('A`)ドクオは向き合うようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 00:01:39.86 ID:425+zN5pO
- 認めてはなるものか、と。
前編「痛み」
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 00:08:51.66 ID:425+zN5pO
- 大きいビルと灰色の空。
俺が東京に抱いた感想は、まずそれだった。
空虚なまでに聳え立つ箱の中に一体何人の人が閉じ込められているんだろう。そう考えるとなんだか無性に怖くなって、俺はあそこに行くものかと決意したのを覚えている。
すぐに挫けたのも、一緒に。
大手に入社が決まった時は複雑な心境だった。
母さんは涙を流して喜んだし、父は誇りだと俺を抱き締めてくれた。
でも俺は何か大事なものをなくしてしまいそうで、これからのことを思い覚悟の涙を流した。
「ドクオ、ドクオ」
「お願いだからご飯だけは食べて」
「ドクオ、返事をしろ」
「ドクオ――」
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 00:15:48.40 ID:425+zN5pO
- ***
ξ゚听)ξ「どうでも良いんだけどさ」
勝気な瞳を輝かせて、少女が仁王立ちで俺の前にいる。
ξ゚听)ξ「あんたが来るまでそこあたしの指定席だったの」
少女が指差す先は俺が座っているベンチ。
昼休みにまで会社にいるのが嫌だった俺が会社から程よく離れたこの公園を見つけてから、お昼の時間をここで潰すのが日課になった。
光がほんわかと差し込むベンチを見つけ、コンビニで買ったお弁当をつまむのが細やかな楽しみとなっていたのだ。
('A`)「それは、あの、すいません」
何と言ったら分からなくて、とりあえず謝っておく。
謝ればなんとかなるものを知った社会人の薄汚い行動だった。
ξ゚听)ξ「どうして謝るのよ」
少女は拳を握りしめた。長く伸びた脚が苛立ちを表す。
- 7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 00:21:45.92 ID:425+zN5pO
- ξ゚听)ξ「大人って嫌。謝ればいいと思ってる。そんなの間違ってる」
そんなことを言われても困る。
('A`)「じゃあ、どけば良いのか」
ξ゚听)ξ「そんなの……あたしが悪いみたいじゃない」
('A`)「俺はどうしたらいいんだ。君みたいな理不尽なやつは会社だけで十分なんだよ。さあ早くどうして欲しいか言ってくれ!」
言ってから気付いた。
関係のないことまで彼女にぶつけてしまったことを。それは、十代の少女にぶつけるにはあまりにも乱暴な言葉だった。
('A`)「す、すまない」
ξ゚听)ξ「あなた大人にもなってじゃあ一緒に座りませんか、とか言えないの?」
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 00:28:44.27 ID:425+zN5pO
- お弁当を広げているスペース指差しどけなさいと指示すると、彼女は満足気にそこに腰を下ろした。
華奢な細い指が照れ臭さを誤魔化すように鼻を掻く。
ξ゚听)ξ「ゆずり合いと、逃避は違うわ。さっきのあんたがやったのは逃避。あたしとの争いを避けようと思ってたんでしょ。でもあたしはそれを許さない。人間は互いに想い合い気を使い合う生き物だもの。どちらかが損をしちゃいけないの」
膝の上にランチマットを広げながら彼女が言った。そして最後に、
ξ*゚听)ξ「って、なんかのサイトで読んだの」
('A`)「……非常にいい考え方だと思うよ」
俺は苦し紛れにそう言って、残っていたサンドイッチを胃に収める作業に戻った。
変な子だと思う。
けれども、いい子だと思う。
無言の食卓は思ったよりも心地のいいものだった。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 00:38:20.99 ID:425+zN5pO
- それからは週に二回程度彼女と顔を合わせ、一緒に食卓を囲むことになった。どちらかが来たらベンチに空きを作り、さっと身を寄せる。二人だけの暗黙の了解だった。
最初は口数少なかった俺と彼女が、いつしか互いに笑い合えるくらいの関係へとなっていった時、自分が恋をしているのに気付いた。
毎日毎日今日は会えるだろうかとやきもきしている自分を冷静に見つめた結果だ。
ξ゚听)ξ「あんた、コンビニ弁当ばかりじゃない。これ一口あげるわ」
自分で作ったという唐揚げを貰った時、素直にこの子は将来良い嫁になると思った。
思ったことをそのまんま彼女に告げるとみるみる頬を染めたのがとても可愛くて、俺は微笑む。
ξ*゚听)ξ「なに笑っているのよ。怒るわよ。唐揚げ返しなさい」
('A`)「残念。もう胃の中だ」
当時二十三だった俺とどう見ても高校生の彼女とのやり取りは周りにどう映っていたのだろう。
援助交際だと疑われていたのかもしれない。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 00:44:51.41 ID:425+zN5pO
- でもその表現はある意味正しいような気もする。
俺は彼女と接しているとたくさんのことが救われるような気がしたし、それは俺にとって紛れもなく援助だっからだ。
変な子という印象から太陽のような子に変わったあの日、俺は彼女に好きだと抱き締めた。
雪の降る寒い日のことだった。
( ゚∀゚)「最近ずいぶん調子がいいじゃないですか」
営業成績を印刷したものを手渡しながら長岡が感心したように言う。
そこには俺の名前とともに、その成績が一位だということが記されていた。
( ゚∀゚)「俺が入ったとき最下位だったのに。ほんと、この人が俺のトレーナーだと知ったときすごく不安でしたよ」
('A`)「それは申し訳なかったな。あの時はなんで働いてるんだろーって一番思い悩んでいた時だったから」
( ゚∀゚)「へえ、先輩もそんなこと考えるんですか」
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 00:52:35.59 ID:425+zN5pO
- ('A`)「考えるよ。俺をなんだと思ってるの」
部長が眠りこけているのを横目で確認して、俺は煙草に火をつけた。ふんわりと肺を満たす煙が心地よい。
( ゚∀゚)「いや、そうじゃなくて。何て言うのかな、先輩は物事に意味を求めない人なんじゃないかと」
('A`)「働くことは当たり前だ。意味なんてない、ってか?」
( ゚∀゚)「そう。なんで働くかっていうと金が欲しいから。なんで金が欲しいかって言うと自分がしたい生活がしたいから。そんな感じの考え方をしているのだと」
('A`)「そういう風に単純に考えられたら俺ももっと楽に生きれたんだろうな」
( ゚∀゚)「うーん」
椅子に寄りかかって背を伸ばしながら、「それもつまんないと思いますけどね」とジョルジュは笑った。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 01:01:17.53 ID:425+zN5pO
- ***
ξ゚听)ξ「遅い。罰金四十九万」
('A`)「俺の手取りを言うな。現実味が増すだろう」
ξ゚听)ξ「それもそうね。せっかくこれからSF観に行くっていうのに」
少女は俺の恋人になっていた。
俺が告白をしたあの日、頷きながら抱き締め返してくれたのだ。
あの公園からちょっと離れたところにある映画館。そこが俺たちの初デートの場所になった。
最初どこに行こうかとあれこれ悩んだが、彼女の観たい映画があるという発言でこの場所に決定した。
最近改造したばかりの映画館は西洋の建物のようにどこかメルヘンな造りで、男一人では迂濶に近づけない雰囲気をかもしだしている。
ξ゚听)ξ「前はよくここに来たわ。でも今日来るのは本当に久しぶりで、ちょっとだけ感じが違ってしまったように思うわ」
彼女は悲しそうに呟く。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 01:06:58.60 ID:425+zN5pO
- ξ゚听)ξ「なんだか幼なじみを失った気分」
('A`)「それは、お前が変わったからじゃないのか」
ξ゚听)ξ「そうかも。……あたし、変わったかしら」
('A`)「少なくとも俺に会ってからは変わっただろ」
ごう慢な物言いだったかと慌てて彼女の様子を確認する。気分を害したんじゃないかと心配したがそれは杞憂に終わった。
嬉しそうに頷いていたからだ。
ξ*゚听)ξ「そうね。きっと変わったわ、わたし」
握っていた手をさらにぎゅっと掴みながら。
彼女が観たかった映画は外国のファンタジーだった。
ドラクエみたいなストーリーで、美青年の主人公が仲間とともに魔王を打ち倒す。それまでにたくさんの出会いと死があり、その度に横で彼女は鼻をすすっていた。
自分はと言うとあまりのストーリーの単調さに途中で眠りに落ちそうになることが幾度もあった。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 01:12:39.30 ID:425+zN5pO
- ξ゚听)ξ「あんまり感動できなかったみたいね」
帰りの電車で口を尖らせながら彼女は俺を咎めた。手には買ったばかりのグッズとパンフレット。本当に、気に入ったようだ。
('A`)「なんていうか、俺主人公がイケメンだと感情移入出来ないんだよ」
ξ゚听)ξ「何よそれ」
くすくすと一通り笑い終えると、彼女は語り出した。
ξ゚听)ξ「別に、主人公が可哀想だから泣いたんじゃないわ」
('A`)「じゃあどうして?」
ξ゚听)ξ「死はあまりにも一瞬で、残酷で、それでいて留まることを知らない。そう思うと悲しくなったの。どうせ別れるのに、それを止められないのにわたしはまた恋をしている」
しばし見つめられ、その視線の真摯さに胸がつまりそうになる。なにかとてつもなく大きいものを彼女が抱えていて、それを俺にはどうすることもできないのだと悲しくなった。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 01:18:42.33 ID:425+zN5pO
- ξ゚听)ξ「それでも、そうね。きっと人間はそうやって今を作ってきたのよ」
彼女と唯一の繋がりの手の平が、熱くなった。
***
( ゚∀゚)「きっとあなたは脆すぎるんだと思います」
扉の向こうで長岡がそう言う。
出てきて欲しいという要求は再三受け入れられないと言っているのに、しつこい男だ。
放っておいて欲しいのに。
( ゚∀゚)「けれど、けれど向き合わなきゃいけないんです。自分の壁の中に塞ぎ込んでいるだけじゃ前に進めないんです」
お前になにがわかる。
激昂にも似た熱い感情は沸き上がり、そして消えた。
今の自分には怒るエネルギーさえ残っていないのだ。
( ゚∀゚)「先輩。ドクオ先輩――」
なにも聞こえない。聞かない。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 01:29:25.22 ID:425+zN5pO
- ***
ξ゚听)ξ「知っていたと思うけどあたし不登校なのよ」
ベッドの上、柔らかいセーターを着込みながらの告白だった。
もちろん薄々勘づいていた。
いつもあの時間に私服で現れる彼女がまともに学校に行っているとは思えなかったからだ。不登校、もしくは高校中退かと密かに結論づけていた。
ξ゚听)ξ「理由、知りたい?」
彼女が乱れた髪をとかす。
煙草を一吐き、俺は彼女を見据える。
('A`)「知りたくないって言ったらどうするんだ?」
ξ゚听)ξ「……なら、何も言わない」
('A`)「そうか」
足りなかったのだ。
彼女のすべてを背負うためには、いろいろなものが。
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 01:37:16.31 ID:425+zN5pO
- 最低だったと思う。
好きだと愛しているのだと囁きながら俺は彼女を受け入れていなかった。
救いを求めるばかりの俺に、愛される資格などなかったのだ。
('A`)「理由を知った俺がどうにかしてくれるとでも思ったのか? 俺に何が出来るんだよ。お前の過去はお前のものだろう。話したって、どうしようもない」
彼女の小さい背中に語りかける。
それは自分を擁護するだけの、最低の言葉だった。
ξ゚听)ξ「別に……求めていたわけじゃないわ。勘違いしないで。傲りたかぶらないで」
('A`)「……」
ξ゚听)ξ「違うわ。あたしはそんな人間じゃない。そんな人間は捨てたの。ふざけないで、あたしはもういないの」
震える背中を抱き締めることも出来ない。
しなかった。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 01:40:18.01 ID:425+zN5pO
- 『さようなら。
あなたといて楽しかったわ。
変われた気がするし、そう信じたかった。
でも変われなかった。
あたしは最低な人間です。
だからあなたは、わたしを忘れて、きっと、幸せになってください。』
('A`)「う、あ」
赤かった。
そして冷たかった。
そんなに脆かったのか。たったそれだけであっけなく……あまりにもあっけない。
俺は、俺はなんてことをしてしまったんだ。俺は……
('A`)「うあああああああああああ」
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 01:46:05.06 ID:425+zN5pO
- 自殺という言葉はたった二つの漢字でできている。
でもそれはあまりにも足らないような気がするんです。たったそれだけの言葉で、足らないのです。
想いが、絶望が、希望が、未来が。
すべてすべて諦めて飲み込んで消えて、そうして自殺ができるんです。
そうしてそれを止められなかった人には一生それを背負わなきゃいけないんです。
('A`)「……」
空っぽだった。
あれが、あの残酷な言葉があいつにすべてを諦めさせてしまった。
元々理解していたはずなのに。
彼女の心の弱さを、ちゃんと分かっていたはずなのに。
('A`)「すまない、すまない」
謝ろうが詫びようが絶とうが届かない。虚しく響くだけなのだ。
('A`)「すまない」
謝り続けても、だめなのだ。
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/11/28(水) 01:51:51.04 ID:425+zN5pO
- もうだめなのに。彼女はいないのに。
こうやって部屋に籠り誰とも話さず何もしない。
それさえももうだめなのだ。何をしたって無駄なんだ。
――死にたい。いっそ死にたい。
('A`)「太宰治」
人間失格のワンフレーズだったと記憶している。
教養のためと昔読んだが、意味はなにひとつ理解できなかった。
どうしてこの主人公はそこまで病んでしまっているのだろう。もっと楽天的になったらいいのに。
そう言ってせせら笑ったこともあった。
だが今はどうだ。
言葉がまるで自分を体現してくれているように、深く染み込んでいく。
('A`)「ああ、ツン」
“ツン”
彼女の名の由来はついに聞くことはなかった。
('A`)「俺も行きます」
会ったら、聞こうかな。なんて。
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