( ^ω^)ブーンはつかれやすい体質のようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:29:23.30 ID:8biDAVNaO


ねぇねぇ、聞いて聞いて。

私の友達の友達が実際に体験した話なんだけどさ。

とある心霊スポットに肝試しに行ったんだって。

それで、それでね――――。


     ( ^ω^)ブーンはつかれやすい体質のようです



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:30:52.59 ID:8biDAVNaO


第一話「口裂けお前らの嫁」



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:32:33.81 ID:8biDAVNaO
今年、大学生になるブーンはつかれやすい体質の持ち主だ。
少し歩けばつかれるし、立っているだけでもつかれてしまう。
これは生まれついての体質なので、どうする事も出来ないでいる。

そんなブーンではあるが、大勢のナカマがいつも側に居るので、
周りの者からすれば不幸な青年には決して見えないだろう。

( ^ω^)(…………)

ξ゚ ゚)ξ(…………)

ブーンは小学生の頃からの憑き合いであるツンと新幹線に乗っている。
住んでいた山奥の村から、大学があるO府へ引っ越しの途中である。

ξ゚ ゚)ξ「お腹減ったんだけど」

ブーンが窓の外の山々に視線を遣っていると、ツンのくぐもった声が聞こえた。
ツンは大きなマスクをしているので声が篭るのだ。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:34:24.44 ID:8biDAVNaO
( ^ω^)「トイレで食べて来ると良いお」

そう言って、ブーンは駅弁をツンに差し出した。

ξ#゚ ゚)ξ「レディに対して失礼ね!」

(;^ω^)「レディて……」

ツンに気圧されてブーンは駅弁を膝の上に置いた。
もう一度、外を眺めると緑の山々から黒い景色に変わっていた。
現在、新幹線は長いトンネルの中を通過している。

ξ゚ ゚)ξ「まるで地獄に向かってるみたい」

( ^ω^)「地獄」

ξ゚ ゚)ξ「そう、地獄。人口が少ない田舎とは違って、
      都会には沢山の悪霊がいるでしょうね。
      流石のアンタでも死ぬかもね……というか死ね」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:36:28.65 ID:8biDAVNaO
( ^ω^)「誰が死ぬかおwwwwwwwwww」

ブーンは腹を抱えて笑い、ツンは目を細めて微笑む。
新幹線がトンネルを抜けて太陽の淡い光が車内に射し込んだ。
他の乗客達は眠っているのか、車内は異様な静けさで満ちている。

ξ゚ ゚)ξ「あら? おかしいわね」

ツンは椅子から身を乗り出して周りの様子を見た。
静かな事は良いが、度が過ぎると不気味になる。

( ^ω^)「お? どうしたんだお?」

ξ゚ ゚)ξ「こんなに他の客少なかったかしら」

ツンに促されて、ブーンも他の客席を覗き込んだ。
今、ブーン達が居る車両には数人の乗客しか居ない。
その数人の乗客が奇妙だった。
全員、ブーン達を睨むようにジロジロと見ているのだ。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:38:14.54 ID:8biDAVNaO
ξ゚ ゚)ξ「憑かれたわね」

( ^ω^)「……つかれたお」

ブーンは大きな溜め息を吐いて、ガックリと肩を落とした。

( ^ω^)「でも、慣れてるから大丈夫ですけどNE!」

ξ゚ ゚)ξ「御守りもあるし……その所為で私は近寄れない訳だけど」

( ^ω^)「そう! 旅立つ前、僕の為に母ちゃんがくれたこの――」

ブーンはポケットの中に手を入れて御守りを探す。
母親が息子の身を案じて、高名な霊能力者に祈祷して貰った御守りを。
しかし、

( ^ω^)「あれれ〜? 御守りが無いお〜?」

無かった。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:40:32.42 ID:8biDAVNaO
ξ゚ ゚)ξ「あら、てっきり持ってるんだと思ってたわ」

ツンが鞄の中から一本のハサミを徐に取り出した。
鋭く尖ったハサミの刃先がキラリと輝く。

ξ゚ ゚)ξ「ねぇ、ブーン。私、キレイ?」

( ^ω^)「こいつは参ったお」

ブーンの席の側には死人のような肌をした乗客達が立っている。
皆一様に大きく目を開いて、ブーンを見下ろしていた。

ξ゚ ゚)ξ「さぁ、死んで貰うわよ」

前の席にはハサミを構えているツンが座っている。
今にも襲い掛かりそうな気迫を全身から放っていた。
間違いなく、ブーンは四面楚歌の真っ只中にいた。

\( ^ω^)/「人生オワタ」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:42:28.28 ID:8biDAVNaO
お手上げのポーズをするブーン。
そんなブーンに対し、

ξ゚ ゚)ξ「でもねぇ……」

ツンはマスクの紐に指を掛けて言った。
マスクが外れてツンの正体がゆっくりと鮮明になっていく。
耳元まで裂けている口――……。

ξ゚∀゚)ξ「ブーンを殺すのはこの私! 誰にも邪魔なんてさせない!!」

ツンは金切り声を上げて乗客の一人にハサミを突き刺した。
そして即座に引き抜き、他の乗客の首元目掛けて斬り付ける。
余りの早業に乗客達は何一つ悲鳴を上げず、血を流して床に倒れた。

ξ゚ ゚)ξ「さぁ、早くここから逃げるわよ!」

いつの間にかマスクをしたツンがブーンに手を差し出す。
ブーンは何の躊躇もせず、その冷えきった手を掴んだ。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:45:19.47 ID:8biDAVNaO
( ^ω^)「逃げるって、どこにだお?」

ξ゚ ゚)ξ「良いから! 着いてきなさい!」

ツンはブーンを引っ張って最後尾の車両を目指して走る。
二人の様子はまるで勇敢な王子と、非力なお姫様のようだ。
どっちがどっち? 等とは聞かないで頂きたい。

ξ゚ ゚)ξ(次の駅は地獄ですって? 小賢しいわね)

ツンは新幹線の行き先を示す、電光掲示板を見て苦虫を噛み潰した。
走る二人を先程の乗客達が追いかけて来ている。

(;^ω^)「ひぃ、ひぃ……休みたいお」

ξ#゚ ゚)ξ「今すぐこの手を離してあげよっか!?」

( ^ω^)「サーセン」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:47:25.08 ID:8biDAVNaO
ブーンとツンは最後尾の車両まで無事に辿り着いた。
この車両は他と違って乗客が多く、活気に満ち溢れていた。
突然現れた二人に目もくれず、会話やゲームをしたりと賑やかだ。

( ^ω^)「お? これは……」

ξ゚ ゚)ξ「さっさと出るわよ」

( ^ω^)「え?」

ブーンが疑問の表情を浮かべた。
訳が分からぬまま、ツンに引っ張られて出口へと向かう。

( ^ω^)(……?)

扉の前に立った時、ブーンは後ろに振り向いた。
そこには、入った時に見た騒々しさは跡形もなく消え去っていた。
ただ、胸の奥を刺す寂しさだけが微かに車内に残っている。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:48:52.41 ID:8biDAVNaO
( ^ω^)「脱線事故?」

最後尾の扉の先は何と、ブーン達が座っていた車両だった。
椅子に腰を掛けたツンが、事の概要を説明した。

ξ゚ ゚)ξ「随分と昔、さっきのトンネルを抜けた先で起きたの。
      大勢の死傷者が出た痛ましい事故だったわ。
      最後尾に乗ってた人達は怪我一つ無かったみたいだけど」

( ^ω^)「最後尾………」

最後尾の光景は亡くなってしまった人々の無念の表れだろうか。
死しても尚、あの車両の扉先、天国を目指しているのだろうか。
ブーンは深く目を瞑り、哀悼の念を表した。

ξ゚ ゚)ξ「悪霊の多さは人間の多さに比例する。
      まともな大学生活が送れるとは到底思えない」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:50:41.01 ID:8biDAVNaO
ツンの白いマスクが少し動いた。
この先の憂鬱を感じて溜め息を吐いたのだ。

ξ;゚ ゚)ξ(……? 私はブーンを憑き殺すのが目的でしょうに)

( ^ω^)「でも、ツンが守ってくれるから大丈夫だお」

ξ゚ ゚)ξ「いえ、その理屈はおかしいわね」

( ^ω^)「ツン、さっきの答え。……キレイだお」

ξ////)ξ「な、何よ!? お世辞言ったって成仏しないわよ!!」

( ^ω^)「こうやって好感度上げとけば助けてくれるかなって」

ξ゚ ゚)ξ「あるあwwwwwwwwwwww死ね」

******************



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 22:53:14.61 ID:8biDAVNaO
ブーンは生まれつき霊を引き寄せる体質の持ち主だ。

幼少の頃は度々遭遇する人あらざる者共に恐怖を抱いていた。

しかし、何事も限度を越えれば慣れてしまう物だ。

恐怖は諦めへと次第に姿を変えて行ったのだった。

「今日は楽しかったお」

ブーンが住んでいた所は、四方を山に囲まれた小さな村だった。

人口が極めて少なく、ブーンと同年代の友達はいなかった。

そんな村に生まれたブーンは幽霊達と毎日遊んでいたのだった。

「じゃあ、また明日だおー!」

その幽霊達は昔と変わらない姿で、今もブーンに憑いている。

ブーンは幽霊と一緒に青春時代を過ごして来たのだった。



20 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [鯖重] 投稿日: 2008/05/22(木) 23:11:39.67 ID:8biDAVNaO
ξ゚ ゚)ξ「そろそろ起きなさいよ」

( ‐ω‐)「んー」

ξ゚ ゚)ξ「もうすぐ新O駅に着くわよ」

(;^ω^)「まじかお! って、頭いたっ!」

目を覚ましたブーンは頭を擦った。
何やら鈍器で殴られたが如く、頭に痛みが走っている。

ξ゚ ゚)ξ「寝すぎたのよ」

(;^ω^)「そうなのかお? 何かタンコブ出来てるんですけど」

ξ゚ ゚)ξ「気のせい」

ツンは窓の外へと目を逸らした。
新幹線はK都駅に停車している。
ツンの言う通り、新O駅まで後少しである。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:14:38.73 ID:8biDAVNaO
( ^ω^)「どんな所なのかwktkするおー」

ξ゚ ゚)ξ「O阪と言えば、たこ焼きね」

( ^ω^)「ツンの好物だお、僕が奢ってあげるお!」

ξ゚ ゚)ξ「それくらい自分で買うわよ」

( ^ω^)「何時も一緒に居てくれてるから、良かったら」

ξ*゚ ゚)ξ「こ、今回だけなんだからねっ!! ……ありがと」

ツンは頬を赤く染めて控えめに喜んだ。
ブーンもツンの喜ぶ顔を見て笑顔を溢している。
二人のやり取りは、まるで恋人同士のようだ。

新幹線がゆっくりと動き始めた。
K都駅から新O駅までは二十分程度の距離だ。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:17:05.75 ID:8biDAVNaO
( ^ω^)「持ち物よーし!
        と言っても、重たい荷物は引っ越し屋さんに運んで貰うけどお」

ξ゚ ゚)ξ「あ、そう言えば私達が住む所ってどんなの?」

その声を聞いたブーンはニヤリと不敵に口元を歪ませた。
そして、ブーンが手提げ鞄から間取り図を取り出した。

( ^ω^)「高級マンション、3LDK、ネット環境、冷暖房完備、水道光熱費無料!!」

ξ゚ ゚)ξ「は?」

(*^ω^)「そして家賃は二万円、敷金礼金無し!!」

ξ;゚ ゚)ξ「胡散臭過ぎるんだけど……」

ツンはブーンが掴んでいる間取り図を強引に奪った。
間取り図にはブーンが言った通りの間取りがあり、家賃も二万円と記されている。

ξ゚ ゚)ξ「こんな美味しい話………あれ?」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:21:12.39 ID:8biDAVNaO
ξ゚ ゚)ξ「この霊道って、あと霊暖房完備って」

( ^ω^)「なん……だと……?」

ブーンは間取り図を取り返した。
見ると母親と吟味して契約した要項とは違う事が記載されている。

霊道、幽霊が通る道。
霊暖房、幽霊の存在でひんやり。

(^ω^)「ツン」

ξ゚ ゚)ξ「こっち見ないで。これは曰く付き物件なのよ」

( ^ω^)「前に住んでた人が亡くなったとかかお?」

ξ゚ ゚)ξ「最悪、惨殺されたとかかもね」

( ^ω^)「………まぁ、良いお」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:23:26.98 ID:8biDAVNaO
ξ;゚ ゚)ξ「良いの? こういう場所には悪霊が居るわよ」

( ^ω^)「今から契約を破棄したら、次の家探しに間に合うか分からないお」

ξ゚ ゚)ξ「そうだけど…」

( ^ω^)「家賃が安い事に変わり無いし、母ちゃんに迷惑を掛けたく無いお」

ξ゚ ゚)ξ「…………」

( ^ω^)「それに」

ブーンは上半身を起こしてツンの冷たい手を握る。
突然の事でツンは顔を赤くして慌てふためいた。

( ^ω^)「友達が居るから大丈夫だお」

ξ゚ ゚)ξ「………馬鹿」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:25:38.26 ID:8biDAVNaO
ブーンとツンは新O駅を降りてO駅を目指した。
そして、O駅から環状線に乗り換えてT王子駅に向かう。
T王子駅からは一直線で、目的地のN居駅へ着くのに時間はかからなかった。

( ^ω^)「何でこの駅の周辺、ラブホが多いんだお」

ξ;゚ ゚)ξ「知らないわよ、そんな事!」

( ^ω^)「さて……」

ブーンはポケットから一枚の紙切れを取り出した。
紙切れにはN居駅からマンションまでの道程が書かれている。
地図によると、駅のすぐ近くにあるようだ。

ξ゚ ゚)ξ「あれじゃない?」

( ^ω^)「あれかお」

駅のホームに立つツンが外の方に向けて指差した。
ブーンが指先を追った所には、大きな建物が建っていた。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:26:41.24 ID:8biDAVNaO
ξ゚ ゚)ξ「憑いてくる憑いてくる」

( ^ω^)(…………)

改札口を抜けて、大通りに出たブーンは驚いた。
故郷とはまるで違う車と人の多さ、そして霊の多さに。
ブーンが少し歩けば釣られて、地縛霊やオーブが憑いてくる。

( ^ω^)「これで何人目だろう」

ξ゚ ゚)ξ「さー、目標の千鬼夜行に近い事は確かね」

( ^ω^)「そんなの目標にしてねーお」

ξ゚ ゚)ξ「あ、また増えた」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:28:08.42 ID:8biDAVNaO
幽霊達を引き連れて、ブーンは漸くマンションの前に着いた。
外壁は城のように綺麗で、一大学生が住める建物とは考え辛い。
呆然とマンションを見上げている二人に女性が声を掛けて来た。

lw´‐ _‐ノv「何か御用ですか?」

エプロンをした若い女性は細い目でブーンとツンを交互に見る。

( ^ω^)「あ、あの、今日ここに引っ越して来た内藤という者ですお」

ξ゚ ゚)ξ「……………」

lw´‐ _‐ノv「あー、内藤さんね。私はここを管理しているシューという」

( ^ω^)「お若いのにマンションを管理してるなんて凄いお」

ξ゚ ゚)ξ「全然若くはないでしょ」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:29:58.70 ID:8biDAVNaO
感嘆の声を上げるブーンにツンが割って入った。
マンションの管理人、シューは細い目でツンをチラリと見た。

ξ゚ ゚)ξ「霊気、隠しているつもりだろうけど、隠せてないわよ」

lw´‐ _‐ノv「……へぇ、やっぱり口裂け女さんくらいになると分かるんだ」

(;^ω^)「!?」

ブーンはシューの言葉に驚愕した。
マスクをしているツンは、外見的には普通の人間と変わらない。
それなのに、シューは正体を言い当て、尚且つ平然としている。

ξ゚ ゚)ξ「ご名答、私は口裂け女のツン。よろしくね、死神さん」

(;^ω^)「死神!? 死神ってあの鎌で命を刈る――」

lw´‐ _‐ノv「*おおっと* 立ち話も何だからまずは部屋に案内しよう」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:33:48.75 ID:8biDAVNaO
玄関の中に入って行くシューを二人が見つめる。
姿は人間その物、そして人間と同じく仕事をしている。

ξ゚ ゚)ξ「ブーンはあの人が肩に携えてた鎌が見えなかったのね」

( ^ω^)「全く見えなかったお」

ξ゚ ゚)ξ「仕方ないわ。死神は誰もが知っている存在だもの。
      "人々に信仰されているから"強いのよ」

( ^ω^)「つまり?」

ξ゚ ゚)ξ「有名になればなるほどウハウハ」

( ^ω^)「ふぅん」

ξ゚ ゚)ξ「まぁ、行きましょう」

二人はシューの後を追って、マンションの中へと入って行った。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:31:02.08 ID:8biDAVNaO
外装はさることながら、内装も素晴らしい物だった。
一階は全て吹き抜けとなっており、はめ殺しの大きな窓の側には
高価なソファーやテーブルが、ズラリと並べられている。

( ^ω^)「ホ……ホテル……?」

ξ゚ ゚)ξ「これで家賃二万円、ね。覚悟しておいた方が良いわよ」

物珍しそうに二人はキョロキョロと辺りを見回す。
エレベーターの前ではシューが待っていた。

lw´‐ _‐ノv「おそっ、死ぬかと思ったよ」

( ^ω^)「すみませんですお」

lw´‐ _‐ノv(死神が死ぬとか……って突っ込みが欲しかった)

( ^ω^)「お?」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:35:04.39 ID:8biDAVNaO
lw´‐ _‐ノv「いや、気にしないで欲しい」

シューはエレベーターの扉を開いて二人を誘い入れた。
閉ボタンを押してから六階のボタンを押した。
静かな駆動音を立ててエレベーターは登って行く。

lw´‐ _‐ノv「いやー、それにしても君達は物好きだね」

( ^ω^)「? どういう事ですかお?」

lw´‐ _‐ノv「君達に使って貰う666号室、六階のフロアだけどさ」

ξ゚ ゚)ξ(666号室て)

lw´‐ _‐ノv「――あの世と隣り合わせなんだよ」

エレベーターの駆動音が止んだ。
扉が開いたが、この階は本当に六階なのだろうか。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:36:20.62 ID:8biDAVNaO
lw´‐ _‐ノv「入居者がなかなか決まらなくてねぇ。
       知り合いの幽霊さんに頼んで仲介して貰ったんだよ」

( ^ω^)「ハハッワロス」

lw´‐ _‐ノv「本当笑える。……降りないの?」

( ^ω^)ξ゚ ゚)ξ(………………)

廊下に出たシューの後ろには夥しい数の悪霊が蠢いている。
手招きをする者、威嚇をする者、意味もなく叫び続ける者。

lw´‐ _‐ノv「なぁに、かえって免疫力がつく」

( ^ω^)「しかし、少しばかり多すぎやしませんかお?」

lw´‐ _‐ノv「んー、んー、ならこうしよう。家賃一万円で良いよ」

( ^ω^)「逝きます」

ξ゚ ゚)ξ「まじで」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:37:49.25 ID:8biDAVNaO
襲い掛かられるかも、と思っていたブーンだがそれは杞憂に終わった。
悪霊達はシューを避けるように道を開けてくれたのだ。
死神の威光のお陰で、何のアクシデントも無く666号室の前に立った。

後に廊下を通った際、ブーンは憑かれる事になるが。

lw´‐ _‐ノv「はい、鍵。狂って部屋を壊しちゃダメだよ」

( ^ω^)「中は案内してくれないんですかお?」

lw´‐ _‐ノv「自分達で見た方が早いんじゃないかな」

遠回しに面倒くさいと言うシューはブーンに鍵を手渡した。
あの世と隣り合わせの部屋の鍵にしては、何の変哲も無い銀色の鍵だ。

ξ゚ ゚)ξ「とっとと入らない? 今日は疲れたわ」

( ^ω^)「そうするお。シューさん、どうもでしたお」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:39:38.78 ID:8biDAVNaO
シューに礼を述べて、ブーンはドアノブの鍵穴に鍵を差し込んだ。
ゆっくりと回すとカチャリと鍵の開く音がした。

lw´‐ _‐ノv「君は死にそうになさそうだね」

ドアが開かれようとした時、シューがボソリと呟いた。
ブーンは顔だけ動かせてシューの様子を見る。
細い目と無表情、死神が何を考えているのか顔では察せない。

lw´‐ _‐ノv「実を言うとこの階の部屋は、人間を弱らせる為に用意したんだよ」

ξ゚ ゚)ξ「……家賃に釣られた人間の魂を刈るのね」

lw´‐ _‐ノv「そう。定期的に魂が手に入るからね。
        医学の進歩やらで最近の人間はタフ過ぎる」

ほんの僅か語気を強くしてそう言うと、シューは二人に背中を向けた。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:41:01.32 ID:8biDAVNaO
lw´‐ _‐ノv「でも、当分の間は無理そうだ」

( ^ω^)「……?」

lw´‐ _‐ノv「君は霊を引き寄せる体質がある。
        そして、霊を離さない体質も兼ね備えている」

ξ゚ ゚)ξ(…………)

(;^ω^)「離さない、ですかお。それが本当なら最悪ですお」

lw´‐ _‐ノv「君、そんな事は言っちゃダメだよ。……まぁ、後は仲良くね」

その言葉を最後に、シューは背景に溶けるように消えた。
暫し立ち尽くしていたブーンだが気を取り直してドアを開けた。

(´・ω・`)「くねくね」


( ^ω^)



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:42:52.15 ID:8biDAVNaO
玄関で待ち構えていたのは奇妙な生物であった。
くねくねしている。
ブーンはこの生物を取り上げた本を読んだ事があった。

( ^ω^)「おおらっしゃああああ!! 僕は全く理解してないZE!!」

ξ゚ ゚)ξ「今の相当危なかったけどね」

ブーンはくねくねをアーティファクトとして居間に飾る事にした。
理解すると発狂してしまう生物はこれから居間でくねくねし続ける。

(´・ω・`)「くねくね」

( ^ω^)「シューさんが脅かすからどんな部屋かと思ってたけど、案外普通だお」

ξ;゚ ゚)ξ「くねくねの先制攻撃を喰らっといてよく言えるわ…」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:44:02.81 ID:8biDAVNaO
ツンは呆れて物が言えず、ブーンを放って部屋を探索し始めた。

ξ゚ ゚)ξ「こっちは和室。お風呂は……キッチンの横か」

ξ゚ ゚)ξ「ふんふん、あら? ベランダからの眺め結構良いわね」

ξ゚ ゚)ξ「このスペースにはお花を飾ろうかしら」

ξ゚ ゚)ξ「もうこんな時間なの? ブーンは何が食べたいのかな…」




ξ#゚ ゚)ξ「――ちょっと待てええぇーーーい!!」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:45:20.38 ID:8biDAVNaO
ξ;゚ ゚)ξ(何で私は同棲生活を満喫しようとしているの?
      違う、違うでしょ。こんな事をしに来たんじゃ…)

ξ゚ ゚)ξ(そうよ。私は隙を見付けてブーンを殺すんだったわ…)

ξ#゚ ゚)ξ(でないと、いつまで経ってもアイツに憑きっぱなしじゃない!)

ツンが鞄からハサミを取り出した。
ハサミは綺麗にヤスリで研がれていて、先端部は丸みが無い。
強くハサミの持ち手を握りしめ、ツンはブーンを探す。

ξ゚ ゚)ξ「フフフ…」

ツンは足音を立てないように、そろりとワックスで磨かれた廊下を歩く。
一つ一つ、部屋を確かめていると洋室間から話し声が聞こえてきた。

ξ゚ ゚)ξ(ここか)



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:46:21.22 ID:8biDAVNaO
( ^ω^)「うーん、君の名前はショボンに決めたお」

(*´・ω・`)「くねくね!」

ブーンはショボンと名付けられたくねくねと仲良く喋っている。
くねくねに握手を求めるブーンは、既に狂っているのかもしれない。

ξ;゚ ゚)ξ(きめぇ)

( ^ω^)「え? ショボンには彼女がいるのかお。羨ましいお」

(*´・ω・`)「くねくねくね」

何やら彼等は意気投合し、会話が弾んでいるらしい。
これはチャンスと、ツンは洋室間に足を踏み入れた。

ξ゚ ゚)ξ(……これでやっと解放される)



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:47:59.12 ID:8biDAVNaO
(´-ω-`)「くねくね……」

( ^ω^)「そんな顔するなお。いつか良い事あるお」

(´・ω・`)「………」

何やら悩み事をブーンに打ち明けたショボンは静かに瞼を開いた。
その目にブーンの真後ろに立つツンの姿が映った。
首元を刺そうと、ツンがハサミを高く振り上げている。

(;´・ω・`)「くね!?」

( ^ω^)「ショボン? 後ろ?」

ξ゚ ゚)ξ「もう遅いッ!」

ブーンが振り向くよりも早く、ツンはハサミを降り下ろした。
尖った刃先が寸分違わず、ブーンの後ろ首に迫る。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:49:23.84 ID:8biDAVNaO
(;´・ω・`)「ッッ!!!」

間に合わない。
ショボンがそう思った時、金属がぶつかる音が洋室間に響いた。

ξ゚ ゚)ξ「くぅ………アンタも憑いてきてたのか」

从 ゚∀从「ブーンは俺の餌だからな」

上下、赤一色の和服を着た女性がツンの前に立ちはだかっている。
女性が手に持っている短刀がハサミを受け止めていた。

( ^ω^)「ハインも来てたのかお?」

从 ゚∀从「当たり前だ! ……そろそろ赤い服着たくなったろ?」

ハサミを短刀の腹で防ぎながらハインと呼ばれた女性はブーンに問う。
ブーンはキッパリと一言で答えた。

( ^ω^)「断る」



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:51:15.78 ID:8biDAVNaO
从;゚∀从「何でだよ! ここは"はい"って答える場面だろ!?」

ツンから離れてハインはブーンに詰め寄る。
激しく体を揺さぶられながら、ブーンは目を逸らして口を開いた。

( ^ω^)「えー? だって、言ったら殺されるお??」

从;-∀从「チッ!」

ハインは舌打ちをしてブーンの体から手を離した。
そして苛立った表情を浮かべ、壁際で胡座をかいた。

从#゚∀从「ツンには"キレイだお"って言う癖に」

ξ*゚ ゚)ξ「それは」

( ^ω^)「好感度うp作戦です」

ξ#゚ ゚)ξ(……)



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:52:31.58 ID:8biDAVNaO
問答系の悪霊は間違った答えを聞くまでは襲う事を許されない。
全く赤い服を着たがらないブーンにハインは苛ついているのだ。

从#゚∀从「あーあ、早く次の人間に憑きたいぜ!」

ハインは愚痴を溢して床に寝転んだ。
赤い和服が大きな血溜まりのように見える。

( ^ω^)「フヒヒ! 残念でした!!」

ブーンはハインの神経を逆撫でする言葉をわざと放った。
しかし、ハインは怒らずに不気味な薄ら笑いを浮かべた。

( ^ω^)「お?」

从 ゚∀从「幾ら霊に耐性があるお前でも流石に終わったな」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:53:49.80 ID:8biDAVNaO
ξ゚ ゚)ξ「それは言えてるわね」

口を閉じたハインにツンが続く。

ξ゚ ゚)ξ「この部屋、一通り調べたけど凄いわよ。
      例えばここの壁」

コンコン…とツンが壁を叩く。
ハインは目を閉じて聞き、ブーンはその様子を見つめる。

ξ゚ ゚)ξ「壁紙の下にびっしりと厄除けの御札が貼られてるみたい」

从 -∀从「それでも昼間からやって来る悪霊」

(´・ω・`)「?」

微動だにしなかったハインがショボンを指差した。
ショボンは理解が行かない顔でくねくねしている。

( ^ω^)「御札の効果が破られる程、この部屋に霊が居るのかお」



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:55:08.41 ID:8biDAVNaO
ツンは一つ頷き、話を進める。

ξ゚ ゚)ξ「日が射す内は大丈夫みたいだけどね。
      でも、夜になればどうなる事やら」

从 -∀从「夜は悪霊だらけのオリンピック!」

(´゚ω゚`)「!」

突然、ハインが拳を天井に向けて威勢良く振り上げた。
ショボンが驚いて一際大きく体をくねらせた。
気が動転しているショボンをブーンが落ち着かせる。

( ^ω^)「心配するなお、ショボン。僕がついてるお」

(;´・ω・`)「……………」

だが、ショボンの顔から恐怖の色が払拭される事はなかった。

ξ;゚ ゚)ξ(逆じゃないの?)



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:56:31.42 ID:8biDAVNaO
ξ゚ ゚)ξ「ま、まぁ、この部屋が危険な事に間違いないわね。
      管理人が言う通り、ここは彼岸と此岸の狭間に位置してる」

从 -∀从「そんなトコに憑かれやすい体質のブーンが足を踏み入れた」

それがどういう事か分かるよな? ハインは目を開けた。
ブーンは腕を組んで次の言葉を待つ。

ξ゚ ゚)ξ「引き返すなら」

从 ゚∀从「今の内だ」

( ^ω^)「――だが断る」

ブーンは二人の得体の知れない重圧に飲まれながらも言い切った。
拒否の言葉を聞いたツンが、鬼のような形相でブーンに食ってかかる。



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:57:47.17 ID:8biDAVNaO
ξ#゚ ゚)ξ「私はアンタの事を思って忠告してあげたのよ!?」

从 ゚∀从「やめとけ。どうせ、ブーンは聞きゃあしない」

ハインが体を起こしてツンを制止する。
そして、大きな欠伸をしてから立ち上がった。

ξ#゚ ゚)ξ「でも!!」

从 ゚∀从「ブーンが憑かれて弱ればチャンスが増えるじゃねーか。
      …つーか、何でお前そんな必死なの?」

ξ゚ ゚)ξ「あ」

ハインの言う通りだ。
憑かれに憑かれて、ブーンが弱まった時にやれば良い。

从*゚∀从「あー……、お前らもしかして好き同士なの?」



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/22(木) 23:58:42.78 ID:8biDAVNaO
ハインが仲良く並んで立つ二人を見て茶化した。
ツンの顔がみるみる内に真っ赤に染まって行く。

ξ////)ξ「ば、ばか! なに言ってんのよ!?」

( ^ω^)「僕はツンの事好きだお」

ξ////)ξ「ちょ、アンタも否定しなさいってば!」

( ^ω^)「ハインも好きだお」

从 ゚∀从「……うれしーねー」

( ^ω^)「そして、今日から仲魔になったショボンも好きだお」

(*´・ω・`)「くねくね!」

ブーンは一人一人に自分の思いの丈を述べて行く。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/23(金) 00:00:28.79 ID:+vGj68FJO
ブーンが洋室間の真ん中に立ち、彼の仲魔達の顔を見回した。
そして、ブーンは誓いを立てるかのような真面目な顔で口を開いた。

( ^ω^)「僕はここに住むお。
        憑かれ過ぎてしんどくなる日もあるだろうけど…。
        でも、僕はこの部屋で仲魔と楽しく暮らして行きたいお」

ξ゚ ゚)ξ从 ゚∀从(´・ω・`)「…………………」

( ^ω^)「もっと友達が増えたら良いお!」

悪霊を友達と呼ぶブーンを、三人が思い思いに見つめる。
ブーンがこの様に温かい性格故、悪霊達は今まで殺せずにいたのだ。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/23(金) 00:01:41.08 ID:+vGj68FJO
( ^ω^)「新生活頑張るおー!!」

ξ゚ ゚)ξ「まじッスか」

从 ゚∀从「新人共にヤキ入れんとな」

(*´・ω・`)「くねくね!」



こうして、つかれやすい体質を持つブーンの新生活が始まった。
ブーンは仲魔を増やし、華々しい学園生活を送る事が出来るのだろうか。


つづく。



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/23(金) 00:06:55.19 ID:+vGj68FJO
今回のあとがき

都市伝説系が好きなのでやってみました。
くねくねが大好きです。
仕事が忙しいので続きいつになるか分かりませんが頑張って書きます。


ブーンはでろでろの留渦タイプで見ると分かりやすいかもしれません。
ストーリー中で某彼みたいに鉄拳制裁はない物と思われます。



戻る第二話