( ^ω^)ブーンが二者択一するようです
- 12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 22:29:26.64 ID:IyiHZwjkO
<にじのはなし そのいち>
(´<_`*)「あにじゃ、あにじゃほら、にじ、にじだよ!」
( ´_ゝ`)「ん?あ、ほんとだ。きれーだな」
(´<_`*)「すごい!すごいなあにじゃ!」
( ´_ゝ`) 「うん、すごいなあ」
お使いに行ったその帰り、空に架かった大きな虹、ひかれていた手。
虹が何色だったかも、その手の暖かさも、少しも覚えていないのだが。
ただ、姿勢のいい背中と、俺のを少し冷たくしたような兄者の声、
そして俺が馬鹿みたいに笑っていたってこと。
そういうことをひっそりと思いだしては、
俺はひっそりと笑う。
そうやって、今もなんとか死なずにいるわけである。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 22:31:27.90 ID:IyiHZwjkO
( ^ω^)ブーンが二者択一するようです 番外編
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 22:34:40.11 ID:IyiHZwjkO
(´<_` )「にじってなんでできるんだろう?」
( ´_ゝ`) 「んん?あー、えーと、太陽のひかりが、」
(´<_`*)「きらきらしてるー!すげー!」
( ´_ゝ`) 「……んー、あー、たからのありかをしめしてるんだよ」
(´<_` )「おたから?」
( ´_ゝ`)「そーそ、おたから」
(´<_`*)「おたから!」
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 22:42:29.47 ID:IyiHZwjkO
(*´_ゝ`)「ふふん、じつはだな、にじの根元をほりかえしたら、タカラバコがみつかるのだ」
(´<_`*)「へええ!」
(*´_ゝ`)「タカラバコの中には、そのひとの一番ほしいものが入っていると、もっぱらの噂だ」
一緒に生まれたのだから、
兄と弟なんて区別は名前ばかりであるはずなのに、
この記憶のずっと前から、兄者は確かに兄であった。
身体は丈夫な癖に弱かった俺のせいだったのか、
兄者が元々そういう人間だったのかわからないけれど、
それでもやっぱり俺は確かに弟だった。
いや、この時点では兄弟ですら無かった気がする。
血の繋がりはあれど、兄弟なら当然の、対等な関係ではなく、
ただ、優しさを与えるものと与えられるものだった。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 22:45:46.82 ID:IyiHZwjkO
(´<_`*)「すごいな!あにじゃは!」
( ´_ゝ`)「……絵本にかいてあっただけだぞ」
(´<_`*)「でも、でもすごい!」
( ´_ゝ`)「へーへー」
俺は何も考えずにぼんやりと、振り注がれる優しさに甘えているばかりで、
優しさを貰ったのだから、と誰かにそれを与えようだなんて考えたこともなかった。
それどころか、与えられた分の優しさを返そうとすら思わなかった。
その状態を疑問に思ったこともなかった俺の浅ましさや、
その状態を許し続けた兄者の優しさをおもうと、今でも胸が痛くなる。
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:04:20.39 ID:sqxqqJ+8P
(´<_`*)「な、なああにじゃ!外であそぼう!てんきがいい!」
( ´_ゝ`)「ヤーダぷー」
(´<_`;)「なんだよぷーって!」
( ´_ゝ`)+「お前がまことに遊びたいならば一人でも遊べるはずだ」
(´<_`;)「おれはあにじゃとあそびたいのー!」
( ´_ゝ`)「俺以外に遊ぶ友達が居ないんだろ。そこでいくら俺がかっこうよくて頭がいいからって、
すーぐに兄にたよっちまうようなちょろい根性だから友達が出来ないんだ」
(´<_`;)「うっ」
( ´_ゝ`)「わかったならさっさと公園へ行って、そこに居るやつらと一緒に遊んでこいよ。ひ、と、り、で」
(´<_` )「…………だって」
( ´_ゝ`)「……」
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:07:31.53 ID:sqxqqJ+8P
( ´_ゝ`)「人はこどくな生き物なんだぞ」
(う<_` )「うー」
( ´_ゝ`)「お前、もし俺がいなかったら、一生公園も行けないわけだ。ひきこもりだ」
(´<_` )「うん……」
( ´_ゝ`)「認めるなバカ。ひとりで行け」
(´<_` )「やだ」
( ´_ゝ`)「そくとーすんなバカ」
俺と兄者はある時までは、喧嘩らしい喧嘩をしたことがなかった。
日々の小さい喧嘩は勿論あったけれど、それは本当にその場だけのもので、
何日も続くなんてことはなかったし、殴り合いなんてしたこともなかった。
それは、俺が弱虫だったからとか、兄者の身体が弱いからとか、
そういう理由からではなくて。
- 40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:11:38.52 ID:sqxqqJ+8P
(´<_` )「そくとーしたいとしごろなんだ」
( ´_ゝ`)「バカ」
(´<_`;)「バカバカいうなよー」
( ´_ゝ`)「バカっていいたいとしごろなんですよねえ」
喧嘩っていうのは、どこかで対等な相手じゃないと出来ないものだ。
普段、人を覆っている全てをはぎ取って、
むき出しの心と心がぶつかり合って、だから痛くって涙が出る。
俺と兄者は対等じゃあなかった。だから、喧嘩も出来なかったのだ。
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:14:37.40 ID:sqxqqJ+8P
(-@∀@)「あっあにじゃだー今日はあそべるの?」
( ´_ゝ`)「よー久しぶり。今日はあそべるぞー」
(-@∀@)「わーい!あ、でも走るのは無理なんだっけ?」
(*´_ゝ`)「いつもすまんねえおまえさん」
(*-@∀@)「それは言わない約束ですよ」
o川*゚ー゚)o「なあに二人とも変なのー」
(´<_`;)「……」
( ´_ゝ`)「フヒヒwwwあ、弟者もいいか?」
(*-@∀@)「いいよー」
( ´_ゝ`)「だってさ」
- 46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:18:43.26 ID:sqxqqJ+8P
兄者に肩をはたかれてから、俺はようやく顔をあげる。
家の中では普通に喋れるのに、外ではどうにもオドオドしてしまうのだ。
同年代が特に苦手で、それが何人も居るとそれだけで泣いてしまいそうになる。
それでも自分を変えようとしなくても
普通に暮らしていけたのは、姉者や兄者の存在が大きい。
二人はむしろ人気者だったので、その弟である俺は近所の子供たちからはいじめられなかった。
極度な人見知りと、アガリ症がひっついて、それに甘ったれがのっかったわけである。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:21:52.32 ID:sqxqqJ+8P
(´<_`*)「たのしかった!」
( ´_ゝ`)「んー、そうだな。お前ちゃんと笑ってたなあアホみたいに」
(´<_`*)「うん!あにじゃのおかげだな!ありがとう!」
( ´_ゝ`)「……そうそう俺のおかげだぞーかんしゃしろー」
(´<_`*)「かんしゃ!」
( ´_ゝ`)「へーへー。きょうのごはんはなーにかなー」
(´<_`*)「きょうのでざーとが、いちごだったら、あにじゃにあげる!」
( ´_ゝ`)「ふうん?じゃあぶどうだったら?」
(´<_`;)「……ふたつぶなら……」
( ´_ゝ`)「……お前、ほんとバカだなあ」
- 50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:24:35.24 ID:sqxqqJ+8P
普段が大人びているからなのか、笑うと兄者は急に幼くなる。
たまに、そうやって兄者が笑うのが、俺は嬉しかったのだと思う。
友達と遊んでいるときとは少し違うその笑顔が、
ああ、やっぱり俺は”おとうと”で”とくべつ”なんだと思わせてくれて。
何にもないできそこないみたいな俺にも、此処には、何かがあるんだって思えて。
自分一人では、其処に価値は生まれない。
何かとふれ合って、やっとそこに価値が生まれる。
それはなんだっていいんだけど、やっぱりそれは誰かであってほしい。
そしてそれが兄者であると、俺はなんの屈託もなく信じていた。
- 53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:27:10.51 ID:sqxqqJ+8P
治そうともしていなかったのだから当然なのだが、
前述した俺のどうしようも無い性格は小学校に上がっても治ることはなかった。
どんなに困ってもいつかは誰かが、つまり兄者や姉者が助けてくれる、
そう信じてやまなかった俺は、自分の性格を嫌悪こそすれ、
治さなければと思ったことがなかった。
小学校生活も三年目にさしかかって、運悪く兄者とも近所の子ともクラスが離れ、
晴れていじめられっこになってからも変わらなかったのだから、
筋金入りの馬鹿としか言いようがないだろう。
- 57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:30:15.10 ID:sqxqqJ+8P
その当時は拷問のように感じていたものの、いじめはそんなに酷いものではなかった。
せいぜい何かするたびに笑われたり、給食を少なく入れられたり、
消しゴムとか30センチ物差しとか、地味なものが無くなったりする程度。
あ、いや30センチ物差しは地味じゃないな。数学、じゃない、さんすうのときかなり困ったんだった。
そんな地味ないじめさえ学年中に知れ渡ってしまうのだから、
小学生のネットワークというのもあなどれないものだ。
( ´_ゝ`)「お前、いじめられてんの?」
(´<_`;)「な」
( ´_ゝ`)「なんでかというと、クラスの奴が教えてくれたから。ちょっとした有名人だぞ」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「本当にいじめられてんのか、だっさいやつ」
(´<_` )「兄者には、わかんないよ」
( ´_ゝ`)「わかってたまるか。俺はいじめられるシュミねえもん。あほらしー」
- 60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:33:01.05 ID:sqxqqJ+8P
そんな兄者の率直な感想に拗ねた俺は、晩ご飯まで兄者と口をきかないことにした。
晩ご飯まで、というところがいかにも甘ったれである。せめて明日までにしておけ。
しかしいざそうしてみると、普段いかに俺ばかりが喋っているかわかって嫌になった。
俺が黙っていることは兄者にとってマイナスではない。読書がはかどるから、むしろ喜ばしい。
それがわかっているから、唇を噛む力が強くなる。
( ´_ゝ`)「今日は静かなんだな」
(´<_` )「……」
唇を噛んだままの俺に小さくあほらし、と呟いて、それっきり。
それ以降、兄者は俺の方を見ることすらしなかった。
だから俺は晩ご飯が待ち遠しくて仕方がなかった。
- 62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:37:47.83 ID:sqxqqJ+8P
@@@
@#_、_@
( ノ`)「あんたらご飯だよ!降りてらっしゃい!」
( ´_ゝ`)「はー「あにじゃ!」(´<_` )
(;´_ゝ`)「うわっなんだびっくりした!俺を殺す気か!」
(´<_` )「ご、ごめん……」
( ´_ゝ`)「はー……で、なに?」
(´<_` )「いや、何でもないんだけど」
(#´_ゝ`)「なんだ、そんな理由で俺は寿命を縮めたのかテメー」
(´<_` )「えっと、晩ご飯まで兄者と喋らないぞって決めてて……」
( ´_ゝ`)「なんで?」
(´<_`;)「なんでって…むかついたから……」
(;´_ゝ`)「あ、そう…」
- 64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:42:26.58 ID:sqxqqJ+8P
(´<_` )「そんで……でも俺が喋らなかったら兄者が喋らないし…」
(;´_ゝ`)「そりゃ一人じゃー喋らないだろ」
(´<_` )「っていうか俺は兄者と喋りたいし、暇だし…」
( ´_ゝ`)「じゃあ喋ればいいじゃん」」
(´<_` )「でも、晩ご飯までって決めてたんだ!」
( ´_ゝ`)「お前さあ、どうせ家の中でしかマンゾクに喋れねーんだから好きに喋れよ、馬鹿だな」
(´<_`*)「だってさあ、あ、良い匂い。今日カレーだ」
(*´_ゝ`)「あ、マジだ。ラッキー」
- 65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:47:39.91 ID:sqxqqJ+8P
馬鹿な俺は、次の日になれば、たいていの痛みを忘れることが出来ていた。
無くなった消しゴムのことは忘れられなくても、
消しゴムが盗られてしまったのだと知ったときの悲しみは忘れられた。
けど、それでも、初めて殴られた日は、教室に帰れなかった。
殴られた痛みよりも、向けられた剥き出しの悪意がおそろしくて、
笑い声が耳に残ってはなれなくて、記憶の中の声だけで何回も泣いた。
実際のところ、彼らは別に俺の何が憎いわけでもなかったのだが。
ただ、こいつちょっと変だな。ちょっかいかけてみよう。そういう始まり。
そうしたら、なんだかおもしろかった。
だから、もっとちょっかいをかけてみた。
もうちょっと。
もうちょっと、…………。
- 67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:50:36.50 ID:sqxqqJ+8P
恐ろしいじゃないか。殴ったらすごく痛いのに、笑いながら殴るなんて。
同じ生き物なのに。人間なのに。泣いてるのに。それなのに殴り続けるなんて、そんな。
そんなことをする奴が怖い。
そんなことをする奴が存在するこの世界が怖い。
そんなことをされていても平気で時間が流れるこの世界が怖い。
何をされていたって救われないその現実が怖い。
そんなこと知りたくなかった。
世界に自分がひとりぼっちだなんて、知りたくなかった。
- 70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:53:51.97 ID:sqxqqJ+8P
( ´_ゝ`)「で?何してんの」
泣き続けて、どれくらい経ったのかわからなくなった頃。
俺を見つけたのは兄者だった。
(´<_` )「……あにじゃ」
( ´_ゝ`)「それは俺の名前。俺は、何してんのってきいてるんだ」
声色だけでわかるほどに、兄者は怒っていた。
苛立っている、といった方が正しいか。
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「みんな、探してるぞ。先生とか。どんだけメーワクだと思ってんの」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「お前さ。そんなに嫌なら、なんで怒らないの。立ち向かわないの」
(´<_` )「勝て、ないよ、俺一人だし、」
( ´_ゝ`)「勝てなんていってないだろ。せめて話くらい聞けよ。
……なあ、弟者。俺がいつか、助けてくれるとでも思ってた?」
- 71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:56:02.63 ID:sqxqqJ+8P
(´<_`;)「え」
背筋がぞくりとした。
兄者によって暴きだされたもの。
当たり前のようにそこにあって、優しくて暖かくて浅ましいもの。
あまりにも情けない。けれど、捨てたくもない。そんな、わがままな。
( ´_ゝ`)「助けないからな、俺は」
( ´_ゝ`)「……絶対に」
神様に捨てられた世界は、涙で滲んで、よく見えなかった。
- 72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/25(水) 23:59:09.23 ID:sqxqqJ+8P
その日から、俺は必死に頑張った。
多分、人生で初めてといっていい、自分独りでの戦いだった。
けどそれは自立を意味しない。
世界で一人ぼっちだと体育倉庫で泣いていた癖に、本当はわかっていたのだ。
誰かが、たぶんきっと兄者が、迎えにきてくれると。
本当に寂しいのなら自分から会いに行けばいいものを、
わざわざ待っていたのはそういうわけなのだ。
助けて欲しくてたまらないのに、助けてと声を出すのは嫌で。
言わなくても、理解して、助けてほしいだなんて。
多分こういった思いは誰もが抱くものだと思う。
ただおかしいのは、こんな思いを同じ年齢の人間に押しつけていた俺。
そして、この日まで、その思いを裏切ることのなかった兄者。
- 73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:02:47.39 ID:2jLP3pfiP
それまでの世界を取り戻したい。
それが俺の必死の戦いの理由。
どうにかして、なんとしてでも、兄者に見直してもらわなければ。
そうすれば、またあの呆れたような笑顔で、なんでもないように俺を救ってくれる筈なんだ、と。
( う_ゝ`)「……うるさい…」
(´<_`;)「あ、ごめん起こした?」
(;´_ゝ`)「……は?何?え、今何時?!」
(´<_`;)「あ、大丈夫だよ!まだ六時だから!」
(;´_ゝ`)「なんだ……じゃあなんでもう準備してんの?」
(´<_` )「えっと、上履き隠されないようにしようと思って」
( ´_ゝ`)「……あー、ごめんな、流石に天才なお兄ちゃんも寝起きの頭じゃ、弟者言語解読できないんだわ」
(´<_` )「だ、だから!俺が一番に行って上履きはいてたら隠されないでしょ!」
( ´_ゝ`)「……ああなるほどわかった。お前は大馬鹿。おやすみ」
- 74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:04:39.46 ID:2jLP3pfiP
馬鹿と言われようが、とにかく誰よりも早く学校に行き上履きを履いた。
机に落書きをされるから、家から洗剤と雑巾を持参した。
コツコツ貯めていた貯金箱をぶっこわして、無くなったものを全部買った。
物をとられないようにと、すべてのものをいつでも持ち歩いた。
体育のときなんかは、五十メートル走のときよりも必死に走って、一番に教室に帰った。
毎日ひとりだけ荷物の多い俺を見ては、兄者はため息をついていた。
( ´_ゝ`)「はてさて、弟者の頭の中に、脳みそはあるのだろうか」
(´<_`;)「あるよ!」
( ´_ゝ`)「あれだな、きっと発泡スチロールとかが入ってるんだろうな」
(´<_`;)「ちゃんと脳みそが入ってるよ!」
( ´_ゝ`)「ばッかお前、入っててコレとか救いがねえだろ!入ってないってことにしろ!」
- 78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:08:06.08 ID:2jLP3pfiP
世界中の人から見れば大いにズレていただろう俺の努力は、
例えば普段勉強してない人間がたまにした一時間の勉強や、
かけっこでいつもビリの子がとった二位みたいなもんで、俺にとっては非常に尊いものだった。
だもんで、生粋の甘ったれの阿呆な俺は、
これだけ頑張ったのだから救いがあって然るべきであると信じてやまなかった。
そしてある朝、そんな夢見がち野郎をつけあがらせる出来事が起こる。
- 80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:10:54.03 ID:2jLP3pfiP
その日もいつものように朝一番に登校し、やることもないので誰も世話をしない金魚に餌をやっていた。
この金魚はクラスの一員として飼われていて、その日の日直が朝早くに登校して世話をすることになっていた。
いわゆる情操教育というやつの一環だったのだろうが、子供というものは往々にして熱しやすく冷めやすい。
みな最初の一、二週間ほどで飽きてしまって、誰かが気が向いたときにしか餌をやらなくなってしまった。
(´<_` )「すいそー、超きたないなあ」
エアーポンプがあるとはいえ、これだけ濁りきった水で、うまく呼吸が出来るのだろうか。
息が出来なかったからか、餌が足りなかったからか、一匹ひっそり死んでいたのを多分俺だけが知っていた。
誰にも言わずに埋葬されたチャッピーだかトッピーだかが消えたのに、結局誰も気付かないままで、
多分俺もそうなんだろうなあとぼんやり思っていた。不思議と寂しくはなかった。
本当になんとなく、きっとそうなんだろうと思っていた。
そんなとき、教室のドアが勢いよく開かれた。
- 82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:14:02.05 ID:2jLP3pfiP
(´<_`;)「うわっ!」
ミ,,゚Д゚彡「うお、なんだ、流石か!お化けかと思ったぞ!お前なんだよ、早すぎだろ!」
(´<_`;)「う、あ」
ミ,,゚Д゚彡「あれっ金魚にもう餌やったのか?!今日の日直って俺だろ?」
(´<_`;)「だ」
ミ,,゚Д゚彡「だ?」
(´<_`;)「だ、って、みん、な あげな、あげないから、」
ミ,,゚Д゚彡「当番なのに?」
(´<_`;)「そうだ、よ」
- 83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:17:47.51 ID:2jLP3pfiP
ミ,,゚Д゚彡「なんだそれ!つーか、久々に見たら水槽ちょー汚くねぇ?濁りすぎだろ!シャレになんねえぞ!」
(´<_`;)「あ」
ミ,,゚Д゚彡「あ?」
(´<_`;)「あらう?」
ミ,,゚Д゚彡「やり方知ってんのか?」
(´<_`;)「う」
ミ,,゚Д゚彡「どっちだよ」
(´<_`;)「しって……る」」
ミ,,゚Д゚彡「じゃあテキパキするぞゴルァ!」
- 84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:20:42.66 ID:2jLP3pfiP
教室に飛び込んできたのは、彼は二学期から転入してきた擬古という少年だった。
まだ二学期が始まって間もないというのに、彼はすっかりクラスに馴染んでいて、
一年からこの学校に居る俺との差はなんなのだろうと思っていたものだが。
必要以上に大きな声にビクつきながらも、なるほど、と納得した。
こんな風な喋り方をすれば、からかわれるか奇異の目で見られるかのどちらかだ。
でも彼は責めたりすることもなく、俺の言葉を待ってくれた。
この、大らかさ。乱暴で、怖いけれども、どこか優しい。
喋ったのはこれが初めてだったが、十分にそれが伝わった。
- 86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:22:27.85 ID:2jLP3pfiP
ミ,,゚Д゚彡「金魚、好きなのか?」
(´<_`;)「きらいじゃ ない だけ」
ミ,,゚Д゚彡「じゃあなんでこんな朝っぱらから学校きてンだ?」
(´<_`;)「う」
(´<_`;)「わ ばきとられるから」
ミ,,゚Д゚彡「あぁ、犯人を見張ってんのか」
(´<_`;)「ちが」
ミ,,゚Д゚彡「え?」
(´<_`;)「先に、履けば、とられ ない」
ミ,,゚Д゚彡「なんかみみっちいことやってんなァ。堂々と上履き盗るなって言えばいいじゃねえか。
それともお前、あいつらになんか悪いことでもしたのか?」
(´<_`;)「し!ってないよ!」
ミ,,゚Д゚彡「じゃあ言えば?」
(´<_`;)「そ れ、は、むり!」
- 87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:25:21.49 ID:2jLP3pfiP
ミ,,゚Д゚彡「ふーん。女々しいやつ」
(´<_`;)「……」
ミ,,゚Д゚彡「でも、金魚はお前のオカゲで助かってんだから、良いやつだな」
(´<_`;)「……あ」
(´<_` )「ありが と」
ミ,,゚Д゚彡「うん」
(´<_` )「……妹」
ミ,,゚Д゚彡「ん?」
(´<_` )「か、弟 いる、でしょ」
ミ,,゚Д゚彡「おお。なんでわかったんだ?妹が居てなぁ、つーっていうんだがこれがまた可愛くって!」
(´<_` )「いもう と」
ミ,,゚Д゚彡「ウチかーちゃんいねぇから、俺がよく面倒みてンだ!」
(´<_`*)「え えらい、 ね!」
- 90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:29:17.20 ID:2jLP3pfiP
水槽を掃除して、みんなが来るまでの間、少し喋っただけ。ただそれだけ。
それなのに、まるでいじめがなくなったみたいに喜んで。
いや、彼は別に漫画でありがちな、
「ぬかよろこびさせるために嘘で仲良くしてやった」とかそういうことをする人間ではなかったのだけど。
それに、確かに、彼をクラスで初めて出来た友達と言ってしまってもいいくらいには、喋るようにはなったけれど。
だけど、彼は俺を助けてはくれなかった。
彼にとって、俺がそこまでの存在ではなかったのだ。
喋るくらい、ちょっと落としたものをとるくらい、俺にとっては大事件でも、
彼にとってはどうってことのないことで。
だから結局なんの解決にもならないのに。
- 92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:31:59.71 ID:2jLP3pfiP
( ´_ゝ`)「ひっじょーに」
( ´_ゝ`)「きもちわるい」
(´<_`*)「なにがー?」
(;´_ゝ`)「お前が。主に顔が。にやけすぎだろ」
(´<_`*)「うへへへへ」
( ´_ゝ`)「……友達でも出来たのか」
(´<_`*)「うっへええ」
( ´_ゝ`)「………」
(´<_`*)「なにー兄者!くやしいのか?!」
( ´_ゝ`)「いや俺お前と違ってトモダチ超いるし」
(´<_`*)「うへへへへ」
- 95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:34:21.28 ID:2jLP3pfiP
( ´_ゝ`)「……お前にとって、友達って何?」
(´<_`*)「?」
( ´_ゝ`)「喋ってもらえれば、友達?」
朝にあった出来事を話したわけでもないのに、
兄者は的確に俺の答えを言ってみせた。
そこにはもしかしたらやんわりと皮肉が混じっていたのかもしれないが、
それに俺が気付くことはなかった。
(´<_`*)「そうじゃ、ないの?」
( ´_ゝ`)「……」
( ´_ゝ`)「そうだな」
( ´_ゝ`)「その方が、いいのかもな」
(´<_`*)「?」
- 98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:37:41.36 ID:2jLP3pfiP
家族という繋がりはある種絶対的で、他では得られない安心がそこにある。
しかしその安心がときに仇となり、赤の他人であれば絶対に踏み込めないような、深いところに傷をつけるときもある。
特に子供にとっての家族は自分の人生そのものみたいなもので、
家族に否定されることは、人生を否定されることに等しい。
親兄弟の何気ない一言を大人になっても根に持ってる人は結構居るんじゃないだろうか。
かくいう俺も小さな頃に母者に言われた、
「あんたはなんでそんな風になっちまったんだろうねえ」という一言が未だに忘れられなかったりする。
同じようなことを姉者にも言われたのをry
あと父者にもry
勿論、それが軽蔑とかそんなもんじゃないってことくらいは十分理解しているし、
うちの家族はどこにも負けないくらい流石だっていう自信もある。
だからこそ、こういった記憶が目に付くのかもしれないが。
- 100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:40:03.21 ID:2jLP3pfiP
だけど、兄者にだけはそういった記憶がない。
同じようなことを言われたことはあるのに、
むしろ誰よりも多くそういうことを言われたのに、それに傷ついたことがない。
それはなぜなんだろうと考えてみて、同じ年齢だからとか、
言われすぎて慣れたからだとか、そういうことも思い浮かんだけれど、
やっぱり一番しっくりくる理由は、彼の優しさだ。
どうでもいい風に、お前はダメだと、馬鹿だと言われる。
それが、「お前がダメで馬鹿なことくらい、俺にとってはどうでもいいことなんだ」と、言ってくれてる気がして。
まあ、そんなのは俺の幸せな勘違いだとしても、そう思わせるくらいに、兄者は優しかったのは確かだ。
はっきりと口に出さない優しさってのは、伝わりにくいくせして、なんでこうもやわらかくあたたかいのか。
- 101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:43:46.32 ID:2jLP3pfiP
l从;∀;ノ!リ人「うわーん!母者のとんちんかん!わからずや!」
(´<_`;)「どうしたの妹者…」
( ´_ゝ`)「ああ……ネコ拾ったんだって。帰り道。んで、飼いたいって母者に言ったんだけど」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「うちの何処にそんなお金があるんだい!!」
l从;∀;ノ!リ人「うわあああああん!」
( ´_ゝ`)「……って感じ」
(´<_`;)「そ、そっか……」
- 103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:46:43.10 ID:2jLP3pfiP
ひとたび激怒すれば鬼も裸足で逃げだすであろううちの母者にこんな暴言を吐くなんて、
よっぽどそのネコを気に入ったのだろう。そもそも妹者はワガママは言っても反抗はしない子だし。
彼女の腕の中に収まっている小さなネコは確かに可愛らしい。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「元の場所に置いておいで!」
悔しそうに唇を噛みしめる妹者に、母者は容赦ない言葉をかけた。
捨ててこい、と言わなかったのは母者の優しさかもしれない。
どうにかしてやりたいという気持ちは勿論あった。
可愛い妹者を泣かせたいなんて誰が思うものか。
けれど、俺には何も思いつかなかった。
お金の問題を出されてしまえば、子供にはそれまでなのだ。
- 104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:49:13.92 ID:2jLP3pfiP
( ´_ゝ`)「……妹者」
兄者がゆっくりと妹者の頭を撫でる。
俺も本当にひどく泣いたときにはよくしてもらっていたから、
こうやって誰かがしてもらっているのを見るのはなんとなく気恥ずかしく感じた。
( ´_ゝ`)「ほら、いこう?」
l从;∀;ノ!リ人「や……なのじゃ……」
( ´_ゝ`)「大丈夫、俺にかんがえがあるから。流石な俺をしんじろ」
l从;∀;ノ!リ人「う……」
( ´_ゝ`)「ほら何ぼーっとしてんだお前も行くぞ」
(´<_` )「へ?」
- 105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:52:46.16 ID:2jLP3pfiP
兄者の”かんがえ”とは、近所中を歩き回って飼い主を見つける、
というまったくもって流石といわざると得ないくらいに、地道なものだった。
結局日が暮れて真っ暗になるまで何時間も歩きまわって、なんとか飼い主を見つけることが出来た。
引き取ってくれた人はとても優しかった。妹者も安心したようで、何時間も歩いた後だというのにニコニコしていた。
l从*・∀・ノ!リ人「おっきい兄者、ほんとーにありがとうなのじゃ!」
( ´_ゝ`)「かわいい妹のためならこのくらい夕飯前だ!つまりカレー前だ!」
(´<_`;)「そ、そういえばお腹減った……」
( ´_ゝ`)「母者心配してっかな」
l从*・∀・ノ!リ人「早く帰って、そんで母者にごめんなさいするのじゃ!」
( ´_ゝ`)「妹者はいい子だなー」
- 106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:55:09.75 ID:2jLP3pfiP
当たり前のように人に優しくすることは、難しいと思う。
家族なんかは近すぎて、どうしたって照れくさくなるし。
俺なんかは浅ましいから、優しくしようとしなければ優しく出来ないし、それはあからさまなものだ。
そしてその優しさに感謝を少しもされなかったりすれば、少し損した気持ちになる。
兄者から降り注がれる優しさに、気付いてない人はきっとたくさんいた。
俺だって全てに気づくことはできなくて、
当然みたいな顔をしてその優しさを受け取っていたときがたくさんあっただろう。
それどころか、それを理解しないままにやつあたりをしたことだって、きっと。
それでも兄者はそのことに何も言うこともなく、ただひたすらに優しいままだった。
何時間も歩きまわったせいで少し熱が出ても、兄者は笑っていた。
本当に、ほんとうに優しい。
だけど、
- 110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 00:58:26.58 ID:2jLP3pfiP
(´<_` )「ほら兄者、ポカリ」
( ´_ゝ`)「おー」
(´<_` )「明日は学校、休んだ方がいいよ。三十八度近く出てる……」
( ´_ゝ`)「んー……明日起きてから考える」
(´<_` )「なんでそんな無理すんの」
( ´_ゝ`)「妹者が心配するだろ。自分のせいだって思うかもしれないし。そんなの嫌じゃん」
(´<_` )「……」
(´<_` )「そりゃ、そうだけど」
(´<_` )「……」
( ´_ゝ`)「だけど?」
- 111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/03/26(木) 01:01:38.56 ID:2jLP3pfiP
だけど、理由はわからないけれど、
その優しさを、哀しく思うときもあった。
(´<_` )「……いいや。おやすみ兄者」
( ´_ゝ`)「おー、おやすみ」
兄者は確かに優しいと思うけど、はたして優しさとは、
自己犠牲の上に成り立つものなのだろうか。
答えは未だにわからない。
<にじのはなし そのいち 了>
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