( ^ω^)ブーンが都市伝説に挑むようです

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:41:24.53 ID:fmfm7D9O0




case.1「A life as a dog」




16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:43:21.54 ID:fmfm7D9O0
依頼書に書かれた住所を求め、僕は住宅地の中を練り歩く。
この辺りは結構な高級住宅地で、普段ならあまり立ち寄らない場所だ。地図が無ければ迷ってしまうだろう。

歩いていると、急な横風が僕の体を凪いでいく。
そこかしこに見える桜や牡丹の彩が春を感じさせるが、まだ少しだけ肌寒い。
僕の着ているコートは些か季節外れに見えるかと思っていたけど、なかなかどうして、それほどでもないようだ。

既に四月の上旬でありながら、道行く人はほとんどが冬と同じような格好をしている。
天気予報によれば、なんでも低気圧と高気圧が交互にやって来ているらしい。
北風と太陽の決着が、いつまでたっても着かないということだろうか。旅人にとっては迷惑な話だ。

(;^ω^)「……え、こ、ここかお……?」

僕は物見遊山がてら住宅地をしばらく歩いた後、閉じられた門の前で足を止める。そして、依頼書と建物の間で何度も首を上下させた。
紙に書いてある住所が正しければ、依頼人の住まいはこの家で合っているはずだ。
だが、そこにあった建物はなんというか……なんとも個性的な造りのものだった。

そこにあったのは、二つ並んだ大きな肌色のドーム。しかも、それぞれ天辺にピンクの煙突が設けられている。
まさかこれは、やはりその「まさか」なのだろうか。

しかし、どう考えてもこの形から連想するものは一つしかない。
男ならば、いやさ誰であろうとも、この建物から思いつくイメージは一つしかないはずだ。

(;^ω^)「これはまさか……お、おっぱ……」

「どちらさまですか?」

(;゚ω゚)「いっ!?」

突然インターホンから声が聞こえ、僕は心臓が飛び出すかというほどに驚いた。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:45:42.63 ID:fmfm7D9O0
「あの、どちらさまですか?」

すぐにまた声が聞こえ、僕は慌てて平静を取り戻す。
落ち着きのある上品な声。どうやら話しているのは女性のようだ。やはり、この家の人だろうか。

ふと、僕は手に持っていた依頼書にもう一度目を通す。
紙に書かれている依頼人の名は、長岡譲一。名前からすると男性だろう。だが、それ以外には何も書かれていない。
だとすると、インターホンから話しているのは奥さんだろうか。その声の感じから、僕は清楚な年上の女性を思い描く。

「……あの」

(;^ω^)「あっ、すいませんですお。依頼を受けた、内藤探偵社の者ですお」

訝しげな女性の声を聞いた後、僕は心の中で「しまった」と後悔した。ついつい何かを推理してしまうのは、僕の昔からの癖だ。
探偵という職業には向いているかもしれないが、どうにも抑えというものが効かない。そのせいで、何度玲子さんに怒られたことか。

しかも、たった今気付いたが、門にカメラが設置されている。
僕のことに気付いたのも、このカメラに姿が映ったのを見たからだろう。
ということは、僕が難しい顔でじっと考え込んでいるところも全て見られていたということだ。

……なんてことだ。いきなり失態を曝すとは。

僕がなんとも言えない気持ちで女性の返事を待っていると、門からガチャ、と鍵の外れる音がした。

どうやら、家の中からでも門の鍵を外せる仕組みのようだ。
僕は女性の声に促されるままに門を開け、そのまま家の敷地内へと足を踏み入れる。
庭に敷き詰められた砂利が歩く度に心地良い刺激を足裏に伝え、間もなく僕は玄関の前に辿り着いた。

僕がドアに手を掛けようとする前に、ドアの方から先に開いていく。そして、中から現れたのは僕の想像した通りの女性だった。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:48:09.38 ID:fmfm7D9O0
(*゚∀゚)「お待ちしておりました。さあ、中へどうぞ」

恐らくは三十代後半か、四十代前半と言ったところだろう。薄い化粧の下に、成熟した女性の器量が窺える。
白いカーディガンと薄いブラウンのスカート。年相応(と言うのは失礼だが)の、落ち着いたオーソドックスな出で立ち。
肩甲骨まで伸びた黒髪は前髪だけヘアピンで留められ、あとは自然な感じに仕上げている。

どことなく上品なふいんきを感じるのは、きっと育ちの良さから来るものだろう。
思った通り、女性は清楚な感じの、美人と言って申し分ない容姿だった。

( ^ω^)(ん?)

その時、僕はふと玄関の脇にあったものの存在に気付く。

それは、赤い屋根の小さな犬小屋。ちらりと中を覗いてみるが、やはり犬の姿は無い。
まあ、当然だ。ここに入っていた犬を、これから探しに行くのだろう。

小屋に建て付けてある名札を見ると、そこには白いペンキで「ジョルジュ」と書かれていた。どことなく貴族風で、品格を漂わせる名前だ。
よくは知らないものの、恐らく小屋の大きさは平均と言ったところだろうか。餌を入れる容器もさほど大きくないし、小型かもしくは中型犬だと思われる。
流石に僕も犬の種類まではわからないが、血統書付きの、普通では手が出せない値段の犬だったりするんだろうか。

もしそうなら、どう扱えばいいかわからないんだけど……。

(;^ω^)「……あ、すいませんお」

そこでやっと、僕は女性が怪訝そうな顔でこちらを見つめていることに気が付く。つまり、これで二度目の失態だ。
今日は対抗策の玲子さんもいないし、これ以上は失礼が無いように気を付けねば。

そうして、僕は早々に靴を脱ぎ、家の中へと足を踏み入れる。
と言っても、脱いだ靴はちゃんと綺麗に並べて置いた(そこら辺は僕だってぬかりない)。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:50:36.33 ID:fmfm7D9O0
女性に付いていく形で家の中を進んでいると、足裏に妙な熱を感じた。
どうやら、フローリングの床の下に何か特殊な素材が使われているようだ。

よくよく考えれば、形はともかく大きさや敷地は豪邸と呼ばれるそれだし、床だけでなく壁にもいい材質を使っていそうだ。
これだけの家を建てれるということは、恐らく長岡譲一という人物はそれなりに名の知れた人物ということだろう。
一流企業に勤めているか、もしくは高い収入を得られる専門職でないとこんな道楽とも言える家を建てることはできない。

僕は情報を得るために新聞やニュースをよく見るようにしているが、もしかしたらどこかでその名を見かけていたかもしれない。

(*゚∀゚)「さ、主人が待っております」

主人と言ったあたり、やはりこの女性は奥さんのようだ。ここは長岡夫人、とでも呼ぶべきだろうか。

夫人は廊下の先のドアを開け、僕をその中へと促す。
推理の癖も程々に、僕が部屋の中へと進むと、やがてゆとりのある広々としたリビングに辿り着いた。

床には暖かそうな朱色の絨毯が敷かれ、大きな窓と天井にランプが付いた煌びやかなシャンデリア。
夫人の趣味なのか、白を基調とするインテリアが端々に見受けられる。我が事務所とはえらい違いだ。

そして中央にあるソファに、どっしりと腰掛ける一人の男性の姿があった。
  _
( ゙゚∀゚)「よく来て下さった。さ、座ってください」
( ^ω^)「どうも、ご依頼を受けて参りました。内藤探偵社所長の内藤ですお」

僕が男性――長岡譲一の向かい側のソファに座ると、夫人はぱたぱたと部屋の奥へ消えていった。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:53:22.59 ID:fmfm7D9O0
  _
( ゙゚∀゚)「家内は紅茶が趣味でして」

僕が夫人の様子を目で追っていたことに気付いたようで、長岡さんが世間話でもするように話しかける。
豪華な内装に少しばかり萎縮していたが、果たしてその緊張はなかなか和らがなかった。

長岡さんは話す言葉は普通なのだが、どこかその口調に棘があるように思えるのだ。
いや、棘があるというより、感情が込められていないような感じがする。
なんだか予め書かれた台本を、そのまま読んでいるだけみたいな……そんな感覚だ。

長岡さんは淡い白のポロシャツに黒のズボンを穿いており、体格は中肉中背。
特徴的なはっきりとした眉に、少しだけ目尻にしわのある瞳。
髭が綺麗に剃られており、どことなく清潔感を感じる顔つきだった。

( ^ω^)「それじゃ、お話を聞かせてくださいお」

こちらから本題を切り出し、長岡さんの顔が少しだけ険しくなる。
僕は内ポケットからメモ帳を取り出し、長岡さんの話すことから必要になりそうな情報を書き記していった。

まず、飼い犬がいなくなったのは丁度二日前の夜のことらしい。少し目を離した隙に、開いていた窓から逃げてしまったんだそうだ。
二日前ならごく最近のことに思えるが、犬の足なら二日あれば結構な距離を移動することができるだろう。
それこそ電車に乗って長距離移動なんてことはありえないけど、できるだけ探す範囲を広めに考えた方が良さそうだ。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:55:31.34 ID:fmfm7D9O0
長岡さんに犬の種類を聞いてみると、逃げたのは“ビーグル”という中型犬らしい。
これは少しラッキーだ。大きさはともかく、野良ではないれっきとした犬種であることは大きい。
野良犬なんて大概は見た目もあまり変わらない雑種ばかりだろうから、そんな場違いな犬が居れば多くの人が目を向けるだろう。

また、夫人は犬のことをとても可愛がっていたそうで、それなら手入れなんかもちゃんとしていたんじゃないだろうか。
だとしたら、既に毛並みの時点で野良犬とは比較にならないはずだ。
どうやら、全く希望が無いわけでは無いかもしれない。

……が、かと言ってそれですぐに見つかるかと言えば、そうではない。
野良犬なんてそこら中にいるわけだし、思い当たる場所があるわけでもなし。

でも、ペット探しなんて大抵そんなものだ。結局は根気と運の勝負なのである。

( ^ω^)「逃げた犬の特徴……写真とかありますかお?」
( ゙゚∀゚)「ああ、それなら心配ありません。見つけたら一目でわかるはずですから」
( ^ω^)「え? それはどういう……」

その時、ガチャ、とまるで話を遮るかのように近くで音が鳴った。

(;*゚∀゚)「あ、ご、ごめんなさいね。ちょっとつまづいちゃって」

果たして、音の主は長岡夫人だった。その手には、紅茶一式を乗せたトレイが持たれている。

そのまま何事もなかったかのように、トレイをテーブルの上に置く夫人だが……どうやら、真っ直ぐな性格の人のようだ。
無意識の内に動作が速くなって、見るからに心の動揺が感じ取れる。
にこやかな笑顔を見せているが、恐らくは作り笑いだろう。

でも、それは恐怖という感じではない。
あくまでも、僕に動揺を気取らせないだけのように見える。
いや、もしかしたら何か隠し事を……。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 18:58:21.36 ID:fmfm7D9O0
そこまで考えて、僕は自分が無用な勘繰りをしていることに気付く。
これも職業柄できた癖なんだろうが、やはり気持ちのいいものじゃない。

やがて、夫人は僕のカップに紅茶を注いだ後、穏やかに「美味しいんですよ」と一言呟いた。
流石にもう緊張は無くなったようで、夫人の解説によると、ロシア産の紅茶で“ジョルジ”と言うそうだ。
色は濃いオレンジ色で、淹れ方はストレート。一口飲んでみると、甘い味が口一杯に広がった。

僕のいらぬ考えを、惑わすかのように。
  _
( ゙゚∀゚)「おい、じょ……ジョルジュの写真を持ってきてくれ」
(;*゚∀゚)「え、でもあなた……」
( ゙゚∀゚)「いいから、早く持ってきなさい」

今度ばかりは、とてもわかりやすい反応だった。夫人はちらりと横目で僕の方を見たりして、やはり何かを気にしているようだ。
僕の方はと言えば、何にもわかっていませんよと言った感じで夫人へ向けてにこにこと笑顔を作る。

と言っても、僕はどうやら普段から笑っているような顔らしいので、実際は特に顔作りは意識していない。
しかし、その効果はあったようで、夫人は少し重い足取りながら階段の方へと向かっていった。
  _
( ゙゚∀゚)「……さて、話の続きなのですが」

夫人が階段を登る足音が響く中、僕は再び長岡さんへと注意を戻す。
長岡さんは持っていたカップをテーブルに置き、真剣な表情で話し出した。
  _
( ゙゚∀゚)「家の犬は……一目でわかる特徴を持ってるんです」
( ^ω^)「……? 何か、毛が目立つ色でもしているんですかお?」
( ゙゚∀゚)「いや、家の犬はね……人の顔を持っているんですよ」
(;^ω^)「え?」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 19:01:00.54 ID:fmfm7D9O0
当然ながら、長岡さんは何を言っているんだろうと、僕は思った。
彼は今、自分がとんでもないことを言ったのに気付いているんだろうか。
長岡さんははっきりと今、“犬が人の顔をしている”――そう、言ったのだ。

だが、依然として長岡さんの表情は真剣で、もはや滑稽にも思えるほどである。
だからと言って、僕は「ああ、そうですか」なんて言えるものじゃない。
あまりそういう風には見えなかったけど、もしかして長岡さんは冗談好きの、実際はひょうきんな人なんだろうか。
それならもしかして、長岡さんは僕が笑い出すのを待っているんだろうか。

(;^ω^)「……いやあ、はは」

そうして結局、僕はなんなんだかわからない、どっちつかずの対応でお茶を濁すのが精一杯だった。
だってそうだろう。仕事で、初対面で、しかも常識的に見える人なのに、こんなことを言われるなんて誰が想像できるだろうか。

元々そういう顔だから、長岡さんには僕が本気で笑っているように見えたかもしれない。
でも、実際はどうしていいものかわからず、僕は頭の中がこんがらがってしまいそうだった。
  _
( ゙゚∀゚)「……まあ、そう簡単には信じられない話でしょうな」

反面、長岡さんは実に落ち着いた調子で呟く。その口調は、ふざけて言ったようには思えない。
ということは、さっき言ったことはやはり冗談ではないということか。

しかし、犬が人の顔をしているだなんて、とてもまともな言動とは思えない。
この職業に就いてから、こんなことを言われたのは初めてだ。いや、今まで生きてきた中でだってそうだ。
一体、長岡さんはどういうつもりなんだろうか。
僕はメモを取るのも忘れ、ただただ長岡さんの話に聞き入った。
  _
( ゙゚∀゚)「私は、医学の発展に身を置く立場でしてね……それで、ある研究を任されていたんです」

そうやって、長岡さんは実に淡々とした口調で再び語りだす。しかし、その内容は本当に僕の想像を超えるものだった。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 19:03:28.31 ID:fmfm7D9O0
まずわかったのは、長岡さんの職業が医学研究者というものであること。
医学研究者とは、一般的な医者とは違って患者の前に出ることがまずありえなく、そもそもあまり世に知られた職業ではないらしい。

どちらかと言えば、「学者」などというものに近いそうだ。言うなれば、医学の土台を支える縁の下の力持ちと言ったところだろう。
ただ、開業はできないので仕事としてはちっとも儲からないそうで、給料もそれほど良いものではないらしい。

しかし、それなら何故このような豪邸に住んでいるのかというと、元々は大学病院の医者として長い間勤めていたそうだ。
これだけの家を建てられるのだから、きっと結構な地位でもあったんだろう。
流石に聞けなかったものの、その大学病院というのも全国的に有名なものなのではと思われる。

長岡さんは若い頃からこの仕事に勤めることが夢だったそうで、安い給料ながら今の状況には満足しているという。
医学についてはさっぱりだが、わざわざ望んでそんなことをするなんて、僕には少々考えられない世界だ。

と言っても、探偵という職業も僕が望んで始めたことだし、金銭面で充実していないというのも同じなんだけど。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 19:05:47.87 ID:fmfm7D9O0
今から数ヶ月ほど前、長岡さんはとある医学系の大学にて自らの研究室を獲得し、仕事は専らそこで行うのが常だったそうだ。
当時から既に研究者として数々の実績を挙げていて、その分野ではなかなか名の知れた人物として扱われていたらしい。

そうして研究に勤しんでいたある日、長岡さんの元にある研究についての話が持ち上がった。
その研究は一言で言うと「臓器移植」に関するもので、断る理由も無かったので長岡さんは快くそれを引き受けたそうだ。

やり始めてみれば、その内容は実に興味の湧くものだったそうで、長岡さんはすぐにその研究に没頭していった。

その研究の過程の中で、新しい術式などもいくつか開発したそうだ。
そういうことを聞くあたり、長岡さんは実に優秀な人物なのだと言える。

言うなれば、隠れた分野のブラック・ジャックなんてとこだろうか。
そんな人物に会っているのかと思うと、僕は変な高揚感を感じていた。

果たして月日は流れ、つい先日、長岡さんの元に奇妙な依頼が届いたそうだ。
それは匿名の、とある金持ちからの依頼だったそうで、その内容に長岡さん自身も大変驚いたらしい。

――その依頼とは、自らの飼っている犬に、自身の顔を移植して欲しいというものだった。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 19:08:04.68 ID:fmfm7D9O0
長岡さんはあまりにも突飛なこの依頼に、当然初めは断ったそうだ。
臓器移植についての歴史や知識は得たものの、まさか自分がそんなことを頼まれるなんて信じられないことだったろう。

しかし、その依頼主は何度となく長岡さんに依頼し続けた。
聞けば依頼主の寿命は残り少なく、せめて自らの愛犬に生きた証を残したいのだそうだ。

長岡さんは悩んだ。

技術の問題だけでなく、人道的、道徳的にもどうなのかと、長岡さんは悩み続けた。

だが、何度も頼み込むその依頼主に長岡さんはとうとう根負けし、ついに史上初であろう犬への顔面移植手術が行われることとなった。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 19:10:29.73 ID:fmfm7D9O0
と言っても、その手術の内容を聞いたとて素人の僕にわかるはずもない。正直、医学研究者のイメージだってまだ少し曖昧だ。
もちろんそれは長岡さんもわかっていることで、そこらへんは割愛してもらった。

何より驚くべきは、その手術の結果が成功に終わったということだ。
依頼主の方は手術以前に既に亡くなっており、これによってその犬が主人の顔を受け継いだということになる。

もちろんついでに主人の財産も相続したなんてことはなく、遺産は順当に依頼主の遺族で分配されたらしい。
あくまでも、ただ人の顔を持った犬が誕生したということだ。

なんともまあ、突飛な話ではある。
だが、長岡さんはとても嘘を言っているようなふいんきではないし、実際にこれから僕もその証拠を見ることになるらしい。
なんでも、先ほど長岡さんが夫人に持ってくるように言った写真……それが、その手術を施した犬の写真なんだそうだ。

人の顔をした犬……いわゆる“人面犬”が写った写真を、これから僕は目の当たりにするというわけだ。
不思議と緊張や興奮などは感じない。ただひたすらに、僕は奇妙な感覚に陥っていた。

(*゚∀゚)「お待たせしました……」

静かな足取りで夫人がこちらへと歩み寄る。その手には、一枚の写真が握られていた。
なんだか、夫人がこちらに近付くに連れ、僕の緊張も高まっていくようだ。

夫人は僕の傍にまで来ると、写真を裏にしてテーブルの上に音もなく置いた。
僕自身でめくれ、ということだろう。何が起こっても自己責任……なんてのは考え過ぎだろうか。

(;^ω^)「……っ!」

果たして、僕の指がめくった先――その写真には、常識在らざるものの姿があった。



戻る次のページ