(´・ω・`)ショボンのお店に憑く神様のようです('A`)
- 4: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:34:11.73 ID:26wnw3/30
(´つω-`)
ゴミ捨て場に落ちていたデジタル時計がAM 6:00と表示している。
僕は毎日この時間に目が覚める。それから発注した商品や、お店の開店準備を行うのだ。
ただそれはあくまでも朝からお店を開ける時に限るものだ。
ちなみに一般的な飲食店だと、この時間から営業準備を始める。
やはり朝方はサラリーマンが軽食を取ったりとするので、そういう客層を目当てに開店する。
それから一番大事なお昼のお客さんを目当てに、準備を整えておく必要もあるのだ。
なので普通なら飲食物を取り扱いお店は今頃開店するために汗を流している。
が、
僕が営んでいるこのお店の場合、そんな一般的な理論は通じない。
何故なら第一に暇だから。
……まあ、そのせいで食材がほとんど余っていたり、
お酒がどう足掻いても後一週間は持ちそうだったりと、ロクなことではないのだけれど。
ただまあ、そんな理由があり、
そういうわけで僕にとってこの時間帯は開店準備などではなく、
(´-ω-`)「寝よう」
大体二度寝タイムとなるのだ。
- 8: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:35:54.85 ID:26wnw3/30
(´・ω・`)ショボンの
('A`)「眠いなぁ畜生」
お日様がゆっくりと昇り始めている。薄暗かった外の景色は徐々に光を取り戻しながら、明るくなっていく。
だが、時間なんかは知らん。
唯一俺が知っているのは自分が眠い。実に眠いということだけだ。
下の布団の土台なるものは粗大ゴミ回収施設にあったちょっとふかふかのソファ。
その上にはゴミ捨て場に放置されていた羽毛の掛け布団。
最近の日本とは素晴らしい。こんな物が平気で捨てられているのだから。
いやまあ、そもそも最近の日本とか以前に日本そのものを知らんけど。
('A`)「今日は良い天気になりそうだな……。よし、ちょっと散歩でもするか」
生憎部屋の窓から外を見てもお日様を視界に入れることは叶わないが、
それでも、ただなんとなくいい天気になる気がした。
そんな朝の陽光を浴びながら、散歩をするのも悪くない。
そう思いながら、俺は布団から外に出ようとするんだが、
- 9: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:37:56.95 ID:26wnw3/30
(;'A`)「さみぃよばーろー……」
布団の中に戻る。いや、流石冬。四季とは確かにいいものだ。
実に生きてるとか思える。生きてることを実感出来る。
肌を突いてくる冷気が生きているのだ、と現実味を帯びさせていく。
しかしそんな感情とか、そんなどうでもいい実感なんかよりも、
実に寒い。何よりも寒すぎて色んなことがどうでもよくなってくる。
('A`)「よし」
毛布に包まり、ソファの端にずりずりと移動し手を置くであろう場所に頭を乗せる。
外は相変わらず寒そうだ。やはり布団の中とは心地いい。
まだ寝起きということもあり、頭がぼーっとしている。そのため、すぐにまた意識が朦朧とし始める。
('A`)「寝よう」
俺はその眠気に身を委ねた。
お店に憑く
- 12: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:41:14.25 ID:26wnw3/30
お店に憑く
川 つ -`)
朝だ。
人類生きとし生けるもの者は皆この朝に目を覚ます。
冬場は寒さを我慢し、自らぽっかぽかの布団から抜け出て、起きる。
そして夏場は、日中の温度差による、早朝の寒さを我慢し、起き始める。
この時間は、そういう人間の葛藤が繰り広げられているのだ。
しかし……。
私は神様なのだ。
人間ではない。
それはつまり寒さを我慢する必要もなければ、朝に起きるという必要もない。
まあ、何が言いたいのかといえば、ああ、そうだな。とどのつまりだな。
川つ -`)「おやすみ」
眠いんだよ。
- 16: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:45:27.36 ID:26wnw3/30
神様の
lw´‐ _‐ノv「はろうはろうおげんきですか」
ちゅんちゅん。ちゅんちゅん。
そういった小鳥の囀りが耳を伝う。実に朝。グッモーニン。
やはり朝はこうでなくていけない。
小鳥の囀りを耳にして、およそ七時頃に温かいご飯と、温かい味噌汁を食べるのが一番なのである。
焼き魚やお漬物があると尚の良し。それなら素敵な一日の始まりが待っていると思えるのだ。
lw´‐ _‐ノv「お前らよおく聞けえい。こしひかり……私は信者であるぞよお……」
美味しい。秋田の新米であるコシヒカリはものっそい美味い。めがっさ美味い。べらぼうに美味い。
決してまだ炊き上がらせていない素の状態だが、
ほんのりとした甘みに、口いっぱいに広がるお百姓さんの汗と涙の思い出。
実にいいものだ。これが一番感情に触れ合えるものである。何故か誰も理解してくれないが。
ああ、そういえば大吟醸もまだ残っていたな。夕飯の時はこれを一杯やりながら食べよう。
べらぼう。実にべらぼうな夕飯だ。アッチョンプリケ。
- 19: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:47:47.91 ID:26wnw3/30
ちゅんちゅん。ちゅんちゅん。
小鳥たちは私の手元に群がる。その手中には私が一粒一粒大事に丁寧に食べているコシヒカリが入っている。
lw`‐ _‐ノv「あ、こら。おまえたちそんなに食べるんじゃない」
そうこうしている内に、私のコシヒカリが次々に食い荒らされてしまった。
むむう……。
小鳥にもこのコシヒカリのよさを伝えるために、少しだけ与えていたつもりが、いつの間にやらどえらい量を食べられてた。
危険因子。こやつら危険因子でござるぞお百姓様。
lw`‐ _‐ノv「ファッキン!! バード、オオ! バードクラッシュ!!」
うなーと手を振り上げ、私は地団太を踏む。すると小鳥たちは突然の素行に驚き、翼をはためかせ飛び立った。
よし、撒いた。あなたの守りたかった田んぼ、しっかり守らせて貰いましたよ!
ようです('A`)
- 26: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:50:37.33 ID:26wnw3/30
(´つω・`)「シューが叫んでる……。もう七時かな」
(つA`)「シューが叫んでるな……。仕方ない、起きるか」
川 つ -゚)「シューが叫んでる、か。よいしょっと」
lw´‐ _‐ノv「おう。へろう諸君。眠た眼をさっさと覚まして味噌汁を飲もう」
各々自分の部屋から出てくる。一人一人が眠そうに瞼をこすりながら、ふぁああとあくびをもらしている。
そんな中で死神だけが元気いっぱいだ。
そんな朝方の日常風景。
こうして、お店の一日が始まった。
第五話 店主さまと貧乏神の野朗と、
時々死神さんと疫病神ちゃん
- 28: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:53:58.19 ID:26wnw3/30
('A`)「いらっしゃっせー」
「トイレお借りしてもいいですか?」
('A`)「え? あ、ああはい。まっすぐ進んで右手側にありますのでどうぞ」
今俺はファミレスのアルバイト中だ。
全くもって暇である。いや、むしろ俺がいる時に忙しかったことなどないんだが。
そりゃあ、俺は貧乏神だし、近づく者を全員巻き込んで貧乏にしちまうだろう。
その結果として、今もこの状態なのだ。店長、すまん。
挙句、ようやく来たと思った客ですらトイレを貸してくれというもの。
コンビニにトイレ目当てで入るお客さんってのは結構いそうだが、
まさかファミレスにトイレ目当てで来る客なんて早々いやしないだろう。
( ・∀・)「休日の昼間だってのに、どうしたんだろうねえ……」
('A`)「そうですねえ」
今日は全国的に休日と言われる日。
そしてその休日に合わせてバイトが急遽病気で休み、店長と二人体制という異例の事態。
本来この時間は四、五人はいないと店そのものが回らないのだが、
俺がいることによって二人でも多い状態になっている。
- 31: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:54:52.01 ID:26wnw3/30
( ・∀・)「さっきのお客さん……まだトイレだね」
('A`)「よっぽど我慢されてたのかもしれませんねえ」
そんな他愛のない話をしていると、
それはそれはすっきりとした表情のお客さんが、どうもと一言だけ俺らに伝えて、店を出て行った。
( ・∀・)「それにしても……この時間帯で、お客さんが一人もいないと来たかい」
('A`)「まあまあ……なんか気がつけばいっぱいになってますって」
( ・∀・)「そうかな。そうだといいんだけどね」
('A`)「ほら、そう言ってると……いらっしゃっせー」
( ・∀・)「おお。いらっしゃいませい!」
- 32: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:57:11.41 ID:26wnw3/30
ああ。
ちなみに、この後お客さんが来たのか来てないのかで言えば、来た。
確かに来たには来たんだ。ただ、なんというか、その数なんだが……。
( ・∀・)「……まさか昼ピークで来たお客さんが七組とはね……それも二人か一人」
悲しきかな。多く見ても十四名程度という。
チェーン店でやっていくにはびっくりするほどに足りない総客数だった。
('A`)「まあまあ。これからですよ。きっと来ますって」
すまない店長。原因は全部俺だ。
流石にこのままじゃ不味いからなるだけ努力して力は抑えるようにしますよっと。
ほら、思ってるとまず第一歩となる客が一組やってきましたよ。
- 35: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 01:59:31.38 ID:26wnw3/30
* * *
(´・ω・`)「いらっしゃい、ようこそ。……あれ? いらっしゃい」
川 ゚ -゚)「珍しく盛況だな」
lw´‐ _‐ノv「材料、足りそうか? 私のコシヒカリで良ければ十粒ぐらい貸すぞ」
(;´・ω・`)「うーん。お摘みにもならないから遠慮しておくよ」
どういうことか、気がつけば客席が埋まっていた。
こういうバーみたいな雰囲気があるお店は、基本的に夕方からオープンしたりする。
何故かといえば、昼間に開けても雰囲気が出なかったり、そもそもお客さんが来ないからだ。
でも、僕のお店は夕方からあけて深夜までやるだけではいささか売り上げが足りない。とてもじゃないけど、生活なんて出来ないのだ。
だから昼間から開店してお客さんを待つのだが、勿論のこと、お客さんなんてほとんど来るわけもない。
加えてドクオの力が働いているこのお店に寄り付くお客さんなんてのは、中々に珍しい。
結果、一日一万程度の売り上げにもならないことすらあるのだ。
それでも、僕は構わず店を開けているんだけどもね。
昼間はランチを一応やっている。今日はその注文が殺到しているようだ。
クーやシューがメモを片手に聞きに行っているが、全てランチで統一されていた。
- 36: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:02:19.35 ID:26wnw3/30
- _
( ゚∀゚)「いやーしかしこんな店があるなんて知らなかったよ」
(´・ω・`)「それはそれは。どうもありがとう」
僕の真正面で座っている油性マジックでそのまま横に引いたかのような、
なおかつ片方しか眉毛のないお客さんが話しかけてきた。
ここで上手く話し合えたりするとまた次も来てもらえたりするのだけれど、
相性が合わない場合は無理してまで来てもらおうとは一切に思っていない。
……まあ、そのせいでお客さんが来なかったりもするんだけど。
ただ一向に構いやしない。気にいらなかったのに無理して来て欲しいとは思わないから。
_
( ゚∀゚)「いい雰囲気だ。昼間で、なかなかに盛況だがどこか落ち着いている。出来ればまた夜に来たいぐらいさ。
……それに、小ぶりなおっぱいとはいえ、美人な店員が二人だなんて金すら取れそうだ」
(´・ω・`)「はは、普段はそんなに売れていないけどね。でも忙しいからって慌しくなんて出来ないよ。
お客さんには安心して欲しいからね。そういう空間を作るのが僕の仕事さ。恥ずかしい言葉だけどね。
しかしまあ……。そのセリフ。あの二人が聞いたら怒りそうだね」
_
( ゚∀゚)「なら俺がその売り上げに出来る限り貢献しよう。
……ううむ。いや、あの二つのおっぱいに怒られるのなら本望かもしれないな」
そんなこと言って、僕はお客さんと軽く笑いあう。
「ははは」「ふふふ」といった楽しそうな声が店内に響いていく。
僕はお客さんに満足して貰えればそれでいい。そう思っている。
だけども、今の一言は非常に不味い。
仮にも神様である彼女達のコンプレックスを逆撫でするのは非常にヤクイ。
- 39: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:05:52.49 ID:26wnw3/30
見た目や、怒るところや、笑うところは僕達人間と変わりはないものの、
無駄に耳が良いとか、そんなに必要なのかというほどに目が良かったりと、やはり人間とは違う部分を秘めている。
勿論、その場に居合わせるだけで能力みたいなものを発揮してくれたりもするんだけれど。
ただ、なんというかね。今はそういう悠長なことを考えている場合じゃないんだよね。
あの神様二人は店の都合より、自身の感情を優先するからね。
そんな彼女達を止められるほど、僕は強くない。
つまり僕が伝えられる言葉はただ一つ。
静かに笑って、安否を祈るだけさ。
(´・ω・`)「はは、お客さんの無事を祈っていますよ」
_
(;゚∀゚)「え? 何が? 何がだい?」
そんなお客さんの不安をよそに、二つの影が近づいて来る。
- 41: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:08:26.95 ID:26wnw3/30
川 ゚ -゚)「ではでは」
lw´‐ _‐ノv「存分に味わうといいぞよ」
_
(;゚∀゚)「え? なんで後ろ首つかんd……。ちょ、ちょっと? どこに連れてアッー」
案の定クーとシューに捕まり、後ろから服を引っ張るクー。
一方のシューは情け容赦微塵もなし。後ろ髪を引っ張る始末。
というか……あの二人注文を受けた後、厨房で調理してたのになんて速さだ。
流石の一言だ。……尊敬も何も出来たものじゃないけれど。
川 ゚ -゚)「誰の胸が小さいだ」
_
(;゚∀゚)「ちょwwww落ち着けwwww話せばわかるwwww」
その顔には見て取れるほど憎悪の感情が出ていた。出まくっていた。出尽くしそうだ。
普段表情をあまり顔に出さないクーだが、この時ばかりは少し表情が変わっていた。
ちなみに、そんなクーが怒っているかどうかを判断するには、
主に眉と口元と目元がどう動いているかである。頬が緩んだりするところはあまり見ない。
だからその分笑うと可愛いらしいんだけどね。勿体ない。
いっそ笑顔のバーゲンセールでもしてみればいいのに。
- 43: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:11:21.54 ID:26wnw3/30
lw´‐ _‐ノv「私はクーよりでかい」
ほよんほよん。そんな擬音が飛び出しそうな勢いで自分の胸を揉むシュー。
……クーには失礼だけども、確かにその通りだ。クーの二倍以上は確実にある。
ただ、あくまでもそれはクーと比べれば、という結論。
言ってしまえば、目くそ鼻くそを笑う状態である。
川 ゚ -゚)「うるさい」
lw´‐ _‐ノv「いたた」
眉を吊り上げたまま、クーのチョップがシューの眉間にクリーンヒット。
少し手をあて、すりすりと痛みをこらえているようだけど、
この痛みも恐らくシューにとってはカンフル剤となるのだろう。
何せ自分達を罵倒したという正当な叩き材料があるのだから。
- 44: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:13:28.57 ID:26wnw3/30
川 ゚ -゚)「さあ覚悟は出来たかお客様」
lw´‐ _‐ノv「十分ぐらいは持ちたまえよ。ふふふふふふ」
_
(;゚∀゚)「ちょwwww待てwwwwだから話せばわかるwwwwだから引っ張らないでwwwwアッー」
厨房裏へと姿を消したお客さんは、気がつけばこれで十人を超えていた。
……出てきたら何をされたのか、目も当てられない悲惨な状態になっているというに、
何故かお店に来てくれるのだから不思議なこともあるもんだ。ありがてえありがてえ。
さて、と。
あの二人が何かやっている間にもお客さんはご飯を待ってるからね。
彼女達が作らないなら、僕が作らないと。さあて、頑張ろうかな。
- 46: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:15:24.84 ID:26wnw3/30
* * *
('A`)「……」
( ・∀・)「暇だねえドクオ君」
店内は素人目線からでも分かるほどに暇で溢れかえっていた。
綺麗に布巾で拭かれている机。ドリンクバーのコーナーには珍しく汚れが全くない。
定期的に取り替えたり、掃除をしたりしなきゃならないコーヒーメイカーなんかは取り替える必要性すらないのだ。
時刻は午後の二時半を回っている。
昼ピークで来た客を除くと、それはもう酷い来店数だ。
何せ、コーヒーは三回ほど出たか出てないかという状況なのだから。むしろ、ココアの方がまだ出ている。
しかし、ココアは美味しい。あの甘みは正直素晴らしい。
ホットココアを貰った時に、思わず頬が緩んでしまったくらいだ。
そんな様子を見た店長は「よく飲めるねぇそれ……」と、
関心していたのかあきれていたのかわからないような表情をしていた。
- 50: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:17:48.42 ID:26wnw3/30
('A`)「そうっすねえ……暇っすねぇ……」
忙しい間はこういう風に店長と話をしていたり、一昔前のことを思い出したりなんて出来はしない。
ただ、今は存外暇すぎる。いや、俺がいるから多分暇なんだろうけど。周りの人間の幸を消すわけだし。
結果店の利益が、か。とはいっても毎回俺が店を出てから人でごった返すんだがな。
しかしまあ、さっきの客は何故かイチゴパフェだけ頼んで帰ったしな。
あれが第一歩なら、スタートラインとゴール地点の距離が百センチ程度だろう。
( ・∀・)「しっかしまあ……バイトの子がいきなり三人も休んだからどうなることかと思ったけど、大丈夫そうだね」
さっきも話したように、今日はバイトの人が三人も休んで、
シフトに入った時正直狼狽していたが、逆に助かった。
何せこの暇さだ。人件費って奴だけで相当店に負担がかかる。
ショボンの店なら人件費なんぞないから問題はないものの、
こっちは普通に雇って、お金を貰ってというシステムが出来ているのだからあのバイト三人が来たら相当不味い。
おかげで助かってはいるものの。
('A`)「売り上げ的な意味で店の赤字はとんでもねーですけどね」
( ・∀・)「それは言わない約束だよ、ふふ。ふふふ……ふふふふふ」
(;'A`)
- 52: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:20:27.23 ID:26wnw3/30
それから、数時間と俺の勤務終了時間まで客は全く来なかった。
何を頼まれたのか、何を作ったのかがハッキリとわかっちまうくらいに来なかった。
昼のピークを過ぎてからは、和風ハンバーグの和セットと、イチゴパフェと、ドリンクバーのみでのさばりやがる客三人だ。
ちなみに、いずれも一人一組である。友達いねーのかお前ら。
( ・∀・)「あ、ドクオ君ドクオ君」
俺の勤務時刻を過ぎ、タイムカードなるものを押した後で声をかけられる。
('A`)「え、へい。なんでしょう」
( ・∀・)「いやいや。大した用事じゃないんだけどね。君に渡したいものがあったんだよ」
('A`)「渡したいもの? 俺に?」
はて。なんなのだろうか。
よくわからないが、とりあえず貰っておいて損はないだろう。
- 54: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:21:56.76 ID:26wnw3/30
( ・∀・)「そうそう君に。いやね、海水浴って知ってるかい? いや、知らないわけないか」
('A`)「海水浴っすか。なんですかそれ」
(;・∀・)
('A`)?
なにやら場が凍った。なんだ。なんでだ?
一瞬だけ、店長がよくわからない顔になっていた。
笑っているかのように頬が緩んでいるのだが、眉先が上がっている。
しかし、そんなのは一瞬の出来事で、すぐにいつも通りの顔に戻る。
……なんか、微妙に笑ってはいるんだけど。
そんないつもと違う違和感に気づきはしたものの、
まあ特に気にもならなかったので、会話を続けた。
- 56: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:24:35.81 ID:26wnw3/30
( ・∀・)「うん。簡単に言うと出店とかがあって、海の家っていうところがあって、加えて海で泳いで遊ぶことなんだ」
('A`)「なんですかそれ。無茶苦茶楽しそうじゃないですか」
( ・∀・)「うんうん。それでね、僕はちょっと予定が合わないし、使い道がなさそうだからこの海水浴の入場チケットいる?」
('A`)「え」
( ・∀・)「四枚もあるんだけどね……。使い道がなくってさ」
('A`)「い、いいんですか!」
( ・∀・)「うんうん。たまにはゆっくりと遊んできたらいいよ」
('A`)「あ、ありがとうございます!」
そんな感じで、モララー店長は少し引きつった笑顔の状態で俺にそのチケットをくれた。
なんてこった。とんでもなくいいもんじゃねーか。ありがてえありがてえ。
今度ショボンやお店のみんなと行くか。とりあえず、他の奴らには黙っておいて、ショボンにだけこっそり教えておこう。そうしよう。
そんなことを考えながら、俺はさっさと着替えを済ませて、モララー店長にお疲れ様でしたと一言告げて店を出る。
……しかし、貧乏神の力ってのはつくづく恐ろしいな。
俺が店を出てから客がどんどん入っていってやがる。
夜の人は普段以上に忙しくて地獄を見るだろうな。
すまない。恐らく一気に今までの分が回ってきてると思う。
ありがとうございますモララー店長。そんでもって、すみませんでした。
- 58: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:27:21.10 ID:26wnw3/30
* * *
(´・ω・`)「みんなお疲れ様」
川 ゚ -゚)「ううむ。今日は一番売れた日だと思うぞ」
lw´‐ _‐ノv「甘酒おいしいれす」
ピークを終えたのが時間にして午後伍時。
まだお客さんは残ってはいるものの、ドリンクを頼んでゆっくりとしている状態である。たまにクーやシュー、そして僕と話はしているけれども。いずれにせよ、もう食べ物を頼んでは来ないだろう。
巫女服の女性と、黒装束の女性ってどうなんだろうね組み合わせ的に考えて。
……ちなみにその中にいるスーツ姿の男ってのも、ちょっとどうかとは思うけど。
うーん。クーは、まだありなのかもしれない。
巫女服でありって時点でちょっと僕の中にある常識が壊れかけているのかもしれないけれども。
シューに関しては魔法とかが存在する漫画や小説の世界でありがちな、
魔法使いが着ている生地の薄そうな黒地のローブを身に纏っている。
それに加えて何時何処でも出せる死神様専用の鎌を持っているなんて非現実きわまりない。
- 59: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:28:23.18 ID:26wnw3/30
ただそれが一部のお客さんに受けているようで、固定客なんかがつき始めていたりした。
お店のお酒やら、雰囲気やらも気に入ってもらえたようで僕としても嬉しいのだけれど、やっぱり複雑な気分でもある。
どちらかといえば、巷で有名なコスプレ喫茶に近い感じなのが嫌なのだろうか。
……まあ、お帰りなさいませとかそんなことは言わないからいいんだけど。
(´・ω・`)「そういえば、クーとシューは最初のお客さんと戯れるのに疲れたんじゃない?」
ふと、厨房裏へと引きずり込まれたお客さんの存在を思い出した。
あの人は大丈夫だったのだろうか、と思いさっき確認しにいったが既に姿はなかった。
当たり前といえば当たり前のなのだが。
なんだかんだ言いながら恐らく無事に帰って……はいるよね、きっと。
- 60: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:29:38.75 ID:26wnw3/30
川 ゚ -゚)「失礼な。力は温存してたぞ」
lw´‐ _‐ノv「生かさず殺さず……ああ恐ろしや恐ろしや」
川 ゚ -゚)「私だけじゃあるまい。シューも参加してたじゃないか」
lw´‐ _‐ノv「あーあーきこえなーい」
川 ゚ -゚)「……米の水を増やしてぬめぬめどろどろにしてやる」
lw`‐ _‐ノv「それは流石の我輩も怒るぞなもし」
川 ゚ -゚)「なれば謝れ」
lwヽ`‐ _‐ノv「謝罪と損害賠償を要求するニダ」
「ふふふ」「ははは」といった二人の笑い声。
ただ、その声に純粋な気持ちというのは一切入っておらず、そこには憎悪と嫌悪しかない。
……無事に帰れたのかなあのお客さん。やっぱり不安になってきた。
そんなことを思ったけれど、まあここに姿がない上に、
そこまで人間相手に情け容赦なくやりこめたりはしないだろう。そうだと信じたい。
- 61: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:30:31.66 ID:26wnw3/30
川 ゚ -゚)「よーしシュー。今日という今日は決着をつけようか」
lw´‐ _‐ノv「望むところでござる。死神が、負けると思うてか」
川 ゚ -゚)「ふふふ。私をそこいらにいる厄病神と一緒にしてもらっては困る」
lw´‐ _‐ノv「ははははは」
川 ゚ -゚)「ふふふふふ」
恐ろしい。恐ろしい会話だ。今にも店内で大暴走し兼ねない。そんな空気がぷんぷんしている。
そしてそれは行動にも出始めていた。クーは腰に据えた刀を握り、居合いの構えを。
一方のシューはそれに対応するために死神専用の鎌を具現化させている。
流石にこれは不味い。万が一二人が怪我でもしたら大変だ。神様の傷はこっちの世界じゃ癒せないかもしれないのだから。
とはいえ、そんな二人を止めることが出来るびっくり、そしてどっきりなアイテム。
それを今日は紹介します。
(´・ω・`)「まあまあ落ち着いてよ二人とも」
まずは、険悪なムードの二人に割り込みます。
この時怒鳴りながら言ってはいけません。
そんな神経を逆なでするような真似をしては、自分の身も危険に晒されます。
- 62: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:32:20.78 ID:26wnw3/30
川 ゚ -゚)「口出ししないで頂きたいヘタレ眉毛」
(;´・ω・`)「ヘタレ眉毛……」
……僕の心にぐさりと突き刺さる一撃。ロンギヌスの槍をぶち込まれた気分だ。
しかしここで諦めるわけにはいかない。そりゃそうさ。ここで引き下がったらまた再開されてしまう。
と、いっても穏便に。穏便に話を進めるんだ。
この状態じゃ、クーは駄目っぽいから、シューから話をつけよう。それが最良の方法だろう。
(´・ω・`)「ねえシュー」
lw´‐ _‐ノv「なんだこの口まn(;´・ω・`)「ええい黙れい!」
川 ゚ -゚)「なんだ。なんなんだショボン。お前は一体全体何がしたいんだ」
穏便になんて進めてられるか! 相手はこの二人だぞ!
数秒前の僕は馬鹿か。今の僕も馬鹿だけど!
- 65: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:35:00.18 ID:26wnw3/30
とはいえ、無策でこんなことはしない。いや、むしろ出来ないのほうが正しいか。
この二人を止めるのに当たって空手ではいささか無謀だ。
だから、その秘策であり、二人には最大限に活用できるアイテムを、
僕はバーテーブルの下にある小型冷蔵庫に隠して置いてある。それがしっかり入っているかを確認する。
よし。ちゃんとあるぞ。これで大丈夫。して、その重要なアイテムというのが、
(´・ω・`)「よーし。よし。まずは落ち着こう。ね?
うん。そうだね。仲直りするならクーにはラムネをプレゼント。
そしてシューには甘酒プレゼント」
川; ゚ -゚)「く……」
うろたえるクー。よしよし。
物で釣るといえば聞こえは悪いが、こういう事態に陥らないためにも必要な策だと思うんだ。
しかし、本当に好きなんだな。たった一つの飲み物でここまで考え込めるとは。
さてさて。クーの方は予想通りの結果だ。もう一人はどうかな?
大方、予想通りだろう。
そんなことを思いながら少し視線をずらして見てみると、目に入ったシューは全く微動だにしていない。
- 67: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:36:50.73 ID:26wnw3/30
lw´‐ _‐ノv「クーごめんなさい」
一瞬だけ、これじゃ駄目だったのか? と疑問符を打ったけどシューだもんね。
そりゃ顔色変えずにこんなこと言っても無理はないか。
しかしまあ。全く動じることなく、微塵も動揺なんてしてなかった。
物欲に忠実すぎるシューには尊敬の念すら沸いてくる。
というか……あれ? もしかして僕シューにはめられたんじゃないのか。
こういうことをしていれば物で釣ってくるんじゃないか? みたいなことを考えてて、それにはめられたみたいな。
……いやいや。はは、まさかそんなことはない。考えすぎだろう。うん。
川; ゚ -゚)「すぐに謝るな。悩んだ私が馬鹿みたいじゃないか」
lw´‐ _‐ノv「でも多分恐らくきっと普通に謝ってたと予想」
川 ゚ -゚)「確かに。そうかもしれないな。すまないシュー」
(´・ω・`)「はい。それじゃこれ二人ともあげる」
川 ゚ -゚)+「ありがたく貰うとしよう」
lw´‐ _‐ノv「わーい! 今日から甘酒祭りだーい!」
- 68: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:41:15.76 ID:26wnw3/30
ラムネのびーだまを付属の押し落とす奴……。
うーん。名前はわからないあれを使ってクーが必死にラムネを開けようとしている。
ただ、こいつは必死に押し開けようとすると……。
川 > -<)「うひ……」
零れ、飛び散ってしまうもので、しゅわ、と音を立てながら炭酸がクーの巫女服にしみこんでいく。
ラムネがかかったクーの顔は、それはそれは可愛らしいものだということは口には出さなかった。
出したところで「そうか」の一言で片付けられるのは目に見えている結果だしね。
ちなみに、一方のシューはすでに缶に入っている甘酒を飲み干しており、口に白い髭を作っていた。
「米……米の恵みでござるぞおおおお! おおおお!!」とかなんとか言っている。
まあ、いつも通りというか相変わらずといった感じだ。
そして空っぽの缶を握り締めたまま、時たま底に溜まっている少量の甘酒を呷っている。
川 ゚ -゚)「なんだ。もう夕暮れ時か」
lw´‐ _‐ノv「今日もありがとう太陽様」
(;´・ω・`)「日の光が当たらない位置なのによくわかったね二人とも……」
川 ゚ -゚)「窓の外の道路を見てみればわかるぞ。茜色に染まっている」
そういわれて、少しバーテーブルから体を乗り出し窓の外を見てみる。
すると、そこにはクーの言った通りオレンジ色に染まっている道路と、
季節にそぐわない薄汚い黒服を来た男が、歩いていた。
言うまでもないが、ドクオだ。
- 69: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:42:16.69 ID:26wnw3/30
そういえば、そろそろバイトも終わる時間だった。
ということは、今日の売り上げはこんなところということか。
そしてドクオはそのまま店の扉の前まで歩いてきて扉を乱暴に蹴り開ける。
そのままつかつかと歩いて、バーテーブルの近くの椅子へと座る。
(´・ω・`)「おかえり」
('A`)「ただいま」
そんな他愛もない挨拶を交わし、ドクオは自身の肩を自分で揉む。
やはり仕事が終わったばかりだから疲れているのだろう。仕方ないことだ。
……とはいえ、
(;´・ω・`)「毎回扉蹴り開ける癖どうにかならない?」
('A`)「目の前の障害には屈さない男なんだ」
(;´・ω・`)「関係ないでしょ……」
('A`)「はっはっは。まあ、あれだ。それということでな」
(;´・ω・`)「はあ……」
どうやら直りそうもない。まあいいか。
ドクオの力で壊れることなんてないだろうしね。
見た目と同様にドクオはなかなか非力だからね。
貧乏神ってのはどうやらそういう所にも能力が宿るみたいで、かなり貧相だ。
- 71: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:44:35.08 ID:26wnw3/30
('A`)「まあ俺の話はさておいてだ。どうだったよ。売り上げの方は」
(´・ω・`)「んー盛況だったね。そりゃあもう在庫がなくなるくらいにね」
('A`)「そりゃ良かったじゃねーか。こっちは暇だったな。そりゃあもう在庫が余るくらいにな」
川 ゚ -゚)「まあドクオは貧乏神だからな。む……。となると今頃向こうは大盛況だな」
('A`)「俺が店を出た途端客が入っていってたからクーの言うとおりだ」
lw´‐ _‐ノv「楽して稼げるドクオにしっとぅー」
(;'A`)「そうでもねーぞ。
暇だからってもずっと同じ場所で立っておかなきゃならないってのはそれはそれで疲れるもんだ」
川 ゚ -゚)「それは難儀なことだな」
lw´‐ _‐ノv「たまらんのうたまらんのう」
(;'A`)「お前ら……適当に返事してないか?」
川 ゚ -゚)「ぎくり」
lw´‐ _‐ノv「ばれてしもうた!」
(;'A`)「はあ……」
- 72: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:45:59.23 ID:26wnw3/30
ドクオのポジションは相変わらず変わらない。
毎度毎度二人にいじられて、たまに僕にもいじられて。
それで少し拗ねながら「ほっとけ! ちくしょう!」とか言って部屋の隅に移動する。
でも、しばらくしたら元通り。何事もなく話をしてくる。
とはいえ、流石に働いてきてくれたからね。今日は悪乗りしないであげよう。
(´・ω・`)「お疲れ様。はいオレンジジュース」
(*'A`)「おお! 流石ショボン!
よくわかってるう! やっぱ仕事上がりのオレンジジュースは最高だ!」
小さく音を立てながらテーブルに置いたコップを、
素早く取r……いや、もう取るとかじゃない。奪取と呼んでも良い域だ。
その奪い取ったオレンジジュースをごくごくと喉を鳴らしながら一気に飲み干すドクオ。
- 74: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:49:14.20 ID:26wnw3/30
(´・ω・`)「もはや中毒だね」
('A`)「俺はオレンジジュース信者だ」
(;´・ω・`)「そんな信者聞いたことないよ」
('A`)「今俺が作った。異論は認めん」
(;´・ω・`)「意義あり!」
('A`)「却下だ!」
('A`)「何故かって?
神様ですから!」
立ち上がり高らかに叫ぶドクオを無視して、クーとシューの方へと向く。
こういう場合のドクオは無視するに限る。たまにじゃなく調子に乗るからね。
(´・ω・`)「ふう……。
さて、片付けでもしようかな。クー、シュー、手伝ってくれる?」
川 ゚ -゚)「任せろ」
lw´‐ _‐ノv「はーい」
('A`)「あれ、なんかでじゃぶ……」
- 76: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:51:44.33 ID:26wnw3/30
(´・ω・`)「今日は忙しかったから色々片付けなきゃね。じゃ、クーは皿洗いでも頼むよ。シューはついてきて」
川 ゚ -゚)「よし、洗ってくる」
lw´‐ _‐ノv「ほいほい」
('A`)「俺いつの間にこんな立場になったんだろう……」
(´・ω・`)「まあ、ゆっくりしてて。多分そろそろあの人も来るだろうしね。
来たら頼まれたお酒聞きながら入れてあげてて。それじゃよろしく」
(;'A`)「そんな適当でいいのかよ」
(´・ω・`)「ドクオにその言葉を言われるとショックだなあ」
('A`)「く、くそう! いい加減反抗期になるぞ!」
(´・ω・`)「はは、ごめんごめん」
「それじゃ、よろしく」とだけ言って、僕は裏へと姿を消した。
多分ドクオでも大丈夫だろう。
もうこの時間に来るといったら、いつものあの人くらいだからね。
あの人が来たとしても、酒くらいなら指定されるだろうからそれを氷入れて注げばなんとかなるし。
さて、じゃあ手伝ってもらわないとね。
- 78: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:56:22.52 ID:26wnw3/30
lw´‐ _‐ノv「で、何をするのかkwsk」
(´・ω・`)「在庫調べだよ。シューはクーと違って色んな言葉知ってるから大丈夫と思ってね」
lw´‐ _‐ノv「任せたまへ。米という米を全て煮汁にして見せよう」
(;´・ω・`)「すごく……理解不能です……」
lw´‐ _‐ノv「ま。任せておけばいいぞよ」
(´・ω・`)「そっか。まあシューなら安心かな。それじゃおしぼりから……」
そんな感じで、在庫調べやら何やらを色々やっているうちに気がつけば閉店時間になっていた。
適当に店を閉めて、各々自室へと戻っていく。
クーは元々物置だった部屋に畳を敷いた場所へ。
シューは何故か僕の部屋の隣にあるお米やら、ちょっとした食品をおいてある物置へ。
ドクオは、いつも通りお店のソファに。
ちなみに今日はいつものあの人は来なかったらしい。
珍しい日もあるもんだ。と思ったりしたけれども、考えてみればそこまで頻繁に来るわけじゃないことも思い出した。
それに考えれば月末だったりするわけで、給料の都合とか金銭的にも厳しいのかもしれない。
だとしたら、まあしばらくは来ないかもしれないのかな。
少し寂しくはなるけれど、今は大丈夫。
ドクオがいて、クーがいて、シューがいる。
- 79: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 02:59:30.49 ID:26wnw3/30
充実している。毎日が、日々が楽しくて仕方ない。
朝が来て、みんなとお店で一日を共にして、そして夜が来て、また明日のことを考えながら楽しみに眠る。
そんな当たり前のようで、当たり前ではない非現実な彼らと、僕はずっと一緒にいられる。
それだけで充分じゃないか。これ以上何も求めたりはしないさ。寂しさなんて、微塵も……ないわけじゃないけど。
だってまあ、お金とか現実的なものを見るとちょっと寂しいからね。
どうしようもないから諦めるけど。生活できてれば、それでいい。
そんなお金のことはどうだっていいや。
僕は別に儲けたくて儲けたくして仕方ないからお店をやっているわけじゃないしね。
それよりも、こんな生活が続くなら、出来ることなら、ずっと続いて欲しい。
……ううん、違う。
そんな他力本願な気持ちじゃない。僕は、僕はこの日常を、生活を、日々を、毎日を続かせるんだ。
もう二度と、一人になんてなりやしない。
この手で掴んだこの幸せを二度と……もう、二度と。
手放すものか。手放して、なるものか。
- 80: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 03:01:39.13 ID:26wnw3/30
('A`)「おい」
(;´・ω・`)「うわ!?」
(;'A`)「んだよその化け物でも出たような顔しやがって」
(;´・ω・`)「そりゃ真っ暗の部屋の中でいきなり後ろから声かけられたら誰でもびっくりするよ」
('A`)「まあ、それは正直すまんかった」
僕が毎日つけている売り上げ帳を書き終えて、一息ついて、
ほとんど真っ暗闇の店内で本来そこには誰もいない真後ろから話しかけられるのだ。
そりゃ、普通なら誰でも驚くさ。ドクオも普段はバーテーブル越しに声をかけてくるしね。
まあ、何かしら直に話したいことでもあるのだろう。
- 81: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 03:03:46.36 ID:26wnw3/30
(´・ω・`)「それで、どうしたの? オレンジジュースなら明日買いにいかないとないよ?」
('A`)「いや、それは明日買いに行くから全く問題ない。のーぷろぶれむだ」
(;´・ω・`)「じゃあ何の用事なの……」
(;'A`)「お前から見て俺が何か相談してくるとオレンジジュースをねだってくるとしか思えんのか」
(´・ω・`)「え?」
('A`)「おおーう。聞き返すか店主さまよう」
(´・ω・`)「だって、それ以外に相談された記憶なんて一粒の塩程度にもないよ」
('A`)「ち、ちくしょう! お前が寝てる時にピーナッツを鼻に詰め込んでやる!」
(´・ω・`)「そんなことしたらドクオが目を覚ました瞬間、
目の前でオレンジジュースがぶちまけるような仕掛けを施すからね」
(;'A`)「お、おおおおおおちけつつつ」
(´・ω・`)「落ち着け貧乏神」
('A`)「おちけついた。さあ、だいほんに移ろうか」
触れちゃ駄目だ。静かにそう悟った僕は、ドクオが喋るのを待つ。
全くもってドクオは愉快だ。喜怒哀楽をはっきりとさせて、ぶつけてくる。
それも表情をころころと変えるのではなく、しっかり行動で示してくるから余計に面白いんだ。
- 83: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 03:07:02.85 ID:26wnw3/30
('A`)「突然だが、今日バイト先の店長からえちけっとを貰った」
(´・ω・`)「よーしドクオ。エチケットとかモラル的なものじゃなくて、それはチケットっていう紙切れだ」
('A`)「何のえちけっとかって? ふふん、気になるだろう気になるだろう」
駄目だ。これ以上訂正しても聞くわけがない。仮に聞こえてても流すだろうし。
だとしたら諦めるのが一番手っ取り早い。もう乗ってしまえばいい。
それで外で恥をかけばいいのさ。そうして神様も成長するよきっと。
(´・ω・`)「そうだね。そのエチケットは気になるなあ」
('A`)「だろうだろう。気になるだろう」
(´・ω・`)「うん」
('A`)「一体何のえちけっとかというとだな。
ほら、最近海水浴、だっけか? そんなのが流行しているらしいじゃないか」
(´・ω・`)「まあ、流行りかどうかでいえば結構前から夏では定番的だね」
ドクオのことだから、きっと誰かに教えて貰ったばかりのものなんだろう。
知ったばかりの知識をひけらかしたい。きっとそんな感じで、今僕の前で披露しているのだ。
……まあ、かなり残念きわまりない感じになってるけど。面白いから、もう少し。あと少し続けさせよう。
- 84: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 03:08:57.21 ID:26wnw3/30
('A`)「まあ、そんなことはいい。その海水浴とやらをするのには入場料金が必要なんだろう?」
(´・ω・`)「そうだね。基本的に海水浴の出来る安全な場所にはお金がいるね」
('A`)「そこでこのえちけっとの出番だ。なんと、こいつがあれば無料で入れるってんだ!」
(´・ω・`)「なるほどなるほど。それはすごいね!」
僕はまだ突っ込まない。
決してエチケットについてではない他の何かに。
ドクオのテンションが最高潮に達したとき、僕はこの突っ込みをしようと思う。
それまでは、ドクオの波長に合わせて話すとしよう。
- 87: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 03:11:12.19 ID:26wnw3/30
('A`)「それでだな! 近々このえちけっとを使ってみんなで海水浴でも行こうぜ! って言おうとだな!」
(´・ω・`)「そうだね! たまには店を閉めてみんなでそういう息抜きをするのもいいかもしれないねえ!」
('A`)「だろう! 話によればスイカを割ったり、なにやら色々屋台があったりするんだろう!
海の家、って奴だったか、そんな感じのところで!」
(´・ω・`)「うんうん! でもさドクオ」
('A`)「なんだよ!」
(´・ω・`)「今、自分で海の家って言ったけどさ!」
('A`)「おう。言ったな!」
(´・ω・`)「つまりそれは、海に行くってことだよね?」
('A`)「おう。そうだな!」
(´・ω・`)「うん。それなら話が早いや。海に行くのはいいよ。それは僕も大賛成さ!」
('A`)「おう! ならいいじゃねえか!」
- 88: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 03:11:56.42 ID:26wnw3/30
(´・ω・`)「うん。そこで、なんだ」
('A`)「あんだよ。何かあんのかよ」
(´・ω・`)「……いや、むしろそろそろ気づいて欲しいかな、って思うんだけどね?」
('A`)「あん? 何がだよ!」
(´・ω・`)「うん。散々引っ張ったけどね、よーく考えて欲しい。今一体何月だい?」
('A`)「何月? ん、んー……。えーと、確か十二月、だったか?」
(´・ω・`)「そうだね。十二月。海ってのが一体何かは知ってるよね」
('A`)「おう。海ってのは、やたらとしょっぱい水がずーっと見えないところまで続いてる水平線だ!
……え、あ、そうだよ、な?」
(´・ω・`)「うんうん。そうだよ。間違えてないよ。それじゃあ、それも踏まえて改めて考えようか。
今は十二月。四季の中でも一番寒い時期だね。勿論だけど、水温も低下するんだよ」
(;'A`)
ドクオが何かに気づいたらしく、少し焦っている。
挙動不審に、なにやら辺りを見回すその仕草は、どこかいじらしいというか、まあ、見ていて悪くない。
別にサドでもなんでもないんだけどね。
('A`;)
ああ、本当に気づいたんだね。
僕は一瞬だけ少し意地悪に笑って、そんなドクオに、思いっきり言葉を浴びせた。
- 89: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 03:13:39.60 ID:26wnw3/30
(´・ω・`)「うん。そうなんだ。ドクオはあれかい? 所謂マゾって奴なのかな?
この糞寒い時期に海に行って、みんなで海水浴に行くなんて。
うんうん。そりゃあドクオがそういう趣味の持ち主なら納得だよ。
でもさ、今の時期に海に行って、
ほぼ全裸に近い状態で肌をむき出しながらスイカを割って、
極寒の海水に浸って、何も売ってない屋台の土台を見て回って、
挙句全員でお日様の光の下であったまるのかな?
うん。確かにクーがいるから風邪は引かないと思うよ。
ただこの時期に海に行って、最終的に息抜きどころか、全員どっと疲れがたまって、精神的に疲れるだけだよね。
で、最終的に僕たちに誘うのは寒中水泳なのかい?
うーん。でも確かにドクオは一回頭を冷やす為に入るのもいいかもしれないね。
まあ、これだけ言えばもう考えもまとまってると思うんだ。
うん。すまない。さてと。それじゃあ、改めて注文を聞こうか」
(;A;)「すみませんでした……」
(´・ω・`)「ふう、ようやく全てに突っ込めて大満足」
「ちくしょー! あの店長暇だからって騙しやがったなー!」なんて、
そんなセリフを吐き捨ててドクオは逃げていった。
- 92: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 03:15:23.12 ID:26wnw3/30
(´・ω・`)「でも、まあ……」
悪くないかもね。
寒中水泳は御免だけど、夏になったらみんなで海水浴なんてのもいいかもしれない。
……なんだろう。ドクオには悪いことをしてしまった気がする。
けど、流石にこればっかりは止めておかないと。
行こうぜ!って僕以外の二人に話したら、普通に行きかねなかったからね。
それでいざ行ってみて寒さに凍えながら二度と行くか! なんてなったら誘ったドクオが一番辛いと思うんだ。
うーん。
海水浴とか、そんな夏のイベントだけじゃなくて、
他にもこの国には行事が一杯ある。そういうのをみんなで楽しむってのはいいことかもしれない。
そういえば、もう十二月も終わりだ。ということは年越しが待ってる。
うん。みんなで初詣とかもいいかもしれない。
これは僕からの提案じゃなくて、ドクオからの提案にさせておこう。
そうすれば、別に恥をかかずにみんなといい思い出が作れそうだ。
- 94: ◆fMqrvr1rTs :2009/10/10(土) 03:17:14.04 ID:26wnw3/30
(´・ω・`)「決まりだ」
明日、起きたらドクオに話そう。クーやシューには悟られないように。
僕は静かにそんなこと決心をして、部屋に戻り、眠ることにした。
「海水浴なんて……。 こんちくしょう……こんちきしょー!」
睡魔が回り、眠りかけた時、そんな男の叫び声が聞こえたが、
僕は気にせずうつろになっていく意識を手放した。
第五話 おわり
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