( ^ω^)ブーンが都市伝説に挑むようです

120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 20:40:27.75 ID:fmfm7D9O0
その後も僕の言うことなど聞く耳持たずという感じで、高田さんの歌が続く。
歌と言うより、どうやら何かしらのミュージカルのようだ。
それにしても、全く日本語ができていない。これもわざとなんだろうか。

(∴゚ з゚ )「猫駆除ーだぜー♪」
( ^ω^)「いや、探してるのは犬ですお」

発音が悪過ぎて、果たして本当に「猫駆除」と言ったつもりなのかもわからない。
高田さんはネジが一本外れた機械の如く、妄言、珍言を吐き出し続ける。

まずい、どんどんおかしくなってきている。
先ほどのビブラートだった時の方がまだまともに思えるぐらいだ。何か余計なものでも思い出してしまったんだろうか。

なんとかせねばと頭を巡らすと、僕はすぐに荒巻さんの言葉を思い出した。

(;^ω^)(そ、そうだお!)

去り際に荒巻さんに教えられた、高田さんに対する最終手段。
それは、如何なる状況も解決する魔法の言葉――

(∴゚ з゚ )「サカタハルミジャン!」
(;^ω^)「コンボラ! じゃなくて! あっ、あー死にたい! 僕はもう死んでしまいたいお!!」
(∴゚ з゚ )「待ちたまえ!」

突如、ドアの影から高田さんがぐわっと僕の方へ飛び出す。
そして、僕の両肩をがっしりと掴むと、真剣な表情で僕を諭し始めた。

(∴゚ з゚ )「よくないよ! 自殺はよくないよ!」

――成功だ。荒巻さんありがとう。



122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 20:42:43.09 ID:fmfm7D9O0
高田さんは励ましの言葉を送りながら、がくがくと僕の体を揺らす。
初めて全身を見たが、少し薄汚れた白のトレーナーに黒のジャージ。いかにも生活臭のする格好だ。
揺らされて視点が定まらないのもあるけど、驚いたことにこれでも性別が判断できない。
のど仏はあるようなないような、胸もあるようなないような、本当によくわからない人だ。

(∴゚ з゚ )「やめろ! やめるんだ! やめないと殺すぞ!!」
(((;゚ω゚)))「ははははい! やめます! 自殺やめますお!」

僕がそう言った途端、高田さんの腕がぴたりと止まる。
そして、そのまままるで巻き戻しでもするかのように先ほどと同じ体勢に戻っていった。

(∴゚ з゚ )「いやっほーぅ! 国崎最高ー!」
(;^ω^)(こ、ここまでとは思わなかったお……)

去り際に荒巻さんが教えてくれたこと。それは、おかしくなった高田さんを静める対処法だった。

まず、何故高田さんが路地裏など人気のない場所に詳しいのか。それは、自殺しようとする人を止めようとしているからだそうだ。
その理由まではわからないけど、とにかく高田さんはそれを自らのライフワークとしているらしい。
それで、自殺を連想させるような言葉、行動にはとかく敏感なんだそうだ。それがどれほどのものかも、たった今目にしている。
しかし、実際のところ成功率とか、いかほどのものなんだろうか。
自殺者の気持ちがわかるわけじゃないが、とりあえず驚いて硬直するだろう。そういう意味では効果的なんだろうか。

(;^ω^)「そ、それで高田さん! 僕が探している犬について何か知りませんかお?」

高田さんが正気でいる内に、僕はすぐさま質問をぶつける。
なんとなくわかったけど、この人に対してこちらが隙を見せてはいけないのだ。

(∴゚ з゚ )「……確か、新都港倉庫街の方で見慣れない犬を見た覚えがあるよ」

追い詰めた――と、思った。不可視の靄の中からとうとう尻尾を掴んだような、そんな気分だった。



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 20:44:56.61 ID:fmfm7D9O0
それからの高田さんは、先ほどの態度が何だったのかと思うほどに普通の対応だった。
時折脱線しそうになるものの、そういう時はまた自殺をほのめかすような発言をすれば元に戻る。

僕は高田さんから必要なことだけ聞くと、礼を言って早々にマンションを後にした。
犬については有力な情報を得たものの、結局高田さんについては性別すらわからなかったわけだ。
多分、高田さんも荒巻さんのような一種の「情報屋」みたいなものなんだけど、今後も頼りにするかは微妙なところだろう。
というより、行くとしたらそれなりの覚悟が必要になりそうだ。

( ^ω^)「新渡港倉庫街……今から行ったら日が暮れるのは確実だお〜……」

時刻は午後五時に近づき、もういくらか夕焼けが薄くなってきている。
倉庫街はここから歩いて、確実に二時間はかかるだろう。
ここは流石にタクシーでも使うべきだと思い、僕は財布の中を確認したのだが……。

(;^ω^)「あれ?」

おかしい、二千円しか入っていない。
まさかと思い、僕はポケットの中などをくまなく探してみたが、樋口や諭吉はおろか、漱石一つ出てこなかった。

(;^ω^)「うあ……経費の封筒、事務所に置きっぱなしだったかお〜……」

なんとなくだけど、長岡さんから貰った封筒には夕べさわっていなかったような気もする。
なんでこんな大事なことに気付かないのか。僕はすぐさま自己嫌悪に陥る。
そういえば、マクドメルドでは小銭入れだけで札の方は確認していなかった。何が「よしとしておこう」だよ。

(;^ω^)(うーん、バスか電車、かお……)

時間的なことを考えれば、電車の方が確実だろう。確か、倉庫街の最寄り駅は天国駅だったはずだ。
しかし、この場所から駅へはどれくらいかかるんだろうか。
引き返していたらもっと時間がかかるだろうし……とにかく、駅が近くにあることを信じて歩くしかなさそうだ。



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 20:47:39.55 ID:fmfm7D9O0
なんか今日は歩いてばかりだ……と、思ったのは何回目だろうか。

団地から随分と歩いたものの、まだ駅どころか線路すら見えてくる気配がない。
肉体労働と経費節約、両方しなきゃならないってのが貧乏探偵の辛いところだな。
いや、僕がうっかりしていただけなんだけど。

( ^ω^)(……それにしても……)

僕は昨日から気になっていたこと、この犬探しを始めてできた、ある一つの疑問が頭の中にあり続けていた。
しかし、やはりそれは理由を付けようと思えば如何様にでも付けれることだし、そこまで重要じゃないのかもしれない。
でも、僕はそのある一つの疑問が、どうしてだかずっと頭から離れないでいた。

僕が気になっていること、それは……。

( ^ω^)「目撃者が……いなさ過ぎるお」

人通りの少ない路地で、僕は自分に問いかけるように呟く。
僕は今日これまで、長岡さんの家から実際に野良犬が多く、犬が近付きそうな場所ばかり回ってきた。
しかし、それでも得られた情報は渡辺さんと高田さんからの二つだけ。
それに、言い方の問題かもしれないが、高田さん自身もはっきりと見たわけではなさそうだ。

その事実が、僕にはどうも引っかかるのだ。
逃げたのはどこにでもいるような柴犬とかじゃない。
ビーグルというれっきとした犬種で、しかも人の顔面を持ち合わせているという非常識なものなのだ。
その気がなくても、いたら必ず凝視してしまうような見た目なのである。

それが、見かけたのはたったの二人だけ。
その上、その内の一人は随分と特殊な情報網を持つ人物だ。

これは、おかしなことなんじゃないんだろうか。



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 20:50:18.77 ID:fmfm7D9O0
( ^ω^)(普通じゃない見た目だとしても、中身は犬なんだお……もし、何か理由があるとしたら……)

――マクドメルドで考えた通り、犬が土地に慣れていないので不安になり、人を避けて通った――

( ^ω^)(だからって、誰にも見つからないなんて可能かお…?)

――犬が移動した場所が、たまたま人通りの少ない場所だった――

( ^ω^)(これは違うお。渡辺さんの証言から察するに、商店街とかを通っているはずだお)

――それでは、移動していたのが夜間など、人の少ない時間帯に限られていた――

( ^ω^)(これはもっと違うお。そんな可能性は低すぎるお)

――ならば、誰かが持ち去った――

( ^ω^)(……多分、この可能性が一番高いはずだお)

たまたま見つけた誰かが犬を持ち去り、人目に付かぬよう移動した。
これならば、僕の疑問にも一応納得がいく。
その特異な見た目から、何か自らの利益にできると思った人物がいてもおかしくはないだろう。
動物園に売るとか、単純にコレクションにするとか、全くありえない話じゃない。

しかし、それでも疑問は残っている。それは、目撃者の証言だ。

( ^ω^)(もしそうなら……犬と一緒に誰か人物も見ているんじゃないのかお)

渡辺さんも高田さんも、ただ「犬を見かけた」とだけしか言っていない。そこに人は存在していないのだ。
ここまで考えても、どうにも合点がいかない。やきもきするだけだったが、ようやくそこで、僕は道の先に線路の姿を見つけた。
果たして、この敷かれた鉄の道が続く先で、僕はこの疑問に答えを見出せるんだろうか。



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 20:53:01.28 ID:fmfm7D9O0
「次は天国駅〜、天国駅です〜」

スーツだらけの電車に揺られ、僕は天国駅に辿り着く。
ぷしゅう、とドアが開いた途端、僕は波に押し出されるようにホームへと滑り出た。
電光掲示板で確認すると、時刻は午後六時。団地からの徒歩と電車、三十分ずつというとこか。

自動改札に切符を通し、もうすっかり薄暗くなった空を目にする。
さて、ここからまた倉庫街まで歩きなわけだ。せめて電車の中ぐらいは腰を下ろしたかった。

( ^ω^)(そういや天国とか新都ってあんまり来てないお……)

雑谷県はそれほど市の数が多いわけでもないため、よく拡大事業などがされたりする。
天国や新都もそれによって誕生した市の一つだ。
僕の住む美府市より歴史は浅いが、どれも美府市にはない特徴を持っている。

例えば、この天国は雑谷県にある市の中で一番平均年齢が高い。
最近は若い人も増えているらしいけど、やはりおっさんが多い。
開発には美府市長の狐星さんが大きく関与しているらしいが、望み通りの街にはなったんだろうか。

しばらく歩いて、僕は新都市を指す標識を見つける。
相変わらず、この新都という街は人が少ない。
結構いい街並だと思うんだが、人を立ち寄らせない何かがあるんだろうか。まあ、僕には関係のないことだけど。

( ^ω^)「港は……こっちかお」

標識に従って港までの道をてくてくと歩く。気付いたが、結構ここにも野良犬の数は多い。
そういえば、人見知りするような犬にとってここは実に都合のいい場所なわけだ。
もしかしたら、逃げ出した後で路頭に迷った犬は、人の少ないこの街を住処に定めたのかもしれないな。

そんな期待に胸を高鳴らせていると、僕は段々と潮の香りが漂ってくるのを感じた。



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 20:55:37.53 ID:fmfm7D9O0
( ^ω^)「……新春ドラマスペシャル、マグロっ……」

ざざーん。港に着くと、穏やかな波の音が僕を出迎えた。
自分で言うのもなんだけど、僕の格好はこういう場所によく似合う。
映画やドラマだったらボラードに足をかけて、夕日にたそがれたりするんだろう。足が短いのが残念だ。

港を見物がてら少し歩いて、僕はすぐに倉庫街を見つける。
潮のせいで少し朽ちかけた材質の倉庫郡がずらりと並んでいる様は、見ていてなかなかに壮観だ。
多少薄暗いせいもあってか、そびえ立つ山脈のようにも……いや、そこまですごくはないかな。

とにかく、ここに探している犬がいるかもしれないわけだ。
時計で確認して、時刻は午後六時半。既に日は暮れている。急がなければならない。

( ^ω^)「さて、まずは……」

僕はきょろきょろと辺りを見回し、倉庫と倉庫の間に脇道のように路地があることを見つける。
実に野良犬がいそうな感じだ。早速入り込むと、結構奥までが長かった。
最奥は袋小路になっており、倉庫屋根のひさしのせいで相当に暗い。
今はまだかろうじて見えているが、時間が過ぎて日が沈めば真っ暗になるだろう。

僕はとりあえず、そんな風に目ぼしい路地を片っ端から調べていった。

(;^ω^)「うーん……」

倉庫街は意外と広く、調べるだけでも結構な作業だった。
だが、肝心の犬はというと、さっぱり見つけることができず、ただ時間だけが過ぎていくという状況だ。
時刻も七時を過ぎたせいで、もう辺りには夜の帳が下りている。

今度こそ間違いないと思ったんだが……またしても無駄骨だったんだろうか。
僕は何も打開策が打てないまま、焦りだけが募っていった。



142 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [このまま続けて大丈夫か?] 投稿日: 2007/11/10(土) 20:58:44.69 ID:fmfm7D9O0
( ^ω^)(とりあえず……もう一度だけ探してみるかお……)

何もしないでぼーっとしていたってしょうがない。
まだ今日という日は終わっていないのだ。せめて何か、手掛かりでも見つけなければ意味がない。
僕はすぐさま踵を返すと、再び適当な倉庫脇の路地へと足を踏み入れていった。

少し早足で路地を進むが、時刻のせいでもうすっかりと暗闇に満ちている。
もし犬がいたとしても、すぐに見つけることはできないかもしれなかった。

( `ω´)「……」

路地の最奥で、僕は暗闇に向かって目を細める。
そうしていると段々と目が慣れてきて、うっすらとその場の形が見えてくる。
しかし、やはり犬はいなかった。

( ^ω^)「……ん、次行くお」

僕は自分に言い聞かせるように呟き、来た道を戻ろうと後ろへ振り返る。

その時だった。

「おい」

(;゚ω゚)「!」

後ろに振り向いた瞬間、僕を呼び止める誰かの声があった。

慌てて周囲を確認するが、近くに人物の姿はない。
だが、聞こえたのは恐らく男性の声だったはずだ。
聞いたのは一瞬だが、まるで鼓膜に焼きついたかのように憶えていた。



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 21:00:52.65 ID:fmfm7D9O0
(;^ω^)「だ、誰かお? 誰か……いるのかお?」

暗闇の中にいるせいか、随分と僕の声が弱々しいものになる。
言いながら周囲を何度となく見回すが、やはり誰かの姿を確認することはできない。
まさに、声はすれども姿は見えず、だ。

「さっきからこの辺りをうろうろしているだろ……何を探してる」

威圧するような声と共に、その人物の気配のようなものが伝わってくる。
僕は膨れ上がる緊張感と戦いつつ、冷静に頭を働かせるよう努めた。

(;^ω^)「し、仕事ですお。仕事でちょっと探し物をしていたんですお」

「仕事……? 何の仕事だよ」

声の感じはそれほど若くない。しかし、年配のそれというわけでもない。
わざと低く発しているのだろうが、恐らくは二十代といったところじゃないだろうか。

(;^ω^)「僕は、私立探偵をやっていますお」

「たん、てい……?」

声がする方向に、全聴覚を集中させる。
倉庫に挟まれているせいで声が少し反響気味だが、どうやら路地の奥から聞こえているようだ。
それと、なんとなく僕の目線より低い場所から話しかけられているような気がする。
倉庫の屋根の上とか、そういう場所ではなさそうだ。だとすると、隠れられるような物陰なんてあっただろうか。

僕の職業を聞いた後、少しだけ相手の言葉は止まっていた。
探偵なんて普通の職業じゃないけど、何か思うところでもあったんだろうか。
そもそも、姿を見せないで話しかけること自体、何もない方がおかしいのかもしれないけど。



148 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [なら続けるわ] 投稿日: 2007/11/10(土) 21:03:17.80 ID:fmfm7D9O0
「誰に……誰に頼まれたんだ」

(;^ω^)「え……」

何故そんなことを聞くんだろうか。いや、特別おかしな質問じゃないが、少しだけ奇妙な感覚に陥る。
しかし、探偵にも守秘義務はある。おいそれと依頼人の名前を明かすわけにはいかない。

だから、僕はどう答えるか考えていたのだが――

「……長岡譲一、か」

(;゚ω゚)「っ!?」

一瞬、僕は全ての思考がストップする。
どうして声の人物は長岡さんのことがわかったんだ。僕はまだ何も言っていない。
まさか、相手は長岡さんのことを知っている人物なんだろうか。
だとしても、相手には僕が探偵であることしか告げていない。そこから繋がったとしてもまだ無理がある。

「やっぱりな」

(;^ω^)「う……」

僕は様々な思惑でつい喋ることを怠ってしまい、それを肯定だと取られたんだろう。
しかし、もはや質問があるのはこちらの方だ。
相手は「やっぱり」と言っただけに、もしかしたら僕が知らないことまで知っているのかもしれない。

(;^ω^)「一体誰なんですお! どうして長岡さんのことを……どういう依頼かも知っているんですお!?」

すると、暗闇の中から「ああ」という声が聞こえた。



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 21:05:46.80 ID:fmfm7D9O0
「あんたは犬を……人の顔した犬を探しているんだろ」

(;^ω^)「その通りですお、知っているのなら教えてくださいお!」

相手の事情が少し見えてきたせいか、僕は段々と必死な口調になっていた。
この人物は全てを知っている。だから、何としてでも情報を聞き出さなければならない。
だが、その場に響き渡る僕の大声と違って、返答する声は静かで落ち着いたものだった。

「頼まれたのか……犬を、連れ戻せって……」

(;^ω^)「そうですお! 長岡さんも、奥さんもすごく心配しているんですお!」

「! ……そう、か……」

気のせいか、今の言葉を聞いた途端、相手の声が少しうろたえたように感じた。

「……わかった。ただし、条件がある」

(;^ω^)「本当ですかお!?」

「明日の午後一時、この場所で犬は渡す。その時、大きめのバッグを持ってきな。犬一匹がすっぽり入るぐらいのな」

(;^ω^)「わ、わかりましたお!」

僕が返事をした途端、その場から人の気配がふっとなくなった。
一応周囲を見渡したり、何度か声をかけてみたが、やはり声の主はどこかへ行ってしまったみたいだ。

( ^ω^)(……また、わからないことが増えたのかお)

大きなもどかしさを抱えながら、僕は倉庫街を後にしていった。



157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 21:08:23.65 ID:fmfm7D9O0
倉庫街から美府市に戻り、駅のホームを後にする。
時刻は既に八時を過ぎていた。夕焼けは落ちかけ、夜の帳が下りようとしている。

電車で座ることもできず、今日は事務所を出てからずっと立ちっぱなしだ。
すっかり重くなった足の裏が、今日あった出来事の多さを感じさせた。

( ^ω^)(……おぉっ)

歩いていると、冷えた気温のせいで全身がぶるりと震えた。

もうこの時間なら、商店街の店舗もほとんどが閉まっているだろう。
ドジをしたせいで買い物ができるわけではないが、本当にもったいないことをした。
どうか、今日だけのセールでないといいのだけど。

……なんて、考えることはそんなどうでもいいことばかりだった。

色んなことが起きたせいだろう。どうやら僕は思考まで疲れているようだ。
無理もない。結局何もわからなくて、最後にはまた一つ謎が増えたんだから。

あの声の主が、どうやら長岡さんのことを知っているということ。
今回の依頼に何かしらの裏があることは感じていたが、全くもって想像がつかない。

全ては明日わかるのだろうけど……期待すると同時に、なんだか怖い気もする。

( ^ω^)「……おっ、と」

気が付けば、僕は事務所があるビルの前にまで来ていた。
歩みを止めた途端、疲れと同時に空腹が襲い掛かってくる。

今日の夕食は奮発して出前でも取ろうかなどと考えながら、僕は階段を上っていった。



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