( ´_ゝ`) (´<_` )兄弟はぐだぐだとゆくようです

50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:25:27.83 ID:yJ+bSG6X0



釣り上げて流石兄弟 のようです



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:26:11.20 ID:yJ+bSG6X0
『あ〜いま〜いさんせんち! そりゃぷにってことかい! ちょっ!』

『ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ』

『らっぴ〜んぐ〜がせいふく! だぁぁふりってこたない! ぷ!』

『ピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピピ』

『がんばっちゃ やっちゃっちゃ そんときゃーっちりr『バン!!』

『ピピピピピピピピピピ『ぽち』


(#´_ゝ`)「なんだ! なんで俺の携帯を先に止めるんだ! しかも乱暴に!」

(´<_`#)「朝からアニソンを大音量でならす携帯に制裁を加えて何が悪い!」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:27:15.40 ID:yJ+bSG6X0
中々携帯を止めようとしない兄者に代わって、俺が携帯を止めた。兄者には文句を言われた。

現在時刻は、朝5時10分前。普段の俺が起きる2時間も前というのは、早く寝たとしても流石に辛い。
寝ぼけ眼をこすりながら、む〜んと体を伸ばして固まった体をほぐす。少し意識がハッキリしてきた。

昨日の夜から開け放してあった網戸からは、虫や鳥の活動する音と薄明かりが入って来ていた。
窓から外を覗いてみると、薄く霧が出ているようだ。遠くの防風林は、今は深緑の壁にしか見えない。
状況を判断出来るようになってくると、結構気温が低い事がわかった。だから毛布が用意してあったのか。


( う_ゝ`)「……ねむい……寒い……」

(´<_` )「毛布にくるまってないで、兄者も起きて布団をたため」

( う_ゝ`)「……俺ここに転がってるからさ、弟者布団たたんでおいてくれよ」

(´<_`#)「……」


(´<_` )「……あっ! ツチノコだ!」

(#う_ゝ⊂)「そんな物に反応する兄者ではないっ!」

(´<_` )「そこは反応しないと駄目だろう…話の流れ的に…」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:29:11.01 ID:yJ+bSG6X0
最終的に毛布をひっぺがし、無理矢理起こす。
腹なんか出して寝ているから朝寒い目に遭うんだ。と言っておいた。
兄者は聞いているのかいないのか、あいまいな返事しかしなかった。多分聞いていない。

本当にだらしのない兄だ。と思っていたら、唐突に義兄さんを思い出した。
そういえば義兄さんも弟さんがいるらしい。
結婚式にも出てなかったから会った事は無いが、きっと義兄さんに似て誠実な人だろうな。

やっと布団をたたみ終え、着替えて下へ向かう。廊下で荷物を詰めている義兄さんに出会った。
俺は階段を降りた所で立ち止まり、義兄さんに挨拶をした。


(`・ω・´)「やぁ、おはよう。朝は寒くなかったかい?」

(´<_` )「御早うございます。結構寒いんですね…。毛布ありがとうございます」

(;`・ω・´)「どういたしまして。それより兄者君が…なんか大変な事になってるみたいだけど」

(´<_` )「え?」


後ろを見ると、階段の途中で立ったまま寝ている兄者がいた。
俺と義兄さんが話してた短時間の間に、あっという間に夢の中に落ちたらしい。

だがこのまま行くと夢の中に限らず、階段からも落っこちてしまうだろう。
首が前後にぐわんぐわんと揺れている。このまま階段の前に立っていると、巻き添えを食らうだろう。



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:31:11.33 ID:yJ+bSG6X0
o。( ´_ゝ`)「ZZZ」

(´<_`;)「おい兄者! そんなとこで寝てると落ちるぞ!」

Σ(;´_ゝ`)「ふぐるにょわっ!」


変な声を出して目覚めた兄者は、バランスを崩して凄い勢いで階段を下りて来た。
ぶつかるのは嫌なので避けたい。でもよけたら前にいる義兄さんと荷物にぶつかる。
刹那の内にそれだけの事を考え、仕方なく突進してくる兄者を受け止める事にした。


どがん という衝撃と、頭に ぎゅっ と血が集まるような感覚がする。
目の前には兄者の額。接吻という最悪の事態は免れたが、意識が薄れて兄者と床に倒れ込んでしまった。

…漫画などでよくある、変な体勢にはなっていないのでご安心を。


(;´_ゝ`)「いたたたた……兄者! 兄者っ! 大丈夫か!?」

(;`・ω・´)「兄者? 君が兄者君だろう?何を言っているんだい?」

(;´_ゝ`)「え……なんで俺が兄者の服を着てるんだ?」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 12:31:48.40 ID:yJ+bSG6X0
(´<_`;)「いだい……おでこが……意識が……」

Σ(;`・ω・´)「まさかっ! 今の衝撃で二人が入れ替わってしまったというのか!?」

(´<_`;)「い…入れ替わってませんから……俺は弟者です……」

( ´_ゝ`)+「あんまり無い機会だから、入れ替わったふりでもしてみようかと思いまして」

(´<_`#)「紛らわしい事をするな!」

(;`・ω・´)「まぁ、なにはともわれ二人とも無事でよかった」


なんだかんだで、兄者の頭も完璧に覚醒したようだ。
準備万端で義兄さんの荷物詰めを手伝おうとしたら、もう昨日のうちに車に詰め込んでしまったらしい。

手伝えなかった事を悔やみながら、車に乗り込む。
昨日乗った白い車のトランクには、小さく縮められた釣り竿が二本と、
冷凍されたオキアミの塊、その他釣り具セットが詰め込まれていた。

入りきらなかったために溢れ出てきた他の釣り具達は、俺と一緒に後部座席に収まっている。
ずいぶんと使い込まれているのか、色あせたタモやバケツからは磯の香りがした。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:04:51.40 ID:yJ+bSG6X0
義兄さんが持って来た姉者特製握り飯を頂きながら窓の外を見てみる。
さっきまで霧がかかっているようにぼんやりとしていた太陽が、
だんだんとその輪郭をはっきりとさせて行く所だった。

まだ少し寒いが、窓を開けて朝の空気を入れる。
見かけるのは早朝の犬の散歩を楽しむ人ぐらいだ。

空き地や田んぼの地帯から大通りに出た。大きな店もまだ開店していないらしい。
光を発しているのは、たまにある24時間スーパーくらいだ。
兄者は車に乗るなりまた寝てしまった。
しょうがないので昨日の古いノートの事を、俺だけで聞く事にした。


(´<_` )「あの……義兄さん、運転中にすいませんが、ちょっと聞きたい事があるんです」

(`・ω・´)「なんだい」

(´<_` )「昨日……失礼ながら、僕達の止まった部屋にあった本棚を覗かせてもらいました」

(`・ω・´)「いいよいいよ、それにあれの半分は僕の弟の漫画だからね」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:09:45.35 ID:yJ+bSG6X0
(´<_` )「それで、古いノートを見つけました。×ヘビとか書いてあるやつなんですが……」

(`・ω・´)「あぁ……それは、弟のノートだよ。あいつは昔ツチノコ探しにハマってた事があってねぇ」

(´<_` )「あ、弟さんのノートなんですか。それで…僕らが秋田に遊びに来た目的って言うのは、ツチノコ探しなんです」

(`・ω・´)「!」

(´<_` )「あのノートは素晴らしい物でした。ツチノコの情報が事細かに書かれている」

(´<_` )「なので、あのノートを僕達に貸してもらいたいのですが……」

(`・ω・´)「……血は争えない物だな」

(´<_` )(俺たちと義兄さんって血つながってたっけ?)

(`・ω・´)「……実は、僕の弟はツチノコを探して秋田の山奥にこもっている。こもり続けている」

(`・ω・´)「もうすっかりブームは去ったが…あいつは夢を諦める事が出来ないんだろう」

(`・ω・´)「僕も東京の大学に受かり、あいつのツチノコ探しに付き合う事も出来なくなってしまった」

(`・ω・´)「正直、あいつの子供みたいな発想にいつまでも付き合ってられないと思ってたしね」

(`・ω・´)「だからこれをいい機会にして、あいつに言い聞かせたんだ。『僕はもうツチノコを探す事は出来ない』ってね」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:10:49.90 ID:yJ+bSG6X0
(`・ω・´)「あいつは……情けない顔をしてたなぁ……『もう兄弟一緒にツチノコを探せないのか!?』なんて叫んでさ……」

(`・ω・´)「そして……姉者と結婚して……弟の夢も忘れた頃に……ツチノコを探すと言って君たち兄弟がやって来た……」

(`・ω・´)「……これは何か運命を感じないかい?」

(´<_` )「……」


義兄さんは昔の思い出を、霧のかかった道路の先に思い浮かべているようだった。
いつの間に取り出したのか、セブンスターに火をつけて運転席の窓を開けている。
俺の頭は窓から入ってくる早朝の空気と、セブンスターの匂いに飲み込まれて行く。

なぜだか、一度も見た事が無い弟さんと、子供の頃の義兄さんがぼんやりと見えた気がした。


まだ気配の感じられない町を通り過ぎ、どこまでも続くような松原を通り抜けた頃、鼻に潮の香りが入って来た。
かもめかうみねこかしらないが、でかくて白い鳥が飛んでるのも見える。もう相当海は近いようだ。
松原を抜けてすぐに、どこかの海浜公園の駐車場のような所に車は入って行く。
そのまま駐車場を抜けて、漁船や小さめのタンカーが止まっている方向へ車は向かう。

漁船などから少し離れた場所に、義兄さんはバックで車を止めた。どうやら防波堤についたらしい。
俺たちの車の他にもすでに数台車が止まっており、
それぞれの縄張りで、釣り人が釣りをしていたり準備をしていた。



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:12:25.37 ID:yJ+bSG6X0
(`・ω・´)「…君たちにあのノートを預けよう。大事にしてくれよ。そのかわり条件がある」

(´<_` )「…なんでもします。死ぬ事と人殺し以外なら」

(`・ω・´)「そのノートを預けるから…今もツチノコを探し続ける、アイツの手助けをしてやってほしい」

(`・ω・´)「アイツは、未だにツチノコを探し続けている。それを君たちの手で終わらせて欲しいんだ」

(´<_` )「え……それって……諦めさせるんですか?」

(`・ω・´)「いや、僕も君たちをアイツのとこまで運んで行ったり、出来る限り協力する」

(`・ω・´)「だから、君たちの力で。ツチノコを発見して、アイツの夢を叶えさせてやってほしいんだ」



68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:13:42.56 ID:yJ+bSG6X0
運転席にいる義兄さんはセブンスターを吸い終わり、吸い殻に押し付けた。
少し前のめりになった時に水滴が垂れた気がするのは、気のせいだろうか。

義兄さんは、朝は流石に眠いね。と言って、ちいさなあくびをしながら目をこすった。
ぎっ、と車が止まったのを確認した後、俺はドアを開けて隣で出番を待っていた荷物達を降ろす。


(`・ω・´)「…朝から辛気くさい話をさせてしまったね」

(´<_` )「いえ、元はと言えば俺の方からふった話ですし」

(`・ω・´)「いや、でも君には悪いが、少しばかりすっきりしたよ。 ありがとう」

(´<_` )「話を聞くだけでも、お役に立てたのなら嬉しいですよ」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:15:05.07 ID:yJ+bSG6X0
( う_ゝ`)「むむむむむ」

(´<_` )「起きたか兄者よ。おはよう」

( ´_ゝ`)「ここはどこだ?」

(´<_` )「ここはもう防波堤だよ。釣りを始めるから兄者も降りろ」

( ´_ゝ`)「はぁ〜 もう少し眠らせてくれよ……眠い……」

(´<_` )「生活リズム狂ってる兄者がいけないんだろ」

( ´_ゝ`)「ずらしまくればいつか一周して元に戻るんだぜ」

(´<_` )「……せっかく海に来たんだから、ちょっとくらい見てみろよ」

( ´_ゝ`)「……もう海なんてどうでもいい」



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:17:22.06 ID:yJ+bSG6X0
鼻歌まじりに準備をする義兄さん。
俺たちは釣りの知識などまるっきり無いので、手伝おうにも手伝えない。
しょうがないのでしばらく防波堤のわきをぷらぷらと歩いていたら、ふいに義兄さんに呼ばれた。
慌てて車のある所まで戻ってくる。どうやら、釣りの準備ができたらしい。

それぞれ一本づつ竿を受け取った。兄者は紺色の釣り竿、俺は深緑の釣り竿だ。
今まで縮んでいたが、伸びた釣り竿を持ってみるとそれなりの重量がある。片手で持ち続けるのは結構辛い。


(`・ω・´)「では早速、簡単釣り講座を始める!」

( ´_ゝ`)『はい!』(´<_` )

(`・ω・´)「今回の釣り方は、『サビキ釣り』という物だ! 決して馬鹿な厨房を釣るのとは違うから、覚えておくように!」

( ´_ゝ`)『はい!』(´<_`;)(今この人厨房って言ったか?)



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:19:17.92 ID:yJ+bSG6X0
(`・ω・´)「まずはテグスの上の方についているかごに、オキアミをもっしもっし入れる!」

(`・ω・´)「その後ゆっくりと海に投げ入れ、適当な感覚でリールを巻いたり、竿を上下させる!」

(`・ω・´)「その上下した時の勢いで、オキアミがかごから落ちて行く!そしてオキアミ爆撃の中にきらめく針を、
      小魚がオキアミと勘違いして釣れるって寸法だ! ここまでDo you understand!?」

( ´_ゝ`)『Yes, I do!』(´<_`;)。o(何でいきなり英語になるんだよ!?)

(#`・ω・´)「ちなみに! 僕は釣りに関してはそれなりに厳しい! 
       釣り場にゴミなんて残したらぶち殺すから覚えておくように!」

(#`・ω・´)「それと、魚というのは敏感な生き物だ! 大きな音を出したり、釣り場を走り回ったりしないように!」

( ´_ゝ`)『はい!』(´<_` )

(`・ω・´)「ふぅ…では、各自持ち場について釣りを始めるように。何かあったら僕に言いなさい」

( ´_ゝ`)『はい!』(´<_` )



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:21:07.38 ID:yJ+bSG6X0
義兄さんは今日は釣りをするというより、俺たちの釣りの手助けをしてくれるらしい。
本当は釣りをしたいのかもしれないが、こんな初心者が二人もいたらケツ拭いで忙しくて釣りなんて集中出来ないだろう。

義兄さんに言われた通り、かごの中に少し融けてシャーベット状になっているオキアミを詰め込む。
そしておもりがついたテグスを、丁寧に海の中に投げ入れた。釣れてくれればいいが。
釣り糸が絡まらないように、兄者から3m程離れた位置で竿を投げた。

俺は釣り堀くらいは行った事があるが、海の釣りは一度もした事が無い。
家は海からはほど遠い東京の郊外にあるので、海に行く機会なんて滅多にない訳で。
なので竿を上下させるだけでも十分楽しかったのだが、集中力の無い兄者が早々に飽きて来たらしい。

ぶつぶつと文句を言いながら、少なくなったかごにオキアミを詰め込んで投げている。そこまではいい。
その後、竿をゆっくりではなくランダムに上下させてみたり、時々テグスを超高速で巻き取ってみたり。
そんな事してるからオキアミがあっという間に無くなってしまうんだ。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:23:04.50 ID:yJ+bSG6X0
( ´_ゞ`)「……つーれーなーいー」

(´<_` )「まだ始めて10分も経ってないぞ」

( ´_ゞ`)「普段なら、釣り糸を垂らせばカップ麺を作ってる間に5匹は釣れるはずだ」

(´<_` )「? 兄者いつ海釣りなんてした事あるんだ?」

( ´_ゝ`)「ネットサーフィン中に2ちゃん海という場所で釣りをたしなみました」

(´<_` )「…最近、そういう兄者の発言が本気なのか冗談なのかわからなくなってくるよ」


( ´_ゝ`)「まぁいいさ、どっちにしろ、先に魚を釣り上げるのは絶対俺だな」

(´<_` )「……いや、集中力の無い兄者は魚が釣れる前に早々と引き上げてしまうだろ」

( ´_ゝ`)「……ふふん、釣り人というのはな、魚を釣るために手を変え品を変え、
      迅速な判断と、魚のいる場所をその眼で見つけ出し、釣り上げる者」

( ´_ゝ`)+「だから釣り人は、短気な方が向いているはず!」

(´<_` )「いや、俺は魚が十分に寄って来るまで気長に待つべきだと思うね」

( ´,_ゝ`)「ふん、そんなのは釣れないやつの遠吠えだな。じきに俺の考えが証明されるのを、しかとその目で見るのだぞ」

(´<_`#)「まだ兄者だって釣り上げてないじゃないか。先に釣れるかじゃない。どちらが多く釣り上げるかが問題さ」



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:42:28.35 ID:IXQkzXts0
そんな事をぐだぐだと喋りながら、竿を上下させていた時だ。
俺の釣り竿に、水の抵抗以外の何か別の振動が伝わって来た。
その振動は時々 びくっ びくっ と動き、釣り糸が少し横に動く。
大きな動きではないが、明らかに何かがかかっている感触。

きたっ! これはぜったいにきたはずだ! と心の中でガッポーズを決め、慌てて義兄さんを呼ぶ。
横では兄者が、むきー と言いながらレースハンカチを噛んでいた。どこから取り出したんだ。


(´<_`;)「義兄さん! なんか竿がびくびくしてます! 多分何か釣れてます!」

Σ(;´_ゝ`)「むきー! 弟に先にかかるとは兄としてなんたる屈辱!」

(`・ω・´)「むっ! それは何かがかかってるはずだ。慎重にリールを巻いて、引き上げるんだ!」

(´<_`;)「わかりました!」


義兄さんの指示に従い、慎重にリールを巻き上げる。
かりかりかりかり という単調な音と、海のさざ波の音しか聞こえないのが、余計俺の脳内に心臓の音を響かせる。
かごが上がって来た。その下にまだまだ続くテグスも、続々と上がってくる。

テグスには6本程針がついていたはずだ。1本、2本、3本、4本……。
その辺りまで上がってくると、水の中に何かがきらめくのが見えた。あれは鱗の光沢か?

俺のテンションは急激にアップする。そして、ラスト!俺は一気に竿を上にあげた!うらぁ!!



76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:45:07.28 ID:IXQkzXts0
(*´,_ゝ`)「ひゃっひゃっひゃっ! wwwwwwうえっwwwww」

(´<_`;)「…………」

(`・ω・´)「残念、ビニール袋だ。まぁ気を落とさないで。続けていればきっといい物が釣れるさ」

(*´,_ゝ`)「ふっ……我が弟よ、気合いを入れすぎたせいで魚がビニール袋に変化したんじゃないか?」

(う<_`;)「くっ…… いや、まだ兄者は魚がかかった気配すらしてないじゃないか!」

(*´,_ゝ`)「私は大器晩成型なのだよ。後の追い込みを楽しみに待っていたまえ」

(´<_`;)「大器晩成の使い方違うと思うぞ…」


…俺の始めての海釣りの成果は、外道ですらないビニール袋でした。正直凹みます。
兄者は散々腹を抱えて笑った後、ひぃひぃ言いながらまた隣で釣りを始めた。
時折こっちをにやにや見てくるのが腹が立つ。

だが俺は負けない。空っぽになっていたかごに新たなオキアミをつっこみ、
また海に投げ入れる。今度こそは魚を釣り上げてみせるぜ。
だが、さっきの事もあって俺もモチベーションが下がって来た。
ずーっと同じように動く波を見ていると、意識が遠のいて行く。

そんな単調な作業の合間に、義兄さんが釣りのワンポイントアドバイスをくれた。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:48:07.14 ID:IXQkzXts0
(`・ω・´)「君たち、魚が釣れないから飽きて来たようだね」

( ´_ゝ`)「正直な所…少し…」

(´<_` )「飽きて来てます…」

(`・ω・´)「釣りは魚が釣れてこそ快感を得られるものだしね」

(`・ω・´)「でも、どの魚を釣ろうだとか、どんな仕掛けを作ろうだとか、どの水温、どの条件で一番釣れるかとか」

(`・ω・´)「そういう事を考えるのも、釣りの楽しみ方のひとつな訳さ」

(`・ω・´)「だが…ね、君たちは初心者だし、魚の姿を一度も拝めないのは気持のいい物じゃないだろう」

(`・ω・´)「防波堤の魚っていうのは、単独で泳ぐ物は余りいない」

(`・ω・´)「大体群れになって、防波堤周辺をぐるぐると回っている事が多い」

(`・ω・´)「だから時間によって、まったく釣れない事もあるし、いれぐい状態になる事だってあるんだ」

(`・ω・´)「だから今は群れがここにはいないってことだろう。もうしばらく待ってれば、」

(`・ω・´)「竿を垂らせば針全部に魚がかかってる事だって、夢じゃないはずさ」

( ´_ゝ`)+「…俺は釣る!絶対に針全部に釣り上げてみせるぞ!」

(´<_` )「テンションの上がり方が尋常じゃないな、兄者よ」



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:51:43.44 ID:IXQkzXts0
義兄さんの助言もあり、モチベーションあがってきたのでもう少し続けてみる事にした。
兄者は自ら群れを探しに行く事にしたらしく、俺たちの今いる場所から随分と離れた所へ行ってしまった。
…だが、魚釣りなんてそうしょっちゅうポイントを変えては魚は釣れないと俺は思う訳で。
兄者いわく、魚がいる所に餌をぶちこめば絶対に釣れる!らしい。
漫画やゲームじゃないんだから、無理だろう。

なので俺は元の場所でじっくりと腰を落ち着けて、糸を垂らして待つ事にした。
別にいつ勝負をすると言った訳でもないんだが、さっきの火花バチバチの会話を見てもらえばわかるだろう。
兄者に負けたくない気持は、俺の心の中で静かに燃えているのであった。

だが中々釣れない。まぁ、確かに思いだけあったって意味はないとわかってはいるんだが……。
後ろで、持ってきたクーラーボックスに座りながらタバコを吸う義兄さんに聞いてみる。


(´<_`;)「……義兄さん、俺このやり方であってますよね?」

(`・ω・´)「釣りにやり方なんて無いさ。竿と、糸と、針さえあればそれはもう釣りなんだ」

(`・ω・´)「それで間違ってると思えば釣り方を変えればいい」


なぜだか怒られた気になったので、黙って釣りを続ける事にした。
餌が無くなればかごを引き上げオキアミを入れ、また海につっこみ、竿を上下させる。

時刻は朝の六時近くなってきただろうか。
肌寒いと感じていた肌も、少しばかり気温が上昇したのを感じ取り始めた時だ。

遠くの方で兄者の叫び声が聞こえて来た。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:54:10.42 ID:IXQkzXts0
(*´_ゝ`)「義兄さん義兄さん義兄さん義兄さん!! 魚が釣れました!!」

(`・ω・´)「何っ!? 今そこにバケツを持って行くから待っててくれ!」

(#`・ω・´)「それとっ! 釣り場では静かに!」

(;´_ゝ`)「すいません兄さん! でも兄さんも叫んでますよ!」


(´<_`;)「マジかよ……」


防波堤の中程にいる俺らの位置から、兄者のいる海に突き出しているはじっこまでおおよそ50m程。
義兄さんはクーラーボックスから立ち上がり、車の中からバケツをひっつかんで奇妙な早歩きで行ってしまった。
さっき自分で『釣り場で走ってはいけない』と言ったからだろう。

俺もまったく釣れない釣り竿を引き上げ、丁寧に横に倒して地面に置いた後、わめく兄者の元へ向かった。
兄者の魚だって、きっとただのゴミ袋だ。それか、食べられもしない草ふぐだろう?
そうであってくれよ。いや、きっとそうさ。

俺の心に邪な考えが充満して行く……。



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 13:58:18.03 ID:IXQkzXts0
兄者の元にたどり着くと、真っ先に目に入ったのは、釣り針六本に全て魚がかかっている竿だった。
銀色の鱗を朝日にきらめかせ、勢いよくもがいている。たった今つり上がった証だ。
…俺は負けたのか。 いや、負けてなんかいないさ。まずこれは勝負なんかじゃないのだから。

こういう事をいつの間にか考えてしまう辺り、まだまだ俺は兄者を尊敬する事はできないらしい。
だが今は、そんな気持を押さえ込んで素直に兄者の成果を褒めた耐えようではないか。


(*´_ゝ`)「すばらしい……本当に釣り針全部に魚がかかった……」

(`・ω・´)「ほれぼれしている場合じゃないぞ兄者君。早く魚をバケツに入れなければ」

(´<_` )「……よかったな、兄者。魚釣れて」

(*´_ゝ`)「俺の凄さがわかったか! 『ビギナーズラックすらない』とか言ってたのはどこのどいつだ!」



81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:00:26.41 ID:IXQkzXts0
(´<_`#)「なんだよせっかく人が兄者の事褒めてるのに」

(*´_ゝ`)「ねぇ 今どんな気持ち? 今どんな気持ち?」

(´<_`#)「もう怒った。 絶対あの場所で兄者より釣り上げる」


兄者の釣った魚を確認した俺は元の位置に戻った。
さっきゴミを釣って兄者にからかわれた事もあり、かなり悔しい。
ここまでくれば意地だというのは、自分が一番理解している。

まだ帰るまで1時間近く時間がある。ここで粘っていれば、
いつか兄者の所にいる魚の群れもこっちに回ってくるだろう。

そう思い、そこでずっと釣りをしていたのだが……。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:02:57.65 ID:IXQkzXts0
(*´_ゝ`)「俺 釣果31匹」

(´<_` )「俺 釣果2匹」

(`・ω・´)「二人ともよく頑張った。…だが、弟者君の方は本当に運がないとしか言いようが無い」

(`・ω・´)「魚も生き物だからね、防波堤全体をぐるぐる回るんじゃなくて、一カ所で回っている事もある」

(`・ω・´)「まぁ、気を落とさないでくれたまえ」

(´<_` )「…もう…いいです…」

( ´_ゝ`)「おっと弟者、一匹数えてないぞ。魚2匹にゴミ1匹だろうが」

(´<_`#)「うるさいっ」


バケツに入っていた魚をクーラーボックスに移し、釣り具セットをたたんで車に乗り込む。
兄者は入れ食い状態になってから、終止ご機嫌だった。
俺をおちょくる回数が多くなるのですぐわかる。

それを適当にあしらい、(あしらっても続くのだが)もう俺は午後の海水浴の事だけ考える事にした。
朝とまた同じ乗り方なのだが、やはり使用した分だけ釣り具が魚臭くなっていた。


もうすっかり太陽が昇りきった、午前7時半頃。
朝は蝉の声も聞こえなかった松原を抜け、人々が普通に歩いている町中を車で走り抜けた。
霧もすっかり晴れていて、開店の早い個人商店などはすでに店を開いている。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:06:14.91 ID:IXQkzXts0
∬´_ゝ`)「おっかえりなさーい。魚釣れた?」

(`・ω・´)「僕は釣りはしてないんだけどね、兄者君が大フィーバーだったよ」

(*´_ゝ`)

(´<_`#)


∬´_ゝ`)「……兄者、あんたまた弟者の事からかったでしょ」

∬´_ゝ`)「まぁいいわ。今日の夜ご飯はその小魚で唐揚げ作るから楽しみに待ってて!」

(`・ω・´)「あれ、僕が夜ご飯作るっていって無かったっけ?」

∬´_ゝ`)「そうだっけ? じゃああなたに頼むわ」

(`・ω・´)「あぁ、君たちが海水浴に行ってる間に準備しておくよ。その後僕は店の方にいなくなっちゃうけど」


玄関まで迎えに来た姉者に、クーラーボックスの中身を見せてあげた。
釣果を聞かれたが、俺は何も言わなかった。横から兄者が報告してくれやがったが。
姉者はそれを聞くと哀れんだ表情で、子供でもないのに俺の頭をぽんぽんとなでた。恥ずかしい。

とりあえず魚の詰まったクーラーボックスを台所まで運び終えると、
海水浴の準備に取りかかろうと二階へあがる。兄者も後ろからついて来た。



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:08:13.79 ID:IXQkzXts0
( ´_ゝ`)「海水浴かぁー。浮き輪持ってくか?」

(´<_` )「兄者泳げるだろ。 必要あるのか?」

( ´_ゝ`)+「浮き輪に乗る→ひっくりかえる→もぉ〜 兄者君水しぶき飛ばさないでよ!→セクロs」

(´<_` )「その、兄者君と呼ぶ予定の女の子はどこから出すんだ」

( ´_ゝ`)「現地調達」

(´<_` )「まず無理だな」


俺たち二人分の荷物が入ったキャリーケースの中を、引っ掻き回しながら荷物を探す。
兄者がキャリーケースから服やらなんやらぽいぽいと出しながら荷物を探し、
俺がその飛び出てきた衣服をたたんでキャリーケースの横に並べるという図式を想像してもらいたい。

そんなに狭くない畳の部屋だが、キャリーケースと兄者を中心にどんどん荷物の床が広がって行く。



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:11:27.78 ID:IXQkzXts0
( ´_ゝ`)「うーん グーグルはどこやったかね」

(´<_` )「グーグルじゃなくてゴーグルだろ」

( ´_ゝ`)「おっ! 見つけた見つけた……あれっ、さっきそこに置いといた水着どこやった?」

(´<_` )「俺は知らないぞ。兄者が荷物かき分ける時にどこかにやったんだろ」

( ´_ゝ`)「ん〜 あっ、あったあった。弟者、ブーメランとトランクス型どっちがいい?」

(´<_` )「……ブーメランじゃなければなんでも」

( ´_ゝ`)「よし、じゃあお前がトランクスで俺が悟天だ!」

(´<_` )「別の話になってるぞ」



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:14:36.08 ID:IXQkzXts0
姉者の用意してくれた耐水性鞄に二人分の海水浴セットを詰め込み、姉者に準備ができたと伝えた。

だが今すぐ出発する訳ではないらしい。今が7時45分なので、出発予定時刻の10時まで体を休めておけとの事。
外に歩きに行くにも時間がありすぎるし、漫画を見る気にもならない。
なので昨日の睡眠不足を補うため、俺たちの部屋でしばらく休憩させて貰う事にした。

早起きの反動と、釣りで使った体力を回復させるために畳に横になると、あっという間に睡魔がやってきた。
じょじょに蝉の声は遠ざかり、朝なので気温もさほど気にならない。
近くから聞こえてくるのは、兄者が漫画のページをめくる音だけ……

zzz…………。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:17:36.29 ID:IXQkzXts0
( ´_ゝ`)「……!……」

( ´_ゝ`)「…!お……ろ……」

( ´_ゝ`)「弟者!おいっ!起きろ!」

……なんだうるさい話しかけるな

( ´_ゝ`)「おいっ、起きろ!出発の時間だ!」

まだ10分も寝てないはずだぞ…もう少し寝かせてくれ

(#´_ゝ`)「弟者っ!!」

(´<_`;)「ふぁいっ!」


兄者の大声に起こされ慌てて体を起こす。
どうやら2時間近く眠っていたらしい。
目の前に水着を着終わってTシャツを着た兄者が仁王立ちしていた。
手には網に入ったスイカと海水浴セット。もう準備万端のようだ。

ぐわぁ〜 といいながらあごが外れそうなくらい大きなあくびをしたら、兄者に頭をひっぱたかれた。
兄者はもう完璧に行ける状態なのに、俺が起きないので出発できなかったらしい。
これはどう考えても俺が悪いので、素直に謝る。

いっきに覚醒した頭をふりふりとして、状況を確認しようとした。
携帯で時間を見ると9時45分。俺も急いで準備しなければならない。



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:20:19.42 ID:IXQkzXts0
慌ててズボンを水着に履き替え、キャリーケースからサンダルを引っ張りだし、階下に降りて行った。
もちろん水着で海に行って帰りにパンツを忘れるという悲惨な出来事も想定して、しっかり着替えも準備する。
玄関前では姉者がいろいろな食べ物を置いて、順々に車に詰め込んでいる。

お弁当と、きんきんに冷えたお茶の入った水筒、500mlペットボトルのカルプスウォーター。おにぎりがいくつか。
今までずっと寝ていたお詫びとして、俺も黙って姉者の荷物運びを手伝う。
荷物を運んでいるだけでじっとりと脇の下に汗をかいて来た。随分気温が高くなっているようだ。


ふと空を見上げると、やけに高速で飛ぶアブラゼミと、俺に倒れてきそうな程でかい入道雲が見えた。
昨日に続いて、今日も随分と暑くなりそうだ。日焼け止めを用意しないといけないな、と思いながら荷物を運び終えた。
そして車に乗ろうとした時だ。家から何かを抱えて出て来た姉者と目が合い、寝すぎた事を怒られた。


∬#´_ゝ`)「ちょっと弟者! あんた寝すぎなのよ! 自分の準備はしたの!?」

(´<_`;)「上で慌ててしてきたが」

∬#´_ゝ`)「ならあたしちょっと忘れ物したから、これ車に乗っけておいて!」

(´<_`;)「ぐっ、お、重い! いきなりこんな物をもたせないでくれ!」



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:23:36.84 ID:IXQkzXts0
姉者にいきなり押し付けられたのは、もっさり10kg分のあきたこまちだった。

よろよろと荷物を積み込んだ後、車に素早く乗り込む。
姉者は何か忘れ物をしたようで、また家の中に戻って行った。
すでに姉者がエンジンをかけて涼しくしておいたようで、冷房の効いた快適な白い車は、
夏の陽ざしをボンネットに反射させながら、鈍いエンジン音と共に全員が乗り込むのを待っているようだった。

風にあおられて揺れるアンテナは、まだ家の中にいる姉者を催促しているようだったし、
空き地に元気に伸びた青いススキを映すミラーは、出発を待ち望んでいるかに見えた。
車内には水筒の中の氷がならす音と、ラジオから最近のヒットソングが流れている。

朝は助手席に兄者が乗り込んで俺が荷物と一緒だったが、
今回は俺たちが後部座席、お弁当などをまとめたでかい鞄は助手席に詰め込まれた。
今日は白いつばの大きい帽子を被った姉者は、ばたんと勢いよくドアを閉めて運転席に乗り込む。
動き回って暑かったらしい。冷房の風を自分の方向に向けて胸元にぱたぱたと風を通した。


∬´_ゝ`)「はぁー 荷物運ぶだけで汗かくなんて。今日は暑くなるわね」

( ´_ゝ`)「…姉の胸チラを見たってまったく嬉しくならないな」

(´<_` )「…そんなに見る程ないしな」



92: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:25:35.51 ID:IXQkzXts0
∬#´_ゝ`)「うるさいわねー。あんた達が二階にこもってろくに荷物運ばないから頑張ったのよ! 重かったんだから!」

( ´_ゝ`)「たんに姉者が年食って、普通の人より体力を使うって話じゃないか?」

∬#´_ゝ`)「あんた自分の分しか荷物準備しなかったくせによく言うわね」

( ´_ゝ`)「姉者が『しっかり自分の分の荷物は準備しとくのよ』って言ってたんじゃないか」

∬#´_ゝ`)「普通なら自分の準備をするのは当たり前だし、それが終わったら他の人の準備も手伝うって物じゃない?」

( ´_ゝ`)「俺が手伝ったりすると物が無くなったりするから、余計な事をしないようにしていたのだ」

∬#´_ゝ`)「へりくつこねないの!! 後カルプスはあっちついてから飲む用だったのに!!」



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:33:19.25 ID:DWzc2uMMO
どさくさにまぎれて、兄者はカルプスを勢いよく飲んでいた。案の定姉者に怒られていた。
姉者ももうこれ以上言ってムダだと思ったのか、ため息をついてハンドルに手をかけた。
駐車場から抜け出て、防波堤の横を通り大通りへ向かう。

古い車なのでエンジン音がかなりうるさい。
ひかえめに流れていた音楽は聞こえなくなってしまった。
ちなみに海水浴セットは兄者が抱え込んでいる。よほど楽しみなのだろうか。

まぁ、俺も楽しみなんだけど。せっかくなので、姉者に行き先を聞いてみる事にした。


(´<_` )「姉者ー。今日はどの辺りまで行くんだ?」

∬´_ゝ`)「今日はねー。あたしの友達がいる所に行くのよー」

( ´_ゝ`)「へぇ、近所の人以外にも友達がいるのか。流石だな姉者」

∬´_ゝ`)「まぁね。お米買いに行ったら出会ってさぁ……」

(;´_ゝ`)「米から友人になるきっかけが想像出来ないのだが…」



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:39:45.71 ID:DWzc2uMMO
∬´_ゝ`)「別にいいじゃないの」

∬´_ゝ`)「ちなみに、今日行く所は東京と違って人も少ないし泳ぎやすいわよ〜」

Σ(;´_ゝ`)「なにぃ! それでは現地調達できないじゃないかっ!」

∬´_ゝ`)「ねぇ弟者。こいつはなんでこんなにショック受けてんの?」

(´<_` )「俺は何も知りません」


姉者の友人がいるという海水浴場まで、それなりの距離があるらしい。
田代市内を抜け、稲白川という、俺たちの家の近所の川とは比べ物にならない位でかくて深い川を渡り、
しばらく田んぼのど真ん中を通る道を突き抜けて、ジャスコの脇を通り抜け。
車は秋田を抜けて、青森に入って行った。
といっても風景などは、あまり変わらない。



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:42:22.51 ID:DWzc2uMMO
海沿いの道に出たので、海を見てみる。ちなみに海の反対側には山が迫っていて、
落石防止ネットが延々と続いているだけなので見る物も無い。
ただ時々、猿駆除重点地点と書いてある看板が立っているのが気になる。
遠くの方には、風力発電の巨大な風車が山に連なって立っているのが見えた。


∬´_ゝ`)「知ってる?」

( ´_ゝ`)「知らない」

∬´_ゝ`)「……。あの風車あるでしょ?あの下で今、サンドクラフトってのがやってるのよ」

(´<_` )「なんだそりゃ。お祭りの名前か?」

∬´_ゝ`)「お祭り?なのかしらね。砂浜の砂を集めて大きな像を作ってるの」

∬´_ゝ`)「ようするに、札幌雪祭りの雪が全部砂になった物だと思ってほしいわ」

(´<_` )「へぇ。凄いな」

∬´_ゝ`)「一番大きいので3m近くあったりするのよ。見に行ってみたい?」

( ´_ゝ`)「興味ない」

∬´_ゝ`)「何よ……せっかく面白そうな事教えてあげたのに」



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:45:45.81 ID:DWzc2uMMO
海の方に目をやると、いわゆる『夏の海』というやつだろう。
見ているだけで海に入りたくなるような風景が視界いっぱいに広がっていた。

だが、流石日本海というべきか。砂浜などはあまりなく、殆どが荒波で削られた磯地帯しか無い。
その磯地帯の先には、テトラポッドが積み重なってできた波を打ち消す場所があり、
そこではしっかりと波を打ち消しており、ばっしゃんばっしゃんと白波が立っていた。
東京の軟弱な太平洋と比べたら、なんと男らしい日本海だろう。


海のそばより少し上の位置の、ガードーレール越しに車の中から三人して海を眺めた。
皆持つ感想は似たようなものらしい。


( ´_ゝ`)「海だなぁー」

(´<_` )「海だねぇー」

∬´_ゝ`)「海よねぇー」



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:47:01.53 ID:DWzc2uMMO
(´<_` )「それにしても、後ろに荷物をいっぱい乗っけたバイク乗りが多いな」

∬´_ゝ`)「格好いいわよね〜。ああいう人達は多分パーティーを組んで日本中を走り回っているのよ」

( ´_ゝ`)「ドラクエか……。道に迷ったりしないのかね」

∬´_ゝ`)「地図くらい持ってるでしょ」

∬´_ゝ`)「それよりあんた達ももうバイクの免許取れる年なんだから、ああいうロマン溢れる事しなさいよ」

( ´_ゝ`)「ああいう事なんかするのは、若気の至りってもんさ」

∬´_ゝ`)「あんた何様のつもりよ」



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:50:29.23 ID:DWzc2uMMO
しばらく海沿いを走りながら、時々ある建物を見かけたりしたりする。

こちらの方の道路は山道の方と違って潰れかけている店も少なく、どれもみなそれなりに繁盛しているようだ。
たまにあるお休み何処には、何か書いてある旗が入り口のわきにささっていて、駐車場には車が数台止まっている。
秋田名物の一つ、ハタハタの恩恵を受けているのだろうか?いや、でもここはもう青森だ。

時々ある店を見てみると、主にイカ焼きやさざえなどを売っているようだった。
窓を開けると、俺たちにとって実になじみ深い臭いがした。特に兄者だが。


( ´_ゝ`)「むっ……とても親近感を感じる臭いがするぞ」

(´<_` )「思ってても口に出さないのがマナーだぞ」

∬´_ゝ`)「なに? 親近感って。あのイカ焼きの事?」

( ´_ゝ`)「あぁ、オナ(´<_`;)「なんでもない!」

∬´_ゝ`)「? 変な弟者ね」



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:51:58.65 ID:DWzc2uMMO
(#´_>`)⊃メ)´_ゝ`)グエァ

(´<_`#)「仮にも姉者は女性だぞ! そういう事を軽々しく言うな!」

(#´_ゝ`)「なんだシスコン! 姉者だってもう結婚してる大人の女なんだぞ! それぐらい知ってるだろうが!」

(´<_`#)「知らないからさっきああいう事言ってたんじゃないか! デリカシーのかけらも無いぞ!」

(#´_ゝ`)「うるさぎっ!! ……舌かんら」

(´<_` )「……もういい、怒る気力が急に失せた」

∬´_ゝ`)「ねー なんだったのさっきの話ー?」



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:56:03.88 ID:DWzc2uMMO
そんなくだらない事で言い争っていると、車は海へと降りて行く道に入って行った。

その道の入り口には、雨風に少しばかり塗装をけずられた
『この先石舘海水浴場 P30台』という看板が立っていた。

あれ?どこかで聞いた事があるような気がする。


ぐねぐねと曲がった坂道を、ガードレールに沿いながら車はゆっくりと降りて行く。
降りて行くごとに、だんだんと海が近づいてくるように見えた。
数件物置のような物が建っている道を抜けて、いつのまにか砂利道になった道路を相変わらず低速で走る。
上の道を走っている時には気づかなかった、そこにはこじんまりとした海水浴場があった。

けっしてとんでもなく広いという訳ではないが、特別ゴミが多かったりする訳でもない。
着替えをする建物だってあるし、温水が出るシャワーもあるという看板が出ている。



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:56:31.08 ID:DWzc2uMMO
これはポイントが高い。
コンクリートの壁で囲まれており、完璧に波はシャットアウトされている。こういう所なら小さな子供も安心だ。

俺の中では結構高評価を得ている海水浴場を、兄者が車内から一目見るなり叫びだした。


(;´_ゝ`)「うわぁぁぁあ!!」

(´<_`;)「いきなりなんだ兄者!」

(;´_ゝ`)「女の子がっ! 一人もいないっ!」

(´<_`;)「そんな事で叫びださないでくれよ……」



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 14:57:01.32 ID:IXQkzXts0
兄者に言われて、車の中から海岸を覗いてみる。
削られた丸い石や、割れて砕けた白い貝殻が散らばっている砂浜には、兄者が想像してたであろう
『きゃ〜 水かけないでよ〜♪』『早く私を捕まえて〜♪』な女の子は一人もいなかった。

いるのは、家族で来たと見られる、砂浜にレジャーシートを敷いて子供を見守る夫婦、砂で山を作る子供、
真っ黒に日焼けした体で、海の中をイルカのように跳ねる小学生男子が数人。

…当初兄者が張り切っていた理由は、本当に女の子目的だけだったらしい。この変態め!!


(;´_ゝ`)「そんな……そんな……」

(´<_`;)「兄者は何かショックな事があると、すぐにその体勢になるな。orzってやつ」

(;´_ゝ`)「これは俺にとって、悲しみを表す最大級の体勢なのだ!」

(´<_` )「車の中でその体勢をとられるととてつもなく邪魔なのでやめてほしいのだが」


車は無料駐車場に止め終わり、流れていた歌も冷房も消えた。
俺はorzの体勢のまま崩れそうな兄者を車から押し出し、俺も降りて外の空気を目一杯肺に入れた。

改めて辺りを見回してみる。目の前には輝く日本海。後ろには、崖の上に迫る山。
横は…けっこう綺麗な海の家が建っていた。家の軒先のような所には『氷』と書いてある布が垂れており、
家の前には『浮き輪空気入れ無料』という旗が潮風にはためいていた。だじゃれじゃないよ。

その他、軒先に吊るされたひもには巨大な物から小さな物まで浮き輪が通されている。
浮き輪だけでなくイルカやバナナのボート型浮き袋もある。品揃えは充実しているようだ。



105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:00:24.14 ID:IXQkzXts0
(´<_` )「う〜ん ずっと車に乗ってたから体が固まってしまった」

(;´_ゝ`)「あぢい」

∬´_ゝ`)「冷房が無くなったからそう思うだけでしょ。そのうち慣れるわよ」

∬´_ゝ`)「それよりこの辺アブ多いから噛まれないように気をつけてね」

(;´_ゝ`)「おわぁぁぁああっ!! でかいハチが襲って来た!!」

∬´_ゝ`)「って言った側から……それがアブ。ハチじゃないわ。動いてないと噛まれて血を舐められるわよ」

(´<_`;)「姉者、あの飛んでくる虫凄い怖いんだが」

∬´_ゝ`)「途中で思い出して虫除け持って来てよかった。使う?」

(´<_`;)「凄く助かる」

(;´_ゝ`)「あの……俺にも虫除け下さい……」


虫除けを肌に散布し、アブの猛攻から少しは守る事ができるようになった。
一安心してから砂浜に荷物を運び出す。小さな駐車場だし、砂浜も小さいので往復する距離はそんなに長くない。
レジャーシートをしいてその上に荷物を乗せて、やっと一息ついた。時刻は11時前。絶好の海水浴日和だ。

兄者は砂浜に到着するなりTシャツを脱ぎ、持って来た浮き輪を膨らまそうとしている。ちょっとせっかちすぎるだろ。
俺は日に焼けると肌が赤くなってぴりぴりするタイプの人間なので、姉者の鞄から日焼け止めを出そうとした。



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:03:14.42 ID:DWzc2uMMO
∬´_ゝ`)「ねー あんた達二人でさ、あそこの海の家行ってパラソル借りて来てほしいんだけど」

∬´_ゝ`)「ほら、この財布でかき氷とか買って来ていいからさ、頼むわよ」

(´<_` )「あの短距離なら姉者の足でも十分行けるだろ…」

∬´_ゝ`)「面倒なんだもん」

(;´_ゝ`)「ふぅーっふぅーっ はぁはぁっ ぶーっぶーっ げへっげへっ」

(´<_`;)「…兄者もさ、無理して浮き輪膨らませてないで、海の家行って空気入れてもらわないか?」

(;´_ゝ`)「はぁ…酸素が…… なんでそんな事知ってんだ?」

(´<_` )「さっき海の家の前車で通った時に看板が出てただろ」


兄者も、あの華奢な心臓をきしませてはかなげな息で浮き輪を膨らませるのは、無理だと判断したらしい。
微妙なサイズで止まったまま、膨らみかけの浮き輪を持って俺の後ろをついて来た。

俺は姉者から小さながま口を預かり、海の家へ向かった。
砂浜から出て細い道路一本挟んだ所に家はある。
外に展示された浮き輪を通り抜け、開いている海の家の中へ入る。
強烈な陽ざしの中からいきなり薄暗い場所に入ったので、しばらく前が見えなくなった。

数秒後、視界が開けて来たので、海の家の中の様子を見てみた。



107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:04:05.29 ID:IXQkzXts0
花柄のカバーがかけられた4人用テーブルが4つ、それぞれの机に、足がぐらついている紅色の丸椅子が4つずつ。
それと、従業員以外立ち入り禁止!と紙が貼ってある階段が、小さな共用トイレの脇から上へ伸びている。
その机達の置くには小さな厨房と、そのさらに奥にふすまがあり、畳の部屋が見えた
その部屋からは時々音が漏れてくるので、テレビがついているのだろうか。どうやら人はいるらしい。

俺は奥にいる誰かに向かって、大きな声で呼びかけた。


(´<_` )「すいませーん」

「はいはーい ちょっと待って下さいね!」

( ´_ゝ`)「むっ?」

(´<_` )「どうした兄者」

(*´_ゝ`)「あの声は……」



おわり



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