( ^ω^)ブーンが都市伝説に挑むようです

254: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:12:44.93 ID:fmfm7D9O0
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▼ ゚∀゚▼「さっきも言ったけどさ、目が覚めて本当に驚いたんだよ。この体に」

それはそうだろう。
朝、目が覚めたら人間じゃなくなっていたなんて、本気で考えるのはカフカぐらいのものだ。
そうじゃない譲二さんからすれば、天地がひっくり返るぐらいの衝撃だったに違いない。
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▼ ゚∀゚▼「母さんから話されたけど、俺は真っ先に親父に話を聞きたかったんだ。何でなんだ、って」
( ^ω^)「それで、長岡さんはなんて?」
▼ ゚∀゚▼「……いいや、親父は何にも話してくれなかったよ」

詳しく聞くと、長岡さんは話をするどころか譲二さんに会おうともしなかったらしい。
部屋に閉じこもり、食事の時間にも出てくることはなかったそうだ。

自分の変化に戸惑う譲二さんからすれば、実際に長岡さんから話を聞きたいと思うのは当然だろう。
いきなり体が犬になっていて、しかもそれをした当人はだんまりなんて、冷静でなんかいられないはずだ。
僕だったら、錯乱する自信がある。

(*゚∀゚)「譲二、それは……」
▼ ゚∀゚▼「わかってる。わかってるけどさ……」

そう話す譲二さんの表情は、少し寂しげなようにも見えた。
一体どんな心境だったのだろうか。これはただ怨むような、そんな単純なことではないはずだ。
あくまで結果だけならば、譲二さんは長岡さんによって命を救われたのだから。

( ^ω^)「……長岡さんは何を言えばいいのかわからなかったんですお」
▼ ゚∀゚▼「……」
(;^ω^)「あ、すいませんお。僕なんかが口を出して……」

つい出てしまったその言葉に、僕は慌てて口を閉じる。しかし、迎える譲二さんの表情は穏やかだった。



257: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:15:57.57 ID:fmfm7D9O0
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▼ ゚∀゚▼「いや、構わないよ……俺だって、今ならそれがわかるさ」

僕は父親になったこともないし、特別子供が好きなわけでもない。
だから、当時の長岡さんを理解できるわけはないけど、藁にもすがる気持ちだったんじゃないだろうか。
それから冷静になって、一気に後悔が襲ってきたのかもしれない。

そして、そんなことは譲二さんだってわかっているんだ。
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▼ ゚∀゚▼「俺を助けようとした親父の気持ちはわかる。でも……」
( ^ω^)「でも……?」
▼ ゚∀゚▼「……命を他の命で救うなんて、俺は納得できないんだよ」
(;^ω^)「あ……」

譲二さんは、はっきりとした口調でそう告げた。

僕は、それを聞いて自分の考えが浅はかだったことを思い知る。
てっきり、譲二さんのわだかまりは今の体についてのことだと思っていた。

でも、実際はそうじゃない。譲二さんはそんなことを気にしてなんかいなかった。
譲二さんは、自らの命が助かったその影で、失われてしまった命の存在のことを示しているのだ。
はっきり言って、僕はそんな考えに気付くことさえできなかった。

それはきっと、やっぱり僕が結局は赤の他人だからなんだろう。
無意識に、いや、もしかしたら自ら望んで、彼らとの間に一線を敷いているのだ。
でも、僕が入り込む余地などないと思うし、申し訳ないが入ろうとも思わない。

今気付いてみても、僕はそれによって大きな同情を抱いたわけでもないんだ。



259: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:18:54.69 ID:fmfm7D9O0
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▼ ゚∀゚▼「ジョルジュの命を奪うしか……それしかなかったのかって、親父に聞きたいんだ。俺はさ」
(;゚−゚)「譲二、それは……」

夫人は見ていて辛いほどに悲痛な表情で譲二さんを見つめる。

確か、夫人も犬のことをとても可愛がっていたと聞く。
もしかすると、既にその質問を長岡さんにぶつけているのかもしれない。
今の彼の言い分が痛いほどに、その胸を抉るのかもしれない。

だが――
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▼ ゚∀゚▼「ちゃんとした答えを聞くまで……俺は……」
(*゚−゚)「……聞いて、譲二」

言葉を遮った時、夫人の表情は既に一変していた。
かよわさは消え、真剣みが増し、どこか気迫のようなものさえ感じられる。

最初に会った時とは大違いで、譲二さんもすぐにその変わりように気付いていた。

(*゚−゚)「譲二、お母さんも話を聞いた時はとても悲しかったわ」
▼ ゚∀゚▼「……」
(*゚−゚)「でもね、お母さんはお父さんが間違ったことをしたとは、決して思っていないのよ」

その言葉を聞いて、譲二さんは若干の動揺を顔に出す。
夫人も自分と同じ気持ちを抱いている、そう思っていたんだろうか。
どれだけ夫人が犬を可愛がっていたかを知るであろう譲二さんにとっては、信じられないことなのかもしれない。

しかし、今の言葉はそんな思いを真っ向から否定するものだ。
いや、否定するというよりは、戒めるという意味合いの方が強いようにも思えた。



263: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:22:03.98 ID:fmfm7D9O0
単なる傍観者となっていた僕だが、夫人のこの気迫が何から来るものかはなんとなく理解していた。

それは決意だ。
夫人は譲二さんの心境を聞いた上で、自分の中で最善であろう判断を下したのだ。

それは、今の自分の思いを真っ直ぐに伝えること。
どうしても譲二さんに、自分の息子に言わなければいけない何かを、夫人は見つけたのだ。
そして、そのための覚悟を夫人は決めたのだろう。

例え、その結果に息子と意見を違えることになろうとも、だ。

(*゚−゚)「ジョルジュのことはもちろん悲しいわ……だけど、それ以上にお母さんは譲二が生きていてくれるのが嬉しいの」
▼ ゚∀゚▼「……」
(*゚−゚)「……譲二、親ってのはね、子供のためならどんなことだってできるのよ」

それは優しくて、強くて、残酷とも言える、とても重い言葉だった。

聞かされた譲二さんは押し黙り、ただじっと夫人の――母親の瞳を見つめている。
その心境がどんなものなのか、僕に理解できるはずもない。

(*゚−゚)「あの人もね……ただ譲二を助けたい一心で、仕方なくやったんだと思うの」
▼ ゚∀゚▼「……」
(*;− )「きっとすごく後悔もしているはずだから……だからね、お願いだから……あの人を許してあげて……」

溢れ出る涙を、夫人は必死に堪えていた。
今はこの姿を見せるべきではないと思ったのだろう。
涙を拭おうとはせず、何度も鼻を啜り、ただただ譲二さんを見つめている。

夫人の思いを、そして長岡さんの思いを、譲二さんはどのように受け止めたのか。
しかし、果たして彼は口を開こうとはしなかった。



267: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:24:53.18 ID:fmfm7D9O0
(*゚∀゚)「どうしても……行くのね?」
▼ ゚∀゚▼「……ああ」

話を終えて、僕達は玄関に移動していた。譲二さんが、再びこの家から出るためだ。
  _
▼ ゚∀゚▼「……悲しいけど、今は時間が過ぎるのを待つしかないと思うんだ」
(*゚∀゚)「……そう……」

再び出て行くと言い出したのは、譲二さんだった。
夫人は当然悲しげな表情を作ったが、そのまま引き止めようとはしなかった。
きっと、どんな答えが返って来ても受け止めようと思っていたんだろう。
  _
▼ ゚∀゚▼「……とにかく今は、ジョルジュとして生きてみようと思う」

ジョルジュとして、犬として生きる――それが、譲二さんの今の結論だった。

その言葉の意味からすれば、やはり譲二さんは自分の考えを曲げなかったのだと取れる。

だが、だからといって僕は夫人の言葉が何の意味も持たなかったとは思わない。
もしそうならば、譲二さんは何らかの反論をしたはずだ。
じっと黙って聞くだけだったものの、譲二さんは真摯にその思いを受け止めているのだと感じた。

所詮他人でしかない僕だけど、その感覚は間違っていないのだと思う。

(*゚∀゚)「……譲二。お母さんもお父さんも、ずっと待ってるからね」
▼ ゚∀゚▼「ああ……きっと、帰って来るよ」



270: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:27:22.11 ID:fmfm7D9O0
譲二さんは自らバッグの中に収まり、僕はファスナーを八割ぐらい締める。
そして、ぐっと力を入れてバッグを持ち上げた。

(*゚∀゚)「あの、内藤さん、本当にありがとうございました」
(;^ω^)「あ、いや、僕も依頼が上手くいって嬉しいです、お」

夫人からの労いの言葉も、僕はまともに受け止めることができなかった。
依頼が上手くいって嬉しいだなんて、無神経にも程がある。
こんな時ばかり、僕の思考は緩慢になってしまっていた。

(*゚∀゚)「あと、これ約束のお金です」

報酬について夫人から言い出してくれたことは、僕にとってかなり助かった。
僕からは言い出しにくいことなのを、きっと理解してくれていたんだろう。
夫人は柔らかな物腰ながら、どこか事務的な言い回しだった。

僕は差し出された封筒を受け取ると、感触で明らかに示した額より多いであろうことに気が付いた。
成功報酬には確かに依頼者の“気持ち”も含まれる場合があるが、これは些か多過ぎる気もする。

この件についての口止め料とか、夫人がそんなことをする人とは思えない。
純粋に、僕に迷惑をかけてしまったなどと思っているんだろう。
僕は何も言わず懐にしまったが、素直に喜ぶことはできなかった。

(*゚∀゚)「本当なら、主人からもお礼を言うべきなんですけど……」
(;^ω^)「いえいえ! いいんですお!」
(*゚∀゚)「……内藤さん」
( ^ω^)「はい?」

その時、少しだけ夫人の声の調子が変わる。
静かでいて、稚児に言い聞かせるような丁寧なものだった。



271: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:29:36.98 ID:fmfm7D9O0
(*゚∀゚)「……主人は不器用で、口下手で、今じゃすっかり無愛想になっちゃったけど……」
( ^ω^)「……」
(*゚∀゚)「……それでも、子供の前では笑う人だったんですよ……」

きっと、その言葉は僕にだけ伝えようとしたものではない。
僕を通じて、生き方を変えようとしている彼への、大切なメッセージなんだろう。

家族が意見を違わせるのは、とても悲しくて、そして寂しい。

だが、いくら家族と言っても、結局は一人一人の個人なんだ。
その考えが違うことだって、進む道が異なることだって大いにある。

次元が違うことはわかっているけれど、僕も田舎から出る時、両親から、特に父親から強く反対された。
でも、必死に思いを伝えたら、最後には父も笑って見送ってくれていた。

血を分けた、一番近しい存在の家族であっても、心が通わなくなってしまうこともある。
でも、そんなものを覆し、再び笑いあうことができるのも、やっぱり家族なんだと思う。

だから、家族はどこまで行っても、どんなに離れていても、必ずどこかで繋がっているんだ。

少なくとも、僕はそう信じていたい。

( ^ω^)「……それじゃ、失礼しますお」
(*゚∀゚)「……はい。本当にどうもありがとうございました」

夫人に一礼し、僕は長岡家を後にする。
道路に出るまでゆっくりとした足取りでも、僕は決して振り返ろうとはしなかった。



273: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:31:56.74 ID:fmfm7D9O0
( ^ω^)「ここでいいんですかお?」
▼ ゚∀゚▼「ああ」

譲二さんに指示されて辿り着いたのは、意外にも人通りの多い商店街の路地裏だった。
聞き込み調査のために立ち寄った、あのマクドメルドの裏である。
  _
▼ ゚∀゚▼「商店街の方は人目が多いけど、反対側は案外人が少ないんだ。盲点ってやつだな」

そう言って、譲二さんは前足で路地の向こうを示す。
確かに、商店街の喧騒でわかりにくいが、滅多に人や車が通る様子がない。
恐らく家を出る時にも、この道を使ったんだろう。
  _
▼ ゚∀゚▼「……あ、餌が貰える場所を覚えてるってのは、結構犬っぽいかな?」
( ^ω^)「……」

譲二さんはそうおどけて見せるが、いずれはきっとそんな余裕も無くなるんだろう。
彼が選択した道は、想像以上に厳しいもののはずだからだ。

人間と犬は体格、生活、そのどれもが異なる。
そして、本能で生きる犬と違って、人間には、譲二さんには理性がある。
それこそが、譲二さんにとって最大の敵となるんだ。

二日前の夜、譲二さんはこのマクドメルドの廃棄された食べ物を得ていた。
やっぱり、ゴミ捨て場の残飯を漁るのには抵抗があったんだろう。
せめて、人が食べ残したものを選んだに違いない。

人間としての習慣、観念、理想。
その様々が、譲二さんがこれから生きていく上での障害になるんだ。

加えて、その特異な見た目から、安易に人に近付くことさえできないだろう。



277: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:34:27.00 ID:fmfm7D9O0
( ^ω^)「……本当に、後悔しないんですお?」

そうして、気付けば僕は尋ねてしまっていた。
またしても無神経だと取れる、浅はかなその質問。

だが、今回はそれほど言った後に抵抗は感じなかった。
もしかしたら、僕も譲二さんから何かしらの答えを聞きたかったのかもしれない。
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▼ ゚∀゚▼「……ここの店員ってさ、おっぱいデカイよな」
( ^ω^)「え……」
▼ ゚∀゚▼「こう、見上げるとさ……すげぇいい角度で下乳が拝めるんだぜ?」

――そう言って、譲二さんはにやりと笑った。



279: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/10(土) 22:36:44.70 ID:fmfm7D9O0
やがて、くるりと向きを変え、譲二さんはのそのそと歩いていく。
僕はその後姿を、黙ってじっと見続けていた。

これからきっと、彼を色んな困難が襲う。
人目は避けなければならないし、誰かに助けを求めることだって難しい。
だが、それを彼は気持ちだけで乗り越えなければならない。

自分で道を選ぶとは、そういうものだ。
譲二さんは自分の運命を嘆くような人ではなかった、ただそれだけのことである。

でも、もしも僕が今後彼の姿を見つけたら、こっそりハムの一つでも差し入れようとは思っている。
そして、彼がどれだけ犬らしく生きているか、観察してみるのも面白い。

だから、街の人もある日人の顔をした犬を見つけても、決して恐がらないでもらいたい。
その犬はもしかしたらとても気さくに、いい話し相手になってくれるかもしれない。

そして、もし見つけたのが女性なら、どうかその胸に抱いてあげてもらいたい。

彼はきっと、何よりそれを喜ぶはずだから。




                    "Case.1" end, go to next case......"Monkey Majik"



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