( ^ω^)ブーンはつかれやすい体質のようです
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:24:01.84 ID:/2K+pdfoO
ある少女が、医師に余命3ヶ月と宣告されたそうだ。
難病という程では無い…が、発見が遅すぎた為に手遅れだった。
少女の母親は、その受け入れがたい事実に毎日嘆き悲しんだ。
ある日、少女と仲が良い友達が二人、お見舞いに来たらしい。
母親は『まだ、少女の体の自由が利く内に写真を撮ろう』。
と思い立ち、少女を真ん中に挟んで三人で写真を撮った。
それから一週間後、容体が急変してその少女は亡くなってしまう。
宣告通りの3ヶ月にはまるで届かない、呆気ない死であった。
三人で撮った写真が、少女の人生における最後の写真となった。
ブーンは本をパタンと閉じて眠りに就いた。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:26:43.92 ID:/2K+pdfoO
第三話「残念ですが、なーんて言われたけどね」
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:27:56.15 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「ふぁーあ、よく寝たお」
ブーンの朝は早い。
毎朝決まって、4時44分44秒に目覚ましが鳴るからだ。
そのお陰でブーンは健康的な生活を送っている。
( ^ω^)(今日は入学式の日だお…)
今日はブーンが晴れて大学に入学するおめでたい日だ。
しんと静まり返っている洋室間でブーンは物思いに耽る。
( ^ω^)(……人と仲良くなれるかお?)
遠く故郷では霊達とだけ遊んでいたブーンにとって心配な点だった。
大学に行けば、嫌でも同年代の人間と顔を合わせる。
ブーンは不安をほぐそうとベッドから起き、ベランダへと出た。
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:29:46.53 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「寒っ!」
外はまだ暗く、星がない夜空には赤い半月が登っている。
時折マンションに吹き込む風は、春にも関わらずまだ冷たい。
ブーンは体を震わせ、ベランダの縁に腕を置いて遠くを眺めた。
( ^ω^)(………)
そこには故郷のような山々はなく、都会特有の灰色の建物が並んでいる。
思えば遠くまで来たものだ、とブーンは欠伸混じりの溜め息を吐いた。
( ^ω^)(……まぁ、頑張るかお)
部屋に戻るべくブーンは踵を返そうとした。
すると、
「隙あり」
女性の声と同時、ブーンの背中に硬い物が突き付けられた
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:31:23.61 ID:/2K+pdfo0
- ゆっくりと両手を上げて、ブーンは反抗の意志が無い事を伝える。
しかし、背中に伝わる硬い物の感触は強くなる一方だ。
仕方なく、ブーンは後ろに立つ後ろの女性に声を掛ける。
( ^ω^)「ツン、朝っぱらからひどいお」
ツンはハサミをグッと握りしめて笑い声で返した。
ξ゚ ゚)ξ「霊に朝も夜も無いわ。ただ、やるべき事をやるだけ」
確かな殺意を背に、ブーンはツンと同じく笑みを浮かべた。
静かに両手を下ろしてブーンも笑い声で返事をする。
( ^ω^)「でも、ハサミの持ち手じゃ無理だお」
ξ゚ ゚)ξ「そうね」
ブーンは背中を伝っていた殺意から解放された。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:32:23.92 ID:/2K+pdfo0
- ブーンの隣にツンが並んだ。
( ^ω^)「お」
ブーンが横目で見ると、血が通っていない青白いツンの横顔。
ツンは遠くの景色を見つめていて、ブーンに一瞥もやらない。
( ^ω^)「……………」
ξ゚ ゚)ξ「……………」
ベランダに立つ二人を静寂が包み込む。
妙な沈黙に堪えかねたブーンが口を開こうとする。
( ^ω^)「おっぱ――――」
ξ゚ ゚)ξ「ブーンはやっぱり都会暮らしは不安?」
(;^ω^)「お?」
ブーンが言おうとした言葉はツンの質問に飲まれてしまった。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:33:26.18 ID:/2K+pdfo0
- ξ゚ ゚)ξ「おっぱ?」
( ^ω^)「何でもありません」
ξ゚ ゚)ξ「ふぅん……で、どうなのよ? 都会暮らしは」
ツンがブーンに顔を向けて再び問い掛ける。
丁度、似たような事を考えていたブーンは素直な気持ちで答えた。
( ^ω^)「それは当然だお。……いきなりどうしたお?」
ξ゚ ゚)ξ(…都会にはタチの悪い霊達がひしめいてる。
いくら耐性があってもブーンは人間。
私が守ってあげなくっちゃ)
ξ゚ ゚)ξ(………………って、あれ?)
ツンは自分が抱く気持ちに納得がいかない様子だ。
混乱をきたし、頭を抱るツンへとブーンが疑問の視線を投げ掛ける。
( ^ω^)「???」
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:35:01.57 ID:/2K+pdfo0
- ξ;゚ ゚)ξ(私はブーンの命を奪うのが目的でしょ?
だから、さっきの考えは根本的におかしい訳で……)
思考回路が暴走を起こし、ツンはベランダの縁に頭を打ち付け始めた。
ツンの突然の奇行に、普段胆が座っているブーンも流石に目を丸くする。
(;^ω^)「ツン、落ち着くお!」
ξ#゚ ゚)ξ「いいえ! 落ち着いてなんていられないわ!」
何度も頭をぶつけるツンをブーンが羽交い締めで取り押さえた。
だが、ツンの暴走は止まる気配を見せない。
(;^ω^)「止めるお! それ以上したら死ぬお!」
( ^ω^)「あ、既に死んでた」
ξ#゚ ゚)ξ「止めないでよ! 殺すわよ!!」
ξ゚ ゚)ξ「……………?????」
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:36:38.19 ID:/2K+pdfo0
- 脳内がオーバーヒートし、ツンが頭から湯気を出し始めた。
そして、混乱を極めたツンの抵抗はより一層激化していく。
ξ#゚ ゚)ξ「離せええええぇぇぇぇぇぇ!!」
( ^ω^)「離したら殺されそうだからヤだ」
ξ#゚ ゚)ξ「これでも―――」
( ゚ω゚)「!」
ツンがブーンの足を思い切り踏みつけた。
突然の痛みにブーンの腕の力が抜けて、ツンの体が自由になる。
そして間髪入れず、
ξ#゚ ゚)ξ「喰らいなさい!!」
ブーンの股間へ強烈な蹴りを放った。
( ω )
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:38:02.94 ID:/2K+pdfo0
- ξ;゚ ゚)ξ「はーっ……はーっ………」
( ω )
ツンは荒い息遣いで、足元で気を失っているブーンを見下ろす。
またとないチャンスが訪れた瞬間だが、
明け方の静けさが、ツンの興奮を落ち着かせて行く。
ξ;゚ ゚)ξ「………! ブーン! 大丈夫!?」
多少身勝手な女性、ツンはブーンの上半身を抱き起こした。
しかし反応はなく、ブーンは泡を吹いて気絶している。
ξ;゚ ゚)ξ「い、一体誰がこんな事を………」
他の誰かに罪を擦り付けようと周りを見回したが、
運の悪い事にブーンに憑く悪霊共は居なかった。
ξ;゚ ゚)ξ「だ、誰か……誰か助けてください!!」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:39:00.02 ID:/2K+pdfo0
- *****
从;゚∀从「なんぞ?」
朝食を摂る為、居間に訪れたハインは張りつめた空気に圧倒された。
(#^ω^) ビキビキ
ξ;゚ ゚)ξ「………」
ブーンが料理に手を付けずに、ふてくされた顔で椅子に座っていた。
隣に縮まって座るツンから顔を背けて、あさっての方向を向いている。
何だかんだで仲の良い二人故、ハインにとっては珍しい光景だった。
从 ゚∀从「………あー、夫婦喧嘩か」
(#^ω^)「誰と誰が夫婦だお」
从*゚∀从「はいはい、そう否定してやるなって」
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:40:16.51 ID:/2K+pdfo0
- ハインは赤い袖口をヒラヒラと振りながら悪戯っぽく笑った。
それからブーンの前の席に座って朝食を食べ始めた。
女性とは思えない豪快な食べ方で料理を減らして行く。
(#^ω^)「もっとおしとやかに食べられないのかお」
小さなパンを掴んだ手をピタリと止めて、ハインが一言。
从 ゚∀从「おしとやかに食ったらお前、死んでくれんのか?」
(#^ω^)「……」
从 ゚∀从「何があったのかは知らんが、ツンを許してやれ」
ξ゚ ゚)ξ「ハイン」
ハインが大きく両腕を広げ、語気を強めて言う。
从 ゚∀从「我々、悪霊はか弱い。人間が存在しなければ生きて行けない。
……だから、あまりいじめるなよ」
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:41:20.38 ID:/2K+pdfo0
- ハインは腕を下ろしてパンをかじった。
小さいとはいえ、大人の拳サイズあるパンが半分以上なくなった。
( ^ω^)「ハイン」
从 ゚∀从「んあ?」
( ^ω^)「漫画のパクリ乙」
从*゚∀从「でひゃひゃ! バレてやんの!!」
ξ゚ ゚)ξ「?」
強張っていたブーンの頬が緩み、いつものにこやかな物になった。
漫画に詳しくないツンは盛り上がっている二人を呆然と眺めている。
ハインのジョークで重々しい空気は去り、普段通りの空気が戻ったのだ。
从 -∀从(こうじゃねーとな。殺伐とした空気は堪えられん……)
从#゚д从「――――って、殺伐で良いじゃん!!!」
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:43:10.40 ID:/2K+pdfo0
- 突如、ハインがテーブルを両手で叩き付けた。
心臓に響く音と共に、テーブルの上に置かれた食器類が激しく揺れる。
从#゚д从「俺は何で仲を取り持とうとしてんだ!!」
从#゚д从「ちげぇ! ちげぇだろ! 俺達悪霊はよッ!!」
从#゚д从「人間を奈落に突き落としてこそじゃねーか!!」
椅子を蹴り飛ばすかの勢いでハインは立ち上がった。
そして爪が肌に食い込みそうな程、拳を強く握り締めて空に翳す。
从#゚д从「いつまでも人間染みた生活を送っていても良いのか!?」
从#゚∀从「答えは否ッ! ツン! 今こそブーンを殺めるんだ!!」
ハインが怒鳴り声を上げてツンをビシィッと指差した。
だがしかし、そこにはツンの姿はなかった。
ブーンも居なくなっており、ハイン一人だけが居間に取り残されている。
从 ゚3从「……あるぇ〜?」
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:44:54.72 ID:/2K+pdfo0
- ハインが居間で演説を繰り広げている頃、二人は玄関に居た。
ブーンは一張羅のスーツを着て、慣れない革靴に足を通している。
ξ゚ ゚)ξ「ご飯、食べなくても良いの?」
( ^ω^)「時間がないから良いお。それよりさっきはごめんだお」
ξ゚ ゚)ξ「…ううん、私の方こそごめんね」
二人はお互いに謝り合い、視線を合わせた。
僅かな静寂の後、ブーンはドアノブに手をかけた。
( ^ω^)「憑いて来ないのかお?」
ξ゚ ゚)ξ「初日くらい迷惑かけないようにしてあげるわよ」
変わった悪霊も居るものだ、とブーンから自然に笑みが溢れた。
ツンはブーンの顔を見て、決まりが悪そうに口を尖らせる。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:46:38.00 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「それじゃ、いってくるお」
ξ゚ ゚)ξ「逝ってらっしゃい。通りすがりの悪霊には気をつけるのよ」
( ^ω^)「はいはい」
子供扱いするツンに軽く手を振ってブーンはドアを開けた。
開かれて行くドアの隙間から外界の光が部屋に射し込む。
ξ゚ ゚)ξ(?)
しかし、ブーンの門出を祝う筈の光は優しさがまるで無い。
時間が止まっているかのような、どこか凍り付いた光。
ξ゚ ゚)ξ(ブーンに憑いてる誰かが悪戯でもしてるのね)
ツンは奇妙な違和感を経験則で解釈した。
ツンの考える通りならば、ブーンは対抗手段を知っているので心配はいらない。
バタン。
ドアが閉じられ、外の光は見えなくなった。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:48:00.23 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「ワロタ」
玄関開けたらそこは異世界。
別段、貴重でもないブーンが憑かれた瞬間である。
外に出た筈のブーンは、何故か病院らしき建物の中に立っていた。
清潔感あるリノリウムの白い廊下、規則正しく配置された窓。
( ^ω^)(遅刻するんじゃね?)
腕時計を見たブーンは暗澹たる気分に陥った。
大学生活という物は最初が肝心だ。
大学デビューをする訳では無いが、授業の説明等を聞き逃すと不味い。
( ^ω^)(取り敢えず、ここから脱出しないと)
ブーンはコツコツと革靴の足音を立てて歩き出した。
前から歩いて来る者は誰一人として居ない。
何者かが潜む世界から現世に戻る為、つかれやすい青年は出口を探す。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:49:12.50 ID:/2K+pdfo0
- ………。
二十分程歩いた結果、脱出の手掛かりになりそうなヒントは無かった。
長い一本道の廊下で、上に登る階段やエレベーター、そして出口も見当たらない。
時々、病室を覗いてみたりもしたが人間に敵愾心を燃やす悪霊も居ない。
( ^ω^)「………」
ブーンは立ち止まり、自分が歩いて来た廊下を振り向いた。
遥か向こう側に吸い込まれそうな不気味な静けさが漂っている。
ふと、ブーンが窓の外に目を向けると太陽が天高くに登っていた。
( ^ω^)(この世界は昼なのかお?)
ブーンが部屋を出たのは朝だった。
しかし、現在ブーンが居る世界の時間は昼時のようだ。
昼、この空間を作り上げた主の身に何かが起きたのだろうか。
( ^ω^)(でもそんなのは関係ないお)
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:50:56.14 ID:/2K+pdfo0
- ブーンの第一目標はこの世界を脱出し、笑顔で入学式を迎える事だ。
悪霊を鎮めたり、祓ったり等の漫画に有りがちな事はしない。
それにブーンにはそんな能力は無い。ただ、人より憑かれ易いだけ。
( ^ω^)「もう一度病室を調べてみるお」
ブーンはスライド式の真っ白な扉を開いた。
『ギャー!』
なんて陳腐な悪霊の登場シーンは無く、すんなりと病室に入った。
病室には丁度六人の患者が入院可能なようでベッドが六つある。
その六つともにカーテンが引かれていて中は見えない。
- 44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:52:10.61 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)(ホラーによくあるパターンその1)
ブーンはカーテンを一つ一つ素早く開けていった。
こう言った状況に慣れたブーンにとって、悪霊が現れてくれた方が話は早い。
だが、どのベッドにも悪霊は鎮座しておらず、ブーンの期待は外れた。
( ^ω^)「…まだだお! ホラーによくあるパターンその2!」
何も起こらなくて安心しきった人間の背後には悪霊が付き物だ。
ブーンは願いを込めて背後に振り向いた。
( ^ω^)「あれれ〜?」
しかし、ブーンの背後に立つものは何も存在しなかった。
余程恥ずかしがり屋の悪霊なのだろうか。
遅刻の線が濃厚となり始め、ブーンに焦りが生じる。
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:54:20.66 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「えー? まじでかお?」
ホラーのフラグを試し倒したブーンは首を傾げながら病室から出る。
帰り際、病室の扉で待ち構えているというサプライズすら無かった。
何をしても悪霊が登場する気配は無く、ブーンは途方にくれた。
( ^ω^)「ヤバいお、ヤバいお」
ブーンが此処に来てから凡そ一時間が経過している。
入学式に間に合うには絶望的な時間が進んでいた。
病室の前に立つブーンは溜め息を吐いて腕時計を見た。
( ^ω^)「お?」
ブーンは間の抜けた声を漏らした。
腕時計の針が先程確かめた時と同じ数字を指したからだ。
そして、よくよく確かめれば秒針もピタリと止まっている。
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:55:58.34 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「ここは時間が止まってるのかお?」
再び、ブーンは病室の中へと戻る。
病室の壁に備え付けられている丸型の時計を見れば、
12時45分36秒を指したまま針が止まっている。
( ^ω^)(………)
――ガタッ。
ブーンが腕を組んで時計を眺めていると、物音が無人の病室に響いた。
音が聞こえた方へとブーンが歩を進める。
すると、ベッドの横にある貴重品入れの戸が開いていた。
( ^ω^)(あるある)
貴重品入れを調べると、中には二本のアルカリ性電池と一枚の紙切れが入っていた。
紙切れにはでかでかと赤い文字で『死ね』と書かれている。
( ^ω^)「電池。あと、死ねとか軽々しく使うなお」
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:57:50.92 ID:/2K+pdfo0
- 紙切れは置いておき、ブーンは電池を手に時計の下へと向かう。
時計を眺めている所、見計らったかのように現れた道具が電池なのだ。
悪霊『こ、これ時計に使いなさいよ! そしたら現れてあげるんだから!』
十中八九、ブーンに憑いた悪霊はそう言いたいのだろう。
ブーンは側にあった来客用の椅子を土台にして、時計を取り外した。
( ^ω^)「うほっ!」
電池入れの蓋の中には女性の物らしき、長い髪の毛が詰め込まれていた。
ブーンは恐れる事なく髪の毛を取り除け、二本の電池をセットする。
カチカチ……。
時計の針が動き始めた音。
――パリィン!
遠くで窓ガラスが割れた音。
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 20:59:59.45 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「よっしゃあ!」
歓喜の声を上げ、ブーンは喜び勇んで廊下へと駆け出した。
窓ガラスの割れた音がした方向へと全速力で走る。
( ^ω^)「あそこだお!」
ブーンはガラスの破片が散乱している場所を見つけた。
漸く脱出へと近付き、胸が踊るブーンがその場所で足を止める。
( ^ω^)(ホラーによくあるパターン)
現場に駆け付けて驚いた人間の背後に立つのは悪霊のお家芸だ。
ガラスの破片を一枚拾い上げて、ブーンは"怖がっているフリ"をした。
( ^ω^)「うおお! 何だお! これは一体!!?」
「めっちゃわざとらしいんだけど……」
精一杯演じるブーンの背後から、まだ若い少女の物らしき高い声がした。
ブーンは心の中でガッツポーズを作りながら体を後ろに向けた。
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:02:29.65 ID:/2K+pdfo0
- o川*゚―゚)o「何それ……つまんないんだけど……」
ブーンの目の前に立つのは淡いピンク色のパジャマを着た少女。
リアクションがお気に召さなかったのか、
少女は自身の細い首筋をガリガリと爪で引っ掻く。
o川*゚―゚)o「マジ有り得ないし」
( ^ω^)(………)
少女を怒らせては脱出のヒントが聞けなくなるかもしれない。
そう考えたブーンは必死に驚いているフリをしてみせた。
( ^ω^)「わー、怖い」
o川*゚―゚)o「……こんな屈辱を受けたのは初めてだよ」
ブーンの行動は逆効果だったようだ。
少女の自傷行為が激しさを増し、首筋から血が垂れるまでに発展する。
( ^ω^)(o o←これ何だお?)
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:03:54.94 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「それ以上やったら駄目だお」
o川*゚ー゚)o「あ、無駄に優しさはあるんだね」
少女が首筋から手を下ろした。
そして、黒い空洞のような眼をブーンに向ける。
o川*゚ー゚)o「私の名前はキュー。短い付き合いになるだろうけどよろしくね、ブーン」
( ^ω^)「どうして僕の名前を? …またハインの悪戯かお?」
o川*゚ー゚)o「ハイン? ブーンは昨晩私の事、見てたじゃない」
( ^ω^)「僕が君の事を見てたのかお?」
o川*゚ー゚)o「本で」
( ^ω^)「あー」
- 56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:05:14.47 ID:/2K+pdfo0
- ブーンは額に手を当てて白い天井を仰いだ。
昨晩、大学生活への不安で寝付けずにいた本を読んでいたのだ。
都市伝説の本を。恐らく、少女はその時に憑いたのだろう。
( ^ω^)「キュー、ここから出して欲しいお。大学に行くんで」
台詞の最後の方を強く言い放ち、キューの顔をじっと見る。
ブーンの目に映る可愛らしい顔が、悪霊に相応しい歪んだ笑顔になった。
o川*゚ー゚)o「ここから出る? それは無理な相談だよ」
( ^ω^)(ですよねー)
o川*゚ー゚)o「ブーンには、ここで永遠に生きるか――私に殺されるしか道は無いよ」
貴方には悲惨な末路しかない…キューはブーンにそう告げる。
ブーンは頭を掻いて、あどけない顔の割に残忍な悪霊から目を逸らした。
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:07:14.13 ID:/2K+pdfo0
- ブーンは昨晩読んだ本の内容を一つずつ紐とこうとする。
キューがどの都市伝説に潜む怪なのか分かれば対策を取り易い。
だが病院という、ある種死に近い場所が使われる話は中々に多い。
( ^ω^)(…病院、病院にまつわる話は多すぎるお)
o川*゚ー゚)o「さ、どっちにする? 好きに選ばせてあげるよ」
( ^ω^)(というか、もう遅刻確定だお)
o川*゚ー゚)o「ねー、何で黙り込んでるの?」
(;^ω^)(遅刻→皆に話掛けにくい→ぼっちフラグ)
o川*゚ー゚)o「あ、もしかして私の事が怖くなったのかな」
(; ω )(…これは誰の所為?→キューの所為)
o川*^ー^)o「ねーねー、怖くなったんでしょー」
(#゚ω゚)「―――貴様か!」
- 59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:08:37.22 ID:/2K+pdfo0
- o川;゚ー゚)o「へ?」
突然、ブーンが目を大きく見開いてキューを睨み付けた。
両腕がワナワナと震えていて今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。
キューはブーンのいきなりの変貌に後退りをする。
o川;゚ー゚)o「ちょ……こっちに来ないで………」
(#゚ω゚)「フヒヒヒヒ……フヒヒヒヒヒヒヒ………」
不気味な笑い声を漏らしつつ、ブーンは一歩一歩キューに滲み寄る。
キューは悲鳴を上げ、目に涙を浮かべながら逃げ出した。
どちらが悪霊なのか分からない光景だ。
o川*;ー;)o「きゃーーーー!! 誰か助けてぇーーーーー!!!」
(#゚ω゚)「待つお! 僕はキューに話があるんだお!!」
――立ち止まったら殺される。
キューは病室に飛び込み、急いでベッドの下に潜り込んだ。
- 61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:10:10.81 ID:/2K+pdfo0
- o川*;ー;)o(悪霊退散悪霊退散、南無阿弥陀仏……)
ベッドの下、キューが肩を震わせて仏に祈りを捧げる。
自分が悪霊な事を忘れる程にキューは恐慌に陥っていた。
「ここに入ったお? あぁ、今見付けるお」
o川*;ー;)o(来た!)
病室にブーンが入って来た。
キューの耳に届くカーテンを開ける音が段々と大きくなってくる。
そして、とうとうキューが居る場所のカーテンが開かれた。
「あれ? どこにも居ないお? 僕の見間違いかお」
ブーンの足音が遠くなって行く。
無事、やり過ごせたキューは胸を撫でおろして安堵した。
o川*;ー;)o(ほっ……)
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:11:30.69 ID:/2K+pdfo0
- ベッドの下から這い出たキューは冷や汗を拭った。
o川;゚ー゚)o(何なの? あの人間は)
あの様な気持ちの悪い人間とは一秒たりとも居たくない。
キューは心底そう思ったが、ブーンを現世に戻すには問題があった。
o川; ― )o(……)
キューはどうするべきか思い悩んだ末、気楽な結論に達した。
o川;゚ー゚)o(……まぁ、その内発狂するだろうからほっとこっと)
考えが纏まり、キューは口笛を吹いて病室を後にしようとする。
( ゚ω゚)
o川*゚ー゚)o「〜〜♪ ん?」
全身を舐め回すような視線をキューが感じ取った。
恐る恐る横に並ぶベッドに顔を向ける。
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:13:04.86 ID:/2K+pdfo0
- ( ゚ω゚)
o川;゚ー゚)o
ブーンがベッドの上で仁王立ちをしていた。
悪霊が人間を驚かす時に使う常套手段をブーンは利用したのだ。
元より生気が無いキューの顔が、より一層青冷めて行く。
o川;゚ー゚)o「ま、待ってよ。私達、話せば分かり合える仲じゃない(?)」
( ゚ω゚)「きょーーーーーー!!!!」
キューの制止など聞く耳持たず、ブーンは奇声を発して飛び掛かった。
o川*;ー;)o「!」
飛び付く暴漢。掴もうとする腕。床に押し倒す変態。
キューの双眸に映る全てがスローモーションだった。
( ゚ω゚)「ぐえ」
蛙のような声を出して吹き飛ばされたブーンでさえも。
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:14:26.54 ID:/2K+pdfo0
- *****
( ´ω`)「……お?」
ブーンは目を覚ました。
瞼を擦って不鮮明な視界をはっきりとさせる。
白い天井、側にはカーテン、ブーンは病室のベッドの上で眠っていた。
ξ゚ ゚)ξ「やっと起きたわね。この変態」
( ^ω^)「ツン……? どうしてここに」
ツンはブーンの隣に立って汚い者を見る目で見下ろしていた。
ブーンがゆっくりと体を起こすと、わき腹に鈍痛が走った。
(;^ω^)「いたたたた……お?」
ツンの背後に隠れている少女をブーンは見付けた。
ブーンが四苦八苦する原因を作り出した少女、キューだ。
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:15:30.76 ID:/2K+pdfo0
- o川;゚ー゚)o「まさかバットであんなコト……」
ξ゚ ゚)ξ「しぃー!」
(#^ω^)「キューの所為で初日から大遅刻だお!!」
ξ゚ ゚)ξ「うるさい」
(;^ω^)「痛っ! 何するんだお」
怒鳴り散らすブーンの頭にツンが拳骨を入れた。
ブーンは涙目で自分には非が全く無いと頻りに訴える。
ξ゚ ゚)ξ「女の子に襲い掛かるのはどうかと思うけど」
( ^ω^)「う」
一部始終を見られていたのか、痛い所を突かれたブーンは静かになる。
口をすぼめるブーンの膝に一冊の本が置かれた。
- 73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:16:55.85 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「これは……僕が読んでた都市伝説の本だお」
ξ゚ ゚)ξ「ブーンの部屋を掃除してたら見付けたの。
もしや、と思ってブーンを追ったらここに着いたわ」
呆れ返った口調でツンが説明する。
人より憑かれ易いブーンが、悪意の塊である都市伝説の本を昨晩読んだ。
その時、ブーンの体質に釣られてキューが姿を現したのだった。
( ^ω^)「……ここは一体どこなんだお?」
ξ゚ ゚)ξ「病院と少女……それと写真が登場する話は32頁だけね」
o川;゚ー゚)o「写真!? どうして知ってるの?」
ξ゚ ゚)ξ「ごめんなさい。少女と病院が登場する話は
多かったから引っかけさせて貰ったわ」
o川; ― )o(……)
- 76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:20:05.09 ID:/2K+pdfo0
- キューがツンの側からサッと離れて向かいのベッドの端に座った。
暗い面持ちのキューの横顔を見、ブーンはツンの恐ろしさを再確認した。
ツンは何食わぬ顔で壁に掛けられている時計を見ている。
( ^ω^)(おお、怖い怖い)
ブーンはわざとらしく身震いして本のページを捲って行く。
ツンが言っていた32ページを開き、先ず目に飛び込んだのは絵だ。
溌剌とした表情で描かれている少女が二人。
少女達の間には、車椅子に座った少女らしき者が一人描かれている。
らしき者と呼んだのは、少女が凡そ人間の姿とはかけ離れていたからだ。
少女らしき者の腕には点滴のチューブが延びているので、場所は病室と見てとれる。
( ^ω^)(……)
ブーンは絵から肝心要の文章へと視線を移動させた。
文章の内容を簡潔に纏めると次のようになる。
- 80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:21:59.63 ID:/2K+pdfo0
- ある少女が、医師に余命3ヶ月と告げられた。
母親は少女への無情な死の宣告に悲しんだ。
そんな中、少女と仲が良い友人二人が見舞いに訪れた。
母親は記念にと思い、友人二人の間に少女を挟ませて写真を撮った。
それから一週間ほどして少女は息を引き取った。
葬式が終わって気持ちが落ち着いた頃、母親はあの時撮った写真を思い出す。
母親が娘の最後の写真が収められているフィルムを現像に出した。
しかし、おかしな事に手元に返って来た物には娘の写真が見当たらなかった。
写真屋に聞くと「現像に失敗しまして……」との事。
だが、写真屋の様子が何やら妙なので母親は執拗に迫った。
母親の気迫に圧された写真屋はしぶしぶと少女の写真を見せた。
「見ない方が良いと思いますけれど……驚かないで下さいね」
という言葉を添えて。
- 84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:23:37.13 ID:/2K+pdfo0
- 写真を見た母親は心臓が飛び出そうになる程驚いた。
自分の娘がミイラの如く気持ちの悪い姿で写っていたのだ。
母親は供養をして貰う為、その写真を持ち帰る事にした。
次の日、母親は早速霊能者に供養を頼みに行った。
霊能者によるお祓いの時、娘思いの母親は写真について尋ねた。
あまりにも恐ろしい写真だったので何かの暗示ではないだろうか、と。
すると、霊能者は沈黙して言いたがらなかった。
ここでもやはり、母親はしつこく食い下がった。
無理に頼み込んで漸く話を聞ける事になった。
その霊能者が言うには、
「残念ですが、あなたの娘さんは地獄に落ちました」
なのだそうだ。
- 88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:26:34.15 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「ほう」
ξ゚ ゚)ξ「キューには悪いけど、死が近い娘の写真を撮るなんてどうかしてるわ。
ましてや真ん中に挟んで撮るだなんて」
o川*゚ー゚)o(……)
( ^ω^)「きっと、お母さんは娘さん思いだったんだお」
ブーンは遠回しに攻撃されているキューを擁護した。
ツンが肩を竦めて溜め息を吐く。
( ^ω^)「話は分かったけど、ここから脱出するのと関係あるのかお?」
ブーンはまだ時計を眺めているツンの横顔に視線を遣る。
話の内容ではキューの世界から出られる方法が思い浮かばなかった。
ξ゚ ゚)ξ「大有りよ――写真を渡して頂戴」
そう言うと、ツンは時計からベッドに座るキューを視線を移した。
キューはツンの空気の変わり様に恐怖を抱き身構えた。
ツンがポケットからハサミを取り出してキューに近寄る。
- 91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:28:11.31 ID:/2K+pdfo0
- o川;゚ー゚)o「!」
危険を察知したキューは廊下に続く扉へと脱兎の如く逃げ出す。
しかし、いざ扉を開けようとした際、キューに異変が襲う。
いくら力強く扉を引いても開かなかったのだ。
o川;゚ー゚)o「なんで!?」
ξ゚ ゚)ξ「貴女ごときが私に敵うとでも?
ああ、姿を消そうとしても無駄だからね。
姿を消すよりも先に貴女の心臓を貫くから」
( ^ω^)「やめるお!」
ツンが口だけで、本当はやるつもりは無い事を知っているブーンだが、
恐怖で萎縮しているキューがいたたまれなくなって一喝した。
そして、ベッドから降りて軋むわき腹を押さえながら駆け寄る。
(;^ω^)(この痛みは何なんだお?)
- 92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:29:39.45 ID:/2K+pdfo0
- ξ゚ ゚)ξ「何? ここから出たくないの?」
( ^ω^)「僕達は話せば分かり合える仲なんだお」
何処かで聞いた言葉を用い、ブーンが二人の間に割って入る。
扉に背中を預けて完全に力を失っているキューの肩に腕を通した。
ξ゚ ゚)ξ「……私が悪者って訳ね。実際、悪霊だからそうなんだけど」
ツンはマスクに手を当てて視線を床に落とした。
これ以上空気が重苦しくなるのを避ける為、ブーンは慎重に言葉を選ぶ。
( ^ω^)「おっ――――いや、写真って何の事だお?」
ξ゚ ゚)ξ「おっ? …その娘の母親が撮った写真の事よ」
o川* ― )o(………)
ξ゚ ゚)ξ「カメラに撮られた時、その娘に悪霊がとり憑いた。
それと同時に悪霊の手によって地獄に落とされたのよ」
- 93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:31:18.17 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「地獄かお」
ξ゚ ゚)ξ「そう、写真の中の世界に閉じ込められた」
( ^ω^)「だから時間が止まってたのかお」
キューは命を落とした後、写真の中へと悪霊に連れて来られた。
理不尽な死、更にその後待ち受けていたのは永遠の監獄生活。
牢獄で長い月日が流れるにつれ、生ある者に憎悪を抱き始め、
キュー自身も悪霊になってしまったのだ、とツンは説明する。
ξ゚ ゚)ξ「写真をどうにかすれば現世に戻れるわ」
( ^ω^)「どうにかって……でも、肝心の写真はどこに?」
o川* ー )o「あるよ」
キューはボソリと不適に呟いた。
二人の視線が写真という名の牢獄に囚われた悪霊に集まる。
- 96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:32:50.16 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「あるなら早く渡して欲しいお。大遅刻でも行くんで」
o川*゚ー゚)o「はい」
キューは素直にポケットから写真を取り出してブーンに手渡した。
薄汚れた写真の中央には確かにミイラとして写っている少女が居る。
( ^ω^)「素直で良い娘だお」
o川*゚ー゚)o「ありがと……でも、君達はここから抜け出せないよ」
( ^ω^)「?」
キューはブーンから体を離し、窓際へと歩いて行く。
足取りは軽く、口笛を吹く後ろ姿からは嬉しさが滲みでている。
( ^ω^)「キュー?」
ブーンが呼び掛けるとキューはくるりと振り向いた。
子供特有の得意満面な笑みで、全く悪びれる様子もなく告げる。
- 97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:34:51.32 ID:/2K+pdfo0
- o川*゚ー゚)o「私には君達を元の世界に戻す力なんてないから。
写真、霊能者が無理だったんだからどうにも出来ないよ。
私が正気を保っていた頃、何度も色々と試してみたし」
o川*^ー^)o「だから、私と、私の世界で生きながら――死ねば良いよ」
笑顔から悪意が感じられないのが逆に不気味だった。
感極まったキューは姿を消して病室を荒らし始めた。
カーテン、窓ガラス、時計……様々な物が壊されて行く。
( ^ω^)「んー、どうすれば良いんだお」
ブーンは病室の散乱具合を気に止めず、写真を見つめて考えている。
霊能者が匙を投げた呪いの品。
一般人のブーンには解呪方法が皆目検討もつかない。
( ^ω^)「ぬー…………」
唸り声を上げて悩むブーンからツンが写真を取り上げた。
- 98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:36:05.19 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「あっ」
ξ゚ ゚)ξ「なーに難しく考えてんのよ」
( ^ω^)「ツンには良い考えがあるのかお?」
ξ゚ ゚)ξ「馬鹿言わないで。私は昭和の時代から生きてるのよ。
ブーンみたいなゆとりには負けないわ」
( ^ω^)「ゆとり……」
項垂れるブーンを尻目に、ツンはハサミの刃を写真に当てた。
途端、病室で暴れ回っていたキューの動きが完全に止まる。
o川;゚ー゚)o「だめ!」
ξ゚ ゚)ξ「あらあら、戻す力は無いって言ったのは嘘だったのね」
姿を現したキューに向けてツンは悪戯な微笑みを送る。
キューは相当な焦りの色を顔に浮かべていた。
ハサミの刃が写真の端をほんの少し切り裂いた。
- 101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:37:49.55 ID:/2K+pdfo0
- o川;゚ー゚)o「やめてーーーーーーーーー!!!」
キューは正に悪霊と呼べる程の凄まじい形相で飛び掛かった。
ξ゚ ゚)ξ「案外、自分から進んで地獄に落ちたんじゃないの」
死に物狂いでキューは写真に手を伸ばす。
o川; ― )o「――――ッ!」
残り1メートル、50センチ、20センチ、5センチ…。
届かない。
キューの手がツンが持っている写真をかすめた。
「アンタ、そんな顔してるって」
キューの牢獄は真っ二つにハサミで切り裂かれた。
- 102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:38:59.13 ID:/2K+pdfo0
- *****
明るい春の陽射しがマンションの廊下に差し込んでいる。
遠くから子供達が仲良く遊ぶ騒がしい声や、鳥の鳴き声が届く。
ブーンとツンは元の世界へと戻る事が出来たのだ。
( ^ω^)「キューは残念とは思ってないのかお? …だとしたらお母さんが」
ξ゚ ゚)ξ「さぁ。悪霊の考える事なんて分かんないわ」
( ^ω^)「悪霊のツンでも分からないのかお」
ξ゚ ゚)ξ「人間のブーンは他人が考えている事が分かるの?」
子供達の声、鳥の鳴き声、そして全ての生活音が途絶えた。
ブーンは無音の中で人間ではないツンの黒い双眸を見つめた。
そして、
( ^ω^)「どうだろうかお」
酷く曖昧な答えを口にした。
- 103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:40:38.70 ID:/2K+pdfo0
- ξ゚ ゚)ξ「……ふふっ、ブーンらしいわね」
ツンはマスクに手を添えて小さな笑い声を溢した。
それに釣られてブーンの頬も緩む。
( ^ω^)「じゃあ、遅刻も良いとこだけど行って来るお」
ξ゚ ゚)ξ「いってらっしゃい。悪霊に……は言ったっけ」
ξ゚ ゚)ξ「車に気を付けるのよ」
ツンは母親のような注意をしてブーンの背中を見守る。
そうしていると、ブーンの歩が止まった。
ブーンが振り向いて、照れ臭そうな顔で礼の言葉を述べた。
(*^ω^)「助けてくれてありがとうだお!」
言い終えると直ぐ様、エレベーターに向かって駆け出した。
ツンは見えなくなったブーンの背中に小さく呟いた。
ξ゚ ゚)ξ「……ばーか」
- 104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:41:57.99 ID:/2K+pdfo0
- ( ^ω^)「ワロタ」
エレベーターに乗りこめばそこは異世界。
別段、貴重でもないブーンが憑かれた瞬間である。
学習机、ランドセル、床に散らばった教科書……。
ブーンは何処かの民家の子供部屋に立ち尽くしていた。
( ^ω^)「遅刻ってレベルじゃねーぞ!」
「死ぬまで憑いて行くから精々頑張ってね」
まさかの連戦に憤るブーン宛に応援のメッセージが届いた。
聞き覚えのある少女の声、ブーンは天井を見上げた。
( ^ω^)「キュー」
悪霊である彼女もご多分に漏れず、
つかれやすい体質の青年に憑いて来たのだった。
つづく。
- 107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/29(木) 21:43:13.12 ID:/2K+pdfo0
- 今回のあとがき。
本当に右腕と右足が麻痺してるので辛かったです。
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