( ><)のStand By Me

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 19:46:55.27 ID:UI3p/N+v0
5. シャンペン・スーパーノヴァ



額の痛みを堪えながら、僕は再び街を歩き始めた。
また違う公園では三時のベルが鳴り、浮浪者はあくびを一つこぼしてゴミ箱を漁る。


ベンチに座り、ポケットの中にあったキャラメルを食べた。
単純な甘さが僕の疲れを癒す。








( ><)「ふぅ… 落ち着いたんです」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 19:51:15.12 ID:UI3p/N+v0

僕の視線は自然と前方へ飛んでいた。

柵の向こうの幼稚園。 その庭にある檻。 その中のニワトリ。

2、3羽のそれが忙しなく羽をばたつかせている。

ああ、いわば僕はニワトリだったのだ。

檻の中で鳴き、暴れ、だが悩むことはせず、茫漠と毎日を過ごしていた。


だけど僕は人間だから、考えて悩むことができた。


今、家を出てここに座って空気を吸って。
反抗、自由、 そんな言葉が頭の中を行き交う。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 19:54:25.41 ID:UI3p/N+v0
( ><)「反抗… 自由… ドクオさんに教えてもらったロックの要素なんです」

( ><)「う〜ん。今の僕ってとってもロック」

( ><)「いやパンクかもしれない」


そういやその二つの違いなども聞いておくべきだった。
などと思いつつ、僕はまた歩き始める。 



口の中にキャラメルは溶けてなくなり、僕は浮浪者に残っていた一粒を恵んでやった。

汚らしい長い髪の毛に、僕は数時間前の思い出を引っ張り出される。

そして思うのは、「こんな大人にはなりたくない」ってこと。



さあ、出発だ。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:00:09.33 ID:UI3p/N+v0


少し進んだ先に、看板を目にした。
見知らぬ街の名前。
これでまた僕は自由に一歩近付けたわけか。 素晴らしいじゃないか。


だが時を同じくして、肉体には疲労がのしかかる。
僕は足かせを付けられたような重たさを感じた。




( ><)「そういや、いっぱい走ったんです…」

( ><)「元々、僕は走るのだいきらいなんです!」

( ><)「はあ、疲れた………」




太陽の光も、剣となって僕の体を刺しているようで、
僕は夏という季節を恨めしく思うのだった。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:03:15.04 ID:UI3p/N+v0
時間は穏やかに過ぎる。 
僕は空を舞うトンボの群を眺めながら先を進む。
だけど、暑さに蒸されて喉はいつでも渇いていた。


コンビニで買ったミネラルウォーターは、ものの数分で空に。

それに公園で水を詰めて、また歩き出す。

次の公園に辿りつく頃には、またペットボトルはカラ。

まったく、公園の多い街だ。 でもそれが救いだ。

いやまてよ。




( ><)「同じところをグルグル周っているだけなんです!」





それに気付いたのは、空にオレンジが染み出した時間帯。
僕は7つ目の公園 (実際は1つ目の公園だったってわけ) の草原に崩れ落ちた。


ドミノのように、ぱたん、と。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:07:41.28 ID:UI3p/N+v0

――――
――――――――




暗闇が広がる。 頭はボヤボヤとする。 意識はなんとか戻った。
あとは瞳をこじあけるだけ。 そう思って薄目を開いた。 また別の暗闇。
これは夜闇だ。 そして何かが覆いかぶさる感覚。
………ダンボール?







( ><)「…ねちゃってたんです」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:11:46.06 ID:UI3p/N+v0
その瞬間
僕の視界に、スライドのように差し込まれてきた人の顔。
セイウチみたいな、むくんでて、だらしのない顔。




/ ,' 3  「…」




(;><)「わ、ワーッ!!! ぎゃぁあああーーー!!!!!!!」





/ ,' 3 「そんな驚かなくてもいいべ」

/ ,' 3 「おらは荒巻ってんだ」

/ ,' 3 「よろすくよろすく」



年齢は僕の父より一回り上だろうか? いや、ドワーフに似てるから100歳を超えているかも。
そんな姿格好のホームレスが目の前にいた。腕時計は8の数字を指していた。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:15:43.47 ID:UI3p/N+v0
( ><)「ぼ… ぼくの名前はビロードです」

/ ,' 3 「ああビロード君っていうんか。よろすくよろすく」


荒巻は手を差し出した。 その掌は、”土色”という表現がぴったりで
僕はとても握手に応じる気にはなれなかった。



/ ,' 3 「あんたよ、そこでくたばってたからよ、カゼひかないようにってダンボールかけといてやったの」

/ ,' 3 「感謝して、だはははははwwww」

( ><)「あ、ありがとうございましたなんです……」

/ ,' 3 「いいってこといいってことwww」

大口を開けて笑う荒巻さん。歯は黄ばんで、所々が欠けている。


/ ,' 3 「んじゃ、俺の仲間紹介すっから、いくべ、いくべ!」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:19:49.15 ID:UI3p/N+v0
(;><)「え? それは…」

/ ,' 3 「いいから! 早くいくべ!」


荒巻さんが強引に僕の手首をつかんだ。
その力は予想以上に強く、僕はそれを振り解けなかった。
それに、寝起きだったから思考力や判断力が弱まってたってのもある。
僕は言われるがままに、”仲間達”のところへ連れて行かれた。


仲間達は、闇に紛れた小さなテントの中にいるようだ。




/ ,' 3 「おーい。お客さんだどー」


「よお! おちびちゃんだな!」

「家出少年かーい?」

「酒たりねぇぞ!!!!!」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:22:18.55 ID:UI3p/N+v0
テントの中は酷い臭いがした。 
酒の匂いと、浮浪者たちの身体の臭いが混ざり合ったような。
僕はすぐさま鼻っつらを曲げられる。


/ ,' 3 「まあ、ここ座れって〜」

/ ,' 3 「おら、酒」



荒巻さんは僕にカップの酒を差し出した。
透明のそれが、テントの灯りに照らされてきらっと光る。




(;><)「ぼく、まだちゅーがくせい…」


「かたいこというなってーwwww」


(;><)「うう」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:24:02.08 ID:UI3p/N+v0
カーチャンの顔とワカッテマス君の言葉が、交互に脳裏によぎる。

J('ー`)し「ビロード、悪いことしないで、勉強して、いい大学はいって、お母さんを楽させてね?」
J('ー`)し「ビロード、悪いことしないで、勉強して、いい大学はいって、お母さんを楽させてね?」
J('ー`)し「ビロード、悪いことしないで、勉強して、いい大学はいって、お母さんを楽させてね?」
J('ー`)し「ビロード、悪いことしないで、勉強して、いい大学はいって、お母さんを楽させてね?」
( <●><●>) 「大人になればお酒もたばこもできます」
( <●><●>) 「大人になればお酒もたばこもできます」
( <●><●>) 「大人になればお酒もたばこもできます」
( <●><●>) 「大人になればお酒もたばこもできます」

それをさらに遮って浮浪者たちの騒ぎ声。

「飲め〜や さわげ エンヤコ〜ラwww」

「明日はいい日だ なんとなく〜♪」

「晴れるといいな はれるといーいーなー♪」


/ ,' 3 「ほれ、飲めやwwwwwww」




あーもうなんだかよくわからーーん。



( ><)「飲んじゃえ!」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:26:48.30 ID:UI3p/N+v0
苦くて、まずくて、それでも僕の喉を潤す不思議な液体。

僕はとうとう差し出されたお酒を飲み干してしまった。

ああ、この感覚。 ジョルジュ君ちでAVを観たときと似ている。


( ><)「…ぷはぁ」



「おお! いいぜにいちゃん! いい飲みっぷりだ!」

「もう一杯! もう一杯!」

/ ,' 3 「うひゃひゃwwww どうだ、うまいだろwwww」



( ><)「まずいんです〜」

( ><)「…ひっく」

( ><)「…でも、おいちい」


/ ,' 3 「どっちだよwwww ぎゃはははwww 飲むべ 飲むべ オラたちの出会いに乾杯wwww」

( ><)「かんぱいwwwww」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:31:52.15 ID:UI3p/N+v0
次から次へと僕はお酒を体に流し込んだ。
なんでこいつら、浮浪者のくせにそんなにお酒持っているんだ。


僕の気分はだんだん良くなってきて、
頭の中では、お花畑の中でクジラがピンクの潮を吹いてその上で蒼井そらがストリップショーやってた。



(*><)「ほはひほへへ〜」

/ ,' 3 「出来上がっちゃったなあ兄ちゃん」

(*><)「センコーーが!!なんだ!!! かーちゃんが!! なんだ!!!」

(*><)「じゆうをーーーこの手に!!! けんぽうかいせーーい!!!」

「「「ひゅーひゅーww いいぞ兄ちゃんwwww」」」


(*><)「いぇー! アイアム ロックンロール!!!! ひゃっほう!!!!」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:34:12.13 ID:UI3p/N+v0

「にーちゃーんwww」


僕の弁舌に合わせて、浮浪者は実に分かりやすく盛り上がってくれる。
だが、どうやら燃料切れだ。


(*><)「僕だってー!! 女の子とー!」


(*><)「おまん……」



ばたむ


(   )「……」






/ ,' 3  にやり



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:38:52.76 ID:UI3p/N+v0
「寝た? 寝ちゃった?」

「ああ、完璧にぶっ倒れてるわ」

「まだ中学生なんだろー? アルコールなんたらで死んだらどうすんの」

「別によくねwww」 「そうだなwww」



/ ,' 3 「オラの見解だと、こういう類のぼうずは結構金を持ってるもんよ」

/ ,' 3 「着てる服もなんとなく小奇麗だしな」

/ ,' 3 「ズボンのポケットは公園でチェックしたけど、何も入ってなかった」



「つまり、この大事に抱きかかえてるリュックだな」

/ ,' 3 「んだ。これだけ泥酔してりゃ簡単に…」


するり


/ ,' 3 「ほうら、手を離してくれた」

(   )「ふがー……」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:41:30.78 ID:UI3p/N+v0


「どうする?」


/ ,' 3 「リュックごと頂くべ。 何か食べ物入ってるかもしれん」

/ ,' 3 「よし、田中、佐藤、ぼうずを捨ててこい」

「あーい」

/ ,' 3 「わりーなボウズ」

/ ,' 3 「かっこいいことを言わせてもらうとすれば」

/ ,' 3 「生きるためだ」







―――――
―――――――



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 20:48:56.27 ID:UI3p/N+v0



「であるからしてぇー」


( ゚∀゚)「今日の講習も来ねえなビロード」

( <●><●>) 「ちょっとおかしいですね」

( ゚∀゚)「空が綺麗だからー とか ちょうちょ追いかけてたー とか」

( ゚∀゚)「そんなわけわからん理由で学校に遅れたりすることはしょっちゅうだけどさー」

( ゚∀゚)「まさか世界の果てまでちょうちょを追いかけることはしないよなww」

( <●><●>) 「いや、ありえないとも言い切れません」

(;゚∀゚)「ゲッ」



ビロードは蝶を追いかけていた。 という見解はあながち間違ってはいない。
目的もない旅の果てに、何かしらの輝きを求めていたのは確か。


しかし、今ビロードの目の前にあるのは、闇。

その日も、昼間から猛暑が続いていた。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 21:13:36.05 ID:UI3p/N+v0



( ><)「…うっぷ」



目覚めた僕を襲ったのは、眩暈、吐き気。 そして、一際強い日差し。
弱った身体が横たわるのは、冷ややかで硬い石畳。


僕は、公園から少し外れた歩道で目を覚ました。
人通りが極端に少なく、ここで眠っていたのは幸か不幸か。





ここで僕はとあることに気付く。





違和感。


リュックがない。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 21:14:39.90 ID:UI3p/N+v0
( ><)「あ、あれ!? なんで、どうして!?」


僕は急いで公園へと駆けた。 そして、昨夜、手を引っ張られて歩いた道を辿る。
開けた場所へ出る。 しかし、そこにあのテントはない。

闇に紛れていたテントは、光でその姿を消してしまったのか。


同じく浮浪者たちの姿も見えない。 あんなに大勢いたのに…





( ><)「あ、これは…」




僕は焼き鳥の串を見つけた。
荒巻さんが、いや、荒巻が食べてた焼き鳥。 

その先に、お酒のカップ。


僕はお菓子の家から森へ抜ける誰かのように、
道端に落ちていたゴミを辿っていく。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/19(土) 21:16:31.02 ID:UI3p/N+v0
少し歩き、植えられた植物を乗り越え、その先に見つけたもの。

……お気に入りの青いリュック。


遠目で見てもそれは分かる。さらに分かるのは、中身は全て盗まれたということ。
僕は生まれて初めて膝を地に落とした。 



( ><)「ちくしょう! あ、あいつら……」

( ><)「う、うぷっ…」







そしてそのあと、ゲロを盛大にアスファルトにぶちまけた。








5. おしまい



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