(^o^)ノ<じぇんとるまーん

34: 名無しさん :02/25(月) 23:59 S3Zuu5XKO

 
 
第二話 [始点]
 
 
思い出せ。
記憶を、数少ない情報を。
 
何があったのかを。
ゲームを始める瞬間を。
 
黒い空間に二つの瞳。
品定めするようにじっとりと見てきたあの目を。
 
そして白い手を。
身体を引きちぎるような激痛を与えてきた手を。
 
そしてノイズ。
そこから先の記憶はこの世界に来てからだった。
 
(; A )「う……」
 
汗が頬を流れ落ちる。
はっきりと不快感を覚え、嘔吐しそうになるのを堪えていた。



35: 名無しさん :02/26(火) 00:00 SIQ+SInOO

 
空の青色、太陽の輝き、揺れる草花の美しさに構っている余裕は無かった。
現実に限りなく近く、程遠い。
ゲームであって、ゲームではない。
 
自分はいるが身体が無い。
非現実的な事が起こり、混乱している。
だが、何も行動を起こさないのなら意味は無いということにも気付いている。
 
今、必要な行動を起こす事が最善だ。
 
(;'A`)(考えろ……少しでも見つけるんだ ここが何なのかを得る手掛かりを……)
 
目を閉じる。
落ち着いたわけではないが気持ちが幾分かは楽になった。
 
そして目を開け、見渡す。
自分が立っている位置から見える全ての情報を逃さないように。



36: 名無しさん :02/26(火) 00:01 SIQ+SInOO

 
困惑しているブーン、風で揺れる草、巨大な砂時計、空に流れる白い雲。
砂時計の表面に何か刻まれているのに気付いた。
 
('A`)(我は終始を司る番人 我が天地変動は神への反逆 神の砂は故郷への帰路)
 
砂時計以外は何もおかしい所は無い。
胸に何かが詰まっているように錯覚した。
 
違和感が残っている。
混乱している頭を落ち着かせようと息を深く吸い込もうとした。
 
('A`)(できない? いや、必要無いんだ)
 
どうやら、必要は無いらしい。
しかし、匂いはわかる。
頭を掠めたのは可能性。



37: 名無しさん :02/26(火) 00:02 SIQ+SInOO

 
('A`)「ブーン」
 
頭を抱えていたブーンがドクヲに目をやる。
ゆっくりと口を開いた。
 
(;^ω^)「な、なんだお」
 
ブーンの表情は暗く、蒼白している。
額を流れる多量の汗が太陽の光を反射し、顔が一層白く見えた。
 
('A`)「仮定の話なんだが……俺らの体と今の俺らは別々の場所にいると思われる」
 
(;^ω^)「何を言ってるんだお!! というかドクヲはなんでそんなに落ち着いているんだお!! それに……」
 
言葉を続けようとするブーンを手で制した。
ブーンの口が閉じたのを確認するとドクヲが口を開く。
 
('A`)「動揺しているのはわかる 俺も動揺している だが落ち着いて聞いてくれ」
 
(;^ω^)「お……」
 
ブーンの喉が動く。
息を飲むような動作をした。



38: 名無しさん :02/26(火) 00:04 SIQ+SInOO

 
('A`)「まずここにあるのは自分だ だがゲームをしている本体は無い」
 
(;^ω^)「お……」
 
('A`)「だが物を見ることもできるし、音を聞くこともできる そして触れば感触もわかる」
 
(;^ω^)「それがどうしたんだお」
 
ブーンは意味がわからないとでも言いたげに首を傾げた。
 
('A`)「本体が無いのにどうしてだ?」
 
(;^ω^)「……ゲームしていた自分ごとここに飛ばされ、今ドクヲと話している 自分が本体ってことかお?」
 
('A`)「違う 生きている本体がここにいるために必要なあるものが無い」
 
(;^ω^)「あるもの?」
 
('A`)「気付かないのか? 今、息を飲んだ時に気付かなかったか?」
 
(;^ω^)「だから何を……?」
 
('A`)「呼吸できるか? そして鼓動は聞こえるか?」
 
(;^ω^)「……」
 
ブーンが突然、口を開けた。
そして、何か重大な発見をしたかのように声を出した。



39: 名無しさん :02/26(火) 00:06 SIQ+SInOO

 
(;^ω^)「おっ!?」
 
ブーンは自らの胸の上に手を置いた。
 
('A`)「どうだ?」
 
(;^ω^)「空気が無いお……なんか変な気分だお 心臓も動いてないし」
 
('A`)「そう、空気が無い だから呼吸も必要無い 鼓動も必要無い 本体が無いから」
 
(;^ω^)「だからなんなんだお」
 
('A`)「つまり」
 
「僕らの精神だけかもしれないってことだろう?」
 
(;'A`)「っ!?」
 
(;^ω^)「おっ!?」
 
背後から声が聞こえた。
突然のことに困惑しながら直ぐさま振り向いた。



40: 名無しさん :02/26(火) 00:07 SIQ+SInOO

 
(´・_ゝ・`)「やぁ」
 
(,,゚Д゚)「……」
 
振り向いた先には二人の男が立っていた。
ノイズが頭に響く。
 
(;'A`)「あんたらは?」
 
一瞬、意識を失いかけたが平静を保つ。
声が震えている。
 
(´・_ゝ・`)「名前は見えているはずだけど?」
 
確かに表示されている。
今答えた男がデミタス、もう一人はギコ。
 
ノイズが酷い。
デミタスがニヤリと笑う。



41: 名無しさん :02/26(火) 00:09 SIQ+SInOO

 
(´・_ゝ・`)「まぁ目的はPKさ PKってわかる?」
 
(;^ω^)「おっ!?」
 
(´・_ゝ・`)「ようはゲーム内の人殺しさ TEXT」
 
デミタスの前に十数行に渡る文字列が現れ、一言呟く。
文字列はデミタスを容易に囲む程の大きさ。
 
まるでデミタスの表面に小説の一頁の文字のみが切り取られ、浮かんでいるかのようだった。
文字列の中の一行が輝く。
 
すると一本の鈍い光を放つ剣が現れた。
 
(;'A`)「……」
 
(;^ω^)「……」
 
(´・_ゝ・`)「ふふふw 初心者を狩るのは気持ちいいんだよね」
 
デミタスから距離を一歩ずつ、とる。
それに比例し、デミタスも詰め寄る。



42: 名無しさん :02/26(火) 00:09 SIQ+SInOO

 
(;'A`)「なんで初心者だと思うんだ?」
 
(,,゚Д゚)「……」
 
(´・_ゝ・`)「なんでだろうねwww」
 
不敵に笑いながらデミタスが近寄る。
文字列もデミタスの周りを浮いている。
 
(´・_ゝ・`)「冗談さ そんなに身構えなくてもいいよ」
 
デミタスの手から剣が消える。
だからといって安全になったわけでは無い。
 
ブーンとドクヲは少し間をとったままデミタスへと視線を注ぐ。
二人の表情は固いままだった。
 
(´・_ゝ・`)「まぁいいさ とりあえず町へ行こうか 僕らの自己紹介は……必要ないよね」
 
ギコが無言で森へと歩き出し、デミタスがその後に続く。
二人を追うようにドクヲが砂時計を後にした。
 
( ^ω^)(何かが足りないんだお)
 
ブーンは自分が先程まで立っていた場所に一瞥すると、三人の後を追って走っていった。



43: 名無しさん :02/26(火) 00:12 SIQ+SInOO

 
見上げるほどに高い樹齢数百年程と思われる樹木、低くても自分の背ほどの草、見渡す限り一面に植物が生い茂る。
樹木の葉により、降り注ぐ日光が和らぎ、緑の光が薄暗い密林を照らす。
 
そんな密林の中に人が二人程通ることができそうな道が続く。
その道をギコが先頭に、そしてデミタス、ドクヲ、ブーンと続いて歩いていた。
 
(´・_ゝ・`)「さて、町に行く前に軽く話をしようか」
 
デミタスが振り返り、二人に話し掛ける。
 
(´・_ゝ・`)「基本の話をする前に聞きたいんだけど君達がここに来たのは何日だい?」
 
変わったことを聞く人だ、と思いつつドクヲは返答した。



44: 名無しさん :02/26(火) 00:14 SIQ+SInOO

 
('A`)「確か26日だった気がする」
 
(´・_ゝ・`)「僕らがここに来たのは23日だ 多分、一番最初だと考えているんだ」
 
( ^ω^)「3日もここに缶詰、かお」
 
(´・_ゝ・`)「残念ながら違うんだよ」
 
デミタスが大袈裟に首を左右に振りながら、ギコへと視線を向ける。
ギコは興味なさ気に口を開く。
 
(,,゚Д゚)「32日だ」
 
(;'A`)「は?」
 
意味が理解できないとでも言うようにドクヲが間の抜けた声を発していた。
 
(´・_ゝ・`)「僕らが初めてこの世界に来た日から経過した日数さ 毎日、君達みたいに訪れるプレイヤーが後を絶たなかった が、最近は全くと言っていいほどいなかったんだ つまり」
 
('A`)「つまり?」
 
(´・_ゝ・`)「プレイヤーの人数が最高まで達したと僕は仮定していた 君らが現れた事によって見事に仮定は潰れたけど」



45: 名無しさん :02/26(火) 00:15 SIQ+SInOO

 
( ^ω^)「これからもプレイヤーは増えていくのかお?」
 
(´・_ゝ・`)「そうとも限らない」
 
( ^ω^)「お?」
 
(´・_ゝ・`)「君達が最後だと思うんだ」
 
('A`)「どうしてだ?」
 
ドクヲの問いにデミタスが口の端を吊り上げて笑う。
そして間を少しとり、答えた。
 
(´・_ゝ・`)「大きな砂時計があっただろ? 君達が来る前までは普通に砂が流れていたんだが、二人が現れた瞬間、砂が無くなったんだよ」
 
('A`)「砂時計は何かの役割をしていたんじゃないのか? 例えば人数のカウントとか」
 
(´・_ゝ・`)「そうかもしれない だが僕は見つけたんだと思う」
 
( ^ω^)「見つけた?」
 
(´・_ゝ・`)「僕らを縛るこの世界の求める者をね」
 
突然、緑が途切れる。
砂と岩が広がる開けた場所に出た。
 
緑の壁が薄い茶色の大地を丸く囲っている。
まるで密林がその場所から切り取られたかのようだった。



46: 名無しさん :02/26(火) 00:17 SIQ+SInOO

 
( ^ω^)「町はまだなのかお?」
 
(´・_ゝ・`)「……町に着く前にすることがあってね」
 
('A`)「すること?」
 
(´・_ゝ・`)「あまりお節介は好きじゃないんだがこのゲームは安全じゃない 初心者の君達に基本を学んでもらおうかと思ってね」
 
('A`)「安全じゃないってどういうことだ?」
 
(´・_ゝ・`)「ダンジョンに行けばモンスターがいる ここら辺のPKは……僕らみたいなのが見回りしてるからそこまで危険でもないね ただ……」
 
(;^ω^)「ダンジョンて……」
 
('A`)「そりゃゲームだからあるだろ それより『ただ……』、なんだ?」
 
(´・_ゝ・`)「満月の夜に君達が訪れる町に化け物が現れるんだ 雄叫びと地響きとともに かなりのプレイヤーが殺されてる」
 
('A`)「化け物?」
 
(´・_ゝ・`)「ギコの担当なんだけどなかなか仕留められなくてね 被害が広がる一方なんだ だから僕まで呼ばれたわけさ」
 
('A`)「担当とかよくわからないんだが」
 
(´・_ゝ・`)「まぁそういった話はおいおいしていくとしようかな」
 
('A`)「あぁ」



47: 名無しさん :02/26(火) 00:18 SIQ+SInOO

 
(´・_ゝ・`)「さて、説明書は読んだかい?」
 
(;^ω^)(……説明書? ……わかったお、足りないものが)
 
('A`)「いや……」
 
(;´・_ゝ・`)「読んでないの?」
 
デミタスが呆れたと言わんばかりに口を開いた。
 
('A`)「説明書なんて入ってたのか?」
 
(,,゚Д゚)「……どういうことだ?」
 
ギコが初めて口を開いた。
少し低いが聞いていても苦にならない声だった。
 
('A`)「白い冊子とディスクしか入ってなかったんだ」
 
(´・_ゝ・`)「白い冊子だけ? それは妙だね」
 
デミタスの眉間に皺が寄った。
 
('A`)「へ?」
 
(´・_ゝ・`)「白い冊子はゲームの紹介が、そして黒い冊子があるはずだったんだけど」
 
('A`)「黒い……? あぁ、そういえば」
 
(´・_ゝ・`)「あったの思い出した?」
 
ドクヲが首を横に振る。



48: 名無しさん :02/26(火) 00:19 SIQ+SInOO

 
('A`)「いや、そうじゃないんだ ただ白い冊子に黒い紙が挟まっていたんだ」
 
(´・_ゝ・`)「紙? 何が書いてあったんだい?」
 
('A`)「白い文字で書いてあったと思ったんだが内容を忘れた ブーン、おまえは説明書を読んだか?」
 
(;^ω^)「……」
 
ブーンが自分の足元を見つめている。
無視をしている、というわけではなく気付いてないようだった。
額とこめかみから多量の汗が流れ出していた。
 
('A`)「どうした? 顔色が悪いぞ?」
 
ドクヲがブーンの背を軽く叩き、声をかけた。
ブーンがすぐさま振り返る。
 
(;^ω^)「ドクヲ……実は覚えてないんだお」
 
('A`)「説明書をか? そりゃあ色々ありすぎて混乱して考えられないからな 落ち着い(;^ω^)「違うお!!」
 
ブーンが声を荒げ、叫んだ。
肩を震わせている。



49: 名無しさん :02/26(火) 00:20 SIQ+SInOO

 
(´・_ゝ・`)「とりあえず落ち着いて 一体何を覚えて無いんだ?」
 
デミタスが間に割り込み、質問する。
ブーンは震える手を見ていた。
ギコが何かを考えるかのようにブーンを凝視している。
 
(;^ω^)「全部だお!!」
 
('A`)「全部?」
 
ドクヲが顔をしかめる。
全部と言われてもピンと来ないし、意味がわからないとでも言いたげな様子だった。
 
(;^ω^)「おかしいと思ってたんだお!! 僕はここに来たことしかわからないんだお!! それ以前の僕は何をしていたのかを覚えて……知らない!! わからない!! わからないんだお!! 教えてくれお!! どうしたらいいんだお!!僕はどこの誰だお!! 僕は……僕は……」
 
(;'A`)「落ち着け!!」
 
(;^ω^)「なんでドクヲは落ち着いてられるんだお!! さっきだってすぐに落ち着いて……何か知ってるのかお!?」



50: 名無しさん :02/26(火) 00:20 SIQ+SInOO

 
(;´・_ゝ・`)「ギコ……」
 
(,,゚Д゚)「……」
 
デミタスの肩を軽く叩き、横をギコが無言で通り過ぎる。
そしてブーンの視界からドクヲを見えなくするように、前に立った。
 
(;^ω^)「僕は……僕は……」
 
(,,゚Д゚)「……TEXT」
 
ギコの周りにデミタスの時と同じような文字列が現れた。
ギコが一言、小さく呟くと地面が震え出し、ブーンの背丈程の岩が現れた。
 
(;^ω^)「お……」
 
(,,゚Д゚)「こういう世界だ」
 
ギコがブーンの瞳を真っ直ぐと見つめ、言葉をかけた。
ブーンは黙ったままだった。



51: 名無しさん :02/26(火) 00:22 SIQ+SInOO

 
(,,゚Д゚)「常識が通じないんだ 何が起こっても不思議じゃない 勿論、記憶を失っても」
 
小さい、だが頭にしっかりと響く声だった。
二人の会話が聞こえると鈍いノイズが走る。
 
頭痛がする。
割れるような痛さだ。
 
(;'A`)「……」
 
(,,゚Д゚)「肉体も記憶も無い不安で押し潰されそうなんだろ おまえの気持ちはわかる」
 
(;^ω^)「僕の気持ちなんてわかるわけないお!!」
 
(´・_ゝ・`)「ギコにはわかるよ いや、わかると思う、が正しいのかな」
 
頭痛は誰にも気付かれなかったようだ。
 
('A`)「……?」
 
(;^ω^)「……どういうことだお?」
 
デミタスが突然、口を開いた。



52: 名無しさん :02/26(火) 00:24 SIQ+SInOO

 
(´・_ゝ・`)「ギコは君と同じようにこの世界に来る前の記憶がないんだよ」
 
(;'A`)「……」
 
(;^ω^)「……」
 
沈黙が重い。
ドクヲはおろか、先程まで声を荒げていたブーンまでもが口を閉じていた。
 
(,,゚Д゚)「俺も、おまえも記憶が無い だからといって今、焦っても得られる物は何も無い 記憶も戻ってくるとは限らない」
 
(;^ω^)「……」
 
ギコはブーンの目を見据える。
ブーンも目を逸らさない。
 
(,,゚Д゚)「だが、最初はあったはずなんだ つまり今は深く眠っているだけ いつかきっと元に戻るはずだ」
 
(,,゚Д゚)「記憶を求めるのは先の自分に任せて、今はこの世界に慣れろ そして取り戻すんだ、全てを 俺達はおまえらを手助けする だからおまえらは前に進むんだ」
 
( ;ω;)「……」
 
太陽が傾き始めた。
ブーンの啜り泣く声と風によってざわめく木の葉の音しか聞こえなかった。



53: 名無しさん :02/26(火) 00:25 SIQ+SInOO

 
暗く狭い部屋。
部屋が暗いため、男の外観は朧げだった。
 
( ・∀・)「神を喰らい、憑かせる証はドクヲに渡した 隣人の資格は眠らせたままだ 期待できるね」
 
男の肩幅程の四角い箱。
男はそこに映し出されている四人の男の様子を見ていた。
 
( ・∀・)「デレとの接触で私のゲームと目的が始まる 世界が劇的に動くぞ」
 
男は言い終えると少し、本当に少しだけ間を置く。
そして呟いた。
 
「ハインリッヒ、君は制約された自由を手に入れた だが忘れるな 私との約束を そして時が来たら従ってもらおうか」
 
男の姿が消えた。
四角い箱から音声が流れた。
 
聞く者もいない暗い部屋に響き渡った。
 
『ハインリッヒ【オリジナル 侵食率 40%】』
 
 
 
 
     第二話 終



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