( ^ω^)ブーンが二者択一するようです
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:35:46.45 ID:24jdUAqe0
擬古さんが交通事故で亡くなったのが三日前だから、
僕はもう三日寝ていないことになる。
意外といけるもんだなあ、と
泣き疲れて眠ってしまったカーチャンを布団に運びながら思う。
――僕はどこまで、逃げられるのだろう。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:36:08.60 ID:24jdUAqe0
<第五択>
まず三日前、僕はカーチャンの狂ったような泣き声で目覚めた。
擬古さんが、擬古さんが、と泣き叫ぶカーチャンを宥め、話をなんとか聞き出し、
タクシーを呼び、病院へ向かった。
飲酒運転のトラックにはねられ、ほぼ即死。
その割に死体は、少なくとも顔は綺麗なままだった。
泣き叫ぶカーチャン。擬古さんの両親も駆けつける。
ベッドを取り囲み、皆が泣く。僕はただカーチャンの傍に立っていた。
その姿が擬古さんの両親には健気に見えたのか、慰められてしまった。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:38:19.61 ID:24jdUAqe0
犯人はすぐ捕まった。僕は直接会ってはいないが、まだ幼げな印象の残る青年らしい。
かわいそうに。僕が居なければ、人殺しの経歴がつくこともなかったろうに。
携帯の電源を入れる。待ってましたといわんばかりに、次々とメールを受信する。
「どうしたの?」「何ズル休みしてんだよwww」「アホ」
ああ、無断欠席になっているのか。そこまで気が回らなかった。
返信しようかと一瞬迷って、どうでもよくなって携帯を投げた。
携帯は、壁に当たってぼとりと落ちる。
ここ三日、カーチャンを宥めたり葬式を手伝ったりで、眠気は感じなかった。
だから今日からが、本当の戦いだ。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:40:50.36 ID:24jdUAqe0
明日は学校に行こうか?
友達と話していれば眠らなくて済むかもしれない。
でも授業中はどうする?
ああ、もういいや、明日考えよう。明るくなってから、考えよう。
とにかく夜を乗り越えなければ。
僕はゲームをすることにした。テレビを見るだけでは、受動的すぎる。
とにかく、何かやっていなければ不安だった。
知らない間に眠ってしまわないか。
…知らない間に、気が狂ってしまわないか。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:41:39.90 ID:24jdUAqe0
夜が明けて、僕は制服に着替えた。
行くかは別として、カーチャンには行っていると思わせておかなければ。
もっとも、あの様子では、そんな小細工必要ないかもしれないが。
全てに現実感がない。確かに歩いているのに、浮遊感がある。
外に出てみるとそれが余計顕著に現れて、吐き気がした。
目の前の景色が嘘臭くて、何度も目をこする。
思ったより追い詰められているようだ、と、頭だけはしっかり現実をみていて、
学校に行くのはやめた方がいいのかもしれない、と懸命な答えを出した。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:42:16.70 ID:24jdUAqe0
その辺をぶらついていては補導されてしまうから、河原に向かった。
いつもはドクオと来る、絶好のサボりスポット。
石を何度も川に投げる。
ばちゃん。ばちゃん。ばちゃん。ばちゃん。
投げつける。出来るだけ大きな石を、叩きつける。
ばちゃん!ばちゃん!ばちゃん!ばちゃん!
こんなバカみたいなことを、僕は何時間も続けていた。
めちゃくちゃになった河原を見て、少し泣いた。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:45:07.90 ID:24jdUAqe0
僕が普段帰る時間帯を見計らって帰ったのだが、カーチャンはまだ寝ていた。
あれから一度も起きていないようだ。カーチャンの為のおかゆを作って、自分の部屋に向かう。
風邪だろうがインフルエンザだろうが食欲だけは失わなかった僕なのに、
今は何も食べたくなかった。吐き気がおさまらない。
お葬式のときに無理やり食べたきりだから、吐くものもないだろうに。
今朝から、耳鳴りがひどい。
テレビをつける。ニュースになった瞬間にチャンネルを変えた。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:45:32.71 ID:24jdUAqe0
テレビの前に座る。叱られた子供みたいに、体育座り。
そろそろ眠気も出てき始めて、ぼう、としていると、視界の端にちらちらと何かがうつる。
ついに幻覚までみるようになったのか。ああ、三日で狂ってしまうのか。
人ってやつは、僕は、なんと脆いものか。
せめてもの反抗のつもりで、その幻覚を見る。
(;^ω^)「…ッ」
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:47:59.14 ID:24jdUAqe0
( ´_ゝ`)
兄者。
現実の世界を見ても湧かなかった現実感が、幻覚を目にした瞬間に湧くとは。
何か言おうとして、けど止める。幻覚に話しかけるなんて、それこそ本当に気が狂っている。
( ´_ゝ`)「ブーン、」
僕が作り出した幻覚なのだから、僕の望みどおりにしてくれるだろう。
そう、僕が何よりも望んだ、心を突き刺すような、非難の言葉を紡いでくれる筈だ。
そう、僕が作り出した、悲しい幻覚なのだから、僕の本当の望みを、
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:48:57.19 ID:24jdUAqe0
( ´_ゝ`)「お前を、許すよ」
( ゚ω゚)「――ッ!!」
( ´_ゝ`)「お前は悪くない。俺が望んだのだから、お前は少しも悪くない」
( ゚ω゚)「あ、」
( ´_ゝ`)「大丈夫だ、誰もお前を責めないよ」
( ゚ω゚)「あああ、あ、」
( ´_ゝ`)「仕方無かったんだよな?あんな状況に置かれたらだれだって、」
( ゚ω゚)「ああああああああああ!!」
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:53:26.66 ID:24jdUAqe0
ゲームを幻覚に向かって投げた。当然当たるわけもない。
力加減などしないまま投げたものだから、ゲームは凄い音を立てて床にたたきつけられた。
耳を塞いでも、兄者の声はしっかりと聞こえた。僕は悪くないと、仕方なかったのだと、
優しく優しく諭すように、彼の声で、言い方で、僕を赦すための言葉を紡いでく。
ぼくがいちばんほしかったことば。
(;゚ω゚)「う、ぷ、」
吐いても吐いても、何も出ない。床にぼたぼたと胃液だけが落ちる。
(; ω )「う、ぇ、ぐ、…ッ、ああ、」
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。
(; ω )「ああああ、あ、ぐ、うぇッ、げ、ぁ」
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:54:03.67 ID:24jdUAqe0
ごめんなさい。ごめんなさい。そんなことを言わせてしまって。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
貴方は十分すぎるくらい優しかったのに、それだけでは満足できない、
この、あさましいまでに弱い僕を、もう、ゆるさないでください。
( ´_ゝ`)「お前を少しも恨んでなんかいない」
ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、
そんなことを言わせてごめんなさい、それで少しだけ安心してしまってごめんなさい、
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、
( ;ω;)「もう、…もう、やめてくれお!!」
叫んでから、恐る恐る顔をあげてみると、兄者は消えていた。
その代り、背後から声がする。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:54:26.28 ID:24jdUAqe0
(,,゚Д゚) 「大丈夫だよ、ブーン君」
(,,゚Д゚) 「辛かったんだね」
( ;ω;)「……」
(,,゚Д゚) 「俺は少しも君を恨んでいないよ」
( ;ω;)「………」
ごめんなさい。
(,,゚Д゚) 「大丈夫、俺も、誰も君を恨んだりしないから」
( ゚ω゚)「あああああああああああ!!」
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:57:26.61 ID:24jdUAqe0
頭を何度も殴る。足りない、こんな頭だから幻覚なんか見るんだ、もっと、もっと、
机の上にあったシャープペンが目に着いた。
僕は迷わずそれを握りしめ、思い切り手の甲に突き刺した。
( ゚ω゚)「!!!!」
鋭い痛みに声も出ない。何度も荒い呼吸を繰り返す。というか、呼吸するのがやっとだ。
けど、それが良かったのか、気付いたときには幻覚も消えていた。
震える手でシャーペンを抜く。どぷ、と傷口から血が溢れる。
流石に貫通はしていないが、だいぶ深くまで刺したらしい。
しばらくしたら、熱をもってじくじくと痛みだした。
( ;ω;)「うー、うー…」
痛い。身体の内からくる痛みは我慢しようとしても勝手に涙が出てくる。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:58:57.37 ID:24jdUAqe0
( ;ω;)「あああ、あー…」
けど、けど、僕の殺した人たちは、もっと痛かったはずだ。
あの女の子や犯罪者はワカッテマスが操ってくれたから、
まだ、苦しむことなく死んだけれど、兄者なんかはどれだけ痛かっただろう。
さっきの僕は衝動にかられて勢いでさしたけれど、
あんなに落ち着いたまま自分にナイフを突き刺すなど、夢の中だって僕には出来ない。
擬古さん。初めて僕が僕の意志で殺めたひと。
なかなか死ななくって、何度も何度も突き刺した。
痛みという点では擬古さんが一番ひどかった筈だ。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 22:59:21.06 ID:24jdUAqe0
ああ、だから二人が幻覚となって出てきたのか。
僕に、殺したという自覚があるから、その二人に赦して欲しかったのだ。
酷い話だ、あの女の子も犯罪者も僕が殺したってのに。
でも、そんな僕でも、もう何人も殺した僕でも、譲れないひとがいる。
選択する人は、どんどん僕に近づいてきている。僕に近しいひとに。
わかっているから、僕は眠らない。
もう逃げ道などないのだとわかっていて、それでも必死で逃げている。
( ´ω`)「…」
( ´ω`)「……」
<●><●>
(;゚ω゚)「ヒッ」
- 32 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [sage] 投稿日: 2008/07/14(月) 23:03:20.83 ID:24jdUAqe0
こんな感じで、それでも僕は五日目の朝を迎えた。
左手はもうグロ画像みたいになっているので、包帯で隠してカーチャンに挨拶をする。
J( 'ー`)し「おはようブーン。カーチャンね、今日から仕事に戻ろうと思うわ。
何かしていた方が、気もまぎれるし。心配かけてごめんね」
目を真赤にさせたカーチャンはそれでも笑う。
本当に強い人だ。息子の僕はこのていたらくだというのに。
( ^ω^)「僕も頑張るお」
J( 'ー`)し「…うん、親子でがんばりましょうね」
( ^ω^)「お!」
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 23:03:46.32 ID:24jdUAqe0
カーチャンの方が早くに出てくれたので、学校に行くふりをしなくてもよくなった。
作っていってくれた朝ごはんを食べてみる。味がしない!不思議!
( ´ω`)「…」
<●><●>
(;゚ω゚)「!」
ご飯を食べながら一瞬、寝てしまったらしい。そろそろ限界が近い。
包帯をゆっくりほどく。うん、間違いなく食事中に見るもんじゃないな。
フォークを出す。そしてそれを左手に突き刺す。
(; ω )「ッ、」
じわじわと広がる痛み。勝手に溢れる涙。
傷痕をさらにえぐっているわけだから、なんかもう形容しがたい痛みなのだ。
一応消毒はしてあるけど、そのうち細菌感染でもして使い物にならなくなりそう。
新しい包帯を巻く。看護婦の家だけあって、救急箱の中は充実している。
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 23:04:33.79 ID:24jdUAqe0
六日目。
眠気がくる間隔がだいぶ短くなってきた。
左手の感覚がマヒしてきたので、右手を刺そうと思ったけれど、
流石に両手に包帯は怪しまれる。
( ^ω^)「どうしたもんかおね」
見えないところを刺せばいい。そう、脚だ。
もう中にまで血が入り込んだシャーペンを手に取る。
呪われた道具みたいだなと思いながら、手を振り上げ、脚に突き刺し――
(;'A`)「ブーン?!」
た瞬間だった。ドクオが飛びかかってきた。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 23:05:48.38 ID:24jdUAqe0
(;^ω^)「ちょ、ドクオ!」
(;'A`)「お前なにやって…うわ、突き刺さってるじゃねえか!抜け抜け!」」
(;^ω^)「いたいいたいぐりぐりしちゃらめえええ」
ξ;゚听)ξ「何やってんのよあんたら!ってきゃあああ何してんのドクオ!」
(;'A`)「ちげーよこいつが自分でうわなにするやめ」
(;^ω^)「ドクオ!ツン!人の家に勝手に入るのは泥棒だお!」
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 23:06:59.43 ID:24jdUAqe0
(#'A`)「勝手じゃねえよ。おばさんが、ブーンの様子が変だから見てくれって言われたんだよ」
貧相な体のドクオに睨まれても何も怖くない筈なのだが、その鬼気迫る表情に少しだけ怖気づく。
( A )「てめえ何してんだよふざけんな」
(;^ω^)「…」
ξ;゚听)ξ「…」
ドスの聞いた声に、ツンも僕も固まる。
(#'A`)「…何してんだよ。この包帯はなんだよ」
察しがよろしいことで。暴れたけれど結局包帯は取られた。
ツンには泣かれ、ドクオには殴られた。
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 23:07:41.32 ID:24jdUAqe0
(;^ω^)「…」
(#'A`)「…」
ξ;凵G)ξ「…」
(#'A`)「…俺だって信じたくなかったよ。お前がおかしくなっただなんて」
(;^ω^)「僕はおかしくなんか!」
(#'A`)「じゃあなんだよその左手は!」
(; ω )「これは…これは、…」
('A`)「…夜中にずっと叫んだり、暴れたりしてるって」
(; ω )「…」
- 41 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [sage] 投稿日: 2008/07/14(月) 23:08:09.69 ID:24jdUAqe0
紛れもない事実だ。カーチャンが何も言ってこないからバレてないと思っていたが、
考えてみればあれだけ暴れて気付かない方がおかしい。
寝ないことだけに必死で、当然のことに気付けなかった。
ツンのすすりなく声だけが部屋に響く。
理由を説明すれば、それこそ頭のおかしい人扱いされる。
どうしようもない。
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 23:10:18.82 ID:24jdUAqe0
('A`)「何が、あったんだよ。こうしてみても、おかしいけど、気がおかしくなったとは俺には思えないんだよ」
ドクオの言葉に、涙が出そうになる。
(; ω )「…言ったって、信じてもらえない、お」
('A`)「お前の言うことならなんだって信じるよ。俺もツンも」
ξう凵G)ξ「…そうよ」
話してしまおうかと、おもったその瞬間だった。
(;゚ω゚)「あ」
( <●><●>)「すみませんが ショボンさまが おまちかねです」
(;゚ω゚)「ああああ」
(;'A`)「ブーン?!」
ξ;゚听)ξ「どうしたの?」
(;゚ω゚)「く、来るなお!」
( <●><●>)「…」
- 44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/14(月) 23:10:46.24 ID:24jdUAqe0
(;'A`)「ブーン、落ち着けって!ツン、おばさんに電話してこい!」
ξ;゚听)ξ「わ、わかったわ!」
ドクオが僕を押さえつける。ワカッテマスが僕に向って手を広げる。
その手の平からあふれ出たものが、僕にふりかかり―――
僕の逃走劇は、幕を閉じた。
<第五択・了>
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