( ^ω^)ブーンが二者択一するようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 21:49:50.52 ID:K+VsXl1U0

(´・ω・`)「やあ、随分と頑張ったね」

(  ω )「…」

(´・ω・`)「この選択、僕は本当に楽しみにしていてね。頑張っていたところ悪いけど、来てもらったというわけだよ」

(  ω )「…」

(´・ω・`)「さあ、素晴らしい選択を!」



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 21:50:49.21 ID:K+VsXl1U0

<第六択>

どんどん”僕”に近づいてくる選択の、その先を予測出来ないほどに狂うこともできずに、
そしてこのザマだ。身体も心も限界に限りなく近い。
発狂してしまえばもっと楽だったのだろうか?
何も考えることもなく、殺せたのだろうか?

頭痛も耳鳴りも吐き気もおさまらない。呼吸は荒く、胸が熱い。心臓の音が脳に響く。
それでも左手に傷は無く、それがなんとも皮肉めいて見えた。
これは夢なのだ。ただ、本当に人が死んでしまうだけで。

ただ、それだけで。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 21:51:24.17 ID:K+VsXl1U0

右手に握られているのはシャープペンではなく、ナイフ。
突き刺して、奪って、やっと切り開いた僕の明日に、何か、揺らぐものはあったかな。

よく、わからない。
生きたいと思うことは、こんなにも辛かったろうか。
生きているということは、こんなにも苦しかったろうか。

どうしたらいい?いくら答えを求めても、誰も答えてはくれない。
キリキリと、内臓が痛み、それでも歩を進め、
そして僕は予想と違わぬ人物を見つける。

('A`)「…ブー、ン?」

( ^ω^)「ドクオ」

('A`)「なんだよ」

( ^ω^)「話すお。僕が何故あんなことをしたのか、すべて」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 21:54:46.59 ID:K+VsXl1U0

('A`)「……」

(  ω )「信じて、くれるかお」

('A`)「信じがたいけど…何の理由もなしにお前があんなことするわけねえし…」

(  ω )「…」

('A`)「信じるよ」

(  ω )「……なら」

(;  ω )「なら、助けてくれお!お願いだお!お願いだお!」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 21:55:13.06 ID:K+VsXl1U0

縋るとはまさにこのことを言うのだろう。
どこかに残っている理性が、こんな情けないことはやめろと叫んでいる。
それでもやめられなかった。

僕にとってドクオは憧れのかたまりみたいなやつだった。
僕とドクオは全然似ていない。ドクオは頭がいいし、僕と趣味も嗜好も違う。
唯一、走ることが好きだということだけは同じだったが、僕は短距離、ドクオは長距離。

僕は人付き合いが好きなほうだが、ドクオは大嫌いで、
僕は要領が恐ろしく悪いが、ドクオは恐ろしくよくて、
僕は決断というものが嫌いで、ドクオはうじうじと悩むことが嫌いだった。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 21:58:51.02 ID:K+VsXl1U0

(; ω )「お願いだお!ドクオが言った通りにするお!もう、もう、どうしたらいいのかわからないんだお!」

('A`)「…もう一人は、見てきたのか?」

こんなにも情けない姿を見てなお冷静で居られるドクオは本当に凄いと思う。
こういうやつだから、何処かで僕は、ドクオをまるで、そう、”神様”みたいに思っていたところがある。
ドクオに言えば何か言葉をくれる。なんとかなる。そう思わせる力を持っていた。
僕が昔に無くしたものを埋めてくれたのだ。

(  ω )「…みて、ないお…だけど、たぶん」

('A`)「…」

( ^ω^)「たぶん…ツンだお」

('A`)「そうか…」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 21:59:11.00 ID:K+VsXl1U0

それなのに僕が何故今まで打ち明けなかったか。

信じてもらえないのが怖かった?
気違い扱いされたくなかった?

そうじゃない。それが少しも無かったかと言われれば嘘になるが、
僕のドクオに対する信頼はそんなに軽いものではない。

じゃあ、何故?



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:02:14.30 ID:K+VsXl1U0

('A`)「…よし」

( ^ω^)「お」

僕は、誰にも答えを求めなかった。
更なる絶望が、怖いから。



('A`)「お前、俺を殺せよ」



答えを求めて、

それでも、救われないのが、

怖かったから。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:02:38.25 ID:K+VsXl1U0

(  ω )「なんで…だお」

('A`)「え?」

(  ω )「なんでそんなこと、言うんだお……そんなことしたら、僕は、僕が、誰よりも、悲しいお…」

('A`)「……そんな、お前だから、いいんだ」

(  ω )「…」

('A`)「ツンと、幸せになって欲しい」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:05:06.03 ID:K+VsXl1U0

ドクオは、そんなキャラじゃない。
勿論、知っていた。わかっていた。ドクオは本当は僕なんかよりずっとやさしいってことくらいは。
だけど、それを口に出来るような人間では、ないのだ。

('A`)「俺はさ、こんなやつだか、ら…あああああ、もう!一回しか言わないぞこんなの!」

そのドクオが何で、こんなことを言っているのか。あまつさえ、似合わない笑顔を浮かべて。
僕はそういう笑顔を知っている。ついさっき幻覚で見たのと同じ、笑顔。

('A`)「お前に救われたんだよ。周りの人間みんな人間だと思っていなかった。
   世の中つまんないことばっかで、俺が居ても居なくても世界に何の支障もなくて、自分が空気みたいで。
   でもお前と会って、」

(  ω )「やめてくれお」

('A`)「…ブーン」

(# ω )「やめてくれお!!」

(#'A`)「聞けよ!!!」

(# ω )「いやだ、いやだお!聞きたくないんだお!!そんなの!!」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:05:36.47 ID:K+VsXl1U0

全て聞かなければ全てから逃げられるだなんて思ってはいない。
でも、抵抗しなければ全てが終わる気がした。

言葉の重みを知っているから。
いつも泣いているひとの笑顔、いつも笑っているひとの涙、
そういったものと全く等しい重みが今この言葉に宿っていて、僕にのしかかる。

やめてくれ。
そんなことを聞きたくて、ドクオと仲良くなったわけじゃない。
そんな言葉を紡がせるために、しあわせな日々があったわけがない。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:06:57.23 ID:K+VsXl1U0

('A`)「聞けって、なあ」

(  ω )「いやだ、いやだお…」

('A`)「…世界は俺が居なくなってもお前が居なくなっても、変わらないけど」

(  ω )「……」

('A`)「俺の世界はお前が居なかったら、変わるから」

(  ω )「……」

('A`)「前より、ずっと人ってもんを見れるようになったけど、やっぱりお前は違うから」

(  ω )「…、」

('A`)「なんていえばいいかわかんねえけど、親友とか、そんな言葉も似合わないし…」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:10:44.66 ID:K+VsXl1U0











”人は、ひとつだけあれば生きていけるそうだ”











28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:11:12.40 ID:K+VsXl1U0

ゆらりと記憶の海から落ちてきた言葉が、何かを溶かしていく。
目を閉じる。相変わらず息が苦しくてたまらない。
深呼吸をしてみたら、凄く楽になった。
簡単過ぎることだけど、今まで僕は思いつきもしなかった。

息の仕方を忘れていた。
当たり前のことは、よく忘れてしまうから。けど、それは悪いことじゃあない。
忘れたことすら忘れてしまったとしても、それはただ悲しく寂しいだけで、悪いことじゃない。

悪いことより、悪くないことの方がずっと多いのだ。
上手く笑えなくても、器用になれなくても、上手に嘘をつけなくても、
誰も救えなくっても、夢がかなわなくても、全然悪いことじゃない。

でも、僕は覚えていたい。僕を僕たらしめる、全ての欠片を。
泣き方も、笑い方も、何ひとつとして忘れたくない。
貰った優しさも、くれた人々も、すべてが僕の世界の欠片。

僕は、生きたい。
いとおしい人々がつくってくれた、こんなちっぽけな僕だから、生きたい。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:13:58.44 ID:K+VsXl1U0

(  ω )「…」

( ^ω^)「いいんだお」

('A`)「え?」

( ^ω^)「名前をつけなくても、いいんだお。どんな名前も、似合わないようになっているんだお。それには」

('A`)「…そっか」

( ^ω^)「僕はドクオの、それに、たったひとつになれていたかお?」

('A`)「……うん」

( ^ω^)「そうかお。なら、いいんだお」

('A`)「え?」

( ^ω^)「ドクオ。目を閉じてくれお」

('A`)「…おう」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:17:07.58 ID:K+VsXl1U0

長い付き合いだったわけではない。
高校の三年間なんて、振り返ってみればあっという間だ。
ついこの前高校に合格したと思ったら、もう部活を引退している。

長くはない、ドクオと過ごした時間は、驚くほどささやかで、本当に楽しかった。

( ^ω^)「…ありがとう」

迷ったけれど、いつか送った五文字を別れの言葉に選んだ。

(;-A-)「――!!」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:21:37.66 ID:K+VsXl1U0

(;-A-)「…」

(;-A-)「…」

(;-A-)「…?」

(;-A`)「ブーン?」

(;'A`)「おい、ブーン!!」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:23:14.83 ID:K+VsXl1U0

( ^ω^)「ツン!」

ξ;゚听)ξ「ブーン!」

ξ゚听)ξ「ああ、心配したのよ、ブーンが急に倒れて、その次にドクオもね、倒れて。
 それで、それで…私も目の前が真っ暗になって…」

( ^ω^)「ツン、これは夢だお」

ξ゚听)ξ「え?」

( ^ω^)「夢だから、目が覚めたら忘れて欲しいんだお」

ξ゚听)ξ「何を?」

( ^ω^)「――ツン、僕は、君が好きだお」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:27:01.58 ID:K+VsXl1U0

見開かれた瞳を縁取る睫毛、流れる明るい色の髪、
白くはないけれど健康的な肌、ふっくらとした唇。
全てが可愛くて、いとおしい。

気にしているらしい、たびたび頬に出来るニキビすらも、
この思いを増長させてしまうのだから不思議だ。

ξ゚听)ξ「ブーン、」

欠点が無いなんてお世辞にも言えない。
自分が悪いとわかってもなかなか謝らない。
たまに我儘が過ぎて場の空気を白けさせることだってある。

ξ゚听)ξ「じゃあ、これも忘れてね」

それでも、そのあとに落ち込んでいる姿が愛おしいのだから、
もうどうしようもない。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:27:39.79 ID:K+VsXl1U0

ξ*゚听)ξ「私も、……好き」

( ^ω^)「…」

ξ*゚听)ξ「…夢から覚めたら私から言うんだから、さっさと忘れてよね!」

笑顔が、好き。

( ^ω^)「…抱きしめても」

ξ*゚听)ξ「普通、聞かないのよ」

少し鼻にかかった、声が好き。

ξ*゚听)ξ「…」

女の子特有の、けどツンだけの、この匂いが好き。

( ^ω^)「…」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:31:19.06 ID:K+VsXl1U0

ξ*゚听)ξ「ん!」

(*^ω^)「……」

ξ*゚听)ξ「ちょっと、何すんのよ!」

( )ω^)「普通聞かないって言ったお…」

ξ*゚听)ξ「だからっていきなりキ、キキキキ、キスすることないじゃない!」

(;^ω^)「ご、ごめんなさいだお…」

ξ*゚听)ξ「もう!初めてが夢の中だなんてブーンはデリカシーがなさすぎるわ!」

(;^ω^)「あうあう」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:32:14.77 ID:K+VsXl1U0

( ^ω^)「…ツン、ツン、好きだお」

ξ゚听)ξ「聞いたわよ」

( ^ω^)「ツン、もう一回言って欲しいんだお」

ξ゚听)ξ「もう。起きてからって言ったでしょ」

( ^ω^)「お願いだお」

ξ゚听)ξ「…」

ξ*゚听)ξ「もう」

ξ*゚听)ξ「私は、ブーンが、…好き」

( ^ω^)「愛してるお」

ξ*゚听)ξ「ば、ばっかじゃない!」

( ^ω^)「馬鹿でいいお」

ξ*゚听)ξ「もう…」



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:35:49.72 ID:K+VsXl1U0

( うω;)「…」

ξ゚听)ξ「ブーン?」

ξ゚听)ξ「どうしたの?」

( ;ω;)「嬉しいんだ、お」

ξ゚听)ξ「嘘よ。嬉しいときのブーンはそんな風に泣かないわ」

( ;ω;)「…嬉しいんだお」

ξ゚听)ξ「ブーン、なんで嘘つくの?」

( ;ω;)「嘘じゃないお」

ξ゚听)ξ「ブーン!」

( ;ω;)「ツン、忘れてくれお。お願いだお」

ξ;゚听)ξ「ブーン!どこ行くのよ!」



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:36:41.03 ID:K+VsXl1U0

ツン、僕は、終わりに行くんだ。
終わり。結末。終焉。なんて呼んだって構わない。

滲む視界に、限りない未練が映るけれど、それでも僕は行くんだ。
君はドクオみたいにひねくれていないから、ハッピーエンドが好きだろう?
僕も、出来ればハッピーエンドがいい。

子供騙しだとか、ご都合主義だとか言われても、
無理矢理にでも、終わるならしあわせな終わりがいい。
悪が倒されて、世界は平和になって。

だって、終わってしまうのだから。
物語は、もう続かないのだから。



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:41:56.15 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「…どうされました」

(´・ω・`)「まあ、リミットまで時間はあるし、ゆっくりしてくれてかまわないよ」

( うω;)「ワカッテマスはこういったおね。このナイフで、右のものか左のものか選択しろと」

( <●><●>) 「はい」

( ^ω^)「僕はずっと、右を選んできたお」

(´・ω・`)「?」

( ^ω^)「でも今回は左を選ぼうと思うお」

( <●><●>) 「…そうですか」

(´・ω・`)「ワカッテマス、僕には彼の言うことがちょっと理解できないのだけれど」

( <●><●>) 「…」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:43:02.46 ID:K+VsXl1U0

僕はしあわせだと思った。それが嬉しかったのだ。その言葉に嘘はない。
兄者が笑えた理由がわかった気がした。笑ってくれたのはきっと僕のためだったけれど、
あの場面で笑えた理由はけして自暴自棄になったからではない。

命を賭してまで守りたいと思える人間が居るということ、
そして自分の命でその人を救えるということ。
そしてそれが、僕を本当の意味で生かす。
なんと、しあわせなのだろう。

こんなくだらない馬鹿な僕だけど、それが二人も居る。

僕は死なない。本当には死にはしない。
例え、息が止まろうとも。
僕のたったひとつは生きるから。生き続けるから。

笑い方など忘れていた筈なのに、勝手にこみあげてくる。
そうだ、笑顔なんて勝手に出でくるもので、作るものなんかじゃなかったのだ。
僕が忘れていたのはそんな当たり前のこと。

最期に気付けて良かった。最期に笑えて良かった。
僕の人生は、本当にしあわせなものであった。


だから僕は、ひどく満たされた気持ちで、ナイフを左胸に突き刺した。



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:45:36.68 ID:K+VsXl1U0

あれ、意外と痛くな――

(;´・ω・`)「ぐッ、ああああああああ!!」

(;^ω^)「?!」

( <●><●>) 「さようなら」

ワカッテマスがその身の丈ほどもある鎌を持っているのを確認したのと、
ヒュン、と空を切る音を聞いたのはほぼ同時だった。

次の瞬間、ショボンの首が飛んだ。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:46:29.69 ID:K+VsXl1U0

(;^ω^)「ちょ…え?」

( <●><●>) 「…死神は 死神にしか殺せない と言ったはずです」

(;^ω^)「な、ななななんで」

( <●><●>) 「何に対しての なんで ですか …一応言っておきますが
       できそこないの死神である私には そうして魂を留めることしかできません」

(;^ω^)「え、あ…はい」

( <●><●>) 「それもそう長く持ちません 時がくれば 貴方の意識は完全に消滅します それが死です」

(;^ω^)「そう改めて言われるとショックだお…」

( <●><●>) 「すみません」

ワカッテマスは深々と頭を下げた。

(;^ω^)「い、いや別にそんなに謝らなくても」

(#<●><●>) 「なんでですか!」

(;^ω^)「うおっ」

(#<●><●>) 「貴方は 貴方はもっと もっと私に怒っていいのです!」

(;^ω^)「ご、ごめ」

(#<●><●>) 「謝罪をすべきは私の方なことを わかってください!」

(;^ω^)「わわわわわわかったお、だからその鎌をしまってくれお…」



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:49:57.76 ID:K+VsXl1U0

ワカッテマスはハッとしたように鎌を消して、
ついでにショボンの頭をサッカーボールのように蹴った。
その姿はまるで小学生か中学生で、なんだか笑った。

( ^ω^)「ええと…ショボンは何で死んだお?だってワカッテマスは完全な死神じゃないって」

( <●><●>) 「死神は死神にしか殺せないというのはつまり 死神の鎌でなければ殺せないという意味なのです。
       できそこないの私も鎌は扱えたので… ただ本当にそれだけです」

( ^ω^)「と、いうと」

( <●><●>) 「殺せはしますが 対抗はできません つまり 真っ向から向かって行って勝つことはできないのです」

( ^ω^)「ほほう」

( <●><●>) 「…貴方 ふざけてるんですか」

( ^ω^)「おっおっ、至極真面目だお。でもそうなんだおね、だから僕は君を嫌いになれなかったんだお」



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:50:54.33 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「…貴方の本当の敵は 私です」

( ^ω^)「?」

( <●><●>) 「私が貴方を選びました」

( ^ω^)「お」

( <●><●>) 「こんなにもたくさんの人間が居るのに 私があなたを選びました」

( ^ω^)「そうだお、それだお。…なんで、僕を選んだお?」

( <●><●>) 「……」

ワカッテマスは目を伏せて、大きく息を吐いた。
どう見たって中学生くらいにしか見えないのに、その表情は大人のそれだった。

( <●><●>) 「貴方の 少ない残り時間を 私のために使ってくれますか? 私の 懺悔に」

( ^ω^)「いいお」

( <●><●>) 「…」

( <●><●>) 「その話をするには まず 先ほどの話の続きから始めなければなりません」



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:54:47.83 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「真っ向から向かって行って勝つことはできない なら何故私はショボンを殺せたか」

( ^ω^)「…そう言われればそうだおね」

( <●><●>) 「ブーン 人間の間でも言われている通り 死神は人間の魂を狩る存在です
         魂を糧として存在する …ただひとつ 例外があります」

( ^ω^)「例外、」

( <●><●>) 「自殺した人間の魂は 死神には毒なのです」

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「何故かははっきりとはわかりません けれど わかる気がします」

( ^ω^)「なんか、らしくないおね」

( <●><●>) 「そうですね」

( ^ω^)「いいと思うお」

( <●><●>) 「そうですか」



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:55:40.95 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「…私は 私が貴方を選んだ理由はそこにあります」

( ^ω^)「……」

( <●><●>) 「貴方が この選択を続けるうち 誰かのために 自らを犠牲にする人間だと 思ったからです
       それもすぐにではなく 迷いに迷って あがいてくれる ショボンが興味を持つような人間だと」

( ^ω^)「そんな残酷な言葉、初めて聞いたお」

( <●><●>) 「私も そう思います」

( ^ω^)「おっおっ」

( <●><●>) 「何故 貴方はそう笑うのですか」

( <●><●>) 「こんなにも残酷で 救いようのない 他人の勝手な都合で 貴方は死んでしまったのに」

( <●><●>) 「しなくてもいい苦悩を 与えられるべきではなかった選択を 悲しすぎる決断を強制されて 貴方は」

( <●><●>) 「それなのに… それなのに」



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:58:41.94 ID:K+VsXl1U0

( ^ω^)「僕が責めるまでもなく君が君自身を責めているお」

( <●><●>) 「…」

( ^ω^)「それに…僕は死んだんだお。これ以上の理由は無いお」

だって、終わってしまったのだから。
物語は、もう続かないのだから。

それなら、すべてを赦したい。
憎んでも、怒っても、何も変わらないのならば、
誰かを赦して終わりたい。



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 22:59:34.43 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「それは 諦め ですか」

( ^ω^)「違うお むしろ貪欲なんだお ただで死んでやる気はないんだお」

( <●><●>) 「…貴方は よくわかりません」

( ^ω^)「おっおっ。君には感謝しているんだお。流石の僕もショボンは赦せそうになかったから」

( <●><●>) 「私ならば赦せると?」

( ^ω^)「そうだお」

( <●><●>) 「諸悪の根源の… 私を」

( ^ω^)「…聞かせてくれお。君が何故できそこないなのか。何故ショボンを殺そうと思ったのか」

( <●><●>) 「…」



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:02:02.16 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「短い方からお話しましょう 私が何故できそこないなのか」

( ^ω^)「そうしてくれお」

( <●><●>) 「前提として 死神は元は人間です」

( ^ω^)「ふむふむ」

( <●><●>) 「死神になるには 魂を刈った死神が 決まった儀式をしなければならないのですが」

( ^ω^)「へー、引き継ぎ制なのかお」

( <●><●>) 「スカウト制です」

(;^ω^)「…君がユーモアにあふれた人間だったとは思わなかったお」



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:03:00.50 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「私の場合は ショボンより先に私の魂を刈ってしまった死神が居たんです」

( <●><●>) 「激怒したショボンはその死神を殺し ショボンが私を死神にしました」

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「結果として 私はできそこないになりました」

( ^ω^)「他の死神はみんな殺したって…」

( <●><●>) 「そう 私のことが発端となって皆を殺したのですよ
       あの人は 自分の思い通りにならないのが一番嫌いな人でした ちょうど私の父のように」

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「…長い方をお話しましょうか」



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:06:13.07 ID:K+VsXl1U0

ワカッテマスの話は淡々としていた。教科書を読むように、自分の人生を語る。
悲しいのだろうか、それとももっと別な感情なのだろうか。
なんにせよ、彼の瞳には何も映らなかった。

ワカッテマスは、日本に住んでいた、普通の子供だったらしい。僕には想像もつかないけれど。
僕のトーチャンやカーチャンが生まれたくらいに、ワカッテマスは死んだのだという。

ワカッテマスには弟と妹が居た。そして当然だが、父親と母親が居た。
母親は絵に描いたような良妻賢母で、
また父親がエリートサラリーマンと言われるような人間だったこともあり、
ワカッテマスとその弟、妹たちは普通以上に幸せな生活を送っていた。

けれど母親が恋人と失踪してしまったことで、
全てが壊れてしまった。



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:07:07.93 ID:K+VsXl1U0

母親が居なくなったことで、ワカッテマス達の生活は激変した。

( <●><●>) 「変化したのは 父だけかもしれませんが」

父親は、母親だけしか女を知らなかった。それが当然だと思っていたし、
妻もそうであると信じきっていた。
友人も居なかった。それでも妻が居ればよいと思っていた。
そして妻もそうであるように求めた。

( <●><●>) 「母を恨むつもりはありません 彼女は十分すぎるほどよく耐えたと思います」

裏切られた。騙された。あの女。売春婦。父親は人が変ったように叫ぶ。

( <●><●>) 「私が愚かだったのです もう十二にもなっていたのに 父親の特異性に気づきもしなかった
       私が気づき 母を支えていれば もっと違った終わりがあった筈だというのに」

家具を投げる。壊す。窓を割る。ついには会社で暴力沙汰を起こし、警察に捕まり。

( <●><●>) 「私は あの家庭が 母の我慢という あまりに脆い土台の上に成り立っていた家庭が 幸せなものであると
       信じていました 疑ったことなどありませんでした」

ようやく帰ってきた父親は 見た目も 中身も 変わり果て。



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:10:35.03 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「まず 妹でした」

弱いものから。或いは幼くとも女だったからか妹がまず殴られた。
小さくかよわい身体、なにより自分の子供だというのに、父親は何のためらいもなく壁にその身体を打ちつけた。
そして、それが始まりの合図であった。

父親は、ひたすら三人を殴り続けた。自分の子供、三人を。
殴り、蹴り、打ちつけ、叩きつけ、罵声を浴びせ、

けれど ふ と正気に戻り、彼らを手当し、拙い料理を作り、泣きながら詫びるのだという。
母親を失った幼い三人に、唯一残った親という絶対の存在を拒否できるわけもあろうか。

ただただ、その、獣のような父親に耐えるしかなかった。
優しい父親が戻ってくるまで。



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:11:20.44 ID:K+VsXl1U0

しかしそんな生活が続くわけもない。まず妹が、最初に限界を迎えた。
不十分な栄養、過剰なストレス。一番幼い彼女には耐えがたいものだったのだろう。

熱を出し、嘔吐を繰り返す妹を見ていられなくて、ワカッテマスは夜中にこっそり抜け出した。
病院に泣きついて、なんとか見てもらう。そうすることで一時しのぎにはなった。
病院代を盗んだワカッテマスは盛大に殴られたけれども、そんなことは既に大した問題ではない。

( <●><●>) 「そういったことが 何回かあった頃ですか」

夢を、見たのだ。



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:12:53.23 ID:K+VsXl1U0









”やあ。ようこそ、夢の世界へ。”









125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:15:59.20 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「私は 特に何も考えませんでした どうせ夢なのだから と」

選択の内容は、僕とあまり変り無かった。

最初は、幼い子供二人。
二番目は、犯罪者と普通の人。
三番目は、兄と妹。

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「ただ なんとなく行った方に居た人間を 殺していました」

それが奇しくも、僕と同じ選択だったのだという。
三番目までは。

四番目に出てきた二人は、父親と母親の恋人。

( <●><●>) 「私は はっきりとした殺意を持って 父親を殺しました」

初めて僕と違う選択をしたワカッテマスが、目が覚めたとき、目にした光景。

( <●><●>) 「父親が 弟に殺されていたのです」

( <●><●>) 「今にして思うと 最も自然な死に方が ”息子に殺される” だとはつくづく哀れな男ですね」



126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:17:29.41 ID:K+VsXl1U0

(;<●><●>) 「ビロード!ビロード!貴方何を!」

( ><)「お兄ちゃ、ん」

(;<●><●>) 「貴方、自分が何をしたかわかっているんですか!」

( ><)「だって、ぽぽちゃんを殴るんです」

( <●><●>) 「ビロード…」

( ><)「お兄ちゃんだって、いっつも殴られてます ひどいんです」

( <●><●>) 「…」

( ><)「僕、もう、我慢できなかったんです…でも、僕、僕…いけないことだってわかってたんです」

( <●><●>) 「…大丈夫です」

( ><)「ごめんなさい、ごめんなさいお兄ちゃん…」

( <●><●>) 「大丈夫です、貴方は何も悪くありません。悪いのは」


悪いのは 誰?



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:20:57.98 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「私はその日ようやく あの夢の恐ろしさに気づいたのです」

少し調べてみると、殺した男と同じ顔をした犯罪者が怪奇的な死に方をしていることもわかった。
ワカッテマスは確信した。あの夢は現実に干渉する。

しかしそんなことはどうでも良かった。今は、父親をどうにかしなければならない。
図書館から帰ったワカッテマスは、まだ泣いている弟と妹に少し出かける、と告げた。

少しばかり会えないかもしれない、と思いはしたが、
まさかそれが現実で生きている二人を見た最後になろうとは。



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:22:21.79 ID:K+VsXl1U0

ワカッテマスは警察に向かった。
全てを話した。ただひとつ、父親を殺した犯人のこと以外は、真実を話した。
警察の気の毒そうな顔を見て、まあ悪いようにはされないだろうと思い、弟と妹のことを頼んだ。
そうすると涙ぐむ婦警もちらほら出始める。

警察は酷く同情的だった。近所から苦情や、助けてあげて欲しいという声も届いていたらしい。
それでも見にもこなかったのかと、ワカッテマスは軽く絶望した。本当に軽く。

その日は、父親の死体の処理や、事情聴取などで、目まぐるしく過ぎていった。
夢のことなど忘れてしまうほどに。

だから、ワカッテマスは、夜中に、車の中で眠ってしまったのだ。



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:25:24.39 ID:K+VsXl1U0

その夢の中で、ワカッテマスは弟を見つけた。
柄にもなく取り乱して、もう片方の道へ行くと、その先には妹が居た。

( <●><●>) 「でも私は 貴方のように 弟や妹のために死ぬという考えが 思いつきもしなかったのです」

どうしようもなくなって、とりあえずもう一度弟の元へ向かう。
しかしそれが間違いだった。

( <●><●>) 「ナイフを見た弟は 取り乱しました」

弟が父親を殺したときに使ったのも、ナイフ。

( <●><●>) 「そして 凄い力で 私の右手からナイフを奪い」

(  ω )「もういいお!」

( ^ω^)「…いいお」

( <●><●>) 「…」



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:26:29.17 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「…覚えていますか ナイフは持ち主の手によって扱われなければ意味がないと …それでは夢は覚めないのです」

( ^ω^)「…お」

( <●><●>) 「弟が自ら命を絶ったあとに 私は何をしたと思いますか?」

( ^ω^)「え」

( <●><●>) 「実をいうと 私の精神も弟が目の前で死んでしまったことによって限界を迎えたらしく そこからの記憶はないんです」

( <●><●>) 「ただ 私は目が覚めました」

( <●><●>) 「…目が 覚めたんです」

目が覚める。これの意味するところをワカッテマスは知っていた。
ワカッテマスの目が覚めるのを待っていたかのように、車は目的地に着く。

取り乱して駆け寄ってくる警察官の言葉を、ワカッテマスは言われる前から知っていた。


”た、大変です!ワカッテマスくんの弟さんと妹さんを乗せた車が――”



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:28:45.87 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「そこからの記憶は曖昧です 気づけば私の目の前で死神が殺されていました」

( ^ω^)「…」

( <●><●>) 「そして私はできそこないとしてショボンに仕えました ショボンの快楽のため 何人も選択の場に連れてきました
         そういった人達はショボンが飽きれば殺されてしまいました」

(;^ω^)「そんな…」

( <●><●>) 「そう 私にもわかっていました 悲劇を繰り返すだけだと」

( ^ω^)「それで…ショボンを殺そうと思ったんだおね?」

( <●><●>) 「ええ どうすればいいか ずっと考えてました そして ある日人間界をショボンとさまよっていたときのことです」



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:32:09.66 ID:K+VsXl1U0









(´・ω・`)「ああ、こっちはやめておこう」

( <●><●>) 「どうしたのですか?」

(´・ω・`)「ほら、あそこ。首を吊ろうとしているだろう」

( <●><●>) 「ええ…それが?」

(´・ω・`)「できそこないの君と違って、僕みたいに完全な死神に自殺者の魂は毒みたいなものなんだよ」

( <●><●>) 「何故ですか?」

(´・ω・`)「さてね。とにかく近くで自殺なんかされたらたまったもんじゃない。自殺しようとしているだけで気分が悪いよ」








147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:33:07.87 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「そして 私は貴方を見つけました」

( ^ω^)「…そう、かお」

( <●><●>) 「他に 何かありますか」

( ^ω^)「…その…最期の記憶は曖昧なんだおね?」

( <●><●>) 「ええ 何で死んだのかもよくわかりません」

( <●><●>) 「…ただ、」

( ^ω^)「ただ?」



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:34:09.01 ID:K+VsXl1U0

( <●><●>) 「最後の記憶は 病院なんだと思います ただの肉片となった二人を見ました」

( <●><●>) 「多分医者だったと思うのですが 誰かから妹さんが持っていたものだ と渡された蜜柑を見ました 皮肉なくらい綺麗なままの蜜柑」

( <●><●>) 「そこに私の名前が書かれていたのです きっと私にくれるつもりだったのでしょう」

( <●><●>) 「妹は蜜柑が大好きでした 父がああなってからは食べられなかったので 警察の方にせがんで買ってもらったのかもしれません」

( <●><●>) 「そんな大好きな蜜柑を 私にあげようとしていたのです 妹は」

( <●><●>) 「多分 私は最後に笑ったのだと思います」

( <●><●>) 「覚えてはいませんが 妹と弟のことを考えていたので 多分笑ったのだと思います」



154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:36:42.49 ID:K+VsXl1U0

( ^ω^)「…でも」

( ^ω^)「でも、今は泣いているお」

( <●><●>) 「泣いている?私が?」

( ^ω^)「涙」

( <●><●>) 「…ああ、」

( ^ω^)「大好きだったんだおね?」

( <●><●>) 「ええ、 …ええ 私は 本当は 父親も嫌いではありませんでした 誰も 」

( ^ω^)「わかるお」

( <●><●>) 「そうですね だから私は貴方を選んだのかもしれません」



159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:39:08.39 ID:K+VsXl1U0

( ^ω^)「ゆるすお」

( <●><●>) 「…」

( ^ω^)「僕は、君をゆるすお。だから」

( <●><●>) 「…だから?」

( ^ω^)「泣きたいときは泣いてくれお」

( ^ω^)「笑いたいときは笑ってくれお」

( <●><●>) 「努力 します」



161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:41:12.78 ID:K+VsXl1U0

この雨が止むまでずっと、彼と一緒に居てあげたいと思ったけれど、その願いは叶いそうにもなかった。
空が白んでいくように、僕の視界はどんどん霞んでいく。
心は矢張り穏やかなまま、覚えてはいないけれど羊水の中に居るような、あたたかでふわふわとした感覚。

雨が止めばいいのに。雨も嫌いではないけれど、僕が一番好きなのは青空だ。
僕やドクオが走っていた、ツンが応援してくれた、あの運動場に一番よく似合うのは、青空だからだ。

ついに何も見えなくなった視界に、浮かんでくるぼくのゆめ。

ドクオが汗をタオルでぬぐいながら僕を応援している。走ったあとなのだ。
ツンもいつものジャージ姿で僕を応援してくれている―ブーン、負けたら承知しないんだから―
可愛らしい声を張り上げて。僕のところまで届くように。



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:43:16.14 ID:K+VsXl1U0

その横には兄者と弟者が居る。兄者は病弱だからか、弟者に日傘をさしてもらっている。
二人が話しているところなど見たことがないのに、その光景は凄く自然だ。
弟者のあの性格は兄者が居たからこそだったのだろう。
二人が話しているところは見たことがないが、想像がつく。
兄者ははしゃいでいる。ああ、がんばらなくっちゃ、兄者は僕のことただの泣き虫だと思っているだろうから。
見返さなきゃ。そして、褒めてもらいたい。あの笑顔で、よくやったなって。

少し離れたところに、カーチャンと擬古さんがいる。
カーチャンは見ているこっちが恥ずかしくなるくらいに興奮している。
声を張り上げて、僕の名を呼ぶ。よく通る声。
擬古さんは少しうろたえながらもカーチャンに続く。
低めの声は通りが悪い。けど、僕にはちゃんと聞こえているよ。

そのさらに遠くにはトーチャン。トーチャンは何も言わない。
けど僕にはそれで良かった。



174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:46:42.11 ID:K+VsXl1U0

スタートの合図、はじかれたように飛び出す。
ひとりぼっちのかけっこ。走っていくうち、身体がどんどん小さくなっていく。
ついには小学生のときの僕になったが、問題無い、ゴールは目の前だ。

僕は懐かしい体操服を着ている。胸には「1−2 内藤」と書かれたワッペン。
白いテープを切って、僕はゴールする。
トーチャンが僕に一等賞の旗を差し出す。僕は笑ってそれを受け取る――



176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/06(水) 23:47:32.61 ID:K+VsXl1U0







なんて、しあわせなゆめだろう。
ドクオは怒るかもしれないが、たとえばそこにワカッテマスが居ても、
僕のしあわせはちっとも揺るがないと思うのだ。

<第六択・了>



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