( ´_ゝ`) (´<_` )兄弟はぐだぐだとゆくようです

108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:05:11.85 ID:DWzc2uMMO



日に焼ける背中 のようです




109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:05:53.94 ID:IXQkzXts0
ノパ听) 「はいはいお待たせしました……!!」

ノパ听) 「……飛行機の兄弟さん!」

(*´_ゝ`)「……俺が兄者で、そっちのひょろいのが弟者です」

(´<_` )「兄者も同じ体系だろ。昨日ぶりですね、ヒートさん」

ノハ* ゚听) 「あやややや すいません! 名前覚えるの苦手なもので……」

(*´_ゝ`)「いえ、いいんですいいんです。覚えてる俺らの方が異常なんです」

(´<_` )(諦めていた女の子が出て来てからの兄者のテンションの上がりっぷりは異常)


奥の和室からぴょこんと人が飛び出して来たのは、昨日出会ったばかりの素直ヒートさんだった。
こんな所で出会えた事に正直驚きを隠せない。昨日そんな真面目に会話していなかったので、
ヒートさんが石舘に行くと言っていたのをすっかり忘れていたのだ。今思い出してもしょうがないが。

ヒートさんは俺たちの名前を覚えてなかった事を悪く思ったようで、頬を赤くして下を向いてもじもじしてしまった。
その仕草や、小柄な体系から滲み出る可愛さは一日経っても衰えていない。

……というか一日くらいじゃ衰えるはずも無いか。何を考えてるんだ俺は



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:07:49.97 ID:DWzc2uMMO
ノハ* ゚听) 「…客商売やってるのに覚えられないなんてだめですよね。所で、今日はなぜここに?」

(´<_` )「いや……俺はTシャツ来てるけど、水着姿の兄者を見てもらえれば……」

ノハ* ゚听) 「あっ!海水浴ですか! ですよね!水着で山とか登れないですもんね!」

(*´_ゝ`)「いえ、いいんですいいんです。これから海に入るのにTシャツ来てる弟者が悪いんです」

(´<_` )「なんで俺に責任を回す」

∬#´_ゝ`)「ちょっと あんたたち遅すぎ!」

( ´_ゝ`)「なんだ姉者か」



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:08:38.96 ID:IXQkzXts0
ノパ听) 「あっ!お姉ちゃんの友達!」

∬#´_ゝ`)「なんだとはなによ!って…ヒートちゃん? 何やってるのこんな所で。いつの間に帰って来たの?」


ヒートさんと再会を果たし、喋っていたらいつの間にか結構時間が経っていたようだ。
姉者がしびれを切らしてやってきた。気温のせいかご立腹なのか、顔が赤くなっている。
ヒートさんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になり姉者と仲良く喋り始めた。

ヒートさんと姉者の会話を聞いていると、どうやら知り合いのようだ。
っていうか家出る時に友達の所に行くって言っていたっけか。

だが、ヒートさんは『お姉ちゃんの友達』と言っているし……
姉者が会いに来たのはヒートさんではないのだろうか?



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:11:06.73 ID:DWzc2uMMO
ノパ听) 「昨日飛行機で帰って来たんです!お正月以来ですね!」

(´<_` )「なんだ姉者。ヒートさんと知り合いなのか?」

∬´_ゝ`)「知り合いも何も、あたしの友達の妹さんよ」

Σ( ´_ゝ`)「何っ、ヒートさんにはお姉さんもいるのか!」

ノパ凵K) 「お姉ちゃんなら今二階にいますよ! 呼びますか!?」

∬´_ゝ`)「あー、呼んでくれる?今日はお米持って来たのよ」

∬´_ゝ`)「しかもあの子の好きなあきたこまち。10kgもお土産に持って来たのよー」

ノパ凵K) 「あっ、わざわざありがとうございますっ! おねーちゃーん! お友達ー!!」



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:11:21.04 ID:IXQkzXts0
( ´_ゝ`)「……返事が無いですよ」

ノパ听) 「あれっ、おかしいなぁ……上でなんかやってると思ったんだけど」

∬´_ゝ`)「あの子神出鬼没だからねぇ。いつの間にか外に行ってたりするんじゃない?」

ノパ听) 「そうですかねぇ」


lw´‐ _( ´_ゝ`)(米好きのお姉さんってどんな人だろう)

lw´‐ _( ´_ゝ`) …

lw´‐ _(´く_` ) ?

シャッミΣ(;´_ゝ`)「ぎゃあっ!!」

(´<_` )「いきなり叫んでどうした兄者」


ヒートさんは階段の上に向かってお姉さんを呼ぶが、反応がない。

絶対にいるから、ちょっと待ってて下さい!と言ってヒートさんが階段を登って行ったのと、
兄者が急に叫んで硬直状態になったのは、ほぼ同時だった。

兄者が言うには、ヒートさんの目つきが悪くなったような少女が背中にぺったりとくっついていたらしい。
第一、兄者はもうTシャツは脱いでて上半身裸なんだから人がくっついたらすぐにわかるだろうと言ったのだが、
触られている感じもしなかったし、息づかいも感じなかったとの事。それじゃあまるで幽霊だ。



115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:14:03.92 ID:DWzc2uMMO
(´<_` )「流石だな兄者。怖い話が嫌いな俺に対する挑戦か」

(;´_ゝ`)「本当に誰か知らんがいたんだって!信じてくれって!!」

(´<_` )「いっつもそういう事言って、結局嘘だから始めから俺は信じないぞ」

(;´_ゝ`)「ひどいっ!」

(´<_` )「自業自得だ」


lw´‐ _‐ノv「そこの青年二人よ。踏み続けるなかれ」

(´<_` )「? 誰だか知りませんがこんにちは」

(;´_ゝ`)「あっ!その人!背中の人!」

(´<_`;)「えっ この人が今さっきの?」

lw´‐ _‐ノv「トェェイ」

∬´_ゝ`)「変なのは相変わらずね。シュール」

(;´_ゝ`)「姉者の言ってた友達って、この人…?」

lw´‐ _‐ノv「もち」



116: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:14:16.39 ID:IXQkzXts0
俺たちの目の前にいつの間にか現れた、謎の少女シュールさん。…というらしい。
ヒートさんと同じ位ちっこいが、姉というだけあって落ち着いている雰囲気が滲み出ている。
特別似ているという訳でもないが、言われれば納得する程度には似ているか。
白いワンピースに室内で麦わら帽子。後なんでこんな糞暑い日に手袋をしているのだろう。

それにしても…常に階段が見える位置に立っていたのだが、いつの間に兄者の背中に瞬間移動したのか?
だが流石は姉者というか、この人と親友というだけあるというか、
シュールさんの瞬間移動に何ら疑問を感じていないらしく、再会を喜び普通に会話をし始めた。


∬´_ゝ`)「ひさしぶり。米持って来たわよ」

Σ lw´‐ _‐ノv「米!? 米とな!? 早く頂戴な!」

∬´_ゝ`)「車に積みっぱなしだからちょっと待ってて。取ってくる」

lw´‐ _‐ノv「なるったけ早く! 彗星のごとく!」


ノパ听) 「それにしてもまたお姉ちゃんは瞬間移動してー!あじゃさん達びっくりしてるじゃんか!」

lw´‐ _‐ノv「…あじゃ? そこの棒二本?」



117: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:17:00.15 ID:DWzc2uMMO
(;´_ゝ`)「こここ こんにちは 流石兄者っていいます。そっちのなまっちろいのが弟者です」

(´<_` )「俺の紹介はまた酷い言い方だな」

lw´‐ _‐ノv「……ふーん 双子か」

lw´‐ _‐ノv「君たちよ。元は母の胎内で一つの細胞だった事を考えてみよ」

(;´_ゝ`)「へっ?」

lw´‐ _‐ノv「その細胞がわかれわかれて現世に二つ現れたと考えると、生命の神秘とはなんと素晴らしい物だろうか」

(´<_`;)「は…はぁ」

lw´‐ _‐ノv「そう固くなるなぃ!そういう男はヘソに塩を刷り込んで縮めてやろうか!」

(;´_ゝ`)『???』(´<_`;)

ノパ听)「お姉ちゃんの言動はあたしもよくわかんないから気にしないで下さいっ!」

lw´‐ _‐ノv「言葉には言霊が宿り、たわいない言葉でも世の中に大きな影響を与える」

lw´‐ _‐ノv「意味の無い言葉なんて無いという事だよ。諸君」



118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:17:12.14 ID:IXQkzXts0
(;´_ゝ`)「はあ。いや、別にいいんですけどね」

(´<_`;)「あっ、それよりパラソル借りに来たんです。それと浮き輪に空気を入れに……」

ノパ听)「あっ! パラソルですね! 今日一日で500円になります!」

lw´‐ _‐ノv「浮き輪にはヘリウムをサービスしよう」

(;´_ゝ`)「結構です」

lw#´‐ _‐ノv「! 君っ!結構というのは、相手によっては『YES』の意味にもとられるのだぞ!」

(;´_ゝ`)「ひぃっ! なんか知らないけどすいません!」

(´<_`;)(調子狂うなぁ)


どこかずれている言動をするシュールさん。
もしかして俺が理解出来ないだけで、何か深い意味があるのかもしれない。

小難しそうな会話が延々と始まる予感がしたので素早く話題を移し、
本来の目的であるパラソルの貸し出しと、浮き輪に空気を入れてもらえるように伝えた。

ヒートさんはちょこちょこと壁際に歩いてゆくと、部屋の中の片隅に立てかけられていた
傘の一つを持って来て、俺にわたしてくれた。
がま口から500円を取り出す。それと引き換えに綺麗に折り畳まれたパラソルを受け取ったが、結構重い。

兄者はシュールさんに導かれて、浮き輪に空気を入れるために家の裏手の方に行ったらしい。大丈夫なのだろうか?



119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:20:33.70 ID:IXQkzXts0
当然浮き輪を膨らますのよりパラソルを受け取る作業の方が断然に早い訳で、
しばらくしてから、俺はパラソルを持って海の家の前で兄者を待っていた。
立っているだけでもじりじりと真夏の太陽は俺をレアに焼き上げようとしてくる。早く戻って日焼け止めを塗らねば。

俺の体からあっという間に肉汁が湧き出て来るので、
額に浮いた肉汁を手で拭っていたら兄者が戻って来た。


(;´_ゝ`)「ひょー なんか緊張してしまった」

(´<_` )「まぁでも、ヘリウムじゃなくてちゃんとした空気を入れてもらえてよかったじゃないか」

( ´_ゝ`)「でも俺が空気入れてもらうの待ってる間、なんか変な事いっぱい言ってくるんだぞ」

(´<_` )「どんな?」

( ´_ゝ`)『浮き輪というのは世の成り立ちのすべてを表しビックバンに通ずる所がある』だとか」



120: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:22:05.69 ID:DWzc2uMMO
( ´_ゝ`)『泳げば泳ぐ程体がふやけているというは、母なる海の力を取り込みそして排出する流れである』とか」

(´<_`;)「……哲学的というかなんというか」

( ´_ゝ`)『水を敬い水を侮るなかれ。後ろの正面だあれ?後ろに正面なんて無い』とか」

(;´_ゝ`)「後なんか理解不能の言葉をぶつぶつと……女の子は好きだが、正直に言うとあの人は怖い」

(´<_` )「なにはともわれパラソルも借りれた事だし。夏休みを楽しもうではないか」


lw´‐ _‐ノv「ちょい」



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:22:36.05 ID:IXQkzXts0
パンパンに膨らんだ青い浮き輪とパラソルを持って砂浜に戻ろうとしたら、後ろから静かな口調で声をかけられた。
海の家の中に戻ったと思っていたシュールさんがそこに無表情で立っていた。なんか怖い。
シュールさんは足音をさせずに俺の前に近づいて来ると、ぴたりと立ち止まり俺を上目遣いで見上げてくる。


lw´‐ _‐ノv「ちょっと待て」

Σ(;´_ゝ`)ビクゥ

(´<_`;)「…はい?」

lw´‐ _‐ノv「皮の方は理解出来なかったみたいだから骨に言っておく」

(´<_`;)(今までに聞いた事が無い位酷い言い方だな)


lw´‐ _‐ノv「端的に言うと、骨皮達に嫌な感じが見える」

lw´‐ _‐ノv「この海水浴場から出た所には亡き者を祭る祭壇がある」



122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:24:00.22 ID:DWzc2uMMO
lw´‐ _‐ノv「もう時期冥府の入り口が開かれる。招かれざる物もこちらに来るだろう」

lw´‐ _‐ノv「ひたすらに向き合え。背後をとられるなかれ。その時が骨と皮の離れる時」

lw´‐ _‐ノv「地の底のさらに深く、水の底から、なりすまして連れに来る」

(´<_`;)「あの……何を言いたいのか俺にはさっぱり」

クワッ lw´ ゜д゜ノv「目で見るな!奥底で伺え!ついてゆくな!見えていないだけで側にいる!」

Σ(;´_ゝ`)『!?』(´<_`;)そ

lw´‐ _‐ノv「…それだけ。じゃっ」

lw´‐ _‐ノv「あと、海で泳ぐ際は用法容量を守って利用してね」



123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:25:42.33 ID:DWzc2uMMO
シュールさんは俺たちに向けて一方的に喋ると、また足音をさせずに海の家に戻って行ってしまった。
兄者の顔を見ると、顔に?マークが浮かんでいた。
多分俺の顔にも理解出来ないという表情が浮かんでいるだろう。

亡き者を祭る祭壇…は、多分祠かなんかの事だろう。
そこまではわかる。でも後半の言葉がまったくわからない…。

兄者に聞いてみると、浮き輪に空気を入れてもらっている時も同じ言葉を言われたらしい。


シュールさんもいなくなったので、やっと海に戻ろうとした時だ。
姉者が駐車場方面から、米袋を肩に担いで軽やかな足取りでこちらに向かって来た。
友達に会えて嬉しいのだろうか。スキップをしながら、汗一つかかずに笑顔を浮かべている。



124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:26:15.30 ID:IXQkzXts0
∬´_ゝ`)「あれ、あんた達まだ海に行ってなかったの?」

( ´_ゝ`)「姉者もよくそんな重そうな米袋をひょいひょいと運べるな」

∬´_ゝ`)「あたしね、瞬間的な筋力はあるのよ。でも体力無いからずっと動き続けるとすぐ疲れるの」

∬´_ゝ`)「だから米袋一つ運ぶくらい朝飯前なのよ」

(´<_`;)「そうなのか……じゃなくって、そうだ姉者。さっきシュールさんに変な事を言われたんだ」

∬´_ゝ`)「どんなこと?」

(´<_`;)「冥府の入り口がなんとかとか、厨ニ秒臭い事をつらつらと言われた」

∬´_ゝ`)「…あの子の言う事はよくわからないけど、そういう事言ってたんなら素直に聞いといた方がいいわ」

(;´_ゝ`)「なんで? あの人凄い怖いんだが」



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:29:03.53 ID:DWzc2uMMO
∬´_ゝ`)「……あの子の家系は恐山方面の血を引いてるらしくってね……。何代かに一人、先祖帰りを起こすらしいわ」

∬´_ゝ`)「で、その先祖帰りがシュールな訳。なんでも、少しばかり霊能力があるそうよ」

(;´_ゝ`)『ゴクリ……』(´<_`;)

∬´_ゝ`)「……うさんくせえとか言うと思ったら、結構信じ込んでるのね」

Σ(;´_ゝ`)「えっ 嘘!?」

∬´_ゝ`)「多分嘘じゃないわよ。本人がそう言ってたんだし」

(´<_`;)「尚更嘘とは思えないな」



126: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:32:25.88 ID:IXQkzXts0
∬´_ゝ`)「あの子あんまり嘘つくような子じゃないから本当だと思うわよ」

∬´_ゝ`)「…それに、何か海にトラウマがあるようだし、あの子から海の話なんて珍しいし」


姉者はそこまで言うと、真夏の陽ざしを避けるかのようにそそくさと海の家の中に入って行ってしまった。
海のトラウマ?溺れた事でもあるのだろうか。失礼だが運動は得意そうじゃ無いし。

とりあえず、俺たちもずっとここに立っていては日射病になるかもしれないと思い、
歩きながらシュールさんの言葉、姉者の言った事に対して考える事にした。

爽やかな砂浜と対照的に、俺の心はなんだか重い。



127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:38:57.18 ID:DWzc2uMMO
(´<_`;)「ときに兄者。兄者はさっきのシュールさんの言葉についてどう考える」

( ´_ゝ`)「何も考えない。俺はそんな人には会っていない」

(´<_`;)「真面目に考えてくれよ。あんな訳のわからない事言われて不安にならないのか?」

(;´_ゝ`)「…あれは凡人には理解出来ない言葉なんだよ。気にしないのが吉さ」

(´<_`;)「でも、もしなんかあったら怖いだろうが」

( ´_ゝ`)「今日はせっかく海に来たんだ。暗い考えは無しの方向で行こうじゃないか」

( ´_ゝ`)「それよりなにより弟者は心配性すぎるんだ。もっと楽観的になれ」



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:40:55.35 ID:IXQkzXts0
……確かに心配しすぎていたのかもしれない。兄者の言う通りだ。
こんな気持のいい日に陰気な気分に包まれていては、せっかくの海水浴も楽しめないって物だ。
足が焼けそな砂浜を、さくりさくりと踏みつけて。名も無き白い貝殻に、思いを馳せて海を見よう。

……実際は、磯臭い臭いを放つ海藻などが溜まっているだけなのだが。

荷物の脇にパラソルを突き立て、日陰を作った。こんな小さな日陰でも随分と体感温度が違うものだ。
横では兄者が腰に浮き輪をつけて準備運動をしている。必要だとは思うが、かけ声が大きいため少し恥ずかしい。

すっかり暖まった荷物を開けて、カルプスをくぴくぴと飲みながら日焼け止めを探し出す。



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:45:03.51 ID:DWzc2uMMO
(´<_` )「兄者、ちょっとこれを背中に塗ってくれ」

( ´_ゝ`)「なんだこれ。オイルか?」

(´<_` )「オイルな訳無いだろう。焼けたら皮膚がぴりぴりするから日焼け止めを塗るんだ」

( ´,_ゝ`)「ふっ…軟弱ものめ」

(´<_` )「兄者も塗らないと酷い目にあうぞ。いいのか?」

( ´_ゝ`)「俺はこの機会に真っ黒に日焼けして、おんにゃの子にモッテモテライフを送るのだ」

(´<_` )「…まあいいや、ほら、塗り終わったんなら返してくれ。腕に塗るから」

( ´_ゝ`)「ほれ、俺は一足先に海行くからな」

(´<_` )「あかめろになっても知らないぞ」


そう言って浮き輪を抱えて行ってしまった。イヤッホォォォォという声がだんだんと遠のいてゆく。


念入りに顔や腕に日焼け止めを塗り終わり、他に何か必要だったかと荷物を漁っていた時だ。
後ろからふいに声をかけられた……ヒートさんだ。

砂を踏む音が聞こえなかったので、気づかなかった。いつの間に後ろに立ったのだろう。



130: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:45:35.88 ID:IXQkzXts0
ノパ听)「こんちわっ!」

(´<_` )「あれ?ヒートさん店番はいいんですか?」

ノパ听)「はいっ!お姉ちゃんが、店番は任せて遊びに行って来てもいいって!」

ノパ听)「お姉ちゃんは友達と喋ってるし、あたし一人で泳ぐのもつまんないし」

ノパ听)「だから弟者さん達と一緒に泳ごうかと思って!いいですか!?」

(´<_` )「いいと思いますよ。それより…本当にその格好で泳ぐんですか?」

ノパ听)「えっ?何か変なんですか?」

(´<_`;)「えっ いや その 何でも無いです。 兄者ならもう海に行っちゃいましたよ」


どこか変かと聞かれて、動揺している俺の方が世間からずれているんだろう。多分兄者の影響だ。
…ヒートさんの格好は、スクール水着に淡いピンクのシャツを着た物だった。
大きい訳では無いが胸gいやいやいや何考えてるんだ俺は
とりあえずヒートさんから目を背け、ゴーグルを探す作業に戻る。



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:47:51.69 ID:DWzc2uMMO
……後ろからまだ気配を感じる。


ノパ听)


(;´_>`)「……」

(´<_`;)「あの、海に行かないんですか?」

ノパ听)「行きますよ? なんとなく背中を見ていたくって」

(´<_`;)「そうですか。……あ、ゴーグルあった」

ノパ听)「あっ、探し物ありましたか? じゃあ行きましょうよ!」



132: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:48:42.40 ID:IXQkzXts0
ヒートさんはそう言うと、ビーサンをぺたぺた言わせながら海へ走って行ってしまった。
…何を考えてるんだろう。もしかして全部計画的な行動なのか?
ああいう何を考えているのかわからない所は、シュールさん似なのだろう。多分

くせのある髪をふわふわさせながら去ってゆくヒートさんをしばらく眺めた後、
その背を追うように、ひからびた海藻などを踏んづけながら二人分のゴーグルを持って海へ向かう。
浮き輪に座った兄者と、海の中で立ち泳ぎをしているヒートさんが見えた。
ヒートさんのおでこには黒いゴーグルが装着されている。


(*´_ゝ`)「まさかヒートさんがそんな格好でやってくるとは!」

ノパ听)「? さっきも弟者さんに言われたんですよ。なんか変なんですか?」

(*´_ゝ`)「いえいえいえ、全然変じゃないですよ!」



134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:50:04.27 ID:DWzc2uMMO
(´<_` )「頬を赤らめるな」

(;´_ゝ`)「うわっ! いつの間に来たんだ」

(´<_` )「今さっきだ。ほら、ゴーグル」

(-◯_ゝ◯)『装着!』(◯<_◯-)

ノパ,听)

(;-◯_ゝ◯)「あっ! 今ヒートさん笑いましたね!」

ノハ* ゚,听) 「ぷっ……笑ってなんていませ…ぷひっ!」


ゴーグルを装着した姿を、ヒートさんに笑われてしまった。
口を手で押さえて笑顔を隠しているが、赤らめた頬と涙を浮かべた顔をみればそんな事はすぐわかる。
似合わなかった俺が悪い訳だが、少しショックだ。



135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:50:32.74 ID:IXQkzXts0
( ´_ゝ`)「と言う訳で見た目は元に戻りました」

(´<_` )「でもゴーグルはつけている状態なので海に潜る事は出来ます」

ノパ听)「誰に話してるんですか?」

(´<_` )「いや、何でも無いんです」

ノパ听)「それより、敬語で話し合うの堅苦しいから普通に話しましょうよ!」

ノパ听)「あたしの事も普通にヒートって呼んでいいから!」

(*´_ゝ`)「ひ ひ ひ ヒー…ト……うわぁぁあっ!」

(´<_` )「動揺しすぎだぞ」



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:53:31.90 ID:DWzc2uMMO
距離を置いて、他人という状態で女性と話す事は出来るのだが、
少しでも親しくなると途端にどもって話せなくなるのが兄者の弱点だ。

ヒートさんの名前を呼んだだけで、兄者は顔を真っ赤にして手で覆う。
その時にバランスを崩し、後ろ向けにひっくり返った。
兄者が着水した時の水しぶきが、俺たちに向けて大量に降り掛かってきた。


(´<_`;)「ぶわっ! しょっぱい!」

ノパ听)「もぉ〜 兄者さん水しぶき飛ばさないでよっ!」

(*´_ゝ`)「いやぁ…… それほどでも……」

(*´_ゝ`)(弟者! 弟者! いま絶対フラグが立ったぞ!)

(´<_`;)(うるさいっ! ヒートさんの前でそんな事を言うな!俺 まで変なやつだと思われる!)

(#´_ゝ`)(黙れっ! 弟者だってフラグの意味が分かる隠れオタのくせに!)

ノパ听)「?」

ノパ听)「まぁいいや! それより、あっちの壁まで競争しようよっ!」



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:54:03.19 ID:IXQkzXts0
ヒートさんはざぶんと潜ると、海水浴場を囲んでいる壁に向かって、高速で泳いで行ってしまった。
流石に水泳部に入っているだけはある。まるで人魚かイルカのようだ。壁まで数10mあるが一度も上に上がらない。
俺はしばらくその泳ぎに見とれていたが、兄者が黄色い声を出しながらヒートさんを追いかけて行くのを見たので、
俺も慌てて兄者についてゆく。といっても兄者は浮き輪に捕まりながらなので、そんなに速い泳ぎではない。

ざぶりざぶりと海水をかき分けて我流の泳ぎでついて行く。
空を飛ぶような、水に浮く感覚がとても楽しい。
俺が藤壷やよくわからない貝だらけの壁にたどり着くと、
すでにヒートさんは立ち上がり行きを整えている所だった。


ノハ* ゚听) 「ぷわーっ! 一番乗りっ!」

(*´_ゝ`)「ヒートさんやっぱり水泳部だけあって早いですねー」

ノハ* ゚听) 「いやいやそれほどでもっ! あるけどっ! あと敬語じゃなくいいってば!」

ノハ* ゚听) 「兄者さん浮き輪つけてるけど、泳ぐの苦手?教えてあげよっか?」

(*´_ゝ`)「そっか……じゃあ平泳ぎ見せてください!俺平泳ぎ苦手なんですよ!」

ノハ* ゚听) 「いいよっ! 平泳ぎってのはねー こうしっかり足を開いて……」

(#´_>`)⊃メ)´_ゝ`)グエァ

(´<_`#)「やらなくてもいいです。俺がかわりに兄者に教えておくから。ねぇ兄者?」

(;´_ゝ`)「やめてやめて! 溺れる!」



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:56:55.62 ID:DWzc2uMMO
ヒートさんの平泳ぎ大開脚をまじまじと見ようとした兄者の頭を海に沈める。
下からはがぼがぼと何か言う音と、大量の泡が浮かんで来たがそれを無視して30秒程沈めてやった。
ヒートさんはその様子を楽しそうに見ていたが、また潜ってどこかへ行ってしまった。

兄者を解放してから、ヒートさんと共に海水浴場内を泳ぎ回った。
海の中を覗いてみれば細い謎の海藻が大量に生えているだけで、色鮮やかな魚は余りいない。
時々兄者が足に海藻がまとわりついて悲鳴を上げるくらいで、海水浴場内はしごく静かな物だった。


そんなとき、壁の端の方に来たらトンネル状に穴が空いているのを見つけた。
どうやらそこは海水の出口のようで、俺たちのいる位置の海水浴場を挟んで反対側には取り入れ口があるらしい。

そのトンネル状の穴はくぐれなくもない大きさで、ゆるゆると海水が流れ出ている。
トンネルの向こう側には砂地ではなく、磯地帯が広がっているようだ。

興味はあるが、先ほどのシュールさんの言葉を思い出すと行く気が無くなった。



139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:57:18.61 ID:IXQkzXts0
( ´_ゝ`)「ふーん、あっちは磯があるみたいだな。あっちなら魚ももう少しいるかね?」

ノパ听)「あっちは魚がもっといるよ!ウニとかサザエもいたりするしっ!」

( ´_ゝ`)「ウニ……サザエ……うまいんだろうなぁ……」

ノパ听)「行ってみるー?漁協の関係で採る事は出来ないけど、泳ぐだけでも楽しいよっ!」

(´<_` )「…あっちって行って大丈夫なんですか?危なくないですか?」

ノパ听)「平気だよー!深い所って言っても2mあるかないか位だし!」

( ´_ゝ`)「ヒートさんがそう言ってるんなら大丈夫だろう。行ってみようじゃないか」

(´<_` )「う〜ん……」


ヒートさんがそのトンネルをくぐっていくと、兄者もそれについて行ってしまった。
俺だけ海水浴場の中で泳ぐのもつまらないし、もうここで泳ぐのは正直飽きて来ている。
しかしあっちに行くのには勇気がいる……。

だが結局は未知の場所への誘惑に負けて、俺もトンネルを抜けて兄者達について行く事にした。
頭をかがめて藤壷が張り付いているトンネルを抜けると、そこには黒い岩で出来た磯が広がっていた。



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:58:48.82 ID:DWzc2uMMO
今は潮が引いている状態なのであちこちに潮溜まりが出来ており、
中には色鮮やかなイソギンチャクや、砂場に生えていたのとは違う紅色の海藻が揺らめいている。
思わず見とれてしまうような魚も泳いでいたり、愛嬌のある顔をしたハゼの仲間なども大量に泳いでいた。

俺はその素晴らしい光景に見とれてしまい、先ほどシュールさんから言われた
怪しいアドバイスをあっという間に頭の片隅においやり、俺も磯で泳ぐ事にした。

シュールな言動をするあの人の事だ。
きっとあれだってシュールなだけで、意味の無い戯言のはずさ。


(´<_` )「おぉ…トンネル一つくぐるだけでこんなに違うのか」

(*´_ゝ`)「弟者ー! こっち来てみろ! 草ふぐがいるぞ! 可愛いぞ!」

ノハ* ゚听) 「はぁーっ! やっぱ深い所で泳いでる方がたのしぃーっ!」

(´<_` )「本当にヒートさんはイルカかなんかみたいに泳ぎ回るな……」

(*´_ゝ`)「弟者ー! ここ見てみろ!ルリスズメダイがいるぞ! 綺麗だぞ!」


(;´_ゝ`)「ギャッ! 漂流教室の虫がいる!」

(´<_` )「ただのフナムシだろ」



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 15:59:43.84 ID:IXQkzXts0
磯の上に乗って歩き回ったり、フナムシに悲鳴を上げる兄者を眺めたり、
かがみ込んで亀の手を剥がそうとしてみたり。
俺は余り泳ぐ気になれなかったので、余り行った事の無い物場所の感触を確かめるように、磯の上を歩き回っていた。

濡れた体を風が通り抜ける時に蒸発させて行くので、真夏の気温はさほど気にならない。
おまけにサンダルをはいているので、熱された鉄板のような岩の上も気にならない。

かんかん照りの午前を、ゆったりと過ごしていた時だ。
一際高い位置にある岩の上に、小さな祠を見つけた。
それと同時にシュールさんの行っていた言葉も思い出す。


『 lw´‐ _‐ノv「この海水浴場から出た所には亡き者を祭る祭壇がある」』



142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:03:40.15 ID:DWzc2uMMO
(´<_` )「……」

(´<_` )「あの、ヒートさん」

ノパ听)「何っ?」

(´<_` )「あの小島っていうか…あそこの岩の上の祠ってなんなんですか?」

ノパ凵K)「……あー、あれ?あれは漁に出る船乗り達の安全を祈るためにある祠だよ」

(´<_` )「あー そうなんですか」

ノパ听)「何? 気になるの?」

(´<_` )「いや、別にそう言う訳じゃ…」

ノパ听)「あんな物気にしてないで、もっと海で遊ぼうよ」



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:03:48.82 ID:IXQkzXts0
(*´_ゝ`)「弟者っ!こっち来てみろ!蟹がいるぞ!まずそうなの!」

(´<_` )「ちょっと兄者興奮しすぎてないか?日射病にでもなったか?」


ノパ听)「…それにしても、弟者さんの背中って大きいよね」」

(´<_` )「…?」

ノハ* ゚听) 「肩甲骨が浮き出て骨っぽいんだけど、広くてがっしりしててさぁ…」

ノハ* ゚听) 「あたし、弟者さんの方が兄者さんより好みだな」

(´<_`*)「なっ ヒートさん何を……」


ヒートさんに背を向けて、遠くの方で俺を呼ぶ兄者を見た時だ。
後ろから、胸の方に抱きついて来る両手があった。
か細い、少し日に焼けた手が俺の胸の位置に見える。

そのまま背中に胸が押し付けられる。…こんな所で一体何を……。
水着しか着ていないので、あれが反応したらとんでもなく恥ずかしい。
慌てて手を振り払い、一体何事かと振り返ると。そこにヒートさんはいなかった。

…俺が振り払った時に、後ろの海に落ちて沈んでしまったのか?しかし水音はしなかった。
…落ちるとか、そんな事ないか。また潜ってどこかへ行ってしまったのかもしれない。

まだ兄者が俺を呼んでいるので、今いる岩場から兄者の岩場まで向かおうと海へ入る。



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:07:29.43 ID:DWzc2uMMO
海に勢いよく入る。沈み込んだ時に足が少し触れる程度の深さ。
火照った体を海水が急激に冷やしたので、鳥肌がたってしまった。
だがそんな物にいちいち気を取られてなんていられない。兄者の元へ向かおうと深みを泳ぎだした時だ。

足にひやりと何かが触れた。この辺りに長い海藻は生えていないはずだが。
気にしないでまた泳ぎ始めた。…さっきたった鳥肌がなぜか消えない。

不思議に思いながら岩から岩の間にある深みを進んでいたら、ぎゅっと何かに足首を掴まれた。
海の中なので体温を感じにくいとは思うが、…この俺の足首を掴む手はまるで氷のように冷たい。
頭に危険信号が鳴り響く。この手はヤバい。即刻振り切らなければ。

足をばたつかせて脱出しようとするが、握る力は緩むばかりかどんどん強くなってゆく。


(´<_`;)「ぐっっ!! なんだ!」

(´<_`;)「兄者! 助けてくれっ! 兄者っ!!」


次第に足首に爪が食い込み始め、しかも海に引きずり込もうと下へ下へとひっぱられる。
どうにか掴まれていない方の足で手をけり飛ばそうとするが、なぜだか全く擦りもしない。当たらない。

最初は上半身が海面から出ていたのに、今では鼻の辺りがかろうじて
水面から出ている状態にまで引きずり込まれてしまった。
思いっきりもがき、どうにかして口を海面から出して兄者に助けを呼ぶ。

だが兄者は蟹を捕ろうとするのに夢中で俺の声に気づいていないらしい。



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:10:19.38 ID:IXQkzXts0
ついに体全部が海に飲み込まれてしまった。

足首を握りしめていた手はいつの間にか俺の腰の当たりに伸びて来ており、
しかも片手ではなく、両手で俺の下半身を抱きしめて引きずり込んでゆく。
…全力でもがいていたため、体力も無くなり口から酸素が漏れて行くのが見える。…

…ここってこんなに深かったっけ…

…俺…このまま死ぬのかな…

……意識が薄くなって来た。手だけではなく、何者かが俺に後ろから抱きついている感じがする……

……この手の感触は……ヒート…さん……?


( <_ ;)「……ガボッ……ゴボゴボ」

ノパ听)「あなたのような大きい背中って、あの人を思い出すんです」

ノハ ゚凵B) 「…この時期しか出て来れないから……また一年間一人で過ごすのは嫌だから……」

川 ゚々。) 「あの人の代わりなら……もう……誰でもいいから……」

川д川「あなたが死ねば、代わりにあの人が生き返る」

( <_  )「……」



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:09:37.29 ID:DWzc2uMMO
lw´‐ _‐ノv「…そこまでだ」

川д川「……なんで毎年毎年私の邪魔をするの?」

lw´‐ _‐ノv「…お前は悲しき女の末路。消すのを遠慮してやっているが」

lw´‐ _‐ノv「こう毎年人を襲うのならば、今年こそは消し去るぞ」

川д川「……あの人に会いたいだけなのに……」

川;д川「なんでいつもいつも邪魔ばかりするのよぉぉ!!」

lw´‐ _‐ノv「……」


意識がもうなくなったと思っていたら、俺は何も見えない暗闇にいた。
もう肺に酸素は残っていないはず。体力も無くなったはず。……ここはあの世への入り口だろうか。
細かい状況確認を出来ない脳味噌をかかえながら、ぼんやりと前を見てみると。
シュールさんと、見知らぬ女性が対峙していた。

シュールさんは海の家で有った格好のまま。女性の方は、薄いピンク色のワンピースに腰程もありそうな黒髪。
顔はよく見えないし何を話しているのかもわからない。ここからでは近づく事も出来ないようだ。
前髪の隙間からちらりと見えた瞳は、どんよりとした目でシュールさんを睨みつけている。

俺は黙ってシュールさんと女性の様子を眺める事にした。というか動く事も出来ないのでそれしかできない。



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:11:44.87 ID:DWzc2uMMO
(´<_`;)「……あれは…シュールさんと…誰だ?」


lw´‐ _‐ノv「……」

lw´‐ _‐ノv「しかも妹の姿に変化して殺そうとするとは」

lw´‐ _‐ノv「…仕方が無いが、今年こそは強制的に成仏させてやる」

lw´‐ _‐ノv「……いでよ……」

lw´‐ _‐ノv「米の手っ!!」

川д川「……!!」

川д川「また…それを出すなんて…」

川д川「いつかわかってくれると思ってたのに……」



148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:12:43.13 ID:IXQkzXts0
そんな疑問が頭を駆けて行ったが、次にシュールさんの取った行動に驚きあっという間にその疑問は忘れてしまった。
シュールさんはその米を強く握りしめると、女性に思い切りぶつけ始めたのだ。
手からは無限に米が湧き出てくるようで、投げ終わった後もきゅっと握ればまたそこに米が出て来ていた。

目の前では随分とシュールな光景が広がっているのだが、
女性がその米を食らって苦しんでいる所が、余計シュールさを醸し出している。


lw#´‐ _‐ノvoミ∵「ていっ! 南無っ! 成仏っ!」

川Д゚川「ギャアアアアアアッ!!」

lw#´‐ _‐ノvoミ∵「南無っ! 南無っ!」

川;д;川「いたいぃぃぃぃ」

lw#´‐ _‐ノvoミ∵「これで終わりだっ!」

(´<_`;)「っ!!」



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:15:33.50 ID:DWzc2uMMO
シュールさんがより一層米を強く握りしめると、米がまた強く光り輝きだした。
握りしめた指の隙間から筋状の光が溢れ、手がゆっくりと開かれる。

そこには淡く輝く丸い玉ができていた。米が固められたのなら、あれはおにぎりなのだろうか?
シュールさんはその玉を頭上に掲げ、大きく足をあげ、振りかぶって女性に向かって投げつけようとした。


(´<_`;)「やめろっ!」


思わず俺は大声をあげてシュールさんを止めた。
シュールさんはこちらをちらりと見ると、あげていた手を下げてくれた。
だが、まだ手には玉が握られている。

なぜ止めようとしたのかわからない。だが気づいていたら俺は大声をあげていた。それだけだ。

…それだけのはずだ。


lw´‐ _‐ノv「何。悪霊は退治せねばならぬ」

(´<_`;)「そんな強制的にやっつけるんじゃなくて、もっと穏便に解決出来ないんですか?」



150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:16:16.30 ID:IXQkzXts0
川д川「……」

lw´‐ _‐ノv「…穏便に解決も出来るが」

lw´‐ _‐ノv「そのためには彼女がこの世の未練を綺麗サッパリ無くさなければいけない」

lw´‐ _‐ノv「だが彼女はすでに半分程悪霊化している」

lw´‐ _‐ノv「もう、聞き耳は持たない。持ってくれない」

(´<_`;)「でも元は人間です。彼氏に会いたいという『愛』という感情があるから、」

(´<_`;)「今も霊としてここにとどまっているのでしょう?」

(´<_`;)「まだ感情があるなら、それは人間です。話し合う事も出来るはずです」

川д川「……」



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:17:35.19 ID:DWzc2uMMO
lw´‐ _‐ノv「…彼女は彼に先立たれた悲しみで、彼を追ってこの海に身を投げた。
そしてどこで吹き込まれたか、自分で思いついたのかはわからないが、
いつの間にか、『男を殺せば代わりに彼が生き返る』と思い込んで人を襲うようになった」

lw´‐ _‐ノv「最初はただ足をひっぱるだけだった。まだ人間としての感情があった。
彼を生き返らせたいが、人を殺す事は、他人の大事な人を奪う事にためらいがあったのだ」

lw´‐ _‐ノv「…だが今回、彼女は本気で君を殺そうとした」

lw´‐ _‐ノv「悪霊になり、当初の目的の『男を沈める』という本能だけが残ってしまったのだろうか」

lw´‐ _‐ノv「いつか自分で、もうどうしようもできないという事に気づいて成仏してほしかったのだが」

lw´‐ _‐ノv「もう手遅れらしい。理性が無くなれば、それは元人間と言えどただの化け物だ」

lw´‐ _‐ノv「そんな悲しき霊を、成仏させないでおく理由がどこにある」

(´<_`;)「だけど……」

川д川「………」

lw´‐ _‐ノv「それにこの責任は私にもある」



152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:19:17.25 ID:IXQkzXts0
常に無表情のシュールさんの顔が、少し歪んだように見えた。

女性の方は怒鳴るのをやめて、黙っている。
何かを考えるかのように、両手を頭に当てて弱々しく頭を振りながら。
そして時々頭を振るのをやめて、下を向いて黙り込んでしまう。
その時に俺の方を悲しげな瞳で見つめてきて、前髪の隙間から淡く輝く瞳が見えた。

シュールさんは下げていた手を再度頭上にあげ、きっと前を見据えて女性を睨みつけた。
そして輝く玉を、思い切り女性に向かって投げつける。


lw´‐ _‐ノv彡゜「…成仏!」

lw#´‐ _‐ノvo=○「米玉っ」

川д川「……!」

川д川「…私…もう…」

川д:.:..「…悪霊になってたんだ…」

川:∵':.:..「……でも…こうやって最後に成仏出来てよかったと思う……」

…:∵':.:..「……ごめんね……」

゜∵'°。.:+「……シュール…」



153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:20:02.86 ID:DWzc2uMMO
lw´‐ _‐ノv「……」

lw´‐ _‐ノv「…骨」

(´<_`;)「!」

lw´‐ _‐ノv「戻りなさい。君を待つ者達がいる」

(´<_`;)「…あ、動ける」

lw´‐ _‐ノv「今は暗闇だが、その内君の意識が戻ればこの世界も崩壊する。その前に私は帰るとしよう」

(´<_`;)「あ、あの ちょっと待って下さい」

lw´‐ _‐ノv「なに」

(´<_`;)「あの…さっきの人は、なんで俺を襲ったんですか?」


俺がこんな事をシュールさんに聞いたのは、理由があった。
さっきの…あの女性がヒートさんだった時に言った、俺への好意の言葉が気になったのだ。

きっとあれはただの罠だったのかもしれない。だが、もしかしたら本心だったのかも。
それと、最後にこちらを見ていた瞳も気になった。潤んでいて…どこか懐かしそうな瞳。
彼女が死者だというのなら、その道に詳しいシュールさんに聞いた方がわかるかと思って。



154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:20:26.15 ID:IXQkzXts0
lw´‐ _‐ノv「…君たち兄弟は、彼女の死んだ彼氏に似ていた」

lw´‐ _‐ノv「糸目、高い鼻、細い体」

lw´‐ _‐ノv「彼女は本気で君殺そうとしたが、まだ少しわずかながらためらいが感じられた」

lw´‐ _‐ノv「それは、君が見た目だけでなく性格も彼に似てたから」

lw´‐ _‐ノv「君が似すぎていたから殺そうと本気になったし、それと同時にためらいも出たのだろう」

lw´‐ _‐ノv「それだけ」

(´<_`;)「……」

(´<_`;)「あの…なんでシュールさんはそんなに詳しいんですか?」



155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:22:45.95 ID:DWzc2uMMO
lw´‐ _‐ノv「私は彼女の友人だった」

lw´‐ _‐ノv「彼が死んで、自殺をする所まで思い詰めていた彼女の決意を変えさせる事が出来なかったから」

lw´‐ _‐ノv「あの時の私の力が。言葉が。彼女の心に届かなかったから」

lw´‐ _‐ノv「だからせめて私の手で彼女を成仏させてやろうと思っていた。……いつか絶対に」

(´<_`;)「……シュールさんの海のトラウマって……」

lw´‐ _‐ノv「引き上げられた友人の彼と、友人の水死体を見た事」

lw´‐ _‐ノv「夏の海を見ると、台風にさらわれた彼と、死んだ友人を思い出すから」

lw´‐ _‐ノv「だから私は。夏は一切海に近づかない」

lw´‐ _‐ノv「…少し話しすぎてしまったな。すまない」

lw´‐ _‐ノv「さぁ、帰ろう」







157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:23:38.96 ID:IXQkzXts0




(´<_` )「………?…ここは……」

(;´_ゝ`)「…弟者! ……起きたか……よかった……」

∬;_ゝ;)「弟者! 大丈夫!?」


俺が目覚めるなり、首元に兄者が抱きついて来た。
普段なら暴言を吐いて吹っ飛ばす所だが、今回は黙って抱きつかれている事にする。

隣では、俺のでこに置くようだったのだろうか、濡れタオルを握りしめながら姉者がほろほろと涙を流していた。
俺自体は体に何の異常も感じられないため、この状況に少しどぎまぎしている。


落ち着いて来た所で辺りを見回すと、小さなテレビとちゃぶ台、古ぼけた桐だんす、
そしてふすまの隙間からは海の家の店内が見えた。
どうやらここは、海の家の休憩所らしい。俺の下にはふかふかの布団が敷かれている。

そんなとき、天井付近からどかんどかんと言う音がしたかと思うと、勢いよくふすまが開いた。
血の気の引いた顔のヒートさん。手には救急箱が握られていた。



158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:24:59.25 ID:DWzc2uMMO
ノハ; ゚听) 「おじゃさんが目覚めてる! 大丈夫でしたか!? 後遺症は!?」

(´<_`;)「落ち着いてヒートさん。まず救急箱を振り回すのをやめて下さい」

ノハ; ゚听) 「すいません!」

(´<_`;)「それより俺は何でこんな所に……」

(;´_ゝ`)「……お前、本当に覚えてないのか?」

(;´_ゝ`)「俺が蟹探してたら弟者がいつの間にかいなくなってて、
どうせどこらへんにいるんだろうと思って詳しく探さないでいたらいつまでも出てこないし」

(;´_ゝ`)「それで本格的に探し始めたら、岩場から20m程沖に行った辺りにお前が浮いてたんだ」

ノハ; ゚听) 「大変だったんですよ!水一杯飲んでるみたいだったし、体中に傷はあるし」

(´<_`*)「水を飲んでたって事は……人工呼吸も?」

(*´_ゝ`)



159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:26:28.83 ID:IXQkzXts0
(´<_`;)「……まぁ、人工呼吸についてはもう言わない事にしておきます。はい」

∬;´_ゝ`)「それで海の家に運び込んだら、シュールがあんたのおでこに手を置いてなんかしだして」

∬´_ゝ`)「それから数分したら目覚めたって訳。それにしても本当によかった…助かって」

(´<_`;)「そうだ! シュールさん!」

(;´_ゝ`)「おぉ、あの人が助けてくれたんだからお礼くらいは言っておけ」

lw´‐ _‐ノv「YAHOO!」

Σ(;´_ゝ`)(また瞬間移動した!)

(´<_`;)「あ、シュールさん。助かりました本当にありがとうございます」

lw´‐ _‐ノv「なぁに、ビッチだって魚心くらいは持っておじゃるよ」

(´<_`;)「?」

lw´‐ _‐ノv「我慢汁に桜の樹液を混ぜて瞬間接着剤として売れば高利益をたたき出せるはず」


いつの間にかまた瞬間移動していたシュールさん。
だがなんだか様子がおかしい…シュール、哲学的を通り越して変だ。脈絡のない言葉を呟いている。
……友人を成仏させた事で気がおかしくなったとか?…そんな事でおかしくなるような人ではないと思うのだが。
しばらく意味不明の言葉を叫んだ後、ふと目を離した隙に
シュールさんは唐突に現れたと思ったら、また唐突に消えてしまった。



160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:27:58.04 ID:DWzc2uMMO
(;´_ゝ`)「……。なんかさっきより変になってないか?」

ノパ听) 「…なんか、超能力?を使うとしばらくああなるんです」

ノハ; ゚听) 「友達が死んじゃう前はあんな事無かったんですけど」

∬´_ゝ`)「友達が死んだ事なんてあるの?初耳だわ」

ノパ听) 「数年前に、海で死んじゃったんですよ」

ノパ听) 「それまでは普通…というか変な言動は余り無かったんですが」

ノパ听) 「それを区切りに、喋る事が私にはわからない事が多くなって来て…」

(´<_` )(…さっき言ってた事か)


だがさっきの場所…どこだかわからないが暗闇では、シュールさんは流暢に話してくれた。
あれはシュールさんの精神世界とリンクしていたのだろうか。あの時は変な言動は無かった。

俺の推測だが、心と口の間に友達の死という理由で、変なフィルターが出来てしまって、
それのせいで思っている事を素直に言えなくなってしまい、
ああいう変な言動で誤摩化すようになってしまったのだろう。

心の中では、本当はシュールさんは素直なんだ。きっと



162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:28:29.93 ID:IXQkzXts0
∬´_ゝ`)「まぁ、本当に生きててよかったわ。今日は弟者の大事を取ってもう帰る事にするわね」

ノパ听) 「また落ち着いたらいつでも来て下さい!」

( ´_ゝ`)「そうだな…死にかけたんだもんな。弟者、三途の川とかは見れたか?」

(´<_` )「…シュールさんに会ったぞ」

( ´_ゝ`)「まてまて、それは脱衣婆だ」

(´<_` )「本当にシュールさんだったぞ。米を投げてた」

( ´_ゝ`)「…シュールさんに影響されて、どこかおかしくなったか?」

(´<_` )「…いや、あの人は変な人じゃない。素直になれないだけなのさ」

( ´_ゝ`)「?」

(´<_` )「きっと……」



164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:29:51.12 ID:DWzc2uMMO
まだ1時過ぎだったが、俺の体調を見て帰る事にしたらしい。
俺はもう大丈夫だと言ったのだが、一度溺れた人間からそんな事を言われても信用出来ないのはわかっている。
姉者は怖い顔で俺を睨み、また海に戻す事は出来ないと言われた。
兄者も姉者に怒られていた。双子とはいえ、弟をよく見ていないのは兄としてどうしたものか。と。

荷物をまとめて車に運び、パラソルを海の家に返しに行った。
ヒートさんは赤くなった目で、俺の方を見てにっこりと別れの挨拶を言ってくれて、

和室の方からは、シュールさんが無言で手を振ってくれていた。もう元に戻ったのだろうか。


(´<_` )「お騒がせしました。また会う時までお元気で」

ノパ听) 「本当に助かってよかったです!…本当に」

lw´‐ _‐ノvノシ



165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:30:33.83 ID:IXQkzXts0
(´<_` )「シュールさん……色々とお世話になりました」

(´<_` )「それでは」

lw´‐ _‐ノv「まち」

(´<_` )「?」

lw´‐ _‐ノv「待ち人来る」

(´<_` )「…? 何の事かわかりませんが、参考にしておきます」


駐車場に戻り、すでに二人とも乗り込んでいる車に俺も乗り込む。
外を見るとまだまだ太陽は輝いていて、遠くの道路には陽炎が見えている。
当たり前か、まだ2時だ。帰宅予定4時より2時間も早く帰るのは予想外だった。

そのまま車は坂道を上り、さっきまで泳いでいた海がだんだんと低い位置へ降りて行く。
それと同時に遠く、地平線の彼方まで見えるような青い地面が広がってきた。



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:32:27.55 ID:DWzc2uMMO
なぜか、なんとも言えない喪失感に包まれながら窓を開けた。
海岸沿いの道路を走り、行きに見た売店などを戻ってゆく。
海岸沿いから山道に入った時だ。

何の気無しに山の落石防止ネットを眺めていたり、秋田杉の隙間に忍者を走らせていたら、人を見つけた。
人を見つけたなんてもんじゃない。人が倒れている。ぼろぼろの姿で。


(´<_` )「…ん?」

(´<_` )「…姉者。人が倒れてる」

∬´_ゝ`)「何?」

(´<_`;)「…人!人だって!人が倒れてたんだって!」

(´<_`;)「後続車もいないし対向車もいない。助けられるのは俺たちの車だけだ」

∬´_ゝ`)「つまりは助けろって事でしょ。あたしだって鬼じゃないもの」


そう言うと車は空き地でUターンし、通り過ぎてしまった人の位置までもどってきた。
人は格好も何も変わっておらず、というか1cmも動いていない訳で。
もしかして俺は、死体を見つけてしまったのかもしれない。

車から降りて、ヤブに倒れ込んでいる人におそるおそる近づいて…見たい所だが勇気が出ない。



167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:32:32.83 ID:IXQkzXts0
∬;´_ゝ`)「あたしいつでも車出せるように待ってるから、あんた達で見て来てよ」

(´<_`;)「兄者、俺がああいうホラー系駄目なの知ってるよな。と言う訳で兄者が近づいてくれよ」

(;´_ゝ`)「ついさっき死者の世界を覗いて来たばかりだろ。弟者行け」

(´<_`;)「さっきまで死にかけてた人間にそんな事をやらせるのか!」

(;´_ゝ`)「……わかったよ! 俺が行けばいいんだろばか!」


(;´_ゝ`)「ちょっと……生きてますか……」

('A`)

(;´_ゝ`)「あぁ……こりゃ駄目だ。死人の顔してる」

(´<_`;)「そうだな。もう顔に生気が無い」

('A`)「……」

(;´_ゝ`)「ひぁあっ!! 動いたっ!!」

('A`)「……めし」

(´<_`;)「まだ生きてる! とりあえず家に運んで快方しよう」



169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:34:31.85 ID:DWzc2uMMO
もうとうに死んだ人間だと思っていたが、まだ生きていたらしい。
慌てて二人で男を担ぎ上げ車に乗せる。服が所々やぶけ、
泥だらけで体はとても臭い。どんな所を歩いて来たのだろう。

でもこんな所でこんな男と会うのも、何かの縁かもしれない。それにさっきのシュールさんの言葉も気になる。
姉者は人の命がかかっているというのに車がアンモニア臭くなるだとか文句を言っていたが、
超特急で家に帰ってくれた。家に担ぎ込み、男を床に敷いたタオルの上に横たわせてやる。


∬;´_ゝ`)「できれば早く快方させてやってね。お風呂に入れさせたいから」

(´<_`;)「おい、あんた生きてるか?」

(;´_ゝ`)⊃△「さっき話してたじゃないか。ほら、握り飯持って来たぞ」

シュバッ('A`)ミo△



170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/19(土) 16:34:38.54 ID:IXQkzXts0
男は恐るべき早さで握り飯を奪い取り、米をまき散らしながら凄まじい勢いで食べ始めた。
見る側としてはとんでもなく不快な気持にさせられる食べ方だ。


(;'A`)「ハムっはふはふっ はむっ!!」

(;´_ゝ`)『食い方キモス』(´<_`;)

(*'∀`)プハァ

(;´_ゝ`)「…もう大丈夫か?あんたの名前は?」

('A`)「…ドクオ」



おわり



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