( ^ω^)ブーンはつかれやすい体質のようです
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:11:46.57 ID:QXk/wGbCO
- 少女は、窓辺に座り、青空を見上げながら缶コーヒーを飲んでいる。
遠くからは微かに蝉の声、昨日よりは涼しく感じる七月の十六日。
空になった缶を畳に置き、色褪せた日捲りカレンダーに目を遣った。
「七月、十七日」
最近、道を見下ろすと、変わった男性を目にする事がある。
にこやかな男性。雰囲気から察するに大学生のようだ。
…それは別にどうでも良い。男性の背後に居る者達が面白いのだ。
「あ、また、来た」
男性の背後には明らかに人間では無い存在が憑きまとっている。
飛頭蛮、くねくね、マスク……特に口裂け女と仲が良いらしく、
口裂け女と楽し気に会話をしている男性の姿をよく見掛ける。
そして、何故かは知らないが、男性は悪霊達を全く恐がっていない。
あの仲間の輪に入るのも良いかも、と愚かな事を思ったりもするが、
少女の目的は友人を作る事では無く……………。
「んー」
他の幽霊さん達は、どんな風に憑いているのだろうか。
男性に憑く事に決め、少女は、少女なりの憑き方を考え始める。
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:13:01.45 ID:QXk/wGbCO
第六話「星降る夜に私を想うということ」
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:14:28.68 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「……クーはゾンビにでも転職したのかお」
茹だるような暑さの中、ブーンが大学から帰り、居間に入ると、
描写を拒否したくなる外見となったクーが椅子に座っていた。
川メメメメメ゚ -゚)「人面犬と勝負をしてね。退けたが、中々手強かった」
从 ゚∀从(メメメメメ)
クーは誰もが恐れを抱く大悪霊になる為、日夜、修行に励んでいる。
今日は近所に住む、人面犬に挑戦状を叩き付けたらしい。
( ^ω^)「人面犬ってでかいのかお?」
川メメメメメ゚ -゚)「いや、小型犬くらいの大きさだな」
小型犬を相手に、どうやったらその様な傷を付ける事が出来るのか。
眉を潜めるブーンに、椅子に腰掛けて漫画を読むハインが説明する。
从 ゚∀从「人面犬が威嚇→クー逃げだす→首無しライダーに撥ね飛ばされる」
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:15:57.98 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「待て、最後のは大事じゃないか」
首無しライダーと言えば、中型のバイクに乗っているイメージだ。
そのような物に轢かれれば、誤って成仏してしまうかも知れない。
从 ゚∀从「いや、相手自転車だったし」
( ^ω^)「自転車!」
健康的な悪霊も居るモノだ。それよりも治療費は……いらないか。
ブーンは鞄を床に無造作に放り投げて、クーの隣の席に腰掛けた。
川メメメメメ゚ -゚)「ハイン、嘘はそこまでだ。私は立派に戦っただろ」
从 ゚∀从「ああ、両手を上げて立派に逃げたな!」
川メメメメメ゚ -゚)「貴様!」
自尊心を傷付けられ、クーはハインに食って掛かろうとした。
しかし、身体があちこち痛むのか、ゆっくりと椅子に座り直す。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:17:11.52 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「……クーは傷の治りが遅いお」
満身創痍のクーを横目で見遣り、ブーンがふと口を開いた。
伊藤は胸を貫かれたにも関わらず、あっという間に傷口が塞がった。
体質の違いだろうか。ハインは漫画を読み終え、テーブルに置いた。
从 ゚∀从「治癒の速度は力の強さに比例するんだぜ」
つまり、知名度が高く強い悪霊程、中々倒れないという事である。
誰もが知る大悪霊が簡単に討たれてしまえば笑い話にもならない。
ブーンは首を動かせて、落ち込んだ表情のクーの横顔を眺める。
川メメメメ゚ -゚)
( ^ω^)(やっと"メ"が一つ消えたーーーーーーーーー!!)
だがこれ以上、クーを会話のネタにするのは可哀想だと思い、
ブーンは一度だけ頭を掻いて、無理矢理に話題を変える事にした。
( ^ω^)「――――ドヴァ帝国について話そうか」
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:19:59.08 ID:QXk/wGbCO
- 从 ゚∀从「あん? ド……何だそりゃ」
( ^ω^)(しまった)
从 ゚∀从「何処の国の話だよ」
何の考えも無しに話題を逸らそうとした結果がこれなのだ。
妙な話題を振ってしまった。ブーンは再度、話を変えようとする、が。
川メメメメ゚ -゚)「ドヴァ帝国、ルーフレンテが統治する架空の国だな」
( ^ω^)「……え?」
从 ゚∀从「架空? どういうこった?」
ブーンが口走ったマニアックなネタに、意外にもクーが食い付いた。
もしかして、クーも某掲示板住人でそう言った話が好きなのか。
口にしそうになるブーンだが、途中で考え直し、言葉を飲み込んだ。
( ^ω^)(クーはインターネット生まれだったお)
クーは縦読みコピペから生じた存在、ネットのネタに詳しいのだろう。
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:21:39.78 ID:QXk/wGbCO
- 川メメメ゚ -゚)「インターネットに晒された架空の国の物語だ」
( ^ω^)「…クー、VIP大魔法言えるかお?」
川メメメ゚ -゚)「勿論だとも。…ル・ラーダ・フォルオル、フレグランス・ド・フラワー」
( ^ω^)「ディアボリック・デスバースト(死魔殺炎烈光)」
( ^ω^)「―――エターナルフォースブリザード!!」(゚- ゚メメメ川
从;゚∀从「は?????」
軽々とVIP四大魔法を唱えきった二人の前にハインはたじろいだ。
途端にみなぎり始めたブーンとクーを、ハインが呆然と眺める。
从;゚Д从「……俺、こういう時、どんな顔すれば良いか分かんね」
( ^ω^)「マホカンタを唱えれば良いと思うお」
マホカンタという物は知っているが、一体何故それが出て来たのだ。
ハインは二人の話について行けなくなり、白旗を上げてしまった。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:23:28.84 ID:QXk/wGbCO
- 从;-∀从「これだからパソコンってのは理解出来ん……」
ハインは言うが、これらは特に覚える必要が無い知識である。
と言うよりも、覚えた所で学校や会社で使える代物ではない。
黒歴史の痛みを分かち合うのはVIPに棲まう者達だけで充分なのだ。
そう、私達だけで充分なのだ…………。
( ^ω^)「おっお、クーは詳しいお」
川メメメ゚ -゚)「うむ。インターネットでの出来事は大体覚えている」
川メメメ゚ -゚)「……!」
此処でクーは何やら閃き、椅子を転がす勢いで立ち上がった。
両手をテーブルの上に置きながらクーは虚空を見つめている。
川メメメ゚ -゚)(インターネット上の知識は悪戯に使えるのでは)
インターネットには人間を恐怖に誘うネタが方方に転がっている。
それらに詳しい長所を活かしたヤり方を思い付きそうになったのだ。
パソコンを借りると告げ、クーはブーンの部屋に走り去って行った。
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:25:01.02 ID:QXk/wGbCO
- 从 ゚∀从「何だ、アイツ」
( ^ω^)(秘蔵フォルダは覗くなお)
その時、玄関の方からガチャリと扉が開く音が聞こえた。
スーパーに買い物(?)に行っていたツンが帰って来たのだろう。
ハインはニヒヒと悪戯ぽく微笑んで、ブーンを囃し立てる。
从 ゚∀从「嫁さんが帰って来たようだぜ。出迎えてやらねぇか」
( ^ω^)「だーれが嫁さんだお」
从*゚ω从「ツンが。毎晩毎晩、変な事してんじゃねーよ」
(#^ω^)「してないお! ツンはただの友達だお!」
とは言ったが、ツンは毎日食事を作ってくれる大切な存在である。
仕方無く、ブーンは椅子から腰を上げて玄関に向かった。
从 ゚∀从「ツンデレめ」
从 ゚∀从(……クーにパソコンを教えて貰うか)
…悪霊にも時代最先端の知識は必要だろう。
ハインは壁をすり抜けてブーンの部屋へと消えて行った。
- 25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:26:41.68 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「おかえりだお」
ξ゚ ゚)ξ「あら、出迎えだなんて珍しい。ただいま」
( ^ω^)「し、仕方無くなんだお。かかか、勘違いすんなお」
ξ゚ ゚)ξ「?」
ブーンは吃って言い、ツンが提げているカバンを持ってあげた。
カバンはズシリと重く、中には大量の食材が入っている。
玄関で靴を脱ぐツンの手をそっと握り、ブーンが支える。
何故、この二人が恋人関係では無いのか、不思議である。
ξ゚ ゚)ξ「あ、そうだ。ブーンにお客さんが来てるわよ」
靴を脱ぎ終えたツンがブーンに顔を上げて言った。
客、人間が苦手なブーンの表情が険しい物になって行く。
ブーンの様子を見て、ツンが優しい声でなだめる。
ξ゚ ゚)ξ「大丈夫よ、人間の方じゃないお客さんだから」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:28:12.59 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「それなら安心だお!」
霊の客と聞いて表情を和らげるブーンはどうかしている。
ツンが扉の外に待たせている客人に呼び掛け、招き入れる。
ξ゚ ゚)ξ「良いんだってさ、入って頂戴な」
すると、扉の音を一切立てず、玄関に一人の少女が姿を現した。
扉をすり抜けた。少女が人間以外の存在である証明だ。
(゚、゚トソン「こんにちは」
( ^ω^)「こん…にちは?」
客と聞かされ、知人だと思っていたが、全く面識が無い少女だった。
部屋に訪れた少女は、ブーンの年齢とそう変わら無さそうだ。
飾り気の無い服装をし、人の良さそうな顔付きをしている。
首に自殺に用いそうなロープを通している事以外は、至って普通だ。
( ^ω^)「あの、僕に何か御用ですかお?」
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:30:02.99 ID:QXk/wGbCO
- 少女は落ち着いた物腰でブーンに突然訪れた理由を話す。
(゚、゚トソン「貴方に憑きに来たんです」
( ^ω^)「新鮮だ」
ブーンは吃驚した。
無茶苦茶な憑き方をする悪霊の中にも律儀な悪霊が居る物だ、と。
少女は思い出したようにブーンへとビニール袋を差し出した。
(゚、゚トソン「これ…お近づきのしるしに…どうぞ」
( ^ω^)「なん……だと……?」
此処まで丁寧な憑き方をする悪霊は、生まれてこの方初めてだ。
感動に打ち震えながら、ブーンは少女からビニール袋を受け取った。
カバンよりも重い、チラリと中を覗けば大量の茶色い缶が見えた。
( ^ω^)「缶コーヒーかお」
(゚、゚トソン「……お二人って本当に仲が良いんですね」
ブーンとツンは、繋いだままだった手を急いで離した。
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:32:06.05 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「汚い部屋だけど、どうぞだお」
ξ#゚ ゚)ξ「全然掃除をしないアンタが言うな」
(゚、゚トソン「お邪魔します」
ブーンは少女に好印象を抱き、居間へと招き入れる事にした。
少女に椅子に座るよう促し、ブーンは缶コーヒーを冷蔵庫に詰め始める。
冷蔵庫の冷気に当てられている中、ふと、思い出した事があった。
( ^ω^)「何で憑いたんだお? ……殺す為に決まってるか」
悪霊のほとんどはヤる為に憑く。ショボンの様な例外も居るが。
暫しの沈黙の後、背後から聞こえて来た声がブーンの腕を止めた。
(゚、゚トソン「いいえ、成仏がしたいんです」
憑き殺しに来たのではなく、少女は成仏がしたくて憑いたらしい。
成仏を求めて憑いた悪霊も生まれてこの方、初めてだった。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:34:06.59 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「成仏って……一体何故?」
ブーンは冷蔵庫を閉じ、少女に振り向いて問い掛けてみた。
すると、少女は俯き加減に蚊の鳴くような小さな声で口を開た。
(-、-トソン「何だか、幽霊として生きるのに疲れたんですよ」
少女は顔を上げ、ブーンを真っ直ぐに見て今度は力強い声で言う。
(゚、゚トソン「私は、もう一度、人間として生きたい」
以前、ツンが悪霊にも色々居るという事を言っていた気がする。
本当に色々居るようだ。無数に存在する人間と同じように。
(゚、゚トソン「どうやって成仏しようか街中で考え込んでいる時に、
口裂け女さんに出会って、良い人が居ると教えて貰いました」
ξ゚ ゚)ξ「ツンよ」
台所でコーヒーメーカーで珈琲を淹れているツンが言った。
少女はツンに向け、笑顔で小さく頭を下げる。本当に律儀なようだ。
ブーンは少女の前に座り、テーブルに手を置いて自己紹介を始める。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:36:39.32 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「僕は内藤ホライゾン。あだ名のブーンで良いお」
(゚、゚トソン「発音に苦しむあだ名ですね」
( ^ω^)「……誰かにも言われたような。君の名前は?」
(゚、゚トソン「私は都村トソンと言います。そこら辺に居る陳腐な幽霊です」
( ^ω^)「おk。これからはトソンって呼ぶお」
トソンは深々とお辞儀をし、首を少しだけ傾けてはにかんだ。
こんなにも悪意の無い相手が今までに居た事があっただろうか。
ブーンの脳内でトソンへの好感度が、グングンと急上昇していく。
( ^ω^)(やべ、伝説の木の下で告白したくなって来た)
告白は冗談ではあるが、トソンは見掛け通りに気の良い人物だった。
照れて頬を掻くブーンに、トソンが胸元に片手を置いて語り掛ける。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:39:29.28 ID:QXk/wGbCO
- (゚、゚トソン「ツンさんに聞けば、ブーンさんは霊を恐がらないそうじゃないですか」
( ^ω^)「まぁ、千に近い数に憑かれたら、それは」
(゚、゚トソン「千。いやぁ、凄まじい人なんですね」
( ^ω^)(凄まじい人……)
この場の雰囲気に慣れて来たのか、トソンの表情がほぐれて来た。
トソンは胸の前で両手を合わせて、立て板に水が流れる様に話す。
(゚、゚トソン「悪霊を恐がらないブーンさんに成仏を頼みたいんです。
普通の人間に頼んだら絶対に逃げ出してしまいますし。
…悪霊に持ち掛けたって、勿論無理じゃないですか」
( ^ω^)「お」
素直な物言いをするトソンに対して、ブーンは気を許した。
ブーンは、トソンの奇妙な依頼を引き受ける事にする。
( ^ω^)「何時になるか分からんけど、成仏させてあげるお」
- 44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:41:56.91 ID:QXk/wGbCO
- (゚、゚*トソン「本当ですか!? 有り難う御座います!!」
( ^ω^)「まぁ、僕なりに頑張ってみるお」
ξ- -)ξ「安請け合いして…。どうなっても知らないわよ」
二人が会話をしていると、ツンがトレイを持ってやって来た。
ツンが珈琲をテーブルに置くと、香ばしい匂いが居間に漂った。
トソンはカップを手に取り、鼻先へと近付けてから口の中に含む。
(゚、゚トソン「イーストコ。ツンさんは珈琲がお好きなんですか」
カップを口から離すと、二、三度何やら顎を動かせてから言った。
トソンの言葉にツンは驚いたようで少々声を上擦らせて問う。
ξ゚ ゚)ξ「! 利き珈琲が出来るの?」
(゚、゚トソン「珈琲が好きなので。サンマリノと迷いましたが」
ξ゚ ゚)ξ「……凄い。当たってるわよ」
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:46:14.99 ID:QXk/wGbCO
- 珈琲なんて飲めれば良いや、と思うブーンには二人の会話は意味不明だ。
因みに、イーストコとサンマリノは味も香りも似て、判別し難い。
ブーンは珈琲談義に花を咲かせる二人に、冷たい視線を送りながら珈琲を啜った。
( ^ω^)(飲めれば良いじゃん!)
( ^ω^)「あ、そう言えば、成仏の方法はどんなだお?」
ブーンはカップを置いて二人の会話に割って入った。
折角、楽しく話をしていた所に水を差され、ツンが目尻を吊り上げる。
ツンからブーンに視線を戻し、トソンは力無く肩を落として言う。
(゚、゚トソン「……それが、よく分からないんです」
( ^ω^)「パードン?」
伊藤の時みたいに力技か、それとも除霊術の類いが必要なのか。
どちらにしろ、分からないのであれば、成仏は難航を極めてしまう。
だが、トソンは成仏を諦めていないようで、一度短く言う。
(゚、゚トソン「明日」
- 58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:48:27.49 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「明日?」
ブーンが聞くと、トソンはハッキリとした口調で言った。
(゚、゚トソン「明日、一緒に方法を調べて頂けませんか?
私が住む部屋…近所なんですが、ヒントがあるかも知れません」
( ^ω^)「どうせ大学に友達居ないから…おっと。夕方からなら良いお」
トソンは微笑んで、カップを手に持って珈琲を飲み始める。
とその時、ブーン家の問題児、ハインとクーが居間に入って来た。
そう言えば、ハインの姿が無くなっていたが、クーと一緒に居たのか。
从 ゚∀从「クーに聞いて、ちょっとはパソコンが分かって来たぜ」
川メメ゚ -゚)「それは良いが、他人のファイルを勝手に消すのはやめろ」
从 ゚д从「だって"秘蔵"って書かれてるとサァ……」
(#^ω^)「ハインコルアアアアアア!!」
- 62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:50:14.75 ID:QXk/wGbCO
- (゚、゚;トソン「わ」
ブーンの突然の怒鳴り声に驚き、トソンはカップを落としてしまった。
フローリングに破片が散らばり、黒い液体が汚して行く。
突然の音に、居間に居る者達全員の視線がトソンに集中する。
(゚、゚;トソン「ご、ごめんなさい」
ξ゚ ゚)ξ「良いのよ。雑巾を持って来るから、そのままにして」
ツンが言うが、トソンが慌てた様子で散らばった破片を拾い上げる。
すると、トソンは小さく声を漏らした。破片で指を切ったらしい。
指先に流れる少量の血。…それが一瞬にして消え去ってしまった。
( ^ω^)(……)
ブーンはハインへの怒りを忘れ、トソンの指をジッと見つめている。
クーよりも治癒が速い陳腐な幽霊は、掃除をするツンに謝り続ける。
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:52:19.12 ID:QXk/wGbCO
- ****
ちょっとした騒動の後、ハインとクーにトソンを紹介した。
最初は怖がっていたクーだが、トソンの柔らかい物腰に打ち解けた。
ハインは弱そうな幽霊に興味は無いようで、何処かに遊びに行った。
今はツン、トソン、クーの三人がテーブルを囲んで談話している。
ブーンはその側でソファーに座り、テレビを見ながら考えている。
( ^ω^)(……力が強ければ傷の治りが速い、かお)
ブーンはトソンの言葉を信じて彼女が普通の幽霊だと思っていた。
しかし、一瞬にして指の傷が血ごと完全に消えてしまったのだ。
伊藤に聞けば、それだけの治癒速度は相当なモノとのこと。
ブーンはゆっくりと視線を動かし、白濁とした目の少女を眺める。
川メメ゚ -゚)「珈琲なんて飲めれば良いだろ」
クーの傷はまだ癒えていない。悪霊の彼女ですらあの治癒速度。
これはもしかすると、トソンは名のある悪霊なのかもしれない。
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:54:22.00 ID:QXk/wGbCO
- 三人の会話が終わったのを見計らい、ブーンはクーを呼び止めた。
クーは振り向いて、ブーンに面倒臭そうな表情を向ける。
川メメ゚ -゚)「何だ? 私は君と違って忙しいのだよ」
そうは言うクーだが、右手にはハインから借りた漫画を持っている。
ブーンは椅子に座っているトソンに聞こえないよう、小声で言う。
( ^ω^)「ちょっと調べて欲しい事があるんだお」
川メメ゚ -゚)「私の力を借りる気か。その代償は大きいぞ」
( ^ω^)「ハーゲ○ダッツでどうだお」
川メメ゚ -゚)「ッ! …任せたまえ」
交渉が成立し、ブーンはクーを連れて居間から出て行った。
その二人の様子を珈琲を啜りながらトソンがジッと眺めていた。
(゚、゚トソン(……)
トソンは首に掛けられているロープをそっと撫でた。
- 69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:56:26.10 ID:QXk/wGbCO
- 自室に入ると、ブーンはパソコンの前にクーを座らせた。
キーボードに指を走らせ、遊びながらクーはブーンに問い掛ける。
川メメ゚ -゚)「で、何を調べて欲しいんだ?」
( ^ω^)「トソンの事についてだお」
川メメ゚ -゚)「……彼女は悪い幽霊には見えんがね」
ブーンの言葉を、何らかの警戒をしているとクーは読み取った。
しかし、ブーンは首を横に振り、その意見に対して否定の念を示す。
( ^ω^)「例え、正体が恐ろしい悪霊でも変わらずに接するお。
今はトソンの言葉を信じて成仏の手掛かりを探すお」
川 ゚ -゚)「君は私達みたいに嘘を吐く事を覚えた方が良い」
そんな青臭いセリフを真顔で言うから、皆離れられないんだ。
そう呟き、クーはキーボードに走らせていた指を止めた。
川メメ゚ -゚)「…さて、どうやって調べようか」
- 72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 16:58:43.11 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「んー」
トソンから得られた情報は本名と、珈琲好きな事と、ロープ。
本人に聞くのも良いが、何らかの事情があるから嘘を吐いたのだろう。
聞くのも気が引け、数少ない情報からトソンの正体を知り、成仏を目指す。
( ^ω^)「どうしたモノかお」
川メメ゚ -゚)「そう言えば、トソンの首。アレは首を吊ったんだろうね」
( ^ω^)「やっぱりそう思いますよね」
悪霊のクーが言うのだ。トソンの死因は首吊り自殺で間違いない。
腕を組んで唸るブーンに、クーがディスプレイを眺めながら低い声で言う。
- 76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:00:39.29 ID:QXk/wGbCO
- 川メメ゚ -゚)「……ブーンは自殺者の末路を知っているか?」
( ^ω^)「末路?」
顎を一度上下させ、クーはマインスイーパーを起動させて話を続ける。
川メメ゚ -゚)「自殺をした人間は死しても尚、死に続けるのだ。
飛び降りなら、飛んではやり直しの繰り返し。
首吊りなら、首を吊っては………あれ?」
地雷撤去に失敗したクーは、ディスプレイを覗き込んで首を傾げる。
一頻り凹んだ後、もう一度、ゲームをやり直し始めた。
川メ゚ -゚)「千や万では到底足りない苦しみ、痛みを与え続けられる。
言うなれば、自殺者には無限の地獄が待っているのだよ」
( ^ω^)(……)
クーはマウスの動きを止めた。今度は地雷撤去に成功したようだ。
椅子をくるりと回転させて、クーはブーンに体を向けた。
- 80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:03:17.31 ID:QXk/wGbCO
- 川メ゚ -゚)「だが、どうやったのかトソンは地獄から抜け出せたようだ。
けど、解放された彼女が今を生きる人間共を見て何を想うか。
……失礼、地獄ってヤツは酷く粘着質みたいだな」
トソンが幽霊として生きている限り、地獄は付きまとうのだ。
成仏を願う彼女は世界を、どのような想いで捉えているのだろうか。
ブーンは大きく深呼吸をしてから、クーに次のように頼んだ。
( ^ω^)「"都村トソン"で検索を頼むお」
まさか本名でトソンに関する都市伝説が出るとは思えないが、
これくらいしか、検索に使えそうなキーワードが無かった。
川メ゚ -゚)「分かった。このクー様の力、目に焼き付けるが良い」
検索に力も何も無いだろう。ネットに詳しそうなので頼んだのだ。
しかし、クーは意外な検索の方法を取り、ブーンの予想を裏切る。
クーは腰を上げて制服の袖を捲り、左腕を0と1の数字の羅列に変えた。
( ^ω^)「おお!? 何かカッケェ!!」
- 81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:05:04.56 ID:QXk/wGbCO
- そして、クーは薄緑の光を放つ左腕をディスプレイに突き入れた。
一瞬、目映い光が部屋に満ちた後、クーは左腕をディスプレイから抜いた。
クーはインターネット上に散らばる無量の情報を瞬時に選別したのだ。
川メ゚ -゚)「検索終了。関連性が高い物だけウィンドウに出してやったぞ」
( ^ω^)「sugeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!!」
クーは自慢気に腕を組んで鼻を鳴らし、ブーンに席を開けた。
ブーンは感嘆の声を上げながら、ゆっくりと椅子に腰を下ろす。
( ^ω^)「いやー、正直クーの力を侮ってたわ」
川メ゚ -゚)「これからは私を崇め奉れよ」
( ^ω^)「でも」
検索精度が高い程度の能力だよね。言いそうになる口を手で押さえた。
だが、貴重な能力、これから検索はクーに一任しようとブーンは企む。
( ^ω^)「どれどれ…………お?」
- 83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:06:46.11 ID:QXk/wGbCO
- パソコンの画面にはウィンドウが二つ映し出されていた。
まず、一つ目のウインドウをブーンは開いてみる事にする。
( ^ω^)("盲目の少女の呪い"……この野郎)
隣からククク…と笑い声が聞こえて来たので、ブーンは即座に閉じた。
川メ゚ -゚)「あ」
気を取り直し、ブーンはもう一方のウィンドウを開いた。
"首を吊っている 少女 都市伝説"
ブーンが頼んだキーワードとは違う物で検索されている。
あの一瞬で、クーは考えうる限りのキーワードを入力したのか。
これには恐れ入り、胸中でクーを称える。口にすると調子に乗るのでしない。
川メ゚ -゚)「トソンの本名じゃ何も出なかったのでね。工夫してみた」
ブーンはクーが探してくれた検索画面の文字を目で追って行く。
すると、どのサイトにも同じような文字列が並んでいた。
- 86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:08:06.72 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「星を見る少女?」
検索画面には"星を見る少女"という文章が踊っていた。
都市伝説と銘打たれているのに、何とも素敵なタイトル名だ。
ブーンは一度検索ワードを消し、そのタイトル名で検索をする。
( ^ω^)「……一杯出てきたお」
従って、この話で生じた悪霊は知名度が高く、力が強いと言える。
ブーンは一番上に表示されているサイトを開いてみる事にした。
( ^ω^)「これは」
川メ゚ -゚)「どんな都市伝説なの?」
クーに聞かれ、ブーンはその都市伝説の内容を読み上げて行く。
- 87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:10:17.93 ID:QXk/wGbCO
- ある大学に通う男性には、最近気になって仕方がない事があった。
深夜、アルバイトから帰る道にあるアパートの窓から、
星を眺めている少女がいるのだ。
その少女は飽きる事もなく、毎夜、夜空に輝く星々を眺めていた。
最初はそれほど気に留めていなかった彼も、そんな日が何度も続き、
自分の心の中で少女の存在が大きくなっていくのを感じていた。
そしてある日、自分の中の想いに耐え切れなくなった彼は、
アパートの少女に告白を決意する。
胸を弾ませながら階段を上り、とうとう少女の部屋の前までやってきた。
インターフォンを鳴らすが返事がない。留守かな…と思い、
ドアノブを回すと何の抵抗もなくドアが開いた。
そこで彼は全てを悟ってしまった。自分が心を寄せていたのは、
………窓際で首を吊っている少女だったのだ。
- 90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:12:55.76 ID:QXk/wGbCO
- 正しく都市伝説、だが、何処となく切なさを感じさせる話だった。
静寂が訪れた部屋で、クーが視線を窓の外に向けながら言う。
川メ゚ -゚)「男が恋したのは首を吊った少女、か」
( ^ω^)(……)
男性にとっては災難な話……しかし、少女にとってはどうだろう。
幽霊と化した少女は、告白に訪れた男性を見てしまうのだ。
自殺をするという事は耐え難い絶望に陥っていたという事だ。
もし、生きていれば男性と出会い、少女の人生も変わっていたかも知れない。
この少女がトソンであるとするならば、彼女は何を想ったのだろう。
ブーンの心の中で、少女を成仏させたい気持ちが大きくなった。
川メ゚ -゚)「だが、この少女を成仏させるのは、まだ簡単な方だ」
( ^ω^)「……お?」
クーは窓際に立ち、空を見上げた。
今は何時だろうか。ブーンは壁に掛けられた時計に目を遣った。
七時二十三分。クーは星が輝いている筈の夜空を見上げている。
- 92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:15:59.90 ID:QXk/wGbCO
- 川 ゚ -゚)「心を満たしてあげると良い」
( ^ω^)「心を満たす」
川 ゚ -゚)「そう。自殺をした為、男性と出来無かった事……デート」
"もし自殺していなかったのならば"、ifの話を作れとクーは言った。
だがしかし、"星を見る少女"がトソンと決まった訳ではない。
ブーンはウィンドウを閉じて、音楽プレイヤーを起動させた。
('A`)「何なんだよ、あの女」
川 ゚ -゚)「うわ! びっくりした」
歌を聴いて気分を落ち着かせていると、ドクオが部屋に現れた。
ふわりふわりと浮遊して、定位置であるブーンの肩に止まった。
煩わしく感じ、ブーンが手で払っているとドクオが言ったのだ。
('A`)「空ばっか見上げやがって盗撮のし甲斐がねぇじゃん」
『安請け合いして…。どうなっても知らないわよ』
ブーンは生まれて初めてデートをする事になってしまった。
- 94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:17:46.07 ID:QXk/wGbCO
深夜、少女は夜空を見上げている。
「成仏したら、何処に行くんだろ」
もしかしたら、あの世なんかなくて、無になるのかも知れない。
「怖いな」
だが、決めたのだ。
もう、後戻りを、するつもりはない。
「次は、もう少し、上手に生きよう」
何度も見て来た星空に、願ってみた。
結局、星座の名前は、一つも覚えられなかった。
少女は珈琲を飲み干して、自嘲の笑みを浮かべる。
少女は最期の夜を過ごした。
- 96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:19:58.32 ID:QXk/wGbCO
- 次の日、ブーンはマンションの玄関前でトソンと待ち合わせた。
( ^ω^)「それはツンの服かお?」
(゚、゚トソン「はい、貸して貰ったんですが、何だか高そうな服ですね」
白いYシャツとチェックのスカートには馬に跨がった騎士のロゴ。
ロープの下に覗く赤いネクタイには地球に王冠を被せたようなロゴ。
ファッションに疎いブーンにはどうでも良い事だった。
( ^ω^)「行くかお」
(゚、゚トソン「鞄は? 重いんじゃないですか?」
トソンがブーンが持つ教科書で満載の鞄を見て言った。
ブーンはズシリと重い、鞄を持ち上げて笑顔で口を開く。
( ^ω^)「なに、ちょっとした修行だ……」
ブーンは嘘を吐いた。部屋に鞄を置きに行く時間が惜しいのだ。
昨晩、ブーンは適度に眠って考え、ある結論に達したのだ。
トソンは調査に行った後、人知れず成仏する気なのでは無いのかと。
- 100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:23:02.14 ID:QXk/wGbCO
- 調査と言えども、男女が一緒に歩いている姿を他の者が見れば、
仲睦まじくデートをしている姿と見間違えるのでは無いだろうか。
それに、トソンがデートだと言い張ればきっと、デートになる。
時限装置の如く、デートが終わるとトソンは成仏する仕掛け。
( ^ω^)「じゃあ、どこに行こうかお」
(゚、゚トソン「…? 私の家を調べに行くんじゃないですか?」
( ^ω^)「おー、そんな事になっていたかも分からんね」
頭を掻いて、ブーンは灰色のコンクリートの道を歩き始めた。
トソンはただ呆然と立ち尽くし、ブーンの背中を見つめている。
そして、数メートル程離れた所で、ブーンの背中に呼び掛けた。
(゚、゚トソン「……私の正体、知っちゃったんですね」
ブーンの足が止まった。
背中を向けたまま、一度俯いた後、トソンに振り返った。
( ^ω^)「悪霊マスターなんで。……何で正体を隠したんだお?」
- 104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:25:35.35 ID:QXk/wGbCO
- 何度考えても、トソンが正体を隠した理由が分からなかった。
正体を隠さなかった方が、スムーズに成仏へと事が運べる筈だ。
隠す程の理由が、星を見る少女という話の中には見当たらなかった。
(゚、゚トソン「……"星を見る少女"。素敵な名前ですよね」
( ^ω^)「だお。都市伝説にしては珍しい方だと思うお」
(゚、゚トソン「勘弁して下さい。私は首を吊って死んだだけなんです」
トソンはブーンから目を逸らし、忌々しげに声を低くして言った。
続いて、空を仰いだ。今日は生憎の曇り空だった。
(゚、゚トソン「馬鹿な死に方したのに……恥ずかしいですよ」
トソンが曇り空を睨みながら、名付けられたタイトルに愚痴を溢す。
何となくトソンらしい、と言えばらしい理由だなとブーンは思った。
(゚、゚トソン「だから、陳腐な幽霊として最期を迎えたかった」
視線をブーンに戻し、トソンは首に掛けられているロープに触れた。
ブーンはもう一つ、疑問をトソンへと静かな声で問い掛けた。
- 106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:28:00.99 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「…一人で成仏したかったのかお?」
(゚、゚;トソン「まぁ! 流石は悪霊マスターさんなんですね!」
驚いたトソンは目を丸くして両手で口を覆い隠した。
一方、変な称号を口走ってしまった事をブーンは激しく後悔した。
トソンは手を下げ、口調を普段のトーンに戻して口を開く。
(゚、゚トソン「説明し難いんですが、それは、ツンさんに配慮したんです」
( ^ω^)「ツンに?」
本当にブーンとデートのような事をすれば、ツンがどう思うか。
奥ゆかしいトソンの気遣いは、朴念仁のブーンには理解出来ない。
トソンは破顔一笑して次のように言葉を付け足した。
(^ー^*トソン「その内、分かる日が来ますよ」
( ^ω^)「なんのこっちゃ」
- 108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:29:51.51 ID:QXk/wGbCO
- わざとらしく肩を竦めて見せ、ブーンは再び歩き始めた。
トソンはゆっくりとブーンの後ろにつきながら呟く。
(-、-トソン「おぼしき事言わぬは 腹ふくるるわざ……」
( ^ω^)「お腹が減ったのかお」
ブーンは足を止めて、的を大きく外した言葉をトソンに掛けた。
本心では、本当のデートをして成仏したいとトソンは思っている。
心の中でツンに深く頭を下げ、トソンはブーンの隣に駆け寄った。
(゚、゚*トソン「そうですね。少しお腹が空いたかも知れません」
( ^ω^)「じゃあ、友達のショボンに教えて貰った所に行くお」
デートが終わると、泡沫の魂は消え、トソンは現世をあとにする。
それならば、良い思い出を作ってあげよう、とブーンは張り切っていた。
- 109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:31:47.95 ID:QXk/wGbCO
- のだが、ブーンはデートをした事が無いので失敗に終わりそうだ。
( ^ω^)「道に迷ったぞ!」
(゚、゚;トソン「みたいですね」
ショボンに、悪霊カップル御用達の廃墟喫茶店を訪ねようとしたは良いが、
O阪府に来てまだ四ヶ月のブーンは、道に迷ってしまった。
トソンも方向感覚が弱いらしく、現在地をさっぱり把握出来ない。
( ^ω^)(ひゃ、ひゃくしたとりやはた……?)
ブーンがショボンに書いて貰った地図を広げるが分からない。
周りを見回せば自身が住む、N居とそう変わらない風景の街だった。
(゚、゚トソン「取り敢えず、人が少ない場所に行きましょう」
トソンは人には見えないので、会話をすればブーンは独り言を言う人となる。
これは他の仲魔達と同様で、彼らと話す時は人気の無い場所を選ぶ。
( ^ω^)(田舎と違って面倒臭いお)
- 111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:33:47.55 ID:QXk/wGbCO
- 暫く、道なりに歩いていると木々が生い茂る大きな公園を発見した。
トソンが公園の入り口を指差し、後ろを歩くブーンに呼び掛ける。
(゚、゚トソン「広そうな公園ですね。あそこで休憩しませんか?」
( ^ω^)「歩き疲れたし、そうするお」
二人は公園に入り、綺麗に植えられた草花を眺めながら歩く。
外観では分からないが、此処は相当大きな公園らしく、案内板がある。
( ^ω^)「ほーん、図書館もあるのかお」
(゚、゚トソン「ブーンさん、あれ、何をしてるんでしょうか」
見ると、広場でブラスバンドの練習をしている子供達の姿があった。
フリーダム過ぎる公園だな、とブーンは眉を潜めて思った。
( ^ω^)「どっか空いてるベンチはないかおー」
ベンチは数多くあるにも関わらず、そのどれもが人間が座っている。
仕方なく、自販機でジュースを買ってから公園の奥へと歩を進める。
- 114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:36:34.74 ID:QXk/wGbCO
- 十分程歩き、漸く二人は木々に囲まれた場所に、空いたベンチを見付けた。
他のベンチとは離れており、幽霊と会話をするには打ってつけだ。
トソンを先に座らせ、ブーンは背筋を伸ばしてから腰を下ろした。
( ^ω^)「ふっひ! マジで疲れたお」
(゚、゚トソン「ふふ、ブーンさんは憑かれ易い上に疲れ易いんですね」
( ^ω^)「昔は山道とか楽勝だったのに……」
ブーンは重くなった足の膝を両手で押さえて落胆した。
そして、ベンチにだらしなく背中を埋もれさせて耳を澄ませる。
遠くからは楽器の音、人間達がはしゃぐ声、そして蝉の鳴き声。
(゚、゚トソン「私の命日、今日なんですよ」
ふと、トソンは顔を前に向け、この平和な場所に似合わない事を言った。
だが、そのような言葉に慣れ親しみ過ぎているブーンは平然と返す。
( ^ω^)「命日に成仏かお。何か理由があるのかお?」
- 116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:37:55.65 ID:QXk/wGbCO
- (゚、゚トソン「いいえー、何となくです。本当に何となくなんです」
( ^ω^)「大切な事だから二回言ったのかお」
(゚、゚トソン「え?」
( ^ω^)「いえ! 何でもありません!」
トソンにこのネタは通じないようだ。ブーンは姿勢を整えて座った。
ブーンを横目で見、トソンは少し困った様子を含んだ笑みを溢す。
(゚ー゚;トソン「今日は付き合って頂いてすみません」
( ^ω^)「別に良いお。妙な世界に閉じ込められるよりはマシだお」
(゚、゚トソン「はぁ、悪霊マスターさんも大変なようですね」
( ^ω^)「それやめて! ちょっと恥ずかしいから!」
耳を塞いで頭を振るブーンにトソンは悪戯っぽく笑った。
ブーンは自分で言った称号が子供ぽくて酷く気に入らないらしい。
- 117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:39:10.73 ID:QXk/wGbCO
- それから、とりとめの無い会話をした後、二人は帰る事にした。
ショボンの助力を無駄にしてしまった事が悔やまれる。
ブーンは今は無音となった暗い公園の景色を見回し、腰を上げた。
( ^ω^)「さて、帰るかお」
(゚、゚トソン「……そう、ですね」
風が吹けばかき消されそうなトソンの声、ブーンは首を動かせる。
すると、そこには身体が徐々に透明になって行くトソンの姿。
心が満たされたのか。彼女はこれから成仏するのだろうか。
ブーンは身体をトソンに向けて、胸に響く低い声で引き止めた。
( ^ω^)「待てお」
誰がどう考えても成仏は良い事ではないか。
しかし、ブーンは消え行くトソンに言葉を放ったのだった。
ブーンはトソンの半透明になった手を取って複雑な表情で言う。
( ^ω^)「まだ、僕はデートらしい事が何にも出来てないお」
- 120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:40:49.87 ID:QXk/wGbCO
- 一応、喫茶店に行った後の事も考えていたが、それらは全て無駄になった。
ブーンは極めて自分勝手な意見をトソンへと投げ付ける。
( ^ω^)「こんなのが僕の初デートだとしたら困るお」
(゚、゚トソン「……でも」
( ^ω^)「馬鹿らしい事になって、恥ずかしいんだお」
(゚、゚トソン(……)
出発前のトソンの台詞を借りて、ブーンは忌々しげに言った。
ブーンに握られているトソンの手が元の色を取り戻して行く。
トソンは大きなため息を吐き、ゆっくりと立ち上がって口を開いた。
(-、-;トソン「…自分勝手な男の人って嫌われますよ」
( ^ω^)「ごめんだお」
(゚、゚トソン「良いんですけどね。…何処に連れて行ってくれるんですか」
( ^ω^)「……屋上かな」
- 122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:42:22.31 ID:QXk/wGbCO
- ****
( ^ω^)「前、渡辺さんって悪霊が襲って来たんだお」
(-、-;トソン「はぁ…………その人は有名なので知ってます」
( ^ω^)「そうかお。それで渡辺さんを屋上に誘い出して」
(-、-;トソン「縁に……ですか? 酷い事考え付きますね」
ブーンはトソンを連れ、自分が住むマンションの非常階段を昇っている。
エレベーターからでも屋上に行けるのだが、ブーンは非常階段を使った。
( ^ω^)(成仏させたいのに)
成仏させたいのにさせたくない。そんな想いに取り付かれ、
ブーンの脳内は混乱し、正常な判断が出来なくなっている。
遠回りになる非常階段を選んだのは、時間を少しでも引き延ばす為だ。
( ^ω^)(……)
- 124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:45:13.54 ID:QXk/wGbCO
- トソンに話し掛けながら、一歩一歩、ゆっくりと昇る。
だがしかし、遅かれ早かれ目的の地点には辿り着いてしまうモノだ。
屋上に着いたブーンは息を切らせるトソンの手を握り締めた。
ブーンは屋上の縁へとトソンの冷たい手を引いて向かう。
夜空には雲が立ち込め、燦然と輝く筈の星達を隠している。
何一つ灯りの無い暗い屋上の縁で、ブーンとトソンは並んで立った。
(-、-トソン「ブーンさんとお付き合いする女性は大変でしょうね」
ですので、ツンさんのような少々気の強い方が………。
トソンは言おうとしたが、胸の内に留めておいた。
ブーンは星の見えない夜空を物憂げに見上げている。
( ^ω^)「トソンは星空が好きかお?」
不意に聞かれたトソンは目を点にして、ブーンの横顔を見た。
ブーンは顔を上に向けたままが故、表情を察し取り辛い。
ふぅと息を吐いてから、トソンはブーンの問いに正直に答えた。
(-、-トソン「何回も見て飽きましたが、それでも好きですよ」
( ^ω^)「どうしてだお」
- 125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:46:45.21 ID:QXk/wGbCO
- 首を吊る度に見た星空。今晩のような曇り空の日もあった。
夜空はいつも地獄の中にあり、そのような場所で見上げたソレは、
普通の神経なら、見るだけで吐き気を催す物になってしまう筈だ。
しかし、トソンはブーンと同じ様に夜空を見上げて笑顔で言う。
(゚、゚トソン「だって」
( ー トソン「綺麗じゃないですか」
いついかなる時でもトソンは奥ゆかしく、気の良い少女だった。
無限の地獄で見た光景すらも、少女は素直に綺麗だと感想を言う。
ブーンはこの少女を引き留めるのをやめ、あの世に進める事を誓う。
( ^ω^)「渡辺さんが来た時、此処から下を見下ろしたんだお」
(゚、゚トソン「下を? こんな高い所からよく見下ろせますね」
( ^ω^)「トソンも見てみると良いお。良い物があるお」
(゚、゚;トソン「え、ええ? 何があるんですか?」
- 127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:51:16.10 ID:QXk/wGbCO
- 恐る恐る身体を縁に乗り出すトソンをブーンが支える。
屋上から見下ろした景色は、夜のソレへと変わった風景で――――。
( 、 トソン「ああ」
ビル、アパート、街灯、看板、車のランプ、それらが光輝いている。
空は曇り空で星が見えないが、地上の街並みは星空の様相を呈している。
身体を固まらせて街並みを見下ろすトソンからブーンは離れた。
( ^ω^)「トソン、そろそろ、さよならするお」
ブーンは背中を向けて、トソンとの距離を開かせていく。
良い友達になれそうだったが、トソンは成仏を切に願っている。
諦めて歩くブーンの背後から突然、絶叫に近い声が響いた。
( 、 トソン「待てエエェェェェェェッッ!!!」
あの物静かなトソンの物とは思えない、空気を振動させる程の声量。
ブーンは彼女の突然の豹変に驚き、勢い良く振り返った。
( 、 トソン(……)
- 130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:53:48.13 ID:QXk/wGbCO
- トソンは力無く項垂れ、血管の浮き出た両腕をだらりと下げていた。
髪の毛の揺れと同調し、カタカタと全身が震えている。
( ^ω^)「……トソン?」
何人たりとも触れられない殺気がトソンの周囲を支配している。
そう、大人しい彼女はこう見えて、都市伝説として生きる存在なのだ。
無量劫の地獄の果て、トソンの、少女の精神は正常を保てただろうか。
( ∀゚トソン「星空の街並み? そんな臭いのは後戯の時だけで良いよ!!」
( ^ω^)「さーて、困ったぞ」
トソンは醜悪と化した顔をグッと上げ、暴力的な言葉を叫んだ。
今までの恋愛パートのような展開は始まりに過ぎなかったのか。
結局、襲われる羽目になりそうなブーンはがっくりと肩を落とす。
(゚∀ トソン「ブーンは良く下を見たの? 地獄と同じ様相じゃない!」
( ^ω^)( (゚、゚トソン ←コレ、どこ行ってしもたん?)
- 136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 17:59:07.96 ID:QXk/wGbCO
- 鋭く伸びた爪を持った右手を胸の前に翳し、トソンは握り拳を作る。
手のひらの中で爪が突き刺さり、腕に大量の血が伝って行く。
そして、右腕を真横に力強く振って、地面に血を飛び散らせた。
(∀ トソン「未来の無い人間共が歩く、風景!!」
( ^ω^)(……)
狂気と化した悪霊を何度も目にして来たブーンには、
喚き散らすトソンの言わんとする事が理解出来ていた。
彼女は自殺に至った経緯を殺意に乗せ、声高らかに語っているのだ。
( ^ω^)「なるほど。相当辛い目に遭ったみたいだお」
( ∀ トソン「さっすが、悪霊マスター! 私の話が通じるんだ!?」
( ^ω^)「次それ言ってみろ、2ch総力を上げてやる」
右手を下ろし、トソンは覚束無い足取りでブーンに近寄り始める。
左に右に、躓きそうになりながら、不気味な笑みでにじり寄る。
- 138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:02:17.77 ID:QXk/wGbCO
- ( o *トソン「ブーン」
ブーンに寄ると、トソンは身体を密着させて妖艶な声を出した。
左腕を背中に回し、右手で顎を軽くもたげ、ブーンに絡み付く。
そして、トソンは斜め下から乾燥した紫色の唇を近付ける。
( ^ω^)(初めてを悪霊に奪われる、か)
ブーンの顔に息が掛かる所まで唇を寄せるとトソンは瞳を閉じた。
そのまま、ゆっくりと近付けて行き、唇の先が当たりそうになった所で、
トソンは瞼を開け、血走った眼球を見せ付けてブーンを嗤った。
(゚∀゚トソン「デートもロクに出来ない奴が期待してんじゃないよ」
( ^ω^)「いや、全然期待しておりませんでした」
非礼な事を言うブーンに怒るかと思いきや、トソンは顔に陰を落とした。
そして、顎から手を離し、ブーンの胸元に顔を埋めて呟く。
( 、 トソン「ブーンって後から来た男に似てるんだよ。
……ねぇ、私と一緒に、あの世で棲もう?」
- 143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:07:20.30 ID:QXk/wGbCO
- どのような場所か分からないあの世でも、二人ならきっと怖くない。
そう考え、トソンはブーンを両腕で抱き締めて誘おうとする。
( 、 トソン「返事は? ノーって言ったらこのまま殺すよ?」
あの世に行くには命を落とさねばならない。
ノーもイエスも、…どちらも結果は同じでは無いか。
( ^ω^)(そろそろかお)
抱き付いたまま無言になったトソンを見てブーンは思った。
トソンは自身の心の内に溜まっていた想いを全て吐き出したのだ。
( ^ω^)(やっぱりアレじゃ駄目だったんだお)
今回、クーが考えた成仏をさせる方法には大きな穴があったのだ。
ブーンはそれを知りながら、トソンと数時間デートをしていたのだ。
少しでも彼女が安らかに逝けるようにした事だが、無駄だったのかも知れない。
さて、デートを申し込む前に異性に対してする事があるだろう。
ブーンはトソンの頭と細い身体に腕を回して耳元で囁いた。
( ^ω^)「――――トソン、好きだお」
ブーンは胸の中に顔を埋めるトソンに告白をした。
その為にブーンはトソンを素敵なステージに連れて来たのだ。
昨日、今日と初めて経験する事ばかりだな、とブーンは光の中で思った。
- 145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:10:23.90 ID:QXk/wGbCO
- ブーンの腕の中に収まるトソンの身体が、まるで星のように光輝く。
そして、光の粒子となって霧散し、腕の中からすり抜けた。
光の粒子は舞い上がり、ブーンの視線の先に満天の星空を作った。
( ^ω^)「もう、行くのかお」
寂しいそうにブーンが呼び掛けると、星々は屋上の縁に集まった。
それらが集まり、人の型を作り、淡く輝くトソンの姿を浮かび上がらせる。
(゚、゚トソン「はい、色々とご迷惑お掛けしました。
…ああ、あと、告白しなくても私は成仏してましたよ」
( ^ω^)「マジで! 恥かいたわ!!」
畏まって深々とトソンはブーンに向かって頭を下げた。
息遣いで身体が揺れるなどの細かな動きに光の尾が引く。
人が亡くなったら星になるという話は、本当なのかも知れない。
( ^ω^)「…さっきのが本当のトソンなのかお?」
こちらの落ち着いた彼女と、あちらの攻撃的な彼女。
どちらが本当のトソンなのか、ブーンは何気無く聞いてみた。
それは、友達との今生の別れを遅らせたくて出た言葉だろうか。
- 147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:12:44.77 ID:QXk/wGbCO
- (゚、゚トソン「どちらも、本当の私です。……幻滅しますよね」
生前、少女は裏表がとても激しい性格の持ち主だったようだ。
故に……ブーンは少女が自殺した原因を悟ったが口にしない。
代わりに、トソンを真っ直ぐに見つめながらいつもの調子で答える。
( ^ω^)「全然。あんなのキューに比べたら可愛い物だお。
あ、キューってのは僕の友達で、こいつがまた――」
(゚、゚トソン「本当に怖がらないんですね。私の怖さは何点ですか?」
長くなりそうなブーンの話に割り込み、トソンは話を進める。
ブーンは頭を掻いてトソンの恐怖度に点数を付けた。
( ^ω^)「10点くらい」
辛口の評価だ。
過去最高得点は、入学式を欠席させたキューが記録している。
最大瞬間風速での最高得点保持者は、児童の笛を舐めていたドクオだ。
(゚、゚;トソン「あらら、随分と低いんですね。泣いてしまいそうです…」
- 151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:15:23.62 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「トソンも何時かは僕を怖がらせられるようになれるお」
何時か、など無いと理解しているにも関わらず、ブーンは言った。
折角、仲良くなったのに待ち受けているのは完全なる別離だ。
ブーンは縁にスラリと立つトソンの姿を目に焼き付ける。
(゚、゚;トソン「いいえ、私は人を怖がらせたくなんてありません。
先程のは、未練を勢いに任せて吐いただけです。
だって、あんな想い、シラフじゃ恥ずかしくて言えない……」
トソンの都市伝説の雰囲気通り、悪霊に成るつもりはないようだ。
現世にただならぬ怨みを持つ陳腐な幽霊は両手を大きく開いた。
それと共に粒子が背後に大きく散り、一瞬、真輝く翼を形作った。
( o *トソン「地獄を生き、そして、死んでも地獄を生きた私。
こんな私でも、私でもこんなにも最期は幸せでした。
楽しい一日を過ごして、しかも、告白されたんです」
笑顔で高らかに言い、トソンの頬に儚げな光が伝って行く。
"星を見る少女"は、これから"星を見ていた少女"となるのだ。
( ^ω^)「……率直に言うお。僕とずっと一緒に居て欲しいお」
- 154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:18:28.05 ID:QXk/wGbCO
- 本来、喜んで迎え入れるべきトソンの成仏をブーンは引き留める。
しかし、トソンの耳にはブーンの言葉は、もう、届かない。
トソンは両手を広げたまま、顔を夜空に向け、目を大きく見開いた。
( o *トソン「地獄にもひっそりと輝く天国があるんです。
星空、私はあの輝きを決して忘れません。
ああ、素晴らしき地獄のようなこのセカイ」
舞台役者の如く喋り方で、彼女は心の内で燃える想いを述べて行く。
トソンは顔を前に戻し、ブーンよりもその向こうを眺めた。
そして、一つ小さく頭を下げると、沈黙するブーンに話し掛けた。
(;、;トソン「幸せって、ある日何の前触れも無く訪れるんですよ。
ブーンさんはそれを忘れる事無く、日々を生きて下さい。
私みたいにならないように、生きて下さい」
ブーンは一言も言葉を発せず、ただ黙って力強く頷いた。
それを確認すると、トソンは白い歯を覗かせて微笑み、
背後にある星空に全身を預けた。
( ー トソン「さようなら」
- 159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:20:12.75 ID:QXk/wGbCO
- (;^ω^)「トソン!」
ブーンは徐々に身体が傾き行くトソンへ、無意識で駆け出した。
既にトソンの顔は伺えない。腕を伸ばして彼女の足を掴もうとする。
だが、その手は空を斬り、トソンは光輝きながら落下してしまった。
(;^ω^)「……ッ!」
トソンの身体が両手両足の先からさらさらと消えて行く。
星空に向かう途中、ふと、首を起こしてトソンは夜空を見上げた。
生憎の曇り空。だが、視界の端にちらり映り込んだ
偽りでも告白してくれた男性の顔が、星のように想えた。
(-、-トソン(綺麗)
最期に何時もと同じように想えた事に感謝をして、瞳を閉じる。
その瞳が粒子となり、トソンの存在は完全に現世から失くなった。
彼女を地獄に繋ぎ止めていた鎖が、街並みへと溶けて行った。
- 162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:21:24.94 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)(……)
ブーンは先程までトソンが立っていた屋上の縁に腰掛けている。
街並みを背景に、ブーンは暗い表情で地面に視線を落とす。
( ^ω^)「これで良かったんだお」
トソンにはトソンの想いがある。邪魔をしてはいけなかったのだ。
ブーンはもう居なくなったトソンに心の中で謝り、夜空を見上げた。
( ^ω^)「雨かお」
上を向くブーンの顔に、ポツリポツリと雨粒が当たった。
ブーンは雨で濡れた目を擦り、ゆっくりと縁から腰を上げた。
( ^ω^)「な、泣いてなんかないんだからね」
そして、覚束ない足取りで屋上の扉へふらふらと歩いて行く。
…そう言えば、屋上に柵が無いのは魂を刈り易いようにだろうか。
抜け目の無い管理人に恐れを抱いていると、足が縺れてブーンは躓いた。
- 165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:23:55.91 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「おっとっと」
転びそうになるブーン。その身体を何者かがそっと支えた。
ブーンが顔を上げると、大きな白いマスクをした女性が目に映る。
ツンはブーンから身体を離すと、差していた傘の中に彼を入れた。
ξ゚ ゚)ξ「どうなっても知らないって言ったでしょう」
( ^ω^)「……こういう意味だったのかお」
友達との永遠の別れは悪霊のどんな悪戯よりも恐怖を感じた。
ツンはこうなる事を知ってて、あの時、ブーンに注意をしたのか。
( ^ω^)(ちょっとおかしいお)
ツンは何の警戒もせず、正体不明のトソンを部屋まで連れて来た。
悪霊を見付けたら、取り敢えず追い詰めてしまう彼女らしくない。
ツンはトソンが危険な存在では無いと分かっていたのだろうか。
そして、それ故に今回のような結末を迎える事も予想出来ていたのか。
( ^ω^)(でも)
- 168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:25:42.03 ID:QXk/wGbCO
- 全ては終わってしまった事だ。
今更、ツンを問い詰めても意味が無い。
それよりも。
( ^ω^)「……何だかごめんだお」
何故だか、ブーンはツンに謝らなければいけないと思った。
理由は見当が付かない。何か彼女に対して悪い事をした気がする。
ツンは、目を細めて、声を漏らさず、にこにこと笑った。
その笑顔にどうした訳か照れたブーンは、逃げるように身体を少し後ろに向けた。
トソンが両手を広げ、この世に別れを告げたステージがある。
もっと気の利いた告白の仕方があったな、とブーンは項垂れた。
そして、ブーンはツンと共に、星空が見える屋上をあとにした。
- 173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:27:38.65 ID:QXk/wGbCO
- ( ^ω^)「このまま永遠の夏休みを過ごすのも良いかも」
夏休みに入り、ブーンは毎日グダグダと家で過ごしている。
友達? 単位? 何それ食えんの? という精神論を持つブーンだ。
将来、ニートも良いかも知れないと今日もネットをして遊んでいる。
川 ゚ -゚)「ブーン、ふと思い出したんだが」
ブーンの隣に立ち、席を代われと視線で訴えるクーが口を開いた。
無事、駄スレを立てた事を確認すると、ブーンはクーに顔を向けた。
( ^ω^)「なんだお? 僕は今からフルボッコにされたいんだお」
川 ゚ -゚)「以前、アイスを買ってくれると約束したよな」
( ^ω^)「げ!」
そう言えば、トソンの正体を知ろうとした時、そんな約束を交わした気がする。
ブーンは顔をディスプレイに戻して知らない振りをした。
川 - )「貴様……ヤれ」
( ^ω^)「え?」
突然、ディスプレイから数本の腕が伸び、ブーンの身体中をくすぐった。
堪えきれなくなったブーンは鼻水を垂らしながら謝った。
- 176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:29:59.19 ID:QXk/wGbCO
- 忌々しいクーの高笑いを耳に残したまま、ブーンはコンビニに入る。
ひんやりとしたクーラーの冷気の中、約束のアイスが並ぶ冷凍庫の前に立つ。
( ^ω^)(高過ぎワロタ)
食費はツンがアレしてコレしている為、仕送りは有り余っているが、
これは安易に使うべき物では無い、とブーンは大半を貯めている。
自由に使える少ないお金ではこの女性が好むアイスは高過ぎる。
ため息を吐き、戸を開いて紅色に輝くアイスを手に取った。
「すみません、コレも買って頂けませんか?」
クーラーの冷気とは根本的に違う冷気が肌に触れたと同時、声が聞こえた。
思わずアイスを落としそうになったブーンが、恐る恐る顔を横に動かせる。
隣には冷えた缶コーヒーを指差す大人しそうな少女が立っていた。
ブーンは缶コーヒーを選ぶ振りをして、小声で少女に話し掛ける。
( ^ω^)「あの世はどうしたんだお?」
- 179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:31:31.06 ID:QXk/wGbCO
- ブーンの問いに少女は照れ臭そうに頭を掻きながら答える。
「それが、あの世って結構入り組んでるんですよ」
そう言えば、少女は見知らぬ街を歩くのは苦手そうにしていた。
やっとの想いで辿り着いたあの世が、迷路のようで困ったと言う。
( ^ω^)「コッチと余り変わらんお」
「そうですね。……そこで頼みがあるんです」
まさか、もう一度恥ずかしい言葉を口走らせるつもりか。
ブーンは小さく首を横に振って拒否の姿勢を示した。
「一緒について来て下さい。ブーンさんが死ぬまで待ってます」
ブーンは缶コーヒーを手に取った。
すると、少女は控え目に笑みを溢してすぐ側に憑いた。
( ^ω^)「また会えたら聞きたい事があったんだお」
- 186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:34:52.13 ID:QXk/wGbCO
- 「何ですか?」
ブーンは今度はパンを探す振りをして口に手を添えながら問う。
( ^ω^)「その首のロープ。どうやって無限の地獄から抜け出せたんだお?」
「これですか? …残念ですが、企業秘密なんですよ」
少女は首に掛けられたロープを撫でながら口を尖らせる。
しかし、直ぐに笑顔を取り戻し、ブーンの耳元で囁いた。
「でも、ブーンさんにだけ特別に教えちゃいます」
( ^ω^)「wktk」
(゚ー゚*トソン「ハサミでロープを切ったんですよ」
(;^ω^)「馬鹿な!!」
やさしい、地獄の抜け出し方。
大声で叫んでしまい、ブーンは店員や客から視線を向けられた。
来週辺り、綺麗な星空を見に、仲魔を連れて山にでも行こうか。
つづく。
- 188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/21(月) 18:36:05.90 ID:QXk/wGbCO
今回のあとがき。
最後のトソンの顔文字を直して下さい。
直しました。
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