( ^ω^)ブーンが都市伝説に挑むようです

211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 21:42:43.85 ID:fmfm7D9O0
( ^ω^)「……それでは、今回の調査報告をさせてもらいますお」

何かあるのは間違いないが、このまま勘繰っているだけでも意味がない。
夫人の「お願いします」という返事を聞いた後、僕は懐から一枚の書類を取り出す。
朝の内にパソコンで作っておいた、簡単な報告書だ。

(*゚∀゚)「経費とか、渡した分で足りましたか?」
( ^ω^)「あっ、はい。十分過ぎる程でしたお」

夫人は報告書を手に取り、視線を下へと進めていく。
そして、最後の部分でその動きが止められた。
その視線が見つめるもの――書面の表側には、今回の結果が書かれてある。

( ^ω^)「……えーと、それで、結果として依頼は遂行できましたお」
(*゚∀゚)「はい、ありがとうございます」
( ^ω^)「それじゃ、お探しだった……犬、を……よっと」

僕はバッグをテーブルの上に持ち上げ、ファスナーに手をかける。
夫人がじっと見つめるので、なんだかもったいぶるような動きになってしまった。

ファスナーを全開にし、見えやすいように口の両側を広げる。
どうやら中で丸まっていたようで、最初に毛並みのいい背中が覗く。
やがて、むっくりと犬は体を持ち上げ、そのまま夫人へと向き直った。

そして、夫人が躊躇なく犬を抱き上げ――
  _
▼ ゚∀゚▼「……母さん」
(*゚∀゚)「譲二……!」

――おかしな会話が起こった。



217 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [眉が……] 投稿日: 2007/11/10(土) 21:44:46.55 ID:fmfm7D9O0
(;゚ω゚)「へ?」

……ちょっと待て、今、なんて言った。

聞き違いだろうか。たった今、犬が夫人のことを「母さん」と呼んだ気がする。
おかしいな、まだ昨日の疲れが残っているんだろうか。

(;゚ω゚)「……」

僕の表情があまりにおかしくなっていたのか、夫人がはっとして向き直る。
抱き上げた犬をソファへと下ろし、少し憂いを帯びたような表情を作った。

(*゚−゚)「……困惑させて申し訳ありません。今から、全て説明します」

是非そうしてもらいたい。こっちはわけのわからないことが続いて、頭がパンク寸前だ。
依頼人が隠し事をしていて、犬が喋って、その上その犬が夫人を母親とのたまった。
処理すべき情報が多過ぎる。僕のOSがMeだったら、確実にフリーズしているところだ。

落ち着くためにカップを手に取ったが、慌てて飲んだために熱さで舌が痺れてしまった。

(*゚−゚)「まず、探偵さんが探してくれたこの子はペットではなく……私達の息子です。名前は譲二と言います」

いや、そんな当たり前であるように言われても困る。
確かにこの犬は喋る時点で何かおかしいと思っていたし、顔立ちもなんとなく長岡さんに……。

(;^ω^)(……似てるお)

似ている。何故気付かなかったんだろうか。特徴的な眉毛とか、長岡さんをそのまま若くした感じじゃないか。
少しだけ犬……ではなく、彼の方が精悍な顔つきだろうか。目元に力がある気がする。
母親よりも父親の面影の方が強いようだった。



222: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 21:47:21.27 ID:fmfm7D9O0
(;^ω^)「で、でも、あの、息子さん……譲二さんはどうしてこんな姿に?」
▼ ゚∀゚▼「おいおい、こんな姿ってのはないだろ」
(;^ω^)「え、あ、す、すいませんお」

指摘されて、僕はぺこぺこと頭を下げる。
容姿が犬なだけに、こんな人間くさい発言をされると戸惑ってしまう。
いや、元々は人間だった……のだろうけども。

(*゚−゚)「やめなさい譲二。そうですよね、それが一番気になることですよね……」

夫人の言葉に、僕はこくりと頷く。
だが、あまり言いたくないのだろうか。なんだか言うのを躊躇っている気がした。
  _
▼ ゚∀゚▼「母さん、俺が話そうか?」
(*゚∀゚)「……大丈夫よ。それに、これは私が話すべきだと思うから」

譲二さんに心配されて、夫人は表情が少し和らいだようだった。
口調にも落ち着きが戻り、改めて僕へと向き直る。

(*゚∀゚)「あれは、譲二が大学に入学して、二年ほど経った頃です――」

そうして、僕は聞くこととなった。

全ての始まり――長岡さん達の過去を。



227: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 21:49:30.87 ID:fmfm7D9O0
少し遅めに初夏が訪れ、熊蝉や油蝉がそこかしこで忙しなく生を叫ぶ頃。
長岡家は順風満帆の文字が隙間なく当てはまるほどに、充実感で満たされていた。

父は勤め先の大学病院内で確固たる地位を築き、母は紅茶という新たな趣味を見つけた。

息子の譲二も無事に父親が勤めている病院の大学に合格し、学部も同じく医学部にて去年の春に入学を果たした。
恋人こそまだいないものの、テニスサークルに入り、理想的な学生生活を謳歌している。

また、新たに住居を閑静な高級住宅地に構え、近所付き合いも悪くない。

何一つ不自由のない、まるで絵に描いたような幸せな暮らし。

それが崩れたのは、譲二が大学二年生になった、ある日のことだった。



231: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 21:51:53.72 ID:fmfm7D9O0
(*゚∀゚)「譲二ー、ちょっといい?」
( ゚∀゚)「ん?」

その日、長岡家には夫人と譲二の姿があった。
大学は創立記念日で休みとなり、それに合わせてテニスサークルの方も休み。
なので、その日は彼にとって完全に自由な一日となっていた。

だが、彼自身この日のことを忘れており、急な休日となったために予定はなし。
特にやることもないので、テレビの前でソファに寝転がっているのが現状だった。
  _  
( ゚∀゚)「何?」
(*゚∀゚)「今あの人から電話があったんだけど、この書類を忘れたんですって」

そう話す夫人の手元には、一個のクラフト封筒があった。
親父が忘れ物をするなんて珍しいな、などと呟きながら、譲二はゆっくりと体を起こす。

(*゚∀゚)「お母さん今から届けに行ってくるから、留守番お願いね?」
( ゚∀゚)「……あー、いや、俺が行くよ」

んー、と伸びをした後、譲二は夫人の前に片手を差し出す。
何もやることがなく暇なため、ただなんとなしに思い付いたことだった。

夫人もそれを察し、「あらそう」と言いながら封筒を息子へと渡す。
譲二が手渡された封筒の裏表を見ると、中の書類がうっすらと覗けた。
ちゃんと見ることはできないが、何やら文字で埋め尽くされているのが確認できる。
  _  
( ゚∀゚)「じゃ、行ってくるわ」

譲二はソファから立ち上がり、テレビを消すか確認すると、夫人は「そのままでいい」と答えた。
そうして、封筒をひらひらと振りながら、彼は玄関へと向かっていった。



236: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 21:54:05.71 ID:fmfm7D9O0
玄関で壁に掛けてある車のキーを手に取り、譲二は欠伸一つに外に出る。
途端、それを聞きつけた愛犬が彼の元に擦り寄ってきた。

▼・ェ・▼「うぉふ! うぉふ!」
( ゚∀゚)(……そうだ、ついでにジョルジュとドライブでもするか)

譲二は犬小屋からリードを外すと、それを持って庭の中を進む。
ジョルジュは散歩に連れてってもらえるのかと、嬉しそうに彼の足元をはしゃいで回った。

長岡家の車庫は門とは別の場所にあり、そこには二台まで入れる広さがある。
一台は譲一が使用していて、もう一台は譲二自身の車が収められていた。

と言っても、学生なので車は知り合いから安く売ってもらった中古の赤いマーチである。
丸っこいデザインが何かを連想させ、好ましく思えたのが購入の最大の理由だった。
彼の運転免許はマニュアル用のものだが、車の方はオートマティック仕様になっている。 
  _  
( ゚∀゚)「ほれ、落ちんなよ」
▼・ェ・▼「うぉふ!」

車のドアを開け、譲二はジョルジュを中へと促す。
ジョルジュはぴょんと地面から飛び上がると、そのまま器用に助手席の方へとことこと進む。
慣れているのか、最後はちょこんとシートの上に鎮座した。

譲二も運転席に乗り込み、ドアを閉め、封筒を膝に置いてシートベルトを締めた。
鍵を差し込んで捻ると、すぐにランプが点灯し、重低音と共にエンジンに火が点る。
その音は中古車ながら彼の目を覚ますような、威勢のいいものだった。

封筒はダッシュボードの上へ置き、ハンドルが握られ、アクセルペダルが徐々に押し込まれる。
そうして、そのまま車は長岡邸を後にしていった。



238: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 21:56:12.35 ID:fmfm7D9O0
譲二の車はほとんどスピードを落とすことなく、大学までの道を駆け抜ける。
それもそのはず、譲二にとっては休日でも、世間ではもちろん平日である。
車の数は少なく、ましてや渋滞になるような様子も見られない。

なので、車内もクーラーはかけず、窓を開けるだけであった。
季節は夏でも、走行時に受ける風は心地良く、譲二はほとんどドライブ感覚で車を走らせた。
  _  
( ゚∀゚)「書類を忘れるなんて、親父も案外おっちょこちょいだよなぁ?」
▼・ェ・▼「うぉふ!」

まるで「その通りだね」と言わんばかりに、助手席のジョルジュが嬉しそうに答える。
その時点で車は家を出てから三十分ほど走っており、目的地の大学まではあと少しというところであった。

▼・ェ・▼「ハッハッハッ……」

ジョルジュは流れていく景色が面白いのか、前足を窓の縁に引っ掛けてじっと外を眺める。
こちらは飛び出す危険がないように、窓を開けるのは半分までで止められていた。
ぶんぶんと忙しなく尻尾が動き、譲二も横目でそれを覗いて笑みを浮かべた。
  _  
( ゚∀゚)「おっと」

愛犬の様子に気を取られていたせいか、少しだけ慌ててブレーキを踏まれ、タイヤと路面が擦れる。
前方の信号が赤に変わっていたことに気付いたからだった。

しかし、やはりそのせいで車体が少し揺れ、ジョルジュはシートの上から滑り落ちる。
落ちたジョルジュは突然のことに驚いた眼で主人を見上げた。
  _  
( ゚∀゚)「おお、悪い悪い」

譲二は助手席へと首を動かし、持ち上げようかと思ったが、既に信号が青に変わっていることに気が付いた。



241: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 21:58:36.99 ID:fmfm7D9O0
  _  
( ゚∀゚)「悪いけど自分で上がってくれなー」

譲二はそれだけ言うと、視線を前に戻し、再びアクセルを踏み込む。

――が、その時ありえないものが彼の視線の端に入り込んだ。
  _  
(;゚∀゚)(なっ!?)

子供だった。

小学生ぐらいの子供が、赤信号になる前に一気に走り抜けようとしたのだ。
  _  
(;゚∀゚)「ぐっ!」

譲二は咄嗟でも、あらん限りの力でハンドルを切る。
車はけたたましい音を上げながら急カーブし、子供とは逆方向に進んでいく。

だが、必死の譲二に周りを気にする余裕などあるわけがなかった。
車は子供から離れていくも、曲がった先に待ち構えていた――
  _  
(;゚∀゚)「うわああああああっ!!??」

電柱に激突した。



242: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:00:52.86 ID:fmfm7D9O0
ひしゃげたバンパー、車体の端々から上がる煙。
電柱は折れ曲がり、ありふれた街中という面に非常識な点が出来上がる。

辺りからあっという間に野次馬が集まり、ざわざわという人の声が車から漏れる音を覆っていく。
眺める人達は様々で、呆然とする者、驚嘆の声を上げる者、携帯電話で凄惨な光景を写真に収める者……。
そして、この危険を通報したのは、その中のただ一人だけだった。

通報の後、ほどなくして救急車が駆け付け、譲二の体は慎重に車内から運び出された。
その際、助手席の下で鳴き続けるジョルジュも発見されたが、奇跡的にこちらはほぼ無傷であった。
それでも念のため一緒に救急車に乗せられ、車は事故現場と野次馬から離れていった。

「……応答願います。交通事故によって二十代男性が重傷。対応できる病院、応答してください……」
「……もしもし、こちら○○病院です。対応できますので搬送してください」
「○○病院ですね。それでは受け入れの準備をお願いします」

果たして、不幸中の幸いというものなのか、搬送先の病院はすぐに見つかった。
今まさに向かおうとしていた、父の勤め先の、自身も通学する大学の付属病院である。

大学の方が休みでも、当然病院は通常通り運営されている。
救急車が病院に到着すると、すぐに譲二は院内を運ばれ、緊急手術室のランプが点灯した。
駆けつけた執刀医がカルテを受け取り、小走りにその内容を覗く。

だが、途端にその表情は一変した。
  _  
(;゙゚∀゚)「なん、だと……!?」

運ばれてきた患者――自分の息子の名前を見て、長岡譲一は大きく狼狽した。



245: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:03:23.14 ID:fmfm7D9O0
緊迫感の支配する手術室の中で、長岡は誰よりもその身を強張らせていた。
彼のキャリアに、このような手術のケースがなかったわけではない。
若い頃には緊急病棟も経験し、これよりひどい状況も数あまた見ている。

(*゚□゚)「だ、大丈夫ですか先生? 汗が……」  
(;゙゚□゚)「……あ、ああ、心配ない」

しかし、相手は自分の血を分けた肉親なのだ。
止まらない手の震えも、湧き出る汗も、ここまでのものを味わうのは初めてだった。

高鳴る心臓を無視し、長岡はなるべくその顔を見ないように努める。
とにかく、今までに培った技術が発揮されることに賭けるしかなかった。
  _  
(;゙゚□゚)「うっ!?」

噴き出す血が、長岡の鼓動を早める。
それでも尚、長岡は術式を進める腕を止めなかった。いや、止めることができなかった。
今ここで腕を止めてしまえば、確実に再開する自信が持てなかったからだ。

異常に気付いた看護士から、他の医師に代わることも勧められた。
しかし、長岡はその提案を受け入れようとはしなかった。
ここまで来ると、他人に息子を扱わせたくないという意地のようなものも存在していたのだ。

この時のことを、後に長岡はよく憶えていない。
自分が発した言葉も、またそれに返された答えも、はっきりと思い出すことはできないでいる。
ただひたすらに、無我夢中に、長岡はその腕を動かし続けた。

そうして、終わってみれば手術は約十時間に及ぶ大掛かりなものとなっていた。



250: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:05:32.86 ID:fmfm7D9O0
多大なるプレッシャーの中で行われた手術だったが、最後には長岡の経験が勝っていた。
かろうじて譲二はその一命を取り留め、そのまま入院することになる。

だが、手術をしたにも関わらず、その後の状況は芳しいものとは言えなかった。
思ったよりも臓器の損傷が激しく、手術後も譲二は常に絶対安静の状態に置かれていた。
また、全身に血流を行き渡らせるため、とても高級な医療機器が必要だったのである。

なかなか回復する兆しも見られず、脳に反応はあるものの、その意識が戻ることはなかった。
その上、医療機器で維持するのにも多大な費用が必要となる。
全身にチューブが繋がれたその姿は見る影もなく、時には安楽死を勧める声さえ聞かれていた。

しかし、これによって一番頭を抱えたのは、他ならぬ手術を担当した長岡自身である。
何しろ、手術を行った時はほとんど無意識だったため、これでも成功したのかどうか判断が付かないのだ。

もしかしたら、気付かぬところでミスを犯したのかもしれない。もっと上手くできたのかもしれない。
そう思う度、彼の心はどんどん追い詰められていった。
仕事も手に付かず、食事もなかなか喉を通らなくなってしまった。

そして、日に日に衰弱していく息子の姿に、その思いは益々大きくなっていく。
長岡自身にも、段々と限界が近付いて来ていた。

そんな時、ふと長岡はあるものを目にする。それは、主人の帰りを待つ、愛犬の健気な姿。
事故から無事に生還したジョルジュは、すぐに長岡の家に戻っていた。

理解できているはずもないだろうに、その姿はどこか寂しげで、同情を引くものであった。
いつも遊んでくれる譲二がいなくなったことに、不安を感じていたのかもしれない。

しかし、泣き崩れる夫人に寄り添うその姿を見て、長岡にはある考えが頭をよぎる。

――そして、悪魔が囁いた。



251: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:08:27.44 ID:fmfm7D9O0
(*゚−゚)「……それで、譲二が目覚めたのが、丁度十日前のことです」
(;゚ω゚)「……」

なんてこった。僕はとんでもない依頼を受けてしまっていた。
事細かに夫人は話してくれたが、正直まともに聞けるような神経を僕は持ち合わせていない。

とにかく、耳に入る言葉の一つ一つが、大きな衝撃を伴うものだった。
リアルなようで、リアルではない話の内容が、僕の“常識”なんていうちゃちなものをぶち壊していく。
夢を見ているんじゃないだろうかなんて、そんなありきたりな現実逃避さえできなかった。

夫人の言葉は全て起こった後の結果で、その結果が僕の目の前でソファに鎮座している。
最後の最後になって、僕は途方もない真実をぶつけられていた。
 _
▼ ゚∀゚▼「ホントに驚いたぜ、起きたら自分の体じゃないんだからよ」

そんな風に、譲二さんはおどけるような感じで話す。
でも、まさかそれで笑うことなんてできない。なんてったって、僕は当事者じゃないんだ。
ただ、依頼を受けて犬探しをしただけのイレギュラー。それ以上でもそれ以下でもない。

真実を知りたがったのは僕だけど、カウンターパンチがあまりに重過ぎる。
もちろん後悔はない。ないのだが、もっと心の準備をすればよかった。
 _
▼ ゚∀゚▼「事情は母さんから教えられたけどさ、すぐに理解できなかったよ。今のあんたみたいにな」

僕は動揺が態度に出てしまっているようだが、それを直す余裕もない。
ただじっと、譲二さんの言葉を遮らないようにするので精一杯だ。
 _
▼ ゚∀゚▼「いやー、参ったよ。まずはこの体に慣れなきゃいけないからな」

確かにそうだ、と思った。いや、共感するのもおかしな話なんだけど。



252: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:10:34.24 ID:fmfm7D9O0
なんでも、譲二さんが犬の体をなんとか扱えるようになったのは目覚めてから五日後のことらしい。
一体どんな感覚なんだろうか。常に四つん這いだし、腰が痛くなったりするんだろうか。
あ、でも体は犬なんだから関係ないのか。いや、でも、もしかすると人間の頃の記憶が……。

(;^ω^)(……おっとっと)

また思考が脇道に反れるところだった。そろそろ本当に自重しないといけない。

そういえば、扱えるようになったのが目覚めてから五日後なら、それは今から五日前ということだ。
五日前といえば、丁度探すことになった犬――譲二さんがこの家を逃げ出した日になる。

(;^ω^)「あの……一つ聞いていいですかお」
▼ ゚∀゚▼「ん? ああ、俺の脳神経なら腹ん中に収まってるぜ。ほら」

言われて見ると、確かにお腹がぽっこり膨らんでいる。
あの中に人間の脳みそが入ってるのか。あまり想像したくないな。

って、そうじゃなくて。

(;^ω^)「い、いや、あの……なんで譲二さんは家を飛び出したんですかお?」
▼ ゚∀゚▼「……ああ、そっか。そりゃ気になるわな……」

その時、譲二さんの声は明らかに沈んでいた。聞いてはいけなかったんだろうか。
いや、当たり前だ。家を飛び出す理由なんて、人に話したくないものに決まっている。

(;^ω^)「あ、あの、別に無理に話さなくても……」
▼ ゚∀゚▼「いや! そうだよな、これは話さなくちゃならねえよ」

そう言った譲二さんは、既に元の調子を取り戻していた。
そして、それは心なしか、夫人へ向けられた言葉のようにも感じられた。



戻る次のページ