( ´_ゝ`) (´<_` )兄弟はぐだぐだとゆくようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:22:52.33 ID:yJ+bSG6X0



姉者と旦那と談話する のようです



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:24:20.57 ID:yJ+bSG6X0
飛行機から降りて、まだまばらにいる人の流れにとりあえず乗り、荷物を受け取る場所へ。
なんという名前の場所なのかはわからないが、うねうねとへびのようにベルトコンベアが動いている。
その上を大量の荷物が流れており、その中から特に地味でも目立つ訳でもない俺たちの荷物を探し出す。
どっこいしょ、とジジ臭いかけ声と共に、糞重たいキャリーケースをコンベアから降ろした。

後ろで兄者が黙って見ている事からして、今度は兄者が引くとかそういう気遣いはないらしい。畜生


出口へ行って荷物についていた切符?を切ってもらい、出て行くとそこには姉者一人が待っていた。
全体的に白でまとめた服装に、サンバイザーを被っている。なんというかおばさんっぽい。
姉者もどこか変わったな。と俺は思った。サンバイザーのせいかな?


∬´_ゝ`)「はいはい、こんにちは馬鹿兄弟」

( ´_ゝ`)「相変わらず俺らの呼び方はひどいな」

(´<_` )「まぁ、どちらも頭は良くないんだけどな」

( ´_ゝ`)「義兄さんは?」

∬´_ゝ`)「今日はなんかしんないけど、あんた達のために準備に行ってるからいないわよ。何するつもりかしらね?」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:26:02.81 ID:yJ+bSG6X0
ようこそ秋田 あきたこまち などと垂れ下がっている幕に目を向けながら、姉者について行く。
空港内は、やはり翼田に比べて少し狭い。地方色が色濃く出ている感じもする。

空港を出て目の前にある駐車場に、白い小型車が止めてあった。随分と古い型のようだ。
荷物を後ろのわずかなスペースに詰め込み、俺が先に後部座席に乗り込む。

車の中に入ると、真夏の太陽に熱されて熱くなった空気に歓迎された。
顔にまとわりつく埃臭い熱気を払うために慌てて窓を開け、空気を入れ替えた。

姉者が運転席に乗り込む。やはりというか、古い車なのでマニュアル車のようだ。


∬´_ゝ`)「まだ昼前ね。車で田代の家まで帰るけど、途中で何か食べてく?」

( ´_ゝ`)「なんか名物が食べたい。きりたんぽとか」

(´<_` )「なんでこんな糞暑い日に鍋を食わなきゃいけないんだ」

∬´_ゝ`)「じゃあ無難に米庭うどんでも食べて行こうか」

( ´_ゞ`)「うど〜ん?俺蕎麦の方が好きなんだよ」

(´<_` )「蕎麦厨乙」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:27:34.07 ID:yJ+bSG6X0
そんなこんなで、空港から田代市方面へ移動する。

秋田は東京のようにどこに行っても家があるのではなく、
殆どの道路沿いは山と田んぼで出来ている。

入ってくるのは、夏の臭いと夏の音。
窓を開けて走っていると汗も乾いて気持が良い。

…姉者は結構な速度で対向車もいない道路を走って行くのだが、
それを絶好の機会と言わんばかりに、兄者が動き出した。


( ´_ゝ`)]⊃「……」

(´<_` )「……ときに兄者。窓から手を出して、何をやってるんだ」

( ´_ゝ`)]⊃「吟味中だ」

(´<_` )「……70kmだとどんな感じだ」

( ´_ゝ`)]⊃「……話しかけるな。この感触を、この未知の大きさを、本物を触る機会が来るまで記憶させているのだ」

(´<_` )「本物ならほらそこに。少々あれだが」

∬#´_ゝ`)「二人とも山中に投げ捨てて行くわよ〜」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:28:14.26 ID:yJ+bSG6X0
下枝が切ってある、綺麗に並んで植わっている大量の秋田杉を見ると、秋田に来たという実感が沸く。
山沿いに寂れたラーメン屋や、崩れかけた宿泊施設を見ると、田舎の過疎化を感じずにはいられないが。

我が家は父者の仕事が忙しいため、レジャーに行ったりする事が無い。
なので正直に言うと、こういう山の中みたいな所を
ひたすら走ってるだけでも十分楽しい。ハイテンションになる。


東京に比べて格段に爽やかな秋田の気候を楽しんでいると、
時折トイレのために設置してある駐車スペースや、田んぼのど真ん中を走る道路の
ちょっとした場所等に原色のパラソルをさしたばあさまを見つけた。

赤黄色緑、赤青黄等、微妙に見かける度に傘の色が違ったりするが、みな同じような感じだ。
そして共通して銀色のこじんまりしたドラム缶のような物が置いてある。一体あれはなんなのだろう。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:29:55.94 ID:yJ+bSG6X0
(´<_` )「姉者。あの時々いるばさまはなんだ?」

∬´_ゝ`)「あれは神母ババヘラと言って、なまはげ、ネイガーに並ぶ秋田の守り神の一種。ようするにお化けね」

Σ(;´_ゝ`)「おばけぇ!?」

∬´_ゝ`)「嘘よ。ババヘラっていう、アイスを売ってるばさま達。結構美味しいわよ」

(´<_` )「ばさまのアイスっていうと…抹茶とか、あずきとか?」

( ´_ゝ`)「大体そんなとこだろうな。俺はいちごとかバニラが好きなんだが…」

∬´_ゝ`)「秋田のばさまを舐めるんじゃないよ!なんといちごとばなな味のミックス!」

(*´_ゝ`)「なんだそれ!うまそう!」

∬´_ゝ`)「値段も手頃で、秋田の名物となってるわ。買ってみる?」

(´<_` )「みるみる」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:31:16.83 ID:yJ+bSG6X0
そう言う訳で、見かけて4人目程のばさまの所でアイスを買う事にした。
ばさまのいた所は、利用者の落とすお金と管理費が釣り合っているのかわからないような、豪華な野菜直売所。
辺りに山が多い事もあってか、おまけにカブトムシまで売っていた。1ペア500円。安すぎだろ

ただの野菜直売所ではなくトイレも設置してあり、
休憩所もあった。それだけあればここの経営も成り立つのかな。
ムダな心配をしつつ、兄者とともに車を降りて財布を握りしめばさまへ近づく。

サンバイザーの上からタオルを被り、長靴を履いていた。まるで農作業の途中で抜け出して来たような格好だ。


(´<_` )「すいません。アイス下さい」

J( 'ー`)し「はいはい、120円だよ」

( ´_ゝ`)「三個。一つ大盛り」

(´<_` )「よくばりだな兄者」

J( 'ー`)し「イイノイイノオニイチャンタチハソダチザカリナンダカラ」

(´<_` )「? 今なんて…」

J( 'ー`)し「はい。アイス三つで360円ね」

(´<_` )「あ、はい。ありがとうございます」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:32:54.91 ID:yJ+bSG6X0
ばさまは途中で俺には理解出来ない言葉を喋った後、ドラム缶の中にあったアイスをへらですくいとり、
横に置いてあった箱からコーンを取り出し、慣れた手つきで乗っけて行く。

ピンクと薄い黄色のコントラストが美しい。開きかけのチューリップのような、形状のアイスとなった。
溶けないうちに車に戻り、姉者にそのアイスをわたす。

シャーベット状のアイスは、爽やかな味でとても美味しかった。だがイチゴともバナナとも言えない味だ。


(´<_` )「ばばあがへらでアイスをすくってよそうからババヘラか…」

∬´_ゝ`)「よく気がついたじゃない。あのドラム缶の中に沢山アイスが入ってるの見た?」

( ´_ゝ`)「あれ炎天下の中溶けないのかね。それにしても手際よくコーンに乗せてくれるよな」

∬´_ゝ`)「熟練の技なのよ。熟練」



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:33:42.63 ID:yJ+bSG6X0
(´<_` )「そういえばさっきなまりになまった言葉で話しかけられたんだが」

(´<_` )「姉者はもう理解出来るように…というより喋れるようになったのか?」

∬´_ゝ`)「ちょっとだけね」

( ´_ゝ`)「ふーん。ちょっと喋ってみてくれよ」

∬´_ゝ`)「……。そこの兄弟さほんとに馬鹿ダベー」

( ´,_ゝ`)(´<_,` )

∬#´_ゝ`)「何よ。言いたい事あるならいいなさいよ」

( ´,_ゝ`)「いやいやまーったく」

(´<_,` )「チチみたいだとは思っていませんよ」

∬#´_ゝ`)「うどん無し」

( ´_ゝ`)『ごめんなさい』(´<_` )



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:35:24.25 ID:yJ+bSG6X0
アイスを食べ終わり、豪華野菜直売所から一気に田代市内へ向かう。
秋田杉と山と田んぼしかなかった風景に、だんだんと民家とお店が増えて来た。
一件一軒の規模は東京よりでかいが、もうすっかり東京と似たような景色になってきたころ、
車はある一件の店の前で止まった。

瓦屋根で、入り口の両脇花壇には小さな竹がびよびよと伸び、窓に入る直射日光を遮っている。
一見ただの民家のようだが、ちゃんと自動ドアの入り口と看板がある所からしてお店なのだろう。


∬´_ゝ`)「ここのうどんが美味しいのよねー」

( ´_ゝ`)「ふむふむ……うどん以外にもかけそば、もりそば、てんぷらそばなどがあるな」

(´<_` )「ここまで来てなおも蕎麦を貫こうというのか兄者」

( ´_ゝ`)「蕎麦厨の名にかけて、うどんは食えねぇ」

∬´_ゝ`)「すいませーん、うどん三つ!」

Σ(;´_ゝ`)「あぁ! 蕎麦頼もうと思ってたのに!」

∬´_ゝ`)「代金あんた持ちならいいわよ」

( ´_ゝ`)「うどん おいしいです」

(´<_` )「さっきまでの強気な発言はどこに行った兄者よ」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:37:18.60 ID:yJ+bSG6X0
いざ運ばれて来たうどんを見ると、とても美味しそうなものだった。
うどんにしては細め、そして固ゆで。つやつやと鈍く輝き、鰹出汁のつゆととても合う。
つゆの中に、薬味の万能ネギを少々、わさび少なめ、
うどんをつゆにつけ、くっついて来た海苔と共に食す。
冷えたうどんが、真夏の気候に暖められた体を喉からチュルンと入るや否や、胃の中から冷やしてゆく。

シンプルながらも、味わい深〜いうどんであった。


∬*´_ゝ`)「はぁー やっぱしこしこしてて美味しいわー」

(*´_ゝ`)「はぁー やっぱしこしこしてて美味しいワー」

(´<_` )「同じ台詞なのに受ける印象が違うのはなんでだろうな」

(´<_` )「でも…やっぱりおいしいな。うどん」


うどんも食べ終わり、腹を満たした所で車は田代市内を突っ切って行く。
本屋、電気屋、ゲーム屋、薬局、酒屋にパチンコ屋。
土地があるおかげかどうか、東京のそれと比べるとはるかにでかい。

駐車場も楽に20台は止まれそうなスペースがあるし、外から見た印象だが、品数も多そうだ。
姉者に聞くと田代市は秋田でもでかい方で、これだけ店が揃っているのはその市のでかさ故らしい。

……なぜ人の少ない所に行く程店が豪華ででかいのだ!



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:37:44.52 ID:yJ+bSG6X0
(´<_` )「なあ兄者。なんで郊外とか田舎に行く程店がでかくなるのかな」

( ´_ゝ`)「やっぱ土地があるからだろ」

(´<_` )「それはわかってるんだけどな。なんか腑に落ちないよな」

( ´_ゝ`)「俺も思うぞ。なんだよ今のTATUYAのでかさ」

(´<_` )「うちんちの近所の二倍はあるな」

( ´_ゝ`)『理不尽だよな』(´<_` )


∬´_ゝ`)「何ぶつぶつ言ってんのよ。もうすぐ家つくわよー」


俺たちがぶつぶつと文句を言っている間に、いつの間にか家の近くまで車は来ていたらしい。
巨大な店が建ち並ぶ、その隙間にある小さな道の一本に車は入って行く。
大通りはあれだけにぎやかなのに、道一本入るとあっという間に古い民家が建ち並ぶ集落となった。

時々林やどこかの地主の家の防風林がそびえているので、
さっきまでの大通りと比べるとワープしてきたような気になる。
時々売り地や、車が放置されていたりする空き地もあるので、一軒一軒が目立って見える。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:39:17.03 ID:yJ+bSG6X0
そんな俺たちを乗せた車は、その古い民家の中でも際立って目立つ家の駐車場へと入っていった。
まことちゃんハウスだとか、そういう目立ち方ではない。
リフォームしたばかりなのか新築なのか、とても綺麗なのだ。

二階建てのその家は、形は古いが薄茶色壁の塗装などはシミも無く、
洗濯物のコマーシャルに出てきそうな家だった。


(#´_ゝ`)「なんで俺んちより綺麗なのだ!」

∬´_ゝ`)「新婚夫婦が住む家よ?綺麗で当たり前じゃない」

(#´_ゝ`)「その理屈がわからん」

(´<_` )「憤るな兄者よ。そういえば義兄さんは何時頃帰ってくるんだ?」

∬´_ゝ`)「あの人の職業ってのは夜が本番だからねぇー。早くても9時以降ね」

∬´_ゝ`)「あんた達が来るの楽しみにしてたみたいね。今日はお店休んでどっか出かけて行ったわよ」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:40:35.15 ID:yJ+bSG6X0
∬´_ゝ`)「せっかくなんだから家の掃除くらいしてくれたっていいのに」

(´<_` )「そうか……」

∬´_ゝ`)「何? 会いたいの?」

(´<_` )「いや、そういう訳じゃないけど、早めに挨拶しといた方がいいかと思って」

∬´_ゝ`)「……本当にあんた達って、産まれてくる順番間違えてると思うわ」

( ´_ゝ`)「何を言う。姉者は弟者のブラコンっぷりを知らないからそんな事が言えるのだ」

(´<_` )「いつ俺が兄者にでれでれしたりしたかな?弟者覚えがないからわかんないや」

∬´_ゝ`)「ほらそういう所とか」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:42:14.27 ID:yJ+bSG6X0
俺たちは後部座席から荷物とともに降り、玄関へ向かう。
大きめの庭に芝生はなく、松や柿、梅や椿など、俺たちの背くらいの木がちまちまと生えていた。
新築の家と比べて、中々渋い庭だ。所々に小さな盆栽なども置いてある。

その庭の真ん中に敷かれた石畳を進むと、北国仕様の玄関に出迎えられた。
普通のドアがあり、さらに温室のような部分が玄関にとりつけてある。つまりは玄関が二重になっている。

「北国の人は『あぁ、うちの玄関だな』と思ってくれればいいし、違う人は想像してもらうかググってくれ」
 V
(´<_` )

( ´_ゝ`)「誰に何を言っている」

(´<_` )「いや、なんか説明しなくちゃ行けない気がして」

∬´_ゝ`)「さっさとはいんなさい」


家の中に入全体的に綺麗なのだがどこか違和感を感じさせた。
フローリング18畳程の部屋には、古くさいブラウン管テレビ。

IHクッキングヒーター搭載のキッチンには、こげがこびりついて取れなくなったなべ。
他の和室の部屋には、お仏壇とくるくるまわる提灯のような物があった。
仏壇の前には大量に果物が置いてある。

やけに華やかな仏壇だが、…誰か死んだ訳ではなさそうだ。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:43:00.93 ID:yJ+bSG6X0
(´<_` )「姉者、この家って新築?」

∬´_ゝ`)「リフォームよ。あの人のご両親が無くなってしまって、空き家になってた所を改築したの」

( ´_ゝ`)「通りでおばぁちゃんちの匂いがする訳だ」

∬´_ゝ`)「何よそのおばぁちゃんちの匂いって」

( ´_ゝ`)「なんというか、香水っていうか粉っぽいにおいっていうか、おばぁちゃんの匂い」

(´<_` )「あー。あるな。おばぁちゃんの匂い」

∬´_ゝ`)「なんかあたしが、遠回しに年食ってるっていわれてる気がしてくるから、やめてくれない?」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:44:11.26 ID:yJ+bSG6X0
あぁ、違和感の正体がわかった。
家全体は綺麗で新築同然なのに、その家に置いてある家具やら電化製品やらが一昔前の物なんだ。
姉者に家具は買い替えないのか聞いてみると、リフォームしたおかげで余裕がないとの事。あたりまえか。
お仏壇は、義兄さんのご両親の物らしい。お盆が近いからあんなに華やかになっているそうだ。

そして俺たちが一週間お世話になる部屋はというと、二階の一部屋を使わせてもらう事にした。
ちなみに家の内容を説明させてもらうと、一階にリビング、キッチン、洋室、和室、トイレ、風呂があり、
二階には和室×2がある。その和室の一つは姉者達の寝室になっているのだ。

手すりのない階段を駆け上る。階段は一直線に上に伸びており、
昇りきった所には北に向けて小さな窓がある。

そしてその窓を挟んで両端に茶色いドアがあった。
昇って右側には『ROOM(勝手に進入禁止)』という掛け札が下がっていた。
こういう所に入りたくなるのが、人の性だよな。
そのドアの先に何かが待ち構えている訳でもないが。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:46:05.12 ID:yJ+bSG6X0
( ´_ゝ`)「お部屋はいけーん」

(´<_` )「兄者よ、なにどうどうと姉者の寝室に入ろうとしているのだ」

(´<_` )「思いっきり進入禁止と書いてあるぞ」

( ´_ゝ`)「いや、それはフェイクだ。進入禁止と書いてあると普通入りたくなるだろう」

( ´_ゝ`)「それにね? 新婚さんの部屋だし? ねぇ?楽しい家族計画とか?」

(´<_` )「いや、言いたい事はわかるぞ。でももし入るなら許可を取ってからじゃないと」

( ´_ゝ`)「姉者に許可なんて取れるわけないだろ」

(´<_` )「そりゃあねぇ」


∬´_ゝ`)「寝室入ったらぶち殺すわよー」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:47:58.08 ID:yJ+bSG6X0
階下から姉者の猫なで声が聞こえて来たので、
おとなしくもう片方の部屋に入る事にする。

8畳程の和室で、窓は西向きについている。窓からは隣の空き地と、
その先にあるどこかの家の持ち物なのか、でかい林が見えた。

部屋の中には小さな本棚が一つと、旧型の緑色の扇風機が一つ。ご丁寧にも青色のビニール紐も結んである。
こういうのと豚の蚊取り線香入れがあれば、完璧に夏!という感じなんだがなぁ。

新築のはずなのに、どこか昭和の香りがした。本棚に色あせたアルバムが入っているせいか?
俺はとりあえずでかい荷物を部屋の片隅に置くと、
部屋の観察もそこそこにして兄者とともに階下に降りていった。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:49:04.24 ID:yJ+bSG6X0
(´<_` )「あぁ、そうだ姉者。色々お世話になると思ったからお土産を持って来たぞ」

∬*´_ゝ`)「嘘っ! お土産!? やだー気が利くじゃーん! 流石弟者!」

( ´_ゝ`)=3「俺が提案したんだぞ」

∬´_ゝ`)「ふーん。なに? 東京ペニス?」

(´<_` )(兄者が提案した物と聞いて真っ先にそれが出る辺り、やはり姉者はわかってる)

(´<_` )「いや、それは俺が阻止した。中身は猫屋の水羊羹」

∬*´_ゝ`)「キャー 和スイーツじゃん! あの人が帰って来たら皆で食べましょ!」

( ´,_ゝ`)「スイーツ(笑)」

∬´_ゝ`)「あんたにはあげないから大丈夫よ」

( ´_ゝ`)「ごめんなさい」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:51:04.79 ID:yJ+bSG6X0
まだ俺たちが家から送った荷物は届いていないらしい。早速やる事が無くなってしまった。
時刻としては午後3時ぐらい。コーヒーを飲んだので昼寝をする事も出来ないし、
せっかく田舎に来てゲームをするというのも味気ない。
姉者は夜ご飯の買い物に行ってしまった。

せきをしても一人……おっと、兄者がいるんだった。


時間の使い方に困ってしまうのは、いつもパソコンだとか漫画だとか、暇つぶしの道具が手近にあるせいか?
それにしても、どの部屋の中を見渡しても一つもエアコンがついていないため、少し熱い。

一応窓が開いているから風は入ってくるのだが、
家の中でじっとしているのは本当に暑苦しい。


( ´_ゝ`)「暇だな。PSPでもやろうか」

(´<_` )「せっかく秋田に来たというのに、味気ないものだな」

(´<_` )「東京とは違うのだから少し外にでも行ってみないか?」

( ´_ゝ`)「……。そうだな、アクティブになるって決めたんだ」

( ´_ゝ`)「それにこういう何気ない所にもツチノコがいる可能性は、ある」

Σ(´<_` )「おぉ! すっかり忘れてた」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:53:10.69 ID:yJ+bSG6X0
そういう訳で、家の外を探索する事になった。

大通りの方向にさえ行かなければ、とてものどかな田舎らしい所だった。
空き地、民家、田んぼ、民家、空き地、林。大体それの繰り返し。
田んぼと田んぼがつながりあって、どこまでも続くように見えるのは壮観だ。

お昼時の太陽が、コンクリートを溶かそうとするような勢いで照っているが、
その熱されたコンクリートを冷まそうとするように、ひうひうと爽やかな風が吹いてくる。


そんな、風も何もない東京と比べて気持のよい気候だったが、それでもへたっている男がいた。
兄者だ。だらしない声で、ぐっだらぐっだら歩いているので俺と歩調が合わない。

流石の俺も、ここまでだらしない兄者を見てると兄の情けなさで涙が出てきそうだ。


(;´_ゝ`)「あぁ〜つぅ〜いぃ〜」

(´<_` )「いつも冷房の効いた部屋でパソコンしかやってないからだ」

(;´_ゝ`)「いやいや、でもこの熱さは異常だぞ?」

(´<_` )「熱って……文字でしかわからない間違えをしないでくれよ」

(;´_ゝ`)「いやいや、この気温は『暑い』ではなく『熱い』だ!」

(´<_` )「兄者、体温調節機能が腐ってるんじゃないか?」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:54:47.72 ID:yJ+bSG6X0
そんな会話をしながら、ゆるやかな坂道を殆ど無理矢理に近い状態で兄者を引っ張って行く。
所々ある空き地には、この太陽のようなひまわりが何輪も笑顔を見せている。
蝉の声には、普段あまり聞かないような声も混じっている。木々が多いおかげだろうか。

しゃーしゃーという聞き慣れない蝉の声が聞こえてくる中、うだうだと歩いていると池を見つけた。


池というか、沼に近そうだ。俺たちは沼より少し高い所の道路にいるのだが、
その触るとやけどしそうなガードレールの下に、沼は水面をギラギラと反射させている。
沼の周りはアシやらなんやらの背の高い植物で覆われており、
沼の周辺に踏み入る事はできなさそうだった。


(´<_` )「おぉ、沼があるぞ兄者。俺、もしかしたら人口以外の沼見るの初めてかも」

( ´_ゝ`)「そうだよなぁ。東京はどこ行っても整備された公園みたいなとこしかないからなぁ」

( ´_ゝ`)「あそこのガードレールが切れてる所に階段があるぞ。降りてみよう」



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:55:52.96 ID:yJ+bSG6X0
兄者の珍しい行動的な意見に、俺は逆らう事もなくついて行く。
兄者の言った通り、緩やかな坂の端の方に行くとガードレールの無い部分があり、そこから沼へと降りる階段があった。
その階段は元は水色だったのだろうが、塗装がはげ落ち殆ど朱色と言ってもいい色をしている。

階段の下の方は雑草の山に突っ込んでおり、最近誰かが入った形跡はない。あるのは巻き付くカラスウリだけだ。
そんな朱色階段は、手すりがねじ曲がり、階段が数段抜け落ちているとろがあった。どう見ても危険な状態だ。

だが身の危険を冒し、階段を下りようとする男が一人。……兄者だ。


( ´_ゝ`)「よし。こういう鬱蒼とした場所こそ、蛇は好みそうだよな」

(´<_`;)「あ、兄者! 階段抜けてる所あるぞ!」

( ´_ゝ`)「手すり捕まって降りれば大丈夫だって」

Σ(;´_ゝ`)「こーやってゆっくり降りればなんとmうわぁっ!」

Σ(´<_`;)「手すり自体も錆び付いてるんだぞ! 危ないっt兄者!!」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:57:14.48 ID:yJ+bSG6X0
俺がガードレールの所から呼び止めるのも聞かないで、階段を下りようとした兄者。
真ん中辺りまで降りた所で、兄者の捕まっていた手すりが折れた。

兄者が階段ではなく手すりに全体中を預けていたため、手すりが重みに耐えきれなくなったのだろう。
がぎんがぎんと金属がぶつかる音と、兄者の短い悲鳴が聞こえた後、
下からうめき声が聞こえた。

ぼろぼろと粉のようになって砕けた階段越しに、兄者の様子を見てみる。
ケツから着地したらしく、尻をさすりながら涙目になっている兄者が見えた。
階段は手すりが折れただけで、階段自体はまだなんとか階段とわかる形を保っている。
しかし流石にもう登ってこられそうにない。

本当に兄者は小学生のようだ。
とりあえず安否の確認のため、声をかけてみる。


(;;_ゝ;)「あだだだだ……」

(´<_`;)「大丈夫か兄者!」

(;う_ゝ;)「くそっ……かなり痛いぞこれは」

(´<_`;)「おいおい…初日から怪我なんてしてたらツチノコとか言ってる場合じゃないぞ」

(;う_ゝ´⊂)「わかってる。怪我はしてない。尻餅ついて尻が痛いだけだ」

(;う_ゝ`)「さて、どうやってここを登ろうか」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:57:48.13 ID:yJ+bSG6X0
池に降りる階段が設置されていただけあって、道路と兄者のいる所とは結構な高低差がある。
兄者もそれなりの長身だが、流石に3mもある壁を登る事は出来ないだろう。

それに階段はあの様だ。今度体重をかけでもしたら崩壊するしか道はない。
俺は道路の上から、池周辺にどうにかして登れる場所は無いかと探し出す。

本当にいろいろと手間のかかる兄だ。


(;´_ゝ`)「弟者ー。早く探してくれー。ここヤブ蚊が凄いんだー」

(´<_`;)「自業自得だと思って、しばらくそこで待ってろ」

(;´_ゝ`)「アッー! 葉っぱの裏にアブラムシがしこたまついてる!触っちゃった!」

(´<_`;)「そんな虫で悲鳴あげてたら、ツチノコなんて見つけられないぞ」

(´<_` )「それよりどこか登れるとこを……あっ、あそこの林なんてどうだ」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 11:58:45.14 ID:yJ+bSG6X0
俺たちがいる坂の終わりの方に、小さな畑が見えた。
その畑の横にこれまた小さな林があるのだが、その辺りは壁も無くなっているようで、
池の方まで生えているニセアカシアの林は池のふちに隣接しているように見えた。
とりあえず、あそこからならこの道路に兄者を導く事が出来るだろう。

兄者は背の高い草に囲まれて周りが見えないため、俺が上から方向の指示を出す事にした。


(;´_ゝ`)「くそ、ぬかるんでる所踏んづけちまった」

(´<_` )「そこから30m程行った所に、林が見えるだろ?そこの中から道路に上がれそうだ」

Σ(;´_ゝ`)「蒸し暑い……。げっ! ひからびた鯉の死体がある!」

(´<_` )「兄者はいちいちうるさいぞ」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:00:19.20 ID:yJ+bSG6X0
下から聞こえてくる兄者の状況報告は聞き流し、兄者を林まで導く。
兄者は変な物を見る度にいちいち騒ぐのでなかなか進まなかったが、数分後、なんとか林まで導く事に成功した。

林をよじ上り畑に出て来た兄者は、さながらゾンビのようだった。

ニセアカシアの枯れ木の刺が服に大量に刺さっており、得体の知れない羽虫のオマケ付き。
急激に体力を消耗したせいか背は丸くなっていて、
ぬかるみを踏んづけた靴からは泥水が がぽがぽ と音をたてて溢れてくる。
…しかもすっさまじい臭いがして来た。これはもう駄目かもわからんね。

帰ったら確実に姉者の天罰が下るだろう。


~(lll´_ゝ`)~「うーん、酷い目にあった」

(´<_`;)「兄者、服が草まみれ虫まみれ泥まみれになってるぞ」

~(lll´_ゝ`)~「…地獄を見て来た。メタンガスが色んなとこから出ててすげー臭い」

(´∩_`;)「あぁ。こっちまで臭ってくる。兄者の汗臭さとメタンガスで鼻が曲がりそうな勢いだ」

~(lll´_ゝ`)~「…もう家に帰ろう」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:02:14.89 ID:yJ+bSG6X0
気づけば、ひぐらしの声が聞こえてくる時間帯になっていた。
元気に上を向いていたひまわりは西の彼方にそっぽを向き、朝顔はとうに顔を伏せて黙っている。

時間を確認出来る物を持ってこなかったので詳しい時間はわからないが、
西の方の空はかすかにオレンジ色が混じっている。夏の夕方の一歩手前だ。
照りつけていた太陽も幾分ましになった事だし、俺は兄者から2m程離れながら家へ帰る事にした。

どこかの家から夜ご飯の準備をしているのか、カレーの臭いがして来る。
くぅ と情けなく鳴る腹をさすり、もと来た道を歩いて行った。



∬#´_ゝ`)「何あんたその格好!!」

∬#´_ゝ`)「汚すぎるわよ!どこ行ってきたの馬鹿!庭にホースあるからそれで足だけ洗って来て!」

∬#´_ゝ`)「足拭いたら速攻でお風呂入んなさい!!」

~(lll´_ゝ`)~「ごめんなさい」



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:04:11.19 ID:yJ+bSG6X0
帰ってくると、既に姉者が夕飯の準備をしていた。
お玉を持ってにこやかに玄関に出て来た姉者は、兄者の姿を見るなり般若のような顔になった。
別に俺が怒られている訳ではないのだが、これだけ近くにいると俺まで怒られている気分になる。

姉者はヒステリックな声をだし、俺にタオルを投げつけてきた。
かなりビビったが、兄者の姿をもう一度見て納得した。

兄者に投げつけたらタオルが汚れるからだろう。
流石の兄者も、減らず口を叩く元気はもう無いらしい。


素直に姉者の命令に従う兄者。家の外に出て北国仕様玄関の横にある水道の蛇口をひねり、ホースから水を出した。
だがすぐに足は洗わず、庭の松の木に向けて水を二股にしてかけている。…何をやっているんだか


( ´_ゝ`)⊃=<「ホースで水出すと、これやりたくなるよな」

(´<_`;)「くだらない事やってないで、早く足洗って風呂入って来いよ」 

( ´_ゝ`)「弟者も一緒にお風呂 は・い・る?」

(´<_` )「お断りします」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:06:34.18 ID:yJ+bSG6X0
兄者が足を洗い終えたのでタオルを渡し、先に家に入らせてもらった。
ふぅ、と一息つきながら、ソファに座る。
ブラウン管テレビは時折画面を歪ませながら、地方の天気予報を映している。

一階にも置いてある扇風機は、もうすっかり紫になった夕暮れの風とともに、部屋のぬるい空気をかき回す。
別に実家などではないが、田舎や実家に来た気になってくる。このふいんき(ryのおかげかな。
気のせいかどうか、東京よりも夕方の過ごしやすさが違うと感じた。

俺は網戸にひっついたカナブンを眺めながら、姉者に話しかける。


(´<_` )「姉者、義兄さんと結婚してどんくらい経つんだっけ?」

∬´_ゝ`)「もう一年近いかな、あんまり実感無いけど」

(´<_` )「そっか…。……なんでさ、姉者は東京を離れて秋田に行く事にしたの?」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:07:38.53 ID:yJ+bSG6X0
∬´_ゝ`)「大学で会った時から、すごい秋田の話をしてもらってさ。お祭りとか、雪の事とか」

∬´_ゝ`)「それで結婚する事になってからも、その大学の時の秋田の印象が残ってて……」

∬´_ゝ`)「凄い綺麗で、壮大なとこなんだろうな〜って思ってた。白神山地の話とかも聞いたしね」

∬´_ゝ`)「実際来てみたら、やっぱ東京都比べたらあか抜けない感じもしちゃうけど、いい所よ」


∬´_ゝ`)「それにね、流石家はあたしがいなくなってもあんた達がいるでしょ?」

∬´_ゝ`)「それに比べてあの人のご両親は亡くなっちゃったし、弟さんは山にこもってて田代にいないし」

∬´_ゝ`)「だからあたしがこっちに来て、あの人の家を支えていかなきゃって思ったのもあるかな」


姉者の顔は見えないが、声の雰囲気からして不満などはないらしい。
少し安心した。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:08:04.27 ID:yJ+bSG6X0
(´<_` )「……こっち来て、楽しい?」

∬´_ゝ`)「うん、後悔はしてないわね。地域の仕事大変だけど、みんな優しいし」

(´<_` )「そっか。よかった、姉者がこっち来た事後悔してたらどうしようかと思ってた」

∬*´_ゝ`)「ホントに、弟者は気遣ってくれるわよね。どんなとこでも順応するのがあたしの特技よ!」

∬´_ゝ`)「そこがあんたのいい所だけど、でも気遣いすぎて他人のペースに飲まれちゃ駄目だからね!」


姉者は嬉しそうに料理を作りながら笑う。こういう気丈さは母者に似たのだろう。
結婚し、母者と同じ主婦業をやるようになった姉者は、余計母者に似て来た気がする。

姉者は秋田に来た事を後悔してないようだ。内心、弟ながら姉者を心配していたので安心した。
地域の人ともうまくやっているようだし、義兄さんも優しい人だから、姉者はこれからもここでやっていけるだろう。
そんなとき、ただいまーという声と、玄関が開く音が聞こえた。
どうやら義兄さんが帰って来たようだ。

ビニール袋を置く音が聞こえ、磨りガラス越しにドアに移った姿からすると、そのまま洗面所に向かったらしい。

姉者の結婚式以来一度も会っていない義兄さん。
前に会った時から数えて、だいたい一年ぶりだ。正直言って会うのは楽しみ。


<うわっ!びっくりしたぁ……」

<おうふ!すいません義兄さん!おじゃまさせて貰ってます!」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:09:35.46 ID:yJ+bSG6X0
……どうやら兄者と洗面所で鉢合わせしたらしい。
声が聞こえた。特徴的な叫び声の方が兄者だろう。
あの兄者のオーバーリアクションは、一体どこから来たものなのだろうか。
あれも母者か父者から受け継いでいるのだろうか?

しばらくすると、タオルを腰に巻いて頬を蒸気させた兄者と、ビニール袋を下げた義兄さんがリビングに入って来た。
ぺちんぺちんと腹を叩きながら入ってくる兄者は、義兄さんよりも親父臭く見えた。


(*´_ゝ`)「はぁ〜 サッパリ」

(`・ω・´)「ただいま。洗面所にいきなり見慣れない顔がいたからびっくりしたよ」

(´<_` )「あ、今晩は義兄さん。お邪魔させてもらってます」

(;`・ω・´)「今晩は。……失礼、どっちがどっちだか」

(´<_` )「俺は弟の方の弟者です。そっちの腰タオルが兄者です」

(`・ω・´)「そうかそうか、君が弟者君で、そっちのほかほか君が兄者君の方か。覚えておくよ」

(`・ω・´)「一年前と比べて、君たちも背やら顔やら変わって来てるからね。成長期とはうらやましいものだ」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:10:30.16 ID:yJ+bSG6X0
義兄さんの名は、シャキンさん。小料理屋を営んでいる。

普段は夜まで営業しているらしいが、今日はわざわざ俺たちのためにお店を休みにして、
いろいろと何かの準備してくれたらしい。

思わず義兄さんに謝る。すると義兄さんは、
いいよいいよ、そんな流行ってない店だし。と、笑って返した。
それと、義兄さんがやっていた準備について聞いてみる。ご飯を食べ終わってからのお楽しみ。だそうだ。
きっとこの義兄さんの事だから、期待はずれである事はまずないだろうな。楽しみに待つ事にしよう。

義兄さんは持って帰って来たビニール袋からビールとセブンスターを取り出すと、自分でコップに注ぎ始めた。
せっかくこの家にお邪魔させてもらってるんだし、お酌くらいしないと駄目だろう。俺は慌てて義兄さんに声をかける。


(´<_` )「あ、俺注ぎますよ」

(`・ω・´)「いいよいいよ、君たちは客人なんだし、ゆっくりしていてくれ」

( ´_ゝ`)「俺たちがお邪魔させて貰ってるのに…」

( ´_ゝ`)「そういえば義兄さんは小料理屋をやってるんですよね。やっぱり姉者より料理うまいですか?」

(`・ω・´)「ははは、うかつな事は言えないからな」

(`・ω・´)「でも今日は姉者のご飯だけど、明日は僕が腕をふるってご飯を作るから楽しみに待っててくれよ」

∬´_ゝ`)「それって暗にあなたの方がうまいって言ってるわよね?」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:12:04.17 ID:yJ+bSG6X0
人数も揃った所で、リビングのテーブルに全員並び、座布団をひいて食事が始まった。
今日の晩ご飯はカレイの揚げ物、イカとマグロの刺身、お漬け物、水菜とササミのサラダ。
それと、姉者が近所の人から貰ったという枝豆とキュウリが食卓に並んだ。

キュウリにマヨネーズをつけて、一口頂く。店に並んでいる物よりも大きいそのキュウリは、
歯ごたえと甘みも店の物とは比べ物にならない。有機栽培なのかな?


( ´_ゝ`)「いやぁ、やっぱり姉者なんかが妻だと、亭主関白も糞もないでしょう」

(´<_`;)「おい兄者……」

(`・ω・´)「いや、そんな事も無いよ、確かに立場としては僕の方が弱いけどね」

(`・ω・´)「わざわざ東京からこっちに来てくれたし、家事や掃除もしっかりしてくれる」

(`・ω・´)「僕は本当にいいお嫁さんを貰った物さ」

( ´_ゝ`)「へぇ……ちゃんとやってるんだ。意外〜」

∬´_ゝ`)「…あんたと違って怠け者じゃありませんから」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:14:06.54 ID:yJ+bSG6X0
シャキンさんは窓際の座布団に座り、セブンスターを時々吸いながら俺らの質問に答えてくれる。
テレビはMHKになっており、今日どこでどれだけ暑かったかをキャスターが淡々と伝えていた。
網戸には名も無い蛾や、ぶいぶいが飛んでくるようになった。
空き地から来るのか、時々キリギリスもいる。

もうすっかり夏の夜だ。近所にろくな公園も無いうちと比べると、
車の音も余り聞こえないので別世界にいるかのように感じる。

何も無いようだけど、本当にいろいろと充実している、楽しい夜だと思う。


夕飯も終盤に近づいた頃、シャキンさんが窓の外に向かってふぅと煙を吐き出すと、明日の予定について話し始めた。


(`・ω・´)「で、さっき言ってた準備の事なんだけど、明日海に釣りでも行こうかと思うんだ」

(`・ω・´)「元々僕は釣りが好きでね。君たちも一度どこか釣りに連れて行きたいと思ってたんだ」

(`・ω・´)「もちろん、僕が勝手に進めた計画だから、嫌なら正直に行ってほしい。それなら僕が一人で行くまでだしね」

(`・ω・´)「どうだい?防波堤で釣りだけど、中々面白いもんだよ」

(´<_` )「だってよ兄者。俺はむしろ行きたいくらいなんだが、インドア派兄者はどうする?」

( ´_ゝ`)「もちろん行くぞ。釣りはしたいと思ってたんだ」

(´<_` )「あぁ、そういえばこっち来る前釣りに行きたいとか言ってたな」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:15:12.99 ID:yJ+bSG6X0
∬´_ゝ`)「いいわよねー。あんた達男は釣りだとか沼に落ちたりだとかアクティブに動けて」

∬´_ゝ`)「……じゃああなたが釣りに連れてくなら、あたしは海水浴にでも連れて行ってあげるわ」

( ´_ゝ`)「おっ! 気前がいいな姉者。弟者、水着って持って来たよな?」

(´<_` )「兄者が持って行くって言って聞かなかったんだろ。入ってるよ」

∬*´_ゝ`)「じゃあ明日の予定は、朝は釣り、昼は海水浴ね。決定!」


( ´_ゝ`)「なんで姉者がうれしそうなんだ?」

(`・ω・´)「最近僕の休みが少なくてお出かけもなかったし、君たちが来たから嬉しいんだよ」

(`・ω・´)「君たちが来る前から、なんどもなんども思い出を聞かされたからね」

(´<_` )「……そうか。……義兄さん、これからも姉者をよろしくお願いします」

(`・ω・´)「なんだいなんだい、いきなりしおらしくなって。よろしくされなくても大丈夫さ。安心したまえ」

( ´_ゝ`)「……姉者はなんでこんな出来た人と結婚できたんだろうなぁ」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:17:32.92 ID:yJ+bSG6X0
食事も終え、各自勝手な時間を過ごす事となった。
俺はまだ風呂に入っていなかったので、風呂に入りに行く。

義兄さんより先に入るのは気が引けたが、義兄さんは本当にいい人だ。
君たちは旅の疲れがたまってるんだから、早くお風呂に入って寝なさいと言われた。
ここはお言葉に甘えて、入りに行くって言うのがマナーだろう。多分。

「ちなみに、俺のお風呂シーンなんて需要も無いし言うつもりも無いので、割愛しておく。」
 V
(´<_` )

( ´_ゝ`)「誰に言ってるんだ弟者」

(´<_` )「いや…さぁ?」


(;´_ゝ`)「それよりさ、聞いてくれよ!さっき便所に入ったらぼっとん便所だったんだ!」

(´<_` )「へぇ。リフォームはしたらしいが、ぼっとんなんだ。それでなんでそんなに慌ててるんだ?」

(;´_ゝ`)「トイレ入って便座あげた時にあのウルトラマンのコピペ思い出しちゃってさ、」

(;´_ゝ`)「あんな臭気渦巻く洞穴から『ジョワッ』って声がトイレの度に聞こえてくるんだぞ!すげー怖いよ!」

(´<_` )「じゃあ近所の空き地でしてくればいいだろ」

(;´_ゝ`)「そういう問題じゃないだろ!」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:18:14.48 ID:yJ+bSG6X0
そんなこんなで九時近くなって来たので、お先に布団に入らせて貰う事にした。
明日の朝の釣りは、朝五時に起きて港に出発するらしい。これは早く寝ないと寝不足になる。
兄者が新聞を読んで、深夜アニメがやっていない!と叫んでいたが俺には関係無い。
兄者には後でDVDでも借りて見ろと言っておいた。兄者は涙ぐんでいた。


歯磨きをして、二階の和室へ向かう。
俺たちが荷物を置いて以来一度も部屋のドアを開けていなかったので、説明のしがたい空気が部屋中を回っていた。
だがそんな空気も、部屋の窓を開ければ、あっという間に逃げて行ったのだが。

窓を開け、網戸を閉めてレトロな扇風機をつけて、布団をしく。
なぜだか薄い毛布も一緒においてあった。必要あるのか?


さっきは荷物を置いただけでろくに観察もしなかったが、置いてある本棚を覗いてみると、結構漫画が置いてあった。
アルバムは、シャキンさんと弟さんのもの。これは余り興味は無い。
本棚に入っていた漫画は、釣り○チサンペー、◯太郎が来る!、◯KIRA、◯夢、◯敷女などなど。

あぁ見えて結構義兄さんは漫画好きのようだ。好感が持てる。


( ´_ゝ`)「おぉー。童夢あんじゃん。義兄さんわかってんねぇ〜」

(´<_` )「○取れてるぞ。それより勝手に漫画を読みあさっていいのかね? ……おいっ! 兄者!」

(;´_ゝ`)「ななな、なんだなんだ! 弟者が叫ぶと何がおきたかとビックリするだろうが!」

(´<_` )「これ…見てみろよ…」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:20:24.40 ID:yJ+bSG6X0
俺が本棚から取り出したのは、サンペーの横にひっそりと置いてあったノート。

『幻の怪蛇 ×ヘビ 探索の記録』

表紙には、あの兄者の描いた奇怪なヘビよりも数十倍まともだが、見た事のあるヘビが描いてある。
……そう、このヘビこそ今回俺たちが秋田に来た目標である、ツチノコの絵だ。

この表紙を見た途端、心臓の鼓動が急激に早くなった。決してデスノートは関係がないと言っておこう。


ノート見て固まった俺を発見し、兄者も漫画を見るのをやめてこっちに近寄って来た。
義兄さんが昔作った物なのか?そんな分厚い物とは言えないが、紙が黄色くなっている。
部屋中に緊張が走る。興奮して、どくどくとなる胸を押さえながらノートを慎重に開く。
その中にはどこから情報を集めたのか知らないが、ツチノコの特徴、生態、そして秋田県内の地図。


……これは、今の俺たちにとってどう考えても必要な物だろう。
兄者がインターネットで調べたと言っても、これほどまでに詳しく書いてある情報は無かったらしい。
とりあえず、今日は色々あって疲れたので早く眠りたい。それにさっき義兄さんがお風呂に入る音がした。

明日釣りに行く時に、義兄さんにこのノートの詳細と、借り出せないかを話す事にしよう。
携帯のアラームを、五時にセット。兄者のとあわせて二つもセットしておけば流石に寝過ごす事は無いだろう。
タオルケットだけ腹にかけ、垂れているひもを引っ張る。ばち、ばち と二回引っぱり、豆電球にした。


……外からは蛙の鳴き声と、虫がじいじいとなく音。寝ぼけた蝉が時々無く音だけが聞こえる。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:21:31.87 ID:yJ+bSG6X0
(´<_` )「兄者……これは俺たちにとって大きな一歩だぞ」

( ´_ゝ`)「あぁ。明日はすでに遊びの予定が入っているからどうしようもないが、」

( ´_ゝ`)「ノートの詳細がわかり次第行動に移す事にしよう」

(´<_` )「了解。ではおやすみ」

( ´_ゝ`)「おやすみ」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「……」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:23:08.08 ID:yJ+bSG6X0
( ´_ゝ`)「……弟者、もう寝たか?」

(´<_` )「うるさい。黙れ。喋るな。従え。殴るぞ」

( ´_ゝ`)「……弟者って眠いと機嫌悪いよな。なんかこうして同じ部屋で寝るのって、修学旅行みたいだな〜と思って」

(´<_` )「……うるさい。足をこっちに入れてくるな」

( ´_ゝ`)「弟者のいけずぅ〜」

(´<_` )「明日五時に起きるんだからな。こっちは夜型の兄者に付き合わせる事は出来ない」

( ´_ゝ`)「五時まで起きてりゃ万事解決じゃね?」

(´<_` )「もう俺反応しないから。一人で喋ってろ。 おやすみ」

( ´_ゝ`)「……おやすみ」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:23:56.90 ID:yJ+bSG6X0
( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「……」

( ´_ゝ`)「……ド〜はそこからともなくぷ〜 レ〜は連発ぷっぷっぷ〜」

(´<_`#)「うるさいっ!!」

Σ(;´_ゝ`)「ミ〜は……おわっ!びっくりした!」

(´<_`#)「なんで人が早く寝ようとしてるのに、そういう事するかね!?」

( ´_ゝ`)「……急に思い出したもんで」

(´<_`#)「とにかく、おやすみっ!」

( ´_ゝ`)「……おやすみ」



おわり



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