('A`)ドクオが夢を紡ぐようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:42:28.46 ID:8RweYhlS0

「じゃあ、5おく100まんの星をどうするの?」
「5おく162まん2731。ちゃんとしてるんだ、わたしは。こまかいんだ。」
「それで、星をどうするの?」
「どうするかって?」
「うん。」
「なにも。じぶんのものにする。」

                   『あのときの王子くん』より


僕の部屋には至高のスタッカートが響いていた。
深緑の海をところ狭しと踊る白い数式。
試しに声に出してそれを読み上げてみると
それはまるで美しい童話を読む時のように
甘く空気を揺らした。

ζ(゚ー゚*ζ「うわ、すごーい!」

(-_-)「え?」

振り返ると真新しいセーラー服をまとった幼馴染が
興味深げにこちらを覗き込んでいる。
いつの間に部屋に入ってきたのか、
新しい玩具に夢中で全く気が付かなかった。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:43:50.60 ID:8RweYhlS0

ζ(゚ー゚*ζ「ね?ね?どうしたのこの黒板?
      なんで部屋に黒板があるの?」

(-_-)「買って貰った…。高校の入学祝い」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなんだ。黒板なんか売ってるんだねー」

(-_-)「欲しい人がいるんだから、
    売ってくれる人だっているよ」

ζ(゚ー゚*ζ「えー。学校しか買えないんじゃないの?
      どうやって買ったの?」

(-_-)「お金で」

ζ(゚、゚*ζ「むぅ…」

幼馴染は口をとがらせて恨めしげに僕を見る。

(;-_-)「な、何だよ…」

ζ(゚、゚*ζ「デレはね。黒板が夢やおはじきで買えると思ってるほど、
      子どもじゃないんですよ?」



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:45:02.60 ID:8RweYhlS0

(-_-)「でも江戸末期にはおはじきが貨幣代わりに流通してた事もあったから、
    もしかしたら買えたかもしれないね」

ζ(゚ー゚*ζ「え!?何それ!」

(-_-)「当時はガラスの事をギヤマンって呼んでてね。希少品だったから、
    銀不足とも重なってお金として使ってた事もあったみたい」

ζ(゚ー゚*ζ「ほんとー!?じゃあ、おはじき持って江戸末期行ったら、
      デレはお金持ちかな?」

(-_-)「嘘だけど」

ζ(゚、゚*ζ「…むぅ」

(;-_-)「…ごめん」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:45:41.00 ID:8RweYhlS0

ζ(゚、゚*ζ「ヒッキーは嘘吐きですね」

(;-_-)「つい、ね。デレが何でも信じるから…」

ζ(゚、゚*ζ「信じる者は救われるのですよ?」

(-_-)「信じる者と書いて儲かるだよ」

ζ(゚、゚*ζ「ヒッキーは屁理屈が多いです」

(-_-)「屁理屈でも理屈だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ヒッキーはクマバチを飛ばせてあげない人間ですか?」

(-_-)「クマバチは飛べるよ。レイノルズ数を知らない人間が見た幻想で彼らは飛んでるわけじゃない」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:49:12.86 ID:8RweYhlS0

ζ(゚ー゚#ζ「…こうしてやるー!!!」

デレは真新しい黒板消しを手に取ると、
正直なイコールで結ばれた数字たちを無造作に消し始めた。

(-_-)「あー…」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふん。わからずやのヒッキーなんてこうですよー」

(-_-)「折角制服新しいのに…汚れるよ?」

ζ(゚−゚*ζ「あ…」

(;-_-)「ごめん…」



そんな夢を見た。
幼馴染とはもう4年以上会っていない。
実家の部屋には2年以上帰っていなかった。

(-_-)「なんで今更あんな夢…」

夢とは言え、
人と久しぶりに会話を交わした。
人の笑うところを久しぶりに見た。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:50:14.52 ID:8RweYhlS0

(-_-)「どうせだったら…外出してる夢が良かった」

今の僕の部屋の窓はあの黒板で塞いでしまったので
もう随分まともに青空を見ていなかった。

枕元に置いてあるノートパソコンの電源を点ける。
僕の世界はこの狭いディスプレイに集約されていて、
僕の心はこの狭い部屋と同化を果たしていた。

軽い起動音と共にディスプレイにほの暗い光が宿る。
真っ青なディスプレイ。無駄なものは何もない。
僕はいくつかソフトを立ち上げる。

さぁ、今日も数字と踊ろう。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:52:37.90 ID:8RweYhlS0



ζ(゚ー゚*ζ「なんかね。数学の先生がヒッキーのこと凄い褒めてたよ。
      ヒッキーには数学のセンスがあるって。
      数学の得意なやつはザラにいるけど
      数学のセンスがあるやつは中々いないって」

(-_-)「え…数学の先生って…?」

ζ(゚ー゚*ζ「ほら。あのやたらにカピバラっぽい先生いるじゃん!
      入学式の日に2%は確実に学校を辞めますって言い放った」

そこはまた実家の僕の部屋だった。
デレは黒板を背にして嬉々として語っている。
彼女の制服のスカートの丈は既に膝上15センチまで上昇を果たしていた。
髪の毛もうっすらと茶色がかって見える。この暗い部屋で茶色く見えるのだから、
明るい日の光の中ではもっと色が透けるのだろう。

(-_-)「いつ…したの?そんな話」

ζ(゚ー゚*ζ「南階段の掃除の時。あそこの掃除の担当あの先生だから。
      あ、ねぇねぇ、ヒッキーもっと学校来ないの?
      このままだと単位危ないって先生方も言ってるよ?」

(-_-)「週に3回は行ってるからいいだろ…別に」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:53:13.70 ID:8RweYhlS0

ζ(゚ー゚*ζ「それって週休4日じゃん。なんでヒッキーだけそんなにゆとり教育の恩恵を受けてるの?
      ゆとり教育の神様に愛されてるの?ゆとり教の救世主になっちゃうの?」

(-_-)「なんだよゆとり教って…」

ζ(゚ー゚*ζ「ゆとり教はゆとり教だよ。
      活動内容は一日一回自分がゆとり教の信者である事を思い出すこと」

(-_-)「何その開き直った哲学者みたいな活動内容」

ζ(゚ー゚*ζ「それでね。この前のテストあったでしょ?中学の復習のやつ。
      あれのね。最後の問題の正解率がうちのクラスで2.5%だったんだって」

(-_-)「あれ。僕だけだったんだ正解したの」

ζ(゚ー゚*ζ「え!?なんで!?2.5%だよ!?あと1.5人は正解した人いるはずだもん!」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:53:40.34 ID:8RweYhlS0

(-_-)「デレ。母数が100じゃないんだから…」

ζ(゚ー゚*ζ「ぼすー…?」

(-_-)「母なる数と書いて母数だよ」

ζ(゚ー゚*ζ「お母さんなの!?」

(-_-)「…そうだよ。お母さんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そっかぁ…お母さんかぁ…じゃあ、仕方ないね」

(-_-)「うん。そうだね仕方ないね…」

ζ(゚ー゚*ζ「うーん…。うん!借りるよー」

デレは満足げにうなづくと、くるりと振り返り
鉄と亜鉛の混合物の線膨張率と
体積膨張率で3分の1ほど埋められた黒板の、
残り3分の2に女の子らしい可愛らしい字で落書きを始めた。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:54:59.19 ID:8RweYhlS0

『母の裾の内には
 2.5人の子が潜む
 そのうちの1.5人は
 雑紙を好んだ数字の
 その猥雑さの中に
 そっと隠れてしまった』
 
(-_-)「何それ…」

ζ(゚ー゚*ζ「消えた1.5人と母数の謎を詩にしたためてみたよ」

(-_-)「デレ。母数は中学でも習うと思うんだけど…」

ζ(゚ー゚*ζ「…えへー」

(-_-)「誤魔化すなよ。ほら、数学と物理の教科書とノート出して。
    今日も授業で進んだ分まで教えてあげるから」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:55:31.08 ID:8RweYhlS0

ζ(゚−゚*ζ「ぅー…。学校で教えてよぅ。
      ヒッキーの部屋でまで勉強したくないよぅ」

(-_-)「週3日は学校で教えてるだろう?」

ζ(゚ー゚*ζ「週5日で!」

僕はデレの言葉を聞かなかったことにして、
受け取ったノートをパラパラとめくる。

(-_-)「ふぅん、一日で随分進んだね。
    あ、ここ間違ってるよ。
    こう言う時は両辺に同じ数をかけるって前にも…」

ζ(゚、゚*ζ「………」

(;-_-)「……なんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「問題を出してあげます」

(-_-)「今は数学の時間…」

ζ(゚ー゚*ζ「あるところに父親と息子の少年がいましたー」

(-_-)「いや、だから数学…」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:56:47.49 ID:8RweYhlS0

ζ(゚ー゚*ζ「親子は上野動物園へ向かう途中に事故にあってしまいました。
      そこで悲しくも父親は死んで、少年は意識不明の重態です。
      ついでにパンダも死にました」

(-_-)「デーレー…」

ζ(゚ー゚*ζ「急いで少年は病院に運ばれ手術されることになりました。
      手術するのはベテランのお医者様です。
      手術服を着て手術室に現れたお医者様は、
      少年を見るなり真っ青な顔になり、言いました。
      『手術は無理です。これは私の息子です』」

(-_-)「それが?」

ζ(゚−゚*ζ「え!? それがって!? 不思議じゃないの!?」

(-_-)「なにが?」

ζ(゚、゚*ζ「…デレ、帰る」

(-_-)「あっ。ちょっと!デレ!!」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:57:33.15 ID:8RweYhlS0

デレは僕が持っていた自分のノートと教科書をひったくると
逃げるように僕の部屋から出て行った。

僕の周りには僕の身体ごと吸い尽くされるような静寂と、
懐かしいような甘い匂いが残った。


('A`)「可愛いよな…」

(-_-)「え…?何?君、誰…?」

先ほどまでデレがはしゃいでいた黒板の前に、
今度は陰気な顔をした若い男が座っていた。

('A`)「幼馴染属性とかそれ何てerg?
    何?何で俺には内気でツインテールの許婚とか
    ちょっと生意気で笑顔が可愛い俺のことが大好きな義理の妹とか
    色白で黒髪で細身の俺の事が大好きな巫女とか
    眼鏡で巨乳で天然で俺のこと大好きなクラスメイトとかいないの?
    馬鹿なの?ねぇ神様は馬鹿なの?俺の事嫌いなの?」

(;-_-)「なんだよ…知らないよそんなこと…
     それにこれは夢だろう?
     人の夢を羨んでも仕方ないじゃないか…」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:58:04.78 ID:8RweYhlS0

('A`)「…これがただの夢だと思うなよ?」

(-_-)「え?」

('A`)「もしもこれがただの夢だったら、
    彼女の隣に座ってるのは俺に決まってる」

(;-_-)「えっと…?」

('A`)「忠告だけしといてやる。
    この夢はいつ終わるかもわからん。
    後悔はするなよ」

(-_-)「は? そんなの当たり前じゃないか…」

('A`)「…ん。そうだな。おやすみ」



そうして夢は閉じた。
万年床の上でゆるゆると体を起こすと
喉の奥に甘い匂いがした。
ああ、しまったな…。
これは胃液が絡み付いている匂いだ。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:58:45.63 ID:8RweYhlS0

(-_-)「やっぱり、日光に当たらないと駄目かもしれない…」

試しに声を出してみると、
ぴりぴりと喉に痛みが張り付いた。

こんな生活をしていると
本当に声の出し方を忘れてしまうので
出来るだけ独り言をするように心がけているのだが、
今日は暖めた牛乳でもちびちび飲みながら
黙っているのがいいのかもしれない。

そんな事を思いながら立ち上がり、
うがいでもしようと思った時に、
けたたましい音で部屋に備え付けてある電話が鳴った。

(;-_-)「わぅ…」

引きこもりなんぞしていると、
本当に些細な刺激に弱くなる。

特に電話とトイレを流す音では
何度死にそうになったかわからない。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 19:59:24.24 ID:8RweYhlS0

(;-_-)「今日は黙ってようと思ったのに…」

コードレスの受話器を耳に当てる。
僕に電話をかけてくる相手は一人しかいない。

(-_-)「もしもし…。うん。元気だよ。母さん」

受話器越しに、弱弱しい母親の声が聞こえた。

(-_-)「うん…うん…。わかった。大丈夫。
    仕送り…いくらでも大丈夫だから…。
    うん。僕お金使う事あんまりないから…大丈夫。
    わかった。はいはい。食べてる。食べてるから…。
    うん。ちゃんとしてるよ。いや、うん。外には出てないけど…。
    わかった。じゃあ切るね。ちょっと喉痛くて…。
    いや違う!風邪じゃないから大丈夫。心配しないで。
    うん…うん。じゃあね…」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:01:58.06 ID:8RweYhlS0

母親が電話を切るのを待ってから、僕は受話器を置く。
そして訪れる静寂と張り付いた喉の痛み。
胃液のほのかな甘い匂い。

(-_-)「疲れた…」

早く、牛乳を暖めなければ…。



('A`)「よう。また会ったな」

横並びの三つの扉の前に、以前にも遭遇した陰気な男が立っていた。
喉の痛みは消えている。体もどことなく軽い。
ああ、ここは夢の中なのだ。

(-_-)「それ、僕の部屋のドアだ…」

('A`)「ご名答。さぁ、どのドアを開ける?」

(-_-)「んー…」

僕は少し考えた後、右のドアを選んだ。
ノブに手をかけると、男に声をかけられる。

('A`)「ちょっと待てよ。そのドアでいいのか?今ならまだチャンスをやるぞ?」

(-_-)「チャンス?」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:02:27.06 ID:8RweYhlS0

('A`)「ああ、たとえばこの真ん中の扉」

そう言いながら男は真ん中の扉を開ける。
その扉の中には、無数のCDケースが、
カチャカチャと音を立てて羽ばたいていた。

(;-_-)「うわ…」

('A`)「この通り、ここの扉は外れだ。お前が望んでいる扉じゃない」

男は扉を閉めて僕の方に向き直ると、言った。

('A`)「それでは、ここでチャンスだ。
    今ならお前が選んだ右の扉を、
    残った左の扉を取り替える事が出来る。
    さぁ、どうする?」

(-_-)「なら、左の扉に取り替えるよ」

('A`)「即決だな…いいのか?」

(-_-)「うん。君はモンティだね?」

('A`)「は?」

(-_-)「なんだ。知らないでやってたのか。じゃあ、僕は行くよ」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:06:03.82 ID:8RweYhlS0

僕は左のドアを開ける。
するとそこは見慣れた、だけども懐かしい実家の自室で、
その奥では、いくらかが数字で埋まった黒板に
デレが楽しそうに詩を書いている。

『安らぎの海の丁度真ん中に
 狭い狭い君の部屋がある
 いつだって消えてもいい気持ちで
 柔らかな数字を見つめている
 緑色の窓を開くと
 たくさんの白い蝶々が飛び立った
 数えて欲しそうに
 しばらくは蛍光灯の周りを羽ばたいていたが
 やがて黙って冬の形になると
 僕らに、はらはらと降り注いだ
 手のひらに解けた蝶々のために
 押入れから毛布を出して、二人して包まった
 窓の向こうでは
 夏がもう、足踏みをして待っていた』

(-_-)「何してるの…?」

ζ(゚ー゚*ζ「へへー」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:13:26.90 ID:8RweYhlS0

デレはくるりとこちらに向き直り笑った。
セーラー服の袖口がうっすらとチョークの粉で汚れている。

(-_-)「ああ、もう…」

ζ(゚ー゚*ζ「デレは吟遊詩人になります」

(-_-)「ああ、そう…」

ζ(゚−゚*ζ「ついでに宇宙にもなります」

(-_-)「頑張って…」

ζ(゚、゚*ζ「黄金色の麦の穂にもなります!」

(-_-)「美味しく実るといいね…」

ζ(゚、゚*ζ「………ヒッキーの馬鹿」

(-_-)「ごめん…」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:13:54.34 ID:8RweYhlS0

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ…」

(-_-)「ん?」

ζ(゚ー゚*ζ「楽しいね?」

(-_-)「え?」

ζ(゚ー゚*ζ「こんなに楽しいから、学校に来てくれないの?」

瞬間。
デレが、どろりと融けた。

(;-_-)「う、うわぁあああああああ!!!」

フローリングの床には溶けたデレの残骸がべたりと張り付いている。
セーラー服の襟口から零れ落ちる毛髪の欠片。
袖からはみ出した白いデレの残骸。
スカートの綺麗なヒダがデレに塗れて立体感を失っている。
そして女の子特有の、あの甘い匂いが立ち込める。

(;-_-)「デレ! デレ! デレ! デレ!」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:14:28.95 ID:8RweYhlS0

僕は叫ぶ。
デレをどうにかしなくては。
元のデレに戻してやらなくては。
そう考えながら、叫ぶ。

ならばしかし、
どうして、デレに手を伸ばさない?

どうして、デレに触れてやらない?

だって、それは
それは…
こんなにもドロドロに壊れたデレが、
これ以上に崩れてしまったらどうする?

(;-_-)「デレ…デレぇ…」

ほら、そう思っている間にもデレはドロドロと広がっていく。

僕の部屋に、デレが広がっていく。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:15:16.59 ID:8RweYhlS0

('A`)「可哀想に」

背後からの声に振り返る。
男が酷く気だるげな様子で立っていた。

ああ、そうか。
僕は納得する。

こ の 男 が 元 凶 だ。

(;-_-)「お前ぇ!!デレを!デレを戻せ!デレを!お前がやったんだろぉ!お前が!」

('A`)「俺の所為にするなよ」

いかにも面倒くさそうに男は吐き捨てる。

('A`)「それよりも彼女を助けてやらなくていいのか?」

(-_-)「ぅぅううるさい!お前がやったんだろ!お前がデレをぉ!デレを!」

('A`)「ああ、それとも」

男は、続ける。
やめろ!
言うな。
言うな。言うな。言うな!

('A`)「そ ん な 汚 い も の に 触 り た く な い か ?」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:15:44.35 ID:8RweYhlS0 (;-_-)「ぁ、あ、あぁああああああああ!!!」




目が覚めた時には、汗でじっとりと寝巻きが肌に張り付いているのにも関わらず、
僕の体は小刻みにカタカタと震えていた。

(;-_-)「はぁ…はぁ…はぁ…デレ…デレ…」

僕は布団を跳ね除け電話を手に取った。
デレの無事を確認しなくては。

(;-_-)「ぅ…」

何を。
しているんだ僕は。

(;-_-)「夢じゃないか…」

体中の力が抜ける。
僕はがくりと膝をついた。

(;-_-)「はは、は、ははははは…」

(;-_-)「何、してるんだ僕は…」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:16:21.04 ID:8RweYhlS0

デレは、溶けたりなんかしない。
デレは、吟遊詩人になんかならない。
デレは、宇宙になんかならない。
デレは、黄金色に輝く麦の穂になんかならない。

デレは、汚くなんか、ない。

デレは、僕の部屋で楽しそうに、詩なんか、書かない。

(;-_-)「夢、だよ…」

どうして、デレの夢ばかり見るんだろう。
僕と彼女はもう何の関係もないと言うのに。

そしてあの男。
僕にモンティ・ホール問題を吹っかけたあの男。

(;-_-)「なんなんだよ…いったい…」

まず初めに学校から逃げた。
次に親から逃げた。
そうして、数字だけを恋人に生きて行こうと思ったのに。

(;-_-)「なんで、放っておいてくれないんだよ…」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:16:55.17 ID:8RweYhlS0

僕は布団に戻り、枕もとのパソコンの電源を入れる。
軽い起動音。野暮ったいOSのロゴ。
遅い…。
遅い遅い遅い遅い遅い!遅すぎる!
どうしてこんなに起動が遅いんだ!

(-_-)「早く早く早く早く早く…」

早く僕の恋人に会わせてくれ!
早く僕の恋人と躍らせてくれ!

僕にはそれしかないんだ!
僕は数字からだけは逃げたくはないんだ!




('A`)「また、会ったな…」

('A`)「人は、睡眠からは逃げられない…」

(-_-)「………」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:19:55.13 ID:8RweYhlS0

そこには僕の部屋の扉が、10を数えるだけ並んでいた。

('A`)「ほら、選べよ」

(-_-)「選ばないと言う選択肢は?」

('A`)「幼馴染に会いたくないのか?」

(-_-)「………」

僕は無造作に目の前にあった扉に手をかける。

('A`)「チャンスをやろう」

ドクオが指を鳴らすと、
僕が選んだ扉とその右隣の扉以外の扉が一斉に開いた。

開いた扉の中ではミカンの皮がふよふよと漂っていたり、
色とりどりの携帯電話が床中を這いずり回っていたり、
片一方の黄色いスリッパがぱたぱたと走っていたりしたが、
僕は驚かなかった。

('A`)「さぁ、変えるか?」

僕は答えない。
黙って、選んだ扉の右隣の部屋を開ける。

(;'A`)「おい!!無視かよ!!」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:20:48.13 ID:8RweYhlS0

扉の向こうが、どこなのかはわかっている。
黒板の前のデレが、こちらを振り返り、笑う。

ζ(゚ー゚*ζ「遅かったねー」

(-_-)「うん…」

ζ(゚ー゚*ζ「来てくれて、良かった…」

(-_-)「もう詩は書かないの?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。そんな事よりも。ね」

デレがこちらに一歩近づく。

(-_-)「うん?」

ζ(゚ー゚*ζ「えっち、しよう?」

スカートのホックに手をかけるデレ。
彼女の足元にスカートがはらりと落ちる。

まだ自分が少女であると主張するような、
極端に肉付きの少ない細い脚。

セーラー服は丈の短い服なので、
へそと上品なレースをまとった淡い桃色の下着が露出される。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:23:29.18 ID:8RweYhlS0

(-_-)「しない」

ζ(゚、゚*ζ「ぶー」

(-_-)「服、着て」

ζ(゚、゚*ζ「ヒッキーは女の子に興味はないんですか?」

デレはぶつぶつと文句を言いながら、
床に落ちたスカートを拾い、緩慢な動作で身に着けた。

(-_-)「女にも男にも、興味なんてなかったら良かったのにと思うよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ヒッキー男にも興味あるの!?」

(-_-)「…多分、デレが想像してるような興味じゃない。
    だけどね。きっと興味があるから学校に行けなくなったんだよ。
    興味なんてなかったら、学校が怖い理由なんてないはずだ。
    だから、いつまでたっても、二十歳になってもこんな夢を見る」

ζ(゚ー゚*ζ「学校が、怖い?」

(-_-)「うん。人が、怖いんだ…」

ζ(゚ー゚*ζ「デレの事も、怖い?」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:23:51.86 ID:8RweYhlS0

(-_-)「高校に入って、僕がほとんど学校に行かなくなって、
    デレが、僕の知らないところで、僕の知らない事を覚えていくのが
    たまらなく怖い時はあったよ。
    でも、そんなモノは僕の嫉妬でしかないから。
    それはわかっているから…」

ζ(゚ー゚*ζ「デレは、ずっとずっと変わってないよ?」

(-_-)「変わってないように見える宇宙だって膨張している。
    とても遠いんだ。そんなものわかるはずがない」

ζ(゚ー゚*ζ「遠くないよ」

(-_-)「届かない」

ζ(゚ー゚*ζ「ここだって、宇宙だもん」

(-_-)「………そうだね」

ζ(゚ー゚*ζ「ん」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:24:21.43 ID:8RweYhlS0


違う。
本当は、ここは宇宙なんかじゃなくて、
社会不適合者の、欲にまみれた夢の中なんだ。

だけど、デレが笑ってくれたから。
それでいいと、思った。

30時間以上覚醒していた後の睡眠だから、
少し、疲れていたのかもしれない。


(-_-)「ノート出して。数学を教えてあげるよ」

ζ(゚ー゚*ζ「えへへー」

(-_-)「だから後で、僕にも国語を教えて?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん!」

そうして僕が黒板を使ってデレに証明の解き方を教えた後、
デレは優しい声で小説を音読してくれた。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:24:53.96 ID:8RweYhlS0

(-_-)「僕、こうやってちゃんと小説を味わうのって初めてかもしれない…」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ。ヒッキーは国語とか社会の時間でもノートが数式でぎっしりになってたよね」

(-_-)「うん…。僕、他にも何か本を読んでみようかな。
    お勧め、ある?」

ζ(゚ー゚*ζ「どんなのが読みたいかな?」

(-_-)「………えっと、なんかね…えっと…
    ……やさしいの…」

その言葉が自分の口から出た時に、
僕はとてつもない恥ずかしさに襲われたのだけど、
デレは穏やかに笑ってくれた。

ζ(゚ー゚*ζ「それなら、『あのときの王子くん』なんてどうかな。
      ヒッキーパソコン持ってるよね?ウェブで読めるよ」

『あのときの王子くん』
デレが柔らかな文字が僕の黒板に刻まれた。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:25:27.80 ID:8RweYhlS0



目が覚めた時には、不思議と不快感はなかった。
その代わりに、酷く浮き足立ったような、
例えるならば、ずっとわからなかった問題の解法を突然思いついたのだけれど、
手元に紙がなくて具体的な計算が出来ずに落ち着かなくて、
それでも頭の中で数字を広げるだけ広げて、ワクワクしているような、
そんな、しばらく忘れていたような気持ちが、
こんな僕の中に、確かに存在していた。

僕はパソコンの電源を点け立ち上がりを待つ。
以前のような、焦りも苛立ちも感じていなかった。

(-_-)「あ、の、と、き、の、お、う、じ、く、ん…」

(-_-)「あった…」

そのページは、すぐさま一番上にヒットした。
僕はその事実がなにやら当然のことのように思えたので、
怖くもなかったし、不気味にも感じなかった。

(-_-)「サンテグジュペリ、アントワーヌ、ド…」

(-_-)「あ…」

(-_-)「星の王子様だ…」

星の王子様なら僕にも聞き覚えがあったし、
挿絵も何度か見たことがある気がした。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:25:54.74 ID:8RweYhlS0

(-_-)「新訳なんだ…」

それはどうやら児童を意識して書かれているらしく、
本文はひらがなだらけで少し読み辛かったが、
ほとんど本を読んだことのない僕には丁度いいのだろう。

途中、星の数を数え続ける実業家が登場した。

(-_-)「『このひと、ちょっとへりくつこねてる。』…」

星は、一番最初に星を数えた自分のものだと主張する実業家に、
王子くんはそう心の中で毒づく場面で、
僕は夢に出てきた、口を尖らせたデレのことを思い出す。

王子くんは、最後に実業家に言う。

(-_-)「『でも、きみは星のためにはなってません……』」

僕はそれをその日、
四度ほど読み返して、
少し泣いた。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:29:03.91 ID:8RweYhlS0



彼は、今度は360度、
見える限りに広がる無数の扉の前に立っていた。

('A`)「どの扉にする?」

(-_-)「ここ」

僕は目の前の扉のノブに手をかける。

('A`)「よし、じゃあ、チャンスを…」

(-_-)「いらない」

('A`)「え?」

僕は、その扉を開いた。

そこは、僕が数度だけ通った高校の教室だった。

僕は見渡す。教卓の裏に、頭を抱えて丸くなっているデレを見つけた。
見ると制服はところどころ引き裂かれ、露出した手足には痛々しいアザが見て取れた。

(-_-)「ごめんねデレ。
    やっと見つけた。
    僕は最初から、自分の選んだ扉を信じれば良かったんだ」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:30:05.60 ID:8RweYhlS0

ζ( − *ζ「ヒッキー…」

(-_-)「モンティ・ホール問題だったんだ…。
    確率だけで言うのならば、扉を変えた方が有利になるんだ
    ああ、今証明して見せようか?」

ζ( ー *ζ「ヒッキー、ちょっとへりくつこねてる…」

(-_-)「うん。僕は屁理屈ばっかりだ…
    教えて。どうしたの?」

ζ( ー *ζ「高校に入って、ヒッキーが学校に来なくなって
      デレも、ヒッキーの部屋に行かなくなったでしょう?
      あれはね。ヒッキーがどうでもよくなったんじゃなくて、
      ヒッキーばかり、逃げてずるいから、行かなくなったの…」

(-_-)「デレ…」

ζ( ー *ζ「ねぇ、ヒッキー…」

ζ(゚−゚*ζ「デレもね。人が、怖いよ…」

(-_-)「うん、そう…。怖いね…。
    きっと、人が怖くない人間なんて、いないんだ…」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:31:27.86 ID:8RweYhlS0

ζ(゚ー゚*ζ「うん。でも、やっと来てくれたんだね…。学校」

(-_-)「随分待たせた。ごめんね。ごめん…。
    僕が学校に行ってなかったから、
    助けてあげられなかった…」

ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫。大丈夫だよ。今、来てくれたから…」

(-_-)「うん…。ねぇデレ?デレの髪の色も、
    黄金色の麦の穂の色と一緒なんだよ…。
    王子くんの髪の色」

ζ(゚ー゚*ζ「狐は、小麦畑を見るたびに王子くんを思い出して風の音を聞くんだよ?
      ねぇ、どうしてそんなに優しい事を書けるのが人間なのに、
      たかだか、あの先輩に気に入られただとか、髪の色が気に食わないだとかで
      憎んだり、嫌ったり、敵になったり、制服をぐちゃぐちゃにしたり、
      殴ったりするのも、人間なんだろう?」

(-_-)「わからない…」

ζ(゚ー゚*ζ「うん…」

(-_-)「わからないけど…、人間は、好きだよ…」

僕はチョークを手に取る。
すっかり馴染んだ僕の黒板より大きな黒板に、
一本の数式を書いてみせた。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:32:01.65 ID:8RweYhlS0


『N=R*×fp×ne×fl×fi×fc×L』


ζ(゚ー゚*ζ「何これ?アルファベットばっかり…」

(-_-)「ドレイクの方程式だよ。
正しく数字を代入出来れば、
    僕らが宇宙人と接触出来るか、わかるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「宇宙人?」

(-_-)「そう。宇宙人。王子くんだ。
    僕は人間が、きっと好きだから、宇宙人も好きになれる。
    宇宙人のことも、わからないから…。
    僕が数字を好きなのは、理解できるからじゃない。
    世界中の誰も解く事の出来ていない問題。
    世界中の誰も見つけることすら出来ていない数式。
    数字のわからないところだって、大好きなんだ…」

ζ(゚ー゚*ζ「デレのことも、好き?」

(-_-)「うん…好きだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「良かった…。デレもヒッキーのこと、好きだよ?
      人間って…凄いね」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:32:40.37 ID:8RweYhlS0

(-_-)「凄いんだ…。人間は、凄い。凄くて、弱い。
    だから僕は、自分が人間である事実にくらくらする」

その時デレが、ほんの少し寂しそうにした気がした。

ζ(゚ー゚*ζ「どうして、学校に来てくれないの?」

(-_-)「デレ!?」

思わず声が大きくなる。
以前、同じ事を言ったデレが融けてしまったから、
またあんなふうにドロドロになってしまうではないかと思った。

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、学校に来てよ?」

だけどデレは今度は融けなかった。
彼女は確かにここに居た。

ここは、社会不適合者の後悔と嫉妬にまみれた
薄汚い夢の中には違いのだけれど、
デレは、もう遠くなかった。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:33:14.88 ID:8RweYhlS0

僕は思う。

僕とデレが会わない間に、デレが細胞分裂をいくらか繰り返して、
すっかり全身が違う細胞になってしまったとしても、デレはデレだ。
もしかしたら吟遊詩人かもしれない。
それもデレだ。
もしかしたら宇宙かもしれない。
それもデレだ。
もしかしたら黄金色の麦の穂かもしれない。
それも多分デレだ。

だけれども、デレは汚くなんてない。
僕の知らないところで、僕の知らない事を覚えて、
例えそれがどんなに、世間に後ろ指を指されるような事であったとしても、
今僕の目の前にいるデレは、汚くなんてなってはいない。

デレは、こんなにも変わっていないのだから、
デレは、こんなにも変わらずに、僕が学校へ来るのを、
黙って待っていてくれたのだから。

(-_-)「僕、行く…よ。学校に」

ζ(゚ー゚*ζ「本当!?」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:33:49.36 ID:8RweYhlS0

(-_-)「うん。そして、きっと、僕は、
    数字になるための事をしようと、思う…」

ζ(゚ー゚*ζ「数字になるための事?」

(-_-)「そう…。モンティ・ホール問題だ…。
    僕は、僕のために、数字を使おうと思ったから…。
    だから、デレを助けに来られなかったんだと思う…。
    これからは、もっと勉強して、数字のためになる事をする…」

ζ(゚ー゚*ζ「そっか…。良かった…」

(-_-)「うん…。ごめん。こんな夢の中でも、デレに会えて良かった…ほんとに…」

ζ(゚ー゚*ζ「また、ね…?ヒッキー」

(-_-)「うん。…また」

不意に、チャイムが高らかに鳴った。
放課後はもうお終い。あとはおうちに帰って明日また学校においで、と。
急かされるような音だった。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:35:18.60 ID:8RweYhlS0




ζ(゚ー゚*ζ「だーかーらー!デレの髪は小麦畑色なんです!」

( ・∀・)「小麦畑色って何ですか。普通小麦色でしょうが。それにそれは金髪って言うんですよ?」

ζ(゚ー゚*ζ「違うんですー!小麦畑色なんですー!」

そこは大学の食堂だった。
割と大きい大学なので、デレと遭遇するのはあまり期待していなかったのだが、
初日から見つける事が出来たのは本当に僥倖だと思う。
ただ、デレは窓際の一番端の席に男と向かい合って座っていた。

うん。まぁ、デレは可愛いから…仕方ない。

(-_-)「あの…」

ζ(゚ー゚*ζ「小麦畑色なの!風に揺れてそよぐんですよー!」

( ・∀・)「小麦小麦って、君はビールあんまり好きじゃないでしょうが」

ζ(゚ー゚*ζ「違うんですー!ビールじゃないの!パンの小麦なのー!」

( ・∀・)「知りませんよそんなの」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:36:13.98 ID:8RweYhlS0

(-_-)「………」

その時、デレが急に首をぐりんと動かしこちらを向く。
ふわふわの、小麦畑色の髪の毛が揺れる。

ζ(゚ー゚*ζ「ヒッキーだーーーーー!!」

(-_-)「ヒッキーです」

( ・∀・)「ん?誰?知り合いですか?」

そして男も、こちらに視線を寄越す。

(-_-)「えっと…」

ζ(゚ー゚*ζ「幼馴染ですよー!ヒッキーは凄いんですよ!
      宇宙人と交信するんですよ!モララーさん」

( ・∀・)「それは病気です」

(-_-)「待ってデレ!僕がいつ宇宙人と交信したの!?」

( ・∀・)「ふむぅ…。そこの細くて白い少年。良い病院紹介しますか?」

(-_-)「いりません。正常です」

( ・∀・)「まぁ、困ったことがあったらいつでもどうぞ。手広くやってますんで」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:37:06.89 ID:8RweYhlS0

ζ(゚ー゚*ζ「それで、ヒッキーはどうしたの!?何で大学にいるんですか!?」

(-_-)「えっと、大学、行こうと思って…。
    受験には間に合わなかったら、とりあえず聴講生として…。
    あと、ここの数学の教授にメールを出したら、
    研究生として迎えて貰えるかもしれないって言われたから、
    後で、研究室にも…」

( ・∀・)「ほほぅ。学問に目覚めたわけですね。少年。良いことです」

ζ(゚ー゚*ζ「そっかぁ…良かったねぇ…」

(-_-)「うん…。学校に、来たよ…デレ」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。また、数学教えてね?」

(-_-)「うん…」

( ・∀・)「………ああ、おじさん妬いちゃうなぁ…。
      少年、お昼は食べたんですか?
      ここの学食で良かったら僕が奢りますよ?」

(-_-)「あ、いえ。大丈夫です…」

( ・∀・)「おやおや学問に勤しむ少年は貧困と相場は決まってるものです。
      遠慮は無用ですよ?」

ζ(゚ー゚*ζ「え!?ヒッキー貧乏なの?デレの家から送ってきた米、あげようか?」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:38:32.84 ID:8RweYhlS0

(-_-)「いや、えと、お金はあんまり困ってないから…大丈夫」

ζ(゚ー゚*ζ「ヒッキーバイトしてるの?」

(-_-)「してない…けど…」

( ・∀・)「親御さんの仕送りですか?」

(-_-)「いえ…仕送りは僕が親に…えっと…株を…ちょっと…」

( ・∀・)「ほう!トレーダーですか!それで生活出来るとは中々ですね。
      ちなみに月おいくらぐらいのプラスを出されているんですか?」

(-_-)「それって…初対面の方に言う事なんですか…?」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、デレに教えてー」

(-_-)「………」

( ・∀・)「彼女に言うとたかられますよ?」

僕は少し悩んだ末、モララーさんに耳打ちをする。

(;・∀・)「なっ………」

( ・∀・)「デレ、たかりなさい」



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:39:10.38 ID:8RweYhlS0

ζ(゚ー゚*ζ「デレ今日の晩御飯はねずみーしーのレストランで食べたいなぁ〜」

(;-_-)「ひ、人ごみは勘弁して欲しいなぁ…」

ζ(゚ー゚*ζ「えへへー」

(-_-)「ん…」

( ・∀・)「ああほらほらそんなに見つめあわない若人ども。
      デレ、そろそろ3講目が始まる時間じゃないですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「あっ!ほんとだー!モララーさんご馳走様でしたー!
      ヒッキー行こう?」

(-_-)「え?え?」

ζ(゚ー゚*ζ「ほらぁ!早く!」

デレは僕の腕を取って走り出す。

ちょ、ちょっと待って…。
引きこもり、走らせ…ないで…。

(;-_-)「はぁ…はぁ…」



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:40:48.93 ID:8RweYhlS0

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ…」

(-_-)「ん?」

ζ(゚ー゚*ζ「楽しいね?」

(-_-)「うん…」

デレは、笑った。
笑ってくれた。

そうだ。
デレが、笑ってくれたから、
それで、いい。


もし、そのとき、ひとりの子どもがきみたちのところへ来て、からからとわらって、こがね色のかみで、しつもんしてもこたえてくれなかったら、それがだれだか、わかるはずです。
                       『あのときの王子くん』より



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/14(水) 20:41:40.83 ID:8RweYhlS0
('A`)ドクオが夢を紡ぐようです 第三話 了



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