('A`)ドクオが夢を紡ぐようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 22:56:55.57 ID:YsRfoWnQ0
僕はその遺書を、本当に幸福な気持ちで書き上げた。
小さいころから字は下手糞だったけれど、どうにかして人が、出来ればあの人が読めるように、精一杯丁寧に書いたつもりだ。

この遺書は僕の最初で最後の、ラブレターになるのだから。


('A`)「なんだ。お前さんまた来たのか」

そこは、純日本風の豪奢な屋敷の中庭だった。

( ^ω^)「ドクオかお。という事はブーンはいつの間にか…眠っていたのかお」

('A`)「ああ、そうみたいだな」



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 22:57:33.50 ID:YsRfoWnQ0

膝に穴の開いたジーンズ、草臥れた安物のスニーカー、薄汚れた無地のパーカー。
まるでこの優美な屋敷に似つかわしくない格好のドクオが僕を見下ろしている。
そう。彼は僕を見下ろしている。
何故なら彼は大人で、僕はほんの小さな子どもだからだ。

('A`)「ほら、あそこに居るぞ」

左右非対称に美しく彩られた景色。小さな池に沈みゆく太陽が浮かぶ。
そしてその池に映った太陽をじっと見つめる人影があった。

ξ゚听)ξ「…つまんない」



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 22:58:08.98 ID:YsRfoWnQ0

( ^ω^)「ツン!」

僕は彼女に駆け寄った。
彼女のワンピーズの描くなだらかな曲線が地球と交わっている。
僕も彼女の隣に跪く様に屈み込む。

ξ゚听)ξ「あら、ブーン。遅かったじゃない。ほら、もう日が暮れちゃうわよ」

そのあどけない少女は、その幼い声に似合わない大人めいた口調でそう言った。

( ^ω^)「ごめんだおツン。今日は何して遊ぶお?」

ξ゚听)ξ「夕日を見に行きましょう」

( ^ω^)「夕日なら今見ているお?」



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 22:58:39.60 ID:YsRfoWnQ0

ξ゚听)ξ「違うわ。あの夕日はうちの塀に沈んでいくもの。つまんないの。もっとちゃんとした夕日を見に行くのよ」

( ^ω^)「ちゃんとした夕日?」

僕はツンのその言い回しがおかしくて思わず吹き出した。お姫様のご所望は、うちの塀に沈まないちゃんとした夕日。
その時、屋敷の中から彼女を呼ぶ声が聞こえた。

「お嬢様ーお嬢様ーお夕飯の時間ですよー!いらっしゃって下さいお嬢様ー」

彼女はその声に迷惑そうに振り返る。だがしかしすぐ関心は池に沈む夕日に移ったようだった。

( ^ω^)「ご飯の時間だお。ツン」

ξ゚听)ξ「お腹空いてない…」

( ^ω^)「駄目だお。ちゃんと食べるんだお。ほら、ブーンと一緒にお屋敷に戻るんだお」

ξ゚听)ξ「駄目よ。ブーンは私と一緒に行くのよ?」

( ^ω^)「え?どこにだお?」

ξ゚听)ξ「夕日を見に」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:00:33.08 ID:YsRfoWnQ0



次の瞬間。
そこは砂浜だった。


ξ゚听)ξ「ほら、あれがちゃんとした夕日よ。ブーン」

彼女の指の示す先には、美しい夕日が水平線に吸い込まれるように隠れようとしていた。

( ^ω^)「でも、ご飯はどうするんだお?ツン」

ξ゚听)ξ「ご飯はもういらないの」

( ^ω^)「駄目だおツン。食べなきゃ大きくなれないお」

ξ゚听)ξ「大丈夫よ。私はもう大人だもの」

( ^ω^)「え?」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:01:18.39 ID:YsRfoWnQ0

確かに彼女は大人だった。そのロングスカートはもう、あのなだらかな曲線をそう易々と許さないだろうし、すらりと伸びた白い腕はきっと、あの池に浮かんだ夕日を容易く掬い上げられるのだろう。
そして僕も、もう大人だ。

ξ゚听)ξ「ねぇ、あの太陽。どこに行くの?」

( ^ω^)「多分、地球の裏側に、朝を告げに行くんだお」

ξ゚听)ξ「ふぅん。忙しいんだ」

( ^ω^)「有益であることは、忙しいことだお」

ξ゚听)ξ「有益でないのに忙しい人は?」

( ^ω^)「忙しくないと息が出来ない人なんだお」

ξ゚听)ξ「お父様みたいに?」

( ^ω^)「ツンのお父さんは、社会のために頑張ってるんだお」

ξ゚听)ξ「嘘よ」

( ^ω^)「…嘘かもしれないお。でも、本当かもしれないお」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:02:11.20 ID:YsRfoWnQ0

ξ゚听)ξ「ねぇ、私綺麗?」

( ^ω^)「綺麗だお」

ξ゚听)ξ「良かった。これならお嫁に行けるかしら」

( ^ω^)「ツンなら誰だってお嫁に欲しがるはずだお」

ξ゚听)ξ「夕日も?」

( ^ω^)「夕日は無理かもしれないお」

ξ゚听)ξ「どうして?」

( ^ω^)「日本の太陽は女性だお」

ξ゚听)ξ「そう…。残念ね」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:04:33.56 ID:YsRfoWnQ0

( ^ω^)「大丈夫。太陽のお嫁さんにならなくても、ツンを幸せにしてくれる人が現れるお」

ξ゚听)ξ「私は、誰かを幸せにしたいのに?」

( ^ω^)「え?」


次の瞬間。
そこは教会の扉の前だった。


ξ゚ー゚)ξ「ほら、ブーン。一緒にバージンロードを歩いてくれるって言う約束でしょう?」

純白のウェディングドレスに身を包んだツンがいた。

ξ゚听)ξ「ねぇ、ブーン。どうしてウェディングドレスが白いか知っている?」

( ^ω^)「それはもちろん、清純を表すために…」

ξ゚听)ξ「清純とは白痴の事かしら?」

( ^ω^)「え?」

ξ゚听)ξ「どうして死装束の色を容易く受け入れたのかしら?」

( ^ω^)「ツン?」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:06:15.74 ID:YsRfoWnQ0

ξ゚ー゚)ξ「行きましょうブーン」

ツンが僕の腕を取る。彼女のしなやかな指が僕の腕に絡みついている。
どこかから音楽が流れ出した。僕はこのメロディを確かに知っている。

( ^ω^)「モーツァルトが、最後に作った曲だお…」

ξ゚听)ξ「いったいこの曲の何小説までがモーツァルトの作品だったかしらね」

( ^ω^)「8小節だお」

ξ゚听)ξ「そうね。きっとそれくらいで充分なのね」

( ^ω^)「何がだお?」

ξ゚听)ξ「死を悼む時間。ねぇ、ブーンは私が死んだら、8小節泣いてくれるかしら?」

( ^ω^)「ツン、ツンが死んだら僕は…」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:06:48.51 ID:YsRfoWnQ0

扉が開く。僕らはゆっくりと赤い道を歩き出した。

( ^ω^)「…ツン。綺麗だお」

ξ゚听)ξ「ありがとうブーン」

( ^ω^)「それじゃあ、さよならだおツン」

もうバージンロードは終わりに近い。黒人の神父の前には彼女の夫が待っている。

( ^ω^)(ほら、太陽のお嫁さんになることなんかなかったんだお)

ξ゚听)ξ「ありがとうブーン。おやすみなさい」


次の瞬間。
そこは僕の部屋だった。


( ・∀・)「はい、内藤さんおはようございます。お邪魔してますよー。さくっと時間切れですけど用意出来ました?329万と4500円」

( ^ω^)「4500円ならどうにか…。って冷たいですお。何ですかそのバケツは。ああ、水、ぶっかけたんですかお」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:09:48.05 ID:YsRfoWnQ0

( ・∀・)「それはすげぇ惜しいですね。329万用意してくれたら4500円はサービスして差し上げましたのに」

( ^ω^)「それを早く言ってくださいお。だったらこの4500円で買いたいものがありましたお」

( ・∀・)「あ、それなら買ってもいいですよ。ただ、内藤さん死んでもらわなきゃいけなくなりましたけど。現世は運が悪かったと思って諦めて下さい。来世は借金なんかせずに頑張って下さいね。わたくし心の底から応援する所存です」

( ^ω^)「わかってますお。切手を買っていいですかお」

( ・∀・)「切手集めですか。そんな趣味をお持ちで」

( ^ω^)「僕はどこの昭和ボーイですかお。手紙を送りたいんですお」

( ・∀・)「何!?天涯孤独じゃなかったんですか!?ご両親がご健在なら是非とも金の無心に行かれては如何でしょう。なぁに、魅惑の年金生活。老後の貯蓄とコツコツためた通帳に息子の命一人分くらいは堅いでしょう」

( ^ω^)「残念ながら、天涯孤独ですお。初恋の相手に送りたいんですお」

( ・∀・)「なぁんだ。最後に甘酸っぱい青春に浸りたいわけですね。わたくしその手の美談が大嫌いなんですが、どうしてもと言うのなら許してあげなくもないですよ」

( ^ω^)「ありがとうございますお。それじゃあ、切手を買ってついでに手紙を出して来ますからちょっと待ってて下さいお」

( ・∀・)「はい。いってらっしゃいませ」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:11:18.27 ID:YsRfoWnQ0

( ^ω^)「もう水道もガスも止まってるからお茶も出せませんが適当にくつろいでて下さいお」

( ・∀・)「はい。ごゆっくりーなんて言うと思いましたかボケがっ!!!逃げる気なら無駄ですよ。わたくし、もうはりきって首吊りロープまで用意させて頂きましたから。大変なんですよ。天井からぶら下げるの。
と言うか梁探すために天井ちょっと剥がしちゃいましたけどいいですよね?どうせボロアパートなんですし。」

(;^ω^)「あ、ほんとだ。家の中でこんな大工事されてよく僕起きなかったもんですお」

( ・∀・)「ええ、そりゃもう親の敵のようによく眠っていらっしゃいましたよ」

( ^ω^)「例えがおかしいですお。親の敵は別によく眠るキャラ設定されてませんお」

( ・∀・)「いえいえ。親の敵には積極的に永眠して欲しいと言うわたくしの願いで御座います」

( ^ω^)「そうですかお。ところで切手、買いに行ってもいいですかお?」

( ・∀・)「うーんそうだなぁ。わたくしがついて行けば別に問題はないんですが面倒くさいので駄目です」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:12:58.39 ID:YsRfoWnQ0

(;^ω^)「困りましたお…。それならこの手紙と4500円を渡しますんで、僕の代わりに切手を貼って投函してくれないですかお」

( ・∀・)「あー。超面倒くさいじゃないですかそれ」

(;^ω^)「明日の死人の頼みなんですお。よろしくお願いしますお」

( ・∀・)「えー」

(;^ω^)「そこをどうにか」

( ・∀・)「見返りは?4500円の釣り如きじゃ足りませんよ」

(;^ω^)「いや、もう死ぬんで…。ガチで逆さに振っても何も出てきませんお」

( ・∀・)「そうだなぁ…。それならいい加減教えてくれませんか?それで妥協しましょう」

( ^ω^)「お?何をですお?」

( ・∀・)「とぼけないで下さい。借金の理由ですよ。ギャンブルで身を崩したわけでなし。女に入れ込んだわけでなし。元々借金があったわけでなし。働く意欲がなかったわけでなし」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:13:37.75 ID:YsRfoWnQ0

( ^ω^)「いや…。それが僕も説明出来ないですお…」

( ・∀・)「は?金が必要になった理由ですよ。切羽詰ったから闇金になんか手を出したんでしょう?」

( ^ω^)「うーん…。本当にわからないんですお。気がついたら借金取りさんが家に来てたんですお」

( ・∀・)「それはおかしいなぁ。連帯保証人にでもなりました?それとも免許証とか保険証とか誰かに貸しちゃいました?」

( ^ω^)「ああ、そう言えば職場の先輩が保険に入ってないって泣きついてきたから保険証貸したことありましたお。そういえば返してもらってないお…。と言うかそれ以来先輩見てないですお」

( ・∀・)「うわぁ。馬鹿もいいところですねぇ。あんたの人生それでいいんですか」

( ^ω^)「…まぁいいですお。僕のような人でなしが人を恨んでも仕方なし。甘んじて死にますお」

( ・∀・)「そこまで潔いと逆に気持ち悪いですね。もっと執着とかないもんですか?生きてて楽しいことなかったんですか?」

( ^ω^)「楽しいことですかお…」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:15:43.86 ID:YsRfoWnQ0

( ・∀・)「女を抱くとかうまいもん食うとか人を殴るとか。何かあるでしょう?」

( ^ω^)「うーん…。夕日は綺麗ですお」

( ・∀・)「は?」

( ^ω^)「お嫌いですかお?夕日」

( ・∀・)「好きでも嫌いでもないですが」

( ^ω^)「うん。僕も別に好きってわけじゃないんですが、夕日は綺麗ですお」

( ・∀・)「はぁ夕日ねぇ…。あんたは20数年生きてて死ぬ前に思うことが夕日しかないんですか?馬鹿ですか?どんな人生送られたんですか?」

( ^ω^)「どんな人生って…特に何もありませんでしたお。普通ですお」

( ・∀・)「ふぅん。特に何もありませんでした、とは、随分な言い草ですね」

(;^ω^)「そ、そうですかお?」

( ・∀・)「それじゃあ、閻魔様に仰られると良いでしょう。僕の人生は特に何もありませんでした。と」

( ^ω^)「ではそうしますお」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:16:34.35 ID:YsRfoWnQ0

( ・∀・)「さぁ、それじゃあ、そろそろ死んでいただけますか?」

( ^ω^)「手紙は、出していただけますかお?」

( ・∀・)「わたくしの気が奇跡的に向いたら出してあげない事もないですよ」

( ^ω^)「ありがとうございますお。ああ、そう言えば保険金は首吊りでもおりるものなんですかお?」

( ・∀・)「ご心配なく。もちろん首吊りじゃ保険金はおりませんが死亡診断書を書くのはうちの息のかかった医者なので」

( ^ω^)「はぁ…。世の中うまく出来ているもんですお」

( ・∀・)「ええ。存外この世界は助け合いで成り立っているものですよ。あなたも今まで隣人に殺されたことないでしょう?」

( ^ω^)「そう言えば隣人に殺されたことはないですお。でも、保険証は返って来ないですお」

( ・∀・)「それは、あなたが隣人を助けすぎた故です。キリストだって銀30枚で裏切られたのですから」

( ^ω^)「僕は329万と4500円で売られたんですかお」

( ・∀・)「いえ。129万と4500円は利息ですから200万で売られたんですね」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:17:19.13 ID:YsRfoWnQ0

( ^ω^)「200万あれば何が出来ますお?」

( ・∀・)「そうですね。私が200万を手に入れたら貯金しますね」

( ^ω^)「貯金してどうしますお?」

( ・∀・)「そうすると就寝前のビールが不思議と美味しくなるんですよ。ええ。本当。わたくしもそれだけが人生の快楽かもしれません
女を抱いたって結局、女のために死のうとは思えませんから駄目ですね。わたくし、実を言うと女のために死ぬのが夢だったんですよ」

( ^ω^)「それは熱い夢ですお」

( ・∀・)「女のために若いうちに格好よく死ぬのが夢だったんです。それが気がついたらこんな年ですよ。まぁ、会社じゃ充分若い衆のうちですがね」

( ^ω^)「今は恋人は?」

( ・∀・)「さぁ?もしかしたら恋人だと思っている女もいるかもしれません。いやまぁ、女は好きですがね」

( ^ω^)「僕はいますお…。死んでもいいと思った女性…」

( ・∀・)「おや。振られましたか?」

( ^ω^)「いえ…。身分違いも甚だしいから僕から離れた、いえ、逃げたんですお。実際、彼女からすれば、僕はただの使用人に過ぎなかったのでしょうし」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:18:29.48 ID:YsRfoWnQ0

( ・∀・)「ははぁ。なるほど。随分と明治な恋をなさったんですねぇ」

( ^ω^)「確かに彼女の事は様付けで呼んでましたお。ああ、本当に懐かしいですお」

( ・∀・)「ええ。では彼女の笑顔でも思い出しながら逝かれて下さい」

( ^ω^)「それは彼女が可哀想ですお」

( ・∀・)「その発想は本当に明治ですね。それにしても特に何もない、なんて嘘じゃないですか。閻魔様に舌を抜かれて下さい」

( ^ω^)「そうしますお」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:19:22.55 ID:YsRfoWnQ0

そうして僕は吊るされたロープの下に設置された椅子に足をかけた。
借金取りの男は首をかける前に椅子が倒れないようにとそっと支えてくれた。

( ^ω^)「お。すみませんお」

( ・∀・)「いえいえ。これも仕事ですから。それではおやすみなさい」

( ^ω^)「おやすみなさいですお」

さぞや息が詰まって苦しいだろうなと思ったのだが、
僕が感じたのは首を無理やり引っこ抜くような激痛だった。



('A`)「よう」

( ^ω^)「お?ドクオ?これは、死後の世界だお?」

('A`)「まさか。これはお前が最後に見てる夢だよ。望んだんだろう?」

( ^ω^)「ドクオは何でもお見通しだお」

('A`)「好きな夢を見せるのが俺の仕事だからな。ほら、あそこだ」

ドクオの示した襖を開けるとそこには勉強をしながら眠ってしまったのだろう。
浴衣姿で文机に頭を預けるツンの姿があった。

( ^ω^)「ツン、ほら、風邪を引くお…」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:20:18.61 ID:YsRfoWnQ0

僕は彼女に何か羽織らせるものがないだろうかと思案しながら近づく。

ξ--)ξ「ん…」

( ^ω^)「ツン…」

その時、僕は見てはいけないものを見た。
いや、人によってはそれは少年の甘酸っぱい思い出なのだと笑うのかもしれない。
だがしかしそれは僕には許されざる領域だった。
よく、覚えている。
この瞬間を、僕はよく覚えている。

( ^ω^)「………」

だらしなく着崩された胸元からちらりと覗いた少女の桃色の乳首。
腰から尻にかけての女を感じさせるその優美な曲線。

(;^ω^)「お…」

その時、彼女の目が確かに開いた。

ξ゚听)ξ「触ってもいいのよ?」

( ゚ω゚)「ふぉ!?」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:22:22.60 ID:YsRfoWnQ0

ξ゚听)ξ「ほら、ずっとこうしたかったんでしょう?」

ツンが手を伸ばす。
細い指。細い腕。袖の間から見えるワキ。

( ゚ω゚)「ツン様!?何をするんですかお!?」

ツンの手のひらが僕の頬をやさしくなでる。

ξ゚听)ξ「ここではツンって呼んでいいって言ったじゃない」

( ゚ω゚)「違う!僕はこんな事は…」

ξ゚听)ξ「ほら、見て。触りなさいよブーン」

彼女は自ら浴衣の胸元をはだけさせる。小さいながらも確かに存在を主張をする二つの乳房とその頂点。
肌はじっとりと汗ばんでいて、胸の間を水滴が伝う。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:23:20.26 ID:YsRfoWnQ0

( ゚ω゚)「違う!違う!僕はこんなことは…!」

ξ゚听)ξ「ブーン…っ!」

( ゚ω゚)「僕はこんな風に夢の中であなたを汚したいわけじゃないお!!!!」


次の瞬間。そこは電車のホームだった。
ツンは生活観の感じられないワンピースを着て僕の方をじっと見ている。
僕は自分が電車に乗っていたのを思い出し、慌てて野暮ったいバックパックを背負いなおして彼女の元へ戻る。


( ^ω^)「ツン…」

ξ゚听)ξ「馬鹿っ!うちをやめるってどういう事なのよ!!!」

( ^ω^)「ごめんなさいですお。実は僕には夢があって…」

ξ゚听)ξ「はぁ?夢?何よそれ初耳よ!言ってみなさいなんだって言うのよ!!」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:24:42.28 ID:YsRfoWnQ0

( ^ω^)「えっと…。詩人…?」

ξ゚听)ξ「国語の成績2だったじゃない!!!」

( ^ω^)「ツン…」

ξ゚听)ξ「いい!命令するわよ!使用人!」

(;^ω^)「や、旦那様には許可を貰いましたお。もう使用人じゃない…」

ξ゚听)ξ「私が許可しないって言ってんのよ!この馬鹿!!」

(;^ω^)「す、すみませんお…ツン様」

ξ゚听)ξ「様付けしないで!」

(;^ω^)「ご、ごめんなさい。ツン」

ξ゚听)ξ「どこにも行かないで!!!」

(;^ω^)「ツン…?」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:25:19.69 ID:YsRfoWnQ0

ξ゚听)ξ「お願い。どこにも行かないで。都会になんか出ないで。隣に居て。ずっと居て」

彼女が僕を見上げる。その綺麗な目に清らかな涙を湛えて。

( ;ω;)「お…」

( ;ω;)「ごめ…さぃ…ごめ…なさい…ごめんなさい…」


ああ、彼女が可哀想だ。
僕の夢の中で、こうやって僕の妄想に好き勝手蹂躙される彼女が不憫でならない。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
あなたの事が好きでした。抱きしめて、犯して、めちゃくちゃにしたいくらい好きでした。
だから逃げました。僕があなたにとって無害でなくなる前にあなたから離れたかったんです。

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
夢の中でツンと呼ばせてくれてありがとうございましたお嬢様。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:27:36.82 ID:YsRfoWnQ0

( ;ω;)「お慕い申しておりますお。お嬢様…」

ξ゚ー゚)ξ「私もよ。ブーン」

ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
だからどうかそれ以上言わないで下さい。

( ;ω;)「僕は、幸せです。僕の人生には、お嬢様がおりました…」

ああ、どうか。
だからどうか。
あなたにこれからも、
ちゃんとした夕日が沈みますように。




( ・∀・)「お。死んだな。」

( ・∀・)「はい。もしもし?うん。モララーっす。はい。予定通り。だから車ごと寄越して下さい病院運びますんで。あ、下にブルーシートひいたんでそれは大丈夫っすよ。ああ、はいはい…。では、はい、それじゃ」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:28:30.26 ID:YsRfoWnQ0

( ・∀・)「…。あ、手紙。」

ガサガサ

( ・∀・)「なんだ。つまんね」

ビリビリビリビリビリビリ

( ・∀・)「ははっ紙吹雪!綺麗じゃねーか!」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:29:04.49 ID:YsRfoWnQ0

今生きてあなたにこうやって手紙を書けることを嬉しく思う。
書ききれない事のほうが多いけれど、どうか読んで欲しい。
何らかの形で、あなたに伝えなければと思ったんだ。
離れている僕に出来る事はきっとこれだけしかないのだから。
となりに居た頃には思わなかった事。言えなかった事。
貫く事の出来なかった立場。守れなかった約束。
見てる事しか出来なくて、後悔ばかりだったあなたの手。
エゴで振り回して無駄にさせたあなたの人生のいくらかを今更、
埋める事が出来ないのはわかっているのだけど
こんな僕でも想う事だけは、夢の中で一緒に夕日を眺める事だけは、許して欲しい。

不幸を感じていないだろうか。あなたは今笑っているだろうか。
話せなくなった今、そんな事ばかり考えている。
僕に出会ってくれて、ありがとう。本当にそれだけが、僕の救い。




ξ゚听)ξ「何…これ…?」

('A`)「ラブレター」

ξ゚听)ξ「まさか…ブーンに何かあったの!?」

('A`)「言えない」



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:30:51.24 ID:YsRfoWnQ0

ξ゚听)ξ「何、これ、夢よね?ただの」

('A`)「それも言えない。あと君はもう彼の夢を見ない」

ξ゚听)ξ「え!?どういう事!?あなたは好きな夢を見させてくれるんじゃないの?」

('A`)「俺の夢を紡ぐ条件はどこかで誰か二人以上が同じ夢を望むこと。その条件が壊れたからもう、君は彼の夢を見られない」

ξ゚听)ξ「それって…」

('A`)「おやすみお嬢様。彼はもう君の夢を望まない」

ξ゚听)ξ「じゃあ、今の彼の居場所を教えて!あなたなら知ってるんでしょう!?」

('A`)「知らないし知ってても言わない」



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:31:22.83 ID:YsRfoWnQ0

ξ゚听)ξ「ちょっと!!!」

('A`)「それじゃあ」





ξ゚听)ξ「ブーン…。だって、約束したじゃない。私が死んだら、泣いてくれるって…」





ドクオは紡いだ夢を閉じると溜息を吐いた。

('A`)「…馬鹿ばっかり」

そして遮光カーテンの隙間から夕日の光を確認すると万年床から冷蔵庫にずるずると這って行った。
今日は飲みたい気分だった。



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/14(月) 23:32:26.90 ID:YsRfoWnQ0
('A`)ドクオが夢を紡ぐようです 第一話 了



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