( ^ω^)は空蝉のようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:14:30.30 ID:wodV94TjO
『プロローグ』

赤い地面。いや、赤く染まった地面。
その地面に一歩足を踏み入れれば、靴の裏に粘り気のあるそれを感じることができる。

「……」

地面の上には二つの影がある。
一つは地面に伏した影。
一つはそれを見下ろす影。
伏した影を見下ろしている影は赤く染まった地面の上で虚ろな笑みを浮かべている。

「……」

まるで抜け殻のように、影は赤い地面を作り出す元となっている伏した影をぼんやりと見つめていた。

(  ω )「まだだお」

影は動き出した。
赤い地面から先に進み倒れ伏している影の首を切り落とすと、それを掴み影は闇に溶けて消えた。


―――( ^ω^)は空蝉のようです―――



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:16:19.37 ID:wodV94TjO
('A`)「また『空蝉』か」

酒瓶と煙草の吸い殻が散乱している鼻がおかしくなりそうな臭気漂う室内。
部屋の真ん中に一人掛けの黒いソファーがあり、その前には低い木製のテーブルが置かれている。
そのほかには何も無い。
そのソファーに座り煙草をくわえる陰気な男と、酒瓶の散らばる床の上で僅かに空いたスペースに立つ明るい髪の毛の男。
二人がその生活感無い部屋にいるだけだ。

('A`)「長岡。どう見るよ」

男は煙草をふかしながら、部屋の隅に立つ明るい茶髪の男、長岡に問い掛ける。

  _
( ゚∀゚)「ただの最低最悪鬼畜荒唐無稽の殺人狂じゃあないっすか?」

長岡はソファーで煙草の煙を吐く男に締まりの無い声で返すと所在なげに頬を掻いた。
締まりの無い声とは裏腹に長岡はビシッとシワ一つない黒いスーツに身を包んでおり、誠実さを醸し出している。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:17:27.72 ID:wodV94TjO
('A`)「最低最悪鬼畜荒唐無稽の殺人狂ねぇ……」

その一方でソファーに座る男はだらし無く伸びきった白い生地のロングティーシャツに色褪せたジーンズを穿いており
こちらは全くと言っていいほど誠実さなどは無く、それに合わさって伸び放題に伸びたボサボサの髪の毛によって浮浪者のような雰囲気を漂わせている。

('A`)「お前が言うかね?」

男はニヤリと不敵な笑みを浮かべると長岡に言った。

長岡はそれに答える代わりに白い歯を覗かせて無邪気に笑った。


「殺すか」


男が言うと、長岡はやかんが沸点を越えて沸騰するように、高らかな声を上げて笑った。
男はそんな長岡を頬を吊り上げたまま見つめていた。



――――第一話 『蟷螂』



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:18:24.13 ID:wodV94TjO
空には厚い雲が浮かんでおり、その先にあるであろう太陽は見えることは無い。
そんな空の下にはいくつもの背の高い廃墟が太陽の元へと向かうように伸びていた。

  _
( ゚∀゚)「ドクオさん、ここらへんすよ」

そんな廃墟が立ち並ぶ荒れ地の中、長岡は所々ひび割れコンクリートの塊の転がる道路の真ん中に立って後ろを振り返った。

('A`)「そうか」

煙草をくわえながら興味なさげに呟くのはドクオ。
彼は長岡の一歩後ろをどうにも怠そうに歩いていた。

  _
( ゚∀゚)「『空蝉』はこの廃墟郡の中で生活してるとの話です
     まあ、ここらへんは人は寄り付かないですからね
     隠れて生活するにはうってつけの場所ですよ」

長岡はそれからドクオのほうには振り返りもせずに自分のペースで歩く。
どんどんとドクオとの距離が離れていることをお構いなしに歩きながら言う。
その足取りはまるでデパートに連れていかれた浮足立つ子供である。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:19:06.05 ID:wodV94TjO
('A`)「そんなに殺したいか……」

ドクオはそんな長岡の背中を眺めながら呟いた。
そして、煙草を口から離すと口からもうもうと煙を吐いた。
煙は空高く上りまるで空に浮かぶ雲の一部になるかのように消えた。

('A`)「しかし、『空蝉』は何故人をああも大量に殺すんだ
   長岡の言うように殺人狂だからか?
   だが、『空蝉』を見た者から聞くと殺人狂のように嬉々しながら殺しはしない
   まるで『抜け殻』のように虚ろな表情みたいじゃねぇか……」

ドクオは独り呟いた後に煙草を目一杯吸い込むと吐いた。

('A`)「まさか信じてるわけじゃねぇよな……」

空に上る霞のような煙を眺めながら、ドクオはそんな煙のように頼りなくか細い声で言った。
そして、空に向けていた頭を前に戻すと叫んだ。

(;'A`)「どこ行きやがった!? 長岡ァ!! 置いてくなよ!!」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:19:47.51 ID:wodV94TjO


長岡は数ある廃墟のうち一つの廃墟の中にいた。
中も外同様にコンクリートの塊が散乱し、窓ガラスは粉々に割れている。
天井にもひびが入っており、今にも崩れ落ちそうだ。
入口の扉は無くなっており、長岡はそこから入った後に極力足音を起てないように忍び足で中を探索していた。

  _
( ゚∀゚)「いる気がするぜぇ……『空蝉』さんよ……」

息を吐くように喉を鳴らし、掠れたかのような低音の声を上げながら、長岡は目をあちこちに巡らせた。
語感を研ぎ澄まし、あらゆる音や動き、臭いを敏感に嗅ぎ取ろうと神経を擦り減らす。
ドクオが後ろから着いてきていないことなどは気にも留めずに、ただただ『空蝉』の気配を探っていた。

  _
( ゚∀゚)「いるんだろ……なぁ? いるんだろ……?」

長岡は清潔なスーツの懐から一刀の小柄な鎌を取り出すと、鎌を持った右手だらりとぶら下げる。
ゆらりゆらりと不気味に揺れながら、建物二階への階段へ向かった。

  _
( ゚∀゚)「上かぁ……上だよなぁ……?」

長岡は語りかけるように声を発しながら、二階へ繋がる階段の一段一段を噛み締めるように踏み昇った。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:20:32.75 ID:wodV94TjO
二階へ昇り終え、その部屋に姿を現した長岡のすぐ横の壁が轟音を上げながら砕けた。
そこを見ると、塵を浮かべながら今まさに何かが打ち付けられ砕かれたことを証明していた。

  _
( ゚∀゚)「……やっぱりいた」

長岡は嬉しそうに頬を緩めながら、今何かが飛んで来た方、壁を破壊した張本人がいるであろう所を見た。
それは部屋の真ん中にいた。
拳大のコンクリートの塊を二つ握り締めて長岡の方を向くそれが。

  _
( ゚∀゚)「……お前が『空蝉』か……」

( ^ω^)「……」

長岡の問いかけには答えない。ただ、虚ろで不気味な笑みを顔に張り付けている。
独り言のように聞こえたのだろうかと長岡は考えたが、もう一度言うのはやめた。
言葉はいらない。死ぬ前に、何か言わせる必要などは無い。

  _
( ゚∀゚)「俺が聞きてぇのは断末魔だけだ!!」

長岡は鎌を前に突き出して言う。鎌の刃が『空蝉』に向けられる。
そして、それを横にして左脇腹に付けるようにして構えると走り出した。
『空蝉』は動かない。ただ虚ろな笑みを浮かべているだけだった。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:21:27.83 ID:wodV94TjO


('A`)「今の声は長岡か……」

ドクオは一軒の廃墟の前で、その廃墟の外面を眺めて呟いた。
二階建ての小さな建物は荒れ果て、今にも崩れそうなほど頼りない風貌だ。

('A`)「……」

ドクオは短くなった煙草を捨てると、ジーンズの後ろポケットから煙草の箱とライターを取り出した。
箱を開けてその中から一本取り出し、それをくわえるとライターで火をつけた。
その瞬間に目一杯深く煙草を味わう。

('A`)「……最初のこれが至高だ」

そう小さく呟くと、それからは黙って煙草やライターをしまい込み、長岡かと『空蝉』が今まさに戦闘している廃墟へと脚を踏み入れた。

('A`)「ボロいな……」

入るなりそう呟くと、一階にそう留まることなく足速に二階へと脚を向けた。
コンクリートの塊を避けながら二階への階段まで行くと、一段一段規則的な動きで昇った。

('A`)「おーおー、やってるねぇ……」

ドクオは階段を昇り終えると、部屋を影から覗き見ながら言った。
部屋では黒い影を残しながら長岡が鎌を振り、『空蝉』がコンクリートの塊を持ってそれを上手に使って鎌を弾き避けながら距離を取っていた。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:22:08.21 ID:wodV94TjO
  _
( ゚∀゚)「お前なんでそんなに人を殺してんだ!?」

長岡が『空蝉』に向かい鎌を横一文に降りながら、興奮した面持ちで尋ねた。

( ^ω^)「……」

『空蝉』はそれを軽いステップで後ろに飛んで避ける。
長岡の問いには答えずにただ無言で、虚ろな笑みを剥がすことは無い。

  _
( ゚∀゚)「お前さぁ! もしかして俺を舐めてる!? 手加減してるとか!?
     ねぇ!! どうなの!? ねぇ!!」

長岡は横に振り切った鎌を素早く上に『空蝉』の腹をえぐるように振り上げる。
『空蝉』はそれを右に飛んで避けると、なんでもないと言うような虚ろな眼差しで長岡を見つめる。
コンクリートの塊は握り締めたまま離さない。

  _
(#゚∀゚)「……っけんなよ!!」

長岡は沈黙を続ける『空蝉』に唾を吐き捨てるような勢いで叫ぶと、右手で振り上げた鎌を左側にいる『空蝉』へと振り下ろす。
そして、その行動と共に左手でスーツの上着を乱暴に引きちぎるように開けた。

('A`)「出た……『蟷螂』」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:22:51.99 ID:wodV94TjO
『空蝉』の左腕に一線の切り傷が入った。その傷から微量の血液が飛び出、ひびの入った地面に付着した。
長岡の左手には鎌が握られていた。何も持っていなかった左手の鎌が『空蝉』左腕を切り込んだのだ。
長岡の振り下ろした右手の鎌を長岡から見て左側に避けた『空蝉』
その避けたという安堵の隙を長岡はスーツに隠し持った鎌で突いたのだ。

( ^ω^)「……お」

 _
( ゚∀゚)「びっくりした? ねぇびっくりした!? まさかもう一刀あるなんて思わなかったよねぇ!?
     死ぬんだよ!! お前死ぬんだよ!! この鎌に切り刻まれて腹の腸を引きずり出されるんだよ!!
     怖い!? ねぇ怖い!? 死ねよ」

長岡は僅かに歪む『空蝉』の表情を見て、その歪みを大きくすべく大声を上げる。
そして、両刀となった長岡は追い打ちを掛けようと『空蝉』の懐目掛けて突進するように駆けた。

('A`)「……勝敗の決まった勝負ほど見ていてつまらねぇものはねぇ……」

ドクオはそこまで二人のことを眺めると、踵を返して階段を降りた。
後ろからは長岡の狂った声しか聞こえない。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:23:33.89 ID:wodV94TjO
外はやはり曇っていた。
Tシャツを一枚通したような薄暗い光の下ドクオは降り立った。

('A`)「……じゃあな、長岡」

ドクオは廃墟に振り向くと、短くなった煙草を廃墟に向かって吐き捨てると、そう言って来た道を引き返して行った。

('A`)「『空蝉』か……笑ってたじゃねぇか……気持ち悪ぃ……」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:24:15.77 ID:wodV94TjO


  _
( ゚∀゚)「――あ?」

長岡は奇妙な浮遊感に困惑した。
一瞬で様々な思考が頭の中を巡り回る。

『空蝉』の懐に入ってやろうと長岡は地を蹴り、駆けた。
そして、長岡は左手に構えた鎌を『空蝉』目掛けて思いきり投げた。
『空蝉』は当然ながら、それを先程から同じように横にステップし避ける。
そこで、長岡は右手に持った鎌で首を切り落としてやろうと鎌を振り上げた。

  _
(;゚∀゚)「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

だが、長岡は『空蝉』の首を切り落とすことは叶わなかった。

  _
(;゚∀゚)「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぐぶごっ!!!」

二階の床は崩壊し、長岡と『空蝉』は一階へと落ちた。
この廃墟は脆くなっており、天井、床にはひびが入っていた。
そこで『空蝉』はそれを利用した。脆くなった床をコンクリートの塊で粉砕したのだ。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:25:52.36 ID:wodV94TjO
  _
(;゚∀゚)「うぁ……や……やめろ……!!」

( ^ω^)「……」

一階に落ちた長岡の上には『空蝉』が全体重を掛けてのしかかっている。
長岡の体はどんなにもがいても動かず、右手に持った鎌も動けなければ意味が無い。
『空蝉』はそんな長岡の頭目掛け、右手に握られたコンクリートの塊を叩き付けた。

  _
(  ∀ )「―――――」


( ^ω^)「おっおっお」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:26:33.15 ID:wodV94TjO


('A`)「『空蝉』は馬鹿じゃねぇ、そりゃ馬鹿だったら今までのうちに殺されてた
   まあ、やべぇくらい強いなら話は別だがよ、特に抜きん出て体格がいいわけじゃねぇ
   だから、そこは頭でカバーするわけだ
   『空蝉』はいつ襲われてもいいように廃墟にいた。そうだろう」

ドクオは酒瓶の散乱する室内、その部屋の黒いソファーに座り脚を組んだ状態で煙草を取り出す。
前に長岡がいたスペースに長岡はおらず、そこには代わりに新しい酒瓶が置かれていた。

( ・∀・)「なるほど。で?」

ドクオの座る目の前の木製のテーブル。そこにひょろ長い体で中性的な顔の男がドクオに背を向けて座っていた。
所々ほつれの目立つ薄茶色いコートを羽織っている。
長い腕を膝に置いて両手を組んでいる。その姿はさながら考える人に通じる雰囲気が漂っている。

('A`)「そこイスじゃねぇんだけど……ま、いいや
   でよ、あいつは『蟲』の関係者を主に殺している」

( ・∀・)「で?」

('A`)「……お前ら危ないんじゃねぇの?」

ドクオがあからさまなしかめっつらで言う。しかし、テーブルに座る男は背を向けているためドクオの表情を知ることはない。
ドクオは「ライターねぇな……落としたか?」と呟きながら、新しいライターを取り出すと煙草をふかした。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:27:28.39 ID:wodV94TjO
( ・∀・)「あはっはっ」

一時の沈黙の後に男は乾いた笑い声を零した。それは部屋に漂っている煙草の煙に噎せたようにも聞こえた。

( ・∀・)「あはっ……それは、君もじゃないかい? ドクオ君」

ひとしきり笑い終えた男は余韻を残すように体を上下させながら、ドクオに振り返ると言った。
その男の口は弧を描き笑い顔に見えるが、目は輝きが無く無表情のそれだった。

( ・∀・)「それで?」

男は依然口の端を釣り上げながら、無表情な大きい瞳をドクオに向けながら問う。

('A`)「『蟷螂』が死んだ」

( ・∀・)「ブフォッ」

ドクオの返事に噴き出す男。今回は本当の笑いのように見えるが、それは嘲笑うかのようないやらしい笑みだ。
全身の毛が粟立つような不気味な笑み。男はくつくつと堪え切れぬ笑いを零しながら言った。

( ・∀・)「ダメだよ……
      ―――あいつ『馬鹿』だもん」

('A`)「……だな」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:28:26.57 ID:wodV94TjO
( ・∀・)「しかも、うるさいしね
      いいとこ無いよ、あいつ。正直死んでよかった
      あいつ弱い癖に口だけは達者なんだよねー
      野蛮な性格だしさ、ああいうのは無理。嫌いだよ」

('A`)「……だな」

うるさくて耳障りな男も嫌いだが、そいつがいない影でそいつを嘲笑い、ここぞとばかりに悪口を並べる男も嫌いだ。
ドクオは相槌をうちながらそう思う。

('A`)「モララー」

( ・∀・)「なんだい?」

('A`)「殺すか? 『空蝉』を」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:29:07.85 ID:wodV94TjO
ドクオに問われたモララーはコートの裾のほつれを弄りながら少し考えるそぶりを見せると、次にそのほつれを弄る手を止めると言った。

( ・∀・)「もちろん」

そう言ってから、またいやらしい笑みを顔に張り付けると乾いた笑い声を零しながらテーブルから立ち上がった。

( ・∀・)「『蟷螂』の仇討ちみたいで嫌だけど、やるよ
      僕たちにも関わることだしね
      でさ、それって頼んでるんだよね? 殺せって
      そうなら、それなりのお金は貰うからね。よろしく」

モララーは淡々とした口調で息継ぎせずに言うと、転がる酒瓶の中上手く歩き部屋を出た。
残されたドクオは一人モララーの座っていたテーブルを眺めながら煙草の煙と一緒にため息を吐いた。

('A`)「どいつもこいつも性格に欠点があるな……」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/27(水) 19:29:49.05 ID:wodV94TjO


( ^ω^)「おっおっおー」

『空蝉』は上機嫌に鼻歌を口ずさみながら、ある山を登っていた。
山と言っても、そう穏やかな山では無く垂直に頭上高く崖だ。
その崖を馴れた手つきで『空蝉』はせっせと登っていく。
貧相な膝の破けた茶色のズボンと血のこびりついたTシャツを纏い、なんの道具も無しに切り立った崖を登る。
肩には透明のビニール袋を掛けているが、もはやそれは透明では無くなっていた。
中には黒ずんだ長岡の頭部が入っており、首の切り口から溢れる血液で袋は赤く染まっていた。

( ^ω^)「おっおっおー」

『空蝉』は真下を見れば奈落の、とてつもなく高い崖の中腹で鼻歌を歌いながら楽しげに崖を登る。
まるで山へピクニックへ来たかのような、心底楽しそうな笑みを浮かべながら『空蝉』はただ頂上目指し登っていた。




――――第一話 『蟷螂』 終わり



戻る第二話