点在する富裕層の巨大な邸宅、透き通った河、丘や草原ばかりで、道路すら通っていない有様だ。

ここに住む人はどうやって物資を手に入れているのだろうと考えながら島を抜ければ、答えはすぐに見つかった。


( ^ω^)「なるほどだお」


島のすぐ真下、流れ落ちる河に繋がれるようにして浮かんでいる一つ下層の狭い島、
地表の半分ほどが町となっていた。この島に召使か雇い入れのパイロットを派遣して、
最上層の富裕層たちは必要なものを手に入れているのだろう。


( ^ω^)「それにしても綺麗な町だお」


鳥瞰した町並みは、雑然としたツダンニとは明らかに異なっていた。
円形をした町の中心に見える噴水からレンガ敷きらしき道路が放射状に伸びており、
建物のどれもが同心円状に規則的に配置されていて、それぞれが統一された規格で造られていた。



62: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:25:31.51 ID:HePFKFWY0
 

( ^ω^)「懐かしいもんだお。ずっと昔に思えるお」


呟いてしげしげと町を見下ろすブーン。
実のところ、彼は駆け出しの頃に一度だけ、こことは別の上層の町へツンとともに降りたことがあった。

あの時は、別世界を前にはしゃぎまわるブーンとは対照的に身を縮めていたツン、
彼女に無理やり引っ張られ、町に降りて五分とせぬうちに再び空へと上がらされた。


( ^ω^)「あれはどうしてだったのかおねぇ?」


後部座席に目をやる。当然ツンの姿はそこになく、代わりに水の入った容器が偉そうに横たわっていた。

そこでブーンは思いつく。この水さえあれば、あと少し燃料を浪費してもツンに怒られることはないだろう。
そして町に降り立つことを嫌がっていたツンは、ここにいない。


( ^ω^)「久しぶりに寄ってみるかお」


ブーンは島へと進路を向けた。ちゃぷんと水がひと声上げた。



64: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:27:17.74 ID:HePFKFWY0
 
私は貧乏人です。この島に降り立つのも心苦しいのです。
だけど、ちょっとだけ立ち寄らせてください。

そう言わんばかりに島の端っこ、
町の敷地内から遠く離れた誰もいるわけがない草原にブーンは降り立った。
二十分ほど歩いてようやく地平に町が見える、それほど離れた位置にだ。

今の彼は、骨の髄まで貧乏に浸かってしまっているらしい。


(;^ω^)「はぁ〜……すんげーお……」


町に入ってわかったことなのだが、建物は統一された規格で造られつつ、
なおかつ、さりげなく細やかな意匠も施されており、それらが絶妙に混じり合い一つの町並を形づくっていた。

「これが芸術というやつなのだろうか」と、薄汚れた飛行服姿でキョロキョロと見渡すブーン。

明らかに周囲から浮いていた。寄せられる好奇の目に気づき、彼は慌てて取り繕う。



66: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:28:50.56 ID:HePFKFWY0
 

(;^ω^)「あ、いや、綺麗な町ですね、ホント」


通行人に話しかけるブーン。好奇の目は不審の眼差しに変わった。
針のむしろとはまさにこのことだ。あの時ツンが帰りたがったわけに、今ようやく彼は気付く。

いや、町が間近に近づいてきて急きょ降り立つ場所を島の端に変更したその時から、
彼は無意識のうちに気づいていた。

華やかな衣装をまとった住人達。それに見合う壮観な町並。
対してみすぼらしい飛行服で、間抜けに口をあけながら歩く自分。

あの時ツンは、子どもながらに気づいていたのだ。ここは足を踏み入れてはいけない世界なのだと。


(;^ω^)「あはははは……あ、このお店はなんだろう? ちょっと入ってみますね」


ほとんど逃げるようにして、彼は近くの建物へと駆けこんだ。



69: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:31:29.24 ID:HePFKFWY0
 
逃げ込んだ店内はハインリッヒのパーツ屋と同じほどの広さで、しかし雰囲気は正反対だった。
足の踏み場もない廃材倉庫のような店とは似ても似つかない、がらんどうと感じられるまでに整然とした店内。

入口の正面の壁には、入店したみすぼらしい自分をまざまざと映し出している巨大な鏡が一枚。
その他左右ニ面面の壁には、暖色の壁紙の上に絵画が掛けられており、その傍には花が活けられていた。
ハインの店に活けたら花は三分で枯れ、十分後には機械の鼻と化しているだろう。


('、`*川「いらっしゃいま……せ」


そして店の中心にはぽつりとガラス張りの棚があり、その向こうに女性店員が一人いた。
彼女はひと目でブーンを冷やかしの客と判断し、愛想を消す。

一方でブーンはというと、入った手前すぐには出るわけにもいかず、
仕方なしに彼女の前、店の中心、ガラス棚へと向かう。

並んでいた商品を前にした彼は、偶然は重なるものだなぁとしみじみ思った。


(;^ω^)「……よりにもよって指輪屋さんかお」


つい声が出てしまった。恐る恐る顔を上げれば、店員が目で「(・∀・)カエレ!」と言っていた。



71: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:33:02.96 ID:HePFKFWY0
 
お言葉に甘えて帰ろうとしたが、しかしこんな店に入る機会なんて滅多にないことだしと、
じくじく痛む店員の眼差しに耐えつつ、ブーンはまじまじとガラス棚の中を覗き見る。

並べられていたのは、今朝食卓の上にあったものと同じような造りの小箱。

中身を見せつけるべくふたの空けられたそこには、
銀色に輝くリングと、小さいながら威圧感のある(少なくともブーンにはそう感じられた)光を放つ宝石。

そして、そのすぐ前には。


(;^ω^)「……あのー」

('、`*川「なんでしょう?」

(;^ω^)「これ、ゼロが二つばかり多くないですかお?」

('、`*川「いえ。それは特売品になっております」

( ^ω^)「わーお」



73: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:35:00.73 ID:HePFKFWY0
 
店を出た。ふらふらと通りを斜めに横切りって、壁に手をつきうなだれた。

まさか、へその穴程度のわっかで先日買ったエンジンが買えるなんて思ってもみなかった。
しかも特売品ときたもんだ。世界は広いなんて話じゃない。次元がまるで違っている。


(;^ω^)「そんなものをロマネスクは……」


支払った額で人の気持ちを推し量るだなんて愚かしいにもほどがあるが、
少なくとも何の行動も起こしていないブーンにとって、惜しげもなく指輪を与えたロマネスクの想いが、
それだけの額を貯めた生活力が、重く強いものに感じられていた。


( ´ω`)「あうあう……」


対して自分はどうだろう? 彼は今、自分の軽さと弱さをまざまざと見せつけられていた。

貯金なんて出来るわけがない。ツンに起こされなければ当たり前に遅刻する。生活力なんて皆無だ。
食事だってロクなものを作れない。今朝作ったサンドイッチが食べ物と呼べるなら、泥はきっとデザートだ。



76: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:36:17.52 ID:HePFKFWY0
 
情けない。往来の片隅、建物の壁に背を預けて空を上げた。

大人の対応を模索したり空に理由を求めたりする必要がないほどに、自分がしっかりとしていれば。
「黙って僕についてこい」と言えるほど、自分に生活力があったなら。

平凡な日常にどっぷりと浸かる今となっては、
エデンに辿りついた時の達成感も、ニューソクカップを制した際の自信も、
ツンと飛行機械があればどこまでも行けると握りしめた拳の熱も、なんの意味も持たなかった。
形のないものなんて、今の自分のように、眼に見える価値を前にすればすぐに萎んで消えてしまうのだ。

けれど形のない空は、相も変わらず空のまま。ブーンはぼんやり問いかける。


( ´ω`)「なあ、やっぱり世の中金なのかお?」

「そのとおりだ」

(;^ω^)「ですよねー……っておわっ!!」


突然のど元を襲った圧迫感。空はあっという間に姿を消した。



82: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:38:22.30 ID:HePFKFWY0
 
一瞬にして何も見えなくなった。間もなく背中に衝撃が走る。
続けて後頭部に鈍痛が走った。全身を駆け抜ける痛みに呼吸さえままならない。

それでも昔取った杵柄、体は勝手に跳ね起きて臨戦態勢を整えていた。


( ´_ゝ`)「ほう。この身のこなしにマヌケ面。確かにエデンを見た男のようだ」

d(´<_` )「だろう、アニジャ」

( ´_ゝ`)b「流石だマイラブリーブラザー。で、貴様、こんなところで何してんだ?」


ブーンの目の前には、腕組みしたスーツ姿の二人組。
薄暗い中に浮かぶ二つの顔は気味が悪いほどに瓜二つ。彼らは双子なのだろうか。

やがて痛みが引き、眼が薄暗さに慣れてくると、ことの次第が掴め始める。

どうやらここは建物と建物の間の通路、路地裏のようで、ブーンは往来から引っ張りこまれたらしい。
そして目の前の二つの顔。どこかで見たことがあった。それも、つい最近。


(;^ω^)「アッ―――! お、お前たちは!」



84: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:39:32.37 ID:HePFKFWY0
 

           @@@
          @# _、_@
           (  ノ` )  おっと、そこまでだ小僧
         /´,_m^ `ヽ
         〈 (_n ̄)ィ   〉
         ヽ_(y';、,!,/  ノ  キリキリキリ
           |ヽ、__/〈
          /|  !,   ヽ
         〈 |   |`ヽ、 `i,
          ヽ/   ノ   i  ,〉
          ノ  ,./ヽ   |   |
     /^ヽ_/   ヽ、)   i  ,! 
     し/´ /⌒ヽ/⌒'i (  ヽ 
      ゝ (;^ω^),ノi ノ \__,)
      /  ノ  ,r-っ (ノヽ,,>   痛いお! ギブギブ! 
     〈_ ̄ ̄ メ  ))   
              バンバン!



88: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:42:08.02 ID:HePFKFWY0

突如背後から現れたゴリラ。足首をキメられ、地面に組み伏せられたブーン。
野太いながらひそめられた声が、路地裏だというのに掃除の行き届いた地面、横たわる彼に向けられる。
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「ほう。あんたがエデン見た男かい?」

(;^ω^)「あ、あんたこそ何者だお!」

( ´_ゝ`)「うちの母です」
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「どうもおかんです」

(;^ω^)「え!? 嘘!? これって女なの!?」
 @@@
@#_、_@
 (  ノ`) 「あんだって?」

(;゚ω゚)「痛だだだっ! ギブ! ギブ! ごめん! ごめんなさい!」



91: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:43:42.28 ID:HePFKFWY0
 

( ´_ゝ`)「というわけで、流石一家長男、アニジャです。好きなものはお金と美人です」

(´<_` )「二男のオトジャです。尊敬する人はアニジャです」
@#_、_@
 (  ノ`) 「棟梁のハハジャです。先日は息子ともども、いろんな意味でお世話になりました」

(;^ω^)「あ、いえいえ、礼にはおよびませんお。僕はブーンと申しますお」


薄暗い路地裏の奥でなぜか対面して座りあったブーンとサスガ一家は、声をひそめて自己紹介をし合っていた。
しかし間もなく、ブーンの突っ込みが入る。



94: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:45:18.28 ID:HePFKFWY0


(;゚ω゚)「って、なんでお前らここにいるんだお! ここはニューソクだお! ドクシンじゃないお!
     おまけにお前ら、二日前僕にやられたばっかりじゃないかお! どうやってここに来たんだお!」

( ´_ゝ`)「ふっ。チチジャの技術があれば、サスガは何度でも蘇るさ」

d(´<_` )「名台詞だアニジャ。早速『アニジャ名言集』に書き加えておく」

( ´_ゝ`)b「写真も添えておけよ?」

【◎】<_` )「おう。パシャっとな」

(;^ω^)「……」


なんかもう、どうでもよくなってきたブーンであった。



96: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:46:52.67 ID:HePFKFWY0
 
それから延々と意味のないやり取りを続けたアニジャとオトジャ。
ブーンはさっさと立ち去りたかったが、黙って彼を睨みつけるハハジャに射竦められ身動きが取れないでいた。

やがて考えることも何もかもが面倒くさくなったブーンは、路地裏の狭い空を見上げることにする。


( ´_ゝ`)「ところでエデンを見た男。貴様にちょいとお尋ねしたい」

( ´ω`)「あー? なんだお? 何でも聞いてくれお」

( ´_ゝ`)「宝石屋に人はどのくらいいた?」

( ´ω`)「お? 女の店員さんが一人だったお。それがなにか?」

( ´_ゝ`)「……よし、ならこれを着ろ」



98: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:48:18.61 ID:HePFKFWY0

 
(;^ω^)「お?」


投げやりに答えを返したところ、なぜかブーンはアニジャの羽織っていたスーツを着せられた。
ワイシャツにネクタイ姿となったアニジャはアゴに手をやり、
飛行服にスーツという何とも素っ頓狂な格好のブーンを舐めまわすように見つめる。


( ´_ゝ`)「うーん……いまいちだな。これも被っとけ」

(;^ω^)「ちょwwww何する……」

(´<_` )「はいはーい、ちょっと黙っててねー」


暴れまわるブーンをオトジャが押さえつけ、アニジャが何かをかぶせた。
両眼以外、顔面すべて覆い尽くされたもはや奇人と呼ぶしかないブーンを見て、二人は親指を突き合わせる。


( ´_ゝ`)b「うむ。大分さまになったな」

d(´<_` )「ああ、じゃあ行くか」

(;^ ^)「ちょっと待てお! どこ行くんだお!」


呆然と立ち尽くすだけのブーンを尻目に、満足げにうなずいた二人は大通りへと歩を進める。
遠ざかる二つの背中に向けてブーンが叫んだ直後、彼の後頭部へ、低い声と固い何かが向けられた。



102: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:49:30.47 ID:HePFKFWY0

@#_、_@
 (  ノ`) 「まーだ状況を呑みこめてないのかい? たいそうな二つ名が泣いてるさね?」

(;゚ ゚)「……」

@#_、_@
 (  ノ`) 「エデンを見た男。空で名を轟かせたあんたも、飛行機械がなけりゃただの優男さね。
      今ここでお陀仏したくなけりゃ、黙ってあたしらについてくりゃいいのさ」


振り返らずとも気がついた。経験が教えてくれていた。
全身を冷や汗で濡らしながら、ブーンは恐る恐る両手を上げる。

@#_、_@
 (  ノ`) 「よーし。なら、あたしの合図で走んな。全力でだよ? いいかい?」

(;゚ ゚)「……」


首を縦に振るしかなかった。



104: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:50:46.26 ID:HePFKFWY0

固まった姿勢のまま、路地裏を出て右へ曲がった兄弟、彼らがふさいでいた往来を眺めていた。

けれど、もちろんそれだけではなかった。
女性(一応)に突きつけられるのは二度目であるという経験のおかげか
ドッグファイト中と同等に冷静となっている頭に、彼は考えられるだけの対処法を列挙していた。

そして、ひとつの結論を導き出した。



( ^ ^)「ダメだこりゃ」



109: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:52:51.43 ID:HePFKFWY0

どう考えても、今の状況で逃げ切るのは不可能だった。

今背後にいるのは、しぃとは比べ物にならない体格のメスゴリラ。
さらにそいつがほぼ間違いなく銃を握っているとあれば、これはもはやどうしようもない。

しかしだからと言って、打開策がないわけではない。

状況は、エデン近郊の上空で黄豹に背後を取られた時と似ていた。
PMA。あの時自分はどうしたか。それこそが、今できる最善のことだ。


(;^ ^)(耐えて耐えて……待って待って……チャンスを掴むんだお……)



112: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:54:34.10 ID:HePFKFWY0
 
神経を研ぎ澄まし、状況の変化を待つ。
今は全く役に立たない風の流れが、今のブーンには手に取るように理解出来た。

風の流れは状況の流れ。
風を切って走る翼は自分の体そのもの。
握るべき操縦桿は緊張にそそり立つ股間の棒。

地上を空に見立て、パイロットは勝機をうかがう。

雌ゴリラの言葉を合図に駆けだそう。そして往来を兄弟とは逆、左へ曲がろう。

銃弾は意外に当たらないものだ。誰かの言葉を思い出す。
空中戦のマニューバであるシザースのようにジグザグと逃げ回れば、そうそう打ち抜かれることはあるまい。

それに流石のサスガ一家棟梁とはいえ(うまい)、
通行人、それも富裕層ばかりの往来で銃をぶっ放そうとはしないだろう。


( ^ ^)(……これしかないお)


ブーンが覚悟を決めた、その時だった。雌ゴリラではない、何かを懐かしむ人間の声が聞こえた。

@#_、_@
 (  ノ`) 「……モナーとドクオは元気かい?」



117: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 16:59:33.10 ID:HePFKFWY0
 

(;゚ ゚)「お!? 今なんて……」


驚きのあまり振り返った。


(;^ ^)「ええ! うそーん!?」


振り返ってもう一度驚き、初めの驚きは消えうせた。


      _@#_、_@__  イエーイ
     (_(  ノ`)__( )
      (  ニつノ
     ,‐(_  ̄l
     し―(__)


ハハジャは銃ではなく飛行戦艦の副砲ほどもあろう大砲を軽々と抱え、
ぽっかりと空いたその口をブーンに向けていたのだ。



120: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 17:00:51.88 ID:HePFKFWY0


d(^ ^)b「無理です」


ひねり出した逃亡策は泡となって消えた。
同時に往来から爆発音と震動が伝ってくる。さらに同時にハハジャが吠えた。

@#_、_@
 (  ノ`) 「走んな!」

(;^ ^)「は、はいだお!」


駆けだし、路地裏を抜けた。
往来の右手に、さきほどまで自分がいた店が煙を噴き出しているのが見えた。



123: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 17:03:45.74 ID:HePFKFWY0
 
一瞬、コンマ数秒に満たない間で、ブーンは思考した。
背後からはハハジャの殺気。後頭部には大砲の空洞。


ここで左に曲がる。さあ、逃げきれるか?



( ^ ^)ノシ「無理無理」



@#_、_@
 (  ノ`) 「おら! あそこだ! とつげきいいいいいいいいいいいいい!!」

(;゚ ゚)「畜生! もうどうにでもなれお!」


両手を広げ、彼は鳥になった。



125: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 17:05:03.29 ID:HePFKFWY0
 



      @@@  とつげきいいいいいいいいい!
  ______@#_、_@___ρ_____           /⌒ヽ  ヒイイイイイイ!
 ( _____ (   ノ`)(____ ∈∋"" ̄ ̄(.) ⊂二二二(; ^ ^)二⊃     
    .(  つ〆ノ    ̄ ̄\ノ ̄ ̄        |    /      
     ( ヽノ                     ( ヽノ
  :。; ノ>ノ                      ノ>ノ   
 三  レレ                   三  レレ



127: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 17:06:41.62 ID:HePFKFWY0
 
向けられた周囲の視線に痛みを感じる余裕すらなく、
ブーンは一目散に崩壊した店の入り口を目指し、くぐった。


('、`;*川「は、はわわ……」

( ´_ゝ`)「ふはははは! この店の宝石はすべて俺様が貰った!
     さあ、お嬢さん! おっぱい揉ませてくれ!」

(´<_` )「さすがアニジャ。鬼畜だな」


銃を女性店員に向けたアニジャ。爆弾らしきものを片手でぽんぽんともてあそび、
余裕の表情でのアニジャを褒めるオトジャ。今にも泣き出しそうにへたり込んでいる女性店員。

崩壊した割れたガラス棚、花瓶、床に落ちた絵画。

そして入口対面の壁に備え付けられた、ひび割れた鏡には。



130: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 17:07:42.59 ID:HePFKFWY0
 

(;^ ^)「……あら〜」


飛行服の上にスーツを羽織り、顔を目だし帽で覆った自分の姿。どう見てもあれです。
そして鏡に映った彼の背後で、大砲を抱えた雌ゴリラが吠えていた。

@#_、_@
 (  ノ`) 「馬鹿息子ども! ちんたらしてんじゃないよ!
      さっさと逃げるよ! 金目のもん、30秒で回収しな!」

( ´_ゝ`)bd(´<_` )「把握した」

( ^ ^)「……」


手際よく行動を始めた兄弟二人。
彼らを一瞥すると、ブーンは呆然と立ちつくした鏡の中の自分を眺め、今は亡き父へ呟いた。



132: 78 ◆pSbwFYBhoY :2008/05/24(土) 17:09:04.64 ID:HePFKFWY0
 
父ちゃん。僕はエデンを見つけたお。
ニューソクカップも制覇したお。ちんこにもいっぱい毛が生えたお。

僕は元気にやってるお。
















僕は元気に、宝石強盗やってるお。


第五話 おしまい



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