( ^ω^)ブーンが二者択一するようです
- 5: ◆isjnT.PFfc :2009/05/24(日) 00:42:55.91 ID:rAmYj3VH0
- <にじのはなし そのさん>
朝起きてみると兄者が居なかった。
兄者が、相も変わらず上靴を守るために早起きをしていた俺よりも、先に起きているのは珍しい。
目を擦りながら階段を降りる。寝た時間が遅かったから相当辛い。
昨日は越えられなかったドアの先、リビングへ、そこに居るだろう母者と兄者におはようを。
(う<_` )「……あれ?」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「おはよう弟者」
(´<_` )「おはよう母者……兄者は?」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「何言ってんだい、あのネボスケがこんな時間に起きるわけないだろうに」
(´<_` )「でも……上に居なかったよ?」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「え?」
いつも通りの母者、いつも通りの朝。昨日のことが夢みたいだ。
そんなことを寝ぼけた頭で考えていた俺の目を覚ますような、母者の表情。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 00:47:30.98 ID:rAmYj3VH0
- (´<_` )「……母者?」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「…どっかに隠れてんのかね。ちょっと探してくるよ」
バタバタと家中を母者の足音が駆け巡る。
俺もそのままでは居られなくて、自分の部屋を確認しに戻ってみる。
やっぱり兄者は居なかった。
(´<_`;)「父者!」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「うおっなんだ地震か?!」
(´<_`;)「地震じゃねえよ弟者だよ!兄者が消えた!」
彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「えぇっ?!」
この騒ぎに姉者も妹者も起き出して、皆で家を探しても、兄者は見つからない。
∬´_ゝ`)「……靴は、あるの?」
最初にそのことに気づいたのは姉者。
その言葉に、弾かれたように玄関に向かったのは妹者。
l从・∀・ノ!リ人「ないのじゃ!」
妹者の声に、母者と父者は目を見合わせた。
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 00:49:45.11 ID:rAmYj3VH0
深刻そうな顔の両親に対して、俺は実に楽観的だった。
兄者は常日頃から相当変な子供なんだし、
夜中に散歩するくらいならしでかしそうなもんだ、と。
そりゃあ、身体的な心配はあるけれど、
自分の身体のことは兄者が一番わかってるはず。
きっともうすぐ帰ってくるだろう。
馬鹿はするけど無茶はしないのが兄者だし――
(´<_` )(あ、)
瞬間、地面に散らばった彫刻刀が、鮮やかに脳裏に蘇る。
そうして俺も楽観的ではいられなくなってしまう。
思い出したくなかった悲しい現実。
そうだ、いつでも冷静、大人みたいに振舞っておいて、
ここぞというときに無茶をするのが兄者なのだった。
俺の答えを肯定するかのように電話が鳴る。
その三分後、ちょっとしたドライブに行くことになった。
平日のドライブ、なんて良い響きだろう。
行き先は病院という事実に目を瞑れば。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 00:52:37.32 ID:rAmYj3VH0
病院のベッドで眠っている兄者を見るのは勿論初めてじゃない。
それでも、いつもドキリとしてしまう。
白で構成された部屋に、白いベッドがあって、そこに、青白い顔の兄者が眠る。
こんなこと冗談でも言えないし、思ってもいけないんだろうけれど。
(´<_` )「……」
生きていないみたいだ、なんて。
∬´_ゝ`) 「母者。お医者さんはなんて?」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ああ、身体はなんともないよ。いつもの発作……
それよりこの子、隣の隣町まで歩いていった末にぶっ倒れたところを
タクシーの運転手さんが見つけてくれたらしいんだよ、まったく……」
l从・∀・ノ!リ人「兄者やるぅ!のじゃ!」
(´<_`;)「そこは見習っちゃだめだぞ妹者」
- 19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 00:58:26.98 ID:rAmYj3VH0
人騒がせではあるけれども、ただの気まぐれ。
同じことを繰り返すほどの馬鹿でもあるまい、これに懲りたらもうしないはず。
という俺を初めとする家族全員の期待を、
兄者はこの次の日から早速裏切るわけだけど。勿論悪い意味で。
それは、放浪癖というよりも脱走癖といったほうがいいのかもしれない。
家から、学校から、病院から、兄者は誰にも言わずに飛び出していく。
理由を尋ねても、曖昧な言葉ではぐらかされた。
結局、あの日はなんだったんだろう。
兄が頻繁に脱走するという点以外は通常営業に戻った日々の中でも、
俺はその疑問を捨てることが出来なかった。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:04:50.27 ID:rAmYj3VH0
- ∬´_ゝ`)( ´_ゝ`)「いただきまーす」(´<_` )l从・∀・ノ!リ人
@@@
@#_、_@
( ノ`)「しっかりお食べ」
(*´_ゝ`)「うめー」
l从・∀・*ノ!リ人「おいしいのじゃー」
例えば無茶ばっかりする兄者だったり、
例えばそれを怒るに怒れないでいる母者と父者だったり、
あの日から何かが決定的に変わったのは確かだ。けどそれが何なのかはわからない。
(´<_` )「あれ、今日何曜だっけ?」
( ´_ゝ`)「月曜だから、コナン」
l从・∀・ノ!リ人「もう七時なのじゃ!姉者、リモコンなのじゃ!」
∬´_ゝ`)「私はリモコンじゃないわよ」
(*´_ゝ`)「ありがとうミス・リモコン!」
∬;´_ゝ`)「あんたねえ……」
残ったのは、小さくて大きな違和感。
なんとかやり過ごせる程度。だけど、見落とすことも決して出来ない。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:09:05.49 ID:rAmYj3VH0
いつも通りの幸せな一日の終わり。
兄者におやすみを言って言われて、ベッドに入り、考える。
考えてわかることではないのだと知りつつも考えることをやめられない。
あの夜母者と父者は何を話していたのか、
それを知ることが出来れば何かがわかる気がする。
考え事は、いつも同じところで行き詰る。
知ることが出来ればと言うけれども、
それを誰かに聞いてはいけない気がしてならなかった。
だからこの考えが答えに行き着くことはない。
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:12:18.02 ID:rAmYj3VH0
ごろり、と寝返りをひとつ。
当たり前だけど、静かだ。
時計の音、そして兄者の立てる寝息だけが部屋に響く。
ときどき家の前を通る車の音は、もう別の世界のもののようだ。
兄者は不思議と、俺が寝付けない夜は出ていかない。
一体どういうわけなのか、脱走するときには俺はぐっすり眠っているのだ。
もしかすると、今日は早く寝付きそう、とかまでお見通しなのかもしれない。
そんなまさかとは思うけれど、兄者ならありえそうでもある。
(お前は、俺がなんだって出来るって 思ってるだろ?)
行き詰った考えは、不意に方向を変えて、深みに嵌っていく。
(お前を好きには、絶対なれない)
- 33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:15:32.30 ID:rAmYj3VH0
思い出すと、お腹の辺りで何か嫌なものがぐるりとする。
つまりは「嫌いだ」という意味であるこの言葉。
誰に言われたって気分のいいものじゃない。ましてや一緒に産まれた兄になんて。
でも。
あのときのあの台詞には、込められるべき感情が込められていなかった。
嫌いとか憎いとかむかつくとか、そういう、いじめられっこが敏感に察知する類の感情が。
そもそも、家族を好きだとか嫌いだとか、いちいち考えるものなのだろうか。
少なくとも俺はそんなことを考えたことがない。
そりゃあ、好きか嫌いかって聞かれれば好きって答えるけれど、
それは他人に対する”好き”とは全く違う。
家族に対する”好き”はある程度が絶対的に約束されている。
滅多なことじゃ嫌いになんてならない。
その代わり、それはとても穏やかで、
友達や恋人のように凄く好きになったり気が合ったりすることも少ない。
約束を覆すほどのことを、きっと俺はしてしまったのだろう。でも、覚えがないのだ。
駄目なところならいっぱいある。むしろ良いところなんか見つからない。
けれど、その駄目なところの中で、きっと決定的な何かがあったはずなのに、どうしてもそれがわからない。
あれからも兄者は変わらないまま俺に接してくれるから、余計にわからなくなる。
- 37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:21:15.88 ID:rAmYj3VH0
- @@@
@#_、_@
( ノ`)「誰か、お使いに行ってちょうだい」
l从・∀・ノ!リ人「いもじゃは宿題があるのじゃー」
(´<_` )「あ、兄者が行きたいって」
( ´_ゝ`)「いや、弟者が行きたいって」
( ´_ゝ`)「………」(´<_` )
@@@
@#_、_@
( ノ`)「…二人で行ってきな」
(;´_ゝ`)「「えー!」」(´<_`;)
∬;´_ゝ`) 「マナカナかあんたらは」
(;´_ゝ`)「あっ、姉者が行けばいいじゃん!」
∬´_ゝ`) 「あんたらが定期テスト代わりに受けてくれるならね」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「行ってきな」
( ´_ゝ`)「……」(´<_` )
- 39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:26:33.58 ID:rAmYj3VH0
行き先は、昔からある近所のスーパー。
大きいところではないけれど、地元では馴染みの店で、
初めてのお使いも、虹を見た日のお使いも其処だった。
土手を二人で進んでいく。
少し曇っていて、虹はおろか、青空も見れそうにない。
( ´_ゝ`)「思うんだけどさ」
(´<_` )「うん」
( ´_ゝ`)「姉者がお使いってなると俺らに小遣い渡して俺らが行かされるじゃん」
(´<_` )「小遣いに釣られる俺らもどうかと思う」
( ´_ゝ`)「妹者のときは、妹者を一人でお使いに行かせるわけにはいかないから、
結局俺らがついていくじゃん」
(´<_` )「そうだね」
- 41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:28:33.48 ID:rAmYj3VH0
( ´_ゝ`)「俺がお使い行けって言われたら不平等だって言ってお前も連れてくじゃん」
(´<_` )「うん」
( ´_ゝ`)「お前が言われたら俺についてきてって言うじゃん」
(´<_` )「うん」
( ´_ゝ`)「結局この世のお使いというお使いは俺らが行く運命なんだよな」
(´<_` )「えーと……流石だよな俺ら?」
( ´_ゝ`)「ばっかじゃねえの」
(´<_` )「えー……」
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:35:06.77 ID:rAmYj3VH0
頼まれたのは卵と牛乳。メモにとるまでもない。
(´<_` )「……ハンバーグかな?」
( ´_ゝ`)「かもな。お前牛乳持てよ」
(´<_` )「重いじゃん、そこは兄として兄者が持つべきだよ」
( ´_ゝ`)「どうせお前こけて卵割るだろ。大体牛乳無くなったのお前のせいなんだから責任とれ」
そういえば俺が朝に牛乳一気飲みしたんだった。ごめん母者。
(´<_`;)「うー」
( ´_ゝ`)「しょーみきげん遠いやつを選べよ」
(´<_` )「わかってるー」
- 47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:38:31.25 ID:rAmYj3VH0
棚の奥のほうの牛乳を引っ張り出して、卵売り場へ急ぐ。
早く買って帰らなければ、我が家の夕飯が危うい。
ヨード卵とかなんだとか高価な卵を尻目に、一番安い卵を手に取り、レジへ。
(´<_`;)「うわっ超並んでる」
( ´_ゝ`)「夕飯時だからなー。俺人ごみきらいだからあっちで待ってていい?」」
(´<_` )「……逃げない?」
( ´_ゝ`)「逃げるってなんだよ」
(´<_`#)「……」
(;´_ゝ`)「わかった、じゃあ見張ってていいぞ。俺あっちの商品ふくろづめするとこに居るから」
(´<_` )「……」
- 49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:41:24.96 ID:rAmYj3VH0
兄者相手だ、一瞬でも目を離したら逃げられるに決まってる。
そうしたら一人で牛乳と卵を持って帰らなきゃならないし、母者にめちゃくちゃ怒られる。
何より、逃げて家に帰ってくれるならいいけれど、そのまま何処かに行ってしまったらと思うと。
袋詰めの台に寄りかかる兄者を見張るというよりは睨み付けてみる。
気づいたらしい兄者がにらみ返してくる。負けじと睨み返す。
睨み合いながら列に並び、ようやく順番が来てもまだ終わらない睨み合い。
ミセ*゚ー゚)リ「いらっしゃいませーポイントカードはお餅ですか?」
(´<_` )「……」
ミセ;゚ー゚)リ「?」
あんまり必死だったもんで、レジのお姉さんの渾身のギャグにも気づかない。
不思議に思ったんだろう、お姉さんが俺の目線の先を辿る。
そこに兄者が居て、それから俺を見て。
お姉さんは噴出した。
- 52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:44:41.97 ID:rAmYj3VH0
ミセ*^ー^)リ「仲いいのね」
(´<_`;)「え?あ、ごめんなさい」
ミセ*゚ー゚)リ「ポイントカードはお」
(´<_` )「もってないです」
ミセ*゚ー゚)リ「……2点で425円になりまーす」
(´<_` )「はい」
千円札を渡して、お釣りを貰う。
レシートごと小銭を握り締めたそのとき、ハッと兄者が居たほうを振り返る。
ミセ*゚ー゚)リ「ありがとうございまし」
(´<_` )「いねえし!」
ミセ*;゚ー゚)リ「なにそれ怖い!」
- 55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:47:58.54 ID:rAmYj3VH0
慌てて店内を見渡すと、ちょうど自動ドアが兄者を感知して開いたところだった。
俺の念が伝わったのかなんなのか、振り返った兄者と目が合う。
兄者はちょっと笑って、そして走り出しやがった。
追いかけようとは思っても、手にはうちの夕飯の命運を握る割れやすい卵と重たい牛乳が。
お姉さんに気を使ってか別々の袋に入れてくれたはいいが、どっちにしろ走るには邪魔だ。
頭の中で天秤にかけてみる。
卵が割れたら母者は怒る。兄者がどっか行ったら母者は悲しむ。
卵が割れたらハンバーグが食えない。兄者がどっか行ったらハンバーグはまずくなる。
(´<_`#)「ああもう、バカ!」
そんなもの、決まりきったことじゃないか。
天秤をひとおもいにぶち壊してから俺は走り出した。
- 57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:50:59.56 ID:rAmYj3VH0
スーパーの前は見晴らしのいい一本道で、そこに兄者は居なかった。
そんなに時間はたってないし、この道に居ないなら、スーパー付近にいるんだろう。
(´<_`;)「どこだろ…」
考えてる間にも距離は離れてしまうのだから、探そう。
俺にしては懸命な判断を下す。
とりあえず、スーパーの裏に行ってみる。
ただでさえ曇りで薄暗いのに、ちょっとした林が広がっていて正直怖い。
木材や自転車、ガラガラ押すやつ、買い物カゴなどが捨てられていた。怖い。
スーパーの袋を持つ手に力が入る。
ふと見やると、卵がひとつ割れていた。
(´<_`;)「あ、やべ卵割れてる」
(;´_ゝ`)「は?!何やってんだよおま……あっ」
( ´_ゝ`)「……」(´<_` )
どうやら、木の陰に隠れていたらしい。
- 60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:53:45.28 ID:rAmYj3VH0
( ´_ゝ`)「……えーと、弟者お前何やってんだよ卵割るとかニワトリさんに謝れよ」
(´<_` )「兄者が俺に謝ったら考えてもいいよ」
( ´_ゝ`)「……」
卵が入ったほうの袋を兄者に押し付ける。
もしかすると、お姉さんは二人で持てるように袋を分けてくれたのかもしれない。
それを思うとなんだか暖かい気持ちになる。
( ´_ゝ`)「はあ、弟者のクセに勘が鋭いとかマジねーわ」
(´<_`#)「なんとでもいえばいーよ。兄者のバカ」
- 63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:55:34.85 ID:rAmYj3VH0
まあとにかく、尊い被害は出したものの、兄者を無事捕獲することが出来た。
卵も一個だけならまだ怒鳴られるだけで済むだろう。
理由が理由だし怒られるとしたら兄者だ。
わざとらしくため息をつく兄者に少し笑う。
(;´_ゝ`)「何笑ってんだよ」
(´<_` )「兄者のわるだくみが失敗したのがうれしくて」
(;´_ゝ`)「うっぜー……」
さっきまでのどうしようもない不安もすっかり消えて、
頭の中はハンバーグのことばかりだったのだが。
ここに来て本日一番の大問題が発生するとは。
- 66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 01:59:12.48 ID:rAmYj3VH0
(´・_ゝ・`)「………きみたち、双子なのかな?」
(´<_` )「へ?」
(*´・_ゝ・`)「ああ、そっくりだね、可愛いね」
(;´_ゝ`)「……」
マジで気持ち悪い。
このとき間違いなく俺と兄者の思考は一致していた。
双子の神秘とかじゃなくて、これは仕方の無いことだと思う。
- 68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 02:00:30.58 ID:rAmYj3VH0
(*´・_ゝ・`)「いくつなのかな?」
(´<_` )「………」
(*´・_ゝ・`)「怖がらないでいいんだよ?おじちゃんね、ちょっときみたちとおしゃべりしたいだけなんだよ?」
( ´_ゝ`)「……何の話?」
(*´・_ゝ・`)「そうだなあ、おうちはどこ?」
( ´_ゝ`)「あっちの方」
(*´・_ゝ・`)「電話番号は?」
(´<_`;)「な、んでそんなこと教えなきゃいけないんだっ!」
(*´・_ゝ・`)「それはねえ」
(*´・_ゝ・`)「おじちゃんが悪い人だからだよ?」
- 70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 02:03:41.62 ID:rAmYj3VH0
折りたたまれていたナイフがパチンと音を立てる。
漫画やアニメで不良が持ってるような典型的な感じの。
ナイフなんてゲームなんかでは大抵がザコの装備で、たいした武器じゃないけれど、
ここは現実で、こっちの装備は卵と牛乳くらい。
大声を出すなんて選択肢はこのとき浮かばなかった。
(´<_`;)「ひっ」
(*´・_ゝ・`)「大丈夫、お名前と、おうちの電話番号教えてくれたらね、ハア、痛いことしないからね?」
( ´_ゝ`)「うち、お金ないけど」
(*´・_ゝ・`)「子供のためなら、いくらでも出すもんだよ?親って生き物はねぇ、バカだから」
(#´_ゝ`)「ッ、ウゼエ」
(´<_`;)「ちょ、兄者」
俺一人なら声ひとつ満足に出せないこの状況でさえ、
平然と兄者が立ち向かうものだから、俺も釣られて素で突っ込んでしまう。
(*´・_ゝ・`)「兄者くんっていうんだ?ふふ」
( ´_ゝ`)「……バカやろ」
(´<_`;)「ごめん……」
- 72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 02:06:23.46 ID:rAmYj3VH0
そんな俺を蔑んだ目で見る兄者。わざとらしい溜息まで吐いてみせる。
なんでこいつはこんなに余裕なんだろう。
もしこのまま誘拐でもされたとしたら、命が危ないのは兄者の方だ。
なんせナイフがその胸に突き刺さるまでもなく、兄者の毛の生えた心臓は止まり得る。
まあ、そんなことを変質者を目の前にして考えられる俺の心臓も、
兄者に負けじと剛毛なのは間違いないだろうが。
(*´・_ゝ・`)「ね、こわくしないから……」
( ´_ゝ`)「じゃあ、そのブッソーなもんしまってくんない?」
(*´・_ゝ・`)「ふふふ……元気な子は好きだよぉ?でもねぇ、ちょーっと、大人を舐めすぎなんじゃないかなぁ?」
(*´ _ゝ `)「一度、痛い目をみないと、わからないのかなぁ?」
(#´_ゝ`)「うっせー、……死ね」
- 74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 02:10:00.48 ID:rAmYj3VH0
死ねという言葉を兄者の口から聞くのは三度目だった。
やっぱりその言葉は好きじゃない。それは、向けられる相手を想ってではなくて。
そんな言葉を発さなければならないような、そんな気持ちになってほしくないんだ。
けれども、それを咎める猶予は俺に与えられなかった。
それは一瞬のこと。
普通、ナイフが向けられたならどうするだろう。
俺ならば、きっと動くことは出来なくて、せいぜい腕を構えるくらいのことしか出来ない。
逆にいえば、誰だってそれくらいするってことでもある。人間の防衛本能だ。
しかし、実際にナイフの先に居る俺の兄ときたら、
しっかりと男を――敵を見据えているにもかかわらず、何もしようとしない。
逃げることも、立ち向かうことも、身を守ることも。
ナイフの切っ先にいるのは俺ではなく、兄者で。
だから俺は動くことができたのだ。
(´<_`;)「う、わ、あああああああああ!!」
みっともなく叫びながら、それでも俺は、牛乳をありったけの力で敵に投げた。
それがどこに当たったのかは知らない。そんなものを確認する余裕はなかった。
俺は兄者の手か腕か服かをひっつかんで逃げ出した。
何故最初に逃げる、という選択肢が思いつかなかったのか。
皮肉めいている。俺はいつだって逃げてばかりなのに。
- 76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 02:12:58.83 ID:rAmYj3VH0
とにかく、むちゃくちゃに走る。
スーパーの表側まで、その距離は百メートルもないだろうが、
そのときの俺には百キロよりもずっと長く感じられた。
こんなときでも卵の入った袋をしっかり握り締めていたのは、今思うとシュールである。
スーパーに文字通り駆け込んだ瞬間に足がもつれて倒れこむ。
俺が倒れたものだから兄者も一緒に。
(#´_ゝ`)「いってええええ!」
(´<_`;)「ごっ、ごめん!」
(#´_ゝ`)「お前マジ何やってんだよ!」
(´<_`;)「だって兄者が動かないから!」
(#´_ゝ`)「うっせー人のせいにすんなアホ!」
- 77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 02:15:10.18 ID:rAmYj3VH0
このあと店の人に事情を話したら、なんだかかなりの大事になり、
警察の人に話を聞かれたりしたせいで、
俺たちが家に帰ることが出来たときには夕飯の時刻を大幅に過ぎていた。
聞けば、このあたりで同じような事件がいくつか起きていたらしい。
そういえば朝礼かなんかで注意されたなあと、このとき初めて思い出した。
∬;´_ゝ`) 「災難だったわねえ、あんたら」
(´<_`;)「もう、ほんと……おなか空きすぎて空いてない…」
(;´_ゝ`)「あるある…」
l从・∀・ノ!リ人「怪我はないのじゃー?」
( ´_ゝ`)「ないない…」
(´<_` )「……そういえば晩御飯どうなった?」
l从・∀・ノ!リ人 「卵のないチャーハンを食べたのじゃ!」
( ´_ゝ`)「そっか……ごめんな」
l从・∀・*ノ!リ人 「母者のご飯はおいしいから大丈夫なのじゃ!」
- 79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 02:20:32.18 ID:rAmYj3VH0
お腹は空いてなかったのに、
ラップがかけられた炒飯がふたつ、置いてあるのを見ると、なんだか無性に食べたくなった。
それは兄者も同じだったらしく、何の言葉もなしに俺たちは電子レンジに向かった。
ラップを外すと湯気が立つ。そこでようやく忘れていた空腹がよみがえる。
冷蔵庫にあったものをありったけ入れたんだろう、
豪快に切られたキャベツやソーセージが母者らしいな、と思いながら、
珍しく二人だけの食事を済ませた。卵のない炒飯は、それでも美味しかった。
しっかり握り締めていた袋の中の、卵は全て割れてしまっていて。
パックの中でぐちゃぐちゃになってしまった卵を思い出すと申し訳なくなる。
母者も流石に怒らなかったけど。
(*´_ゝ`)「うまいな」
(´<_`*)「うん」
(;´_ゝ`)「……疲れた」
(´<_`;)「うん…」
- 80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 02:23:13.12 ID:rAmYj3VH0
ご飯をかみ締めるたび、緊張が解けていき、疲れが襲ってくる。
だらだらとお風呂に入って、髪を乾かすのもそこそこにベッドに倒れこむ。
(う<_` )「兄者、なんで逃げなかったのさ」
目を閉じればすぐにでも夢に落ちることが出来そうな状態だった俺は、
ほとんどうわ言のように呟いた。
返事はすぐにはされなくて、
だから俺はそれを夢か現かわからないまま聞いたのだった。
( ´_ゝ`)「死んでもいいって思ったから」
(´<_`;)「………うえ?」
- 82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/24(日) 02:25:20.34 ID:rAmYj3VH0
その一言だけだったら、そのまま眠ってしまったかもしれない。
けれど兄者はさらに言葉を紡いでいく。
( ´_ゝ`)「このまま心臓発作とかそんな……、くだらない理由で死ぬなら」
( ´_ゝ`)「それなら、刺されて死にたかった」
信じられない、信じたくないような言葉ばかりを、紡いでいく。
(´<_` )「兄者は、」
(´<_` )「兄者は、死にたいのか?」
上半身を起こして部屋の反対側を見ると、兄者もこっちを見ていたらしく、目が合った。
なのに兄者は何も言うことなく、そのまま布団にもぐりこんでしまった。
たぶん、返事がないことが、答えだった。
<にじのはなし そのさん 了>
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