( ´_ゝ`) (´<_` )兄弟はぐだぐだとゆくようです
- 156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:13:48.02 ID:PwX5P/6BO
山、川、美府の村 のようです
- 157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:14:46.61 ID:RcI35+5/0
- ( ^ω^)「ぶんがどんがぶんがどん♪」
('A`)「……」
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「……」
秋田に来てから四日目の午前11時。
今俺たちは、内藤さんが乗って来た白いバンの後ろで揺られている。
助手席にドクオ、後部座席に兄者と俺、さらに後ろのスペースには、
ツチノコ捕獲道具と、俺たちの荷物と、内藤さん個人の荷物。
内藤さんの荷物は何が入っているのか知らないが、
車が揺れる度にかちかちと金属片がぶつかりあうような音を出している。
その他、仕事に使うのだろうか。メジャーや小さな糸鋸などが無造作におかれていて、
木屑混じりのホコリを追い出すために、俺は窓を開けて、なんとなく外を眺めていた。
- 158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:18:29.76 ID:RcI35+5/0
- 内藤さんが家に来たのは、10時半くらいだっただろうか。
今朝の10時に来る約束だったので、早くから兄者とドクオを叩き起こして荷物の整理をさせ、
忘れずにあのノートも持ち、テント網ねずみ取りその他なんかよくわからない物達を玄関に集結させ、
準備万端で内藤さんを待っていた。
オレンジのポロシャツに半ズボンという、この前見た服と色が違うだけの格好で、
内藤さんは颯爽とバンに乗ってやって来た。もう二日酔いは残っていないらしい。
( ^ω^)「おいすー! 荷物はまとめたかお? どうやら準備万端みたいだNE!」
ドアを思い切りスライドさせて車から降りると、玄関にまとめてある荷物を肩に担いで、
ひょいひょいとあっという間にバンに詰め込んでしまった。贅肉だけでなく筋肉もあるようだ。
荷物を積み終え、内藤さんは運転席に戻る。
俺たちも後ろに乗り、玄関前に心配そうな顔で立っている姉者を見た。
隣で神妙な顔をして黙っている義兄さんは、少し怖い。
- 159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:20:57.86 ID:RcI35+5/0
- ∬´_ゝ`)「変な事したら遠慮無くひっぱたいてやって下さいね」
(`・ω・´)「気をつけるんだよ。ツチノコには噛まれないようにね。山はちゃんとベテランと一緒に入るんだよ。それと…」
( ^ω^)「あー! シャキンは心配しすぎなんだお!」
( ^ω^)「三人とももう高ニだお? 一人でもなんとかやっていける年だお!」
(`・ω・´)「それもそうなんだけどね。君の管理下に移されると思うと余計心配で」
( ^ω^)「失礼なやつだお!」
失礼だ と言いながらも、内藤さんは妙な笑い声をあげながら、義兄さんの腕をびしびしと叩く。
少し痛かったようで、うっすら赤くなった腕をさすりながらシャキンさんは俺たちに話しかけて来た。
(`・ω・´)「内藤よりも君たちの方が信用出来るからね」
(`・ω・´)「自分で判断出来る年だとは思うけど、出来る事と出来ない事をちゃんと見極めて行動しなさい」
────── ──── ──
- 160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:23:00.06 ID:RcI35+5/0
- ── ──── ──────
そんなこんなで、俺たちを乗せたバンは午前の太陽をギラギラと反射させながら
東北自動車道を北上している。
東京の高速道路なのに高速で走れない状態とは違い、
すれ違う車は少なく、前の方に見えるのはまっっすぐに伸びる、輝く道路だけ。
内藤さんは最初FMラジオから流れる流行歌を聴いていたが、
しばらくしてからこんなちゃらい音楽は性に合わないと言って、
運転席と助手席の間にある小さなスペースにめちゃめちゃに重なっているカセットから
一枚を取り出し、慣れた手つきでレコーダーに挿入すると、流れ出る音楽に合わせて歌い始めた。
(*^ω^)「ツ ン に 胸キュン♪ 浮気な夏が 僕の肩に 手をかけて♪」
('A`)「何の歌ですかそれ……」
(*^ω^)「ツンに胸キュン〜浮気なバカンス〜 だお!」
(´<_` )「ふーん」
一曲全部替え歌で歌いきると満足したのか、カセットを入れ替えて別の曲をかける。
あんな歌、こんな歌。どれも昔流行した物ばかり。
昔のヒットソングを特集した番組などで時々耳にする曲が多い。
- 162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:26:55.39 ID:PwX5P/6BO
- ( ^ω^)「ハァ テレビも無エ ラジオも無エ 車もそれほど走って無エ♪……」
美府という所は、結構な山奥にある村らしい。
本当に、あの内藤さんの歌のようにテレビが無いのかもしれない。
だって田代からそんなに離れていないと思うこの位置で、もう余り他の車を見かけないのだから。
少し行っただけで、これだけ文明から隔離されたようになってるんだ。
もしかしたら村には何も無いんじゃないか。
(´<_` )「そういえば、内藤さんって田代で働いているんですよね?」
( ^ω^)「そうだお!」
(´<_` )「田代で働いてて、義兄さんと友達で…。それで、なんでお母さんは美府にいるんですか?」
( ^ω^)「元々は田代に住んでたんだけど、僕が中学の時に美府に引っ越す事になったんだお」
( ^ω^)「だからあっちにも僕の友達がいるんだお。ツチノコの事も聞いてみるといいお」
(*^ω^)「あー それにしても美府に帰るのは何ヶ月ぶりだろう!」
- 163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:29:34.73 ID:PwX5P/6BO
- ハンドルを指で叩いてリズムを取りながら、内藤さんは弾んだ声で返事を返した。
どんな年齢になっても親に会うのは楽しみなんだろうな。普通は。
俺も母者から離れたら会いたくなってくるのだろうか。
……。 いや、ここで悩む事が間違っている。
どっかりと背もたれに倒れ込み、また窓の外を眺め始める。
反射板が一定間隔で流れて行き、ガードレールはどこまでも道路を紡ぎ続けていた。
高速道路はいくつもの山をまたぎ、平地を抜け、また山に入るのを繰り返している。
ガードレールの向こうには時々雪よけの大きな壁が出て来て、
そこを抜けると青々と茂る田んぼがどこまでも続いているのが見える。
午前の強烈な日差しを時々雲が遮るのだが、その雲の影が田んぼの上を流れて行くのを見るのは、
普段見慣れない物だからなのか、ただ無心で空を眺めるよりも、楽しかった。
- 164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:29:58.69 ID:RcI35+5/0
- (;´_ゝ`)「はー 後どれくらいですかー?」
( ^ω^)「出発したのが10時だったかお? 今が11時回った所で……。後2時間くらいだおね!」
( ^ω^)「後ろで寝ててくれても構わないお」
( ´_ゝ`)「いやー昨日早く寝たおかげであんまり眠くないんですよね」
( ^ω^)「んー なら、僕の秘蔵のサラミでも食べるかお?」
助手席の引き出しから慣れた手つきで内藤さんはサラミを出した。
冷房の効いてない車内に一体どれだけの間放置されていたのだろう。
すっかり油分が無くなっていた。
ここに常備してあるのだろうか。賞味期限とか大丈夫なのか?
- 165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:31:43.88 ID:RcI35+5/0
- (;´_ゝ`)「いえ、いりません」
('A`)「……俺もいらないです」
(´<_` )「俺も結構です」
( ^ω^)「そうかお。実はあげちゃうと僕が食べる分無くなっちゃうから、断ってくれてよかったお」
子供のおやつ争いレベル並みにケチなので、内藤さんの精神年齢を疑いたくなる。
田んぼのど真ん中を通っていた高速道路はいつの間にかまた山間を縫うように進み始めていて、
時々あるパーキングエリアにはババヘラがいて、内藤さんにアイスを買ってもらったりした。
車の中で垂らさないようにそのシャーベット状の感触を楽しむ。美味しい。
車は高速を降り、小さな集落のこれまた小さな道路を塀にぶつからないように進んで行く。
ここが美府なのかと思いながら外の家々を眺めていたが、集落を抜けるとまた山道に入り、
山道から古いトンネルへ入り、本格的な山道を進みだす。
秋田杉が整列している所を抜けた後は、本当に山の中といった感じで、
杉以外にも名もわからない木々がその葉で空を覆い、道路以外の地面には
わずかしか太陽の光は差し込んでいない。鬱蒼とした山林地帯だ。
そこからさらに一時間程。獣に注意という標識や、落石マークの標識に少しばかり興奮しながら
車内で兄者とドクオとダベっていると、山道は舗装されていない道になり、
そこからさらに先。おおよそ一時間ぶりに、民家を発見する事となった。
- 167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:35:09.61 ID:PwX5P/6BO
- 車は一件の茅葺き屋根の家の前で停車した。
小さな石垣の上にはマサキの木が分厚く壁を作り、二話は見えないようになっている。
マサキの上の方を見上げると、綺麗に整えられた茅葺きの屋根が日差しを吸い込んでいるのが見えた。
車の中は入り込む風が無くなった事で、だんだんと生温くなって来た。
そろそろ降りなくてはならない。ずっと座りっぱなしだったので体が固まってしまい、
伸びをしていると内藤さんの大きな声が鼓膜を震わせた。
( ^ω^)「おぉーい! もうついたんだからさっさと車から降りて荷物降ろすの手伝ってくれお!」
同時に後ろのドアが開け放たれ、ホコリっぽい空気が一気に抜けていく。
それと入れ替わりに、風が通り抜ける音と風鈴の音が静かに車内に入って来た。
- 168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:38:11.07 ID:PwX5P/6BO
- ドアを開け、車から降りる。
太陽の目くらましを食らいながら、辺りを見渡す。
今まで一度も来た事が無い、自然に溢れた美府の村。
夏の代名詞を全てかき集めてこの村に詰め込んだような、
初めて来たはずなのに、どこか本能に訴えかけてくるその懐かしい風景。
なぜだか涙が出そうになった。
昨日の出来事のせいで、少々傷心気味なのかもしれない。
( ´_ゝ`)「なに感傷に浸ってんだ」
(´<_` )「浸ってないぞ」
('A`)「……ねぇ、取りあえず話すの後にしてさ、荷物運ぶの手伝おうよ」
- 169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:39:57.75 ID:PwX5P/6BO
20分後、そこには熱中症になりかける兄者の姿が!
(;´_ゝ`)「ぐぅぇぇぇ 暑い〜」
(´<_`;)「内藤さんはあんなに重い物をひょいひょい運んでたのか……」
('A`)「腰抜けかけた」
( ^ω^)「おっつー! みんなだらしがないおね! 若いんだから腰使って運ばなきゃ! 腰!」
そう言って、腰をぐいぐいと前に突き上げる動作をする内藤さん。この人絶対狙ってるだろ
ふんふんと鼻をならして腰を使って荷物を運び上げる内藤さんは、
昨日や一昨日の内藤さんとは比べ物にならないくらい逞しく見えた。
俺たちが運んでいたのは、内藤さんのバーベーキューセットだった。
これがさっきから音をたてていたのか……。
- 170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:40:23.75 ID:RcI35+5/0
- 死にそうになっている兄者を気遣ってくれたのか、準備は内藤さんがやっておいてくれるらしい。
俺たちはお言葉に甘えさせてもらい、近所を探索がてらぶらぶらと歩き回ってみる事にした。
('A`)「川の音がするね」
(´<_` )「聞こえないな」
('A`)「俺さ、前にまわりの様子を見ながら生きて来たっていったでしょ?」
('A`)「だからか知んないけど、結構こういうのに敏感なんだよ」
('∀`)「俺、ツチノコ一番に発見出来ちゃうかもしれないぜ?」
( ´_ゝ`)「自分でこういう事いっちゃう男の人って……」
(;'A`)「い、いいじゃん!」
茅葺き屋根の家はどうやらそこだけのようで、後は古くさいトタン屋根の家や、
大きな瓦屋根の家など、それなりに近代文明に近いお家ばかりだった。
だけど途中にある自動販売機には一体何年前からそこにあるのかわからないくらい
古いジュースの缶がそのまま置いてあったり、朽ち果てた空き家のブロック塀には、
キリスト教がうんたらと、カルト宗教のような誘い文句が書いてあった。
- 171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:42:38.40 ID:PwX5P/6BO
- こういう田舎独特の妙に時代錯誤な風景は、嫌いじゃない。
それぞれの家の庭を覗き込むと、花が落ちたばかりの柿の木や、渋そうな色の実をつけた桑の木が見えた。
道ばたに生えていたねこじゃらしをむしりとって振り回しながら、目的も無くのんびりと歩いていると、兄者が話しかけてきた。
( ´_ゝ`)「なぁ弟者。こうしていざ美府に来た訳だが」
( ´_ゝ`)「実際来てみると、どこをどう攻めればいいのか見当がつかん」
(´<_` )「同意」
('A`)「あのノートには美府の位置にしか丸はついてなかったんでしょ?」
(´<_` )「あぁ。詳しい地図とか情報は残念ながら載ってなかった」
( ´_ゝ`)「なら虱潰しに行くしか無いな」
('A`)「取りあえず、さっきから音が聞こえる川に行ってみようぜ」
そう言われてみれば、さっきからなんとなく聞こえていた川の音が大きくなって来た気がする。
大きな民家の生け垣に沿って進み、適当な所で音がする方向に曲がってみる。
途端に目を射抜くような煌めきが見えた。
- 172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:43:03.96 ID:RcI35+5/0
- 大きな川が、俺たちに向かって太陽光を反射させていた。
どうやら川沿いに伸びる道に出て来たらしい。
雑草が緑色に輝き、上半身は夏の熱気に包まれているが、
足首の辺りは、茂みから漂ってくる冷たい湿気にまかれてひんやりとしている。気持が良い。
(´<_` )「川だ」
('A`)「綺麗だな」
( ´_ゝ`)「俺達の近所のどぶ川とは似ても似つかないな。塩素臭がしないし」
(´<_` )「こんな山の中だと上水場も無いからな」
( ´_ゝ`)「取りあえず川岸に降りてみるか」
(´<_` )(兄者が積極的に行動しようとするなんて珍しいな」
( ´_ゝ`)「だから考え漏れてるって」
- 173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:43:38.42 ID:RcI35+5/0
- ススキやらねこじゃらしやら、似たような雑草が生えている低い土手を見ると、
一部分だけオオバコが生えている道のような部分が何カ所かあるようだった。
それは、幾多もの人がそこを踏みつけて行った証だ。
地面は踏み固められ、そこだけ他の部分とは違い、土が乾いている。
そんな細道が何本かあるので、その中で一番近い所の細道へ降りて行き、一列になって進んで行った。
( ´_ゝ`)「!」
(´<_` )「どうした兄者」
(;´_ゝ`)「そういえば虫取り網って蛇捕まえられるのかな!?」
(;'A`)「ハッ! 確かにつちのこって虫じゃない! 網破けるかも!」
(´<_` )「虫へんがついてるから大丈夫だろ」
('A`)「弟者頭いい……」
( ´_ゝ`)「流石だな弟者」
(´<_`;)(こいつら本当に大丈夫なのか?)
- 174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:45:55.55 ID:PwX5P/6BO
- 二人の頭のレベルがヤバい。
だけど確かにつちのこってのは1m近くあるようだし、
虫取り網なんてちゃっちい布切れを張ったものなんかで捕まえられるのか不安になってきた。
いや、そもそも虫取り網をなんで用意したんだ。1mもある生き物を入れられると思ってるのか。
それに虫取り網でつちのこを捕獲出来たとしよう。虫取り網を地面に伏せている状態からつちのこを捕獲するには
手で触らなくては行けない。どうやって触る?噛まれるかもしれん。毒があるとは来た事無いけどもし噛まれたらどうしy
( ´_ゝ`)ノシ「弟者! 早く来いよ!」
('A`)「置いてくぞ。蚊に噛まれるぞ。痒くなるぞ」
俺は列の最後尾を歩いていたのだが、いつの間にか立ち止まっていたようだ。
意識が戻って来ると、途端に暑さを認識するようになった。
先に川原に着いたようで、草むらの外から二人がこっちに手を振っているのが見えた。
ドクオに言われて体を見ると、三匹程蚊がくっついて腹を赤くさせている。
適当に振り払った後、俺は慌てて二人の元にたどり着いた。
- 175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:48:54.19 ID:PwX5P/6BO
- 草むらを抜け、道が無くなったので俺は石の上を飛ぶようにして進む。
結構な大きさの石が岸にごろごろと転がっており、中には岩のような物まである。
この辺りは結構な上流なので、岩は全部どこかしら角張っている。
その中の岩に座って川を眺めている二人を見つけたので、近寄ってみた。
(´<_` )「なにやってるんだよ」
( ´_ゝ`)「いや、疲れたなーと思って……」
('A`)「体力なさ過ぎwww」
( ´_ゝ`)「そう言いながらドクオも座ってるんじゃねーよ」
('A`)「サーセンwww」
俺も岩に座って、さらさらと流れる川を眺める。
川の中には今座っているような大きさの岩が所々頭を出していて、
清流はそれにぶつかりゆるゆるとした流れを作り出している。
岸辺の方にはしょうぶや、流れの遅い所には葦が群生していて、そこからカワセミが飛び立つのが見えた。
結構な広さのある川の中には、おっさんがゴム長靴のズボンのような物を履いて釣りをしているのが見えた。
鮎かなんかでも釣ってるのだろうか。のどかな風景だ。
が。
- 176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:50:36.64 ID:PwX5P/6BO
- ('A`)「……なんだあれ」
(´<_` )「何?」
('A`)「あっちの岸。草むらでなんかやってる人がいる」
( ´_ゝ`)「本当だ」
釣り人のさらに先、向こう岸の草むらが激しく動いているのが目についた。
ばっさばっさと草をなぎ倒す音が、こちらまで聞こえてきそうな程、豪快に草を掻き分けている。
ススキが揺れ、草の間になんか小さなさすまたのような物がちらちら動いているのが見える。
草の合間の人間の姿。どうやら男のようだ。
(;'A`)「変質者……?」
(´<_` )「犬の散歩とかでもしてるんじゃないか」
( ´_ゝ`)「じゃああの小さいさすまたはなんだ」
(´<_` )「わからん……」
- 177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:51:14.43 ID:RcI35+5/0
- 結構な背丈の草を踏み分け、道を作りながらその人間は草むらを低速で進む。
そしてしばらくしてから土手にたどり着くと、川に架けてある小さな橋をわたってこっちの岸に近づいてきた。
障害物が無くなったので、どんな姿なのかよくわかるようになった。
がっしりとした体つきの男。手には小さなさすまたと、酒瓶。
酒瓶の中には、何やら細長い物が入っているようだ。
(´<_` )「なぁ。あの瓶の中のやつって蛇じゃないか?」
(´<_` )「そう考えると、あのさすまたも蛇の首根っこを押さえるための道具かもしれん」
('A`)「……あの人につちのこの事聞いた方がいいんじゃないかな」
( ´_ゝ`)「じゃあ言い出しっぺのドクオ行けよ」
('A`)「無理」
(´_!_`)('A`)
(´<_` )「こっちみんな」
(´<_` )「……わかったよ。俺が行けばいいんだろ行けば」
- 179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:52:11.05 ID:RcI35+5/0
- そういえば二人とも人付き合いが苦手なんだっけ。
仕方なく俺は岩から腰を上げて、さっき来た道を引き返す。
後ろからドクオと兄者もついてきたようだ。
その男性は鼻歌を歌いながら、ふらふらと橋を渡っているのがここから見える。
草むらを抜けて、橋の所にむかって土手を上ると、俺は早速男性に話しかけた。
(´<_` )「あのう、すいません」
ミ,,゚Д゚彡「おぉっ 見かけない顔だな」
ミ,,゚Д゚彡「なんだ兄ちゃん。俺に何か用か」
(´<_` )「すこし聞きたい事があって……」
ミ,,゚Д゚彡「いいぞいいぞ、勉強の事以外なら何でも聞け!」
- 180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:52:50.28 ID:RcI35+5/0
- そういうとその毛深い男性は、胸をそり返して豪快に笑った。
黒く焼けた腕にはごわごわと太い毛が生えていて、顔も無精髭がのびている。
ランニングに作業ズボンという土方みたいな格好をしたその人は、いかにも山男と言った感じだった。
(´<_` )「その酒瓶の中身って何ですか?」
ミ,,゚Д゚彡「これか? これはマムシだ!」
ミ,,゚Д゚彡「こいつにアルコールを入れて、マムシ酒にするんだ」
(;´_ゝ`)「マムシ!? 猛毒の!?」
ミ,,゚Д゚彡「猛毒だけどな。慣れちまえばそんなに怖いもんでもねぇ」
ミ,,゚Д゚彡つ凸「ほれ!」
(;´_ゝ`)ヒィ!
- 181: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:55:02.30 ID:PwX5P/6BO
- 脅すようにその酒瓶を兄者の前に突き出す男性。
兄者はへっぴり腰になって、俺の後ろに隠れてしまった。
ドクオは俺の少し後ろで、どんよりとした目つきで男性を睨みつけている。
その様子を見て、また男性は豪快に笑う。
ぐあっはっは と、大気が揺れそうな程の大きな声だった。
ミ,,゜Д゜彡「なんだ情けねぇな兄ちゃん! それにしても同じ顔だな。双子か?」
(´<_` )「そうです」
ミ,,゜Д゜彡「ほーん。双子っていうのは、本当に同じ顔をしてるんだな。おもしれぇ」
(´<_` )「あぁ、それと、もう一つ聞きたい事があるんですが」
ミ,,゜Д゜彡「なんだい?」
(´<_` )「つちのこって、知ってますか?」
するとさっきまで嬉しそうに笑っていた男性の顔が、急にまじめな顔つきになる。
少し驚いたが、男性は手をそのひげにあててちょりちょりとさすりながら、何かを思い出しているようだった。
目を細めて視線をどこかにさまよわせていたが、しばらくして手をぽんとたたくと、
何かを思い出したようで、歩き出しながら俺たちに向かってこっちにこいというジェスチャーをした。
- 182: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:55:37.55 ID:RcI35+5/0
- ミ,,゚Д゚彡「思い出したぜ! 俺のうちにいいもんがあるからちょっと来い!」
( ´_ゝ`)「知らない人についていっても大丈夫なもんかね」
('A`)「こんな田舎だし、悪い人じゃなさそうだし」
(´<_` )「大丈夫だろ」
そう判断した俺たちは、おとなしく男性の後をついていく事にする。
男性の背中には汗染みが浮き、首元が汗ばんで光っている。
ズボンには、草の汁なのか緑色をした染みや、土がこびり付いていた。
さっき通った細道に入り、里芋の分厚い葉が揺れる畑の脇をのんびりと歩く。
ふと何か高速で動く物が見えたかと思うと、俺の鼻先をオニヤンマが涼しそうにかすめていく。
木でできた古い電柱の上には、ドバトが止まっていて、間の抜けた鳴き声を出していた。
- 183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 06:56:30.76 ID:RcI35+5/0
- ミ,,゚Д゚彡「うーし ちょっと待ってろい」
一件の家の前につくと、男性は一人家の中に入っていった。
冬国仕様玄関の中には子供用の自転車や、錆び付いたホッピングなどが立てかけてある。
その横には、青いプラスチックの鉢植えがあり、朝顔のつぼみが何輪か蔦についている。
小さな子供、小学生くらいの子供がいるという事が、
あたりにちらかっているおもちゃや遊具からわかった。
(´<_` )「何を見せてくれるんだろうな」
('A`)「つちのこの剥製とか?」
(´<_` )「それじゃあもう誰かが捕まえた事があるようになっちゃうだろ」
( ´_ゝ`)「じゃあなんだろうな……」
- 185: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:00:40.17 ID:PwX5P/6BO
- 三人で輪を作り、玄関先でぶつぶつと呟き合っていたときだ。
唐突に、俺のつむじに水が落ちる。
何事かと思い、頭を触りながら上を向いたときに、さらに続けて俺の鼻に水滴が一つ。
間髪入れずに、もう一発。後は続々と俺たちに向かって降り注いで来る。
慌てて玄関の横にあった屋根の下に移動し、屋根から滴り落ちて来る水滴越しに周りを見る。
遠くの山の方は晴れているようなので、どうやら通り雨らしい。
だがその山も、雨の向こうに白んで見える。太陽は一時的に雲の中に隠れてしまった。
ごう。 と、バケツをひっくり返したように降り続ける雨。
今までとても静かだった辺りが、一気に雨が様々な物に打ち付ける騒々しい音に飲み込まれてしまった。
狭い屋根の下に体を押し付けるようにして無理矢理入っていると、
玄関ががらりと音を立ててさっきの男性がこっちに向かって手招きをした。
- 186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:01:54.72 ID:RcI35+5/0
- ミ,,゚Д゚彡「おい! なんでそんな狭いところにいるんだ!」
(;´_ゝ`)「いや、だって、ねぇ」
ミ,,゚Д゚彡「そこいると濡れるだろうが! こっちに来い!」
叩き付けるような豪雨の中、といってもたった1m程の距離をを走り抜け、男性のいる玄関の中に入る。
がらくたのような物と、しおれた植物が植わったままの植木鉢を通り抜け、
北国仕様玄関からさらに先、家の玄関へとお邪魔した。
中は物が少なく、土間にはキャラクター物の靴がちらばっていた。
ヒーロー物のズックや、お花がついたかわいらしいサンダル。
男性は散らばっているそれらの靴を、 まったく といいながら横に整理し、
開いているスペースに俺たちを促した。
- 187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:02:14.39 ID:RcI35+5/0
- ミ,,゚Д゚彡「いやぁ、汚くってすまんね」
('A`)「こちらこそいきなりお邪魔しちゃってすいません」
ミ,,゚Д゚彡「俺の名前は適当にフサって呼んでくれ」
ミ,,゚Д゚彡「それにしても、本当に見かけた事が無い顔だな。どっから来たんだ?」
( ´_ゝ`)「あぁ、内藤さんって人につられて」
ミ,,゚Д゚彡「何っ!? 内藤!?」
内藤さんの名前を出すと、男性は驚いた様子で俺の顔を見つめる。
これだけ小さな村なら、この村の住人全ての顔を知っていてもおかしくないだろう。
この反応を見ると、どうやら内藤さんとは知り合いのようだ。
- 188: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:03:22.28 ID:RcI35+5/0
- ( ´_ゝ`)「はい、内藤さんです」
ミ,,゚Д゚彡「へぇ。お前ら内藤の子供じゃないよな?」
( ´,_ゝ`)「流石にそれはwww」
(´<_` )「ok 兄者黙れ」
(´<_` )「いや、つちのこを探すために美府に行きたがっていたところを、内藤さんが連れてきてくれて」
ミ,,゚Д゚彡「そうか内藤か……内藤が来てるのか。へぇー」
('A`)「?」
ミ,,゚Д゚彡「いやー ちょっとな。くっくっく」
内藤さんの名前を聞くと、フサさんは顔を伏せ、嬉しそうに笑った。
くつくつとこらえるように笑った後、顔を上げて俺たちに向けて白い歯を向ける。
その笑い方はどこか楽しそうで、内藤さんとの仲の良さを表している気がした。
- 189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:04:34.27 ID:PwX5P/6BO
- ミ,,゚Д゚彡「それより、つちのこの事だったな」
どっこいしょ と廊下にあぐらをかくと、鋭い目つきで俺たちを見回す。
ミ,,゚Д゚彡「これは、俺のじい様から聞いた話なんだが」
ミ,,゚Д゚彡「じい様はこの辺りでも有名なマタギでな」
( ´_ゝ`)∩「フサさん! マタギってなんですか!」
いかにもこれから話が始まりそうなところで、兄者のわざとらしい挙手が割って入る。
鋭い目つきと険しい顔つきが急に力が抜けた表情となり、フサさんはため息をつく。
- 190: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:05:05.87 ID:RcI35+5/0
- ミ,,゚Д゚彡「お前ー。こういうときはふいんきってものが大事だろうが!」
( ´_ゝ`)「すんません」
ミ,,゚Д゚彡「マタギってのはな、秋田の山奥に住む、プロの狩猟集団の事だ」
ミ,,゚Д゚彡「山に三日も四日も籠り、熊を追いつめ、そして仕留める。並大抵の人間にできるもんじゃねぇ」
( ´_ゝ`)「へぇー ふっさん物知りー」
(´<_`;)「ふっさんってなんだよ! すいません!」
ミ,,゚Д゚彡「いやぁ、そんくらい馴れ馴れしい方が俺も力を抜いて話せるからいいさ」
それでな、と話を続けるために、また険しい顔になるフサさん。
マタギが何かもわかった事だし、俺たちも真剣な眼差しをフサさんに向け、
次に口から飛び出る言葉に対して身構える。
- 191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:05:46.62 ID:RcI35+5/0
- ミ,,゚Д゚彡「で、プロのマタギだったじいさまは、毎日のように山に分け入っていた訳だ」
ミ,,゚Д゚彡「山に入るときはマタギ犬っていう、マタギ用の猟犬を連れて行っていたんだが」
ミ,,゚Д゚彡「そいつが、つちのこに噛み付かれて死んでしまったらしい」
(;´_ゝ`)「えぇっ! つちのこって毒があるんですか!」
ミ,,゚Д゚彡「詳しい事はよくわからん。だが、マタギ犬は毛深い。マムシに噛まれたくらいで死ぬようなもんじゃねぇ」
ミ,,゚Д゚彡「それが噛まれた日の夜にぽっくり逝っちまったんだから……相当強い毒を持ってるのかもしれねぇな」
ムーンとうなり、また無精髭に手を伸ばして、フサさんは黙ってしまった。
- 193: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:09:35.88 ID:PwX5P/6BO
- つちのこに毒があるなんて初耳だ。ノートにも書いてなかった。
猟犬というだから、結構な戦闘力や耐久力があるはずだ。
そのマタギ犬が、つちのこにかまれて死んだ。
つちのこというのは、あの間抜けなフォルムの割には凶暴な生き物なのかもしれない。
姿を表す事は滅多に無く、その上凶暴。
そんな生き物、俺たちに捕まえられるだろうか。
(´<_`;)「……俺、つちのこ捕まえる自信無くなってきたよ」
( ´_ゝ`)「頑張れ、弟者だけが頼りなんだ」
('A`)「弟者がんばっ!」
(´<_`;)「お前らが頑張るという選択権は無いのかい?」
くそっ 他力本願な奴らだ。だけど、本当にどうしよう。
あの二人はあんなだし、俺がしっかりしなくちゃいけないというのは、仕方がない事なのかもしれない。
- 194: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:11:09.18 ID:RcI35+5/0
- ミ,,゚Д゚彡「……さっきから話の内容を聞いていると、お前らはつちのこを捕まえたがってるのか」
(´<_` )「えぇ」
ミ,,゚Д゚彡「なんでだ?」
(´<_`;)「……」
ミ,,゚Д゚彡「なんでつちのこを捕まえようとしているんだ?」
なんでだ。と改めて聞かれても、まさか1億円が目的とは答えられない。
そういう雰囲気じゃないので、答えられそうにない。
俺が返答に困っていると、横にいた兄者がすっと前に進み出て、
フサさんに向かってぽつりぽつりと話し始めた。
- 195: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:12:37.44 ID:RcI35+5/0
- ( ´_ゝ`)「ただ純粋につちのこを捕まえたいからです」
( ´_ゝ`)「最初はつちのこを捕まえて一億を手に入れようとか考えていたけど」
( ´_ゝ`)「最近では、こうやってただ単につちのこを追いかけるだけでも、とても楽しいから」
( ´_ゝ`)「いざつちのこを捕まえる事ができたなら、俺はそれだけで満足して死ねる気がする」
( ´_ゝ`)「とにかく、実物を目にして、つかまえてみたい。それだけです」
兄者の発言とは思えない程高尚な言葉を聞き、思わず耳を疑ってしまった。
その兄者の向こう側で、呆然とした顔で兄者を見つめてドクオが見えた。
きっと、ドクオも今の俺と同じような心境なのだろう。
横にいる兄者をちらりと見ると、気のせいかその瞳は輝いているような気がした。
- 196: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/07/20(日) 07:15:14.70 ID:RcI35+5/0
- ミ*,゚Д゚彡「そうかそうか! ひょろっちい体つきのくせに、言う事はいっちょまえだな!」
ミ,,゚Д゚彡「ようしわかった! この蛇捕りフサ様が、お前らに蛇を捕まえるときのコツを伝授してやろう!」
立ち上がったかと思うと、フサさんは俺たちの背中をばしばしと叩きながら横を通り過ぎ、
玄関の外へと出て行った。俺たちも追った方がいいのかと思い、後をついていく。
外の雨は既に止んでいた。
屋根からは煌めくしずくがぽたりと落ちていて、湿った道路からは
コンクリート独特の臭いを含んだ猛烈な湿気が、俺たちに向かって流れて来る。
里芋の葉の上には、水晶のような水の固まりが乗っかっていた。
さっきは白んでよく見えなかった山の方には雲の隙間から太陽の光が差し込み、
その光の柱の中に、虹が浮かんでいるのが見えた。
おわり
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